(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医療従事者でない一般市民が倒れている患者を目の前にしたとき、AEDを運んでくることはできても、使用に踏み切ることを躊躇しがちである。特に死戦期にある患者は、心肺停止状態にありながら喘ぎ呼吸という独特の呼吸をするため、正しく意識および呼吸がない状態であると判断することが難しい。結果として電気ショックの適用が遅れることがあり、救命率低下の一因となっている。
【0005】
また意識のない患者には、脳障害、低血糖、出血性ショック、溺水、一酸化炭素中毒などを原因とする者が含まれている。このような患者に対してはAEDの使用は必要ないものの、その正確な判断は一般市民にとって困難である。したがって公衆の面前で不必要に胸部を裸にされるなど、患者のプライバシー保護が十分でなくなる場合がある。また胸部を裸にするという処置の必要性が、AEDの使用を躊躇させる一因ともなっている。
【0006】
本発明は、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係る適切な情報を提供して救助者を支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる一態様は、救命支援装置であって、
患者の身体に照射される光を出射するように構成された発光部と、
前記患者の身体を透過あるいは反射した光の強度に対応する信号を出力するように構成された受光部と、
前記信号の振幅を解析して前記患者の脈動率を取得するように構成された脈動率取得部と、
前記脈動率に基づいて前記患者の脈の有無を判定するように構成された脈判定部と、
前記脈判定部による判定結果を報知するように構成された報知部と、
を備えている。
【0008】
専門家であっても脈の有無を正確かつ迅速に判断することは難しい。特に死戦期状態の患者は、心肺停止状態にありながら喘ぎ呼吸という独特の呼吸をするため、呼吸の事実をもって脈ありと判断してしまう場合があるからである。上記のような構成によれば、患者の脈動率という客観的なパラメータを用いるため、救命支援装置を取り扱う者に依らず、患者の脈の有無を正確に判定できる。また、脈判定部による脈の有無の判定は、数周期から十周期分程度の脈波信号が取得できれば可能である。したがって、救命支援装置を取り扱う者に依らず、患者の脈の有無を迅速に判定できる。
【0009】
患者の脈の有無に係る正確な判定結果が救助者に報知されるため、例えばAEDの使用が不要である場合は、患者の衣服を不必要に脱がすことが避けられる。これにより、患者のプライバシーを守ることができる。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係る適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0010】
上記の救命支援装置は、以下のように構成されうる。
前記脈判定部は、前記脈動率に加え、所定時間内における前記信号の変曲点数に基づいて前記脈の有無を判定するように構成されている。
【0011】
このような構成によれば、変曲点数を判定基準に加えることにより、脈の有無の判定精度が向上する。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0012】
上記の救命支援装置は、以下のように構成されうる。
前記発光部は、前記光として赤外光を出射するように構成されており、
前記脈動率取得部は、前記赤外光に基づいて前記脈動率を取得するように構成されている。
【0013】
このような構成によれば、救命医療において一般的に用いられているパルスオキシメータのプローブに用いられている光源を利用できる。別途の光源を用意する必要がないため、救命支援装置を提供するコストを全体として抑制できる。また、赤外光は、患者の身体を透過あるいは反射する際に皮膚の色の影響を受けにくい。これにより、取得される脈動率の正確性が向上し、後段の脈判定部による脈の有無の判定精度も向上する。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0014】
上記の救命支援装置は、以下のように構成されうる。
前記発光部は、前記光として赤外光を出射するように構成されており、
前記脈判定部は、前記赤外光に基づいて前記変曲点数を取得するように構成されている。
【0015】
このような構成によれば、救命医療において一般的に用いられているパルスオキシメータのプローブに用いられている光源を利用できる。別途の光源を用意する必要がないため、救命支援装置を提供するコストを全体として抑制できる。また、赤外光は、患者の身体を透過あるいは反射する際に皮膚の色の影響を受けにくい。これにより、取得される変曲点数の正確性が向上し、後段の脈判定部による脈の有無の判定精度も向上する。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0016】
上記の救命支援装置は、以下のように構成されうる。
前記発光部は、前記光として赤色光と赤外光を出射するように構成されており、
前記脈判定部が脈ありと判定したとき、前記信号より取得される動脈血酸素飽和度と心拍数の少なくとも一方に基づいて、前記患者の脈の有無を再判定するように構成された脈再判定部を備えている。
【0017】
このような構成によれば、脈再判定部は、救命支援装置においてフェールセーフ機能を提供できる。これにより、本来は脈なしと判定されるべき患者が、何らかの理由で脈判定部により脈ありと判定されてしまった場合に、脈再判定部により脈なしと判定することが可能である。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0018】
上記の救命支援装置は、以下のように構成されうる。
前記発光部と前記受光部は、前記患者の額に装着可能に構成されている。
【0019】
このような構成によれば、患者の脈の有無をまず判定するにあたって、患者の衣服を脱がす必要がない。また、額は体動の影響を受けにくい箇所であるため、脈の有無の判定精度を向上できる。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0020】
上記の救命支援装置は、以下のように構成されうる。
前記報知部は、前記脈判定部が脈なしと判定したとき、除細動器の使用を促す情報を提供するように構成されている。
【0021】
このような構成によれば、躊躇する救助者に対して除細動器の使用を強く促す作用が期待できるとともに、除細動器を使用できる別の救助者に交代するなどして、除細動器の使用に至る確実性を向上できる。
【0022】
上記の救命支援装置は、以下のように構成されうる。
前記報知部は、前記脈判定部が脈なしと判定したとき、胸骨圧迫の実施を促す情報を提供するように構成されている。
【0023】
このような構成によれば、躊躇する救助者に対して具体的な行動を強く促す作用が期待できるとともに、措置ができる別の救助者に交代するなどして、救命に至る確実性を向上できる。
【0024】
上記の救命支援装置は、以下のように構成されうる。
前記脈判定部は、脈ありと判定した後も前記脈の有無の判定を継続するように構成されている。
【0025】
このような構成によれば、脈があると一旦判定された患者の容体が急変した場合に適切に対応できる。すなわち、判断処理が続行される結果、患者が脈なし状態に陥った場合は、上記の報知処理がなされる。報知部は、患者の脈がある事実を報知し続けてもよい。
【0026】
上記の救命支援装置は、以下のように構成されうる。
前記脈判定部は、脈なしと判定した後も前記脈の有無の判定を継続するように構成されており、
前記報知部は、前記脈判定部が一旦脈なしと判定した後に脈ありと判定した場合、胸骨圧迫の実施の中止を促す情報を提供するように構成されている。
【0027】
このような構成によれば、一旦脈なしと判定された患者の容体が改善した場合の対応を適切なものにできる。すなわち、自己心拍が再開した患者に対して不必要な胸骨圧迫の実施を回避でき、胸骨に不要な負荷が加わることを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態を添付の図面を参照しつつ以下詳細に説明する。なお以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0030】
図1は、一実施形態に係る救命支援装置1の機能構成を示している。救命支援装置1は、患者100の脈の有無を検出することにより、救命行為の要否を判断する装置である。
【0031】
救命支援装置1は、発光部21を備えている。発光部21は、患者100の身体に照射される光を出射するように構成されている。患者100の身体とは、血流が存在する組織を意味している。発光部21の例としては、所定の波長の光を出射可能な半導体発光素子が挙げられる。半導体発光素子の例としては、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード、有機EL素子などが挙げられる。所定の波長の光の例としては、赤外光IRと赤色光Rが挙げられる。
【0032】
救命支援装置1は、発光制御部31を備えている。発光制御部31は、発光部21における光源の点消灯を制御するように構成されている。
【0033】
救命支援装置1は、受光部22を備えている。受光部22は、患者100の身体を透過あるいは反射した光の強度に対応する信号を出力するように構成されている。受光部22の例としては、発光部21が出射する光の波長に感度を有する光センサが挙げられる。光センサの例としては、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトレジスタが挙げられる。
【0034】
救命支援装置1は、脈動率取得部32を備えている。脈動率取得部32は、受光部22から出力された信号の振幅を解析し、患者100の脈動率を取得するように構成されている。
図2の(A)を参照しつつ、脈動率について説明する。
【0035】
患者100に脈があれば、発光部21により光を照射される組織中の血液量が変化する。したがって、受光部22により検出される光の強度が変化し、受光部22より出力される信号の振幅が変化する。すなわち、受光部22から出力される信号は、脈波である。
【0036】
脈動率取得部32は、脈波から直流成分を抽出するフィルタを備えている。すなわち、脈動率取得部32は、受光部22より出力された脈波信号から、脈動する成分と脈動しない成分を得るように構成されている。発光部21から出射される光が赤外光IRや赤色光Rである場合、受光部22により検出される光の強度変化のうち、脈動する成分は主に動脈血からの寄与分であり、脈動しない成分は、主に組織や静脈血からの寄与分である。脈動率取得部32は、個人に依存する成分を除去するために正規化脈波PWを取得するように構成されている。正規化脈波PWは、脈動する成分を脈動しない成分で除算することにより得られる。
【0037】
この正規化脈波PWの振幅が、脈動率Xとして定義される。しかしながら、正規化脈波PWはドリフトするため、ある特定の波の極小値Bの前後に存在する極大値P1から次の極大値P2の間に振幅が変化する場合がある。このとき、極小値Bにおける振幅は、(P1−B)と(P2−B)の間の値をとる。したがって、脈動率Xは、一例として次式により表されうる。
X = (A1+A2)/2
ここで、A1は、正規化脈波PWの振幅が極大値P1をとる時点における極大値P1と極小値Bの振幅差(絶対値)を表している。A2は、正規化脈波PWの振幅が極大値P2をとる時点における極大値P2と極小値Bの振幅差(絶対値)を表している。すなわち、本例における脈動率Xは、A1とA2の平均値として与えられる。しかしながら、脈動率Xは、A1とA2の間の任意の値とされうる。
【0038】
脈動率取得部32は、極大値P2と極大値P3により定義される次の一信号周期についても、同様にして脈動率Xを取得する。脈動率取得部32は、所定の期間内にそのようにして取得された複数の脈動率Xに基づいて、代表脈動率を取得するように構成されている。代表脈動率は、当該複数の脈動率Xの平均値として定義される。
【0039】
なお、代表脈動率の取得にあたっては、所定の期間内に取得された複数の脈動率Xから所定の割合のサンプルを取り除き、残ったサンプルの平均値を求めることが好ましい。所定の割合の例としては、上位25%が挙げられる。例えば、八個のサンプルが取得された場合、Xの値が大きい順に二個のサンプルが取り除かれ、残った六個のサンプルの平均値として代表脈動率が取得される。
【0040】
救命支援装置1は、脈判定部33を備えている。脈判定部33は、脈動率取得部32により取得された脈動率Xに基づいて、患者100の脈の有無を判定するように構成されている。具体的には、脈判定部33は、脈動率取得部32により取得された代表脈動率が所定の閾値未満であるかに基づいて、患者100の脈の有無を判定するように構成されている。閾値の例としては、1%が挙げられる。脈判定部33は、代表脈動率が閾値未満である場合に患者100の脈がないと判定し、代表脈動率が閾値以上である場合に患者100の脈があると判定するように構成されている。
【0041】
救命支援装置1は、報知部34を備えている。報知部34は、脈判定部33による判定の結果を報知するように構成されている。報知は、光学的報知(LEDの発光、ディスプレイにメッセージを表示など)、音響的報知(ガイダンスメッセージ、メロディ、ビープ音など)、振動的報知の少なくとも1つにより行なわれる。
【0042】
前述のように、患者の意識喪失には様々な原因があり、AEDを用いて電気ショックを与えることを必要としない場合がある。心源性の意識喪失は、電気ショックを与える必要がある場合であって、脈がない事実をもってこれを判断することができる。脳障害、多量出血、低血糖、貧血、低炭酸ガスなどを原因とする意識喪失は、電気ショックを与える必要のない(与えてはならない)場合であって、脈がある事実をもってこれを判断することができる。
【0043】
しかしながら、専門家であっても脈の有無を正確かつ迅速に判断することは難しい。特に死戦期状態の患者は、心肺停止状態にありながら喘ぎ呼吸という独特の呼吸をするため、呼吸の事実をもって脈ありと判断してしまう場合があるからである。本実施形態に係る救命支援装置1の構成によれば、患者100の脈動率Xという客観的なパラメータを用いるため、救命支援装置1を取り扱う者に依らず、患者100の脈の有無を正確に判定できる。また、脈判定部33による脈の有無の判定は、数周期から十周期分程度の脈波信号が取得できれば可能である。したがって、救命支援装置1を取り扱う者に依らず、患者100の脈の有無を迅速に判定できる。
【0044】
患者100の脈の有無に係る正確な判定結果が救助者に報知されるため、例えばAEDの使用が不要である場合は、患者100の衣服を不必要に脱がすことが避けられる。これにより、患者100のプライバシーを守ることができる。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係る適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0045】
脈動率取得部32は、発光部21から出射される赤外光IRに基づいて脈動率Xを取得するように構成されている。
【0046】
このような構成によれば、救命医療において一般的に用いられているパルスオキシメータのプローブに用いられている光源を利用できる。別途の光源を用意する必要がないため、救命支援装置1を提供するコストを全体として抑制できる。また、赤外光は、患者100の身体を透過あるいは反射する際に皮膚の色の影響を受けにくい。これにより、取得される脈動率Xの正確性が向上し、後段の脈判定部33による脈の有無の判定精度も向上する。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0047】
脈判定部33は、上記の脈動率Xに加え、受光部22から出力された信号の所定時間内における変曲点数Nに基づいて、患者100の脈の有無を判定するように構成されうる。所定時間の例としては、1秒が挙げられる。
【0048】
図2の(B)、(C)、および(D)に示されるように、本明細書において「変曲点数」とは、正規化脈波PWの微分値の正負が反転する回数として定義される。
図2の(B)に示される例においては、正規化脈波PWの微分値は、正から負に転じ、再度正に転じている。したがって、変曲点数Nは2である。他方、
図2の(C)と(D)に示される例においては、正規化脈波PWの微分値の正負は、途中ゼロになるものの、その前後で変化しない。したがって、変曲点数Nは0である。
【0049】
図3の(A)は、本例において脈判定部33により行なわれる判定処理を示すフローチャートである。脈判定部33は、まず脈動率取得部32により取得された患者100の脈動率X(代表脈動率)が所定の閾値未満であるかを判定する(ステップS11)。
【0050】
脈動率Xが所定の閾値未満であると判定されると(ステップS11においてY)、脈判定部33は、所定期間内における正規化脈波PWの変曲点数Nを計数し、当該変曲点数Nが第一閾値未満であるかを判定する(ステップS12)。第一閾値の例としては10個が挙げられる。
【0051】
当該変曲点数Nが第一閾値未満であると判定されると(ステップS12においてY)、脈判定部33は、患者100の脈があると判断する(ステップS13)。この状況は、脈動率Xに基づいて脈なしと判定された結果が、変曲点数Nに基づく判断により覆されたことを意味する。
【0052】
当該変曲点数Nが第一閾値以上であると判定されると(ステップS12においてN)、脈判定部33は、患者100の脈がないと判断する(ステップS14)。この状況は、脈動率Xに基づいて脈なしと判定された結果が、変曲点数Nに基づく判断により確認されたことを意味する。
【0053】
脈動率Xが所定の閾値以上であると判定されると(ステップS11においてN)、脈判定部33は、所定期間内における正規化脈波PWの変曲点数Nを計数し、当該変曲点数Nが第二閾値未満であるかを判定する(ステップS15)。第二閾値の例としては15個が挙げられる。
【0054】
当該変曲点数Nが第二閾値未満であると判定されると(ステップS15においてY)、脈判定部33は、患者100の脈があると判断する(ステップS16)。この状況は、脈動率Xに基づいて脈ありと判定された結果が、変曲点数Nに基づく判断により確認されたことを意味する。
【0055】
当該変曲点数Nが第二閾値以上であると判定されると(ステップS15においてN)、脈判定部33は、患者100の脈がないと判断する(ステップS17)。この状況は、脈動率Xに基づいて脈ありと判定された結果が、変曲点数Nに基づく判断により覆されたことを意味する。
【0056】
図3の(B)は、脈ありと判断される典型的な正規化脈波PWを示している。図示の期間内における変曲点数Nは10を下回っている。
図3の(C)は、脈なしと判断される典型的な正規化脈波PWを示している。図示の期間内における変曲点数Nは100を上回っている。
【0057】
ステップS13やS17の状況が示しているように、変曲点数Nを判定基準に加えることにより、脈の有無の判定精度が向上する。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0058】
脈判定部33は、発光部21から出射される赤外光IRに基づいて変曲点数Nを取得するように構成されている。
【0059】
このような構成によれば、救命医療において一般的に用いられているパルスオキシメータのプローブに用いられている光源を利用できるため、別途の光源を用意する必要がなく、救命支援装置1を提供するコストを全体として抑制できる。また、赤外光は、患者100の身体を透過あるいは反射する際に皮膚の色の影響を受けにくい。これにより、取得される変曲点数Nの正確性が向上し、後段の脈判定部33による脈の有無の判定精度も向上する。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0060】
図1に示されるように、救命支援装置1は、脈再判定部35を備えうる。この場合、発光部21は、赤外光IRと赤色光Rを出射するように構成される。また、受光部22は、患者100の身体を透過あるいは反射した赤外光IRと赤色光Rの各強度に応じた信号を出力するように構成される。脈再判定部35は、脈判定部33が患者100に脈があると判定したとき、受光部22より出力された信号に基づいて患者100の動脈血酸素飽和度(SpO2)と心拍数を取得し、これらの生体パラメータに基づいて患者100の脈の有無を再判定するように構成されている。
【0061】
生体組織を透過あるいは反射した赤外光と赤色光の強度から動脈血酸素飽和度と心拍数を取得する処理は、パルスオキシメータの原理に基づいている。当該処理それ自体は周知であるため、詳細な説明は省略する。
【0062】
図4の(A)は、本例における脈再判定部35の動作を説明するフローチャートである。前述の通り、まず脈判定部33による判定処理が行なわれる(ステップS1)。判定処理の結果、患者100に脈があると判定されると、脈再判定部35による再判定処理が実行される(ステップS2)。
【0063】
図4の(B)は、再判定処理の具体的な流れを示すフローチャートである。脈再判定部35は、取得された患者100の動脈血酸素飽和度が所定の閾値未満であるかを、まず判定する(ステップS21)。閾値の例としては、85%が挙げられる。
【0064】
患者100の動脈血酸素飽和度が閾値以上であると判定されると(ステップS21においてN)、脈再判定部35は、取得された患者100の心拍数が所定の閾値未満であるかを判定する(ステップS22)。閾値の例としては、毎分40回が挙げられる。
【0065】
患者100の心拍数が閾値以上であると判定されると(ステップS22においてN)、脈再判定部35は、患者100の脈があると判定する(ステップS23)。この状況は、脈判定部33により脈ありと判定された結果が、脈再判定部35による再判定により確認されたことを意味する。
【0066】
患者100の動脈血酸素飽和度が所定値未満であると判定された場合(ステップS21においてY)、あるいは患者100の心拍数が所定値未満であると判定された場合(ステップS22においてY)、脈再判定部35は、患者100の脈がないと判定する(ステップS24)。この状況は、脈判定部33により脈ありと判定された結果が、脈再判定部35による再判定により覆されたことを意味する。
【0067】
すなわち、脈再判定部35は、救命支援装置1においてフェールセーフ機能を提供している。これにより、本来は脈なしと判定されるべき患者100が、何らかの理由で脈判定部33により脈ありと判定されてしまった場合に、脈再判定部35により脈なしと判定することが可能である。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0068】
図4の(B)に示される再判定処理において、動脈血酸素飽和度に係る判定(ステップS21)と心拍数に係る判定(ステップS22)の順序は逆でもよい。また、動脈血酸素飽和度に係る判定(ステップS21)と心拍数に係る判定(ステップS22)は、いずれか一方のみが行なわれる構成とされてもよい。
【0069】
図5は、救命支援装置1の使用態様の一例を模式的に示している。救命支援装置1は、プローブ2とケース3を備えている。プローブ2は、発光部21と受光部22を備えている。ケース3は、発光制御部31、脈動率取得部32、脈判定部33、報知部34、および脈再判定部35を収容している。
【0070】
発光部21と受光部22を備えるプローブ2は、患者100の額101に装着可能に構成されている。
【0071】
このような構成によれば、患者100の脈の有無をまず判定するにあたって、患者100の衣服を脱がす必要がない。また、額101は体動の影響を受けにくい箇所であるため、脈の有無の判定精度を向上できる。したがって、患者のプライバシーに配慮しつつ、救命行為の要否に係るより適切な情報を提供して救助者を支援できる。
【0072】
発光部21が赤外光や赤色光を出射するように構成される場合、パルスオキシメータのプローブを利用できる。別途のプローブを用意する必要がないため、救命支援装置1を提供するコストを全体として抑制できる。
【0073】
図4の(A)に示されるように、判定処理(ステップS1)の結果として患者100に脈がないと判定された場合、あるいは再判定処理(ステップS2)の結果として患者100に脈がないと判定された場合、救命支援装置1は、報知処理を実行する(ステップS3)。具体的には、報知部34が、AEDの使用を促す情報を提供する。例えば、「脈を検出できません。AEDを使用して下さい。」というガイド音声が出力される。救助者は、
図5に示されるように、AED200の電極201を患者100の胸部102に装着し、AED200のガイド音声に従って救命措置を実行する。
【0074】
このような構成によれば、躊躇する救助者に対してAED200の使用を強く促す作用が期待できるとともに、AED200を使用できる別の救助者に交代するなどして、AED200の使用に至る確実性を向上できる。
【0075】
これに加えてあるいは代えて、報知部34は、胸骨圧迫の実施を促す情報を提供する。例えば、「脈を検出できません。胸骨圧迫を行なって下さい。」というガイド音声が出力される。救助者は、患者100の胸部102に対して胸骨圧迫を実行する。
【0076】
このような構成によれば、躊躇する救助者に対して具体的な行動を強く促す作用が期待できるとともに、措置ができる別の救助者に交代するなどして、救命に至る確実性を向上できる。
【0077】
脈判定部33は、患者100の脈がないと判定した後も、脈の有無の判断処理を続行しうる。この場合、報知部34は、患者100が一旦脈なしと判定された後に脈ありと判定された場合に胸骨圧迫の実施の中止を促す情報を提供するように構成されうる。例えば、「脈が再開しました。胸骨圧迫を行なわないで下さい。」というガイド音声が出力される。
【0078】
このような構成によれば、一旦脈なしと判定された患者100の容体が改善した場合の対応を適切なものにできる。すなわち、自己心拍が再開した患者100に対して不必要な胸骨圧迫の実施を回避でき、胸骨に不要な負荷が加わることを防止できる。
【0079】
図4の(A)に破線で示されるように、脈再判定部35による再判定処理(ステップS2)の結果として患者100の脈があると判定された場合、救命支援装置1は、患者100の脈がある事実を報知する報知処理(ステップS3)を行なってもよい。その後、救命支援装置1は、脈判定部33による判定処理(ステップS1)を再実行する。換言すると、脈判定部33は、患者100の脈があると判定した後も、脈の有無の判断処理を続行する。
【0080】
このような構成によれば、脈があると一旦判定された患者100の容体が急変した場合に適切に対応できる。すなわち、判断処理が続行される結果、患者100が脈なし状態に陥った場合は、上記の報知処理がなされる。
【0081】
本実施形態において、発光制御部31、脈動率取得部32、脈判定部33、報知部34、および脈再判定部35の機能の少なくとも一部は、通信可能に接続されたプロセッサとメモリの協働により実行されるソフトウェアにより実現されている。プロセッサの例としては、CPUやMPUが挙げられる。メモリの例としては、RAMやROMが挙げられる。しかしながら、発光制御部31、脈動率取得部32、脈判定部33、報知部34、および脈再判定部35の機能の少なくとも一部は、回路素子などのハードウェアにより、あるいはハードウェアとソフトウェアの組合せにより実現されうる。
【0082】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の実施形態に係る構成は、本発明の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。また、等価物が本発明の技術的範囲に含まれることは明らかである。
【0083】
上記の実施形態においては、脈動率Xと変曲点数Nの取得にあたって赤外光IRのみが使用されている。しかしながら、赤外光IRと赤色光Rの双方を用いて脈動率Xと変曲点数Nが取得されてもよいし、赤色光Rのみを用いて脈動率Xと変曲点数Nが取得されてもよい。各光を出射する光源の点消灯は、発光制御部31により適宜に制御される。
【0084】
プローブ2が装着される箇所は、必ずしも患者100の額101であることを要しない。透過型のパルスオキシメータが、手の指先、足の指先、耳朶などに装着される構成とされてもよい。この場合においても、患者100の衣服を脱がすことなく脈の有無の判定を実行できる。
【0085】
プローブ2は、必ずしもパルスオキシメータのプローブであることを要しない。血流に係る情報を取得しうる限りにおいて、プローブ2は、超音波、電磁波、レーザ光のいずれかを用いる計測器(超音波血流計、電磁血流計、レーザ血流計、ドップラ血流計など)の少なくとも一部として構成されてもよい。この場合、プローブ2は、患者100の頸部、腕部、または脚部に装着される。いずれの場合においても、患者100の肌の露出を最小限に抑えつつ脈の有無の判定を実行できる。
【0086】
上記の実施形態においては、報知部34によりAED200の使用が促される例を説明した。報知部34は、AEDに限らず除細動器一般の使用を促すように構成されうる。