特許第6766441号(P6766441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6766441
(24)【登録日】2020年9月23日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】ラインボーリングバーの支持構造
(51)【国際特許分類】
   B23B 39/00 20060101AFI20201005BHJP
   B23B 41/00 20060101ALI20201005BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   B23B39/00 A
   B23B41/00 B
   B23Q11/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-98948(P2016-98948)
(22)【出願日】2016年5月17日
(65)【公開番号】特開2017-205825(P2017-205825A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 拓
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−103906(JP,U)
【文献】 特開平11−132170(JP,A)
【文献】 特開2007−309392(JP,A)
【文献】 特開2004−060814(JP,A)
【文献】 特開平01−158211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 39/00 − 49/06
B23Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物において軸方向に配置された複数の穴を同時に中ぐり加工するためのラインボーリングバーの支持構造であって、
前記ラインボーリングバーの軸方向両端部を支持すべく前記被加工物よりも軸方向前側および後側にそれぞれ配置される第1支持部材と、
前記ラインボーリングバーの軸方向中間部を支持すべく前記被加工物の長さ範囲内に配置され、前記被加工物の上面上に隙間を隔てて配置される第2支持部材と、
を備え、
前記第1支持部材および前記第2支持部材は、
前記ラインボーリングバーに嵌合され、前記ラインボーリングバーに供回り可能に係合されるスリーブと、
前記スリーブが嵌合される支持穴を有し、前記支持穴の内周面により前記スリーブを直接的に回転可能に支持する支持体と、
を備え
前記第2支持部材における前記支持体の下端面は略水平に形成され、
前記第2支持部材において前記支持穴の最下端位置より下側に位置する前記支持体の高さ方向の肉厚は、前記第1支持部材において前記支持穴の最下端位置より下側に位置する前記支持体の高さ方向の肉厚より小さい
ことを特徴とするラインボーリングバーの支持構造。
【請求項2】
前記第2支持部材は、軸方向における前記穴の間の位置に複数配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のラインボーリングバーの支持構造。
【請求項3】
前記被加工物は、ワーク昇降台上に固定されると共に第1昇降装置により昇降可能とされ、
前記ラインボーリングバーは、前記後側の第1支持部材より軸方向後方の位置で工作機械の機械主軸に同軸に固定され、
前記前側および後側の第1支持部材は、固定具により外部空間に対して固定され、
前記第2支持部材は、天板から吊り下げ支持されると共に第2昇降装置により昇降可能とされる
ことを特徴とする請求項1または2に記載のラインボーリングバーの支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラインボーリングに使用されるラインボーリングバーの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、多気筒内燃機関のシリンダヘッドにおける複数のカムシャフト軸受穴を中ぐり加工する場合、これらカムシャフト軸受穴を1本のラインボーリングバーで同時に加工することが行われている。ラインボーリングバーは中ぐり工具の一種であり、複数のカムシャフト軸受穴にそれぞれ対応した複数の加工用バイトを有する。ラインボーリングバーを複数のカムシャフト軸受穴に挿入し、ラインボーリングバーを回転しつつ軸方向に移動させることで、複数のカムシャフト軸受穴を同時に加工することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−83861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラインボーリングバーは、その軸方向の適宜の箇所において、回転可能かつ軸方向移動可能に支持される。かかる支持を行う支持構造として、ラインボーリングバーの外側に供回り可能に嵌合されたスリーブを、支持体により外周側から支持する構造が考えられる。
【0005】
他方、被加工物であるシリンダヘッドの厚肉化等により、シリンダヘッドが支持体に干渉し、ラインボーリングが困難になる状況が存在する。
【0006】
そこで本発明は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、被加工物と支持体の干渉を抑制することが可能なラインボーリングバーの支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様によれば、
ラインボーリングバーに嵌合され、前記ラインボーリングバーに供回り可能に係合されるスリーブと、
前記スリーブが嵌合される支持穴を有し、前記支持穴の内周面により前記スリーブを直接的に回転可能に支持する支持体と、
を備えたことを特徴とするラインボーリングバーの支持構造が提供される。
【0008】
好ましくは、前記スリーブが炭素鋼から形成され、HRC48〜52の硬度を有し、
前記支持体が合金工具鋼鋼材から形成され、HRC60〜65の硬度を有する。
【0009】
好ましくは、前記スリーブの少なくとも外周面に硬質クロムメッキ層が形成され、
前記支持穴の内周面の凹凸の最大高さが6μm以下とされる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被加工物と支持体の干渉を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の全体構成を示す部分断面正面図である。
図2】第1可動支持部材の縦断正面図である。
図3図2の右側面図である。
図4図2のIV−IV断面図である。
図5】本実施形態のラインボーリング加工方法を説明するための部分断面正面図である。
図6】本実施形態のラインボーリング加工方法を説明するための部分断面正面図である。
図7】本実施形態のラインボーリング加工方法を説明するための部分断面正面図である。
図8】比較例の第1可動支持部材における図2のIV−IV断面相当図である。
図9図5のIX−IX断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の全体構成を示す部分断面正面図であり、特に、多気筒内燃機関のシリンダヘッド1の複数のカムシャフト軸受穴2を1本のラインボーリングバー3で同時に中ぐり加工する場合の様子を示したものである。本実施形態において、多気筒内燃機関は直列6気筒ディーゼルエンジンであり、シリンダヘッド1は被加工物もしくはワークをなす。但し、内燃機関の気筒数、種類等は任意である。また内燃機関の別の複数の穴、例えばクランクケースの複数のクランクシャフト軸受穴を加工する際にも本発明は適用可能である。さらに被加工物は、シリンダヘッド1に限定されず、内燃機関の部品にも限定されない。様々な被加工物のラインボーリングに本発明は適用可能である。なおラインボーリングバー3はアーバーと称されることもある。
【0014】
カムシャフト軸受穴2の中心軸(穴軸という)をC1で示し、ラインボーリングバー3の中心軸(バー軸という)をC2で示す。図1の加工前の初期状態において、これら穴軸C1とバー軸C2はほぼ同軸に整列されるが、厳密には、バー軸C2が穴軸C1より僅かに下方にオフセットされている。便宜上、これら軸C1,C2方向における一端側(図中左側)を後、他端側(図中右側)を前とする。
【0015】
シリンダヘッド1において、カムシャフト軸受穴2は、各気筒の軸方向両隣に位置する箇所に合計で7つ設けられている。カムシャフト軸受穴2は、シリンダヘッド1上に一体に立設されたベアリング部4と、ベアリング部4上に図示しないボルトにより取り付けられたベアリングキャップ5とにより画成される。詳しくは、カムシャフト軸受穴2は全体として円形であり、ベアリング部4は、カムシャフト軸受穴2の半円形の下半部を画成し、ベアリングキャップ5は、カムシャフト軸受穴2の半円形の上半部を画成する。本実施形態では、ベアリングキャップ5の取付後に形成された円形のカムシャフト軸受穴2の内周面ないし軸受面を、所定の寸法および精度に仕上げるため、ラインボーリングバー3で中ぐり加工するようになっている。
【0016】
もっとも、ラインボーリングバー3で中ぐり加工する穴の形状および形態は任意である。例えば、ベアリングキャップ5の取付前におけるベアリング部4の半円形の穴のみを中ぐり加工してもよい。また、ベアリングキャップ5をベアリング部4に一体化し、すなわち、シリンダヘッド1に円形のカムシャフト軸受穴2を一体に形成し、この円形のカムシャフト軸受穴2を中ぐり加工してもよい。
【0017】
シリンダヘッド1は、ワーク昇降台6上に固定され、第1昇降装置(本実施形態では昇降用シリンダ)7により昇降され得るようになっている。
【0018】
ラインボーリングバー3は、バー軸C2方向に延びる棒状の部材である。ラインボーリングバー3の後端部は、工作機械(中ぐり盤)の機械主軸8に同軸に固定される。機械主軸8が回転されると、これに伴ってラインボーリングバー3がバー軸C2回りに回転駆動される。また機械主軸8が軸方向に移動されると、これに伴ってラインボーリングバー3も軸方向に移動される。
【0019】
ラインボーリングバー3は、その外周面、特に外周面上端から突出されたバイトを有する。本実施形態の場合、1つのカムシャフト軸受穴2の加工を担当する一対もしくは2つのバイト、すなわち荒加工用バイト9と仕上げ加工用バイト10が設けられている。7つのカムシャフト軸受穴2に対応して、荒加工用バイト9と仕上げ加工用バイト10の対は合計で7つ設けられている。一対のバイトにおいて、荒加工用バイト9は仕上げ加工用バイト10より僅かに前方に位置されている。また荒加工用バイト9の突出高さは当然に仕上げ加工用バイト10の突出高さより低くされている(図2参照)。隣り合うバイト対の軸方向の間隔は、当然に、カムシャフト軸受穴2の軸方向の間隔と等しくされる。
【0020】
またラインボーリングバー3は、その外周面、特に外周面上端から突出されたキー11をも有する。キー11の機能については後述する。キー11は、バイト9,10が存在しない軸方向のほぼ全ての領域において軸方向に延在するよう、複数設けられる。キー11の突出高さは、荒加工用バイト9および仕上げ加工用バイト10の突出高さより高くされている(図2参照)。
【0021】
次に、ラインボーリングバー3を支持するための支持構造について説明する。支持構造は、ラインボーリングバー3の軸方向両端部を支持すべくシリンダヘッド1よりも前側および後側にそれぞれ配置された前側固定支持部材21および後側固定支持部材22と、ラインボーリングバー3の軸方向中間部を支持すべく、シリンダヘッド1の長さ(前後長)範囲内に配置された複数(本実施形態では3つ)の可動支持部材、すなわち第1、第2および第3可動支持部材23,24,25とを備える。
【0022】
前側固定支持部材21および後側固定支持部材22は、図示しない固定具により外部空間に対し固定され、一定位置に保持される。前側固定支持部材21および後側固定支持部材22は互いに同軸に配置される。図1の状態では、ラインボーリングバー3の前端部が後側固定支持部材22に同軸に挿入され支持されている。従ってこの状態では、前側固定支持部材21および後側固定支持部材22がラインボーリングバー3と同軸に整列されることとなる。
【0023】
前方から順に第1、第2および第3可動支持部材23,24,25が配置される。これら可動支持部材23,24,25は天板26に取り付けられ、天板26から吊り下げ支持される。天板26に第2昇降装置(本実施形態では昇降用シリンダ)27が連結され、天板26および可動支持部材23,24,25が第2昇降装置27により昇降移動される。図1の状態では、可動支持部材23,24,25がカムシャフト軸受穴2よりも上方の位置に待機されている。
【0024】
軸方向において、第1可動支持部材23は、前から2番目のカムシャフト軸受穴2の直後の位置に配置され、第2可動支持部材24は、前から4番目のカムシャフト軸受穴2の直前の位置に配置され、第3可動支持部材25は、前から6番目のカムシャフト軸受穴2の直前の位置に配置される。これにより、ラインボーリングバー3の軸方向中間部をほぼ均等にバランスよく支持することができる(図6および図7参照)。
【0025】
前側固定支持部材21および後側固定支持部材22ならびに第1、第2および第3可動支持部材23,24,25の構成はほぼ同様である。従って以下、第1可動支持部材23の構成のみを詳しく説明し、他の支持部材については相違点を中心に説明する。
【0026】
図2は第1可動支持部材23の縦断正面図であり、図3図2の右側面図、すなわち軸方向前方から見たときの図であり、図4図2のIV−IV断面図である。なお図2には、ラインボーリングバー3の構成との比較を行い易くするため、便宜上、ラインボーリングバー3の構成の一部を同軸上で併記している。図2には前述の荒加工用バイト9、仕上げ加工用バイト10およびキー11が示される。
【0027】
図2図4に示すように、第1可動支持部材23は、ラインボーリングバー3の外周側に嵌合されるよう構成されたスリーブ31と、スリーブ31が同軸に嵌合される支持穴32を有する支持体33とを備える。
【0028】
スリーブ31は、所定の長さおよび内外径を有する円筒状の部材であり、中心軸(スリーブ軸という)C3を有する。スリーブ31は、ラインボーリングバー3の外周面3Aにスライド可能に嵌合されるよう構成された内周面34と、支持穴32の内周面35に同軸かつスライド可能に嵌合されるよう構成された外周面36とを有する。スリーブ31の内周面34、特に図示例におけるその上端には、スリーブ軸C3の軸方向全長に延びるキー溝37が形成される。このキー溝37に、ラインボーリングバー3のキー11がスライド挿入されることで、スリーブ31は、ラインボーリングバー3に供回り可能に係合される。
【0029】
支持体33は、スリーブ31を外周側から取り囲んでスリーブ31を軸方向および回転方向にスライド可能に支持する。支持体33は支持穴32を有し、支持穴32は支持体33を軸方向に貫通して形成される。特に、支持穴32の内周面35は、スリーブ31の外周面36全体に面接触させられる。よって支持体33は、支持穴32の内周面35により、スリーブ31を直接的に回転可能に支持する。支持体33の上面には、前記天板26の下面に取り付けられるための取付面38が形成される。
【0030】
支持体33の前面および後面には、スリーブ31が支持穴32から抜け出るのを防止するため、リング状のカバー39が複数のボルト40により取り付けられている。カバー39の内径は、スリーブ31の内周面34の内径より大きく、キー溝37の内径より大きいが、スリーブ31の外周面36の外径および支持穴32の内周面35の内径より小さくされている。またカバー39の外径は、支持体33の前面または後面から半径方向外側にはみ出さないように設定されている。
【0031】
図3および図4から理解されるように、シリンダヘッド1の上面との干渉を避けるため、支持穴32の最下端位置より下側に位置する支持体33の高さ方向の肉厚tは薄くされ、かつ、支持体33およびカバー39の下端面は略水平に形成されている。その他の部位でも、支持体33およびカバー39は、シリンダヘッド1との干渉を避けるような形状に形成されている。
【0032】
第1可動支持部材23の構成は以上の通りであるが、第2および第3可動支持部材24,25の構成は、正面視(図1)における支持体33の形状が異なるのみで、他の点は同様である。図1に示すように、シリンダヘッド1の前後両側に配置された前側固定支持部材21および後側固定支持部材22については、それらの下方のスペースに若干余裕があることから、支持穴32の下側の支持体33の肉厚が第1可動支持部材23よりも大きくされている。他の点は第1可動支持部材23と同様である。
【0033】
次に、本実施形態におけるラインボーリング加工方法を説明する。
【0034】
図1に示す初期状態において、バー軸C2は穴軸C1より僅かに下方にオフセットされ、従って前側および後側固定支持部材21,22のスリーブ軸C3も穴軸C1より僅かに下方にオフセットされている。つまり、ラインボーリングバー3の上端に位置する荒加工用バイト9、仕上げ加工用バイト10およびキー11が、ベアリングキャップ5に干渉せず、カムシャフト軸受穴2内を軸方向に通過できるよう(詳しくは後述)、カムシャフト軸受穴2に対するラインボーリングバー3の相対高さ位置が設定されている。ラインボーリングバー3の前端部が、後側固定支持部材22のスリーブ31内に挿入され、ラインボーリングバー3の外周面から突出するキー11が同スリーブ31のキー溝37内に挿入されている。
【0035】
次に図5に示すように、第2昇降装置27により天板26が下降され、第1〜第3可動支持部材23〜25のスリーブ軸C3がバー軸C2ならびに前側および後側固定支持部材21,22のスリーブ軸C3と同軸となるよう、第1〜第3可動支持部材23〜25が配置される。
【0036】
次に図6に示すように、機械主軸8およびラインボーリングバー3が軸方向前方に移動すなわち前進される。このときラインボーリングバー3は、複数のカムシャフト軸受穴2および第1〜第3可動支持部材23〜25のスリーブ31に次々と挿入される。そして最終的に、ラインボーリングバー3の前端部が前側固定支持部材21のスリーブ31に挿入される。これによりラインボーリングバー3は、その前端部、後端部および中間部において、各支持部材21〜25により回転自在に支持される。この挿入過程において、バイト9,10およびキー11がキー溝37内を軸方向に通過する。
【0037】
挿入が完了すると、各支持部材21〜25において、ラインボーリングバー3のキー11が、対応するスリーブ31のキー溝37に挿入され、スリーブ31がラインボーリングバー3に供回り可能に係合ないし連結される。
【0038】
次に図7に示すように、第1昇降装置7によりワーク昇降台6が下降され、シリンダヘッド1の高さ位置が、前述のオフセット分だけ僅かに下降される。これにより穴軸C1が、バー軸C2と同軸に整列されることとなる。
【0039】
この後、図示しないが、機械主軸8およびラインボーリングバー3がバー軸C2回りに回転駆動されると共に、機械主軸8およびラインボーリングバー3がバー軸C2の方向に前進移動される。これにより、複数のカムシャフト軸受穴2が、各々を担当する一対のバイトにより同時に中ぐり加工される。このとき、まず荒加工用バイト9による荒加工が行われ、次いで仕上げ加工用バイト10による仕上げ加工が行われる。こうしてカムシャフト軸受穴2は、所定の寸法および精度に仕上げられることとなる。
【0040】
次に、本発明の着想前に想定された比較例と比較しつつ、本実施形態の利点と構成の詳細とを説明する。
【0041】
図8に示すように、比較例においては、支持部材(図示例では第1可動支持部材23)におけるスリーブ31と支持穴32の間に、円筒状ブッシュ50が相対回転可能に介設されていた。つまり支持体33は、ブッシュ50を介してスリーブ31を間接的に回転可能に支持する。このブッシュ50があるため、支持体33が本実施形態よりも大きくなり、支持穴32の最下端位置より下側において、仮想線で示すように、支持体33がシリンダヘッド1と干渉してしまっていた。
【0042】
こうした干渉が生じると、ラインボーリングを行うこと自体が困難になり、あるいは実質的に不可能になるという問題がある。
【0043】
特に、シリンダヘッド1に追加で別の装置もしくは機構(例えば圧縮解放ブレーキ機構)を搭載する必要性から、シリンダヘッド1の剛性向上のためその厚肉化を行うと、かかる干渉が生じ易くなる。
【0044】
しかしながら本実施形態では、ブッシュ50を省略し、スリーブ50を支持体33により直接的に回転可能に支持するようにしたため、支持体33をより小型化でき、シリンダヘッド1との干渉を抑制ないし防止することができる。そしてラインボーリングを確実に実行可能とすることができる。
【0045】
例えば、スリーブ軸C3から、上下方向に延びる垂直線上での支持体33の下端位置までの半径方向距離に関し、比較例では図8に示すようにR2であったのに対し、本実施形態では図4に示すように、R2より小さいR1に短縮できた。
【0046】
ところで、ブッシュ50を省略すると、ラインボーリングの最中に、支持穴32の内周面35とスリーブ31の外周面36とが直接的に接触して相対的にスライド回転するため、それらの一方または両方の焼き付きおよび早期摩耗が懸念される。そこで本実施形態では、かかる焼き付きおよび早期摩耗を抑制ないし防止するため、次の対策を施している。
【0047】
まず、スリーブ31の材質に関し、比較例の合金工具鋼鋼材もしくはダイス鋼(例えばSKD11)を、本実施形態では炭素鋼(例えばS45C)に変更した。また支持体33の材質に関し、比較例のクロムモリブデン鋼鋼材(例えばSCM435)を、本実施形態では合金工具鋼鋼材(例えばSKD11)に変更した。支持体33の材質を変更した理由は、支持体33の焼き入れ後の硬度を向上させるためである。スリーブ31の材質を変更した理由は、支持体33の材質と異ならせ、かつできるだけ高い焼き入れ後の硬度を得るためである。同種の材質を選定してしまうと、かじりが生じ易くなるため、スリーブ31の材質を支持体33の材質と異ならせ、かじりを抑制ないし防止するようにしている。
【0048】
スリーブ31および支持体33ともに焼き入れがなされるが、その焼き入れ後の硬度については、比較例のスリーブ31がHRC(ロックウェル硬さ)55〜60であるのに対し、本実施形態のスリーブ31はHRC48〜52である。また比較例の支持体33がHRC23〜28であるのに対し、本実施形態の支持体33はHRC60〜65であり、硬度が向上されている。
【0049】
また、比較例のスリーブ31では表面処理がなされないのに対し、本実施形態のスリーブ31では表面処理がなされる。本実施形態では、スリーブ31の表面全体にメッキ処理が施され、硬質クロムメッキ層が形成される。そして硬質クロムメッキ層の表面全体がさらにバフ仕上げされる。なお、焼き付きおよび早期摩耗が懸念されるのはスリーブ31の特に外周面36であることから、かかる外周面36のみに硬質クロムメッキ層を形成し、かつバフ仕上げしてもよい。このように、スリーブ31の少なくとも外周面36に、バフ仕上げ表面を有する硬質クロムメッキ層が形成される。こうした表面処理を行うことにより、摩擦を低減し、焼き付きおよび早期摩耗を効果的に抑制することができる。
【0050】
他方、支持穴32の内周面35の表面仕上げも、比較例から本実施形態にかけて変更されている。比較例および本実施形態ともに、その粗さは6−S、すなわち凹凸の最大高さが6μm以下とされる。しかしながらその仕上げ加工方法は、比較例ではボーリング加工であるのに対し、本実施形態では研磨仕上げに変更されている。これにより面粗度の向上を図れる。
【0051】
なお、比較例のブッシュ50の材質はガンメタルもしくは鉛青銅鋳物(例えばLBC)である。これに対し本実施形態ではブッシュ50が省略される。
【0052】
このように、外形、もしくはスリーブ軸C3を基準とする外径を縮小した支持体33を備える本実施形態の支持構造によれば、図9に示すように、厚肉化されたシリンダヘッド1の場合であっても、可動支持部材23〜25(図は可動支持部材25のみ示す)の支持体33とシリンダヘッド1の干渉を回避でき、両者間に隙間を確保することができる。よってラインボーリングを確実に実行可能とすることができる。なお図9は、可動支持部材23〜25の支持体33とシリンダヘッド1が最も接近される図5の状態を示し、具体的には図5のIX−IX断面図である。
【0053】
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明は以下に述べるような他の実施形態も可能である。
【0054】
(1)例えば、中間の可動支持部材23〜25の数、配置等は必要に応じて任意に変更可能である。
【0055】
(2)前側固定支持部材21および可動支持部材23〜25を省略し、後側固定支持部材22のみでラインボーリングバー3を片持ち支持することも可能である。
【0056】
(3)本発明の構成は、被加工物との干渉が問題となる支持部材に適用するのが好適である。かかる支持部材は、上記実施形態では可動支持部材23〜25であったが、それが固定支持部材21,22であれば、固定支持部材21,22に本発明の構成を適用するのが当然に好ましい。
【0057】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
3 ラインボーリングバー
31 スリーブ
32 支持穴
33 支持体
35 内周面
36 外周面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9