特許第6765866号(P6765866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765866
(24)【登録日】2020年9月18日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】偏光解消素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20200928BHJP
【FI】
   G02B5/30
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-118759(P2016-118759)
(22)【出願日】2016年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-223824(P2017-223824A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】514274487
【氏名又は名称】リコーインダストリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 靖
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−099607(JP,A)
【文献】 特開2004−341453(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/162621(WO,A1)
【文献】 特開2012−194221(JP,A)
【文献】 特開2008−226405(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0202725(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1749712(CN,A)
【文献】 国際公開第2016/052359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基板に、光の波長よりも短い周期で連続する凹凸構造であって透過する光に位相差を生じさせてその光の振動状態を変更するサブ波長構造をもつ複数のサブ波長構造領域が、互いに隣接する前記サブ波長構造領域の光学軸方向が異なるように配列された偏光解消素子であって、
前記サブ波長構造領域は互いに直交するX方向及びY方向に隙間なく平面的に配列されており、
前記サブ波長構造領域の開口径が不均一であり、前記X方向において互いに隣接する前記サブ波長構造領域の中心間距離は均一であり、前記Y方向において互いに隣接する前記サブ波長構造領域の中心間距離は均一であり、前記サブ波長構造領域の開口形状が不均一である、偏光解消素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表層部に光の波長以下のピッチをもって形成された微細構造を有し、光の光学軸方向を変更して透過させる複数の光学軸変更領域を備えた偏光解消素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光解消素子は、レーザプリンタなどで問題となる偏光を解消させるための光学部品として用いられたり、光学露光装置や光学測定機などの光学機器の光学系のスペックルの発生を低減させるスペックル低減素子として用いられたりしている。
【0003】
レーザからの光をマイクロレンズアレイやフライアイレンズを通すことによってひとつの光束を複数の光束に分割する際、分割された光は偏光方向が同一方向に揃っており、光学系の中で特定の条件が整うと、分割された光がそれぞれ干渉発生の原因となって光学系の途中で光が強めあう点(スペックル)が生じる場合がある。スペックルは、レーザ光を使用するいろいろな光学系で発生することが知られており、これを解消する方法が種々提案されているが、有効な解決策は確立されていない。
【0004】
スペックルを解消する方法のひとつとして、光の偏光状態が様々になったいわゆるランダム偏光状態にすることが挙げられる。偏光が不揃いであると、指向性の低い自然光の状態に近づくために光の干渉が起こりにくいからである。
【0005】
偏光解消素子として、サブ波長構造(Sub-Wavelength Structures;SWS)を備えたものが知られている(例えば特許文献1を参照。)。サブ波長構造は、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝の周期構造である。
【0006】
光の波長より短いピッチをもつ溝の周期構造は、周期をもつ方向ともたない方向で互いに異なる有効屈折率nTE,nTMをもち、あたかも複屈折材料であるかのように振舞う(いわゆる構造複屈折構造である)。この有効屈折率の差によって各偏波方向の光の伝播速度に差ができるため、サブ波長構造を通過する光の偏光状態が変化する。サブ波長構造は、構造の設計によって複屈折やそれらの分散を自由に制御できる。サブ波長構造のこの特性を利用して、偏光板、波長板、波長分離素子など、様々な製品が展開されている。
【0007】
サブ波長構造を利用した偏光解消素子は、光を透過させる部分が複数の領域に分割され、それらの各領域に種々の光学軸方向をもったサブ波長構造が形成されている。以下、この領域をサブ波長構造領域と称する。光学軸方向とは、サブ波長構造の溝の配列方向である。偏光解消素子は、各サブ波長構造領域を光が走査するように平面的に駆動される。これにより、該偏光解消素子を透過する光の光学軸方向が時間によって種々の方向に変更され、それらを合成した光は種々の光学軸方向をもった光となる。偏光解消素子を透過した光が種々の光学軸方向をもつことにより、同じ光学軸方向をもった光の干渉によるスペックルが緩和される。
【0008】
偏光解消素子では、隣接するサブ波長構造領域の境界部分でサブ波長構造の光学軸方向が急激に変化するために、光の回折や散乱が発生して光の透過率(0次光)が低下するという問題がある。かかる問題を解決するために、隣接するサブ波長構造領域の光学軸方向がなす角度を60度以下にして隣接するサブ波長構造領域間の位相差を小さくすることが提案されている(特許文献2参照。)。複数のサブ波長構造領域にわたって屈折率を徐々に変化させて隣接するサブ波長構造領域間の位相差を小さくすることにより、偏光解消素子を透過する光はサブ波長構造領域が拡大したように感じるために、サブ波長構造領域の実際のサイズよりも回折角が小さくなり、透過する光の回折光を低減でき、光の透過率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−341453号公報
【特許文献2】特開2015−026035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の偏光解消素子をさらに改良し、スペックル解消効果をさらに向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る偏光解消素子は、光透過性基板に、光の波長よりも短い周期で連続する凹凸構造であって透過する光に位相差を生じさせてその光の光学軸方向を変更するサブ波長構造をもつ複数のサブ波長構造領域が、互いに隣接する前記サブ波長構造領域の光学軸方向が異なるように配列された偏光解消素子であって、前記サブ波長構造領域の開口径又は開口形状が不均一となっている。ここで、サブ波長構造領域の「開口径」とは、開口形状において対向する稜線の間隔であり、軸対象な形状(円、正方形、六方細密など)では、そのサブ波長構造領域に内接する円の直径をいう。
【0012】
本発明に係る偏光解消素子の実施態様として、前記サブ波長構造領域の開口径が不均一となっているものが挙げられる。
【0013】
上記の場合、隣接するサブ波長構造領域の中心間距離は均一であってもよいし、不均一であってもよい。中心間距離が均一であれば、サブ波長構造領域の設計が容易である。
【0014】
サブ波長構造領域の開口径が不均一の場合、極端に開口径の大きいサブ波長構造領域が存在すると、スペックル解消効果が低下するといったデメリットが発生し得る。そこで、サブ波長構造領域の最大開口径は入射する光束の径の1/10以下であることが好ましい。
【0015】
さらに、製作上、サブ波長構造領域の最大開口径は最小開口径の10倍以下であることが好ましい。そうすれば、極端に開口径の大きいサブ波長構造領域が存在しなくなり、スペックル解消効果が低下することを防止することができる。
【0016】
サブ波長構造領域の開口形状がすべて同一である必要はなく、不均一であってもよい。サブ波長構造領域の開口形状としては、例えば種々の多角形や円形が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る偏光解消素子は、サブ波長構造領域の開口径又は開口形状が不均一であるので、光の偏光方向が不均一に時分割され、すべてのサブ波長構造領域の開口径及び平面形状が均一に設けられている場合に比べて、同一の偏光方向をもつ光の干渉によるスペックルの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施例の偏光解消素子のサブ波長構造を説明するための断面図である。
図2】同実施例のサブ波長構造配列を示す平面図である。
図3】偏光解消素子の他の実施例のサブ波長構造配列を示す平面図である。
図4】偏光解消素子のさらに他の実施例のサブ波長構造配列を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る偏光解消素子の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0020】
まず、図1を用いて偏光解消素子のサブ波長構造体について説明する。
【0021】
偏光解消素子1は、基板3の表層部に、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝5を備えている。繰り返して配列された溝5によって、凹凸周期(ピッチ)Pを有する連続した凹凸構造、すなわちサブ波長構造が形成されている。基板3は例えば高透過率の二酸化ケイ素で形成されている。
【0022】
ここで、サブ波長構造体の複屈折作用について説明する。サブ波長凹凸構造の媒質として空気と屈折率nの媒質を想定する。屈折率nの凸条のランドの幅がL、空気層からなる凹条の溝の幅がSであり、P=L+Sである。また、L/Pはフィリングファクタ(F)と呼ばれる。dは溝の深さである。
【0023】
周期Pの目安としては、使用する最も短い入射光の波長より短い周期で、より望ましくは使用波長の半分以下の周期とする。周期Pが入射光の波長よりも短い周期構造は入射光を回折することはないため入射光はそのまま透過し、入射光に対して複屈折特性を示す。すなわち、入射光の偏光方向に応じて異なる屈折率を示す。その結果、構造に関するパラメータを調整することにより位相差を任意に設定することができるため各種波長板を実現できる。
【0024】
構造性複屈折とは、屈折率の異なる2種類の媒質を光の波長よりも短い周期でストライプ状に配置したとき、ストライプに平行な偏光成分(TE波)とストライプに垂直な偏光成分(TM波)とで屈折率(有効屈折率と呼ぶ)が異なり、複屈折作用が生じることをいう。
【0025】
サブ波長構造体の周期よりも2倍以上の波長をもつ光が垂直入射したと仮定する。このときの入射光の偏光方向がサブ波長構造体の溝に平行(TE方向)であるか垂直(TM方向)であるかによって、サブ波長構造体の有効屈折率は次の式で与えられる。
n(TE)=(F×n2+(1−F))1/2
n(TM)=(F/n2+(1−F))1/2
【0026】
入射光の偏光方向がサブ波長構造体の溝に平行である場合の有効屈折率をn(TE)、垂直である場合の有効屈折率をn(TM)と表す。式中の符号Fは前述のフィリングファクタである。
【0027】
このようなサブ波長構造体を透過した光のTE波とTM波の間の位相差(リタデーション)Δは、
Δ=Δn・d
である。ここで、Δnはn(TE)とn(TM)の差、dは前述の溝の深さである。
【0028】
サブ波長構造領域に直線偏光の光が入射すると、この位相差によってその透過光は楕円偏光に変わる。光学軸の異なるサブ波長構造領域が隣接する本発明の偏光解消素子を直線偏光の光が透過すると、隣接するサブ波長構造領域間で光に異なる位相差を生じさせる。
【0029】
この偏光解消素子で発生する位相差Δは使用する波長λに対して、λ/4≦Δ≦λとなるようにサブ波長構造体が設計されていることが好ましい。これにより、この偏光解消素子の異なる場所を通過した光束同士であってもその干渉を低減することができる。
【0030】
次に、偏光解消素子1のサブ波長構造領域の配列の一実施例について図2を用いて説明する。
【0031】
この実施例では、上述のサブ波長構造が形成された複数のサブ波長構造領域7が隙間なく配列されている。互いに隣接するサブ波長構造領域7に形成されているサブ波長構造の配列方向が異なっており、それによって各サブ波長構造領域7を透過した光に異なる位相差が生じ、光の振動方向が異なる状態へ変換される。図において各サブ波長構造領域7の内側に現された矢印はそのサブ波長構造領域7の光学軸方向を表している。
【0032】
各サブ波長構造領域7はすべて正方形であるが、サブ波長構造領域7の開口径Aは均一でなく、いくつかの又はすべてのサブ波長構造領域7の開口径Aが他のサブ波長構造領域7と異なっており、不均一である。開口径Aの異なるサブ波長構造領域7同士の配列に規則性はなく、種々の大きさをもったサブ波長構造領域7が配置されている。
【0033】
なお、サブ波長構造領域7の開口形状は必ずしも正方形である必要はなく、多角形、円形等、任意の形状であってよい。
【0034】
この実施例では、互いに隣接するサブ波長構造領域7のX軸方向(図において左右方向)とY軸方向(図において上下方向)の中心間距離(以下、ピッチという。)Px、Pyは均一である。したがって、サブ波長構造領域7の配列は、X軸方向及びY軸方向に均等に配列されたサブ波長構造領域の配置ポイント(図の2点鎖線が交差している位置)に、種々の大きさのサブ波長構造領域7を隙間が生じないように配置していけばよいため、設計が容易である。
【0035】
大きさの異なるサブ波長構造領域7を均一なピッチで配列しているため、図にも示されているように、互いに隣接するサブ波長構造領域7間で重なり合う部分(破線部分)が存在することになる。この重複部分については、いずれか一方のサブ波長構造領域7の領域となる。したがって、他方の侵食された側のサブ波長構造領域7の平面形状は厳密には正方形にはならない。重複部分をいずれのサブ波長構造領域7の領域とするかについては特に制限はないが、大きさの複雑さ、加工しやすさから互いに隣接する大きいサブ波長構造領域で設定する方がよい。
【0036】
サブ波長構造領域7のうち、最も大きいサブ波長構造領域7の開口径Amaxは入射ビーム径の1/10以下となるように設定し、最も小さいサブ波長構造領域7の開口径Aminの10倍を超えないように設計されている。Amaxが入射ビーム径:φDの1/10以上大きいとスペックルを解消させる効果が減少し、またAminの10倍を超えると、サブ波長構造領域の開口により発生する回折光の回折角の差が大きくなるため、画像が干渉縞等で劣化する等の問題があるからである。
【0037】
この実施例のサブ波長構造領域7は大きさが不均一ではあるが、同一の光学軸方向をもつサブ波長構造領域7の合計面積が各光学軸方向間において略均一となるように設計されていてもよい。そのように設計されている場合には、この偏光解消素子1を用いて光学軸方向が時分割された光に含まれる各光学軸方向成分が略均一になるため、透過光を自然光に近づけることができる。
【0038】
この実施例では、サブは両構造領域7が均一なピッチPx、Pyで配列されているが、図3に示されているように、ピッチPx、Pyも不均一であってもよい。ピッチPx、Pyも不均一にすることで、ピッチの周期性がなくなり、この周期(開口径)で発生する回折光を低減することができる。なお、この場合も、サブ波長構造領域7のうち、最も大きいサブ波長構造領域7の開口径Amaxは最も小さいサブ波長構造領域7の開口径Aminの10倍を超えないように設計されていることが好ましい。
【0039】
以上において説明した実施例では、すべてのサブ波長構造領域7の開口形状が同一であるが、図4に示されているように、開口形状が正方形、六角形等の多角形のもののほか円形のもの等、種々の開口形状を有するサブ波長構造領域7が隙間なく配列されていてもよい。この場合、各サブ波長構造領域7の開口径が均一であってもよいが、スペックル解消効果を向上させ、さらに回折光も低減させるために不均一であることが好ましい。また、互いに隣接するサブ波長構造領域7のピッチPx、Pyは均一であってもよいが、スペックル解消効果を向上させ、さらに回折光も低減させるために不均一であることが好ましい。
【0040】
この場合も、サブ波長構造領域7のうち、最も大きいサブ波長構造領域7の開口径Amaxは入射ビーム径の1/10以下となるように設定し、最も小さいサブ波長構造領域7の開口径Aminの10倍を超えないように設計されていることが好ましい。
【0041】
以上において説明した偏光解消素子1は、特許文献2(特開2015−026035)の図6図8に開示されているような駆動装置によって平面的に駆動することができ、それによって光の偏光方向を時分割で変更してスペックルを解消することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 偏光解消素子
3 基板
5 溝
7 サブ波長構造領域
図1
図2
図3
図4