特許第6765658号(P6765658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6765658金属複合アニオン化合物の粒子を含有する押圧成形物及びその使用、並びに当該押圧成形物の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765658
(24)【登録日】2020年9月18日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】金属複合アニオン化合物の粒子を含有する押圧成形物及びその使用、並びに当該押圧成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 29/00 20060101AFI20200928BHJP
   B01J 27/08 20060101ALI20200928BHJP
   C09K 11/74 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   C01G29/00
   B01J27/08 M
   C09K11/74
【請求項の数】33
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-62541(P2018-62541)
(22)【出願日】2018年3月28日
(65)【公開番号】特開2019-172505(P2019-172505A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2019年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 直之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 竜
(72)【発明者】
【氏名】東 正信
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0212395(US,A1)
【文献】 特開2010−120800(JP,A)
【文献】 特開2011−026154(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/043586(WO,A1)
【文献】 Hironobu Kunioku et al.,Low-Temperature Synthesis of Bismuth Chalcohalides: Candidate Photovoltaic Materials with Easily, Continuously Controllable Band gap,Scientific Reports,2016年 9月 7日,6:32664,p.1-7,DOI: 10.1038/srep32664
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00− 47/00
C01G 49/10− 99/00
B01J 21/00− 38/74
C09K 11/00− 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンA、アニオンX及びアニオンYから構成される下記一般式(1):
AXY (1)
で示される金属複合アニオン化合物の粒子を含有する押圧成形物であって、
(1)前記カチオンAのうち96〜100モル%が第15族元素カチオンであり、
(2)前記アニオンXは第16族元素アニオン且つ周期表第3周期以降の元素のアニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(3)前記アニオンYは第17族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(4)前記粒子の結晶子径が28nm以上であり、
(5)前記押圧成形物の押圧方向の断面における、幅10μmの範囲の厚さの差が1μm以内であ
(6)前記押圧成形物の前記金属複合アニオン化合物の結晶構造がPDF:00−043−0652及び/又はPDF:01−075−1811であり、前記PDF:00−043−0652の場合には前記金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(002)結晶面との配向比(110)/(002)が2.0以上であり、前記PDF:01−075−1811の場合には前記金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(121)結晶面との配向比(110)/(121)が1.0以上である、
ことを特徴とする押圧成形物。
【請求項2】
前記カチオンAのうち有機分子カチオンの量が4モル%未満である、請求項1に記載の押圧成形物。
【請求項3】
前記カチオンAのうち98〜100モル%が第15族元素カチオンである、請求項1又は2に記載の押圧成形物。
【請求項4】
前記第15族元素カチオンがビスマスカチオンである、請求項1〜3のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項5】
前記アニオンXの量がアニオンの総量のうち40〜60モル%である、請求項1〜4のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項6】
前記第16族元素アニオンが硫黄アニオンである、請求項1〜のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項7】
前記アニオンYの量がアニオンの総量のうち40〜60モル%である、請求項1〜のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項8】
前記第17族元素アニオンが周期表第4周期以降の元素のアニオンである、請求項1〜のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項9】
前記第17族元素アニオンが、臭素アニオン又はヨウ素アニオンである、請求項1〜のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項10】
前記金属複合アニオン化合物がBiSBr又はBiSIである、請求項1〜のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項11】
前記粒子の結晶構造が斜方晶である、請求項1〜10のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項12】
前記粒子の結晶相が単一結晶相である、請求項1〜11のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項13】
薄膜の形態である、請求項1〜12のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項14】
前記薄膜の膜厚が0.5〜10.0μmである、請求項13に記載の押圧成形物。
【請求項15】
n型半導体である、請求項1〜14のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項16】
導電性材料と接触している、請求項1〜15のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項17】
前記導電性材料が金属である、請求項16に記載の押圧成形物。
【請求項18】
前記導電性材料が銅又はモリブデンである、請求項17に記載の押圧成形物。
【請求項19】
p型半導体と接触している、請求項1〜15のいずれかに記載の押圧成形物。
【請求項20】
前記p型半導体が無機材料である、請求項19に記載の押圧成形物。
【請求項21】
前記p型半導体がハロゲン化銅、硫化銅、酸化銅又は酸化モリブデンである、請求項19に記載の押圧成形物。
【請求項22】
前記p型半導体が有機半導体である、請求項19に記載の押圧成形物。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれかに記載の押圧成形物の、半導体材料としての使用。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれかに記載の押圧成形物の、太陽電池材料としての使用。
【請求項25】
請求項1〜22のいずれかに記載の押圧成形物の、太陽電池の光吸収層としての使用。
【請求項26】
請求項1〜22のいずれかに記載の押圧成形物の、光センサーとしての使用。
【請求項27】
請求項1〜22のいずれかに記載の押圧成形物の、発光材料としての使用。
【請求項28】
カチオンA、アニオンX及びアニオンYから構成される下記一般式(1):
AXY (1)
で示される金属複合アニオン化合物の粒子を含有する被押圧原料を無機系板材で挟持した状態で押圧成形することにより押圧成形物を製造する方法であって、
(1)前記カチオンAのうち96〜100モル%が第15族元素カチオンであり、
(2)前記アニオンXは第16族元素アニオン且つ周期表第3周期以降の元素のアニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(3)前記アニオンYは第17族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(4)0〜300℃の温度条件下、0.01Pa〜2MPaの雰囲気圧力中、0.1MPa〜20MPaの押圧圧力を1秒〜20時間印加することにより前記押圧成形を行うことにより、前記金属複合アニオン化合物の結晶構造がPDF:00−043−0652及び/又はPDF:01−075−1811であり、前記PDF:00−043−0652の場合には前記金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(002)結晶面との配向比(110)/(002)が2.0以上であり、前記PDF:01−075−1811の場合には前記金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(121)結晶面との配向比(110)/(121)が1.0以上である前記押圧成形物を得る、
ことを特徴とする押圧成形物の製造方法。
【請求項29】
請求項1〜22のいずれかに記載の押圧成形物の製造方法である、請求項28に記載の製造方法。
【請求項30】
前記温度条件が20〜200℃である、請求項28又は29に記載の製造方法。
【請求項31】
前記押圧圧力が0.6MPa〜10MPaである、請求項2830のいずれかに記載の製造方法。
【請求項32】
前記押圧圧力を印加する時間が10秒〜10時間である、請求項2831のいずれかに記載の製造方法。
【請求項33】
薄膜の形態となるように前記押圧成形を行う、請求項2832のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属複合アニオン化合物の粒子を含有する押圧成形物及びその使用、並びに当該押圧成形物の製造方法に関する。なお、当該押圧成形物は、例えば、太陽光エネルギーを電気エネルギーや化学エネルギーに変換する用途、具体的には、水を光分解することにより化学エネルギーとして水素を得る光触媒や光電極、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電極(太陽電池、光センサー等)等を構成する材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
ビスマス複合アニオン化合物(BiXY(X=第16族元素アニオン、Y=第17族元素アニオン))に代表される典型金属化合物は、
(1)可視光に応答できるバンドギャップを有する、
(2)材料を構成するハロゲン組成によってバンドギャップを調整できる、
(3)優れた半導体特性を有する可能性がある、
等の理由から有望な光エネルギー変換用光電極材料などとして注目されている。
【0003】
ビスマス複合アニオン化合物からなる緻密薄膜は、原料溶液などから直接形成(形成と同時に基材上に固定する態様を含む)する場合は、結晶化のために必要な加熱温度が当該材料の分解温度と非常に近いことなどから容易ではない。
【0004】
一方で、当該材料の粒子であれば比較的容易に調製が可能であり、しかも粒子を基材上に固定する場合は高い形態自由度を持たせることも可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Scientific Repots 2016, 6, 32664.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に示唆されている通り、典型金属化合物の粒子を原料として形成した薄膜では、薄膜中の粒子間の粒界抵抗が大きく電荷移動効率が低下して、電極などの性能向上の妨げとなることが課題となっている。
【0007】
そのため、比較的容易に調製が可能であり、しかも基材上に固定する際に高い形態自由度を持たせることが可能な、粒子を原料とした成形体の粒界抵抗を減少させる方策の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、従来技術の課題を解決するために完成されたものであり、典型金属化合物の粒子を原料として成形体を形成した場合に、粒子間の粒界抵抗を減少させる方策を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の金属複合アニオン化合物の粒子を含有する被押圧原料を押圧成形することにより押圧成形物を製造する場合においては粒子間の結着が促進され、粒子間の粒界抵抗を効果的に減少させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の金属複合アニオン化合物の粒子を含有する押圧成形物及びその使用、並びに当該押圧成形物の製造方法に関する。
1.カチオンA、アニオンX及びアニオンYから構成される下記一般式(1):
AXY (1)
で示される金属複合アニオン化合物の粒子を含有する押圧成形物であって、
(1)前記カチオンAのうち96〜100モル%が第15族元素カチオンであり、
(2)前記アニオンXは第16族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(3)前記アニオンYは第17族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(4)前記粒子の結晶子径が28nm以上であり、
(5)前記押圧成形物の押圧方向の断面における、幅10μmの範囲の厚さの差が1μm以内である、
ことを特徴とする押圧成形物。
2.前記カチオンAのうち有機分子カチオンの量が4モル%未満である、上記項1に記載の押圧成形物。
3.前記カチオンAのうち98〜100モル%が第15族元素カチオンである、上記項1又は2に記載の押圧成形物。
4.前記第15族元素カチオンがビスマスカチオンである、上記項1〜3のいずれかに記載の押圧成形物。
5.前記アニオンXの量がアニオンの総量のうち40〜60モル%である、上記項1〜4のいずれかに記載の押圧成形物。
6.前記第16族元素アニオンが周期表第3周期以降の元素のアニオンである、上記項1〜5のいずれかに記載の押圧成形物。
7.前記第16族元素アニオンが硫黄アニオンである、上記項1〜6のいずれかに記載の押圧成形物。
8.前記アニオンYの量がアニオンの総量のうち40〜60モル%である、上記項1〜7のいずれかに記載の押圧成形物。
9.前記第17族元素アニオンが周期表第4周期以降の元素のアニオンである、上記項1〜8のいずれかに記載の押圧成形物。
10.前記第17族元素アニオンが、臭素アニオン又はヨウ素アニオンである、上記項1〜9のいずれかに記載の押圧成形物。
11.前記金属複合アニオン化合物がBiOIである、上記項1〜5、8〜10のいずれかに記載の押圧成形物。
12.前記金属複合アニオン化合物がBiSBr又はBiSIである、上記項1〜10のいずれかに記載の押圧成形物。
13.前記粒子の結晶構造が斜方晶である、上記項1〜12のいずれかに記載の押圧成形物。
14.前記粒子の結晶構造がPDF:00−043−0652である、上記項12に記載の押圧成形物。
15.前記金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(002)結晶面との配向比(110)/(002)が2.0以上である、上記項14に記載の押圧成形物。
16.前記粒子の結晶構造がPDF:01−075−1811である、上記項12に記載の押圧成形物。
17.前記金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(121)結晶面との配向比(110)/(121)が1.0以上である、上記項16に記載の押圧成形物。
18.前記粒子の結晶構造がPDF:00−010−0445である、上記項11に記載の押圧成形物。
19.前記金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(200)結晶面との配向比(110)/(200)が15以上である、上記項18に記載の押圧成形物。
20.前記粒子の結晶相が単一結晶相である、上記項1〜19のいずれかに記載の押圧成形物。
21.薄膜の形態である、上記項1〜20のいずれかに記載の押圧成形物。
22.前記薄膜の膜厚が0.5〜10.0μmである、上記項21に記載の押圧成形物。
23.n型半導体である、上記項1〜22のいずれかに記載の押圧成形物。
24.導電性材料と接触している、上記項1〜23のいずれかに記載の押圧成形物。
25.前記導電性材料が金属である、上記項24に記載の押圧成形物。
26.前記導電性材料が銅又はモリブデンである、上記項25に記載の押圧成形物。
27.p型半導体と接触している、上記項1〜23のいずれかに記載の押圧成形物。
28.前記p型半導体が無機材料である、上記項27に記載の押圧成形物。
29.前記p型半導体がハロゲン化銅、硫化銅、酸化銅又は酸化モリブデンである、上記項27に記載の押圧成形物。
30.前記p型半導体が有機半導体である、上記項27に記載の押圧成形物。
31.上記項1〜30のいずれかに記載の押圧成形物の、半導体材料としての使用。
32.上記項1〜30のいずれかに記載の押圧成形物の、太陽電池材料としての使用。
33.上記項1〜30のいずれかに記載の押圧成形物の、太陽電池の光吸収層としての使用。
34.上記項1〜30のいずれかに記載の押圧成形物の、光センサーとしての使用。
35.上記項1〜30のいずれかに記載の押圧成形物の、発光材料としての使用。
36.カチオンA、アニオンX及びアニオンYから構成される下記一般式(1):
AXY (1)
で示される金属複合アニオン化合物の粒子を含有する被押圧原料を押圧成形することにより押圧成形物を製造する方法であって、
(1)前記カチオンAのうち96〜100モル%が第15族元素カチオンであり、
(2)前記アニオンXは第16族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(3)前記アニオンYは第17族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(4)0〜300℃の温度条件下、0.01Pa〜2MPaの雰囲気圧力中、0.1MPa〜20MPaの押圧圧力を1秒〜20時間印加することにより前記押圧成形を行う、
ことを特徴とする押圧成形物の製造方法。
37.上記項1〜30のいずれかに記載の押圧成形物の製造方法である、上記項36に記載の製造方法。
38.前記押圧成形は、前記被押圧原料を無機系板材で挟持した状態で行う、上記項36又は37に記載の製造方法。
39.前記温度条件が20〜200℃である、上記項36〜38のいずれかに記載の製造方法。
40.前記押圧圧力が0.6MPa〜10MPaである、上記項36〜39のいずれかに記載の製造方法。
41.前記押圧圧力を印加する時間が10秒〜10時間である、上記項36〜40のいずれかに記載の製造方法。
42.薄膜の形態となるように前記押圧成形を行う、上記項36〜41のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の押圧成形物は、特定の金属複合アニオン化合物の粒子を含有する被押圧原料の押圧成形物であり、原料粒子が調製容易であることに加えて、押圧成形物は粒子間の結着が促進されているため、押圧成形物中に含まれる粒子間の粒界抵抗が効果的に減少されている。粒子間の粒界抵抗の減少は、例えば、押圧成形物を半導体材料として用いる場合に光励起電子の移動特性の向上、光電気化学特性の向上等をもたらす。
【0012】
このような本発明の押圧成形物は、例えば、薄膜の形態であり、必要に応じて導電性材料、p型半導体等と接触する態様で、太陽光エネルギーを電気エネルギーや化学エネルギーに変換する用途、具体的には、水を光分解することにより化学エネルギーとして水素を得る光触媒や光電極、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電極(太陽電池、光センサー等)等を構成する材料として有用である。その他、磁性材料、光学材料にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】BiSI電極(ホットプレス(HP)処理前)の上面SEM像である。
図2】BiSI電極(HP処理前)の断面SEM像である。
図3】BiSI電極(HP処理後)の上面SEM像である。
図4】BiSI電極(HP処理後)の断面SEM像である。
図5】BiSI電極のHP処理前後における光電気化学特性を示す図である。
図6】BiSBr電極(HP処理前)の上面SEM像である。
図7】BiSBr電極(HP処理前)の断面SEM像である。
図8】BiSBr電極(HP処理後)の上面SEM像である。
図9】BiSBr電極(HP処理後)の断面SEM像である。
図10】BiSBr電極のHP処理前後における光電気化学特性を示す図である。
図11】BiOI電極(HP処理前)の上面SEM像である。
図12】BiOI電極(HP処理前)の断面SEM像である。
図13】BiOI電極(HP処理後)の上面SEM像である。
図14】BiOI電極(HP処理後)の断面SEM像である。
図15】光電気化学特性の測定における、光照射の方向と電子の基板までの拡散距離との関係を模式的に示す図である。
図16】BiSI電極(HP処理前後)の光照射の方向及びHP処理前後と光電気化学特性の低下率との関係を示す図である。
図17】BiSBr電極(HP処理前後)の光照射の方向及びHP処理前後と光電気化学特性の低下率との関係を示す図である。
図18】BiOI電極(HP処理前後)の光照射の方向及びHP処理前後と光電気化学特性の低下率との関係を示す図である。
図19】BiOXの結晶構造を示す模式図である(但し、図19のXは第17族元素アニオンを示す。出典:Scientific Repots 2016, 6, 32664.)。
図20】銅板裏面に転写されたBISI押圧成形物の上面写真である。
図21】銅板裏面に転写されたBISI押圧成形物の上面SEM像である。
図22】モリブデン板裏面に転写されたBISI押圧成形物の上面写真である。
図23】モリブデン板裏面に転写されたBISI押圧成形物の上面SEM像である。
図24】CuOx−Cu板裏面に転写されたBISI押圧成形物の上面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.本発明の押圧成形物
本発明の押圧成形物は、カチオンA、アニオンX及びアニオンYから構成される下記一般式(1):
AXY (1)
で示される金属複合アニオン化合物の粒子を含有する押圧成形物であって、
(1)前記カチオンAのうち96〜100モル%が第15族元素カチオンであり、
(2)前記アニオンXは第16族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(3)前記アニオンYは第17族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(4)前記粒子の結晶子径が28nm以上であり、
(5)前記押圧成形物の押圧方向の断面における、幅10μmの範囲の厚さの差が1μm以内である、
ことを特徴とする。
【0015】
上記特徴を有する本発明の押圧成形物は、特定の金属複合アニオン化合物の粒子を含有する被押圧原料の押圧成形物であり、原料粒子が調製容易であることに加えて、押圧成形物は粒子間の結着が促進されているため、押圧成形物中に含まれる粒子間の粒界抵抗が効果的に減少されている。粒子間の粒界抵抗の減少は、例えば、押圧成形物を半導体材料として用いる場合に光励起電子の移動特性の向上、光電気化学特性の向上等をもたらす。
【0016】
なお、上記「光電気化学特性の向上」とは、例えば、後述の電解液中での電位−電流曲線における光照射時の光電流密度の増加などにより評価できる。また、「光励起電子の移動特性の向上」とは、例えば、後述の押圧成形物を透明電極上に固定し、この透明電極側から光照射した場合と押圧成形物側から光照射した場合との光電気化学特性の比較などから評価できる。光電気化学特性、又は光励起電子の移動特性の向上から粒界抵抗の減少が観測されることが好ましく、光電気化学特性、及び光励起電子の移動特性の向上から粒界抵抗の減少が観測されることがさらに好ましい。また、上記「粒子間の粒界抵抗の減少」とは、例えば、薄膜から構成される電極の場合、基板近傍から対岸の材料表面へのマクロスケール範囲の効果と、主に基板近傍で観測されるミクロスケールのものとの両方などを意味する。
【0017】
発明者らは、特段に理論に拘束されることを欲さないが、上記「粒界抵抗の減少」は、例えば下記のようなメカニズムにより生じると推測する。
【0018】
つまり、AXY(カチオンAのうち96〜100モル%が第15族元素カチオン、アニオンXは第16族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%、アニオンYは第17族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%)で示される金属複合アニオン化合物の粒子を含有する被押圧原料を押圧成形することによって、押圧成形物中の粒子のパッキング(例えば、単位体積中の粒子の密度など)の向上、粒子の結晶構造の変化(例えば、結晶配向の変化など)等が生じ、その結果、粒子間の粒界抵抗が減少すると推測する。
【0019】
例えば、押圧成形物中の粒子のパッキングの変化は、結晶配向の変化や、押圧前後の成形体の形態の変化により観測される。前記成形体の形態の変化は、具体的には、押圧成形処理を施した表面の平坦化、成形体の断面図などであり、電子顕微鏡(例えば、SEMなど)などで観測することもできる。また、結晶構造の変化は、XRDなどにより評価することができ、特定の配向面((001)面、(200)面等)についての回折ピークの比から、配向性の変化を評価することができる。
【0020】
このような本発明の押圧成形物は、例えば、薄膜の形態であり、必要に応じて導電性材料、p型半導体等と接触する態様で、太陽光エネルギーを電気エネルギーや化学エネルギーに変換する用途、具体的には、水を光分解することにより化学エネルギーとして水素を得る光触媒や光電極、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電極(太陽電池、光センサー等)等を構成する材料として有用である。その他、磁性材料、光学材料にも適用することができる。
【0021】
本発明の押圧成形物に含まれる金属複合アニオン化合物の粒子は、カチオンA、アニオンX及びアニオンYから構成される下記一般式(1):
AXY (1)
で示される化合物である。
【0022】
上記カチオンAは、その96〜100モル%が第15族元素カチオンであり、その中でも第15族元素カチオンの含有量は98〜100モル%が好ましく、99〜100モル%がより好ましい。第15族元素カチオンとしては限定的ではないが、例えば、ビスマス(Bi)カチオン、アンチモン(Sb)カチオン等が挙げられ、この中でもビスマスカチオンが好ましい。ビスマスカチオンは、第15族元素カチオンの中でも低融点、低硬度であるため押圧成形により粒子間の結着を促進し易く、粒子間の粒界抵抗を減少させ易いと考えられ、特に人体への害が少ない観点からも好ましい。
【0023】
上記カチオンAは、第15族元素カチオン以外に有機分子カチオンを含有していてもよいが、耐熱性などの安定性の観点から、有機分子カチオンの含有量は4モル%未満であることが好ましく、その中でも3モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましく、0.1モル%以下がさらに好ましく、0.01モル%以下が最も好ましい。有機分子カチオン含有量は、例えばTG−MASなどにより測定することができる。
【0024】
上記アニオンXは第16族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%である。その中でも、アニオンXの量はアニオンの総量のうち40〜60モル%であることが好ましい。
【0025】
第16族元素アニオンとしては限定的ではなく、酸素(O)アニオン、硫黄(S)アニオン、セレン(Se)アニオン、テルル(Te)アニオン等が挙げられる。この中でも共有結合性が高く、且つ比較的大きなイオン半径を有するため押圧成形により粒子間の結着を促進し易く、粒子間の粒界抵抗を減少させ易い観点から、新IUPACの周期表における第3周期以降の元素のアニオンであることが好ましい。例えば、硫黄アニオン、セレンアニオン、テルルアニオン等が好ましく、この中でも、人体への害が少ない観点から、硫黄アニオン、セレンアニオンがより好ましく、硫黄アニオンが最も好ましい。
【0026】
上記アニオンYは第17族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%である。その中でも、アニオンYの量はアニオンの総量のうち40〜60モル%であることが好ましい。
【0027】
第17族元素アニオンとしては限定的ではないが、新IUPACの周期表における第4周期以降の元素のアニオンであることが好ましく、例えば、臭素(Br)アニオン、ヨウ素(I)アニオン等が挙げられ、この中でもヨウ素アニオンがより好ましい。
【0028】
上記金属複合アニオン化合物の粒子の結晶子径は28nm以上であればよい。押出成形体の欠陥を少なくすることに有利である観点から、上記金属複合アニオン化合物の粒子の結晶子径は40nm以上であることが好ましい。また、緻密に押出成形体を形成することに有利である観点から、1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。
【0029】
また、粒子の結晶構造は斜方晶であることが好ましく、PDF:00−043−0652、01−075−1811、00−010−0445のいずれかであることが好ましい。更に、粒子の結晶相は単一結晶相であることが好ましい。
【0030】
より詳細には、粒子の結晶構造が上記PDF:00−043−0652の場合には、金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(002)結晶面との配向比(110)/(002)が2.0以上であることが好ましく、2.2以上であることがより好ましく、2.4以上であることがさらに好ましい。上記PDF:01−075−1811の場合には、金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(121)結晶面との配向比(110)/(121)が1.0以上であることが好ましい。また、上記PDF:00−010−0445の場合には、金属複合アニオン化合物の(110)結晶面と(200)結晶面との配向比(110)/(200)が15以上であることが好ましく、18以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましい。なお、PDF:00−043−0652の場合にはBiSIが、PDF:01−075−1811の場合にはBiSBrが、PDF:00−010−0445の場合にはBiOIがそれぞれ代表的なものとして該当するが、これらに限定されるものではない。
【0031】
押圧成形によりa−b軸配向性が強くなることが有利である観点では、上記の中でもPDF:00−043−0652又は01−075−1811が好ましい。a−b軸配向性が強くなることによって、例えば、導電性材料と本発明の押圧成形物が接触している場合に、押圧成形物中のAカチオンと第16族元素アニオンとのユニットによる導電性材料への接続が形成し易くなり、Bi−第16族元素アニオンユニットからハロゲンアニオンへの電子の移動よりも、Bi−第16族元素アニオンユニット内での電子移動の方が有利である可能性があるため、電子や正孔の導電性材料への拡散が有利になり、粒子間の粒界抵抗を減少、及び/又は電子の取り出し効率が向上する効果を奏する。具体的には、光電気化学特性を向上できる、及び/又は、光励起電子の移動特性を向上できるなどの効果を奏する。
【0032】
押圧成形によりc軸配向性が強くなることが有利である観点では、上記の中でもPDF:00−010−0445が好ましい。PDF:00−010−0445材料のc軸配向性が強くなることは、押圧成形物のパッキングをより密にすることに有利になるため、光励起電子の移動特性を向上させることに有利になる。また、基材上に押圧成形物が設けられている場合に、押圧成形物中のAカチオンとXアニオンとのユニットが基材と水平方向に連続して存在し易くなるため、基材との水平方向への電子及び/又は正孔の拡散に有利となる。そのため、電子及び/又は正孔の閉じ込めに優れるようになり、発光材料などに好適に利用できる。
【0033】
上記金属複合アニオン化合物としては、具体的に、BiOI、BiSI、BiSeI、BiOBr、BiSBr、BiSeBr、BiOCl、BiSCl、BiSeCl等の少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、BiOI、BiSI、BiOBr、BiSBr等の少なくとも一種が好ましく、BiSI及びBiSBrの少なくとも一種が最も好ましい。これらの金属複合アニオン化合物の粒子は、例えば、公知のスプレーパイロリシス法、気相成長法、水溶媒又は有機溶媒中でのソルボサーマル法等により合成することができる。
【0034】
また、上記金属複合アニオン化合物の粒子の大きさは限定的ではないが、平均粒子径は0.01〜10μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。なお、本明細書における平均粒子径は、SEMによる観察により測定した値である。
【0035】
本発明の押圧成形物は、その表面が平坦化されていることが好ましく、押圧成形物の押圧方向の断面における、幅10μmの範囲の厚さの差が1μm以内である。この中でも当該厚さの差は500nm以内が好ましく、200nm以内がより好ましく、100nm以内が更に好ましい。なお、本明細書における当該厚さの差は、SEM観察により測定した値である。
【0036】
本発明の押圧成形物は、所定の金属複合アニオン化合物の粒子を含有する原料(被押圧原料)を押圧成形したものであれば形態は限定的ではないが、光電極などの各用途に適用することを考慮すると薄膜の形態であることが好ましい。薄膜の膜厚は、0.5〜10.0μmが好ましく、その中でも0.9〜8.0μmがより好ましい。なお、本明細書における薄膜の膜厚は断面SEM観察により測定した値である。
【0037】
本発明の押圧成形物は、押圧成形によりa−b軸配向性が強くなることに有利である観点では、特に金属複合アニオン化合物の粒子がBiSI又はBiSBrであることが好ましい。a−b軸配向性が強くなることによって、例えば、導電性材料と本発明の押圧成形物が接触している場合に、押圧成形物中のビスマスカチオンと硫黄アニオンとのユニットによる導電性材料への接続が形成し易くなり、Bi−第16族元素アニオンユニットからハロゲンアニオンへの電子の移動よりも、Bi−第16族元素アニオンユニット内での電子移動の方が有利である可能性があり、電子や正孔の基板方向への拡散が有利になり、粒子間の粒界抵抗を減少、及び/又は電子の取り出し効率が向上する効果を奏する。具体的には、光電気化学特性を向上できる、及び/又は、光励起電子の移動特性を向上できるなどの効果を奏する。
【0038】
押圧成形によりc軸配向性が強くなることに有利である観点では、BiOIが好ましい。BiOI材料のc軸配向が強くなることは、押圧成形物のパッキングをより密にすることに有利になるため、光励起電子の移動特性の向上させることに有利になる。また、基材上に押圧成形物が設けられている場合に、押圧成形物中のビスマスカチオンと酸素アニオンとのユニットが基材と水平方向に連続して存在し易くなるため、基材との水平方向への電子又は正孔の拡散に有利となる。
【0039】
本発明の押圧成形物の用途は限定的ではないが、押圧成形物において金属複合アニオン化合物の粒子間の結着が促進されているため、押圧成形物中に含まれる粒子間の粒界抵抗が効果的に減少されている。よって、半導体材料(n型半導体)として利用することが好ましい。なお、半導体材料とは、価電子帯上端と伝導帯下端とのエネルギー差を有する材料などが挙げられる。
【0040】
本発明の押圧成形物は、他の用途に用いることもできる。具体的には、電子又は正孔又はイオンを伝導する材料や、光吸収による光励起キャリアの生成を利用する材料、及びその再結合による発光を利用する材料などであり、より具体的には、太陽電池材料用、太陽電池の光吸収層用、光センサー用、光触媒用等の材料、更に発光材料、イオン伝導材料、導電性材料、圧電素子、パワーデバイスなどである。なお、イオンとは、各材料を構成するカチオン又はアニオンのことを指す。これらの用途の中でも、本発明の押圧成形物は、太陽光に含まれる光子のエネルギーを利用できる観点から、太陽電池の光吸収層用の化合物であることが好ましい。さらに、特定波長の光を利用できる観点から、光センサーとして利用することが好ましい。
【0041】
本発明の押圧成形物は、優れた光吸収特性を有するため、太陽電池セル(特に光吸収層に本発明の押圧成形物を用いた太陽電池セル)として適用することが好ましく、更に、光電流密度、開放電圧、フィルファクターの少なくとも一つを向上させることで、より太陽光変換効率を向上させることができる。
【0042】
本発明の押圧成形物は、キャリア移動の異方性に優れる観点から、電子輸送材(いわゆる導電性材料)と接触していることが好ましい。ここでいう電子輸送材とは、電子の有効質量の方が、正孔のものよりも小さい半導体などであり、電子の輸送に有利な材料などである。本発明の押圧成形物が薄膜のとき、接触面積を大きくすることで電子の移動に有利となる観点から、接触している電子輸送材も薄膜であることが好ましい。
【0043】
電子輸送材には、有機物や無機物を含む態様が挙げられるが、強度が高いことで、本発明の押圧成形物と合わせた強度が高くなる観点から、電子輸送材は無機物を含むことが好ましく、物性の調整が比較的容易である観点から、金属化合物であることがより好ましい。大気中で比較的容易に製造、及び保存できる観点から、電子輸送材は金属酸化物であることがさらに好ましい。
【0044】
金属酸化物の具体例としては、以下に限定されないが、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化銅、酸化モリブデンなどを挙げることができ、電子の有効質量が小さい観点から、酸化チタン及び酸化ニオブが好ましく、材料が豊富で安価である観点から、酸化チタンが好ましく、金属複合アニオン化合物に対し緻密に積層できる観点から、酸化銅、酸化モリブデンが好ましい。電子輸送材のピンホールなどの欠陥を少なくする観点から、電子輸送材に、前駆体材料を吸着、反応させる処理を施すことが好ましい。具体的には、塩化チタン種を電子輸送材に吸着後、加水分解させ酸化チタンを結着させる処理(TiCl処理)を施すことが好ましい。
【0045】
本発明の押圧成形物は、キャリア移動の異方性に優れる観点から、正孔輸送材(いわゆるp型半導体)と接触していることが好ましい。ここでいう正孔輸送材とは、正孔の有効質量の方が電子のものよりも小さい半導体などであり、正孔の輸送に有利な材料などである。本発明の押圧成形物が薄膜のとき、接触面積を大きくすることで電子の移動に有利となる観点から、接触している正孔輸送材も薄膜であることが好ましい。正孔輸送材は、有機物や無機物を含むことが挙げられるが、材料が柔らかいことで、曲りによる膜の欠陥を形成しにくくなる観点から、正孔輸送材は有機物を含むことが好ましく、有機物の具体例としては、有機分子の集合体や、有機高分子が挙げられる。より具体的には、Spiro−OMeTAD、P3HT、PTAA、TPD、NPD、TCTAなどが挙げられ、キャリア密度を高くでき、正孔の輸送に有利とできることや、起電圧を大きくできる観点から、Spiro−OMeTADが好ましい。Spiro−OMeTADはLiTFSIや酸化材を混合するなどして、ドープ処理を施したものが、導電性に優れる観点から好ましい。
【0046】
2.本発明の押圧成形物の製造方法
本発明の押圧成形物の製造方法は、カチオンA、アニオンX及びアニオンYから構成される下記一般式(1):
AXY (1)
で示される金属複合アニオン化合物の粒子を含有する被押圧原料を押圧成形することにより押圧成形物を製造する方法であって、
(1)前記カチオンAのうち96〜100モル%が第15族元素カチオンであり、
(2)前記アニオンXは第16族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(3)前記アニオンYは第17族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(4)0〜300℃の温度条件下、0.01Pa〜2MPaの雰囲気圧力中、0.1MPa〜20MPaの押圧圧力を1秒〜20時間印加することにより前記押圧成形を行う、
ことを特徴とする。
【0047】
上記本発明の押圧成形物の製造方法は、前述した一般式(1)で示される金属複合アニオン化合物の粒子を原料(被押圧原料)として使用し、それを上記(4)に規定する特定の押圧条件下で押圧成形することを特徴とする。金属複合アニオン化合物の粒子の説明については前述と同じであるためここでは省略する。
【0048】
本発明の押圧成形物の製造方法における押圧条件は、0〜300℃の温度条件下、0.01Pa〜2MPaの雰囲気圧力中、0.1MPa〜20MPaの押圧圧力を1秒〜20時間印加することにより被押圧原料を押圧成形するものであればよい。
【0049】
その中でも、温度条件は20〜200℃が好ましく、雰囲気圧力条件は0.1Pa〜1MPaが好ましく、大気圧がより好ましい。また、押圧圧力条件は0.6〜10MPaが好ましく、2〜8MPaがより好ましい。押圧圧力を印加する時間条件は10秒〜10時間が好ましく、1分以上5時間以内がより好ましい。なお、上記雰囲気圧力は、絶対圧として記載されている。本発明では特に温度条件は0〜300℃の範囲から比較的低温(50℃程度まで)の条件を採用することもできるため、プラスチック基材などの高温処理を回避すべき可撓性基材上に押圧成形物を形成する用途にも適用することができる。
【0050】
なお、押圧成形は公知のプレス機(例えば、公知のホットプレス機)を用いて行うことができるが、被押圧原料を無機系板材で挟持した状態で押圧成形することが好ましい。例えば、電極などを作製する場合には、FTO基材のような無機系板材に被押圧原料を電気泳動法、ペースト(スラリー)塗付乾燥法、スクリーン印刷法等の公知の方法により堆積させ、その上に更に石英板などの無機系板材を置いて被押圧原料を無機系板材で挟持した状態で押圧成形する態様が挙げられる。
【0051】
なお、押圧成形する際に、上記のようにFTO基材上に押圧成形物を形成する場合は、石英板などの無機系板材を置いて被押圧原料を押圧成形すればよいが、被押圧原料と石英板との間に銅板(酸化銅を含んでもよい)、モリブデン板(酸化モリブデンを含んでもよい)等の特定の金属板(導電性材料となり得る金属板)を挟みこんで共に押圧処理する、又は石英板などを設置せずに、無機系板材として銅板(酸化銅を含んでもよい)、モリブデン板(酸化モリブデンを含んでもよい)等の特定の金属板(導電性材料となり得る金属板)を被押圧原料に接触させることにより押圧成形物を当該金属板の方に転写させて、本発明の押圧成形物と導電性材料との積層体を押圧成形及び転写により同時に作製することができる。よって、本明細書における無機系板材には、石英板などの押圧手段のみとしての無機系板材と、押圧手段且つ導電性材料となり得る、押圧時に転写により押圧成形物との積層体を同時に作製可能な金属板(銅板、モリブデン板等)の両方が包含されている。
【0052】
また、前記転写時に押圧成形物に緻密に接触した、半導体材料、例えば、p型半導体材料などの酸化銅、硫化銅、又は酸化モリブデンを形成することができ、ヘテロ接合による電荷分離に有利とすることができる。押圧成形物を緻密に転写できる観点から、銅板(酸化銅を含んでもよい)、モリブデン板(酸化モリブデンを含んでもよい)が好ましく、銅板(酸化銅を含んでもよい)が最も好ましい。また、この転写は、緻密に転写できる観点から、金属複合アニオン化合物はBiSI,BiSBr,BiOIが好ましく、BiSI,BiSBrがより好ましく、BiSIが最も好ましい。
【0053】
このように無機系板材で挟持した状態で押圧成形することにより、粒子間の結着を促進し粒子間の粒界抵抗を効果的に減少させることができ、押圧成形物を例えば半導体材料として用いる場合には光励起電子の移動特性の向上、光電気化学特性の向上等の効果が得られる。他方、金属複合アニオン化合物によりも硬度の小さいテフロン(登録商標)シートのような樹脂シートで挟持した状態で押圧成形する場合には、押圧成形後に樹脂シートを除去する際に同時に金属複合アニオン化合物の粒子が剥離するおそれがあるため好ましくない。よって、上記無機系板材は、金属複合アニオン化合物によりも硬度の大きいそれ自体が可撓性を有さない板材であることが好ましい。また、本発明では石英板などで押圧成形することにより、例えばFTO基材などに電気泳動法などにより金属複合アニオン化合物の粒子を堆積した場合と比較して、粒子とFTO基材などとの密着性を高めることもできる。
【0054】
押圧成形は、押圧成形により得られる押圧成形物の形態に応じて、押圧成形条件を適宜調整すればよく、最終的な押圧成形物に高い形態自由度を持たせることができる。例えば、押圧成形物を電極などの用途に適用する場合は、薄膜の形態となるように押圧成形を行うことが好ましい。その場合には、押圧成形物(薄膜)の膜厚が0.5〜10.0μm程度、特に0.9〜8.0μmとなるように押圧成形すればよい。
【実施例】
【0055】
以下、試験例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は試験例に限定されない。
【0056】
実施例で用いる金属複合アニオン化合物(BiOI粒子、BiSBr粒子及びBiSI粒子)は以下の手順により調製した。
<BiOI粒子>
3mmolのBi(NO)・5HOを2.5mLのCHCOOHに溶解した。
【0057】
また、3mmolのNaIと6mmolのCHCOONaとを37.5mLのHOに溶解した。次いで、両溶液を混合して20分撹拌した。
【0058】
次いで、遠心分離による溶媒除去及び水洗を3回繰り返した。
【0059】
これにより、単一相のBiOI粒子を調製した。XRDにより、このBiOI粒子の平均粒子径は0.2μmであり、粒子の結晶子径は56nmであった。
<BiSI粒子>
上記BiOI粒子に対して60mL/分のHS気流下で150℃、1時間かけて硫化を行った。これにより、単一相のBiSI粒子を調製した。このBiSI粒子の平均粒子径は0.2μmであり、粒子の結晶子径は70nmであった。
<BiSBr粒子>
3mmolのBi(NO)・5HOを2.5mLのCHCOOHに溶解した。
【0060】
また、3mmolのNaBrと6mmolのCHCOONaとを37.5mLのHOに溶解した。次いで、両溶液を混合して20分撹拌した。
【0061】
次いで、遠心分離による溶媒除去及び水洗を3回繰り返した。これにより、BiOBr粒子を調製した。
【0062】
上記BiOBr粒子に対して60mL/分のHS気流下で150℃、1時間かけて硫化を行った。これにより単一相のBiSBr粒子を調製した。このBiSBr粒子の平均粒子径は0.2μmであり、粒子の結晶子径は78nmであった。
【0063】
試験例1(BiSI/FTO電極の作製とその特性評価)
(BiSI/FTO電極(ホットプレス(HP)処理前)の作製)
旭硝子製FTO基板(25mm×25mm×2mm)を準備した。
【0064】
次いで10mg/mlのBiSI粒子の2−プロパノール溶液を超音波処理により懸濁させた懸濁液を準備した。
【0065】
次いで、上記懸濁液200mlをFTO基板に滴下して乾燥させた。この滴下及び乾燥処理は3回繰り返した。
【0066】
次いで、FTO基板の露出部分を確保するために乾燥綿棒で粒子を除去した(9mm×25mm)。また、粒子を除去した部分を薄塩酸付綿棒でふき取った。
【0067】
次いで、50℃のホットプレートで20分加熱することにより、BiSI/FTO電極(HP処理前)を作製した。
【0068】
BiSI/FTO電極(HP処理前)の上面SEM像を図1に示す。また、同電極の断面SEM像を図2に示す。
(BiSI/FTO電極(HP処理後)の作製)
次いで、BiSI/FTO電極(HP処理前)上に石英板(25mm×25mm×2mm)を設置し、ホットプレス装置(SINTO製)にて温度50℃、雰囲気圧力大気圧、押圧圧力5MPa、押圧時間20分の条件で押圧成形した。これにより、BiSI/FTO電極(HP処理後)を作製した。
【0069】
BiSI/FTO電極(HP処理後)の上面SEM像を図3に示す。また、同電極の断面SEM像を図4に示す。
(BiSI/FTO電極(HP処理前後)の結晶構造)
HP処理前及び処理後の電極のXRD測定の結果、BiSIの結晶子径は、粒子のものと同じ70nmであった。また、この(110)面/(002)面の回折ピーク比は、HP処理により、1.9から2.4に増加し、a−b軸配向になったことが示された。
(BiSI/FTO電極(HP処理前後)の光電気化学特性)
次いで、BiSI/FTO電極(HP処理前後)について、下記に示す条件下で光電気化学特性を調べた。
・電解液:0.1M NaI/アセトニトリル
・走査速度:50mV/s
・電極面積:4cm
・光源:ソーラーシミュレータ(100mW/cm)1秒毎に間欠照射
光電気化学特性の測定結果を図5に示す。
(BiSI/FTO電極(HP処理前後)の光電気化学特性の光照射方向依存性)
光電気化学特性を調べるに際して、図15に模式的に示される通り、光が照射された側の近傍で多く光が吸収されるため、BiSI側から光照射する場合(Front Side)は基板側から光照射する場合(Back Side)と比べて、生成する多くの光励起電子の基板までの拡散距離が増加する。つまり、Front Sideから光照射する場合には光電気化学特性が低下する。
【0070】
そのため、HP処理後における上記低下率を比較することにより、光励起電子の移動特性について、HP処理による効果を評価することができる。つまり、HP処理前後で上記低下率が減少していれば、材料中でより効率的に電子の移動が行われていることを示しており、HP処理によって光励起電子の移動特性が向上していると評価することができる。
【0071】
光電気化学特性の光照射方向依存性の測定結果を図16及び下記表1に示す。
(考 察)
図1図3との結果から明らかな通り、HP処理前ではBiSI粒子はその粒子形状を保ったままFTO電極上に堆積されているが、HP処理後は堆積物(被押圧原料)の一部が平坦化し、平坦化部分ではSEM像で粒子の粒界が見えない程度にBiSI粒子どうしが結着していた。なお、EDX測定により平坦化部分は平坦化する前と比べて組成変化がないことを確認した。また、図2図4との結果から明らかな通り、HP処理前はBiSI粒子はFTO基板上に粗く堆積(堆積層の膜厚は5〜10μm)しているが、HP処理後は堆積層が平坦化して膜厚が3〜4μmに減少していた。図4からは、押圧成形物の押圧方向の断面における、幅10μmの範囲の厚さの差が1μm以内であることが分かった。また、XRDの結果により、HP処理によって、a−b軸配向になり、BiSI中のBi−Sユニットが基板へ接合しやすくなるように配向したことが示された。
【0072】
図5のHP処理前後の電極に基板側から光照射した際の光電気化学特性の測定結果から明らかな通り、BiSI/FTO電極(HP処理後)は、BiSI/FTO電極(HP処理前)と比較して、光アノード電流が増大(例えば、0.3V vs.Ag/AgClにおいて約3〜4倍)することが明確に示されており、HP処理により粒子間の結着を促進しながら平坦化でき、粒子間の粒界抵抗を効果的に減少させることができたことが分かった。
【0073】
また、図16の光電気化学特性の光照射方向依存性の測定結果によれば、下記表1に示されるようにHP処理前後において光電流密度比率が約2倍に増大しており、HP処理により光励起電子の移動特性が向上したことが分かった。
【0074】
【表1】
【0075】
試験例2(BiSBr/FTO電極の作製とその特性評価)
試験例1において、BiSI粒子をBiSBr粒子に換えた以外は試験例1と同様にしてBiSBr/FTO電極(HP処理前)及びBiSBr/FTO電極(HP処理後)を作製した。
【0076】
HP処理前及び処理後の電極のXRD測定の結果、BiSBrの結晶子径は、粒子のものと同じ78nmであった。また、この(110)面/(121)面の回折ピーク比は、HP処理により、0.9から1.0に増加し、a−b軸配向になったことが示された。
【0077】
BiSBr/FTO電極(HP処理前)の上面SEM像を図6に示す。また、同電極の断面SEM像を図7に示す。
【0078】
BiSBr/FTO電極(HP処理後)の上面SEM像を図8に示す。また、同電極の断面SEM像を図9に示す。
【0079】
また、試験例1と同様に、BiSBr/FTO電極(HP処理前後)の光電気化学特性を調べた。その測定結果を図10に示す。
【0080】
また、試験例1と同様に、BiSBr/FTO電極(HP処理前後)の光電気化学特性の光照射方向依存性を調べた。その測定結果を図17及び下記表2に示す。
(考 察)
図6図8との結果から明らかな通り、HP処理前ではBiSBr粒子はその粒子形状を保ったままFTO電極上に堆積されているが、HP処理後は堆積物(被押圧原料)の一部が平坦化し、平坦化部分ではSEM像で粒子の粒界が見えない程度にBiSBr粒子どうしが結着していた。なお、EDX測定により平坦化部分は平坦化する前と比べて組成変化がないことを確認した。また、図7図9との結果から明らかな通り、HP処理前はBiSBr粒子はFTO基板上に粗く堆積(堆積層の膜厚は4〜6μm)しているが、HP処理後は堆積層が平坦化して膜厚が2〜3μmに減少していた。図9からは、押圧成形物の押圧方向の断面における、幅10μmの範囲の厚さの差が1μm以内であることが分かった。また、XRDの結果により、HP処理によって、a−b軸配向になり、BiSBr中のBi−Sユニットが基板へ接合しやすくなるように配向したことが示された。
【0081】
図10のHP処理前後の電極に基板側から光照射した際の光電気化学特性の測定結果から明らかな通り、BiSBr/FTO電極(HP処理後)は、BiSBr/FTO電極(HP処理前)と比較して、光アノード電流が増大(例えば、0.3V vs.Ag/AgClにおいて約2倍)することが明確に示されており、HP処理により粒子間の結着を促進しながら平坦化でき、粒子間の粒界抵抗を効果的に減少させることができたことが分かった。
【0082】
また、図17の光電気化学特性の光照射方向依存性の測定結果によれば、下記表2に示されるようにHP処理前後において光電流密度比率が約2倍に増大しており、HP処理により光励起電子の移動特性が向上したことが分かった。
【0083】
【表2】
【0084】
試験例3(BiOI/FTO電極の作製とその特性評価)
試験例1において、BiSI粒子をBiOI粒子に換えた以外は試験例1と同様にしてBiOI/FTO電極(HP処理前)及びBiOI/FTO電極(HP処理後)を作製した。
【0085】
HP処理前及び処理後の電極のXRD測定の結果、BiOIの結晶子径は、粒子のものと同じ56nmであった。また、この(001)面/(200)面の回折ピーク比は、HP処理により、11から21に増加し、c軸配向になったことが示された。
【0086】
BiOI/FTO電極(HP処理前)の上面SEM像を図11に示す。また、同電極の断面SEM像を図12に示す。
【0087】
BiOI/FTO電極(HP処理後)の上面SEM像を図13に示す。また、同電極の断面SEM像を図14に示す。
【0088】
また、試験例1と同様に、BiOI/FTO電極(HP処理前後)の光電気化学特性を調べた(図なし)。
【0089】
また、試験例1と同様に、BiOI/FTO電極(HP処理前後)の光電気化学特性の光照射方向依存性を調べた。その測定結果を図18及び下記表3に示す。
(考 察)
図11図13との結果から明らかな通り、HP処理前ではBiOI粒子はその粒子形状を保ったままFTO電極上に堆積されているが、HP処理後は堆積物(被押圧原料)の一部が平坦化し、平坦化部分ではSEM像で粒子の粒界が見えない程度にBiOI粒子どうしが結着していた。なお、EDX測定により平坦化部分は平坦化する前と比べて組成変化がないことを確認した。また、図12図14との結果から明らかな通り、HP処理前はBiOI粒子はFTO基板上に粗く堆積(堆積層の膜厚は4〜7μm)しているが、HP処理後は堆積層が平坦化して膜厚が4〜5μmに減少していた。図14からは、押圧成形物の押圧方向の断面における、幅10μmの範囲の厚さの差が1μm以内であることが分かった。また、XRDの結果により、HP処理によって、c軸配向になり、BiSBr中のBi−Oユニットが基板に水平に広がりやすくなるように配向したことが示された。
【0090】
BiOI/FTO電極(HP処理前後)の光電気化学特性を調べたが、HP処理前後で優位差が認められなかった(図なし)。しかしながら、図18の光電気化学特性の光照射方向依存性の測定結果によれば、下記表3に示されるようにHP処理前後において光電流密度比率が約2倍に増大しており、HP処理により光励起電子の移動特性が向上したことが分かった。
【0091】
【表3】
【0092】
(試験例1〜3の比較と考察)
試験例における粒界抵抗の減少は、光電気化学特性の向上、及び/又は光励起電子の移動特性の向上などから評価できるため、試験例1〜3は全て粒界抵抗の減少の効果を示している。その中でも、試験例1,2のBiSI、BiSBrでは、光電気化学特性の向上、及び光励起電子の移動特性の向上が観測されたが、試験例3のBiOIでは、光励起電子の移動特性の向上のみが顕著に観測された。
【0093】
試験例における光励起電子の移動特性の評価は、電極中を構成する薄膜の、基板近傍から対岸の材料表面までのマクロスケールの光励起電子の移動特性を主に反映すると考える。そのため、試験例1〜3では、SEMなどからも観測されるように、粒子のパッキングなどが向上されたために、マクロスケールの光励起電子の移動特性が向上し、これが観測されたと考えられる。
【0094】
一方、光電気化学特性の評価は、基板側から光照射を行っているために、多くの光子がそれぞれの金属複合アニオン化合物の基板近傍で吸収され、基板近傍の比較的ミクロスケールの物性が反映されることが考えられる。そして、この比較的ミクロスケールの特性は、材料の緻密な結着や、材料の配向などに大きく影響を受ける可能性がある。試験例1,2では、HP処理により材料の緻密な結着がみられ、ミクロスケールでの電子移動がより有利になったことがわかり、これにより光電気化学特性の向上がみられたことが理由の一つとして考えられる。また、材料の配向の観点からは、試験例1,2では、HP処理によりa−b軸配向になり、Bi−第16族元素アニオンユニットが基板に接合を形成しやすくなるように配向し、一方、試験例3では、c軸配向になり、Bi−第16族元素アニオンが基板に水平になりやすく配向した。Bi−第16族元素アニオンユニットからハロゲンアニオンへの電子の移動よりも、Bi−第16族元素アニオンユニット内での電子移動の方が有利である可能性があり、このため、HP処理を施すことでa−b軸配向となった試験例1,2では、光電気化学特性の向上が観測されたと考えられる。参考のため、図19にBiOX(但し、図19のXは第17族元素アニオンを示す)の結晶構造を示す。また、この際、c軸配向となった試験例3では、電子及び/正孔の閉じ込めに有利となり、発光材料に好適に利用できることが示唆される。
【0095】
試験例4(BiSI押圧成形物を光吸収層とした太陽電池セルの作製とその特性評価)
旭硝子製FTO基板(25mm×25mm×2mm)を準備した。
【0096】
次いで10mg/mlのBiSI粒子の2−プロパノール溶液を超音波処理により懸濁させた懸濁液を準備した。
【0097】
次いで、上記懸濁液200mlをFTO基板に滴下して乾燥させた。この滴下及び乾燥処理は3回繰り返した。これによりBiSI堆積層を形成した。
【0098】
次いで、50℃のホットプレートで20分加熱した後、BiSI堆積層に石英板(25mm×25mm×2mm)を設置し、ホットプレス装置(SINTO製)にて温度120℃、雰囲気圧力大気圧、押圧圧力5MPa、押圧時間20分の条件で押圧成形した。これにより、FTO基板上にBiSI押圧成形物からなる光吸収層(厚さ3〜4μm)を形成した。
【0099】
次いで、光吸収層上に正孔輸送層(厚さ0.2μm)として有機高分子(Spiro−OMeTAD)をスピンコートにより形成し、次いで正孔輸送層上に蒸着によりAu電極(厚さ0.1μm)を形成することにより太陽電池セルを作製した。
【0100】
作製した太陽電池セルについて、下記に示す条件下で太陽光変換効率を調べた。
・照射光強度:ソーラーシミュレータ(100mW/cm
・電極面積:0.12cm
太陽光変換効率は、約1×10−4%(J=0.13mAcm−2,Voc=0.002V,FF=0.25)であった。
【0101】
よって、本実施形態における押圧成形物は太陽電池材料、特に太陽電池セルの光吸収層として機能し、太陽光変換材料として適用できることが分かる。
【0102】
試験例5(HP処理によるBiSI押圧成形物の金属板への転写)
(試験例5−1.銅板への転写)
試験例1の手順によりBiSI/FTO電極(HP処理前)を作製した。
【0103】
次いで、BiSI/FTO電極(HP処理前)上に銅板(25mm×25mm×0.3mm)を挟みこんだ後で石英板(25mm×25mm×2mm)を設置し、ホットプレス装置(SINTO製)にて温度50℃、雰囲気圧力大気圧、押圧圧力5MPa、押圧時間20分の条件で押圧成形(HP処理)した。
【0104】
HP処理後に銅板を剥離した。図20の左図は銅板を剥離した後のFTO基板表面の状態を示す写真であり、右図は剥離後の銅板裏面の状態を示す写真である。右図から銅板裏面に緻密なBiSI押圧成形物が転写されていることが分かる。
【0105】
転写されたBiSI押圧成形物の上面SEM観察像を図21に示す。図21からは転写されたBiSI押圧成形物の表面はほぼ全面でFTO基板の形態通りであることが分かる(つまり、BiSI押圧成形物はFTO基板上にはほぼ残っていない)。このように、銅板裏面に緻密なBiSI押圧成形物が転写された理由としては、銅板とBiSI押圧成形物との間にCuI、CuSx、BiCuxSy等の少なくとも一種の中間層が形成されたことが推測される。
(試験例5−2.モリブデン板への転写)
試験例5−1において銅板をモリブデン板に変えた以外は試験例5−1と同様にして押圧成形後(HP処理後)にモリブデン板を剥離した。図22の左図はモリブデン板を剥離した後のFTO基板表面の状態を示す写真であり、右図は剥離後のモリブデン板裏面の状態を示す写真である。右図からモリブデン板裏面に緻密なBiSI押圧成形物が転写されていることが分かる。
【0106】
転写されたBiSI押圧成形物の上面SEM観察像を図23に示す。図23からは転写されたBiSI押圧成形物の表面は大部分でFTO基板の形態通りであることが分かる(つまり、BiSI押圧成形物はFTO基板上にはほぼ残っていない)。
(試験例5−3.CuOx−Cu板への転写)
試験例5−1において銅板をCuOx−Cu板に変えた以外は試験例5−1と同様にして押圧成形後(HP処理後)にCuOx−Cu板を剥離した。なお、CuOx−Cu板は試験例5−1で使用した銅板を大気中300℃×30分で加熱することにより銅板表面に酸化被膜(CuOx)を形成したものである。
【0107】
転写されたBiSI押圧成形物の上面SEM観察像を図24に示す。図24からは転写されたBiSI押圧成形物の表面はほぼ全面でFTO基板の形態通りであることが分かる(つまり、BiSI押圧成形物はFTO基板上にはほぼ残っていない)。
【0108】
なお、XRD解析によりCuOxはCuOであることが分かった。また、HP処理前後においてCuO−Cu板の酸化被膜(CuO)は維持されていることが分かった。このように、銅板裏面に緻密なBiSI押圧成形物が転写された理由としては、CuOx−Cu板とBiSI押圧成形物との間にCuI、CuSx、BiCuxSy等の少なくとも一種の中間層が形成されたことが推測される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24