(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、重荷重用空気入りタイヤには、タイヤの転がり抵抗を小さくし、低燃費性を向上させることが求められている。従来、低転がり抵抗性を高めるため、カーボンブラックの配合量を減らす、大粒径のカーボンブラックを配合する、等の手法が用いられているが、これらの手法では硬度が低下し、耐偏摩耗性が悪化するという問題点があった。
以上から、硬度、耐偏摩耗性および低燃費性を共に満足させるには至っていないのが現状である。
【0003】
なお下記特許文献1には、(i)ゴム100重量部、(ii)π電子芳香環を有する化合物を酸化縮合させた酸化縮合物とカーボンブラックとからなる複合体10〜180重量部並びに(iii)分子中に水酸基及びエーテル結合の少なくとも一方を有するC
4 〜C
20の有機化合物を分散剤として含んでなるゴム組成物が開示されている。しかし特許文献1には本発明における特定化合物を用い、ゴムとカーボンブラックとの相互作用を高め、重荷重用タイヤのトレッドにおける硬度、耐偏摩耗性および低転がり抵抗性を共に向上させようとする技術思想は何ら開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、硬度を高め、優れた耐偏摩耗性および低転がり抵抗性を有する重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた重荷重用空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の組成のジエン系ゴムに対し、特定の特定を有するカーボンブラックおよび特定の構造を有する化合物を特定量で配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.天然ゴムおよび/または合成イソプレンゴムを55質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、
窒素吸着比表面積(N
2SA)が100〜150m
2/gのカーボンブラックを30〜70質量部、および
一分子内にキノン類の構造とスルホン酸またはその塩類の構造とを有する化合物、および/または、一分子内にキノン類の構造とチオ硫酸またはその塩類の構造とを有する化合物を0.1〜20質量部配合してなることを特徴とする重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物。
2.前記キノン類が、ベンゾキノン、ナフトキノンまたはアントラキノンのいずれかであることを特徴とする前記1に記載の重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物。
3.前記化合物として、前記化合物100質量部と前記ゴム用プロセスオイル1〜100質量部とからなる混合物を使用する前記1または2に記載の重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物。
4.前記1〜3のいずれかに記載のゴム組成物をトレッドに使用した重荷重用空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定の組成のジエン系ゴムに、特定の特性を有するカーボンブラックを特定量;および一分子内にキノン類の構造とスルホン酸またはその塩類の構造とを有する化合物、および/または、一分子内にキノン類の構造とチオ硫酸またはその塩類の構造とを有する化合物を特定量配合したので、硬度を高め、優れた耐偏摩耗性および低転がり抵抗性を有する重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた重荷重用空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で使用されるジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)および/または合成イソプレンゴム(IR)を必須成分とする。NRおよび/またはIRの配合量は、ジエン系ゴム全体を100質量部としたときに55質量部以上であることが必要であり、65質量部以上であることが好ましい。NRおよび/またはIRの配合量が55質量部未満であると、ゴムの強度が悪化し、好ましくない。なお、NRおよびIR以外にも他のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。とくに本発明では、BRを45質量部以下、好ましくは35〜10質量部配合するのがよい。ジエン系ゴムの分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。なお本発明の効果の点から、ジエン系ゴムはNRおよび/またはIR以外に、BRを併用するのが好ましい。
【0009】
本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N
2SA)が100〜150m
2/gであることが必要であり、本発明の効果が向上するという観点から、110〜140m
2/gであることが好ましく、120〜130m
2/gであることがさらに好ましい。なお、窒素吸着比表面積(N
2SA)はJIS K6217−2に準拠して求めた値である。
【0010】
本発明は、一分子内にキノン類の構造とスルホン酸またはその塩類の構造とを有する化合物、および/または、一分子内にキノン類の構造とチオ硫酸またはその塩類の構造とを有する化合物(以下、特定化合物と言うことがある)を特定量配合することを特徴とする。
【0011】
下記化1は、特定化合物を形成する各構造を示している。
【0013】
上記式(1)〜(3)で示されるように、キノン類としては、本発明の効果向上の観点から、(1)ベンゾキノン、(2)ナフトキノン、(3)アントラキノンが好ましいものとして挙げられる。上記式(4)はスルホン酸、(5)はスルホン酸塩、(6)はチオ硫酸、(7)はチオ硫酸塩の各構造を示している。
Mは一価のカチオンであり、その種類に制限はないが、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン等が挙げられる。
上記式(4)〜(7)における符号「*」は、キノン類の構造への結合手を表す。
上記式(4)〜(7)に示される各構造は、キノン類の構造のどこに結合していてもよい(ただしキノイド構造(=O)には結合しない)。また上記式(4)〜(7)に示される各構造は、特定化合物の一分子内に1つまたはそれ以上存在することができ、例えば一分子内に1〜4個存在することができる。
また、上記式(4)〜(7)に示される各構造は特定化合物の一分子内に複数種類存在していてもよい。
【0014】
本発明における特定化合物は、公知の手法により合成することができ、また市販されているものを利用することもできる。
【0015】
本発明における特定化合物は、キノン類の構造がカーボンブラックと、スルホン酸またはその塩類の構造、および/または、チオ硫酸またはその塩類の構造がジエン系ゴムと相互作用し、ジエン系ゴムとカーボンブラックとを分散性よくカップリングすることができ、本発明の効果が奏されるものと推測される。
【0016】
本発明では、特定化合物として、前記化合物100質量部と前記ゴム用プロセスオイル1〜100質量部とからなる混合物を使用するのが好ましい。この形態によれば、硬度、耐偏摩耗性および低転がり抵抗性をさらに向上させることができる。
ゴム用プロセスオイルとしては、当業界でゴム組成物に通常配合されているオイルをすべて使用することができ、とくに制限されない。
一般的に、ゴム用プロセスオイルとしては、高沸点の石油留分が用いられ、炭化水素の化学構造によって、鎖状飽和炭化水素であるパラフィン系炭化水素と、環状飽和炭化水素であるナフテン系炭化水素と、芳香族炭化水素であるアロマ系炭化水素に分類される。これらの炭化水素は、一般的に、粘度比重定数(以下、「VGC」とよぶ)として知られている数値により区別され、アロマ系炭化水素は0.900以上のVGCを有し、パラフィン系炭化水素は0.790〜0.849のVGCを有し、ナフテン系炭化水素は0.850〜0.899のVGCを有する。ASTM D2140などの環分析法として知られている分析法に従って、試料のVGCと屈折率、比重、動粘度などの値から、その試料についてのパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素およびアロマ系炭化水素を構成する炭素の割合(重量%)を求めることができる。
本発明では、アロマ系炭化水素を使用するのがとくに好ましく、例えば、原油を減圧蒸留して得られた重質留分を溶剤抽出した時の不溶分を水添処理して得られる、TDAE(Treated Distillate Aromatic Extract)オイル等を使用することができる。
【0017】
また本発明において、前記混合物は、ゴム用プロセスオイルによって特定化合物を処理することにより調製される。処理方法としては、公知のミキサーを使用すればよく、例えば、愛工舎製作所社製の卓上型ミキサーに特定化合物とゴム用プロセスオイルを計量して仕込み、5〜30分間攪拌すればよい。
なお、さらに好ましいゴム用プロセスオイルの使用量は、特定化合物100質量部に対し、3〜50質量部である。
【0018】
(重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物の配合割合)
本発明の重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを30〜70質量部;および特定化合物を0.1〜20質量部配合してなることを特徴とする。
カーボンブラックの配合量が30質量部未満であると、硬度が低下し、耐偏摩耗性が悪化する。逆に70質量部を超えると低転がり抵抗性を得ることができない。
特定化合物の配合量が0.1質量部未満であると、添加量が少なすぎて本発明の効果を奏することができない。逆に20質量部を超えると低転がり抵抗性を得ることができない。
【0019】
さらに好ましい前記カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、40〜55質量部である。
さらに好ましい前記特定化合物の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.5〜10質量部である。
【0020】
本発明の重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などの重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0021】
また本発明の重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物は従来の重荷重用空気入りタイヤの製造方法に従って重荷重用空気入りタイヤを製造することができ、トレッド、とくにキャップトレッドに使用するのが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0023】
標準例、実施例1〜5および比較例1〜8
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物を得た。次に得られた重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0024】
硬度(20℃):JIS K6253に準拠して20℃にて測定した。結果は、標準例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど硬度が高いことを示す。
耐偏摩耗性:JIS K6264に準拠し、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所(株)製)を使用して荷重6Kg(=49N)、スリップ率25%、時間4分、室温の条件で摩耗減量を測定した。結果は標準例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど耐偏摩耗性が良好であることを示す。
tanδ(60℃):(株)東洋精機製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用い、初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件で、tanδ(60℃)を測定した。結果は、標準例の値を100として指数表示した。指数が小さいほど低転がり抵抗性であることを示す。
結果を表1に併せて示す。
【0025】
【表1】
【0026】
*1:NR(STR20)
*2:BR(日本ゼオン(株)製Nipol BR 1220)
*3:カーボンブラック−1(キャボットジャパン(株)製ショウブラックN234、N
2SA=120m
2/g)
*4:カーボンブラック−2(キャボットジャパン(株)製ショウブラックN330T、N
2SA=70m
2/g)
*5:2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム(富山薬品工業(株)製)
*6:アントラキノン(和光純薬工業(株)製)
*7:2−アントラキノンスルホン酸ナトリウム(富山薬品工業(株)製)
*8:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*9:ステアリン酸(千葉脂肪酸(株)製工業用ステアリン酸)
*10:老化防止剤(住友化学(株)製アンチゲン6C)
*11:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄)
*12:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーNS−F)
*13:1,5−アントラキノンジスルホン酸ジナトリウム油処理品(1,5−アントラキノンジスルホン酸ジナトリウム(富山薬品工業(株)製)を、乳棒と乳鉢を用いて、TDAEと混合したことにより得られた油処理品。該油処理品は特定化合物の質量に対して5%の質量のTDAEを用いて処理した。)
【0027】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜5で調製された重荷重タイヤトレッド用ゴム組成物は、特定の組成のジエン系ゴムに、特定の特性を有するカーボンブラックおよび特定化合物を特定量配合したので、従来の代表的な標準例1に比べて、硬度および耐偏摩耗性が改善され、また優れた低転がり抵抗性を示していることが分かる。また実施例4、5は、特定化合物をゴム用プロセスオイルで処理しているため、本発明の効果がさらに高まることが分かる。
これに対し、比較例1は、標準例に比べてカーボンブラックの配合量を減少させた例であり、硬度および耐偏摩耗性が悪化した。
比較例2は、標準例に比べてカーボンブラックの配合量を増加させた例であり、低転がり抵抗性が得られなかった。
比較例3は、標準例に比べてカーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)を低下させた例であり、硬度および耐偏摩耗性が悪化した。
比較例4、8は、特定化合物の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、低転がり抵抗性が得られなかった。
比較例5は、本発明の範囲外の2−ナフタレンスルホン酸ナトリウムを配合した例であるので、低転がり抵抗性が得られなかった。
比較例6は、本発明の範囲外のアントラキノンを配合した例であるので、低転がり抵抗性が得られなかった。
比較例7は、特定化合物を配合しているものの、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)が本発明で規定する下限未満であるので、硬度、耐偏摩耗性および転がり抵抗性に大きな改善が確認されなかった。