(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で示されるセメント用収縮低減剤は、下記式(1)で示されるポリオキシアルキレン誘導体(成分(A))を有効成分として含む。
R
1O−(AO)
m−R
2
・・・(1)
【0015】
式(1)において、R
1は、炭素数1〜30の炭化水素基から選ばれる一種または二種以上である。R
1の炭素数が30より大きいと、モルタル中への分散性が低下し、収縮低減性および耐凍害性が低下するので、30以下とするが、22以下が更に好ましい。また、R
1の炭素数は1以上であるが、8以上が更に好ましく、12以上が特に好ましい。R
1としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、イソセチル基、オクタデシル基、イソステアリル基、イコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、オクタコシル基、トリアコンチル基などが挙げられる。
式(1)において、R
2は、水素原子およびメチル基からなる群より選ばれる一種以上である。好ましくはR
2が水素原子のみである。R
2における炭素数が1より大きいと、モルタルへの分散性が低下し、収縮低減性および耐凍害性が低下する。
【0016】
式(1)において、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、例えばオキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられ、好ましくは炭素数3のオキシプロピレン基である。AOを構成するオキシアルキレン基の炭素数が2以下である場合、耐凍害性が低下する。AOを構成するオキシアルキレン基の炭素数が5以上である場合、収縮低減性が低下する。
【0017】
式(1)において、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表すmは1〜30であり、好ましくは1〜25であり、より好ましくは5〜20である。オキシアルキレン基の平均付加モル数を表すmが1未満である場合、収縮低減性が低下し、mが30より大きい場合、耐凍害性が低下する。
【0018】
本発明で示されるセメント用収縮低減剤は式(2)で示されるポリオキシアルキレン誘導体(成分(B))を有効成分として含む。
R
3O−(PO)
n−H ・・・(2)
【0019】
式(2)において、R
3は、炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれる一種または二種以上である。R
3は、好ましくは炭素数1〜14の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基であり、特に好ましくは炭素数2〜5の炭化水素基である。R
3としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、イソセチル基、オクタデシル基、イソステアリル基、イコシル基、ドコシル基が挙げられる。炭素数1〜6の炭化水素基としては、直鎖でも分岐でも良いが、直鎖のものがより好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
【0020】
POは炭素数3のオキシアルキレン基である。また、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。nが小さくなるにつれて作業性の改善が不十分であるため、nは35以上であり、40以上であることがより好ましく、50以上が特に好ましい。また、nが大きくなるにつれて粘度が上昇し、取扱いが困難になることから、nは150以下であることが好ましく、120以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明で示されるセメント用収縮低減剤に含まれるポリオキシアルキレン誘導体(成分(B))は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)において、示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムによって規定される。このクロマトグラムとは、屈折率強度と溶出時間との関係を表すグラフである。本発明のポリオキシアルキレン誘導体では、クロマトグラムが左右非対称であり、式(3)の関係を満たす。なお、M
L/M
Hが1に近い値であるほど、クロマトグラムの形状は左右対称となる。
0.35≦M
L/M
H≦0.75 ・・・(3)
【0022】
M
L/M
Hは、それぞれ以下のようにしてクロマトグラムから算出する(
図1参照)。
(1)クロマトグラム上の屈折率強度の極大点KからベースラインBへ垂線を引き、垂線の長さをLとする。
(2)屈折率強度がL/2となるクロマトグラム上の2点のうち、溶出時間が早いほうを点Oとし、溶出時間が遅いほうを点Qとする。
(3)点Oと点Qを結んだ直線Gと、屈折率強度の極大点Kから、ベースラインBへ引いた垂線との交点をPとする。
(4)点Oと交点Pの距離をM
H、交点Pと点Qの距離をM
Lとする。
【0023】
なお、本発明で示されるセメント用収縮低減剤に含まれるポリオキシアルキレン誘導体(成分(B))のゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、クロマトグラムの屈折率強度の極大点が複数ある場合は、それらのうち屈折率強度が最も大きい点を極大点Kとする。さらに、同じ屈折率強度の極大点が複数ある場合は、溶出時間の遅いほうを屈折率強度の極大点Kとする。この際、ゲル浸透クロマトグラフィーに使用した展開溶媒などに起因するピークや、使用したカラムや装置に起因するベースラインの揺らぎによる擬似ピークは除く。
【0024】
本発明で示されるセメント用収縮低減剤に含まれるポリオキシアルキレン誘導体(成分(B))は、0.35≦M
L/M
H≦0.75を満たすものである。M
L/M
Hが0.75より大きくなると、セメント組成物の粘性が高く作業性が低下する。そのため、M
L/M
Hを0.75以下とするが、0.62以下とすることがより好ましく、0.55以下が特に好ましい。
また、M
L/M
Hが0.35より小さくなると、分子量分布における高分子量側の偏りが大きくなり、粘度が高くなり、取扱いが困難になる。そのため、M
L/M
Hを0.35以上とするが、0.36以上とすることがより好ましい。
【0025】
本発明において、M
LおよびM
Hを求めるためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、システムとしてSHODEX GPC101専用システム、示差屈折率計としてSHODEX RI−71S、ガードカラムとしてSHODEX KF−GS、カラムとしてSHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶媒としてテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流し、得られた反応物の0.1質量部のテトラヒドロフラン溶液0.1mlを注入し、BROWIN GPC計算プログラムを用いて屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得る。
【0026】
本発明で示されるセメント用収縮低減剤に含まれるポリオキシアルキレン誘導体(成分(B))を製造する際には、好ましくは、複合金属シアン化物触媒(以下、DMC触媒と略記する)の存在下で、炭素数3のプロピレンオキシドを開環付加させる。反応容器内に、分子中に少なくとも1個の水酸基を有する原料アルコールとDMC触媒を加え、不活性ガス雰囲気の撹拌下、プロピレンオキシドを連続もしくは断続的に添加し付加重合する。ポリオキシプロピレンは加圧して添加しても良く、大気圧下で添加しても良い。
【0027】
この時、プロピレンオキシドの平均供給速度に制限はないが、プロピレンオキシドの仕込み量によって変化させることが望ましい。具体的には、プロピレンオキシドの全供給量の5〜20質量部を供給する間の速度をV
1、プロピレンオキシドの全供給量の20〜50質量部を供給する間の速度をV
2、プロピレンオキシドの全供給量の50〜100質量部を供給する間の速度をV
3とした時、V
1/V
2=1.1〜2.0、V
2/V
3=1.1〜1.5となるようにプロピレンオキシドの平均供給速度を制御することが好ましい。
また、反応温度は、50〜150℃が好ましく、70〜110℃がより好ましい。反応温度が150℃より高いと、触媒が失活するおそれがあり、反応温度が50℃より低いと、反応速度が遅く生産性に劣る。
【0028】
本発明で示されるセメント用収縮低減剤に含まれるポリオキシアルキレン誘導体(成分(B))を製造する際には、原料アルコールとして、式(2)においてR
3で示される炭素数1〜22の炭化水素を有する1価アルコールを使用することができる。
【0029】
原料アルコールおよびプロピレンオキシドに含まれる微量の水分量については特に制限はないが、原料アルコールに含まれる水分量については0.5質量部以下、プロピレンオキシドに含まれる水分量については0.1質量部以下であることが望ましい。
【0030】
DMC触媒の使用量は、特に制限されるものではないが、生成するポリオキシアルキレン誘導体に対して0.0001〜0.1質量部が好ましく、0.001〜0.05質量部がより好ましい。DMC触媒の反応系への投入は初めに一括して導入しても良く、順次分割して導入しても良い。反応終了後、複合金属錯体触媒の除去を行う。触媒の除去は、濾別や遠心分離、合成吸着剤による処理など公知の方法により行うことができる。
【0031】
本発明で示されるセメント用収縮低減剤に含まれるポリオキシアルキレン誘導体(B)を製造する際に用いるDMC触媒は公知のものを用いることができ、例えば式(4)で表すことができる。
Ma[M’x(CN)y]b(H
2O)c・(R)d ・・・(4)
【0032】
式(4)中、MおよびM’は金属、Rは有機配位子、a、b、xおよびyは金属の原子価と配位数により変わる正の整数であり、cおよびdは、金属の配位数により変わる正の整数である。
【0033】
金属Mとしては、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Al(III)、Sr(II)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、Pb(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、W(IV)、W(VI)などが挙げられ、なかでもZn(II)が好ましく用いられる。
【0034】
金属M’としては、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、V(V)などがあげられ、なかでもFe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)が好ましく用いられる。
【0035】
有機配位子としてはアルコール、エーテル、ケトン、エステルなどが使用でき、アルコールがより好ましい。好ましい有機配位子は水溶性のものであり、具体例としては、tert-ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。特に好ましくはtert-ブチルアルコールが配位したZn
3[Co(CN)
6]
2である。
【0036】
本発明で示されるセメント用収縮低減剤は、成分(A):成分(B)が90.0〜99.9質量部:10.0〜0.1質量部であり、好ましくは93.0〜99.0質量部:7.0〜1.0質量部であり、より好ましくは93.0〜97.0質量部:7.0〜3.0質量部である。成分(B)の比率が0.1質量部未満である場合、セメント組成物の粘性が高くなり作業性が低下する。成分(B)の比率が10.0質量部より多い場合、耐凍害性の低下が大きく、耐久性が低下する。
【0037】
本発明のセメント用収縮低減剤は、セメント又はセメント組成物に添加して使用する。セメント組成物としては、モルタル、コンクリートなどが挙げられる。
【0038】
本発明のセメント用収縮低減剤を適用することができるセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱、耐硫酸塩等のポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、エコセメント、白色セメント、超速硬セメントなどが挙げられる。
【0039】
本発明のセメント用収縮低減剤を適用することができる骨材としては、通常のモルタルやコンクリートに使用できるものであれば特に限定されるものではなく、川砂、山砂、陸砂、砕砂、けい砂等の細骨材や、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石、人工軽量骨材、高炉スラグ砕石および再生骨材等の粗骨材が挙げられる。
【0040】
本発明のセメント用収縮低減剤の使用量は、特に限定されないが、セメント、モルタル又はコンクリート等に添加するに際し、セメント100質量部に対し0.1〜10質量部であり、好ましくは0.5〜8質量部であり、より好ましくは1〜6質量部である。
【0041】
本発明のセメント用収縮低減剤の使用方法は、特に限定されない。セメント用収縮低減剤を注水と同時に添加して使用することができ、注水から練り上がりまでの間に添加して使用することができ、一旦練り上がったセメント組成物に添加して使用することもできる。
【0042】
本発明のセメント用収縮低減剤は、その効果を阻害しない範囲で、他の添加剤(添加材)と併用することができる。他の添加剤としては、減水剤、AE剤、AE減水剤、収縮低減剤、消泡剤、空気量調整剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、膨張材、流動化剤、起泡剤、分離抑制剤、保水剤、増粘剤、防水剤等が挙げられる。
【0043】
本発明では、セメント組成物の調製に使用する水の量は、配合用途に応じて定めることができるが、通常、セメント100質量部に対して10〜70質量部であり、より好ましくは10〜60質量部であり、さらに好ましくは20〜55質量部である。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明する。
(ポリオキシアルキレン化合物:成分(A−1)の合成例)
撹拌機、圧力計、温度計、安全弁、ガス吹き込み管、排気管、冷却用コイルおよび蒸気ジャケットを装備したステンレス製5Lの高圧反応装置に、ステアリルアルコールを主成分とする原料(ステアリルアルコール含有率:約90質量%、セチルアルコール含有率:約10質量%)535g(2.0モル)と、触媒としてソジウムメチラートを量り取り、系内を窒素ガスで置換した。撹拌下、100〜120℃、0.05〜0.50MPa(ゲージ圧)の条件で、ガス吹き込み管よりプロピレンオキシド1160g(20モル)を徐々に圧入した。添加終了後、同条件で内圧が一定となるまで反応させた後、窒素ガスを吹き込みながら13kPa以下、80℃で1時間減圧処理を行った。窒素ガスで0.05MPaまで加圧後、反応物を抜き取り、塩酸で中和し、水や副生した塩を取り除き、式(1)で表される成分(A−1)を得た。
【0045】
(成分(A−2)の合成例)
プロピレンオキシド1740gを使用した以外は、実施例1と同様にして、式(1)で表される成分(A−2)を得た。
【0046】
(成分(A−3)の合成例)
ラウリルアルコールを主成分とする原料(ラウリルアルコール含有率:約95質量%、ミリスチルアルコール含有率:約5質量%)372g(2.0モル)とプロピレンオキシド1160g(20モル)を使用した以外は、実施例1と同様にして、式(1)で表される成分(A−3)を得た。
【0047】
(成分(A−4)の合成例)
原料としてn−ブタノール148gを使用し、プロピレンオキシド1160gを使用した以外は、実施例1と同様にして、式(1)で表される成分(A−4)を得た。
【0048】
(成分(A’−1)の合成例)
原料としてメタノール160g(5モル)を使用し、エチレンオキシド440g(10モル)、プロピレンオキシド580g(10モル)を使用した以外は、実施例1と同様にして合成し、本発明外の成分(A’−1)を得た。
【0049】
(成分(A’−2)の合成例)
エチレンオキシド880g(20モル)を使用した以外は、実施例1と同様にして合成し、本発明外の成分(A’−2)を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
(複合金属シアン化物錯体触媒の合成)
塩化亜鉛2.1gを含む2.0mlの水溶液中に、カリウムヘキサシアノコバルテートK
3Co(CN)
6を0.84g含む15mlの水溶液を、40℃にて撹拌しながら15分間かけて滴下した。滴下終了後、水16ml、tert-ブチルアルコール16gを加え、70℃に昇温し、1時間撹拌した。室温まで冷却後、濾過操作を行い、固体を得た。この固体に、水14ml、tert-ブチルアルコール8.0gを加え、30分間撹拌した後、濾過操作を行い、固体を得た。さらに再度、この固体にtert-ブチルアルコール18.6g、メタノール1.2gを加え、30分間撹拌した後、濾過操作を行い、得られた固体を40℃、減圧下で3時間乾燥し、複合金属シアン化物錯体触媒0.7gを得た。
【0052】
(ポリオキシアルキレン化合物:成分(B)の合成)
撹拌機、圧力計、温度計、安全弁、ガス吹き込み管、排気管、冷却用コイルおよび蒸気ジャケットを装備したステンレス製5Lの高圧反応装置に、n−ブタノール200gと、上記した合成例の複合金属シアン化物錯体触媒0.2gを量り取り、系内を窒素ガスで置換した。撹拌下、100〜120℃、0.05〜0.30MPa以下の条件で、ガス吹き込み管より、プロピレンオキシド243gを16時間かけて滴下した。その後、反応槽内を100〜120℃に保ちながら、撹拌下、0.05〜0.60MPaの条件で、ガス吹き込み管より、徐々にプロピレンオキシドを投入し、全量で3270gを加圧添加した。添加終了後、100〜120℃で1時間反応させた。反応槽から2200gを抜き取り、反応槽内の残存物を100〜120℃に昇温し、0.05〜0.60MPaの条件で、ガス吹き込み管より、プロピレンオキシド1110gを2時間かけて添加した。添加終了後、100〜120℃で1時間反応させた。再度、反応槽より1044gを抜き取り、反応槽の残存物を110℃へと昇温し、0.05〜0.60MPaの条件で、ガス吹き込み管より、プロピレンオキシド312gを40分かけて添加した。添加終了後、100〜120℃で1時間反応させた後、窒素ガスを吹き込みながら13kPa以下、80℃で1時間減圧処理を行った。窒素ガスで0.05MPaまで加圧後、反応物を抜き取り、濾過を行い、表2の成分(B−1)を得た。
【0053】
(成分(B−2)の合成例)
プロピレンオキシド全添加量を4779gとした以外は、成分(B−1)と同様にして、表2に示す成分(B−2)を得た。
【0054】
(成分(B−3)の合成例)
プロピレンオキシド全添加量を4901gとした以外は、成分(B−1)と同様にして、表2に示す成分(B−3)を得た。
【0055】
(成分(B’−1)の合成例)
撹拌機、圧力計、温度計、安全弁、ガス吹き込み管、排気管、冷却用コイルおよび蒸気ジャケットを装備したステンレス製5Lの高圧反応装置に、分子量1290のポリオキシプロピレンブチルエーテル250gと水酸化カリウム5.4gを量り取り、100℃でプロピレンオキシド2322gを反応させた後、窒素ガスを吹き込みながら13kPa以下、80℃で1時間減圧処理を行った。窒素ガスで0.05MPaまで加圧後、反応物を抜き取り、塩酸で中和し、水や副生した塩を取り除いた後に、濾過を行い、本発明外の成分(B’−1)を得た。
【0056】
得られた各成分(B−1)〜(B−3)、(B’−1)について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。表2に、得られた各成分(B−1)〜(B−3)、(B’−1)の仕様と分析値を示す。なお、表2には、「PREMINOL S 1004F」(旭硝子(株)製、高分子量ポリプロピレングリコール)も示す。
【0057】
(ゲル浸透クロマトグラフィーの測定)
ゲル浸透クロマトグラフィーには、システムとしてSHODEX GPC101専用システム、示差屈折率計としてSHODEX RI−71S、ガードカラムとしてSHODEX KF−GS、カラムとしてSHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶媒としてテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流し、得られた反応物の0.1質量%テトラヒドロフラン溶液0.1mlを注入し、BROWIN GPC計算プログラムを用いて屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得た。このクロマトグラムからM
L/M
Hを求め、表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
次いで、表3に示す割合で各成分をビーカーに量り取り、撹拌羽根を使用して10分間撹拌を行い、各例のセメント用収縮低減剤を得た。
【0060】
(モルタルの製造)
セメント100質量部(セメント協会製)、細骨材(山砂、千葉産)200質量部を強制練りミキサで空練り後、水50質量部と、各例のセメント用収縮低減剤2質量部を加えて混練し、モルタルとした。単位容積質量は2,090±20g/L、モルタル温度は20±2℃であった。
表3に示す各モルタルの特性を測定し、測定結果を表4、表5に示す。
【0061】
(測定方法)
<作業性の評価>
モルタルのスランプ値およびスランプフロー値の測定は、JIS A 1171に記載の上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmのスランプコーンにモルタルを2層に分けて充填し、上面をスランプコーンの上端に合わせて均した後、直ちにスランプコーンを静かに鉛直に引き上げ、頂部の下がりをスランプ値として、モルタルの広がりが静止した時点での最大直径とそれに直交する直径を測定し、その平均値をスランプフロー値として測定した。粘性の評価は、モルタルのスランプを測定する際、スランプ値が同じでも粘性の差異によってスランプフロー値が変化するという現象をもとに行った。すなわち、モルタルスランプが同じでフローが大きくなることは、粘性が低く作業性に優れるという現象を利用し、スランプフローの(長径/2)×(短径/2)×円周率で求められるフロー面積をスランプ値で除した値で表した。この値は、粘性が低いものほど大きくなる。
【0062】
表4に、スランプ値、スランプフロー値、フロー面積をスランプ値で除した値を示す。フロー面積/スランプ値が大きいものほど、粘性が低く、作業性が良好であるとして評価した。
【0063】
<収縮低減性の評価>
収縮低減性の評価は、上記モルタルを4×4×16(cm)のゲージプラグ付き金型に充填し、養生温度20℃、材齢1日で脱型および基長の測定を行い、その後20±2℃、湿度55%RHにて気中養生し、JIS A 1129−3「モルタルおよびコンクリートの長さ変化試験(ダイヤルゲージ方法)」に準拠した長さ変化試験を実施し、収縮率が小さいものほど収縮低減性が高いものとして評価した。
【0064】
<耐凍害性の評価>
耐凍害性の評価は、上記モルタルを10×10×40(cm)の金型に充填し、養生温度20℃、材齢2日で脱型および20±2℃で14日水中養生、20±2℃で12日気中養生後、JIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験方法(水中凍結融解試験方法)」に準拠し、5±2℃から−18±2℃の温度条件で凍結融解サイクルを与え、JIS A 1127「共鳴振動によるコンクリートの動弾性係数、動せん断弾性係数及び動ポアソン比試験方法」に準拠して測定した一次共鳴振動数から、JIS A 1148に記載の相対動弾性係数を算出し、その値が低下しないものほど、耐凍害性が高いものとして評価した。
【0065】
<圧縮強度の測定>
圧縮強度の評価は、上記モルタルを4×4×16(cm)の金型に充填し、養生温度20℃、材齢1日で脱型し、その後、20±2℃で材齢28日まで水中養生後、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠した圧縮強度測定を実施した。
【0066】
収縮低減剤無添加(比較例1)の収縮率および相対動弾性係数をそれぞれ100とした場合の、無添加に対する28日収縮率および300サイクル相対動弾性係数の割合、圧縮強度測定の結果を表5に示す。収縮率が小さいものほど収縮低減性が高く、相対動弾性係数が大きいものほど、耐凍害性が高いことを示している。
【0067】
<評価基準>
・作業性: フロー面積/スランプ値;
20以上:○、 20未満:×
・収縮低減性: 無添加に対する28日収縮低減率;
70未満:◎、 70以上90未満:○、 90以上100未満:△
・耐凍害性
: 無添加に対する28日相対動弾性係数;
60以上:○、 60未満:×
・圧縮強度 : 無添加に対する圧縮強度比;
90%以上: ○、90%未満:×
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
実施例1〜6と比較例1〜5の比較により、本発明のセメント用収縮低減剤を添加したセメント組成物は、収縮率が小さく、耐凍害性および圧縮強度の低下が小さく、かつ粘性が低く作業性に優れていることがわかる。
【0072】
比較例1は、収縮低減剤無添加であり、耐凍害性は高いが、収縮低減効果は低く、乾燥ひび割れの抑制効果が低いことがわかる。
比較例2、3は、成分(B)のGPCチャートより算出したM
L/M
Hが本発明の範囲を外れており、圧縮強度の低下が大きく、フロー面積/スランプ値が小さく、粘性が高いため、作業性が低いことがわかる。
【0073】
比較例4は、成分(A)が低級アルコールアルキレンオキシド付加物であり、収縮低減効果は高いが、耐凍害性の低下が大きく、圧縮強度の低下が大きいため、耐久性が低いことがわかる。
比較例5は、AOのアルキレンオキシド炭素数が本発明の範囲を外れるため、耐凍害性の低下が大きく、圧縮強度の低下が大きいため、耐久性が低いことがわかる。