特許第6766089号(P6766089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6766089-有機イオウ化学種から作られる電池 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6766089
(24)【登録日】2020年9月18日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】有機イオウ化学種から作られる電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20200928BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20200928BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20200928BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20200928BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20200928BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20200928BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20200928BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20200928BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20200928BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20200928BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20200928BHJP
   C07C 321/04 20060101ALN20200928BHJP
   C07C 323/11 20060101ALN20200928BHJP
   C07F 1/02 20060101ALN20200928BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/054
   H01M10/0569
   H01M10/0565
   H01M4/40
   H01M4/38 Z
   H01M4/60
   H01M2/16 P
   H01M4/62 Z
   H01M10/0568
   H01M4/13
   !C07C321/04
   !C07C323/11
   !C07F1/02
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-73324(P2018-73324)
(22)【出願日】2018年4月5日
(62)【分割の表示】特願2015-505845(P2015-505845)の分割
【原出願日】2013年4月9日
(65)【公開番号】特開2018-113265(P2018-113265A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2018年4月5日
(31)【優先権主張番号】61/623,723
(32)【優先日】2012年4月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー・エス・スミス
(72)【発明者】
【氏名】リジュアン・ワン
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−514356(JP,A)
【文献】 特開2005−085760(JP,A)
【文献】 特開2005−108724(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0231168(US,A1)
【文献】 特開2002−237285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/13−4/62
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ナトリウム、リチウム、あるいはナトリウムまたはリチウムのうちの少なくとも一方とイオンを供給するための少なくとも1種の金属との合金または複合体を含むアノード活性物質を含むアノードと、
b)元素イオウ、元素セレン、または元素カルコゲンの混合物を含むカソード活性物質を含むカソードと、
c)前記アノードと前記カソードの間に位置し、前記アノードおよび前記カソードと接している液体またはゲル電解溶液を分離するように作用する中間セパレータ要素であって、これを通って金属イオンおよびそれらの対イオンが、電池の充電および放電サイクルの間に前記アノードと前記カソードの間を移動する、中間セパレータ要素と
を含む電池であって、
前記液体またはゲル電解溶液が、非水性の極性非プロトン性溶媒またはポリマーと、導電性の塩とを含み、かつ条件(i)または(ii)、
(i)前記液体またはゲル電解溶液の少なくとも1つが、さらに少なくとも1種の有機イオウ化学種を含む、
(ii)前記カソードが、さらに少なくとも1種の有機イオウ化学種から構成される
の少なくとも1つを満たし、
前記有機イオウ化学種が、ジチオアセタール、ジチオケタール、トリチオ−オルト炭酸、チオスルホン酸[−S(O)2−S−]、チオスルフィン酸[−S(O)−S−]、チオカルボン酸[−C(O)−S−]、ジチオカルボン酸[−C(S)−S−]、チオリン酸、チオホスホン酸、モノチオ炭酸、ジチオ炭酸、及びトリチオ炭酸より成る群から選択される1種以上のイオウ含有官能基を含有するもの;式R1−S−Mの有機チオラートもしくは式R1−S−Sn−Mの有機ポリチオラート(ここで、R1は、線状または分岐の脂肪族であることができるC1〜C20有機部分を表し、Mは、リチウム、ナトリウム、第四アンモニウム、または第四ホスホニウムであり、nは1以上の整数である)、式(IV)の芳香族ポリスルフィド、式(V)のポリエーテル−ポリスルフィド、式(VI)のポリスルフィド−酸の塩、または式(VII)のポリスルフィド−酸の塩、式(IX)のトリチオ炭酸官能基を含有する有機ポリスルフィドまたは有機金属ポリスルフィド、式(X)のジチオ炭酸官能基を含有する有機ポリスルフィドまたは有機金属ポリスルフィド、あるいは式(XI)のモノチオ炭酸官能基を含有する有機ポリスルフィドまたは有機金属ポリスルフィドである、前記電池。
【化1】
(式中、式(IV)におけるR4は、独立してtert−ブチルまたはtert−アミルであり、R5は、独立してOH、OLi、またはONaであり、またrは0以上であり、その芳香族環は、任意選択で1つまたは複数の位置で水素以外の置換基により置換され、式(VI)におけるR6は、二価有機部分であり、式(VII)におけるR5は、二価有機部分であり、各Zは、独立してC1〜C20有機部分、Li、Na、または第四アンモニウムであり、Mはリチウム、ナトリウム、第四アンモニウム、または第四ホスホニウムであり、かつoおよびpは、それぞれ独立して1以上の整数である。)
【化2】
(式中、Zは、C1〜C20有機部分、Na、Li、第四アンモニウム、または第四ホスホニウムであり、かつoおよびpは、独立して1以上の整数である。)
【請求項2】
前記有機イオウ化学種が、式(I)または(II)のジチオアセタールまたはジチオケタール、あるいは式(III)のトリチオ−オルト炭酸塩である、請求項1に記載の電池。
【化3】
(式中、各R3は、独立してH、あるいは線状または分岐の脂肪族であることができるC1〜C20有機部分であり、o、p、およびqは、それぞれ独立して1以上の整数であり、かつ各Zは、独立して線状もしくは分岐の脂肪族であることができるC1〜C20有機部分、Li、Na、または第四アンモニウム、もしくは第四ホスホニウムである。)
【請求項3】
前記カソードがさらに、少なくとも1種の導電性添加剤および/または少なくとも1種のバインダーから構成される、請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記中間セパレータ要素が、前記アノードと関係があるアノード液部分および前記カソードと関係があるカソード液部分を提供するように前記電池を仕切り、かつ前記有機イオウ化学種が、前記アノード液部分または前記カソード液部分の少なくとも一方に存在する、請求項1に記載の電池。
【請求項5】
前記非水性の極性非プロトン性溶媒またはポリマーが、エーテル、カルボニル、エステル、炭酸、アミノ、アミド、スルフィジル[−S−]、スルフィニル[−S(O)−]、またはスルホニル[−SO2−]から選択される1種または複数種の官能基を含有する、請求項1に記載の電池。
【請求項6】
前記導電性の塩が、式MXに対応し、式中、Mは、Li、Na、または第四アンモニウムであり、かつXは、(CF3SO22N、CF3SO3、CH3SO3、ClO4、PF6、NO3、AsF6、またはハロゲンである、請求項1に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム、リチウム、またはこれらの混合物、あるいはナトリウムおよび/またはリチウムと1種または複数種の他の金属の合金または複合体から作られるアノードと、元素イオウ、元素セレン、または元素カルコゲンの混合物から作られるカソードとを有し、そのアノードおよびカソードがセパレータ要素によって仕切られ、非水性の極性非プロトン性溶媒またはポリマー中の導電性塩の液体またはゲル電解溶液がそれら電極と接している電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学電池は、電気エネルギーを貯蔵し供給するための主要な手段である。電子機器、輸送機関、およびグリッドストレージ用途のエネルギーの需要増加によって、より大きな電力の貯蔵および供給能力を有する電池に対する必要性は、将来にわたって長く続くことになる。
【0003】
リチウムイオン電池は、他の種類の電池と比べてそれらの軽量かつ高エネルギー貯蔵能力のために、携帯型電子機器用途に1990年代前半以来広く使用されてきた。しかしながら、現在のLiイオン電池技術は、内燃エンジンによって動力を与えられる乗り物に対して競争力のある駆動範囲を有するグリッドストレージまたは電気自動車などの大型用途のための高電力およびエネルギーのニーズを満たしていない。したがって科学および技術共同体における広範囲に及ぶ取り組みにより、より高いエネルギー密度および容量を有する電池を依然として求め続けている。
【0004】
ナトリウム−イオウおよびリチウム−イオウ電気化学セルは、Liイオンセルよりもはるかに高い理論的エネルギー容量を与え、したがって「次世代」電池システムとして関心を引き続けてきた。元素イオウの単量体硫化物への電気化学的転化(S2-)は、Liイオンセルの場合の300mAh/g未満と比べて1675mAh/gの理論容量を与える。
【0005】
ナトリウム−イオウ電池は、商用システムとして開発され発売されている。残念なことにナトリウム−イオウ電池は、機能するには一般に高温(300℃を超える)を必要とし、したがって大型の固定用途にのみ適している。
【0006】
1950年代後半および1960年代に初めて提案されたリチウム−イオウ電気化学セルは、今はじめて商用電池システムとして開発されている。これらのセルは、リチウムイオンの624Wh/gに対比して、2500Wh/kg(2800Wh/L)を超える理論的比エネルギー密度を与える。Li−Sセルの実証された比エネルギー密度は、Liイオンセルの100Wh/gと比較すると250〜350Wh/kgの範囲にあり、このより低い値は、充電および放電の間のこれらの系の電気化学的過程の特殊機構の結果である。リチウム電池の実用上の比エネルギーが、一般に理論値の25〜35%であることを考えれば、Li−S系の最適な実用上の比エネルギーは、約780Wh/g(理論値の30%)であるはずである(V.S.KolosnitsynおよびE.Karasevaの米国特許出願公開第2008/0100624A1号明細書)。
【0007】
リチウム−イオウ化学反応は、これらの電気化学的セルの開発を妨げてきた複数の技術的課題、具体的には不十分な放電−充電のサイクル性を提示する。それにもかかわらず、リチウム−イオウセルの固有の軽量、低コスト、高電力容量のため、リチウム−イオウ系の性能の向上には大きな関心が存在し、最近の20年間、これらの課題に対処するために全世界にわたって多くの研究者による広範囲に及ぶ研究が行われている。[C. Liang, et al. in Handbook of Battery Materials 2nd Ed., Chapter 14, pp. 811-840 (2011)、およびV.S. Kolosnitsyn, et al., J. Power Sources 2011, 196, 1478-82、およびこれらの中の参考文献。]
【0008】
リチウム−イオウ系のセルの設計には一般に下記が含まれる。
・リチウム金属、リチウム合金、またはリチウム含有複合材料からなるアノード。
・アノードとカソードの間の非反応性だが多孔質のセパレータ(多くの場合、ポリプロピレンまたは −アルミナ)。このセパレータの存在の結果、分かれたアノード液およびカソード液の区画が生ずる。
・バインダー(多くの場合、ポリ二フッ化ビニリデン)と導電性増強物質(多くの場合、黒鉛、メソ多孔質黒鉛、多層カーボンナノチューブ、グラフェン)とを組み込んだイオウを担持する多孔質のカソード。
・極性の非プロトン性溶媒と、1種または複数種の導電性Li塩((CF3SO22-、CF3SO3-、CH3SO3-、ClO4-、PF6-、AsF6-、ハロゲンなど)とからなる電解液。これらのセルに使用される溶媒には、塩基性(カチオン錯化)非プロトン性の極性溶媒、例えばスルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリジノン、テトラエチルスルファミド、テトラヒドロフラン、メチル−THF、1,3−ジオキソラン、ダイグライム、およびテトラグライムが挙げられる。より低極性の溶媒は、導電性が劣り、かつLi+化学種を溶媒和化する能力が劣るせいで適切でなく、またプロトン性溶媒は、Li金属と反応する恐れがある。リチウム−イオウセルの固体バージョンでは、液体溶媒がポリエチレンオキシドなどの高分子材料と置き換えられる。
・集電装置および適切なケーシング材料。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0100624A1号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】C. Liang, et al. in Handbook of Battery Materials 2nd Ed., Chapter 14, pp. 811-840 (2011)
【非特許文献2】V.S. Kolosnitsyn, et al., J. Power Sources 2011, 196, 1478-82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、金属−イオウ電池、具体的にはリチウム−イオウ電池に使用される有機ポリスルフィドおよび有機ポリチオラートの組成物および応用法を提供する。この有機ポリスルフィドおよび有機ポリチオラート化学種は、繰返し放電および充電サイクルの間のこのような電気化学セルの性能を向上させるように働く。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって本発明は、1つまたは複数の正極(カソード)、1つまたは複数の負極(アノード)、および電解液媒体を有するセルまたは電池を含むエネルギーの化学的供給源に関する。その有効化学反応は、イオウまたはポリスルフィド化学種の還元および反応性金属化学種の酸化を伴う。負極は、反応性金属、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、またはこれらの金属と他の物質の合金/複合体を含む。正極は、イオウ、有機ポリスルフィド化学種、および/または有機ポリスルフィドの金属塩と、これらの化学種を含有する基質とを含む。電解液基質は、有機溶媒またはポリマーと、無機または有機ポリスルフィド化学種と、イオン形態の活性金属の担体と、電気化学的性能を最適化するための他の成分との混合物を含む。
【0013】
具体的には本発明は、カソードおよび電解液基質の成分としての有機ポリスルフィド、ならびにそれらの有機チオール酸リチウム(もしくはナトリウム、第四アンモニウム、または第四ホスホニウム)あるいは有機ポリチオラート類似体の使用法に関する。上記有機イオウ化学種は、イオウおよびアニオン性モノまたはポリスルフィド化学種と化学的に結合して有機ポリチオラート化学種を形成する。これは、非極性イオウ成分への陽カソードおよびカソード液相の高い親和性を有する。
【0014】
本発明の一態様は電池を提供し、その電池は、
a)ナトリウム、リチウム、あるいはナトリウムまたはリチウムのうちの少なくとも一方とイオンを供給するための少なくとも1種の金属との合金または複合体を含むアノード活性物質を含むアノード、
b)元素イオウ、元素セレン、または元素カルコゲンの混合物を含むカソード活性物質を含むカソード、および
c)アノードとカソードの間に位置し、そのアノードおよびカソードと接している液体またはゲル電解溶液を分離するように作用する中間セパレータ要素(これを通って金属イオンおよびそれらの対イオンが、電池の充電および放電サイクルの間にアノードとカソードの間を移動する)
を含み、
この液体またはゲル電解溶液が、非水性の極性非プロトン性溶媒またはポリマーと、導電性の塩とを含み、かつ条件(i)、(ii)、または(iii)、
(i)液体またはゲル電解溶液の少なくとも1つが、さらに少なくとも1種の有機イオウ化学種を含む、
(ii)カソードが、さらに少なくとも1種の有機イオウ化学種から構成される、
(iii)中間セパレータ要素が、少なくとも1種の有機イオウ化学種を含有する官能化多孔質ポリマーを含む
の少なくとも1つを満たし、
この有機イオウ化学種が、少なくとも1つの有機部分と少なくとも1つの−S−Sn−結合(nは1以上の整数である)とを含む。
【0015】
一実施形態では、条件(i)、(ii)、または(iii)のただ1つを満たす。別の実施形態では、3つのすべての条件を満たす。さらに別の実施形態では、これら条件の2つのみ、例えば(i)と(ii)、(i)と(iii)、または(ii)と(iii)を満たす。
【0016】
別の態様において本発明は、少なくとも1種の非水性の極性非プロトン性溶媒またはポリマーと、少なくとも1種の導電性の塩と、少なくとも1つの有機部分および少なくとも1つの−S−Sn−結合(式中、nは1以上の整数)から構成される少なくとも1種の有機イオウ化学種とを含む電解液を提供する。
【0017】
本発明の別の態様は、a)元素イオウ、元素セレン、または元素カルコゲンの混合物と、b)少なくとも1種の導電性添加剤と、c)少なくとも1つの有機部分および少なくとも1つの−S−Sn−結合(式中、nは1以上の整数)を含む少なくとも1種の有機イオウ化学種とを含むカソードを提供する。
【0018】
例えば有機イオウ化学種は、有機ポリスルフィドおよび/または有機ポリチオラートの金属塩からなる群から選択することができる。本発明の幾つかの実施形態では有機イオウ化学種は、ジチオアセタール、ジチオケタール、トリチオ−オルト炭酸、チオスルホン酸[−S(O)2−S−]、チオスルフィン酸[−S(O)−S−]、チオカルボン酸[−C(O)−S−]、ジチオカルボン酸[−C(S)−S−]、チオリン酸、チオホスホン酸、モノチオ炭酸、ジチオ炭酸、およびトリチオ炭酸からなる群から選択される1つまたは複数のイオウ含有官能基を含有する。他の実施形態では有機イオウ化学種は、芳香族ポリスルフィド、ポリエーテル−ポリスルフィド、ポリスルフィド−酸の塩、およびこれらの混合物からなる群から選択することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】n−C12H25SLiをカソードに加えたリチウム−イオウ電池の3回〜63回の繰返し充電/放電サイクルに対する放電プロフィールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
電池に使用される構造物に加工された電気活性物質を電極と呼ぶ。電気エネルギーの化学的供給源として働く電池中で使用される一対の電極について、高い方の電気化学ポテンシャルを有する側の電極を正極またはカソードと呼び、一方、低い方の電気化学ポテンシャルを有する側の電極を負極またはアノードと呼ぶ。本明細書中では電池についての従来の述語が使用され、用語「カソード」または「正極」と、「アノード」または「負極」は、電気エネルギーを供給するためのセルの放電の間の電極の電気化学的機能を指す。サイクルの充電部分の間、電極の実際の電気化学的機能は放電の間に起こるものに対して逆転するが、それぞれの電極の表示は、放電の場合と同一のままである。
【0021】
電気化学セルは一般に直列に組み合わされ、そのようなセルの集合体が電池と呼ばれる。そのセルの有効化学反応に基づき、一次電池は外部装置に対して電力を供給する単純放電用に設計される。二次電池は、外部供給源からの電気エネルギーを使用して再充電可能であり、したがって多数回の放電および充電サイクルによって長期使用を実現する。
【0022】
カソードすなわち正極に使用される電気化学的活性物質を、以後カソード活性物質と呼ぶ。アノードすなわち負極に使用される電気化学的活性物質を、以後アノード活性物質と呼ぶ。電気化学的活性を有し、かつ電気化学的活性物質と、任意選択の導電性添加剤およびバインダーと、他の任意選択の添加剤とを含む多成分組成物を、以後電極組成物と呼ぶ。酸化状態のカソード活性物質を有するカソードと、還元状態のアノード活性物質を有するアノードとを含む電池は充電された状態にあると呼ばれる。したがって還元状態のカソード活性物質を有するカソードと、酸化状態のアノード活性物質を有するアノードとを含む電池は、放電された状態にあると呼ばれる。
【0023】
理論に拘束されることを望むものではないが、下記は本発明の幾つかの考えられる利点または特徴である。有機イオウ化学種を、イオウに富むカソード液相に分配することができる。ポリスルフィドおよびポリチオラートに共通するイオウの押出/再挿入化学作用に加えて、二価アニオン性スルフィドまたはポリスルフィド(例えば、Li2x、x=1、2、3...)と有機ポリスルフィドまたは有機ポリチオラート(例えば、R−Sx−R’またはR−Sx−Li、RおよびR’=有機部分)の間の化学交換反応は、カソード液中の二価アニオン性ポリスルフィドの量をできるだけ少なくするのに有利に働き、またカソードにおけるイオウおよびイオウ含有化学種の再析出に有利に働く。二価アニオン性ポリスルフィドの正味の除去は、電解液の粘度を低減させる、したがって高粘度が電解液の導電性に及ぼす有害な影響をできるだけ少なくすることになる。有機イオウ化学種はまた、カソード液相およびアノード液相の両方における不溶性の低ランク硫化リチウム化学種(具体的にはLi2SおよびLi22)の溶解を増大させ、またしたがってその排出を増大させ、こうして繰返し充電/放電サイクル時の反応性リチウム化学種の損失をできるだけ少なくすることができる。有機イオウ化学種の性能は、その有機官能基の選択により「調節」することができる。例えば、短鎖アルキル基またはより極性の大きい官能性を有するアルキル基は、アノード液相により多く分配されることになり、一方、より長鎖またはより極性の小さい同族体は、カソード液相により多く分配されることになる。長い/非極性鎖と短い/極性鎖の相対比率を調整することは、カソード/カソード液へのイオウ含有化学種の分配を制御する手段を提供することになる。さらに、アノード液中に若干量のポリスルフィドまたはポリチオラートが存在することは、充電中のアノード上のリチウムのデンドライト成長を制御する手段として好都合であるので、適切な有機化学種およびそれらの相対比率の選択はデンドライト成長のより大きな制御を提供することになる。
【0024】
本発明に役立つ有機イオウ化学種は、少なくとも1つの有機部分と少なくとも1つの−S−Sn−結合(式中、nは少なくとも1の整数)を含む。一実施形態では有機イオウ化学種は、−S−Sn−(ポリスルフィド)結合(式中、nは1以上の整数)によって結合された1分子当たり2つの有機部分(これらは互いに同一でもよく、また異なってもよい)を含む。この−S−Sn−結合は、より大きな連結基、例えば−Y1−C(Y23)−S−Sn−結合または−Y1−C(=Y4)−S−Sn−結合(式中、Y1はOまたはSであり、Y2およびY3は独立して有機部分または−S−So−Z(式中、oは1以上であり、Zは有機部分、あるいはLi、Na、第四アンモニウム、または第四ホスホニウムから選択される化学種である)であり、またY4はOまたはSである)の一部を形成することができる。別の実施形態では有機イオウ化学種は、一価有機部分と、Na、Li、第四アンモニウム、および第四ホスホニウムから選択される化学種とを含有し、それらは−S−Sn−結合(これには、例えば−Y1−C(Y23)−S−Sn−結合または−Y1−C(=Y4)−S−Sn−結合が含まれる)によって連結される。さらに別の実施形態では−S−Sn−結合は、有機部分の両側に現れることもできる。例えばこの有機部分は、二価の、任意選択で置換された芳香族部分、C(R32(式中、各R3は独立してHまたは有機部分、例えばC1〜C20有機部分である)、カルボニル(C=O)、またはチオカルボニル(C=S)であってもよい。
【0025】
例えば有機イオウ化学種は、有機ポリスルフィド、有機ポリチオラート、およびこれらの混合物からなる群から選択される。この有機ポリチオラートには、イオウ含有官能基を有するもの、例えばジチオアセタール、ジチオケタール、トリチオ−オルト炭酸塩、芳香族ポリスルフィド、ポリエーテル−ポリスルフィド、ポリスルフィド−酸の塩と、チオスルホン酸[−S(O)2−S−]、チオスルフィン酸[−S(O)−S−]、チオカルボン酸[−C(O)−S−]、ジチオカルボン酸[−RC(S)−S−]、チオリン酸、またはチオホスホン酸官能基、あるいはモノチオ炭酸、ジチオ炭酸、またはトリチオ炭酸官能基と、これらのまたは類似の官能基を含有する有機金属ポリスルフィドと、これらの混合物とが挙げられる。
【0026】
好適な有機部分には、例えば一価、二価、および多価有機部分が挙げられ、これらは分岐、線状、および/または環状ヒドロカルビル基を含むことができる。本明細書中で使用される用語「有機部分」には、炭素および水素に加えて1種または複数種のヘテロ原子、例えば酸素、窒素、イオウ、ハロゲン、リン、セレン、ケイ素、金属、例えばスズなどを含むことができる部分が含まれる。ヘテロ原子は、有機部分中に官能基の形態で存在することができる。したがってヒドロカルビル基および官能化ヒドロカルビル基が、本発明の文脈内では有機部分と見なされる。一実施形態では有機部分はC1〜C20有機部分である。別の実施形態では有機部分は、2個以上の炭素原子を含有する。したがって有機部分はC2〜C20有機部分であってもよい。
【0027】
有機イオウ化学種は、性質がモノマー、オリゴマー、またはポリマーであってもよい。例えば−S−Sn−官能基は、その主鎖中に2つ以上のモノマーの反復単位を含有するオリゴマーまたはポリマー化学種の主鎖に垂下していることができる。オリゴマーまたはポリマーの主鎖が複数の−S−Sn−結合を含有するように、−S−Sn−官能基をこのようなオリゴマーまたはポリマーの主鎖中に組み込むことができる。
【0028】
有機イオウ化学種は、例えば、式R1−S−Sn−R2(式中、R1およびR2は独立してC1〜C20有機部分を表し、nは1以上の整数である)の有機ポリスルフィドまたは有機ポリスルフィドの混合物であってもよい。このC1〜C20有機部分は、一価の分岐、線状、または環状ヒドロカルビル基であってもよい。R1およびR2がそれぞれ独立してC9〜C14ヒドロカルビル基であり、n=1であってもよい(tert−ドデシルジスルフィドなどのジスルフィドが得られる)。別の実施形態では、R1およびR2がそれぞれ独立してC9〜C14ヒドロカルビル基であり、n=2〜5である(ポリスルフィドが得られる)。このような化合物の例には、Arkemaによって販売されているTPS−32およびTPS−20が挙げられる。別の実施形態では、R1およびR2がそれぞれ独立してC7〜C11ヒドロカルビル基であり、n=2〜5である。Arkemaによって販売されているTPS−37LSは、この型の好適なポリスルフィドの例である。別の型の好適なポリスルフィドは、R1およびR2が両方ともtert−ブチルであり、かつn=2〜5のポリスルフィドまたはそれらポリスルフィドの混合物であろう。このような有機イオウ化合物の例には、Arkemaによって販売されているTPS−44およびTPS−54が挙げられる。
【0029】
有機イオウ化学種はまた、式R1−S−Sn−M(式中、R1はC1〜C20有機部分であり、Mは、リチウム、ナトリウム、第四アンモニウム、または第四ホスホニウムであり、nは1以上の整数である)の有機ポリチオラートであってもよい。
【0030】
別の実施形態では有機イオウ化学種は、式(I)および(II)に対応するものなどのジチオアセタールまたはジチオケタール、あるいは式(III)のトリチオ−オルトカルボン酸塩であってもよい。
【化1】
式中、各R3は、独立してHまたはC1〜C20有機部分であり、o、p、およびqは、それぞれ独立して1以上の整数であり、各Zは、独立してC1〜C20有機部分、Li、Na、第四アンモニウム、または第四ホスホニウムである。このような有機イオウ化学種の例には、1,2,4,5−テトラチアン(式I、R3=H、o=p=1)、テトラメチル−1,2,4,5−テトラチアン(式I、R3=CH3、o=p=1)、およびこれらのオリゴマーまたはポリマー化学種が挙げられる。
【0031】
本発明の別の実施形態は、式(IV)の芳香族ポリスルフィド、式(V)のポリエーテル−ポリスルフィド、式(VI)のポリスルフィド−酸の塩、または式(VII)のポリスルフィド−酸の塩である有機イオウ化学種を利用する。
【化2】
式中、式(IV)におけるR4は独立してtert−ブチルまたはtert−アミルであり、R5は独立してOH、OLi、またはONaであり、またrは0以上(例えば0〜10)であり、その芳香族環は、任意選択で1つまたは複数の他の位置で水素以外の置換基により置換され、式(VI)におけるR6は二価の有機部分であり、式(VII)におけるR7は二価の有機部分であり、各Zは独立してC1〜C20有機部分、Li、Na、第四アンモニウム、または第四ホスホニウムであり、oおよびpはそれぞれ独立して1以上の整数である。このような有機イオウ化学種の例には、商標名Vultac(登録商標)でArkemaによって販売されている芳香族ポリスルフィド(式IV、R4=tert−ブチルまたはtert−アミル、R5=OH)と、メルカプト酸、例えばメルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸から誘導される、あるいはオレフィン含有酸、例えばビニルスルホン酸または2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸から誘導される式VIおよびVIIに対応するポリスルフィド−酸の塩とが挙げられる。
【0032】
さらに別の実施形態では有機イオウ化学種は、式(IX)のトリチオ炭酸官能基を含有する有機ポリスルフィドまたは有機金属ポリスルフィド、式(X)のジチオ炭酸官能基を含有する有機ポリスルフィドまたは有機金属ポリスルフィド、あるいは式(XI)のモノチオ炭酸官能基を含有する有機ポリスルフィドまたは有機金属ポリスルフィド
【化3】
であり、
式中、Zは、C1〜C20有機部分、Na、Li、第四アンモニウム、または第四ホスホニウムであり、oおよびpは、独立して1以上の整数である。
【0033】
液体またはゲル電解溶液は、さらに、式M−S−Sn−M(式中、各Mは、独立してLi、Na、第四アンモニウム、または第四ホスホニウムであり、nは、1以上の整数である)のポリチオール酸二金属塩化学種から構成されてもよい。したがって、このような化学種は、上記有機イオウ化学種とは異なり、有機部分を含有しない。
【0034】
中間セパレータ要素は、電気化学セル中のコンパートメント間の仕切板として働くことができる。或るコンパートメントは、カソードと接している電解液を含んでもよい(このようなコンパートメント中の電解液をカソード液と呼ぶこともある)。別のコンパートメントは、アノードと接している電解液を含んでもよい(このようなコンパートメント中の電解液をアノード液と呼ぶこともある)。アノード液およびカソード液は、互いに同一でもよく、また異なっていてもよい。アノード液およびカソード液の一方または両方が、本発明による1種または複数種の有機イオウ化学種を含有することができる。中間セパレータ要素は、アノード液からのイオンが中間セパレータ要素を通過してカソード液中に入る(逆の場合も同様であり、これは電気化学セルが充電モードで動作しているか、放電モードで動作しているかによって決まる)ことを可能にするように、このようなコンパートメント間に位置決めすることができる。
【0035】
本発明の更なる実施形態では、中間セパレータ要素は多孔質ポリマーから構成される。多孔質ポリマーは、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、またはフッ素化ポリマーから構成されてもよい。多孔質ポリマーは、本明細書中で述べた種類の有機イオウ化学種で官能性をもたせることができる。有機イオウ化学種は、多孔質ポリマーの主鎖に垂下していることもでき、かつ/または個々のポリマー鎖の主鎖間に架橋の状態で存在することもでき、かつ/またはその多孔質主鎖の主鎖中に組み込むこともできる。したがって多孔質ポリマーの主鎖は1つまたは複数の−S−Sn−結合を含有することができ、かつ/または−S−Sn−結合はポリマーの主鎖に垂下していることができる。このような−S−Sn−結合はまた、架橋中に存在することもできる。
【0036】
本発明により電気化学セルにおいて使用される好適な溶媒には、既知の、または一般にリチウム−イオウ電池に使用される塩基性(カチオン錯化)非プロトン性の極性溶媒、例えばスルホランと、ジメチルスルホキシドと、ジメチルアセトアミドと、テトラメチル尿素と、N−メチルピロリジノンと、テトラエチルスルファミドと、エーテル類、例えばテトラヒドロフラン、メチル−THF、1,3−ジオキソラン、ダイグライム、およびテトラグライム、およびこれらの混合物と、炭酸エステル類、例えば炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、炭酸エチルプロピルなどと、エステル類、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、およびγ−ブチロラクトンとが挙げられる。電解液は、そのような溶媒を単独で含むことも、またそのような溶媒の混合物を含むこともできる。電池の分野で知られているいずれの極性の非プロトン性ポリマーもまた、使用することができる。電解液は、ポリマー物質を含むこともでき、またゲルの形態をとることもできる。電解液に使用される好適なポリマーには、例えばポリエチレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、またはポリイミドを挙げることができる。電解液はゲルの形態であってもよく、それは液体とバインダー成分とから構成される三次元網目組織であってもよい。この液体は、架橋ポリマーなどのポリマー内に同伴される単量体溶媒であってもよい。
【0037】
1種または複数種の導電性の塩が、非水性の極性非プロトン性溶媒および/またはポリマーと組み合わせて電解液中に存在する。導電性の塩は、電池の分野でよく知られており、例えば(CF3SO22-、CF3SO3-、CH3SO3-、ClO4-、PF6-、AsF6-、ハロゲンなどのリチウム塩が挙げられる。ナトリウムおよび他のアルカリ金属の塩とこれらの混合物もまた使用することができる。
【0038】
アノード活性物質は、リチウムまたはナトリウムなどのアルカリ金属、あるいは別の活性物質または組成物を含むことができる。特に好ましいアノード活性物質には、金属リチウム、リチウムの合金、金属ナトリウム、ナトリウムの合金、アルカリ金属またはそれらの合金、金属粉、リチウムとアルミニウム、マグネシウム、ケイ素、および/またはスズとの合金、アルカリ金属−炭素およびアルカリ金属−黒鉛の層間物質、アルカリ金属イオンで可逆的に酸化および還元することができる化合物、およびこれらの混合物が挙げられる。金属または金属合金(例えば金属リチウム)は、任意選択でセラミック材料によって仕切られる電池内の1枚の膜として、または数枚の膜として含まれてもよい。好適なセラミック材料には、例えばシリカ、アルミナ、またはリチウム含有ガラス状物質、例えばリン酸リチウム、アルミン酸リチウム、ケイ酸リチウム、窒化リン酸リチウム、酸化タンタルリチウム、アルミノケイ酸リチウム、酸化チタンリチウム、リチウムシリコスルフィド、リチウムゲルマノスルフィド(lithium germanosulfide)、リチウムアルミノスルフィド、リチウムボロスルフィド(lithium borosulfide)、リチウムホスホスルフィド、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0039】
カソードは、元素イオウ、元素セレン、または元素カルコゲンの混合物を含む。一実施形態ではカソードは、これに加えて、本明細書中でさきに詳細に述べたことに従って1種または複数種の有機イオウ化学種から構成される。カソードは、これに加えてかつ/またはその代わりにバインダーおよび/または導電性添加剤から構成されてもよい。好適なバインダーには、例えばポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンのコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンモノマーゴム(EPDM)、およびポリ塩化ビニル(PVC)などのポリマーが挙げられる。導電性添加剤は、例えば黒鉛、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、または煤(例えば、ランプまたは炉の煤)などの導電性形態の炭素であってもよい。このカソードは、集電装置、例えば電池または電気化学的セルの分野で知られている集電装置のいずれかと組み合わせて電池または電気化学的セル中に存在することができる。例えばこのカソードは、金属製集電装置の表面に塗布することができる。
【実施例】
【0040】
カソードの作製、電池の調製、および電池の試験
実施例1
70重量%の昇華元素イオウ粉末、20重量%のポリエチレンオキシド(PEO、MW 4×106)、10重量%のカーボンブラック(Super P(登録商標)Conductive、Alfa Aesar)を含む正極を下記の手順により作り出した。
【0041】
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散させたこれらの成分の混合物を、プラネタリーミリングマシン中で機械的に摩砕した。アセトニトリルを加えて混合物を希釈した。得られた懸濁液を、自動フィルムコータ(Mathis)を用いてアルミホイル(厚さ76μm)上に塗布した。塗膜を真空オーブン中で50℃で18時間乾燥した。得られた塗膜は、3.10mg/cm2のカソード混合物を含有した。
【0042】
実施例2
実施例1で述べた手順に従って、リチウムn−ドデシルメルカプチド(イオウ10重量%)を含有する正極を調製した。得られた塗膜は、1cm2当たり3.4mgのイオウを含有した。
【0043】
実施例3
実施例2からのこの陽カソードを、2本のステンレス鋼製ロッドを有するPTFEスウェージロックセル、またはステンレス鋼で作られるコインセルアッセンブリ(CR2032)に使用した。電池セルを、アルゴンを満たしたグローブボックス(MBraun)中で、次のように組み立てた。すなわち、カソード電極を底缶の上に置き、続いてセパレータを置いた。次いでセパレータに電解液を加えた。リチウム電極をそのセパレータの上に置いた。そのリチウム電極の上部にスペーサおよびスプリングを置いた。この電池コアをステンレス鋼製ロッドで、または圧着機でシールした。
【0044】
実施例4
実施例3で述べた手順の後、実施例2からのカソード(直径7/16”)と、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)に溶かした0.5M LiTFSI溶液:1,3−ジオキソラン(DOL)=1:1の20μLと、セパレータと、リチウム電極(厚さ0.38mm、直径7/16”)とからなる電池セルを、0.1mAで充電−放電サイクルについて試験した。試験は、Gamryポテンショメーター(Gamry Instruments)を用いて室温で1.5Vおよび3.2Vのカットオフ電圧に対して行った。その放電サイクルのプロフィールを図1に示す。
【0045】
リチウムアルキルメルカプチドの合成
実施例5−ヘキシルリチウムを用いたリチウムn−ドデシルメルカプチドの合成
−30℃でヘキサン(100mL)に溶かしたn−ドデシルメルカプタン(9.98g、1当量)に、n−ヘキシルリチウム(ヘキサン中33重量%、1.1当量)を、混合物温度を−20℃未満に保つように1滴ずつ加えた。溶媒を減圧下で除去し、白色固体が定量的収率で得られた。
【0046】
実施例6−水酸化リチウムを用いたリチウムn−ドデシルメルカプチドの合成
アセトニトリル(8mL)中に分散させたn−ドデシルメルカプタン(2.0g、1当量)と水酸化リチウム一水和物(0.41g、1当量)の混合物を75℃に加熱し、75℃で16時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物を濾過した。濾過ケークをアセトニトリルで洗い流し、真空オーブン中で50℃で一晩乾燥した。リチウムn−ドデシルメルカプチドが、収率93.5%(1.93g)で白色固体として得られた。
【0047】
実施例7−ヘキシルリチウムを用いたリチウムn−ドデシルメルカプチドの合成
【化4】
実施例6で述べた手順に従って、3,6−ジオキサオクタン−1,8−ジチオールの二リチウム塩がジメルカプタンから白色固体として定量的収率で合成された。
【0048】
リチウムアルキルポリチオラートの合成
実施例8−水酸化リチウムを用いたリチウムn−ドデシルポリチオラートの合成
【化5】
1,3−ジオキソラン(25mL)に溶かしたn−ドデシルメルカプタン(2.00g、1当量)の窒素で脱気した溶液に、水酸化リチウム一水和物(0.41g、1当量)およびイオウ(1.27g、4当量)を加えた。この混合物を窒素下で室温において30分間撹拌した。1,3−ジオキソランに溶けたリチウムn−ドデシルポリチオラートが、暗赤色の溶液として得られた。メルカプタンのリチウムn−ドデシルポリチオラートへの完全転化が、13C−NMRおよびLCMSによって確かめられた。
【0049】
実施例9−水酸化リチウムおよびイオウを用いたリチウム3,6−ジオキサオクタン−1,8−ポリチオラートの合成
【化6】
実施例8で述べた手順に従って、1,3−ジオキソラン(10mL)中での3,6−ジオキサオクタン−1,8−ジチオール(0.72g、1当量)、水酸化リチウム一水和物(0.33g、2当量)、およびイオウ(1.02g、8当量)の反応から、1,3−ジオキソランに溶けたリチウム3,6−ジオキサオクタン−1,8−ポリチオラートの暗赤色の溶液が得られた。
【0050】
実施例10−リチウムアルキルメルカプチドからのリチウムn−ドデシルポリチオラートの合成
1,3−ジオキソラン(5mL)中に分散させたリチウムn−ドデシルメルカプチド(0.21g、1当量)の窒素で脱気スしたスラリーに、イオウ(0.13g、4当量)を加えた。この混合物を窒素下で室温において16時間撹拌した。濾過により不溶性固体を除去した。この暗赤色の濾液は、LCMSによって求められるリチウムn−ドデシルポリチオラート63%およびビス(n−ドデシル)ポリスルフィドの混合物37%を含有した。
【0051】
実施例11−リチウム金属およびイオウを用いたリチウムn−ドデシルポリチオラートの合成
1,3−ジオキソラン(25mL)に溶かしたn−ドデシルメルカプタン(2.23g、1当量)の窒素で脱気した溶液に、イオウ(1.41g、4当量)およびリチウム(76.5mg)を加えた。この混合物を60℃に加熱し、窒素下で60℃において1時間撹拌した。1,3−ジオキソランに溶けたリチウムn−ドデシルポリチオラートが暗赤色の溶液として得られた。n−ドデシルメルカプタンの完全転化が13C−NMRによって確かめられた。
【0052】
実施例12−リチウム金属およびイオウを用いたリチウム3,6−ジオキサオクタン−1,8−ポリチオラートの合成
実施例11の手順に従って、1,3−ジオキソラン(11mL)中での3,6−ジオキサオクタン−1,8−ジチオール(1.97g、1当量)、リチウム金属(0.15g、2当量)、およびイオウ(2.77g、8当量)の反応によって、1,3−ジオキソランに溶けたリチウム3,6−ジオキサオクタン−1,8−ポリチオラートの暗赤色の溶液が得られた。出発ジ−メルカプタンの完全転化が13C−NMRによって確かめられた。
【0053】
実施例13−加えたリチウムn−ドデシルポリチオラートによるLi2Sの溶解
リチウムn−ドデシルポリチオラートの共存下での電解液中の硫化リチウムの溶解度を決定するために、硫化リチウムの飽和溶液を次の通り調製した。すなわち、実施例10で述べた手順に従って1,3−ジオキソランに溶かしたリチウムn−ドデシルポリチオラートの0.4M溶液を調製した。次いでこの溶液を、テトラエチレングリコールジメチルエーテルで0.2Mに希釈し、次いでこれを、1:1のテトラエチレングリコールジメチルエーテル:1,3−ジオキソランに溶かした1M LiTFSI溶液に、1:1(=v/v)で加えた。得られた溶液に硫化リチウムを飽和混合物が得られるまで加えた。次いでこの混合物を濾過し、その濾液を、溶解したリチウムに関してICP−MS(Agilent 7700x ICP−MS)により分析した。硫化リチウムの溶解度を、そのリチウムレベルを基準にして計算した。1:1のテトラエチレングリコールジメチルエーテル:1,3−ジオキソランに溶かした0.1Mリチウムn−ドデシルポリチオラートを伴う0.5M LiTFSI中では、硫化リチウムの溶解度は0.33重量%であると決定された。これとは対照的に、リチウムn−ドデシルポリチオラートを含まない場合、0.5M LiTFSI中の硫化リチウムの溶解度は0.13重量%に過ぎなかった。これは、本発明の有機イオウが存在する場合、電池の電解液基質中のLi2Sの溶解度が向上することをはっきり実証した。
図1