特許第6766046号(P6766046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テルモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000014
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000015
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000016
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000017
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000018
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000019
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000020
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000021
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000022
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000023
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000024
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000025
  • 特許6766046-生分解性ステント基体を有するステント 図000026
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6766046
(24)【登録日】2020年9月18日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】生分解性ステント基体を有するステント
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20200928BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20200928BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   A61L31/04 100
   A61L31/14 500
   A61L31/06
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-528350(P2017-528350)
(86)(22)【出願日】2016年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2016068572
(87)【国際公開番号】WO2017010250
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2019年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-142400(P2015-142400)
(32)【優先日】2015年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】谷 和佳
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−313009(JP,A)
【文献】 特開2010−233807(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/035721(WO,A1)
【文献】 特開2005−330458(JP,A)
【文献】 特開2008−120887(JP,A)
【文献】 特表2011−519382(JP,A)
【文献】 特開平03−205059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ステント基体を有するステントであって、
前記ステント基体は第1生分解性材料および第2生分解性材料を含み、
前記第1生分解性材料は、乳酸単位と、カプロラクトン単位とからなる重量平均分子量7万以上の乳酸−カプロラクトン共重合体であり、
前記第2生分解性材料は、下記式(1)で表される重量平均分子量500以上7万未満の乳酸−カプロラクトン共重合体である、ステント;
【化1】
ただし、式(1)中、M11水素、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択され、Aは乳酸単位と、カプロラクトン単位からなる生分解性重合体鎖であり、nは1である
【請求項2】
前記第1生分解性材料と前記第2生分解性材料との重量比が、55:45〜99:1である、請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記第1生分解性材料が、60〜95モル%の前記乳酸単位と、40〜5モル%の前記カプロラクトン単位とからなる(ただし、前記乳酸単位と前記カプロラクトン単位との合計量は100モル%である)、請求項またはに記載のステント。
【請求項4】
前記第2生分解性材料が、60〜95モル%の前記乳酸単位と、40〜5モル%の前記カプロラクトン単位とからなる(ただし、前記乳酸単位と前記カプロラクトン単位との合計量は100モル%である)、請求項1〜3のいずれか1項に記載のステント
【請求項5】
前記第2生分解性材料が、前記第1生分解性材料の加水分解物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のステント。
【請求項6】
生分解性ステント基体を有するステントであって、前記生分解性ステント基体は生分解性材料を含み、前記生分解性材料が以下の(a)〜(d)の要件を満たす、請求項1〜5のいずれか1項に記載のステント:
(a)前記生分解性材料を50℃のPBS中で12週間加水分解した場合の重量損失が、15%以上である;
(b)前記生分解性材料を50℃のPBS中で6週間加水分解した場合の分子量保持率が、40%未満である;
(c)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合の応力が、10MPa以上である;および
(d)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合のひずみが、100%以上である。
【請求項7】
自己拡張型である、請求項1〜のいずれか1項に記載のステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ステント基体を有するステント、特に自己拡張型ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、血管等の管腔が狭窄もしくは閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために、狭窄部位または閉塞部位を拡張し、内腔を確保するために使用される医療用具である。
【0003】
非生分解性の金属等により構成されるステントは、生体内に留置した後に自然に分解することがないため、除去作業を行わない限り生体内に留置され続ける。このため、ステントを使用した治療に際して、長期的な留置に対する安全性や生体に与える負担などが懸念される。これに対して、生分解性ステントは、所定の留置期間が経過した後に生体内で自然と分解して吸収されるように構成されているため、長期的な留置における安全性や生体への負荷などの点において、非生分解性のステントよりも有益である。
【0004】
近年、かような生分解性ステントの製造に用いられる材料として、ポリ乳酸等の生分解性ポリマーが検討されている。例えば、特許文献1には、第1のポリマーを備えるストランドを、所定の性質を有する所定量の第2のポリマーで被覆した埋め込み型医療デバイスにかかる発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−527321号公報(国際公開第2010/135433号に相当)
【発明の概要】
【0006】
生体内での分解速度が速い生分解性ポリマーにて構成されるステントは、狭窄部において速やかに分解されるものの、血管内腔を支持するのに必要な拡張保持力(ラジアルフォース)を確保できないという問題や、血管内壁が再生する前に分解してしまい、血管内壁の再生に必要な期間にわたって血管壁を支持することができないという問題が存在していた。一方で、生体内での分解速度が遅い生分解性ポリマーにて構成されるステントは、長期間にわたって血管内腔を機械的に支持することができるものの、血管を拡径できる程度に血管内壁が再生した後は、留置されるステントの存在による炎症やこれに伴う再狭窄を防止する観点から、速やかに分解されることが望ましい。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されるような従来の生分解性ステントにおいては、上記のような分解速度と機械的強度の保持とのバランスという点において、十分でない場合が存在した。したがって、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、分解速度と機械的強度の保持とのバランスが向上したステントを提供することを目的とする。
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑みて検討を重ねたところ、比較的分子量の大きなポリ乳酸系重合体である第1生分解性材料と、比較的分子量の小さな所定構造を有する第2生分解性材料とを含む生分解性ステント基体を有するステントによって上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、上記課題は、生分解性ステント基体を有するステントであって、前記ステント基体は第1生分解性材料および第2生分解性材料を含み、前記第1生分解性材料は、重量平均分子量7万以上のポリ乳酸系重合体であり、前記第2生分解性材料は、下記式(1)または(2)で表される重量平均分子量500以上7万未満の重合体である、ステントによって解決される。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
ただし、式(1)および(2)中、M11〜M13はそれぞれ独立して水素および1価金属からなる群から選択され、Mは2価金属であり、A〜Aは同一または異なった構造の生分解性重合体鎖であり、nは1または2であり、lおよびmはそれぞれ独立して0または1である。
【0012】
本発明の別の側面では、生分解性ステント基体を有するステントであって、前記生分解性ステント基体は生分解性材料を含み、前記生分解性材料が以下の(a)〜(d)の要件を満たす、ステントが提供される:
(a)前記生分解性材料を50℃のPBS中で12週間加水分解した場合の重量損失が、15%以上である;
(b)前記生分解性材料を50℃のPBS中で6週間加水分解した場合の分子量保持率が、40%未満である;
(c)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合の応力が、10MPa以上である;および
(d)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合のひずみが、100%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るステントの模式図である。
図2】加水分解試験(37℃)における比較例1および2の重量損失の経時的な測定結果を示す。
図3】加水分解試験(37℃)における比較例1および2の分子量保持率の経時的な測定結果を示す。
図4】加水分解試験(50℃)における実施例1〜3および比較例1の重量損失の経時的な測定結果を示す。
図5】加水分解試験(50℃)における実施例4、5および比較例3の重量損失の経時的な測定結果を示す。
図6】加水分解試験(50℃)における実施例1〜3および比較例1の分子量保持率の経時的な測定結果を示す。
図7】加水分解試験(50℃)における実施例4、5および比較例3の分子量保持率の経時的な測定結果を示す。
図8】加水分解試験(37℃)における比較例1および2の応力の経時的な測定結果を示す。
図9】加水分解試験(37℃)における比較例1および2のひずみの経時的な測定結果を示す。
図10】加水分解試験(50℃)における実施例1〜3および比較例1の応力の経時的な測定結果を示す。
図11】加水分解試験(50℃)における実施例4、5および比較例3の応力の経時的な測定結果を示す。
図12】加水分解試験(50℃)における実施例1〜3および比較例1のひずみの経時的な測定結果を示す。
図13】加水分解試験(50℃)における実施例4、5および比較例3のひずみの経時的な測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第一の側面では、生分解性ステント基体を有するステントであって、前記ステント基体は第1生分解性材料および第2生分解性材料を含み、前記第1生分解性材料は、重量平均分子量7万以上のポリ乳酸系重合体であり、前記第2生分解性材料は、下記式(1)または(2)で表される重量平均分子量500以上7万未満の重合体である、ステントが提供される。ただし、式(1)および(2)中、M11〜M13はそれぞれ独立して水素原子および1価金属からなる群から選択され、Mは2価金属であり、A〜Aは同一または異なった構造の生分解性重合体鎖であり、nは1または2であり、lおよびmはそれぞれ独立して0または1である(以下、「M11〜M13およびM」を区別せずに「M」と、「A〜A」を区別せずに「A」とも称する。)。
【0015】
【化3】
【0016】
【化4】
【0017】
上記のようなステント基体を有するステントであれば、分解速度と機械的強度の保持とが適度にバランスされたものとなる。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、これは、以下のメカニズムによるものと推測される。
【0018】
すなわち、本発明にかかるステントが有するステント基体に用いられる第1生分解性材料は生分解性のポリ乳酸系重合体であるが、7万以上という比較的大きな分子量である。分子量が大きい重合体をステント基体が含むことにより、ステントの機械的強度が向上し、血管内腔を支持するのに必要な拡張保持力(ラジアルフォース)が確保される。さらに、本発明にかかるステントに用いられるステント基体は、式(1)または(2)で表される構造を有し500以上7万未満という比較的低分子量な第2生分解性材料をも含む。第2生分解性材料も生分解性ポリマーであるが、親水性のカルボキシラート構造(例えば、カルボキシル基やカルボン酸の塩の基)を式(1)では主鎖末端部に、式(2)では主鎖連結部(および、任意に主鎖末端部)にそれぞれ有するため、第2生分解性材料を含むステント基体は重量当たりのカルボキシラート構造当量が多くなり、親水性が高くなると考えられる。また、第2生分解性材料は、ステント基体において、カルボキシル基またはその塩の基が自己触媒となり、ステント基体の加水分解をさらに促進し得る。本発明にかかるステントは、以上のように、機械的強度を確保するための第1生分解性材料と、分解速度を向上するための第2生分解性材料とをステント基体の材料として用いることで、両者が安定してつり合いが取れたものになると推測される。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で行う。
【0020】
本発明の一具体例にかかるステントの形状を図1に例示する。図1に示す態様において、ステント1は、一体的に連なるコイル形状のストラット(線状構成要素)が形成されたステント基体(ステント本体部)2からなり、内部に切欠き部を有する略菱形の要素21を基本単位とする。複数の略菱形の要素21がその短軸方向に連続して配置され結合することで、環状ユニット22をなしている。環状ユニット22は、隣接する環状ユニットと線状の連結部材23を介して接続されている。これにより複数の環状ユニット22が一部結合した状態で、その軸方向に連続して配置される。ステント1は、このような構成により、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体をなしている。ステント1は、略菱形の切欠き部を有しており、この切欠き部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっている。
【0021】
ただし、本発明において、ステントの形状は図示した態様に限定されず、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体であって、その側面上に、外側面と内側面とを連通する多数の切欠き部を有し、この切欠き部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造をも含む。ステントを構成するストラットの断面形状についても特に限定されず、例えば矩形、円形、楕円形、矩形以外の多角形等が挙げられる。ステントの形状も特に制限されず、従来公知の形状が採用され得る。例えば、繊維を編み上げて円筒状に形成したものや、パイプ(管状体)に開口部を設けたもの等が挙げられる。
【0022】
本発明に係るステントには、ステントおよびステントグラフトが含まれる。例えば、ステントは、従来使用されるステントと同様に、自己拡張型ステントまたはバルーンエクスパンダブルステント(バルーン拡張型ステント)であるが、好ましくは自己拡張型ステントである。従来の生分解性ポリマーを用いた自己拡張型ステントは、自己拡張性を達成するのに必要な物性(例えば、拡張保持力や、縮径後の回復力)を確保できない場合があった。また、自己拡張性が確保できた場合であっても、生分解性に劣るため実用的でない場合があった。これに対して、本発明のステントは、第1生分解性材料の存在により自己拡張性を達成するために必要な物性(例えば、拡張保持力や、縮径後の回復力)を確保でき、また、第2生分解性材料の存在により優れた生分解性をも達成できる。ゆえに、本発明にかかるステントを自己拡張型とすることで、自己拡張性を確保するのに必要な物性を備えつつ、生分解性にも優れたものとなる。
【0023】
ステントの厚さは、従来の一般的なものが採用できる。例えば、ステント基体の厚さは、例えば50〜500μm程度であり、支持性と分解時間との関係から、60〜300μm程度が好ましく、70〜200μm程度がより好ましい。本発明に係るステント基体は、優れた力学特性(例えば、拡張保持力)を有するため、ステントを肉薄にできる。
【0024】
ステントの大きさも、その目的や機能に合わせて適宜調節される。例えば、拡張後におけるステントの外径(直径)は、1〜40mm程度が好ましく、1.5〜10mm程度がより好ましく、2〜5mm程度が特に好ましい。
【0025】
また、ステントの長さも特に制限されず、処置すべき疾患によって適宜選択できるが、例えば5〜300mm程度が好ましく、10〜50mm程度がより好ましい。
【0026】
(第1生分解性材料)
第1生分解性材料としては、重量平均分子量7万以上のポリ乳酸系重合体が用いられる。本明細書において「ポリ乳酸系重合体」とは、そのポリマー主鎖に乳酸単位を50モル%以上含む重合体または共重合体である。
【0027】
本明細書において、ある材料や重合体が「生分解性」であるとは、実施例に記載の加水分解試験において、下記のポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィー法により重量平均分子量を測定した場合、保存開始前の分子量を100%としたとき、保存6週間後(保存42日後)の時点での分子量保持率が50%以下であることをいう。なお、加水分解試験は、実施例において詳述するように、10mm×60mm、厚さ0.1mmの試験片を試験試料にて調製し、15mlのPBSに浸漬して50℃のオーブン内で保存することにより行う。
【0028】
かような生分解性のポリ乳酸系重合体としては、例えば、ポリ乳酸、乳酸−カプロラクトン共重合体、乳酸−バレロラクトン共重合体、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−ジオキサノン共重合体、乳酸−グリコール酸−リンゴ酸共重合体、および乳酸−トリメチレンカーボネート共重合体等が例示できる。第1生分解性材料は、拡張保持力や縮径後の回復力の観点から、乳酸単位と、カプロラクトン単位、バレロラクトン単位、グリコール酸単位、ジオキサノン単位、リンゴ酸単位およびトリメチレンカーボネート単位からなる群から選択される1つ以上の構成単位Xとからなる共重合体であることが好ましく、前記構成単位Xがカプロラクトン単位である、すなわち乳酸−カプロラクトン共重合体がより好ましい。共重合体中の構成単位Xの割合を増やすことで、生分解性を高めることができる。
【0029】
第1生分解性材料が共重合体である場合、乳酸単位と、乳酸単位以外の構成単位(構成単位X)との比は任意に設定できるが、分解速度と機械的強度の保持とのバランスの観点から、60〜95モル%の乳酸単位と、40〜5モル%の構成単位Xとからなる(ただし、前記乳酸単位と前記構成単位Xとの合計量は100モル%である)ことが好ましい。より好ましくは、第1生分解性材料は、70〜90モル%の乳酸単位と、30〜10モル%の構成単位Xとからなる(ただし、前記乳酸単位と前記構成単位Xとの合計量は100モル%である)。なお、乳酸単位と、乳酸単位以外の構成単位(構成単位X)との比は、共重合体の合成に用いる単量体のモル比を適宜調整することで任意に設定できる。
【0030】
上記重合体および共重合体は、それぞれ、合成によって製造されてもまたは市販品を使用してもいずれでもよい。合成法は特に制限されず、公知の方法と同様にしてまたは適宜修飾して適用できる。例えば、ポリ乳酸、乳酸−バレロラクトン共重合体および乳酸−カプロラクトン共重合体は、乳酸の環状二量体であるラクチド、ならびにδ−バレロラクトンおよびε−カプロラクトンから必要とする構造のものを選んで、必要に応じて用いられる触媒の存在下で、開環重合することにより得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができる。また、上記の単量体を複数組み合わせて合成することもできる。本明細書において「乳酸単位」とは、単量体である乳酸またはラクチドに由来する構成単位をいう。また、他の構成単位も同様であり、例えば、「カプロラクトン単位」とは単量体であるε−カプロラクトンに由来する構成単位をいう。
【0031】
第1生分解性材料として市販の生分解性ポリマーを用いる場合、重量平均分子量が7万以上のポリ乳酸系重合体であれば特に制限されるものではないが、例えば、Resomer(登録商標)LC703S、Resomer(登録商標)RG756S、Resomer(登録商標)RG858S(以上、EVONIK Industries社)、およびBioDegmer(登録商標)LCL(75:25)(株式会社ビーエムジー)等が例示できる。
【0032】
第1生分解性材料の重量平均分子量は7万以上であればよいが、機械的強度の向上という観点から好ましくは10万以上であり、より好ましくは15万以上である。第1生分解性材料の重量平均分子量が7万未満であると、ステントに要求される機械的強度を確保することが困難になり、また、自己拡張型ステントとした場合に自己拡張性を確保するのに必要な物性(例えば、拡張保持力や、縮径後の回復力)を確保することが困難となる。重量平均分子量の上限は特に制限されないが、生分解性の観点から、例えば500万以下であり、好ましくは300万以下である。
【0033】
第1生分解性材料の数平均分子量は、例えば3.5万以上であり、機械的強度の向上という観点から好ましくは5万以上であり、より好ましくは10万以上である。数平均分子量の上限は特に制限されないが、生分解性の観点から、例えば250万以下であり、好ましくは100万以下であり、より好ましくは50万以下である。
【0034】
なお、本明細書において分子量(重量平均分子量および数平均分子量)は、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定された値であり、より具体的には実施例に記載の方法で測定された値である。
【0035】
以上の第1生分解性材料は、1種単独でまたは2種以上を混合してステント基体の材料として用いることができる。
【0036】
(第2生分解性材料)
第2生分解性材料は、上記式(1)または(2)で表される、重量平均分子量500以上7万未満の重合体である。ステント基体が第2生分解性材料を含むことにより、ステントの分解速度が向上する。
【0037】
上記式(1)および(2)中、M11〜M13はそれぞれ独立して水素、およびアルカリ金属のような1価金属からなる群から選択される。Mはアルカリ土類金属等の2価金属からなる群から選択される。好ましくは、M11〜M13はそれぞれ独立して第1族元素から選択され、Mはアルカリ土類金属、マグネシウムおよび亜鉛からなる群から選択される。より好ましくは、M11〜M13はそれぞれ独立して水素、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択され、Mはカルシウム、マグネシウム、バリウムおよび亜鉛からなる群から選択される。さらに好ましくは、M11〜M13は水素(すなわち、−COOMがカルボキシル基)であり、Mはマグネシウム、カルシウムおよび亜鉛からなる群から選択される。好ましい一実施形態では、第2生分解性材料は上記式(1)で表され、当該式(1)中、M11は水素、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択され、より好ましくはM11が水素(すなわち、−COOMがカルボキシル基)である。なお、上記式(1)および(2)において、「−COOM」は、カルボキシラートアニオンとカウンターイオンとに電離した構造(すなわち、−COO + M)、ならびにカルボキシル基(すなわち、−COOH)およびカルボン酸塩(すなわち、−COOM)を含む意味である。「−COO−M−OCO−」は、AまたはAの少なくとも一方を含むカルボキシラートアニオンとカウンターイオンとに電離した構造(すなわち、2×−COO + (M2+、または−COO + −COO(M)、またはMを介してAを含むポリマーとAを含むポリマーとが連結した構造を意味する。また、式(1)においてn=1のとき、−COOMを有しないポリマー主鎖末端部の構造(すなわち、−COOM11とは反対側の末端部)は特に制限されないが、一般的には水素原子、ヒドロキシル基、または金属アルコキシドである。式(1)においてn=2のときは、Aで表される生分解性重合体鎖の両末端が−COOM11で表される構造である。また、式(2)においてlおよびmの少なくとも一方が0のとき、−COOMを有しないポリマー主鎖末端部の構造は特に制限されないが、一般的には水素原子、ヒドロキシル基、または金属アルコキシドである。
【0038】
一実施形態では、第2生分解性材料は、以下の(a)および(b)から成る群から選択される;
(a):式(1)において、M11は水素原子、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択される、
(b):式(2)においてM12およびM13は水素原子であり、Mはマグネシウム、カルシウムおよび亜鉛からなる群から選択される。
【0039】
一実施形態において、nは1である。
【0040】
一実施形態では、lおよびmが0である。
【0041】
上記式(1)および(2)中、A〜Aは同一または異なった構造の生分解性重合体鎖であれば特に限定されないが、例えば乳酸単位、カプロラクトン単位、バレロラクトン単位、グリコール酸単位、ジオキサノン単位、リンゴ酸単位およびトリメチレンカーボネート単位から選択される2つ以上が連結した構造である。より好ましくは、上記式(1)および(2)におけるA〜Aが、ポリ乳酸系重合体鎖である、すなわち、A〜Aの構成単位全体に対して乳酸単位を50モル%以上含む。上記式(1)および(2)中、A〜Aが、ポリ乳酸系重合体鎖の場合、第2生分解性材料は、乳酸単位と、カプロラクトン単位、バレロラクトン単位、グリコール酸単位、ジオキサノン単位、リンゴ酸単位およびトリメチレンカーボネート単位からなる群から選択される1つ以上の構成単位Xとからなる共重合体であり得る。A〜Aがポリ乳酸系重合体鎖であることにより、生分解性が過剰に高くなることを防止し得る。A〜Aが、ポリ乳酸系重合体鎖である場合、乳酸単位とその他の構成単位との比率は特に制限されないが、例えば、分解速度と機械的強度の保持とのバランスの観点から、A〜Aは60〜95モル%の前記乳酸単位と40〜5モル%の前記構成単位Xとからなる(ただし、前記乳酸単位と前記構成単位Xとの合計量は100モル%である)ことが好ましく、より好ましくは70〜90モル%の前記乳酸単位と30〜10モル%の前記構成単位Xとからなる(ただし、前記乳酸単位と前記構成単位Xとの合計量は100モル%である)。なお、式(2)において、第2生分解性材料の重量平均分子量が500以上7万未満であれば、Aの重合度とAの重合度とは同一であっても異なってもよい。
【0042】
Aがポリ乳酸系重合体鎖である第2生分解性材料としては、第1生分解性材料について例示した上記の重合体や共重合体が例示できる。このうち、第2生分解性材料としては、分解速度と機械的強度の保持とのバランスの観点から乳酸−カプロラクトン共重合体であることがより好ましい。
【0043】
本発明の好ましい一実施形態では、上記式(1)および(2)におけるA〜Aが、前記ポリ乳酸系重合体を構成する構成単位からなる重合体鎖である。かような第1生分解性材料と第2生分解性材料とが同じ構成単位からなる重合体であることにより、第1生分解性材料と第2生分解性材料との混和性が良好となるという利点がある。さらに、これらの生分解性材料の生体内での分解機序、および分解生成物が同じになることから、生体への負荷を予想しやすく、より安全なステント材料となる。上記式(1)および(2)におけるA〜Aの構成単位を第1生分解性材料と同じ構成単位にする手段としては、例えば、後述のように、第1生分解性材料を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ存在下で加水分解することにより得られた重合体を第2生分解性材料として用いればよい。すなわち、第2生分解性材料は、第1生分解性材料の分解物(例えば、加水分解物)であることが好ましい。例えば、アルカリとして水酸化ナトリウムを用いることにより、式(1)におけるM11がナトリウムまたは水素となり、さらに加水分解物を水洗することでM11が水素となる。また、アルカリとして水酸化カルシウムを用いることにより式(2)におけるMがカルシウムである重合体が、水酸化バリウムを用いることにより式(2)におけるMがバリウムである重合体が得られる。あるいは、塩酸等の酸によって加水分解した後、酢酸亜鉛等によって主鎖末端カルボキシル基の水素を亜鉛に置換して、Mが亜鉛である重合体としてもよい。第1生分解性材料と第2生分解性材料とが同じ構成単位からなる重合体である場合、これら2つの生分解性材料中の乳酸単位と乳酸以外の構成単位との存在比は、同じであっても異なってもよいが、同じであることが好ましい。
【0044】
第2生分解性材料の重量平均分子量は500以上7万未満であればよいが、生分解性の観点から、好ましくは1,000以上30,000以下であり、より好ましくは5,000以上20,000以下であり、さらに好ましくは8,000以上20,000未満である。第2生分解性材料の重量平均分子量が500未満であると分解速度が過度に高くなる可能性があり、また、7万を超えると生分解性を向上する効果を得難い。
【0045】
第2生分解性材料の数平均分子量は、生分解性の観点から、例えば250〜25,000であり、好ましくは500〜20,000である。
【0046】
なお、第2生分解性材料の分子量(重量平均分子量、数平均分子量)は、第1生分解性材料と同様の方法により測定することができる。
【0047】
第2生分解性材料は、第1生分解性材料と同様に、ラクチド等のモノマーの重合反応(例えば、開環重合)によって合成してもよいが、第1生分解性材料を加水分解して調製してもよい。この場合、加水分解の条件としては、例えば、任意の溶媒に0.01〜10重量%程度の濃度で溶解した第1生分解性材料に対し、終濃度が1〜100mM程度、好ましくは1〜50mM程度となるように水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機または有機塩基化合物を加える。あるいは、任意の溶媒に0.01〜10重量%程度の濃度で溶解した第1生分解性材料溶液1vol.に対し、0.01〜1vol.程度かつ0.02〜1規定程度の濃度の無機または有機塩基化合物を加えてもよい。次いで、15〜40℃で1〜60分程度、必要に応じて撹拌しながら反応させる。反応に用いる溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が例示でき、これらのうち1種または2種以上混合して用いることができる。第2生分解性材料の分子量を小さくするためには、添加する有機塩基化合物の量を増やしたり、反応時間を長くしたり、反応温度を高くすればよい。反応後、生成物を任意に水洗、精製、乾燥して、回収物を第2生分解性材料として用いればよい。カラム精製等により、分子量分布の狭い重合体を得ることもできる。
【0048】
第2生分解性材料のカルボキシラート構造は、例えば13C−NMR等、従来公知の分析方法により確認することができる。本発明にかかるステントは、第2生分解性材料のカルボキシラート構造による親水性の増加および/または自己触媒作用により、生分解速度が向上すると考えられる。
【0049】
本発明にかかるステントは、上記の第1生分解性材料と第2生分解性材料とを含むステント基体を有することを特徴とする。第1生分解性材料と第2生分解性材料との重量比は任意に設定できるが、分解速度と機械的強度の保持とのバランスの観点から、例えば55:45〜99:1(w/w)であり、好ましくは70:30〜95:5(w/w)であり、より好ましくは75:25〜90:10(w/w)であり、さらに好ましくは75:25〜85:15(w/w)である。
【0050】
以上の第2生分解性材料は、1種単独でまたは2種以上を混合してステント基体の材料として用いることができる。
【0051】
ステント基体には、第1生分解性材料および第2生分解性材料以外にも、本発明の目的効果が損なわれない範囲においてその他の成分が含まれてもよいが、ステント基体は実質的に第1生分解性材料および第2生分解性材料のみから構成されることが好ましい。その他の成分としては、例えば、ステントを病変部に留置した際に起こりうる脈管系の狭窄、閉塞を抑制する薬剤等が例示できる。具体的には、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、脂質改善薬、抗血小板薬、および抗炎症薬などが挙げられる。これらの薬剤は、病変部組織の細胞の挙動を制御して、病変部を治療することができるという利点がある。上記のようなその他の成分は、第1生分解性材料および第2生分解性材料と共にステント基体内に存在していてもよいし、ステント基体上にコート層として存在していてもよい。
【0052】
前記抗癌剤としては、特に制限されないが、例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン等が好ましい。
【0053】
前記免疫抑制剤としては、特に制限されないが、例えば、シロリムス、エベロリムス、ピメクロリムス、ゾタロリムス等のシロリムス誘導体、バイオリムス(例えば、バイオリムスA9(登録商標))、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス等が好ましい。
【0054】
前記抗生物質としては、特に制限されないが、例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ジノスタチンスチマラマー等が好ましい。
【0055】
前記抗血栓薬としては、特に制限されないが、例えば、アスピリン、チクロピジン、アルガトロバン等が好ましい。
【0056】
前記HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、特に制限されないが、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン等が好ましい。
【0057】
前記ACE阻害剤としては、特に制限されないが、例えば、キナプリル、トランドラプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、カプトプリル等が好ましい。
【0058】
前記カルシウム拮抗剤としては、特に制限されないが、例えば、ヒフェジピン、ニルバジピン、ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。
【0059】
前記抗高脂血症剤としては、特に制限されないが、例えば、プロブコールが好ましい。
【0060】
前記インテグリン阻害薬としては、特に制限されないが、例えば、AJM300が好ましい。
【0061】
前記抗アレルギー剤としては、特に制限されないが、例えば、トラニラストが好ましい。
【0062】
前記抗酸化剤としては、特に制限されないが、例えば、α−トコフェロール、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールが好ましい。
【0063】
前記GPIIbIIIa拮抗薬としては、特に制限されないが、例えば、アブシキシマブが好ましい。
【0064】
前記レチノイドとしては、特に制限されないが、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。
【0065】
前記脂質改善薬としては、特に制限されないが、例えば、エイコサペンタエン酸が好ましい。
【0066】
前記抗血小板薬としては、特に制限されないが、例えば、チクロピジン、シロスタゾール、クロピドグレルが好ましい。
【0067】
前記抗炎症剤としては、特に制限されないが、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドが好ましい。
【0068】
ステント基体が第1生分解性材料および第2生分解性材料以外に、その他の成分を含む場合、ステント基体全体に対し、第1生分解性材料および第2生分解性材料は、合計で、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上(上限100重量%)含み、残りがその他の成分となる。
【0069】
ステント基体の製造方法は特に制限されず、従来公知の方法によって行えばよいが、例えば、第1生分解性材料および第2生分解性材料、ならびに任意に含まれるその他の成分を、例えば加熱押し出しによりチューブ状に成形した後、レーザーカット等により所望の形状に加工すればよい。
【0070】
本発明にかかるステントは、上記のステント基体のほか、本発明の目的効果を損なわない範囲において、任意の生分解性材料を用いてステント基体上にコート層を設けてもよい。コート層の形成に用いられる生分解性材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体が例示でき、より具体的には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、乳酸−カプロラクトン共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、およびヒアルロン酸、からなる群から選ばれた少なくとも1種またはブレンドであり、生体内で分解することを考慮すると医学的に安全なものが好ましい。ステント外表面(ステント基体外表面)をコーティングする生分解材料の分子量、精製度、結晶化度を調節して親水性を低く抑えることで、強度維持期間を長くすることができる。例えば、上記の生分解性材料の精製度を高めて未反応のモノマーや低分子量各分を排除したり、結晶化度を高めてステント骨格内部に侵入する水分量を抑制したりすることで、加水分解時間を長くすることができる。また、上記のコート層形成生分解性材料と、上述した薬剤の1種または2種以上とを、任意の割合で、例えば1:99〜99:1(w/w)、好ましくは95:5〜80:20(w/w)の割合で含有させ、コート層を薬剤コーティング層とすることもできる。コート層の形成方法は、特に制限されず、通常のコーティング方法が同様にしてまたは適宜修飾して適用できる。具体的には、生分解性材料、ならびに必要に応じて上記薬剤および適当な溶剤を混合して混合物を調製し、当該混合物をステント基体に塗布する方法が適用できる。
【0071】
本発明にかかるステントに用いるステント基体の材料は、実施例に記載の方法にて測定される50℃での加水分解試験において、以下の少なくとも一つを満たすことが好ましい。加水分解試験は、実施例において詳述するように、10mm×60mm、厚さ0.1mmの試験片に調製した形成材料を、15mlのPBSに浸漬して50℃のオーブン内で任意の期間保存することにより行う。
【0072】
12週間の加水分解試験(50℃保存84日後)において、実施例の方法により測定される重量損失(Weight Loss)は、血管内に留置されたステントの生分解性の観点から、15%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上であり、更に好ましくは25%以上であり、特に好ましくは30%以上である。上記の重量損失の上限は特に制限されず、例えば100%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは45%以下である。
【0073】
6週間の加水分解試験(50℃保存42日後)において、実施例の方法により測定された重量平均分子量から算出される分子量保持率は、保存開始前の分子量を100%としたとき、40%未満であることが好ましく、より好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。上記の分子量保持率の下限は特に制限されず、例えば0%以上、好ましくは0%超、より好ましくは5%以上である。
【0074】
例えば第1生分解性材料に対する第2生分解性材料の配合比を高くすると、加水分解速度が高くなる。従って、例えば第1生分解性材料に対する第2生分解性材料の配合比を高くすると上記重量損失は大きくなり、分子量保持率は低くなる。
【0075】
2週間の加水分解試験(50℃保存14日後)において、実施例の方法により測定される応力(最大応力)は、拡張保持力(ラジアルフォース)を確保する観点から、10MPa以上であることが好ましく、より好ましくは15MPa以上である。上記の応力の上限は特に制限されないが、分解速度とのバランスの観点から、50MPa以下であり、好ましくは30MPa以下であり、より好ましくは20MPa以下である。なお、上記試験片を用いて実施例に記載のオートグラフにて測定した場合、標準的なステント基材の材料に要求される応力の水準としては、10MPa以上、好ましくは15MPa以上である。
【0076】
2週間の加水分解試験(50℃保存14日後)において、実施例の方法により測定されるひずみ(破断ひずみ)は、拡張保持力(ラジアルフォース)を確保する観点から、たとえば100%以上であり、150%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは250%以上である。上記の応力の上限は特に制限されないが、分解速度とのバランスの観点から、好ましくは500%以下であり、より好ましくは300%以下であり、さらに好ましくは280%以下である。なお、上記試験片を用いて実施例に記載のオートグラフにて測定した場合、標準的なステントに要求されるひずみの水準としては、100%以上である。
【0077】
例えば第2生分解性材料に対する第1生分解性材料の配合比を高くすると、機械的強度が向上する。従って、例えば第2生分解性材料に対する第1生分解性材料の配合比を高くすることで上記の応力やひずみの値は大きくなる。
【0078】
本発明の第二の側面では、生分解性ステント基体を有するステントであって、前記生分解性ステント基体は生分解性材料を含み、前記生分解性材料が以下の(A)〜(D)の要件を満たす、ステントが提供される:
(A)前記生分解性材料を50℃のPBS中で12週間加水分解した場合の重量損失が、15%以上である;
(B)前記生分解性材料を50℃のPBS中で6週間加水分解した場合の分子量保持率が、40%未満である;
(C)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合の応力が、10MPa以上である;および
(D)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合のひずみが、100%以上である。
【0079】
上記の加水分解は、例えば、所望の大きさの試験片に調製した生分解性材料を250倍容量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(例えば、10mm×60mm、厚さ0.1mm程度の試験片に対して15mlのPBS)に浸漬して、50℃のオーブン内で所望の期間保存することにより実施できる。
【0080】
上記重量損失は、以下の手法により測定された値である。すなわち、所望の大きさ(例えば、10mm×60mm、厚さ0.1mm程度)の試験片に調製した生分解性材料を、50℃の真空オーブンを用いて8時間真空乾燥させる。真空オーブンから試験片を取り出して5分以内に、電子天秤で重量を測定する(W)。その後、12週間の上記加水分解後において、PBSから取り出した試験片をイオン交換水で洗浄した後、同様の方法により電子天秤で重量を測定する(W12)。上記WおよびW12から、以下の式に従って重量損失を算出する。
【0081】
【数1】
【0082】
上記分子量保持率は、以下の手法により測定された値である。すなわち、上記加水分解前の生分解性材料の重量平均分子量(Mw)に対する、6週間の加水分解後の生分解性材料の重量平均分子量(Mw)を百分率で表した(Mw/Mw×100)ものである。ただし、重量平均分子量はGPC装置を用いて、以下の条件にて、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値である;
装置:セミミクロGPCシステムLC−20AD(株式会社島津製作所)
検出器:Shodex(登録商標) RI−104(昭和電工株式会社)
カラム:Shodex(登録商標) GPC LF−404(昭和電工株式会社)
カラム温度:40℃
移動相溶媒:CHCl
流速:0.15mL/min
注入量:20μL
試料の調製:測定するサンプル6mgに、移動相溶媒を2mL加えて溶解させた後、0.45μmのPTFEメンブレンフィルターでろ過する。
【0083】
上記応力およびひずみは、以下の手法により測定された値である。すなわち、所望の大きさ(例えば、10mm×60mm、厚さ0.1mm程度)の試験片に調製した生分解性材料を用いて2週間の上記加水分解を行う。加水分解後の試験片をイオン交換水で洗浄し、37℃に加温したイオン交換水に1時間浸漬し、表面の水分を拭き取って10分以内に下記条件の引張試験を行って応力(引っ張り始めから試験片破断までの最大応力)およびひずみ(試験片破断時の伸びを初期チャック間距離で割った値の百分率)を求める;
装置:卓上型精密万能試験機オートグラフAGS−1kNX(株式会社島津製作所)
引張速度:100mm/min
初期チャック間距離:20mm。
【0084】
上記の本発明の第二の側面に係るステントに用いられる生分解性材料としては、第一の側面において説明された第1生分解性材料および第2生分解性材料が挙げられる。第二の側面に係るステントに用いられる生分解性材料としては、ポリ乳酸系重合体が好ましく用いられる。
【0085】
なお、本発明の第一の側面に係るステントについてされた上記説明は、適宜改変されて、本発明の第二の側面に係るステントに適用され得る。
【0086】
一実施形態では、本発明の第二の側面に係るステントは、自己拡張型である。
【0087】
一実施形態では、本発明の第二の側面に係るステントは、以下の(a)〜(d)の要件を満たす;
(a)前記生分解性材料を50℃のPBS中で12週間加水分解した場合の重量損失が、15〜60%である;
(b)前記生分解性材料を50℃のPBS中で6週間加水分解した場合の分子量保持率が、0%超40%未満である;
(c)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合の応力が、10〜50MPaである;および
(d)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合のひずみが、100〜500%である。
【0088】
好ましい一実施形態では、本発明の第二の側面に係るステントは、以下の(a’)〜(d’)の要件を満たす;
(a’)前記生分解性材料を50℃のPBS中で12週間加水分解した場合の重量損失が、15〜45%である;
(b’)前記生分解性材料を50℃のPBS中で6週間加水分解した場合の分子量保持率が、5%以上40%未満である;
(c’)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合の応力が、15〜50MPaである;および
(d’)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合のひずみが、150〜300%である。
【0089】
より好ましい一実施形態では、本発明の第二の側面に係るステントは、以下の(a”)〜(d”)の要件を満たす;
(a”)前記生分解性材料を50℃のPBS中で12週間加水分解した場合の重量損失が、20〜45%である;
(b”)前記生分解性材料を50℃のPBS中で6週間加水分解した場合の分子量保持率が、5〜20%である;
(c”)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合の応力が、15〜30MPaである;および
(d”)前記生分解性材料を50℃のPBS中で2週間加水分解した場合のひずみが、150〜280%である。
【実施例】
【0090】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0091】
[実施例1〜3]
(1)第2生分解性材料の製造
4.00gのポリ乳酸系重合体(乳酸−カプロラクトン共重合体;EVONIK Industries社、Resomer(登録商標) LC703S、Mw:187,000、乳酸単位:カプロラクトン単位=70:30(モル/モル))を500mlフラスコに量りとり、200mLのCHCl(関東化学)を加えて溶解させた。この溶液に、0.1mol/LのNaOH水溶液(和光純薬工業)を60mL加え、室温(25℃)で5分間、マグネティックスターラーを用いて撹拌した。
【0092】
撹拌後の液にイオン交換水400mLを投入し、マグネティックスターラーにて5分間撹拌した後、デカンテーションにより水相を取り除いた。上記のイオン交換水での溶液洗浄を5回行った後、エバポレーターにて溶媒を除き、真空オーブンにて50℃、3時間、生成物を減圧乾燥して、重量平均分子量11,100(数平均分子量2,460、乳酸単位:カプロラクトン単位=70:30(モル/モル))の第2生分解性材料を得た。
【0093】
(2)試験片の作製
重量平均分子量187,000(数平均分子量106,000)のポリ乳酸系重合体(乳酸−カプロラクトン共重合体;EVONIK Industries社、Resomer(登録商標) LC703S、乳酸単位:カプロラクトン単位=70:30(モル/モル)、第1生分解性材料)、および上記で調製した第2生分解性材料を、50mLサンプル瓶に表1の通りにそれぞれ量り採った。
【0094】
それぞれのサンプル瓶に30mLのCHCl(関東化学)を加え、第1生分解性材料および第2生分解性材料を溶解させた。各サンプル瓶の溶液をφ100mmのPFAシャーレ2枚に気泡が混じらないように流し込み、室温で風乾させた後、真空オーブンにて50℃、3時間、減圧乾燥させた。
【0095】
形成されたフィルム(厚さ約0.1mm)をPFAシャーレからはがし、10mm×60mmの短冊状にカットして試験片とした。
【0096】
[比較例1]
上記第1生分解性材料のみを用いた以外は実施例と同様にして、比較試験片1を調製した。
【0097】
[比較例2]
重量平均分子量187,000のポリ乳酸系重合体に代えて、重量平均分子量61,500のポリ乳酸系重合体(乳酸−グリコール酸共重合体;EVONIK Industries社、Resomer(登録商標) RG505、乳酸単位:グリコール酸単位=50:50(モル/モル))を用いた以外は比較例1と同様にして、比較試験片2を調製した。
【0098】
【表1】
【0099】
[実施例4、5]
(1)第2生分解性材料の製造
Resomer(登録商標) LC703Sに代えて、4.00gのポリ乳酸系重合体(乳酸−カプロラクトン共重合体;株式会社ビーエムジー、BioDegmer(登録商標)LCL(75:25)、Mw:270,000、乳酸単位:カプロラクトン単位=75:25(モル/モル))を用いた以外は実施例1と同様にして、重量平均分子量13,000(数平均分子量:2,860、乳酸単位:カプロラクトン単位=75:25)の第2生分解材料を得た。
【0100】
(2)試験片の作製
重量平均分子量270,000(数平均分子量170,000)のポリ乳酸系重合体(乳酸−カプロラクトン共重合体;株式会社ビーエムジー、BioDegmer(登録商標)LCL(75:25)、乳酸単位:カプロラクトン単位=75:25(モル/モル)、第1生分解性材料)、および上記で調製した第2生分解性材料を用いた以外は実施例1と同様にして、表2の配合で試験片を作製した。
【0101】
【表2】
【0102】
[比較例3]
重量平均分子量270,000(数平均分子量170,000)のポリ乳酸系重合体(乳酸−カプロラクトン共重合体;株式会社ビーエムジー、BioDegmer(登録商標)LCL(75:25)、乳酸単位:カプロラクトン単位=75:25(モル/モル))を用いた以外は比較例1と同様にして試験片を作製した。
【0103】
[評価]
<含水率>
親水性の指標である含水率は以下の手順に従って測定した。なお、電子天秤はウルトラミクロ天秤SC2(ザルトリウス)を用いて0.1μgまで測定した。
【0104】
試験片を5mm×5mmの大きさにカットし、50℃の真空オーブンを用いて8時間真空乾燥させた。真空オーブンから試験片を取り出して直ぐに、電子天秤で重量を測定した(w1)。その後、試験片をサンプルチューブに収容し、イオン交換水を加えて試験片を完全に水中に沈め、37℃のインキュベーター内で2時間保存した。試験片を取り出し、表面の水分を拭き取った後、すぐに電子天秤で重量を測定した(w2)。重量w2を測定した試験片を、50℃の真空オーブンを用いて8時間真空乾燥させた。真空オーブンから試験片を取り出してすぐに、電子天秤で重量を測定した(w3)。含水率は以下の式に従って算出した。含水率が高いほど、試験試料の親水性が高いことを示す。
【0105】
【数2】
【0106】
<加水分解試験>
加水分解試験は以下のように行った。すなわち、短冊状にカットした試験片(10mm×60mm、厚さ0.1mm)を、15mLのサンプルチューブに1枚ずつ収容した。PBS(Sigma−Aldrich)をサンプルチューブに15mL加え、37℃(比較例のみ)または50℃のオーブン内で2週間、4週間、6週間、8週間、または12週間保存した。
【0107】
<重量損失(Weight Loss)>
加水分解過程における重量損失は以下の手法により評価した。すなわち、10mm×60mmの大きさにカットした加水分解試験前の試験片を、50℃の真空オーブンを用いて8時間真空乾燥させた。真空オーブンから試験片を取り出して直ぐに、電子天秤で重量を測定した(W)。その後、加水分解試験における任意の時点(t)において、PBSから取り出した試験片をイオン交換水で洗浄した後、同様の方法により電子天秤で重量を測定した(W)。任意の時点(t)における重量損失は、以下の式に従って算出した。
【0108】
【数3】
【0109】
<分子量測定>
分子量は、GPC装置を用いて、以下の条件にて、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した。
【0110】
(分子量の測定条件)
装置:セミミクロGPCシステムLC−20AD(株式会社島津製作所)
検出器:Shodex(登録商標) RI−104(昭和電工株式会社)
カラム:Shodex(登録商標) GPC LF−404(昭和電工株式会社)
カラム温度:40℃
移動相溶媒:CHCl
流速:0.15mL/min
注入量:20μL
試料の調製:測定するサンプル6mgに、移動相溶媒を2mL加えて、溶解させた後、0.45μmのPTFEメンブレンフィルターでろ過した。
【0111】
<引張試験(応力(Stress)、ひずみ(Strain))>
応力とひずみは、加水分解前の短冊状試験片、および、所定時間加水分解後の短冊状試験片を用いて、以下の条件にて測定した。なお、加水分解前の試験片は37℃に加温したイオン交換水に1時間浸漬し、水から取り出した後表面の水分を拭き取り、すぐに引張試験を行った。また加水分解後の試験片は、イオン交換水で洗浄後、37℃に加温したイオン交換水に1時間浸漬し、水から取り出した後、表面の水分を拭き取り、すぐに引張試験を行った。
【0112】
最大応力(Maximum Stress)は引っ張り始めから試験片破断までの最大応力とし、破断ひずみ(Strain at break)は試験片破断時の伸びを初期チャック間距離で割った値の百分率として算出した。
【0113】
(測定条件)
装置:卓上型精密万能試験機オートグラフAGS−1kNX(島津製作所)
引張速度:100mm/min
初期チャック間距離:20mm。
【0114】
<結果>
(含水率)
含水率の測定結果を下記表3および4に示す。下記表3および4に示すとおり、第2生分解性材料の含量依存的に試験片の含水率が向上した。
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
(重量損失(Weight Loss)、分子量)
37℃での加水分解試験における、重量損失および分子量保持率について経時的に測定した結果を図2および図3に示す。なお、分子量保持率は、保存試験開始前の重量平均分子量(Mw)に対する、任意の保存期間経過後の重量平均分子量(Mw)を百分率で表した(Mw/Mw×100)ものである。重量平均分子量は、第1生分解性材料と第2生分解性材料とを含む生分解性樹脂全体として測定した値である。比較試験片1では加水分解速度が遅いため、ステント基体の材料として用いた場合に過度に長期間留置されることとなる。一方、比較試験片2では加水分解速度が速すぎるため、血管内壁が再生する前に分解してしまう可能性がある。
【0118】
50℃での加水分解試験における、重量損失および分子量保持率について経時的に測定した結果を図4図7に示す。50℃で加水分解を行う場合、37℃での場合に比べて分解速度が5倍ほど速くなる。50℃の加水分解試験では、比較試験片1でも重量損失、および分解に伴う分子量の低下が認められた。第2生分解性材料を第1生分解性材料と組み合わせることで、第2生分解性材料の量依存的に加水分解速度を向上できることが分かる。
【0119】
(引張試験)
37℃での加水分解試験における、応力およびひずみについて経時的に測定した結果を図8および図9に示す。比較試験片2では、加水分解試験1週間の時点で、標準的なステントに要求される機械的強度の水準を下回る結果となった。したがって、比較試験片2では加水分解速度が速すぎるため、血管内腔を支持するのに必要な拡張保持力(ラジアルフォース)を確保することが困難であり、血管内壁が再生する前に分解する可能性がある。
【0120】
50℃での加水分解試験における、応力およびひずみについて経時的に測定した結果を図10図13に示す。50℃の加水分解試験では、比較試験片1でも破断ひずみの低下が認められた。第2生分解性材料を第1生分解性材料と組み合わせた実施例に係る試験片は、長期間にわたり、標準的なステントに要求される機械的強度の水準を満たしていた。例えば、試験片1および2は、それぞれ約5週間および3週間といった長期間にわたり、標準的なステントに要求される機械的強度の水準を満たしていた。なお、実施例2、3および5では、加水分解試験6週目以降は試験片が脆くなったため、未測定である。
【0121】
[実施例6]
実施例1の材料によりチューブを作製し、レーザーカットにより自己拡張型ステントを作製した(厚み150μm、ストラット幅150μm、外径3.5mm(D1)、長さ18mm)。作製した自己拡張型ステントを縮径し、内径1.2mmのPTFE製チューブに装填した。37℃に調温したイオン交換水中に当該チューブを浸漬し、装填した自己拡張型ステントを当該チューブから放出し、37℃のイオン交換水中で1分間静置した。その後、ステントを水から取り出し、再度外径(D2)をノギスで測定し、回復率((D2÷D1)×100(%))を算出した。
【0122】
その結果、本発明にかかるステントは、99.7%という高い回復率を示した。このことから、本発明かかるステントは、自己拡張型ステントとして好適に用いられ得ることが分かる。
【0123】
なお、本出願は、2015年7月16日に出願された日本特許出願第2015−142400号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として本開示に引用される。
【符号の説明】
【0124】
1 ステント、
2 ステント基体(生分解性ステント基体)、
21 略菱形の要素、
22 環状ユニット、
23 連結部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13