(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶融ガラスを移送するガラス供給管の外周に設けられるフランジ部と、前記フランジ部と一体に構成される電極部と、前記フランジ部を冷却する冷却路と、を備える加熱装置において、
前記冷却路の少なくとも外面は、Ni 50.0〜95.0質量%を含む金属により構成され、
前記冷却路は、筒部と、前記筒部の外面を被覆する膜部と、を備え、前記膜部は、前記金属により構成されることを特徴とする、加熱装置。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイには、板ガラスが使用される。近年、スマートフォンやタブレット型端末の登場により、フラットパネルディスプレイの薄型化及び軽量化と共に、高精細化が進んでおり、これに伴い、板ガラスの薄板化も推進されている。ガラス基板の材質としては、変形や重力たわみが小さく、高温プロセスでの寸法安定性に優れる無アルカリガラスが好適に使用される。
【0003】
板ガラスは、特許文献1に開示されるように、溶解工程、清澄工程、均質化工程、成形工程等の工程を経て薄板状に形成される。この場合、無アルカリガラスは、高温粘性が高いため、溶解工程、清澄工程、均質化工程において、例えば1600℃以上の高温の溶融ガラスとなって移送される。
【0004】
各工程間における溶融ガラスの移送には、耐熱性や耐酸化性の観点から白金や白金合金などからなる貴金属製のガラス供給管が使用される。特許文献1には、電流を印加する二つのフランジを外壁に有するガラス供給管(管状容器)が開示されている。フランジは、ガラス供給管の直接抵抗加熱に使用されるものであり、複数の導電性リングにより構成される。これらのリングの内、最も内側のリングは、少なくとも80%の白金を含む金属からなり、最も外側のリングは、少なくとも99.9%のニッケルを含むように構成される(同文献の請求項1等参照)。
【0005】
フランジにおける最も外側のリングには、冷却路(冷却通路)が結合される。冷却路を構成する冷却配管(冷却管)は、少なくとも99.0%のニッケルを含む金属により構成される(同文献の請求項2及び段落0028参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶解工程から成形工程へと溶融ガラスを移送するには、複数のガラス供給管を接続して溶融ガラスの供給路(以下「ガラス供給路」という)を構成する必要がある。この場合において、ガラス供給路の内部で流動する溶融ガラスから生じたガスが、ガラス供給路におけるガラス供給管の接続部分から漏出する場合がある。
【0008】
ガラス供給管から漏出するガスは、塩素を含むため、冷却路が銅又は銅合金によって構成される場合には、塩素による腐食により、冷却路が早期に劣化し、内部の冷却媒体の漏出を招来するおそれがある。この点、特許文献1に記載のガラス供給管では、冷却配管にニッケルを少なくとも99.0%のニッケルを含む金属を用いることにより、銅製のものと比較して耐食性が向上したものとなる。
【0009】
しかしながら、特許文献1で開示されている冷却路のニッケルの含有量は、実用上適切とは言えず、当該含有量について十分な検討がなされていなかった。すなわち、製造コスト、熱伝導率、膨張係数、機械加工性、等々を考慮した場合には改良の余地があった。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みて為されたものであり、ガラス供給管内を流動する溶融ガラスから生じる塩素に対する冷却路の耐食性を十分に向上させるとともに、製造コストの低減や、冷却性能を向上させることが可能な加熱装置、及びこの加熱装置を含むガラス供給管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであり、溶融ガラスが流動するガラス供給管の外周に設けられるフランジ部と、前記フランジ部と一体に構成される電極部と、前記フランジ部を冷却する冷却路と、を備える加熱装置において、前記冷却路の少なくとも外面は、Ni 50.0〜95.0質量%を含む金属により構成されることを特徴とする。
【0012】
このように、加熱装置の冷却路における少なくとも外面をNi 50.0〜95.0質量%の金属により構成することで、塩素に対する冷却路の耐食性を十分に向上させることができるとともに、製造コストの低減や、冷却性能を向上させることができる。
【0013】
上記の場合において、前記合金は、Fe,Cr,Nb,Moのうち少なくとも一種を含むことが望ましい。これにより、冷却路の強度を可及的に高めることができる。また、前記冷却路は、単一の前記金属により筒状に構成されることで、塩素に対する耐食性及びその強度が向上する。
【0014】
これに限らず、前記冷却路は、筒部と、前記筒部の外面を被覆する膜部と、を備え、前記膜部は、前記金属により構成されてもよい。このように、冷却路を筒部と膜部により構成するとともに、膜部を、Niを含む前記金属により構成することで、冷却路を塩素に対する耐食性の高い構造とすることができる。
【0015】
この場合において、前記膜部は、蒸着膜または溶射膜であることが望ましい。これによれば、筒部に対して膜部を強固に付着させることができる。したがって、膜部は、筒部から剥離し難くなる。これにより、加熱装置の寿命を可及的に向上させるこができる。
【0016】
前記筒部は、Cu 90質量%以上を含む金属により構成されることが望ましい。これにより、冷却路は、フランジ部を効率良く冷却することができる。
【0017】
ガラス供給管は、溶融ガラスを移送する管本体に、上記のような加熱装置を備えることで、その寿命を可及的に向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガラス供給管内を流動する溶融ガラスから生じる塩素に対する冷却路の耐食性を十分に向上させることができるとともに、製造コストの低減や、冷却性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図4は、本発明に係る加熱装置、この加熱装置を有するガラス供給管、ガラス供給管を含むガラス製造装置、及びこの板ガラス製造装置を使用する板ガラス製造方法の一実施形態を示す。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る板ガラス製造装置は、上流側から順に、溶解槽1と、清澄槽2と、均質化槽(攪拌槽)3と、状態調整槽4と、成形槽5と、各槽1〜5を連結するガラス供給路6とを備える。この他、板ガラス製造装置は、成形槽5により成形された板ガラスを徐冷する徐冷炉(図示せず)及び徐冷後に板ガラスを切断する切断装置(図示せず)を備え得る。
【0022】
溶解槽1は、投入されたガラス原料を溶解して、溶融ガラスGを得る溶解工程を行うための容器である。溶解槽1は、ガラス供給路6によって清澄槽2に接続されている。清澄槽2は、溶解槽1から供給された溶融ガラスGを清澄剤等の働きにより清澄する清澄工程を行うための容器である。清澄槽2は、ガラス供給路6によって均質化槽3に接続されている。
【0023】
均質化槽3は、清澄された溶融ガラスGを攪拌翼等により攪拌し、均一化する均質化工程を行うための容器である。均質化槽3は、ガラス供給路6によって状態調整槽4に接続されている。状態調整槽4は、溶融ガラスGを成形に適した状態に調整する状態調整工程を行うための容器である。状態調整槽4は、ガラス供給路6によって成形槽5に接続されている。
【0024】
成形槽5は、溶融ガラスGを所望の形状に成形するための容器である。本実施形態では、成形槽5は、オーバーフローダウンドロー法によって溶融ガラスGを板状に成形する。詳細には、成形槽5は、断面形状(
図1の紙面と直交する断面形状)が略楔形状を成しており、この成形槽5の上部には、オーバーフロー溝(図示せず)が形成されている。
【0025】
成形槽5は、ガラス供給路6によって溶融ガラスGがオーバーフロー溝に供給された後、溶融ガラスGをオーバーフロー溝から溢れ出させて、成形槽5の両側の側壁面(紙面の表裏面側に位置する側面)に沿って流下させる。成形槽5は、流下させた溶融ガラスGを側壁面の下頂部で融合させ、板状に成形する。
【0026】
成形された板ガラスは、例えば、厚みが0.01〜10mmであって、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などの基板や保護カバーに利用される。なお、成形槽5は、スロットダウンドロー法などの他のダウンドロー法を実行するものであってもよい。
【0027】
以下、ガラス供給路6の構成について、
図2乃至
図4を参照しながら説明する。ガラス供給路6は、複数のガラス供給管7を接続してなる。ガラス供給管7は、管本体8と、この管本体8の温度を調整する加熱装置9とを備える。
【0028】
管本体8は、円筒状に構成されているが、この形状に限定されるものではない。管本体8は白金又は白金合金により構成される。
【0029】
加熱装置9は、フランジ部10と、電極部11と、フランジ部10及び電極部11を冷却する冷却路12とを備える。
【0030】
フランジ部10は、円板状に構成されており、管本体8の外周を取り囲むように形成される。フランジ部10は、管本体8と同心状となるように管本体8に固定(溶接)されている。フランジ部10は、白金又は白金合金により構成される。
【0031】
電極部11は、長方形状の板状に構成され、フランジ部10と一体に構成される。電極部11は、フランジ部10の半径方向に沿って当該フランジ部10から上方に突出するように構成される。電極部11は、フランジ部10と同様に、白金又は白金合金により構成される。加熱装置9は、電極部11に所定の電圧を印加することで、フランジ部10に通電し、当該フランジ部10を発熱させることにより管本体8を加熱する。これにより、管本体8内を流動する溶融ガラスGは、所定温度に維持される。
【0032】
冷却路12は、金属製の単管を曲げ加工することにより所定形状に形成される。具体的には、冷却路12は、所定の直径を有する環状部12aと、この環状部12aの端部に繋がる一対の直線部12bとを有する。
【0033】
環状部12aは、フランジ部10の周縁部に沿うように、当該フランジ部10の一方の面に固定される。直線部12bは、電極部11の縁部に沿うように、当該電極部11の一方の面に固定される。
【0034】
図3に示すように、冷却路12は、筒状に構成される。冷却路12は、圧送装置により、一方の直線部12bから環状部12aへ、そして環状部12aから他方の直線部12bへと冷却媒体を流通させる。なお、本実施形態では、冷却媒体として流体、例えば水又は空気が使用されるが、これに限定されない。
【0035】
冷却路12は、単一の金属、すなわちNi系合金により構成される。Ni系合金は、Niを主成分とするものであり、Ni 50.0〜95.0質量%を含むことが望ましい。Ni系合金としては、例えば、ハステロイ(登録商標)又はインコネル(登録商標)が好適に用いられる。例えばハステロイ(登録商標)C276は、質量%において、Cr 15%、Mo 16%、Wを4%、Feを5.5%、Mnを1%、Coを2.5%含有し、残部としてNiを含有する。
【0036】
また、冷却路12として、インコネル(登録商標)600に相当するNi系合金を使用してもよい。インコネル(登録商標)600は、質量%において、Crを14.0〜17.0%、Feを6.0〜10.0%、Cを0.15%、Mnを1.00%、Siを0.5%、Cuを0.5%、Alを0.30%、Tiを0.3%、Bを0.006%、Pを0.015%、Sを0.015%含有し、残部としてNiを含有する。
【0037】
上記の例に限らず、冷却路12を構成するNi系合金は、Fe,Cr,Nb,Moのうち少なくとも一種を含むものであればよい。
【0038】
冷却路12は、ろう付けによりフランジ部10に固定される。すなわち、
図3に示すように、冷却路12(環状部12a及び直線部12b)は、ろう付け部15を介してフランジ部10の一方の面、及び電極部11の一方の面に固定される。ろう付けには、銀その他の金属がろう材として使用される。
【0039】
上記の構成に限らず、冷却路12は、
図4に示すように、金属製の筒部13と、この筒部13を被覆する金属製の膜部14とを備えたものであってもよい。
【0040】
筒部13は、銅又は銅合金により構成される。筒部13を銅合金により構成する場合、当該銅合金は、Cu 90質量%以上を含む他、例えば、Fe,Ni,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr及びAgのうち少なくとも一種を含むことが望ましい。
【0041】
膜部14は、上記のように、冷却路12を単一のNi系合金とした場合と同様に、Ni 50.0〜95.0質量%を含むNi系合金により構成されることが望ましい。膜部14は、好ましくはNi 87〜94.5質量%を含む。同様に、膜部14を構成するNi系合金は、Fe,Cr,Nb,Moのうち少なくとも一種を含むことが望ましい。なお、膜部14の厚さは、3μm以上30μm以下とされるが、これに限定されない。
【0042】
図4に示す例では、筒部13をフランジ部10の一方の面にろう付けにより固定した後に、この筒部13の外面に膜部14を形成することが望ましい。この場合、膜部14は、筒部13の外面を被覆する第一膜部14aと、ろう付け部15とフランジ部10の表面の一部とを被覆する第二膜部14bとを有することとなる。膜部14は、第一膜部14a及び第二膜部14bにより、筒部13の表面と、フランジ部10の表面とを一体的に被覆する。
【0043】
膜部14は、溶射法により構成される溶射膜であることが好ましい。溶射法は、特に限定されないが、例えばフレーム溶射、プラズマ溶射等を用いることができる。また、膜部14は、蒸着法により構成される蒸着膜であってもよい。蒸着法については、真空蒸着に代表される物理蒸着法(PVD)や、化学蒸着法(CVD)などの方法が好適に使用される。その他、スパッタリングにより膜部14を形成してもよい。
【0044】
以下、上記構成の板ガラス製造装置を使用して板ガラスを製造する方法について説明する。本方法は、溶解槽1にて原料ガラスを溶解させ(溶解工程)、溶融ガラスGを得た後、この溶融ガラスGに対し、順に清澄槽2による清澄工程、均質化槽3による均質化工程、及び状態調整槽4による状態調整工程を実施する。
【0045】
その後、この溶融ガラスGを成形槽5に移送し、成形工程により溶融ガラスGから板ガラスを成形する。その後、板ガラスは、徐冷炉による徐冷工程、切断装置による切断工程を経て、所定寸法に形成される。あるいは、板ガラスは、徐冷工程後に、切断されることなくロール状に巻き取られる。
【0046】
溶融ガラスGをガラス供給路6にて移送する場合、管本体8を流動する溶融ガラスGの温度を管理すべく、電極部11に電圧を印加し、管本体8を加熱する。このとき、冷却路12(環状部12a及び直線部12b)は、内部に冷却媒体を流通させ、フランジ部10及び電極部11を冷却する。
【0047】
以上説明した本発明に係る加熱装置9によれば、加熱装置9の冷却路12における少なくとも外面をNi 50.0〜95.0質量%を含む金属により構成することで、塩素に対する冷却路12の耐食性を十分に向上させることができるとともに、製造コストの低減や、冷却性能を向上させることができる。
【0048】
また、冷却路12は、Fe,Cr,Nb,Moの少なくとも一種を含むNi系合金により構成されることから、その強度を可及的に高めることができる。ガラス供給路6は、溶融ガラスを移送するにあたり、予め加熱しておく必要がある(予熱工程)。
【0049】
加熱によるガラス供給管7の膨張による損傷を防止するため、予熱工程は、ガラス供給路6をガラス供給管7単位に分離させた状態で行われる。予熱工程終了後に、複数のガラス供給管7を接続してガラス供給路6を構成することとなるが、この際、冷却路12が他のガラス供給管7の一部と接触する場合がある。このような場合であっても、冷却路12の強度を高めることで、その変形を確実に防止できる。
【0050】
上記のような加熱装置9をガラス供給管7に備えることで、当該ガラス供給管7の寿命を可及的に向上させることが可能になる。これにより、複数のガラス供給管7を接続してなるガラス供給路6を備える板ガラス製造装置もまた、メンテナンス性が向上したものになる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。本発明者らは、加熱装置における冷却路の塩素に対する耐食性を確認するための試験を行った。試験では、試験片として実施例1〜3、及び比較例1,2を用意した。実施例1〜3及び比較例1,2は、以下の材質からなる板部材である。
【0053】
実施例1は、ハステロイ(登録商標)C276により構成される。実施例2は、インコネル(登録商標)600により構成される。実施例3は、銅を99,9質量%含有する板部材の表面にNi系合金による膜部を形成したもの(ニッケルメッキ)である。実施例3の膜部は、ニッケルを94質量%含有する。この実施例3における膜部の厚さは5μmである。比較例1は、銅を99.9質量%含有する。比較例2は、ニッケルを99.7質量%含有する。
【0054】
この試験は、実施例1〜3、及び比較例1,2に係る各試験片を、0.1mol/L(pH1)の塩酸に浸漬して観察するとともに、所定時間経過後の重量変化を確認するものである。具体的には、168時間が経過した後に、各試験片を塩酸から取り出し、その重量(μg/mm
2)を測定して浸漬前の重量との変化量(減少量)を求めた。試験結果を表1に示す。
【表1】
【0055】
表1に示すように、試験の結果、比較例1と比較して、実施例1〜3は、塩酸に浸漬した場合における重量変化(減少量)が大幅に小さくなり、塩素に対する耐食性が極めて優れたものであることが判明した。また、ニッケルの含有量が極めて高い比較例2と比較しても、実施例1〜3は、優れた耐食性を示すことが判る。