特許第6766446号(P6766446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6766446
(24)【登録日】2020年9月23日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】摩擦撹拌接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20201005BHJP
【FI】
   B23K20/12 340
   B23K20/12 320
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-104132(P2016-104132)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-209703(P2017-209703A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 浩
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−003344(JP,A)
【文献】 特開2005−186084(JP,A)
【文献】 特開2004−130326(JP,A)
【文献】 特開2002−001550(JP,A)
【文献】 特開2009−142898(JP,A)
【文献】 特開2003−236681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のワークを支持する架台と、前記架台に支持されたワーク同士を摩擦撹拌接合するツールを搭載し、前記架台の下部空間を走行する走行台車と、を備える摩擦撹拌接合装置であって、
前記摩擦撹拌接合の際に、前記ワーク、前記ツール、前記走行台車の少なくとも一つの状態監視を行う状態監視系を備え、
前記状態監視系は、前記走行台車に搭載されており、
前記走行台車は、前記ツールを走行させる走行側台車ユニットと、前記ツールを回転させる主軸を備える主軸側台車ユニットと、前記走行側台車ユニットと前記主軸側台車ユニットを前記摩擦撹拌接合の進行方向において一定範囲で変位自在に連結する連結部と、を備え、
前記状態監視系は、前記走行側台車ユニットと前記主軸側台車ユニットとの間に配置された荷重監視素子を備える、ことを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項2】
前記状態監視系は、複数の状態監視素子を備え、
前記複数の状態監視素子は、前記ワークの接合部に沿って配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の摩擦撹拌接合装置。
【請求項3】
前記状態監視系は、前記摩擦撹拌接合の進行方向後方側において、前記一対のワークの少なくともいずれか一方の温度を監視するワーク温度監視素子を備える、ことを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦撹拌接合装置。
【請求項4】
前記ワーク温度監視素子は、少なくとも前記一対のワークのアドバンシングサイドの温度を監視する、ことを特徴とする請求項3に記載の摩擦撹拌接合装置。
【請求項5】
前記ワーク温度監視素子は、前記摩擦撹拌接合の進行方向と直交する幅方向において、前記ワークの接合部から退避した両側の位置に一対で設けられている、ことを特徴とする請求項3または4に記載の摩擦撹拌接合装置。
【請求項6】
前記状態監視系は、前記一対のワーク温度監視素子の間に配置された撮像素子を備え、
前記撮像素子は、少なくとも前記ワークの接合部を含む画角で取り付けられている、ことを特徴とする請求項5に記載の摩擦撹拌接合装置。
【請求項7】
前記状態監視系は、前記摩擦撹拌接合の進行方向前方において、前記ツールの温度を監視するツール温度監視素子を備える、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の摩擦撹拌接合装置。
【請求項8】
前記ワーク及び前記ツールの状態監視を行う状態監視素子は、前記主軸側台車ユニットに搭載されている、ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の摩擦撹拌接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、摩擦撹拌接合は、摩擦撹拌接合用のツールのプローブ(ピンとも称する)を、回転させた状態でワーク同士が突き合わされた接合部に押し付けて、該回転するプローブをワーク内に没入させると共に接合部の全長に亘り移動させる手法である。これにより、ワークの接合部にプローブとの接触による摩擦熱を発生させて、該接合部周辺を軟化させると共に、この軟化した接合部周辺をプローブの回転に伴って塑性流動により撹拌混合することで、ワーク同士を一体に接合する。
【0003】
下記特許文献1には、摩擦撹拌接合装置の一形態が開示されている。この摩擦撹拌接合装置は、下記特許文献1の図2に示すように、一対のワークを支持する架台と、架台に支持されたワーク同士を摩擦撹拌接合するツールを搭載し、架台の下部空間を走行する走行台車と、を備える。ワークは、摩擦撹拌接合の際に、ツールから力(例えば、摩擦撹拌接合が進行する方向にワークを押す力、接合部を引き離そうとする力、及びワークを回転させようとする力等)を受けるため、架台は、ワーククランプ機構を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−196184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、摩擦撹拌接合するワークは、例えば10mm未満のアルミ材等の薄板が中心であった。しかしながら、近年、10mm以上(例えば30mm以下)程度の厚板にも、摩擦撹拌接合の適用範囲が広がりつつある。このような背景のもと、厚板のワークに対する施工品質の確認、及び装置本体、接合部の異常状態を把握するため、ワーク、ツール及び走行台車の状態を監視する必要性が生じてきている。従来の構成では、走行台車が架台の下部空間に配置され、また、架台の上にはワーククランプ機構が配置されているため、上記監視対象を目視等により外部から直接監視することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ワークの施工状態の確認、及び装置本体、接合部の異常状態を把握することが可能な摩擦撹拌接合装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、一対のワークを支持する架台と、前記架台に支持されたワーク同士を摩擦撹拌接合するツールを搭載し、前記架台の下部空間を走行する走行台車と、を備える摩擦撹拌接合装置であって、前記摩擦撹拌接合の際に、前記ワーク、前記ツール、前記走行台車の少なくとも一つの状態監視を行う状態監視系を備え、前記状態監視系は、前記走行台車に搭載されている、という構成を採用する。
【0008】
また、本発明においては、前記状態監視系は、複数の状態監視素子を備え、前記複数の状態監視素子は、前記ワークの接合部に沿って配置されている、という構成を採用する。
【0009】
また、本発明においては、前記状態監視系は、前記摩擦撹拌接合の進行方向後方側において、前記一対のワークの少なくともいずれか一方の温度を監視するワーク温度監視素子を備える、という構成を採用する。
【0010】
また、本発明においては、前記ワーク温度監視素子は、少なくとも前記一対のワークのアドバンシングサイドの温度を監視する、という構成を採用する。
【0011】
また、本発明においては、前記ワーク温度監視素子は、前記摩擦撹拌接合の進行方向と直交する幅方向において、前記ワークの接合部から退避した両側の位置に一対で設けられている、という構成を採用する。
【0012】
また、本発明においては、前記状態監視系は、前記一対のワーク温度監視素子の間に配置された撮像素子を備え、前記撮像素子は、少なくとも前記ワークの接合部を含む画角で取り付けられている、という構成を採用する。
【0013】
また、本発明においては、前記状態監視系は、前記摩擦撹拌接合の進行方向前方において、前記ツールの温度を監視するツール温度監視素子を備える、という構成を採用する。
【0014】
また、本発明においては、前記走行台車は、前記ツールを走行させる走行側台車ユニットと、前記ツールを回転させる主軸を備える主軸側台車ユニットと、前記走行側台車ユニットと前記主軸側台車ユニットを前記摩擦撹拌接合の進行方向において一定範囲で変位自在に連結する連結部と、を備え、前記状態監視系は、前記走行側台車ユニットと前記主軸側台車ユニットとの間に配置された荷重監視素子を備える、という構成を採用する。
【0015】
また、本発明においては、前記ワーク及び前記ツールの状態監視を行う状態監視素子は、前記主軸側台車ユニットに搭載されている、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、ツールを搭載し、ワークを支持する架台の下部空間を走行する走行台車に、ワーク、ツール、走行台車の少なくとも一つの状態監視を行う状態監視系を搭載する。この構成によれば、架台の下部空間において、走行台車から上記監視対象を直接監視することができるため、架台や、その架台が備えるワーククランプ機構等の構造物によって、上記監視対象の監視が遮られることがなくなる。
したがって、本発明では、ワークの施工状態の確認、及び装置本体、接合部の異常状態を把握することが可能な摩擦撹拌接合装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態における摩擦撹拌接合装置を示す側面構成図である。
図2】本発明の実施形態における主軸の一端部周辺の構成を示す拡大図である。
図3】本発明の実施形態における走行台車に搭載された状態監視系の配置を示す平面図である。
図4】本発明の実施形態における連結部の構成及び荷重監視素子の配置を示す斜視図である。
図5】本発明の実施形態におけるワークの接合部に対する状態監視系の配置を示す平面模式図である。
図6】本発明の実施形態における撮像素子の画角に含まれる像を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明することがある。水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0019】
図1は、本発明の実施形態における摩擦撹拌接合装置1を示す側面構成図である。
摩擦撹拌接合装置1は、ワークWを支持する架台2と、架台2に支持されたワークWを摩擦撹拌接合するツール20を搭載し、架台2の下部空間Sを走行する走行台車3と、を備える。
【0020】
架台2は、走行台車3の移動方向(X軸方向)に延びる一対の支持板であり、当該一対の支持板のそれぞれにワークWを支持する。走行台車3は、一対の支持板のY軸方向における隙間を介して架台2上に突出させたツール20を回転させつつX軸方向に移動させることにより、架台2に支持された一対のワークW同士を接合する。架台2は、一対のワークWを一対の支持板に固定する図示しないワーククランプ機構(例えば、特許文献1の図2参照)を備える。
【0021】
走行台車3は、架台2の下部空間Sに配置されている。走行台車3は、ツール20を走行させる走行側台車ユニット4と、ツール20を回転させる主軸21を備える主軸側台車ユニット5と、走行側台車ユニット4と主軸側台車ユニット5とを連結する連結部6と、摩擦撹拌接合の状態監視を行う状態監視系7と、を備える。
【0022】
走行側台車ユニット4は、モータ10と、カップリング12と、ウォーム減速機13と、スプロケット14と、を備える。モータ10は、走行側台車ユニット4の駆動源である。モータ10は、遊星減速機を含んで構成されている。カップリング12は、モータ10とウォーム減速機13の軸部同士を接続する。ウォーム減速機13は、モータ10の回転を減速する。スプロケット14は、ウォーム減速機13に接続され、モータ10の回転に対し所定の減速比で回転する。
【0023】
スプロケット14は、ベース8上に敷設されたチェーンラック9に係合している。スプロケット14が回転すると、走行側台車ユニット4がX軸方向に移動すると共に、走行側台車ユニット4と連結部6を介して連結された主軸側台車ユニット5がX軸方向に移動する。なお、主軸側台車ユニット5の両側部は、図示しないリニアガイド機構(例えば、特許文献1の図2参照)によって支持されている。
【0024】
主軸側台車ユニット5は、ツール20と、主軸21と、主軸回転駆動装置22と、を備える。ツール20は、摩擦撹拌接合用の回転工具であり、本実施形態では、ワークWの表裏面に接触するボビンツールからなる。主軸21は、鉛直方向(Z軸方向)に延在し、その鉛直上方の一端部21aにツール20を支持している。主軸回転駆動装置22は、上部軸受部23と、下部軸受部24と、主軸側Vプーリ25と、Vベルト26と、モータ側Vプーリ27と、モータ28と、を備える。
【0025】
上部軸受部23は、主軸21の一端部21a側に配置され、主軸21を鉛直方向に延びる軸回りに回転自在に支持する。下部軸受部24は、主軸21の他端部21b側に配置され、主軸21を鉛直方向に延びる軸回りに回転自在に支持する。主軸側Vプーリ27は、主軸21の他端部21bに接続されている。Vベルト26は、主軸側Vプーリ27とモータ側Vプーリ27とに架設されている。モータ側Vプーリ27は、主軸側Vプーリ27よりも径が小さく形成され、モータ28と接続されている。
【0026】
モータ28は、主軸側台車ユニット5の駆動源である。モータ28が回転すると、モータ側Vプーリ27、Vベルト26を介して、主軸側Vプーリ27が所定の減速比で回転する。主軸21は、上部軸受部23及び下部軸受部24によって回転自在に支持されており、主軸側Vプーリ27と共に回転する。主軸21が回転すると、主軸21に支持されたツール20が鉛直方向に延びる軸回りに回転する。このVベルト26による動力伝達機構は、効率がよく、負荷による効率変動も少ないため、モータ28のサーボモータ駆動によって、モータ28のトルク計測から安定して主軸21のトルク計測を行える。
【0027】
連結部6は、走行側台車ユニット4と主軸側台車ユニット5とを、摩擦撹拌接合の進行方向において一定範囲で相対変位自在に連結する(詳細は後述)。
状態監視系7は、ワークW、ツール20、走行台車3の少なくとも一つの(本実施形態では全ての)状態監視を行う複数の状態監視素子7aを備える。複数の状態監視素子7aは、走行側台車ユニット4と主軸側台車ユニット5との間に配置された荷重監視素子40と、主軸側台車ユニット5に搭載されたワーク温度監視素子41、撮像素子42、ツール温度監視素子43と、を含む。
【0028】
続いて、図2図6を参照して、主軸21の一端部21a周辺の構成及びその周辺に配置された状態監視系7の構成について説明する。
【0029】
図2は、本発明の実施形態における主軸21の一端部21a周辺の構成を示す拡大図である。図3は、本発明の実施形態における走行台車3に搭載された状態監視系7の配置を示す平面図である。図4は、本発明の実施形態における連結部6の構成及び荷重監視素子40の配置を示す斜視図である。図5は、本発明の実施形態におけるワークWの接合部100に対する状態監視系7の配置を示す平面模式図である。図6は、本発明の実施形態における撮像素子42の画角に含まれる像を示すイメージ図である。
【0030】
図2に示すように、主軸21の一端部21aには、ツール20を収容する収容溝29が設けられている。ツール20は、上部ショルダー50と、プローブ51と、下部ショルダー52と、挿入部53と、を備える。上部ショルダー50と下部ショルダー52は、ワークWの表裏面を摩擦発熱させる。プローブ51は、当該摩擦発熱によって軟化したワークWの接合部100を撹拌混練する。挿入部53は、下部ショルダー52よりも一回り大きな円柱形状を有し、収容溝29に挿入される。
【0031】
主軸21は、収容溝29を形成するツールホルダー60を備える。ツールホルダー60の外周面には、キー64が固定されている。キー64は、主軸21に形成されたキー溝66に係合している。これにより、主軸21の回転力をツールホルダー60に伝達することができる。ツールホルダー60は、複数のボルト67によって主軸21の端面に対して複数箇所で固定されている。ツールホルダー60の上端面には、飛散物の侵入を阻止するカバー部材68が取り付けられている。
【0032】
主軸21は、フローティング機構70を備える。フローティング機構70は、ツール20を収容溝29に対し軸方向に移動自在に支持する。フローティング機構70は、すべりキー71と、バネ部材72と、を備える。すべりキー71は、ツール20の挿入部53の外周面に固定されている。すべりキー71は、ツールホルダー60の内周面に形成されたキー溝74に係合している。
【0033】
これにより、主軸21の回転力を、ツールホルダー60を介してツール20に伝達することができる。また、キー溝74は、主軸21の軸方向(Z軸方向)に沿って延在しており、ツール20は、すべりキー71によってツールホルダー60に対して軸方向に移動することができる。バネ部材72は、ツール20を軸方向に移動自在に支持する。本実施形態のバネ部材72は、コイルスプリングであり、収容溝29に形成されたガイド溝29cに収容されている。
【0034】
上部軸受部23は、第1の軸受80、第2の軸受81が配置された複列軸受である。本実施形態の第1の軸受80と第2の軸受81は、背面組み合わせの複列円錐コロ軸受である。なお、第1の軸受80と第2の軸受81との間には、図示しない間座が配置されている。第1の軸受80と第2の軸受81の内輪側は、円環形状の固定板82及びナット83を介して主軸21に固定されている。第1の軸受80と第2の軸受81の外輪側は、ケーシング90に固定されている。
【0035】
ケーシング90は、主軸21の周囲に上部軸受部23を収容する油冷室91を形成する。ケーシング90は、ケーシング本体92と、ケーシング蓋体93と、を備える。ケーシング本体92は、油冷室91の側面及び底面を形成する。ケーシング本体92には、主軸21の外周面と摺接するシール部材96が取り付けられている。ケーシング蓋体93は、油冷室91の天面を形成する。ケーシング蓋体93には、主軸21の外周面と摺接するシール部材97が取り付けられている。
【0036】
ケーシング本体92は、複数のボルト94によって主軸側台車ユニット5に対して複数箇所で固定されている。ケーシング蓋体93は、複数のボルト95によってケーシング本体92に対して複数箇所で固定されている。第1の軸受80と第2の軸受81の外輪側は、ボルト95によって締結固定されたケーシング本体92とケーシング蓋体93とに挟持されている。なお、ケーシング本体92には、図示しない潤滑油排出ポートが接続されている。また、ケーシング蓋体93には、図示しない潤滑油供給ポートが接続されている。
【0037】
図2及び図4に示すように、連結部6は、走行側台車ユニット4と主軸側台車ユニット5とを摩擦撹拌接合の進行方向(X軸方向)において変位自在に連結する複数のガイドポスト30を備える。複数のガイドポスト30は、図4に示すように、Y−Z平面において、荷重監視素子40を中心とした正方形の4つの角部に対応する位置に配置されている。このガイドポスト30は、固定台31と、シャフト32と、スライドブッシュ33と、を備える。
【0038】
固定台31は、主軸側台車ユニット5と対向する走行側台車ユニット4の対向面4aに固定されている。シャフト32は、走行側台車ユニット4に固定された固定台31に支持されている。シャフト32は、固定台31からX軸方向に延在する。図2に示すように、走行側台車ユニット4と対向する主軸側台車ユニット5の対向面5aには、シャフト32が挿入される挿入孔34が形成されている。スライドブッシュ33は、挿入孔34に挿入されたシャフト32に対してX軸方向に移動自在に係合し、主軸側台車ユニット5の対向面5aを形成するフレーム5Aの裏面5bに固定されている。
【0039】
また、連結部6は、摩擦撹拌接合の進行方向(X軸方向)における走行側台車ユニット4と主軸側台車ユニット5との変位を一定範囲に規制する複数のボルトナット35を備える。複数のボルトナット35は、図4に示すように、Y−Z平面において、荷重監視素子40を中心とした正方形の4つの角部に対応する位置に配置されている。複数のボルトナット35は、複数のガイドポスト30よりも荷重監視素子40の近くに配置されている。ボルトナット35には、図2に示すように、荷重監視素子40にある程度の予圧(摩擦撹拌接合の進行方向における反力変動以上のプリテンション)をかける皿バネ36が介装されている。皿バネ36は、ボルトナット35による締め付け荷重をコントロールする。
【0040】
荷重監視素子40は、走行側台車ユニット4の対向面4aと主軸側台車ユニット5の対向面5aとの間に配置された圧縮型のロードセルである。図2に示すように、荷重監視素子40を挟んだ通常状態では、固定台31と対向面5aとの間に荷重監視素子40の変位量を確保するクリアランスが生じている。この構成によれば、主軸側台車ユニット5が摩擦撹拌接合の際にその進行方向において受ける反力を荷重監視素子40によって計測することができる。また、走行台車3が摩擦撹拌接合の際と反対側に移動しても、ボルトナット35によって走行側台車ユニット4と主軸側台車ユニット5との連結が解除されないようにすることができる。
【0041】
図2に示すように、主軸側台車ユニット5のフレーム5Aは天板フレーム5Bを支持している。フレーム5Aの裏面5bには、天板フレーム5Bを支えるサポート部材5cが取り付けられている。天板フレーム5Bには、ボルト94を介してケーシング本体92が接続されている。また、この天板フレーム5Bには、ワーク温度監視素子41が取り付けられている。ワーク温度監視素子41は、摩擦撹拌接合の進行方向後方側(ツール20の−X側)において、ワークWの温度を監視する。
【0042】
ワーク温度監視素子41は、非接触式の赤外線温度センサである。ワーク温度監視素子41は、天板フレーム5BとワークWとの距離が近く、上向きに取り付けることが困難であるため、測定赤外線R1を90°曲げるプリズム41aを備える。これにより、ワーク温度監視素子41は、主軸側台車ユニット5の直上に配置されたワークWの温度計測が可能となる。このワーク温度監視素子41は、図3に示すように、摩擦撹拌接合の進行方向と直交する幅方向(Y軸方向)において間隔をあけて一対で設けられている。
【0043】
図5に示すように、ワーク温度監視素子41は、Y軸方向において一対のワークWの接合部100から退避した両側の位置に一対で設けられている。具体的には、ワーク温度監視素子41によるワークWの測定点41bが、接合部100から退避した位置に設定されている。接合部100の大きさは、ツール20の大きさに依存する。このため、左右の測定点41bは、少なくともツール20のプローブ51(図2参照)の径よりも離間して設定することが好ましく、より好ましくは、ツール20の上部ショルダー50,下部ショルダー52(図2参照)の径よりも離間して設定することが好ましい。
【0044】
図5に示すように、ツール20が平面視時計回りに回転するとき、一対のワークWのうち、+Y側に配置されたものは摩擦撹拌接合のアドバンシングサイドとなる。アドバンシングサイドとは、摩擦撹拌接合の際のツール20の進行方向と回転方向が同じになる側である。アドバンシングサイドは、ツール20の進行方向と回転方向が逆であるリトリーティングサイド(−Y側)よりも、抵抗が高く、入熱量が多い。このため、ワーク温度監視素子41は、少なくとも一対のワークWのアドバンシングサイドの温度を監視できるようになっている。本実施形態では、リトリーティングサイドの温度も監視できるようにワーク温度監視素子41が一対で設けられている。
【0045】
図3に示すように、一対のワーク温度監視素子41の間には、撮像素子42が配置されている。撮像素子42は、天板フレーム5Bに取り付けられたアタッチメント台37に支持されている。アタッチメント台37は、天板フレーム5Bの窪み部5dに配置されている。なお、窪み部5dには、走行側台車ユニット4の上部に設けられた一対のリブ4A(図4参照)が挿入される。アタッチメント台37は、図2に示すように、階段状(段差状)に形成され、天板フレーム5Bよりも低い位置で撮像素子42を支持している。このアタッチメント台37は、撮像素子42の監視対象を照らす照明44も搭載している。照明44は、図2及び図3において、符号Lで示す範囲を照らす。
【0046】
撮像素子42は、摩擦撹拌接合の進行方向後方側(ツール20の−X側)において、ワークWの接合部100を撮像するビデオカメラである。撮像素子42は、少なくともワークWの接合部100を含む画角で取り付けられている。図6に示すように、本実施形態の撮像素子42の画角には、接合部100の他に、ツール20(下部ショルダー52)と、スケール38とが含まれる。スケール38は、撮像素子42の撮影位置を把握するものであり、装置固定部分(本実施形態では架台2の裏側)に設置されている。なお、本実施形態の撮像素子42は、ズーム機能を有しており、図2及び図3において、符号V1で示す広角モードと、符号V2で示す望遠モードに切り替え可能とされている。
【0047】
図2及び図3に示すように、ツール温度監視素子43は、摩擦撹拌接合の進行方向前方側(ツール20の+X側)において、ツール20の温度を監視する。ツール温度監視素子43は、非接触式の赤外線温度センサである。ツール温度監視素子43は、図2に示すように、ケーシング蓋体93に取り付けられている。ツール温度監視素子43は、測定赤外線R2がツール20の下部ショルダー52を含むような角度で取り付けられている。
【0048】
上述した複数の状態監視素子7a(荷重監視素子40、ワーク温度監視素子41、撮像素子42、ツール温度監視素子43)は、図3及び図5に示すように、ワークWの接合部100(ツール20を通るX軸方向に延びる直線)に沿って配置されている。
状態監視系7は、複数の状態監視素子7aの監視データを目視により確認可能な図示しないモニター付き操作パネルと、複数の状態監視素子7aの監視データを記憶する図示しない記憶装置と、を備える。記憶装置は、例えば、荷重監視素子40、ワーク温度監視素子41、ツール温度監視素子43の監視データを記憶するデータロガーと、撮像素子42の監視データ(撮像データ)を記憶するHDDレコーダと、を備える。監視データのサンプリングは、主軸21の回転/停止と連動しており、時系列的な状態のトレースも可能とされている。
【0049】
以上のように、本実施形態では、ツール20を搭載し、ワークWを支持する架台2の下部空間Sを走行する走行台車3に、ワークW、ツール20、走行台車3の少なくとも一つ(本実施形態では全て)の状態監視を行う状態監視系7を搭載する(図1参照)。この構成によれば、架台2の下部空間Sにおいて、走行台車3から上記監視対象を直接監視することができるため、架台2や、その架台2が備えるワーククランプ機構等の構造物によって、上記監視対象の監視が遮られることがなくなる。
【0050】
具体的に、状態監視系7は、複数の状態監視素子7a(荷重監視素子40、ワーク温度監視素子41、撮像素子42、ツール温度監視素子43)を備え、複数の状態監視素子7aは、図3及び図5に示すように、ワークWの接合部100に沿って配置されている。この構成によれば、ワーク温度監視素子41、撮像素子42、ツール温度監視素子43は、架台2の隙間から監視対象(ワークW、ツール20)を直接監視でき、また、荷重監視素子40は、平面視でツール20の移動経路上に配置され、摩擦撹拌接合の際の走行方向の反力をダイレクトに受けることができる。このため、ワークWの施工状態の確認、及び装置本体、接合部100の異常状態を正確に把握することができる。
【0051】
ワーク温度監視素子41は、図3及び図5に示すように、摩擦撹拌接合の進行方向後方側(ツール20の−X側)に配置される。この構成によれば、ツール20によって入熱された直後のワークWの温度を監視することが可能となる。
また、ワーク温度監視素子41は、少なくとも一対のワークWのアドバンシングサイド(+Y側)の温度を監視する。すなわち、アドバンシングサイドは、リトリーティングサイド(−Y側)よりも、抵抗が高く、入熱量が多いため、アドバンシングサイドの温度を監視することにより、接合部100の異常状態を効果的に把握することができる。
さらに、ワーク温度監視素子41は、摩擦撹拌接合の進行方向と直交する幅方向において、ワークWの接合部100から退避した両側の位置に一対で設けられている。この構成によれば、測定赤外線R1が接合部100の鱗状の表面から受ける影響を回避して、ワーク温度監視素子41の計測精度を向上させつつ、アドバンシングサイドだけでなくリトリーティングサイドの温度も監視できる。
【0052】
撮像素子42は、図3及び図5に示すように、一対のワーク温度監視素子41の間に配置され、図6に示すように、少なくともワークWの接合部100を含む画角で取り付けられている。この構成によれば、一対のワーク温度監視素子41の間のデッドスペースを利用して撮像素子42を配置できる。また、撮像素子42の直上には、ワークWの接合部100が延在しており、図6に示すように、撮像素子42の画角に接合部100が収まり易くなる。また、図6に示すように、摩擦撹拌接合の際、特に異常がなければ、撮像素子42には一定幅の接合部100が撮像され続けるため、接合部100の幅を監視することにより、接合部100の異常状態を効果的に把握することができる。また、撮像素子42の画角に、スケール38を含めていれば、仮に接合部100に異常状態が発生した場合であっても、その位置を容易に把握することができる。
【0053】
ツール温度監視素子43は、図2及び図3に示すように、摩擦撹拌接合の進行方向前方側(ツール20の+X側)に配置される。この構成によれば、撮像素子42と干渉することなく(撮像素子42の画角に入ることなく)、ツール20の温度を計測することができる。また、摩擦撹拌接合の進行方向前方側は、ワークWに対する入熱前の状態であり、ツール温度監視素子43をワークWに近付けて配置できるため、図2に示すように、ツール温度監視素子43の取り付け角度の調整も容易となる。
【0054】
また、本実施形態においては、図1に示すように、走行台車3は、ツール20を走行させる走行側台車ユニット4と、ツール20を回転させる主軸を備える主軸側台車ユニット5と、走行側台車ユニット4と主軸側台車ユニット5を摩擦撹拌接合の進行方向において一定範囲で変位自在に連結する連結部6と、を備え、荷重監視素子40は、走行側台車ユニット4と主軸側台車ユニット5との間に配置される。本実施形態のように、ウォーム減速機13を使用する場合、その機械特性から運転開始時と運転中で減速機効率が約10%程度変動することがあるため、例えば、モータ10をサーボモータ駆動させ、モータ10のトルク値から摩擦撹拌接合の進行方向の反力を計測しようとすると、その正確な値の計測は困難になる。一方、本実施形態によれば、走行台車3の走行系(走行側台車ユニット4)と回転系(主軸側台車ユニット5)を機械的に分割し、その間に荷重監視素子40を配置しているため、ウォーム減速機13の減速機効率の変動の影響を受けることなく、摩擦撹拌接合の進行方向の反力を正確に計測することが可能となる。
【0055】
また、図1に示すように、ワークW及びツール20の状態監視を行う状態監視素子7a(ワーク温度監視素子41、撮像素子42、ツール温度監視素子43)は、主軸側台車ユニット5に搭載されている。この構成によれば、ツール20、ワーク温度監視素子41、撮像素子42、及びツール温度監視素子43が、同一の主軸側台車ユニット5に搭載されるため、摩擦撹拌接合の進行方向において主軸側台車ユニット5が反力を受けて変位しても、ツール20、ワーク温度監視素子41、撮像素子42、及びツール温度監視素子43との相対位置が変化しないため、走行側台車ユニット4に搭載した場合と比べて計測誤差が小さくなる。
【0056】
このように、上述の本実施形態によれば、一対のワークWを支持する架台2と、架台2に支持されたワークW同士を摩擦撹拌接合するツール20を搭載し、架台2の下部空間Sを走行する走行台車3と、を備える摩擦撹拌接合装置1であって、摩擦撹拌接合の際に、ワークW、ツール20、走行台車3の少なくとも一つの状態監視を行う状態監視系7を備え、状態監視系7は、走行台車3に搭載されている、という構成を採用することによって、ワークWの施工状態の確認、及び装置本体、接合部100の異常状態を把握することが可能な摩擦撹拌接合装置1が得られる。
【0057】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、荷重監視素子40として圧縮型のロードセルを使用したが、例えば、主軸側台車ユニット5が走行側台車ユニット4に牽引される構成の場合、荷重監視素子40として引張型のロードセルを使用してもよい。
【0059】
また、例えば、上記実施形態では、ボルトナット35に皿バネ36を介装し、荷重監視素子40に予圧をかける構成について説明したが、皿バネ35が他の弾性要素(例えば、コイルスプリングや、ゴム等)から構成されていてもよい。
【0060】
また、例えば、上記実施形態では、連結部6が複数のガイドポスト30を備える構成について説明したが、連結部6がリニアガイド機構によって走行側台車ユニット4と主軸側台車ユニット5とを変位自在に連結する構成であってもよい。また、このリニアガイド機構は、走行台車3の走行の全体をガイドするリニアガイド機構と兼用としてもよい。
【0061】
また、例えば、上記実施形態では、Vベルト26による動力伝達機構を介して主軸21を回転させると説明したが、動力伝達効率がよく、負荷による効率変動も少ないものであれば、例えば、平歯車などのシンプルな歯車減速機構を動力伝達機構としてもよい。
【0062】
また、例えば、上記実施形態では、ワーク温度監視素子41を摩擦撹拌接合の進行方向後方側に一対で配置し、一対のワークWのそれぞれの温度を監視する構成について説明したが、ワーク温度監視素子41を1つだけ配置し、一対のワークWの一方の温度のみを監視する構成であってもよい。ワーク温度監視素子41を1つだけ配置する場合は、ワークWのアドバンシングサイドとリトリーティングサイドのいずれの温度を監視してもよいが、入熱量が多いアドバンシングサイドの温度を監視する方が好ましい。また、ワーク温度監視素子41を2個以上配置してもよい。ワーク温度監視素子41を2個以上配置する場合は、摩擦撹拌接合の進行方向前方側と後方側にそれぞれ2個ずつ配置し、摩擦撹拌接合の施工前後の一対のワークWの温度を監視する構成としてもよい。
【0063】
また、例えば、上記実施形態では、取扱い性の観点からワーク温度監視素子41を非接触式のセンサとしているが、ワーク温度監視素子41を接触式のセンサとしてもよい。例えば、熱電対等の接触式のセンサを、バネ等の弾性部材で支持してワークWに押し付ける構成であってもよい。
また、ツール温度監視素子42も接触式のセンサとしてもよい。例えば、接触式のセンサをツール20に埋め込み、ツール20の温度を無線通信によりリモートで監視する構成としてもよい。
また、ワーク温度監視素子41及びツール温度監視素子42として、広域を一括監視できるサーモカメラ等を使用してもよい。
【0064】
また、例えば、上記実施形態では、撮像素子42としてビデオカメラを使用したが、撮像素子42として静止画カメラを使用し、一定時間ごとに撮影してもよい。また、撮像素子42として暗視カメラのようなものを使用すれば、照明44は設置しなくてもよい。
【0065】
また、例えば、上記実施形態では、ツール20がボビン型である構成について説明したが、ツール20がプローブ型(一対のショルダーを備えずプローブ(円柱部)にネジ加工がされたものとネジ加工されていないものを含む)であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 摩擦撹拌接合装置
2 架台
3 走行台車
4 走行側台車ユニット
5 主軸側台車ユニット
6 連結部
7 状態監視系
7a 状態監視素子
20 ツール
40 荷重監視素子
41 ワーク温度監視素子
42 撮像素子
43 ツール温度監視素子
100 接合部
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6