(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも前記非導電帯は、帯長手方向に沿った伸縮自在性を有する繊維構造に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の分離配線可能な平型多芯ハーネス。
前記導電帯及び前記非導電帯は、帯長手方向に沿った伸縮自在性を有する繊維構造に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の分離配線可能な平型多芯ハーネス。
前記非導電帯が備える切開予定部は、熱、水、薬液のいずれか一つを付加したことにより一部又は全部が消失する構造として形成されている、又は引張応力の負荷によって当該切開予定部が優先的に破壊される程度に前記非導電帯内の他部と比べて力学的強度が最も弱い構造として形成されている、若しくは切断刃による繊維構造の破壊により両側の前記導電帯を切り離す構造として形成されている、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の分離配線可能な平型多芯ハーネス。
少なくとも前記導電帯には、少なくとも一方表面を覆う非導電性のシーリング層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の分離配線可能な平型多芯ハーネス。
前記導電帯と前記非導電帯との隣接によって形成される1ピース帯が帯幅方向に複数ピース連結されており、2本を超える導電帯相互間に前記切開予定部が挟み込まれて3箇所以上の導電端を分散配置可能とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の分離配線可能な平型多芯ハーネス。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至
図4は、本発明に係る平型多芯ハーネス1(以下、「本発明ハーネス1」と言う)の第1実施形態を示している。また
図5乃至
図8は、第1実施形態の本発明ハーネス1を衣類などに取り付ける際の一例を示している。
図1に示すように、本発明ハーネス1は、長手方向を揃えて並行状態に相隣配置された複数本の導電帯2と、これら複数本の導電帯2の相互間に配置されて両側の導電帯2同士
を連結する非導電帯3と、を有している。
【0016】
すなわち、本発明ハーネス(平型多芯ハーネス)1の名称は、電気的に導通性を有する「芯」としての導電帯2が複数本設けられていることから「多芯」と呼称し、またこれら導電帯2が当初の状態として横並びに配置されていることから「平型」と呼称するものである。
導電帯2及び非導電帯3は、いずれも編組織や織組織などの繊維構造によって帯状(扁平であり且つ帯幅方向よりも帯長手方向に長い形状)に形成されている。
【0017】
そして非導電帯3に対して、その帯幅方向の任意部位に、両側の導電帯2を切り離し可能にするための切開予定部5が帯長手方向の一部又は全長に渡って設けられている。この切開予定部5についても、編組織や織組織などの繊維構造によって形成されている。
なお、この切開予定部5は、帯状とする他、線状(帯幅方向が極薄で厚さ方向に行き渡る形状)としてもよく、或いは、帯長手方向に沿って破線や一点鎖線などを呈するようなものとしてもよい。
【0018】
図2(a)に示すように、導電帯2と非導電帯3とは同一平面上で連結されたものとなっている。ここにおいて「同一平面上で連結」とは、導電帯2と非導電帯3とが互いの側縁部を突き合わせ状に連結されている状態を言う。従って、互いの表面同士及び裏面同士を面一にさせている場合だけでなく、互いの厚さ違いを要因として表面同士や裏面同士が面一とはなっていない場合をも含むものとする。
【0019】
また非導電帯3に対して、切開予定部5も同一平面の関係(導電帯2と非導電帯3との関係に同じ)を保持するようになっている。
このように、本発明ハーネス1は導電帯2と非導電帯3とが連結されていることを受けて、「ベース無し構造」に形成されたものと言うことができる。更に言えば、ベース無し構造は、前記のように非導電性繊維の一部又は全部を導電性繊維に入れ替えることを主因として導電帯2と非導電帯3とが同一平面上で連結されることを言うのに対して、ベース有り構造は、非導電帯3で使用されている糸使いそのものに導電性繊維を追加して編み立てることになるために、導電性部位が非導電性部位に積層されることを言うものであり、両者には構造上の顕著な違いがある。
【0020】
そのため、導電帯2はその表面及び裏面が露出状態とされて、表裏両面のいずれをも導電面として使用することができる。
なお、本発明ハーネス1は、「ベース無し構造」にすることを限定するものではなく、別部材より成るベース材(図示略)に対して、その上に
図2(a)に示した導電帯2と非導電帯3との連結構造体を重ねて形成するような積層構造にしてもよい。或いは、
図2(b)に示すように、非導電帯3の形成素材を、作用上のベース材となるように利用して、この形成素材上に導電帯2を重ねて形成するような積層構造にしてもよい。
【0021】
導電帯2は、言うまでもなく帯幅方向及び帯長手方向で電気的導通性が得られるようにした部位である。厚さ方向に関しては、表面や裏面の一方又は両方に非導電性の被膜を設ける場合なども考えられる(
図2(b)の積層構造などもその一例に該当する)。そのため、この導電帯2は、厚さ全部を通して電気的導通性が得られる構造にしてもよいが、この構造を限定するものではない。
【0022】
一方、非導電帯3は、帯長手方向及び厚さ方向で電気的絶縁性が得られるようにした部位である。なお、非導電帯3は、前記したようにその帯幅方向の一部が切開予定部5として形成されるものであり、場合によっては帯幅方向の全部が切開予定部5である場合(
図10で後述する第3実施形態などを参照)をも含んでいる。
そしてこの切開予定部5は、基本的には電気的絶縁性が得られるものとするのが好ましいものの、非導電帯3の帯幅方向全部が切開予定部5である場合を除き、(当該切開予定部5に)電気的導通性が得られていてもよいものとする。また切開予定部5の他にも、非導電帯3の帯幅方向内に導電性の領域が設けられる構造を排除しない。
【0023】
このように非導電帯3は、帯幅方向が全て同じ構造に統一して形成されているか否かについては何ら限定されない。更に言えば、非導電帯3は、帯幅方向の全部で電気的に絶縁性が得られるものとしてもよいし、帯幅方向の一部のみ又は複数部で電気的絶縁性が得ら
れるものとしてもよいものである。
本発明ハーネス1は、各導電帯2の配線先を途中で分離させたり、導電帯2同士をその全長に渡って分離させたりして使用できるようにすることを主目的としているため、導電帯2の必要最少本数は2本であり、非導電帯3の必要最少本数は、帯幅方向の両側に導電帯2が配置されることを条件として1本である。
【0024】
ただ、導電帯2は2本を超えて設けてもよく、このように導電帯2の本数を増やすことで当然に非導電帯3の本数も増加でき、また切開予定部5の本数も増加できることになる。また、導電帯2の本数と非導電帯3の本数との間で比例関係は必要ではなく、導電帯2の本数よりも非導電帯3の本数を多くしたり反対に少なくしたりすることも可能である。
これらのことは、導電帯2として、分離不能な複線ペアを備えた構成(
図12で後述する第5実施形態を参照)とするか否か、といったことや、分離させた後の各導電帯2においてその帯幅方向両側にどのような副次的作用(例えば外観、強度、伸縮性など)を生じさせるか、などの個々の諸事情に基づいて適宜選択すればよいものである。
【0025】
本第1実施形態では導電帯2が2本(2A,2B)の場合を例示してある。そして非導電帯3については、2本の導電帯2A,2Bの相互間に1本(3B)が設けられ、且つ2本の導電帯2A,2Bに対するそれぞれの帯幅方向外側に各1本(3A,3C)が設けられて、合計3本(3A,3B,3C)とした場合を例示してある。すなわち、本第1実施形態の本発明ハーネス1は、導電帯2と非導電帯3とを合わせて計5帯を1ピース(P)として形成されている。
【0026】
なお以下では、説明の便宜上、2本の導電帯2のうち一方(
図1中の上側)を「第1導電帯2A」、他方(
図1中の下側)を「第2導電帯2B」と言い、これら両導電帯2A,2B間に挟まれる非導電帯3を「メインの非導電帯3B」と言う場合がある。また第1導電帯2Aの帯幅方向外側(
図1中の上側)に隣接する非導電帯3を「第1非導電帯3A」と言い、第2導電帯2Bの帯幅方向外側(
図1中の下側)に隣接する非導電帯3を「第2非導電帯3C」と言う場合がある。
【0027】
更に、切開予定部5については、メインの非導電帯3Bだけでなく第2非導電帯3Cにも切開予定部5が設けられるものとしてある。そこで、メインの非導電帯3Bに設けられる切開予定部5を「メインの切開予定部5A」と言い、第2非導電帯3Cに設けられる切開予定部5を「第2切開予定部5B」と言う場合がある。
本第1実施形態を更に発展させたものとして、
図1に二点鎖線で示すように1ピース(5帯)が帯幅方向に複数連結された構成としてもよい。この複数ピース連結の構成を採用することにより、
図5に示すように(2ピース連結の場合を例示)、各切開予定部5を帯長手方向の所定長さだけ切開して、この切開により分離独立した導電帯2をそれぞれ異なる配線先へ向けて分離配線させること等が、いとも簡単に、また自由に行えるようになる。
【0028】
この場合、分離した各導電帯2は、その帯幅方向両側に、メインの非導電帯3Bの約半分幅、又は第1非導電帯3Aが付随した構造(
図1中で例示する幅Sを参照)となる。そのため導電帯2は、非導電帯3によって補強されると共に、その帯幅方向両側で他物との接触による短絡事故が起こり難くなるという利点を有する。
なお、
図5では、分離した各導電帯2に付随するようになる非導電帯3に対し、切開予定部5の一部が付着しているように図示した。しかし、切開予定部5の材質(詳細は後述する)により、切開後の切開予定部5が残留するか消失するかの違いがあるため、必ずしも
図5のように切開予定部5の一部が残留するというものではない。
【0029】
図6は、本第1実施形態の本発明ハーネス1(
図5のもの)を衣類などの身生地本体10へ取り付けた様子を例示している。このようにすることで、身生地本体10に対し、衣類を着用した人体表面の最適な複数箇所へセンサ等(電極や検出子などである場合も含む)11を当接又は配置させることができ、また各導電帯2の基端部を1箇所に集約させたうえで、この基端部群に対して種々のデバイス機器等(図示略)を接続することができる。
【0030】
本発明ハーネス1を身生地本体10に取り付ける方法としては、接着剤による接着、熱
可塑性樹脂による熱融着、ミシン又は手縫いなどによる縫着、面ファスナーやホック、ボタンなどによる係着など、適宜の方法を採用可能である。縫着の場合は、縫い糸に弾性糸やウーリー糸を用いることで、身生地本体10の伸縮に本発明ハーネス1の伸縮を馴染ませる(同調させる)ことができ、この点で好適と言える。
【0031】
デバイス機器等には、心拍数や心電図、筋電図等を採取する各種測定機器をはじめ、電気治療や電磁波治療などを行う治療器などを採用可能である。また、別所設置の各種装置(コンピュータ等)との間で信号を無線により通信するための送受信機などとすることも可能である。
このようなデバイス機器等は、身生地本体10に設けたポケット状の物品収容部12等に入れるようにすれば、振動や位置ズレ、脱落等を防止できるうえ、身生地本体10に対する着脱も容易になることから、好適である。とは言え、物品収容部12は必須ではない。例えば、デバイス機器にスナップボタンや面ファスナー等を取り付けておくと共に、身生地本体10にはスナップボタンや面ファスナー等が係合する相手部位(スナップボタンにはボタン穴に相当し面ファスナーの場合は雄部材と雌部材の振り分けとする)を設けておき、デバイス機器を身生地本体10に直接固定できるようにしてもよい。
【0032】
本発明ハーネス1やセンサ等11は、身生地本体10に対してその衣類内面(肌面へ向けられる側)へ取り付けてもよいし、衣類外面へ取り付けてもよい。なお、センサ等11を衣類外面へ取り付ける場合には、センサ等11を配置する部位に対応させて身生地本体10に孔を形成すればよい。尤も、センサ等11が非接触式のものである場合は、このような孔は不要である。
【0033】
なお、
図5及び
図6はあくまで第1実施形態を展開する場合の一例であり、本発明ハーネス1が1ピース(5帯)の整数倍として構成されていることを含めて、各部の細部構造を限定したものではない。
前記したように、導電帯2や非導電帯3は繊維構造により形成されていることから、その繊維構造自体から奏される組織特性、又は使用する繊維自体の材料特性を活かして、帯長手方向に伸縮自在となっている。例えば本発明ハーネス1を製編によって形成する場合(編組織製とする場合)で言えば、導電帯2や非導電帯3の帯長手方向がコース方向となるようにすればよい。
【0034】
ここにおいて「コース方向」は、編組織において繋がったループを形成しつつ進む方向であって「コース」と同じ方向とする。なお付言すれば、編地地面上でコース方向と垂直に交差する方向は「ウエール方向」又は「ウエール」とする。
そのため本発明ハーネス1は、
図3に示すように帯長手方向を真っ直ぐに伸縮させることができる。のみならず、導電帯2の両側に配置されている非導電帯3が互いに影響されることなく自由な伸縮を起こすようになるので、
図4に示すようにカーブさせる場合には、カーブの内側とカーブの外側とで伸長量を異ならせながら(R1<R2)、折れ曲がりや皺、ウエーブ(波打ち状の大きな皺)等を生じさせることなく、綺麗に平面を維持しつつカーブさせることができる。
【0035】
なお、本発明ハーネス1は、
図13に示すように、帯長手方向を屈曲させて使用することもできる。
ところで、本発明ハーネス1を身生地本体10へ取り付ける場合には、
図7に示すように、本発明ハーネス1の表裏両面を覆う非導電性のシーリング層15,16を形成するのが好適とされる。
【0036】
本発明ハーネス1に対し、着用者の肌面へ向けられる側(身生地本体10とは非接触とされる面)で本発明ハーネス1を覆うシーリング層15は、着用者の発汗等により導電帯2が短絡や漏電、或いは腐食を起こすことを防止するうえで有益である。また、非導電帯3から導電帯2へ向けて水分が浸透するのを防止したり非導電帯3が汚損するのを防止したりするうえでも有益である。更には、着用者の肌面に対する肌触り感を向上させ、掻痒感や痛感を可及的に抑止できる点でも有益である。特に、シーリング層15の表面に対し、着衣者の肌にとって肌当たりが優しい生地を接着しておくことで、より快適なものとなる。
【0037】
一方、本発明ハーネス1に対し、着用者の肌面とは表裏逆となるほうへ向けられる側(身生地本体10と重なる面)で本発明ハーネス1を覆うシーリング層16についても略同様であり、導電帯2が短絡や漏電、或いは腐食を起こすことを防止し、また非導電帯3から導電帯2への水分浸透や非導電帯3の汚損防止などに対して有益である。
これらシーリング層15,16は、本発明ハーネス1を身生地本体10に対して取り付ける際に、例えばポリウレタン等の樹脂フィルムを加熱付着させることで形成することができる。この場合、シーリング層15,16が加熱溶融時に自着牲を生起するものであるときには、この自着性を利用して本発明ハーネス1を身生地本体10に取り付けるようにしてもよい。
【0038】
本発明ハーネス1に対し、各導電帯2にセンサ等11を接続する方法のひとつとして、
図8に示す重ね張り加圧法を例示することができる。この重ね張り加圧法は、シーリング層15,16を採用することを条件としたもので、身生地本体10に対し、内面側シーリング層用素材シート(16)、本発明ハーネス1、外面側シーリング層用素材シート(15)、センサ等11を、この順番で重ね合わせる。
【0039】
このとき、外面側シーリング層用素材シート(15)には、センサ等11と対応する孔20を形成しておく。またこの孔20には、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂により形成された不織布製パッチ21をオーバーラップ状態又は嵌め込み状態に重ね合わせておく。そして、全てを重ね合わせた状態で押圧しつつ、少なくとも両シーリング層用素材シート(15,16)と共に不織布製パッチ21に含まれる熱可塑性樹脂がそれぞれ軟化する状態まで加熱する。
【0040】
このようにすることで、両シーリング層用素材シート(15,16)が本発明ハーネス1を包み込みながら、同時に身生地本体10に接着する。また、不織布製パッチ21に含まれる熱可塑性樹脂が軟化したときに外面側シーリング層用素材シート(15)と巧く絡み合い、センサ等11と本発明ハーネス1の導電帯2との間を電気的な導通状態に接着する。不織布製パッチ21は、粗い空隙を多く含んだ構造が有効に作用して、軟化した熱可塑性樹脂がセンサ等11と導電帯2との間に絶縁膜を形成させてしまうということはない。
【0041】
なお、本発明ハーネス1の導電帯2とセンサ等11との接続は、前記した重ね張り加熱法の適用が限定されるものではなく、例えば、ミシンや手縫いによる縫着法を例示することもできる。この場合、縫い糸に導電性の糸(後述する「導電帯2の製編に用いる糸」と同じようなもの)を使用することで、導電性の一層の向上を図ることができる。また、接着構造にした場合に比べて接続強度を高めることができる利点がある。
【0042】
次に、導電帯2、非導電帯3、及び切開予定部5について、それらの形成素材及び構造を詳説する。
まず、非導電帯3について説明する。非導電帯3は非導電性の繊維素材により形成することができる。繊維素材の具体例としては、合成繊維(例えばポリエステル繊維やナイロン繊維等)や天然繊維、合成繊維と弾性糸とを混用した素材等を挙げることができる。
【0043】
また、非導電帯3を製編によって形成する場合、採用する編組織は何ら限定されるものではない。例えば、平編、ゴム編、スムース編、パール編又はそれらの変化組織(例えば、ミラノリブや段ボールニットなど)を採用することができる。当然に、製編には丸編機に限らず横編機などを使用することができる。またこれら列挙したような緯編みで編成される組織に限らず、経編みで編成される組織(トリコット編、ラッシェル編、ミラニーズ編など)としてもよい。
【0044】
非導電帯3の製編時には更に弾性糸を混用して、筒径(周長)や筒軸長さを拡縮する方向で豊富な伸縮が得られるようにするのが、帯長手方向の伸縮性を豊富にさせるうえで好適である。
なお「弾性糸」は、引っ張り力の無負荷時(非伸長時=常態)では収縮状態を維持し、引っ張り力が負荷されたときには引っ張り力に応じて自由に伸長するものであって、且つ、この引っ張り力を解除して無負荷時に戻せば、伸長状態から元の収縮状態に復元する(収縮する)素材を言う。
【0045】
弾性糸の混用方法としては、インレイ、引き揃え、プレーティング、交編、又は複合糸の少なくとも一つから選択される形態を採用すればよい。弾性糸には、ポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を単独で用いてもよいし、「芯糸」にポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を用い、「カバー」にナイロンやポリエステルを用いたカバリング糸などを採用することができる。このようなカバリング糸を採用することで、本発明ハーネス1に撥水性、耐食・防食性、カラーリング等の機能を付与させることができる。また触感(肌触り)の向上や伸びの制御にも有用である。
【0046】
本発明ハーネス1を使用する(身生地本体10等に取り付ける)際にあって、前記したシーリング層15,16の形成は、必須不可欠な構成ではない。ただ、シーリング層15,16を不採用とする場合は、非導電帯3の外周部又は非導電帯3の全体にわたり、熱融着材料又は熱合着材料を用いたほつれ止め処理を施しておくのが好適である。
このほつれ止め処理とは、非導電帯3の形成に用いた糸が編組織の中で交差している部分を固定させる処理を言う。このほつれ止め処理を施すことで、非導電帯3の外周辺部で並ぶ糸端を不動に固定することができ、異様な浮き上がりや鋭利な突出などを防止して平面性も略フラットな状態に形成できることになる。また、ハサミやカッターなどで切断した際に切断部の処理を放置できる、いわゆる切りっぱなしでもほつれない効果を得ることもできる。
【0047】
ほつれ止め処理の代表的な実施方法は、非導電帯3の製編に用いる糸に対し、熱融着材料又は熱合着材料の少なくとも一方を混用させ、そのうえで非導電帯3を製編し、製編後に熱セットを行うという手順とする。
熱融着材料と熱合着材料との差異は、半溶融状態からの冷却により生じる結合力の強弱によって区別すればよく、結合力が強い(熱融着)ものは熱融着材料とし、これよりも結合力が弱い(合着)ものは熱合着材料とする。この区別は明確とは言えず曖昧模糊とした部分を含むが、要は、熱セットによって導電糸の交差部を結合できる材料であればよいものとおく。従って、伸縮性(弾性)に優れ、加熱によって熱融着し、かつ、熱融着部位においては伸縮性(弾性)が失われることなく、高度の伸縮性(弾性)が保有されるものを用いることができる。
【0048】
具体的には、熱融着材料又は熱合着材料の代表例として低融点ポリウレタンを挙げることができる。低融点ポリウレタンは、最適例であると言える。その他、ポリエチレンやナイロン(6や66)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ビニル系ポリマー、ポリアミド等の縮合系ポリマーなどを採用可能である。
更なる具体例をとしては、低融点ポリアミド繊維糸、低融点ポリエステル系繊維糸(低融点ポリエステル共重合体繊維糸、低融点脂肪族ポリエステル繊維糸)等が挙げられる。
【0049】
前記低融点ポリエステル共重合体繊維糸を構成する低融点ポリエステル共重合体の好ましい共重合成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキ シカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタ エリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、 2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタ ル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0050】
前記低融点脂肪族ポリエステル繊維糸を構成する低融点脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシブチレートバ リレート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
前記熱融着性繊維糸の市販品としては、他に、80〜130℃の乾熱や、50〜100℃の湿熱で溶融する低融点ポリアミド繊維糸、例えば、フロール(ユニチカ社製)、エルダー(東レ社製)、ジョイナー(フジボウ社製)等を用いることができる。
【0051】
また、80〜130℃の乾熱や、50〜100℃の湿熱で溶融する低融点ポリエステル繊維糸、例えば、ソフィット(クラレ社製)、メルティ(ユニチカ社製)、ソルスター(三菱レイヨン社製)、ベルコンビ(鐘紡社製)、エステナール(東洋紡績社製)等を用いてもよい。
前記熱融着性繊維糸を熱処理して熱融着させる手段としては、湿熱または乾熱による熱処理が用いられる。湿熱処理としては、例えば、蒸気や、熱水、染色浴などの熱液体による処理が挙げられる。乾熱処理としては、例えば、熱風乾燥や熱プレスなどによる熱処理などの処理が挙げられる。
【0052】
なお、精練や染色、ソーピング等の浴中工程を行う場合は、浴中で湿熱処理による熱融着が可能となるため、工程削減にもなり好ましい。この場合の熱処理温度は、好ましい下限が50℃、好ましい上限が100℃である。より好ましい下限としては60℃、さらに好ましい下限は65℃である。
糸に対して熱融着材料や熱合着材料を混用させる方法には、熱融着材料を用いたカバリング糸(SCYでもDCYでもよい)を用いる方法や、熱融着材料製又は熱合着材料製の糸を引き揃える(プレーティング編としてもしなくてもよい)方法などがある。
【0053】
次に、導電帯2について説明する。導電帯2は、金属素線や金属被覆線、又は炭素繊維などの導電糸により形成することができる。金属素線や金属被覆線における金属成分の具体例としては、金、白金、銀、銅、ニッケル、クロム、鉄、銅、亜鉛、アルミ、タングステン、ステンレスなどが好適となる。その他にも、チタン、マグネシウム、錫、バナジウム、コバルト、モリブデン、タンタル等の純金属をはじめ、それらの合金(真鍮、ニクロムなど)を挙げることができる。
【0054】
また、導電帯2を製編によって形成する場合、採用する編組織は何ら限定されるものではない。例えば、平編、ゴム編、スムース編、パール編又はそれらの変化組織(例えば、ミラノリブや段ボールニット、鹿の子、パイルなど)を採用することができる。当然に、製編には丸編機に限らず横編機などを使用することができる。またこれら列挙したような緯編みで編成される組織に限らず、経編みで編成される組織(トリコット編、ラッシェル編、ミラニーズ編など)としてもよい。
【0055】
金属素線には、連続した長線だけでなく単線を撚り合わせたものを使用することもできる。一方、金属被覆線において、その芯材を樹脂製の繊維や線材若しくは動植物繊維とするときは、樹脂メッキ法などに採用されるメッキ処理をはじめ、湿式塗布法や粉体付着法などを行えばよい。また、芯材を金属製の線材とするときでは溶射法、スパッタ法、CVD法等を採用することもできる。芯材にはモノフィラメント、マルチフィラメント、紡績(スパン)糸を使用すればよく、或いはウーリー加工糸やSCY、DCYなどのカバリング糸、毛羽加工糸などの嵩高加工糸を使用することもできる。
【0056】
その他、これら金属素線や金属被覆線、炭素繊維を非導電繊維と混用させるものでもよい。例えば、紡績(スパン)糸を用いて混紡糸やカバリング糸、引き揃えとすることができる。また、熱セット温度よりも融点、軟化点が高い繊維との混用とすることも可能である。
導電帯2に対しても、非導電帯3と同様にほつれ止め処理を施すことができる。導電帯2に対するほつれ止め処理の詳細は非導電帯3の場合と略同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0057】
次に、切開予定部5について説明する。切開予定部5は、熱、水、薬液のいずれか一つを付加したときに、当該切開予定部5を形成している構造の一部又は全部が消失する特性を有している。
熱で溶けるもの(溶融糸、溶着糸)の代表例としては、例えば低融点ポリウレタン(日清紡社製のモビロンシリーズ等)を挙げることができる。また水で溶けるものの代表としては、例えばPVA(ニチビ社製のソルブロンシリーズ等)を挙げることができる。
【0058】
薬剤で溶けるものの代表例としては、例えばナイロン等を挙げることができる。ナイロンを採用する場合、ギ酸によって溶出除去することができる。
なお、切開予定部5は、ハサミやカッターなどの切断刃により、繊維構造を破壊するこ
とにより両側の導電帯2を切り離す構造として形成することもできる。或いは、引張応力の負荷により、この切開予定部5が優先的に破壊される程度に、非導電帯3内の他部(切開予定部5ではない部位)と比べて力学的強度が最も弱い構造として形成することもできる。
【0059】
例えば、導電帯
2及び非導電帯3はフライス編とし、切開予定部5は平編などのシンプルな編組織にする方法を採用することで、切開予定部5は切りやすくなる。また導電帯
2や非導電帯3と比較して切開予定部5では細い糸を使うという方法もある。更には、導電帯
2や非導電帯3と比較して切開予定部5では強度が弱く切れやすい糸を使うという方法もある。その他、導電帯
2や非導電帯3と比較して切開予定部5では度目を極端に粗くするという方法もある。
【0060】
なお、切開予定部5を目視し易い色糸で製編しておき、切開作業の目印にさせる方法を単独又は前記の各種方法と複合的に採用することも可能である。
このような構成を備えた本発明ハーネス1は、例えば特開平11―279937号に記載の方法(筒状生地からテープ生地を取り出す方法)等を採用して製造することができる。すなわち、丸編機を用いた筒状生地の製編を行うに際して、複数の給糸口から同時進行で製編する編みを行い、ピース間に熱、水、溶剤などで溶ける繋ぎの糸を入れ、製編後に得られた筒状生地からこの繋ぎの糸を溶かす処理を行うことにより、本発明ハーネス1を螺旋状に分離しつつ取り出すという方法である。
【0061】
前記した第1実施形態の場合で具体的に説明すると、第1非導電帯3A、第1導電帯2A、メインの非導電帯3Bの前段約半分、メインの切開予定部5A、メインの非導電帯3Bの後段約半分、第2導電帯2B、第2非導電帯3C、第2切開予定部5Bを1ピースとしている(
図1参照)ので、これらを各別の給糸口から給糸して同時進行で製編を行うようにする。
【0062】
以上、詳説したところから明らかなように、本発明ハーネス1では、衣類などの身生地本体10へ取り付けるに際し、該当する切開予定部5を帯長手方向の所定長さだけ切開して、この切開により、分離独立した導電帯2をそれぞれ異なる配線先へ向けて分離配線させること等が、いとも簡単に、また自由に行えるようになる。
そのため、センサ等(電極や検出子などである場合も含む)11を備えた各種衣類(高精度モニタリング衣類など)を簡単且つ迅速に製作することも可能になる。
【0063】
図9は、本発明ハーネス1の第2実施形態を示している。本第2実施形態の本発明ハーネス1が第1実施形態と最も異なるところは、メインの非導電帯3Bにおける帯幅方向の範囲内において、当該非導電帯3Bが第1導電帯2Aと隣接する位置に偏るようにして、メインの切開予定部5Aが配置されている点にある。また、第2非導電帯3Cは省略してある。
【0064】
このような第2実施形態では、分離後の各導電帯2を帯幅の小さなものとすることができるため、コンパクトな配線が可能となる利点がある。その他の構成及び作用効果は第1実施形態と略同様であり、ここでの詳説は省略する。
図10は、本発明ハーネス1の第3実施形態を示している。本第3実施形態の本発明ハーネス1では、メインの非導電帯3Bにおける帯幅方向の全部にメインの切開予定部5Aが設けられている。すなわち、メインの非導電帯3Bとメインの切開予定部5Aとが同一のものとして形成されている。また同様に、第2非導電帯3Cと第2切開予定部5Bとが同一のものとして形成されている。
【0065】
このような第3実施形態では、分離後の各導電帯2を更に一層帯幅の小さなものとすることができるため、更なるコンパクトな配線が可能となる利点がある。その他の構成及び作用効果は第1実施形態と略同様であり、ここでの詳説は省略する。
図11は、本発明ハーネス1の第4実施形態を示している。本第4実施形態の本発明ハーネス1が第1実施形態と最も異なるところは、分離後の各導電帯2に対してその帯幅方向両側に付随するようになる非導電帯3に対し、補強縁25を設けている点にある。補強縁25は、例えば、ゴム編などの厚みを出せる編組織にする、太い糸を使う、切れ難い糸を使う、度目を極端に細かくする、等の方法を採用して編成することで形成することがで
きる。その他の構成及び作用効果は第1実施形態と略同様であり、ここでの詳説は省略する。
【0066】
図12は、本発明ハーネス1の第5実施形態を示している。本第5実施形態の本発明ハーネス1が第1実施形態と最も異なるところは、分離後の導電帯2が複線ペアとなっている点にある。すなわち、切開予定部5と切開予定部5との間に、複数本の導電帯2が互いに電気的に独立して(絶縁状態を保持して)配置されているものである。
なお、図例では導電帯2が2本一組(ペア)としている場合を示しているが、導電帯2の本数は限定されない。
【0067】
このような第5施形態では、ペアとなる導電帯2に対して、例えば出力用と入力用との異なる作用を分配させることができるので、試用上の自由度が飛躍的に拡大されるという利点がある。その他の構成及び作用効果は第1実施形態と略同様であり、ここでの詳説は省略する。
ところで、本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて更に適宜変更可能である。
【0068】
例えば、本発明ハーネス1は、衣類などの身生地本体10(高精度モニタリング衣類など)の製作に使用することが限定されるものではなく、あらゆる電機機器や情報機器、試験用基材や検査機器類において適宜使用することができる。
従って当然に、導電帯2は電力の搬送(入出力)のみならず、信号の送受信、ヒーターなどとして使用することができるものである。
【0069】
身生地本体10は、着用者の胴部、首、腕、指、脚などに通す円筒状、テーパ筒状、ひょうたん筒状などとしてもよい。また、これらの場合、必ずしも周方向でシームレスにすることが求められるものではなく、身生地本体10を帯状に形成して着用者の対象部位へ巻き付けるようにすることも可能である。巻き付け状態を維持させるうえでは、周方向で巻き付けるベルト止めとする他、紐止め、ボタン止め、ホック止め、面ファスナー止め、線ファスナー止め、縫製など、各種の止め付け方法を採用することが可能である。必要に応じて、止め付け時の周長(筒径)を可変にするためのアジャスト機能を備えさせてもよい。
【0070】
導電帯2や非導電帯3については主に編組織とする場合について詳説したが、織組織としてもよいものである。また編織組織以外にも、不織布によって形成したり、樹脂シートなど(伸縮性を有する樹脂シートや導電性を有する樹脂シートなどの活用)によって形成したりすることが可能である。