【文献】
藤木良規,チタン酸アルカリ金属化合物群,固体物理,アグネ技術センター,1981年,Vol.16, No.1,pp.50-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
各種車両、産業機械等の制動装置を構成するブレーキライニング、ディスクパッド、クラッチフェーシング等の摩擦部材においては、摩擦係数が高く安定し、耐フェード性が優れていること、耐摩耗性が優れていること、ローター攻撃性が低いことが求められている。
【0003】
これらの特性を満足させるために、アスベスト、無機充填材、有機充填材等と、これらを結合するフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂(結合材)とを含有する樹脂組成物から形成された摩擦材を備える摩擦部材が使用されてきた。しかしながら、アスベストは発癌性が確認されており、かつ粉塵化し易いため、作業時の吸入による環境衛生上の問題からその使用が規制されている。そのため、代替品として、発癌性を有さず、金属繊維のようにローターを傷付けず、摩擦特性も優れた繊維状のチタン酸カリウム粒子を、基材繊維又は摩擦調整材として用いた摩擦材が提案され、使用されている。特に、一般式K
2Ti
6O
13で表される6チタン酸カリウム粒子は、結晶構造がトンネル構造であり、融点が高く化学的に安定であり、カリウムイオンが溶出しにくいという特徴と、同様にトンネル構造の結晶構造を有するホーランダイト型よりもモース硬度が小さくローター攻撃性が低いという特徴とを有している。そのため、繊維状の6チタン酸カリウム粒子を含有する樹脂組成物から形成される摩擦材は、耐熱性、耐摩耗性、補強性等に優れている。
【0004】
しかし、繊維状のチタン酸カリウム粒子は、平均繊維径が0.1〜0.5μmであり、平均繊維長が10〜20μmであるものが多く、世界保健機関(WHO)で定められたWHOファイバー(長径が5μm以上、短径が3μm以下、及びアスペクト比が3以上の繊維状粒子)を含有している。そのため、安全衛生上の懸念を回避しつつ、摩擦材としての要求特性を達成することができる非繊維状のチタン酸塩化合物粒子が望まれている。そこで、板状の6チタン酸カリウム粒子(特許文献1)の使用が提案されているが、結晶構造がトンネル構造であるチタン酸塩化合物粒子は、高温域における耐摩耗性が十分ではない。また、板状のチタン酸マグネシウムカリウム(K
0.2〜0.7Mg
0.4Ti
1.6O
3.7〜3.95)粒子(特許文献2)や、板状のチタン酸リチウムカリウム(K
0.5〜0.7Li
0.27Ti
1.73O
3.85〜3.95)粒子(特許文献3)等の結晶構造が層状構造であるチタン酸塩化合物粒子は、高温域における耐摩耗性が優れているが、樹脂組成物の成形時に層状構造の層間に配位しているアルカリ金属イオンが溶出し易く、樹脂組成物のマトリックスを構成する熱硬化性樹脂の硬化阻害を起こすという問題がある。そのため、成形温度を高くしたり、成形時間を長くしたりする必要があり、得られる樹脂組成物が劣化することもある。
【0005】
また、形成する樹脂組成物には、耐摩耗性の向上のために銅繊維や銅粉末も配合されている。これは、摩擦材とローター(相手材)との摩擦時に、銅の展延性によってローター表面に凝着被膜が形成され、この凝着被膜が保護膜として作用することで、高温での高い摩擦係数を維持できるものと考えられている。しかし、銅を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖、海洋汚染等の原因になる可能性が示唆されているので、北米において銅の使用量が規制されることになった。そこで、銅を含有しない又は銅の含有量を少なくするために、結晶構造が層状構造のチタン酸塩化合物であるチタン酸リチウムカリウム及び黒鉛を含有する樹脂組成物(特許文献4)や、結晶構造がトンネル構造のチタン酸塩化合物と結晶構造が層状構造のチタン酸塩化合物とを含有する樹脂組成物(特許文献5、特許文献6)が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4〜6では、結晶構造が層状構造のチタン酸塩化合物を使用していることから、熱硬化性樹脂の硬化阻害を起こすおそれがある。そのため、成形温度を高く、成形時間を長くする必要があり、得られる樹脂組成物が劣化することがある。その結果、摩擦特性が低下することがある。さらに、特許文献5及び6では、2種以上のチタン酸塩化合物粒子を配合することから、樹脂組成物の配合材の数が増え、作業工数が増えるという問題もある。
【0008】
本発明の目的は、摩擦材に用いた場合に、銅を使用せずとも、優れた耐摩耗性と、高い摩擦係数と、安定した摩擦係数とを付与することができる、チタン酸塩化合物粒子、該チタン酸塩化合物粒子の製造方法、該チタン酸塩化合物粒子を用いた摩擦調整材、樹脂組成物、摩擦材並びに摩擦部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のチタン酸塩化合物粒子、摩擦調整材、樹脂組成物、摩擦材、摩擦部材、及びチタン酸塩化合物粒子の製造方法を提供する。
【0010】
項1 TiO
6八面体3個が稜線を共有して一組に連なり形成されたユニットからなるトンネル結晶構造を有するチタン酸塩化合物粒子において、Ti席の一部がAl、Li、Fe、Mn、Zn、Ga、Mg、Ni及びCuから選ばれる少なくとも1種の元素で置換され、前記トンネル結晶構造におけるトンネル内にLiを除くアルカリ金属から選ばれる少なくとも1種の元素のイオンが配位され、前記トンネル内にアルカリ土類金属イオンが実質的に配位されていないことを特徴とする、非繊維状のチタン酸塩化合物粒子。
【0011】
項2 前記Ti席の0.5〜10モル%が、Al、Li、Fe、Mn、Zn、Ga、Mg、Ni及びCuから選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていることを特徴とする、項1に記載のチタン酸塩化合物粒子。
【0012】
項3 前記チタン酸塩化合物粒子が、組成式A
(2+y)Ti
(6−x)M
xO
(13+y/2−(4−z)x/2)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属であり、MはAl、Li、Fe、Mn、Zn、Ga、Mg、Ni及びCuから選ばれる少なくとも1種の元素であり、zは元素Mの価数で1〜3の整数であり、xは0.05≦x≦0.5の範囲内であり、yは0≦y≦(4−z)xの範囲内である〕で表されることを特徴とする、項1又は2に記載のチタン酸塩化合物粒子。
【0013】
項4 前記チタン酸塩化合物粒子が、組成式K
(2+y)Ti
(6−x)Li
xO
(13+y/2−3x/2)〔式中、xは0.05≦x≦0.5の範囲内であり、yは0≦y≦3xの範囲内である〕、又は組成式K
(2+y)Ti
(6−x)Al
xO
(13+y/2−x/2)〔式中、xは0.05≦x≦0.5の範囲内であり、yは0≦y≦xの範囲内である〕で表されることを特徴とする、項1〜3のいずれか一項に記載のチタン酸塩化合物粒子。
【0014】
項5 複数の凸部を有する粒子形状であることを特徴とする、項1〜4のいずれか一項に記載のチタン酸塩化合物粒子。
【0015】
項6 平均粒子径が1〜50μmであること特徴とする、項1〜5のいずれか一項に記載のチタン酸塩化合物粒子。
【0016】
項7 項1〜6のいずれか一項に記載のチタン酸塩化合物粒子からなることを特徴とする、摩擦調整材。
【0017】
項8 項1〜6のいずれか一項に記載のチタン酸塩化合物粒子と、熱硬化性樹脂とを含有することを特徴とする、樹脂組成物。
【0018】
項9 前記樹脂組成物100質量%中において、銅の含有量が銅元素として0.5質量%以下であることを特徴とする、項8に記載の樹脂組成物。
【0019】
項10 摩擦材用であることを特徴とする、項8又は9に記載の樹脂組成物。
【0020】
項11 項8〜10のいずれか一項に記載の樹脂組成物の成形体であることを特徴とする、摩擦材。
【0021】
項12 項11に記載の摩擦材を備えることを特徴とする、摩擦部材。
【0022】
項13 項1〜6のいずれか一項に記載のチタン酸塩化合物粒子の製造方法であって、チタン源と、Liを除くアルカリ金属の元素源と、Al、Li、Fe、Mn、Zn、Ga、Mg、Ni及びCuから選ばれる少なくとも1種の元素源とを原料とし、該原料をメカニカルに粉砕しながら混合して粉砕混合物を準備する工程(1)と、前記粉砕混合物を加熱し、焼成する工程(2)と、該焼成により得られた焼成物からLiを除くアルカリ金属分を溶出し、該溶出後にさらに焼成する工程(3)とを備えることを特徴とする、チタン酸塩化合物粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のチタン酸塩化合物粒子は、摩擦材に用いた場合に、銅を使用せずとも、優れた耐摩耗性と、高い摩擦係数と、安定した摩擦係数とを付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0026】
<チタン酸塩化合物粒子>
本発明のチタン酸塩化合物粒子は、TiO
6八面体3個が稜線を共有して一組に連なり形成されたユニットからなるトンネル結晶構造を有するチタン酸塩化合物粒子である。上記チタン酸塩化合物粒子は、Ti席の一部がAl、Li、Fe、Mn、Zn、Ga、Mg、Ni及びCuから選ばれる少なくとも1種の元素で置換され、トンネル結晶構造におけるトンネル内にLiを除くアルカリ金属から選ばれる少なくとも1種の元素のイオンが配位され、トンネル内にアルカリ土類金属イオンが実質的に配位されていない。
【0027】
従来、銅と層状構造のチタン酸塩化合物粒子とを配合せず、トンネル結晶構造を有するチタン酸塩化合物粒子を多量に配合した樹脂組成物を摩擦材に用いると、ローター表面に銅由来の凝着被膜が形成されず、熱硬化性樹脂由来の炭化物がローター表面に多く形成される。この炭化物により高温での摩擦係数が不安定となり、摩耗量が大きくなると考えられている。
【0028】
これに対して、本発明のチタン酸塩化合物粒子を摩擦材に用いることで、銅を使用せずとも、優れた耐摩耗性と、高く安定した摩擦係数とを付与することができる。このメカニズムは次のように推測される。
【0029】
本発明のチタン酸塩化合物粒子は、Ti席の一部がAl、Li、Fe、Mn、Zn、Ga、Mg、Ni及びCuから選ばれる少なくとも1種の元素で置換されているので、熱硬化性樹脂の存在下、還元雰囲気で高温になると、6チタン酸アルカリ金属塩の結晶構造を保持することができず、アルカリ金属(リチウムを除く)と酸素を放出する。そのことにより、放出されたアルカリ金属は炭化物の燃焼触媒となり、また酸素は酸化を助長することができるため、次に酸化雰囲気で加熱したときに熱硬化性樹脂由来の炭化物を速やかに酸化分解することができる。つまり、樹脂組成物の成形時にはアルカリ金属が溶出しにくいため熱硬化性樹脂の硬化阻害を起こすおそれがなく、摩擦材の制動時に熱硬化性樹脂由来の炭化物を速やかに酸化分解することができると考えられる。
【0030】
本発明のチタン酸塩化合物粒子のTi席の一部を置換する元素は、Al、Li、Fe、Mn、Zn、Ga、Mg、Ni及びCuから選ばれる少なくとも1種の元素(以下、これらを総称して「M元素」と略記する)であり、好ましくはAl及びLiから選ばれる少なくとも1種の元素である。また、Ti席の0.5〜10モル%がM元素で置換されていることが好ましい。M元素は、そのイオンがTi
4+と同程度のイオン半径を有していることから、TiをM元素に置換することが可能となる。
【0031】
本発明のチタン酸塩化合物粒子のトンネル結晶構造におけるトンネル内に配位される元素のイオンは、Liを除くアルカリ金属から選ばれる少なくとも1種の元素(以下、これらを総称して「A元素」と略記する)のイオンである。A元素としては、Na、K、Rb、Cs等を例示することができ、好ましくはKである。なお、Liは、他のアルカリ金属と比べ、イオン半径が小さく、異なる性質を有するため、A元素に含まれない。
【0032】
上記トンネル内には、本発明の優れた特性を有する範囲において、A元素以外のイオンが配位されていてもよいが、アルカリ土類金属イオンが実質的に配位されていない。アルカリ土類金属のイオンが配位されると結晶が安定化され、高温の還元雰囲気下でのアルカリ金属と酸素の放出を抑制するためである。本発明において「実質的に配位されていない」とは、Ti元素1モルに対して、トンネル内に配位されるアルカリ土類金属が0.01モル以下であることをいう。また、アルカリ土類金属とはCa、Sr、Ba又はRaのことをいう。
【0033】
上記トンネル内には、結晶全体を電気的に中性にできる量のA元素及び/又はA元素以外の元素のイオンを配位していることが好ましい。
【0034】
本発明のチタン酸塩化合物粒子は、球状、粒状、板状、柱状、棒状、円柱状、ブロック状、多孔質状、複数の凸部を有する形状(アメーバ状、ブーメラン状、十字架状、金平糖状等)等の非繊維状粒子である。これらのなかでも高温域での摩擦材強度をより一層高める観点から、複数の凸部を有する粒子形状の粒子であることが好ましい。これらの各種粒子形状は、製造条件、特に原料組成、焼成条件等により任意に制御することができる。ここで、複数の凸部を有するとは、平面への投影形状が少なくとも通常の多角形、円、楕円等とは異なり2方向以上に凸部を有する形状を取り得るもの、いわゆる不定形状であることを意味する。具体的にはこの凸部とは、走査型電子顕微鏡(SEM)による写真(投影図)に多角形、円、楕円等(基本図形)をあてはめ、それに対して突き出した部分に対応する部分をいう。
【0035】
本発明のチタン酸塩化合物粒子の形状は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察から解析することができる。
【0036】
また、本発明における繊維状粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い辺を長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>Tとする)として、L/T及びL/Bがいずれも5以上の粒子のことをいい、非繊維状粒子とは繊維状粒子を除く粒子のことをいう。
【0037】
本発明のチタン酸塩化合物粒子の平均粒子径は、1〜50μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。平均粒子径が上記範囲内にある場合、摩擦材に用いたときに摩擦特性をより一層高めることができる。これらの各種粒子サイズは、製造条件、特に原料組成、焼成条件等により任意に制御することができる。本発明において平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%の粒子径を意味する。
【0038】
本発明のチタン酸塩化合物粒子は、例えば、組成式A
(2+y)Ti
(6−x)M
xO
(13+y/2−(4−z)x/2)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属であり、MはAl、Li、Fe、Mn、Zn、Ga、Mg、Ni及びCuから選ばれる少なくとも1種の元素であり、zは元素Mの価数で1〜3の整数であり、xは0.05≦x≦0.5の範囲内であり、yは0≦y≦(4−z)xの範囲内である〕で表される化合物を例示することができる。その中でも、組成式K
(2+y)Ti
(6−x)Li
xO
(13+y/2−3x/2)〔式中、xは0.05≦x≦0.5の範囲内であり、yは0≦y≦3xの範囲内である〕、又は組成式K
(2+y)Ti
(6−x)Al
xO
(13+y/2−x/2)〔式中、xは0.05≦x≦0.5の範囲内であり、yは0≦y≦xの範囲内である〕で表される化合物が好ましい。
【0039】
本発明のチタン酸塩化合物粒子は、分散性のより一層の向上や、熱硬化性樹脂との密着性のより一層の向上を目的として、シランカップリング剤(アミノシランカップリング剤等)や、チタネート系カップリング剤等により表面処理を常法によって施されていてもよい。
【0040】
なお、本発明のチタン酸塩化合物粒子は、摩擦調整材であってもよい。
【0041】
<チタン酸塩化合物粒子の製造方法>
本発明のチタン酸塩化合物粒子の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、チタン源と、Liを除くアルカリ金属の元素源(A元素源)と、Al、Li、Fe、Mn、Zn、Ga、Mg、Ni及びCuから選ばれる少なくとも1種の元素源(M元素源)とを原料とし、該原料をメカニカルに粉砕しながら混合して粉砕混合物を準備する工程(1)と、該粉砕混合物を加熱し、焼成する工程(2)と、該焼成により得られた焼成物からリチウムを除くアルカリ金属分を溶出し、該溶出後にさらに焼成する工程(3)とを備えることを特徴とする製造方法を挙げることができる。
【0042】
工程(1)は、チタン源と、A元素源と、M元素源とを原料とし、これらの原料をメカニカルに粉砕しながら混合し、粉砕混合物を準備する工程である。
【0043】
チタン源は、二酸化チタン又は加熱により二酸化チタンを生成する化合物である。加熱により二酸化チタンを生成する化合物としては、チタン元素を含有して加熱により二酸化チタンの生成を阻害しない原材料であればよく、例えば、オルトチタン酸又はその塩、メタチタン酸又はその塩、水酸化チタン、ペルオクソチタン酸又はその塩等が挙げられる。上記チタン源は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、好ましくは二酸化チタンである。二酸化チタンは、他の原料との混合性及び反応性により一層優れ、しかも安価なためである。二酸化チタンの結晶形としては、ルチル型又はアナターゼ型が好ましい。
【0044】
A元素源は、A元素の酸化物又は加熱によりA元素の酸化物を生成する化合物である。加熱によりA元素の酸化物を生成する化合物としては、A元素を含有して加熱によりA元素の酸化物の生成を阻害しない原材料であればよく、例えば、A元素の炭酸塩、A元素の水酸化物、A元素の硝酸塩、A元素の硫酸塩等を使用することができる。A元素源は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでもA元素の炭酸塩、A元素の水酸化物が好ましい。
【0045】
M元素源は、M元素の酸化物又は加熱によりM元素の酸化物を生成する化合物である。加熱によりM元素の酸化物を生成する化合物としては、M元素を含有して加熱によりM元素の酸化物の生成を阻害しない原材料であればよく、例えば、M元素の炭酸塩、M元素の水酸化物、M元素の硝酸塩、M元素の硫酸塩等を使用することできる。M元素源は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、M元素の酸化物、M元素の炭酸塩、M元素の水酸化物が好ましい。
【0046】
チタン源、A元素源、及びM元素源は、後述するメカニカルな粉砕を行って混合することから、粒子の形状及びサイズは特に制限はないが、粉末状、顆粒状、フレーク状、ペレット状であることが好ましい。
【0047】
チタン源とA元素源とM元素源との混合割合は、モル比でTi/A/M=1/1〜1.5/0.05〜0.25であることが好ましい。
【0048】
メカニカルな粉砕としては、物理的な衝撃を与えながら粉砕する方法が挙げられる。具体的には、振動ミルによる粉砕処理が挙げられる。振動ミルによる粉砕処理を行うと、混合粉体の粉砕によるせん断応力により、原子配列の乱れと原子間距離の減少が同時におこり、異種粒子の接点部分の原子移動がおこる結果、準安定相が得られると考えられる。これにより、反応活性の高い粉砕混合物が得られると考えられる。メカニカルな粉砕は、原料により一層効率よくせん断応力を与えるため、水、溶剤等を用いない乾式処理が好ましい。
【0049】
メカニカルに粉砕しながら混合する時間は、特に制限されるものではないが、一般に0.1〜2時間の範囲内であることが好ましい。
【0050】
工程(2)は、工程(1)で準備した粉砕混合物を、加熱し、焼成する工程である。粉砕混合物の焼成温度は、800〜1000℃の温度範囲内であることが好ましい。焼成温度が低すぎると粒子成長が不十分となる場合があり、焼成温度が高すぎると粒子が溶融し形状制御が困難となる場合がある。焼成時間は、上記温度範囲で1〜24時間であることが好ましく、1〜8時間であることがより好ましい。
【0051】
工程(2)の焼成は、公知の焼成方法を採用することができ、例えば、電気炉、ロータリーキルン、トンネルキルン、管状炉、流動焼成炉等の各種焼成手段を用いることができる。また、焼成の雰囲気条件は、大気雰囲気下、二酸化炭素雰囲気下など特に制限はないが、例えば大気雰囲気下で行うことで複数の凸部を有する形状の粒子を得ることができる。
【0052】
工程(3)は、工程(2)で得た焼成物からLiを除くアルカリ金属(A元素)分を溶出し、該溶出後にさらに焼成する工程である。
【0053】
A元素分の溶出は、例えば、工程(2)で得た焼成物の水性スラリーに酸を混合して、水性スラリーのpHを好ましくは10.0〜13.5、より好ましくは11.0〜13.0の範囲内に調整することで行うことができる。水性スラリーのpH調整は、上記焼成物からA元素分が溶出するので、そのpHでA元素分の溶出量を制御でき、その後の焼成で上記焼成物の粒子形状を維持しつつ、本発明の組成のチタン酸塩化合物粒子を製造することができる。
【0054】
水性スラリーの濃度は特に制限はなく、広い範囲から適宜選択することができるが、作業性等を考慮すると、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%である。
【0055】
上記酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸や、酢酸等の有機酸を用いることができる。酸は必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0056】
なお、水性スラリーのpHの測定は、酸を混合し、通常、1〜5時間攪拌した後に行う。酸は通常水溶液の形態で使用される。酸水溶液の濃度は特に制限はなく広い範囲で適宜選択できるが、通常、1〜98質量%とすればよい。
【0057】
A元素分を溶出させた後、吸引濾過等により濾過し、脱水処理を行う。脱水処理後、焼成することにより最終生成物である本発明のチタン酸塩化合物粒子を得ることができる。このときの焼成温度は600〜1300℃の範囲内であることが好ましい。焼成温度が低すぎると結晶変換が不十分となる場合があり、焼成温度が高すぎると粒子が溶融し形状制御が困難となる場合がある。焼成時間は、上記温度範囲で1〜24時間であることが好ましい。
【0058】
工程(3)の焼成は、公知の焼成方法を採用することができ、例えば、電気炉、ロータリーキルン、トンネルキルン、管状炉、流動焼成炉等の各種焼成手段を用いることができる。また、焼成の雰囲気条件は、大気雰囲気下、二酸化炭素雰囲気下など特に制限はないが、例えば大気雰囲気下で行えばよい。焼成後は、必要に応じて篩い処理、分級等を行ってもよい。
【0059】
以上のようにして、本発明のチタン酸塩化合物粒子を製造することができる。
【0060】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、本発明のチタン酸塩化合物粒子と、熱硬化性樹脂とを含有することを特徴とし、必要に応じて、その他材料をさらに含有することができる。
【0061】
(チタン酸塩化合物粒子)
チタン酸塩化合物粒子は、上述の本発明のチタン酸塩化合物粒子の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。本発明の樹脂組成物におけるチタン酸塩化合物粒子の含有量は、例えば、本発明の樹脂組成物を摩擦材に用いる場合、樹脂組成物の合計量100質量%に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましい。本発明のチタン酸塩化合物粒子の含有量を1〜30質量%とすることで、樹脂組成物を摩擦材に使用した場合、銅を使用せず、より一層優れた耐摩耗性を付与し、より一層高く安定した摩擦係数を付与することができる。
【0062】
なお、本発明において「銅を使用せず」とは、銅繊維、銅粉、並びに銅を含んだ合金(真鍮又は青銅等)及び化合物のいずれも、樹脂組成物の原材料として配合していないことをいう。もっとも、本発明においては、銅を含んでいてもよい。なお、環境負荷の観点から不純物として混入する銅成分は、樹脂組成物100質量%において銅の含有量が銅元素として0.5質量%以下であることが好ましい。
【0063】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、チタン酸塩化合物粒子等と一体化し、強度を与える結合材として用いられるものである。従って、結合材として用いられる公知の熱硬化性樹脂のなかから任意のものを適宜選択して用いることができる。例えばフェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂、シリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等のエラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;ホルムアルデヒド樹脂;メラミン樹脂;エポキシ樹脂;アクリル樹脂;芳香族ポリエステル樹脂;ユリア樹脂;等を挙げることができる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このなかでも耐熱性、成形性、摩擦特性をより一層向上できる点から、フェノール樹脂や、変性フェノール樹脂が好ましい。
【0064】
樹脂組成物における熱硬化性樹脂の含有量は、例えば、本発明の樹脂組成物を摩擦材に用いる場合、樹脂組成物の合計量100質量%に対して、5〜20質量%であることが好ましい。熱硬化性樹脂の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで配合材料の隙間に適切な量の結合材が充填され、より一層優れた摩擦特性を得ることができる。
【0065】
(その他材料)
本発明の樹脂組成物を摩擦材に用いる場合、上記本発明のチタン酸塩化合物粒子、熱硬化性樹脂の材料以外に、必要に応じてその他材料を配合することができる。その他材料としては、例えば、以下の繊維基材や、摩擦調整材等を挙げることができる。
【0066】
繊維基材としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、フィブル化アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、フェノール樹脂繊維等の有機繊維;アルミ、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコンなどの金属単体又は合金形態の繊維、鋳鉄繊維などの金属を主成分とするストレート形状又はカール形状の金属繊維;ガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、生分解性鉱物繊維、生体溶解性繊維、ワラストナイト繊維等の無機繊維;耐炎化繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、活性炭繊維等の炭素系繊維;等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
摩擦調整材としては、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、塩素化ブチルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム等の未加硫又は加硫ゴム粉末;カシューダスト、メラミンダスト等の有機充填材;硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化カルシウム(消石灰)、バーミキュライト、クレー、マイカ、タルク、ドロマイト、クロマイト、ムライト等の無機粉末;銅、青銅、アルミニウム、亜鉛、鉄、錫等の金属単体又は合金形態の粉末;本発明で用いるチタン酸塩化合物粒子以外であって、球状、層状、板状、柱状、ブロック状、又は不定形状等の粒子形状や、トンネル結晶構造、層状結晶構造などの結晶構造のチタン酸塩化合物粒子からなる粉末等の無機充填材;シリコンカーバイト(炭化ケイ素)、酸化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ(二酸化ケイ素)、マグネシア(酸化マグネシウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、ケイ酸ジルコニウム、酸化クロム、酸化鉄、クロマイト、石英等の研削材;合成又は天然黒鉛(グラファイト)、リン酸塩被覆黒鉛、カーボンブラック、コークス、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン、硫化スズ、硫化鉄、硫化亜鉛、硫化ビスマス、二硫化タングステン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の固体潤滑材;等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
樹脂組成物におけるその他材料の含有量は、例えば、本発明の樹脂組成物を摩擦材に用いる場合、樹脂組成物の合計量100質量%に対して、50〜90質量%であることが好ましい。
【0069】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物は、(1)レーディゲミキサー(「レーディゲ」は登録商標)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は登録商標)等の混合機で各成分を混合する方法;(2)所望する成分の造粒物を調製し、必要により他の成分をレーディゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて混合する方法等により製造することができる。
【0070】
本発明の樹脂組成物の各成分の含有量は、所望する摩擦特性により適宜選択することができる。
【0071】
また、本発明の樹脂組成物は、特定の構成成分を高い濃度で含むマスターバッチを作製し、このマスターバッチに熱硬化性樹脂等を添加し混合することにより調製してもよい。
【0072】
<摩擦材及び摩擦部材>
本発明においては、本発明の樹脂組成物を、常温にて仮成形し、得られた仮成形物を加熱加圧成形(成形圧力10〜40MPa、成形温度150〜200℃)し、必要に応じて、得られた成形体に加熱炉内で熱処理(150〜210℃、1〜12時間保持)を施し、しかる後その成形体に機械加工、研磨加工を加えて所定の形状を有する摩擦材を製造することができる。
【0073】
本発明の摩擦材は、該摩擦材を摩擦面となるように形成した摩擦部材として用いられる。摩擦材を用いて形成することができる摩擦部材としては、例えば、(1)摩擦材のみの構成、(2)裏金等の基材と、該基材の上に設けられ、摩擦面を与える本発明の摩擦材とを有する構成等が挙げられる。
【0074】
上記基材は、摩擦部材の機械的強度をより一層向上させるために用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化樹脂等を用いることができる。例えば、鉄、ステンレス、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂等が挙げられる。
【0075】
摩擦材には、通常、内部に微細な気孔が多数形成されており、高温時の分解生成物(ガスや液状物)の逃げ道となり摩擦特性の低下防止を図るとともに、摩擦材の剛性を下げ減衰性を向上させることで鳴きの発生を防止している。通常の摩擦材においては、気孔率が5〜30%になるように、材料の配合、成形条件を管理している。
【0076】
本発明の摩擦部材は、上記本発明のチタン酸塩化合物粒子を含んでいるので、銅を使用せずとも、優れた耐摩耗性を有し、摩擦係数が高く安定している。そのため、本発明の摩擦部材は、各種車両や、産業機械等の制動装置を構成するブレーキライニング、ディスクパッド、クラッチフェーシング等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。
【0078】
本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【0079】
本実施例において、チタン酸塩化合物粒子の粒子形状は電界放出型走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、品番「S−4800」)により確認し、結晶構造はX線回折測定装置(リガク社製、品番「UltimaIV」)により確認し、組成式はICP−AES分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製、品番「SPS5100」)により確認し、平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、品番「SALD−2100」)により測定した。
【0080】
(実施例1)
酸化チタン368.4g、炭酸カリウム389.5g、酸化アルミニウム26.1gを振動ミルにて粉砕しながら1時間混合した。得られた粉砕混合粉500gをルツボに充填し、電気炉にて大気雰囲気下で、850℃で4時間焼成し、焼成物をハンマーミルにて解砕することで粉末を得た。
【0081】
得られた粉末100gを脱イオン水400gに分散させ、5分攪拌し、スラリーを調製した。これに98%硫酸25gを添加して1時間攪拌し、pH12.6に調整した。pH調整後のスラリーの固形分を濾別し、80℃の脱イオン水135gで水洗し、乾燥した。乾燥後、ルツボに充填し、電気炉にて大気雰囲気下で、800℃で4時間焼成した。
【0082】
焼成により得られた粉末を構成するチタン酸塩化合物粒子は、複数の凸部を有する形状で、トンネル構造のK
2.15Ti
5.85Al
0.15O
13.0であることを確認し、その平均粒子径は9.6μmであった。なお、
図1に得られた粉末のX線回折チャートを示した。
【0083】
(実施例2)
酸化チタン319.1g、炭酸カリウム414.0g、酸化アルミニウム50.9gを振動ミルにて粉砕しながら1時間混合した。得られた粉砕混合粉500gをルツボに充填し、電気炉にて大気雰囲気下で、850℃で4時間焼成し、焼成物をハンマーミルにて解砕することで粉末を得た。
【0084】
得られた粉末100gを脱イオン水400gに分散させ、5分攪拌し、スラリーを調製した。これに98%硫酸26gを添加して1時間攪拌し、pH12.3に調整した。pH調整後のスラリーの固形分を濾別し、80℃の脱イオン水135gで水洗し、乾燥した。乾燥後、ルツボに充填し、電気炉にて大気雰囲気下で、800℃で4時間焼成した。
【0085】
得られた粉末を構成するチタン酸塩化合物粒子は、複数の凸部を有する形状で、トンネル構造のK
2.20Ti
5.60Al
0.40O
12.9であることを確認し、その平均粒子径は9.6μmであった。なお、
図1に得られた粉末のX線回折チャートを示した。
【0086】
(実施例3)
酸化チタン403.1g、炭酸カリウム377.2g、炭酸リチウム3.8gを振動ミルにて粉砕しながら1時間混合した。得られた粉砕混合粉500gをルツボに充填し、電気炉にて大気雰囲気下で、850℃で4時間焼成し、焼成物をハンマーミルにて解砕することで粉末を得た。
【0087】
得られた粉末100gを脱イオン水400gに分散させ、5分攪拌し、スラリーを調製した。これに98%硫酸23.5gを添加して1時間攪拌し、pH12.9に調整した。pH調整後のスラリーの固形分を濾別し、80℃の脱イオン水135gで水洗し、乾燥した。乾燥後、ルツボに充填し、電気炉にて大気雰囲気下で、800℃で4時間焼成した。
【0088】
得られた粉末を構成するチタン酸塩化合物粒子は、複数の凸部を有する形状で、トンネル構造のK
2.10Ti
5.90Li
0.10O
12.9であることを確認し、その平均粒子径は10.2μmであった。なお、
図1に得られた粉末のX線回折チャートを示した。
【0089】
(比較例1)
酸化チタン420.4g、炭酸カリウム363.7gを振動ミルにて粉砕しながら1時間混合した。得られた粉砕混合粉500gをルツボに充填し、電気炉にて大気雰囲気下で、850℃で4時間焼成し、焼成物をハンマーミルにて解砕することで粉末を得た。
【0090】
得られた粉末100gを脱イオン水400gに分散させ、5分攪拌し、スラリーを調製した。これに98%硫酸23.5gを添加して1時間攪拌し、pH12.9に調整した。pH調整後のスラリーの固形分を濾別し、80℃の脱イオン水135gで水洗し、乾燥した。乾燥後、ルツボに充填し、電気炉にて大気雰囲気下で、800℃で4時間焼成した。
【0091】
得られた粉末を構成する粒子は、複数の凸部を有する形状で、トンネル構造のK
2Ti
6O
13であることを確認し、その平均粒子径は8.4μmであった。なお、
図1に得られた粉末のX線回折チャートを示した。
【0092】
<評価試験1:燃焼開始温度>
表1に記載の試験サンプル150mgと硬化したフェノール樹脂50mgとをメノウ乳鉢で90秒間、粉砕混合した。得られた混合粉末をアルゴン雰囲気で10℃/分の昇温速度で1000℃まで焼成した。いずれもフェノール樹脂は、炭化物に変化していることを確認した。
【0093】
次いで、得られた炭化物を示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製、品番「EXSTAR6000 TG/DTA6300」)にて、空気雰囲気にて、10℃/分で昇温し、炭化物が燃焼開始する温度を測定した。結果を表1に示した。
【0094】
表1の結果から、実施例(試験例1〜3)1〜3のチタン酸塩化合物粒子は、比較例1(比較試験例1)の粒子や酸化アルミニウム(比較試験例2)に比べて燃焼開始温度が低いことがわかる。これは、アルゴン雰囲気で高温になると6チタン酸アルカリの結晶構造を保持できず、アルカリ金属(リチウムを除く)と酸素が放出され、そのことにより、アルカリ金属(リチウムを除く)は炭化物の燃焼触媒となり、酸素は酸化を助長することができるので、次に酸化雰囲気(空気雰囲気)でフェノール樹脂由来の炭化物を速やかに酸化するためであると考えられる。
【0095】
【表1】
【0096】
<評価試験2:摩擦材特性>
表2に記載の試験サンプル24質量部に、フェノール樹脂8質量部、アラミドパルプ4質量部、硫酸バリウム64質量部を配合し、レーディゲミキサーにて混合後、得られた混合物を仮成形(25MPa)、熱成形(150℃,20MPa)を行い、さらに熱処理(160〜210℃)を行い、成形体を製造した。得られた成形体を5.5cm
2の扇型に加工し、ダイナモ試験用テストピースを得た。
【0097】
得られたテストピース(摩擦材)について、ダイナモ試験機とねずみ鋳鉄(FC250)ローターを用いて摩擦試験を行い、平均摩擦係数、摩擦係数の差(最大摩擦係数−最小摩擦係数)、摩擦材の摩耗量を測定し、結果を表2に示した。試験条件は、JASO C406のすり合わせ試験に準拠した条件で制動回数のみ500回とした。
【0098】
摩擦材の気孔率はJIS D4418に基づき測定し、結果を表2に示した。
【0099】
【表2】
【0100】
試験例4〜6は比較試験例3に比べて摩擦係数の差(最大−最小)が小さいことから、本発明のチタン酸塩化合物粒子を用いることで摩擦係数が安定化することがわかる。特に、試験例4及び5は、摩擦係数が安定しているだけでなく、平均摩擦係数が高く、摩耗量も少なく、摩擦材として優れていることがわかる。そして、試験例4及び5に用いているチタン酸塩化合物粒子は、試験例6に用いているチタン酸塩化合物粒子よりもカリウム分の量が多いにもかかわらず摩耗量が少ないことから、本発明のチタン酸塩化合物粒子は摩擦材の成形時において熱硬化性樹脂の硬化に影響を与えていないことが推測される。