特許第6766449号(P6766449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6766449
(24)【登録日】2020年9月23日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】医療装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20201005BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   A61B3/10 100
   G01N21/17 630
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-105700(P2016-105700)
(22)【出願日】2016年5月26日
(65)【公開番号】特開2017-209385(P2017-209385A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】古内 康寛
(72)【発明者】
【氏名】羽根渕 昌明
【審査官】 増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−512916(JP,A)
【文献】 米国特許第06671043(US,B1)
【文献】 特表2003−510112(JP,A)
【文献】 特表2016−514491(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0101566(US,A1)
【文献】 Christian Ahlers, et al.,Imaging of the Retinal Pigment Epithelium in Age-Related Macular Degeneration Using Polarization-Sensitive Optical Coherence Tomography,Investigative Ophthalmology & Visual Science,2010年,Vol. 51,2149-2157
【文献】 Bernhard Baumann, et al.,Polarization sensitive optical coherence tomography of melanin provides intrinsic contrast based on depolarization,Biomedical Optics EXPRESS,2012年,Vol. 3, No. 7,1670-1683
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
A61B 18/20−18/28
A61F 9/00−11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療装置であって、
前記医療装置の制御部は、
患者眼の眼底に向けて照射された測定光の反射光の検出結果を処理することで得られる、前記眼底の偏光特性を取得し、
前記眼底を正面から見た場合の二次元の画像であり、治療レーザ光が既に照射された前記眼底の状態を判別するための状態判別画像のデータを、偏光特性に基づいて作成することを特徴とする医療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医療装置の各種処理手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体に対してレーザ治療およびその後の診断の少なくともいずれかを行う際に用いられる医療装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偏光特性(例えば、偏光均一度(Degree Of Polarization Uniformity)等)を用いた種々の研究が行われている。例えば、非特許文献1で開示された研究は、光凝固治療が行われた後の網膜色素上皮層をPS−OCTで撮影することで、治療後の網膜色素上皮層の継時的変化を観察する研究である。また、非特許文献2で開示された研究では、PS−OCTで計測された偏光均一度とメラニンの濃度が対応付けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Imaging Retinal Pigment Epithelial Proliferation Secondary to PASCAL Photocoagulation In Vivo by Polarization−sensitive Optical Coherence Tomography”,Jan Lammer, AJO, Vol.155, No.6(2013)
【非特許文献2】“Polarization sensitive optical coherence tomography of melanin provides intrinsic contrast based on depolarization”, Bernhard Baumann, BOE, Vol.3, No.7(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、偏光特性を用いた種々の研究は行われている。しかし、生体に対するレーザ治療またはレーザ治療後の診断を適切に補助する技術は、従来は存在しなかった。
【0005】
本開示の典型的な目的は、生体に対するレーザ治療またはレーザ治療後の診断を適切に補助することが可能な医療装置およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における典型的な実施形態が提供する医療装置の制御部は、患者眼の眼底に向けて照射された測定光の反射光の検出結果を処理することで得られる、前記眼底の偏光特性を取得し、前記眼底を正面から見た場合の二次元の画像であり、治療レーザ光が既に照射された前記眼底の状態を判別するための状態判別画像のデータを、偏光特性に基づいて作成する。
【0008】
本開示における典型的な実施形態が提供するプログラムは、前記医療装置の各種処理手段としてコンピュータを機能させる。
【0009】
本開示に係る医療装置およびプログラムによると、生体に対するレーザ治療またはレーザ治療後の診断が適切に補助される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態で例示する眼科システム100の電気的構成を示す図である。
図2】OCT装置3の概略構成を示す図である。
図3】PC1が実行する偏光特性適用処理のフローチャートである。
図4】偏光均一度とメラニンの濃度の関係の一例を示すグラフである。
図5】本実施形態における状態判別画像80の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<概要>
本開示で例示する医療装置は、医療装置の動作を制御する制御部を備える。制御部は、生体に向けて照射された測定光の反射光の検出結果を処理することで得られる、生体の偏光特性を取得する。制御部は、偏光特性に基づいて、生体に向けて照射する治療レーザ光の制御パラメータを決定する。この場合、医師は、偏光特性から判別される有用な情報に基づいて、生体のレーザ治療を適切に行うことができる。
【0012】
制御部は、生体に含まれるメラニンの濃度に関する情報を偏光均一度から算出してもよい。制御部は、算出したメラニンの濃度に関する情報に基づいて、治療レーザ光の制御パラメータを決定してもよい。メラニンは治療レーザ光を吸収するので、治療レーザ光を照射した際の生体の変化の度合いは、メラニンの濃度に応じて変動する。また、生体の特定の組織にメラニンが多く含まれる場合には、特定の組織の状態(例えば、特定の組織の欠損部位または変性等)を、メラニンの濃度によって判別できる場合もある。従って、メラニンの濃度に関する情報に基づいて治療レーザ光の制御パラメータを決定することで、より適切にレーザ治療が行われる。なお、偏光均一度からメラニンの濃度に関する情報を算出する具体的な方法は、例えば前述した特許文献2等に開示されている。また、メラニンの濃度に関する情報は、メラニンの濃度そのものに限定されない。例えば、メラニンの有無を示す情報、メラニンの濃度が閾値以上であるか否かを示す情報、またはメラニンの濃度段階を示す情報等が、メラニンの濃度に関する情報として算出されてもよい。
【0013】
制御部は、治療レーザ光を照射する照射位置のメラニンの濃度に関する情報に基づいて、照射位置に向けて照射する治療レーザ光のエネルギー、パワー、照射時間、およびデューティー比の少なくともいずれかを決定してもよい。この場合、照射位置のメラニンの濃度の差に起因して治療効果が変動してしまうことが抑制される。
【0014】
ただし、制御部は、治療レーザ光のエネルギー、パワー、照射時間、およびデューティー比以外の制御パラメータを決定してもよい。例えば、眼底の網膜色素上皮層にはメラニンが含まれる。従って、網膜色素上皮層のうちメラニンの濃度が低い位置では、層が破壊されて血液が漏出している可能性がある。よって、制御部は、網膜色素上皮層のうちメラニンの濃度が低い位置の少なくともいずれかを、治療レーザ光を照射して血液の漏出を抑制する位置として決定してもよい。つまり、制御部は、制御パラメータとして、治療レーザ光の照射位置を決定してもよい。
【0015】
また、制御部は、メラニンの濃度に関する情報以外の情報を取得して制御パラメータを決定することも可能である。例えば、PS−OCTを用いることで、眼底を正面から見た場合の神経繊維層の走行状態が明瞭に示される。従って、制御部は、神経繊維層の走行に基づいて治療レーザ光の照射位置を決定してもよい。
【0016】
本開示で例示する医療装置の制御部は、偏光特性に基づいて、照射部分画像のデータを作成することができる。状態判別画像とは、眼底を正面から見た場合の二次元の画像であり、治療レーザ光が既に照射された眼底の状態を判別するための画像である。この場合、医師は、状態判別画像に基づいて、治療レーザ光が既に照射された眼底の状態を適切に把握することができる。
【0017】
制御部は、眼底を正面から見た場合のメラニンの濃度分布に関する情報を、偏光均一度から取得してもよい。制御部は、濃度分布に関する情報に基づいて状態判別画像のデータを作成してもよい。眼底に治療レーザ光が照射されると、眼底の網膜色素上皮層に存在していたメラニンが破壊または蒸散し得る。従って、制御部は、メラニンの濃度分布に関する情報を用いることで、例えば、眼底を正面から見た場合における治療レーザ光の照射済み位置の分布、または治療が十分に行われたか否か等を、状態判別画像のデータに適切に取り入れることができる。なお、状態判別画像には、治療レーザ光が照射されたか否かを判別するための画像、および、治療レーザ光の照射前後におけるメラニンの濃度変化を判別するための画像等が含まれる。
【0018】
制御部は、眼底の正面画像を取得してもよい。制御部は、メラニンの濃度分布に関する情報を正面画像上に付加することで、状態判別画像のデータを作成してもよい。この場合、医師は、治療レーザ光が照射された患者眼の眼底を、より適切に把握することができる。
【0019】
なお、メラニンの濃度分布に関する情報を正面画像上に付加する具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、制御部は、色の変化または明度の変化等によってメラニンの濃度分布を示す画像を、眼底の組織を判別可能な正面画像に重畳させることで、状態判別画像のデータを作成してもよい。また、制御部は、メラニンの濃度が閾値以下となる領域を、治療レーザ光の照射済み位置、または十分なレーザ治療が行われた位置として正面画像上で示してもよい。
【0020】
制御部は、互いに直交する方向の2つの変更成分(例えば、垂直偏光成分および水平偏光成分)を持つ各波長での干渉信号を処理する偏光感受OCTを介して偏光特性を取得してもよい。この場合、生体(例えば眼底または皮膚等)の偏光特性が適切に取得される。ただし、偏光特性を取得する方法を変更することも可能である。例えば、共焦点走査型レーザ検眼鏡(SLO)等を用いて偏光特性を取得してもよい。
【0021】
なお、本開示では、患者眼の眼底に対してレーザ治療およびその後の診断を行う際に用いられる医療装置およびプログラムを例示する。しかし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、眼科分野以外の医療分野に適用することも可能である。例えば、皮膚に対するレーザ治療を行う際に、皮膚に含まれるメラニンの濃度に応じて、治療レーザ光の制御パラメータが決定されてもよい。
【0022】
また、本開示では、生体の偏光均一度を取得し、取得した偏光均一度に基づいて制御パラメータの決定または状態判別画像データの作成を行う場合を例示する。しかし、医療装置は、PS−OCT等によって得られる偏光均一度以外の偏光特性(例えば、複屈折性、偏光軸、複減衰等)を取得し、取得した値に基づいて制御パラメータの決定または状態判別画像データの作成を行ってもよい。
【0023】
例えば、治療レーザ光による凝固の程度に応じて、複屈折性が変化する。従って、医療装置は、患者眼の眼底に向けて照射された測定光の反射光の検出結果を処理することで得られる、眼底における複屈折性を取得し、取得した複屈折性に基づいて、治療レーザ光が既に照射された眼底の状態を判別するための状態判別画像のデータを作成してもよい。この場合、医師は、眼底の凝固の程度を容易に把握することができる。なお、この場合の状態判別画像は、眼底を正面から見た場合の二次元の画像であってもよいし、眼底の断層画像でもよい。また、眼底の三次元画像であってもよい。また、医療装置は、治療レーザ光の照射済み部位を、偏光均一度以外の値に基づいて判別してもよい。
【0024】
また、偏光方向(Axis Orientation)を取得することで、神経繊維層の走行状態が明瞭に示される。従って、医療装置は、患者眼の眼底に向けて照射された測定光の反射光の検出結果を処理することで得られる、眼底における偏光方向を取得し、取得した偏光方向に基づいて治療レーザ光の制御パラメータを決定してもよい。
【0025】
また、本開示では、メラニンの濃度に関する情報を偏光均一度から取得する場合を例示する。しかし、メラニンの濃度に関する情報が他の方法で取得されてもよい。例えば、光音響効果を利用する技術(例えば、光音響顕微鏡(PAM))によって、メラニンの濃度に関する情報が取得されてもよい。この場合でも、偏光均一度を取得する方法と同様に、治療レーザ光の制御パラメータの決定、および状態判別画像の作成の少なくともいずれかが適切に実行され得る。
【0026】
<実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態の一例について、図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本実施形態の眼科システム100の概略構成について説明する。
【0027】
一例として、本実施形態の眼科システム100は、パーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)1、OCT装置3、およびレーザ治療装置4を備える。PC1は、OCT装置3を介して、生体(一例として、本実施形態では患者眼の眼底)の偏光特性を取得する。PC1は、レーザ治療装置4から生体に向けて照射する治療レーザ光の制御パラメータを、偏光特性に基づいて決定する。また、PC1は、治療レーザ光が既に照射された眼底の状態を判別するための状態判別画像のデータを、偏光特性に基づいて作成する。
【0028】
つまり、本実施形態では、OCT装置3およびレーザ治療装置4とは別のデバイスであるPC1が、制御パラメータの決定および状態判別画像のデータの作成を行う医療装置として機能する。しかし、医療装置として動作することができるのはPC1に限定されない。例えば、OCT装置3が治療レーザ光の制御パラメータを決定し、決定した制御パラメータをレーザ治療装置4に出力してもよい。また、レーザ治療装置4が、OCT装置3から偏光特性を取得し、制御パラメータの決定および状態判別画像のデータの作成を行ってもよい。
【0029】
また、本実施形態では、PC1、OCT装置3、およびレーザ治療装置4の各々が別のデバイスである。しかし、これらの少なくとも2つが一体に構成されていてもよい。例えば、OCT装置の機能、レーザ治療を行う機能、および各種制御機能をいずれも備えた1つのデバイスが用いられてもよい。
【0030】
<PC>
PC1は、PC1の動作を制御する制御部10を備える。制御部10は、CPU11、ROM12、RAM13、および不揮発性メモリ(Non−volatile memory:NVM)14を備える。CPU11は、PC1の各種制御を司る。ROM12には、各種プログラム、初期値等が記憶されている。RAM13は、各種情報を一時的に記憶する。不揮発性メモリ14は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、および着脱可能なUSBメモリ等を不揮発性メモリ14として使用してもよい。本実施形態では、後述する処理(図3参照)を実行するためのプログラム等が不揮発性メモリ14に記憶される。
【0031】
制御部10は、表示制御部16、操作処理部17、外部メモリI/F18、および通信I/F19にバスを介して接続されている。表示制御部16は、モニタ21の表示を制御する。操作処理部17は、PC1に対するユーザの各種操作入力を受け付けるための操作部22(例えば、キーボード、マウス等)に接続し、入力を検知する。モニタ21および操作部22は、外付けであってもよいし、PC1に組み込まれていてもよい。外部メモリI/F18は、外部メモリ23をPC1に接続する。外部メモリ23には、例えばUSBメモリ、CD−ROM等の種々の記憶媒体を使用することができる。通信I/F19は、PC1を外部機器(例えば、OCT装置3、レーザ治療装置4、眼底画像撮影装置(図示せず)等の少なくともいずれか)に接続する。通信I/F19による通信は、有線通信でも無線通信でもよいし、インターネット等を介して行われてもよい。PC1は、生体の偏光特性、眼底画像のデータ、眼底から得られたモーションコントラストデータ等を、外部メモリI/F18または通信I/F19等を介して取得することができる。
【0032】
<OCT装置>
本実施形態のOCT装置3は、PS−OCTの構成を備えている。PS−OCTとは、偏光感受OCT(polarization sensitive OCT)であり、被検物の表面および内部の偏光特性を取得することができる。偏光特性には、例えば、複屈折性(バイリフレンジェンス)、偏光位相遅延(リタデーション)、偏光軸(アクシスオリエンテーション)、複減衰(ダイアッテネーション)等がある。特に、本実施形態のOCT装置3は、偏光均一度(DOPU:Degree Of Polarization Uniformity)を取得することができる。
【0033】
図2を参照して、OCT装置3の概略構成の一例について説明する。本実施形態のOCT装置3は、OCT光学系30、分割光学系40、検出器50、および制御部60を備える。
【0034】
本実施形態のOCT光学系30は、波長掃引光源を用いたSS−OCT方式の干渉光学系である。ただし、他の方式(例えば、SD−OCT(Spectral domain OCT)等)が用いられてもよい。OCT光学系30は、測定光源31、カップラー32、サーキュレータ33、測定光学系34、参照光学系38、およびビームスプリッタ41を備える。
【0035】
測定光源31は、被検物(本実施形態では被検眼E)の内部情報を取得するための光を出射する。本実施形態の測定光源31は、波長掃引光源(波長走査型光源)であり、出射波長を時間的に高速で変化させる。
【0036】
カップラー32は、測定光源31から出射された光を測定光と参照光に分割する光分割器として用いられている。サーキュレータ33は、カップラー32からの測定光を測定光学系34の光ファイバ35に導光すると共に、光ファイバ35からの光を光ファイバ37に導光する。なお、サーキュレータ33はカップラーであってもよい。
【0037】
測定光学系34は、測定光を被検物(例えば、被検眼Eの眼底または前眼部等)に導くと共に、被検物によって反射された測定光の反射光を光ファイバ37に導く。本実施形態の測定光学系34は、光ファイバ35、光スキャナ36、および対物レンズ系を備える。測定光は、サーキュレータ33および光ファイバ35を介して光スキャナ36に向かう。光スキャナ36は、測定光の反射方向を変更する。光スキャナ36によって偏向された測定光は、対物レンズ系によって平行ビームとなって被検物に入射する。光スキャナ36は、被検物内でXY方向(横断方向)に測定光を走査させることができる。光スキャナ36には、光の進行方向を変更することが可能な各種構成(例えば、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、および音響光学素子等)を用いることができる。
【0038】
被検物からの測定光の反射光(後方散乱光)は、対物レンズ系、光スキャナ36、光ファイバ35、サーキュレータ33、および光ファイバ37を経て、ビームスプリッタ41に達する。
【0039】
参照光学系38は、測定光の反射光と合成される参照光を生成する。参照光学系38は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであってもよい。本実施形態の参照光学系38は、透過光学系(例えば光ファイバ)を備え、カップラー32からの光を戻さずに透過させてビームスプリッタ41へ導く。なお、参照光学系38は反射光学系を備えていてもよい。この場合、参照光学系38は、カップラー32からの光を反射光学系によって反射させることで、参照光を生成してもよい。なお、OCT光学系30は、測定光と参照光の光路長差を調整するための光学部材を備える。
【0040】
ビームスプリッタ41は、測定光の反射光と、参照光学系38を経た参照光とを合成(合波)させて、干渉光を生成する。つまり、ビームスプリッタ41は、測定光と参照光を合成する光合成器として機能する。また、ビームスプリッタ41は、干渉光を複数の干渉光に分割する分割光学系40の少なくとも一部を兼ねる。ただし、光合成器の構成を変更することも可能である。例えば、光合成器が分割光学系40とは別に設けられていてもよい。光合成器としてカップラーが使用されてもよい。測定光源31から出射された光を分割するカップラー32(光分割器)が、光合成器を兼ねてもよい。
【0041】
本実施形態のビームスプリッタ41は、光ファイバ37を経た測定光を透過させつつ、参照光学系38を経た参照光を反射させることで、両者を合成させて第1干渉光を生成する。また、本実施形態のビームスプリッタ41は、光ファイバ37を経た測定光を反射させつつ、参照光学系38を経た参照光を透過させることで、両者を合成させて第2干渉光を生成する。第1干渉光と第2干渉光の位相差はπとなる。
【0042】
偏光ビームスプリッタ42,43は、干渉光を、水平偏光成分(p偏光成分)を持つ干渉光と垂直偏光成分(s偏光成分)を持つ干渉光に分割する。詳細には、第1偏光ビームスプリッタ42は、第1干渉光を透過させることで、水平偏光成分を持つ干渉光Aを生成すると共に、第1干渉光を反射させることで、垂直偏光成分を持つ干渉光Bを生成する。また、第2偏光ビームスプリッタ43は、第2干渉光を透過させることで、水平偏光成分を持つ干渉光Cを生成すると共に、第2干渉光を反射させることで、垂直偏光成分を持つ干渉光Dを生成する。
【0043】
なお、互いに位相差を有する複数の干渉光を生成する構成は、省略してもよい。例えば、分割光学系40は、光合成器によって生成された1つの干渉光を、偏光方向が異なる2つの干渉光に分割する構成のみを備えていてもよい。
【0044】
検出器50は、分割光学系40によって分割された干渉光を検出して干渉信号を出力する。本実施形態の検出器50は、第1検出器51および第2検出器55を備える。第1検出器51は、干渉光Aを検出する検出部52と、干渉光Cを検出する検出部53を備える平衡検出器である。前述したように、第1検出器51によって検出される干渉光Aと干渉光Cは、偏光方向が互いに共通(本実施形態では水平偏光)し、且つ互いの間に位相差(本実施形態では位相差π)を有する。また、第2検出器55は、干渉光Bを検出する検出部56と、干渉光Dを検出する検出部57を備える平衡検出器である。第2検出器55によって検出される干渉光Bと干渉光Dは、偏光方向が互いに共通(本実施形態では垂直偏光)し、且つ互いの間に位相差(本実施形態では位相差π)を有する。OCT装置3は、水平偏光成分および垂直偏光成分を持つ各波長での干渉信号に基づいて、被検物の偏光特性を取得することができる。
【0045】
制御部60は、OCT装置3の動作を制御する。本実施形態の制御部60は、CPU(プロセッサ)61、ROM62、RAM63、および不揮発性メモリ(Non−volatile memory:NVM)64を備える。なお、本実施形態では、OCT装置3の動作を制御する制御部60が、OCT装置3に内蔵されている。しかし、制御部60は、OCT装置3の外部に設けられていてもよい。例えば、PC1の制御部10が、OCT装置3の制御部を兼ねてもよい。また、干渉信号から偏光特性を取得するのは制御部60に限定されない。例えば、PC1の制御部11が、干渉信号を処理して偏光特性を取得してもよい。
【0046】
<レーザ治療装置>
レーザ治療装置4は、生体(本実施形態では眼Eの眼底)に治療レーザ光を照射することで、生体を治療する。レーザ治療装置4には種々の構成を採用できる。例えば、エネルギーの高い治療レーザ光を照射して光凝固を生じさせるために、レーザ治療装置が用いられてもよい。また、光凝固が生じないエネルギーのレーザ光を照射する治療(閾値下凝固と言われる場合もある)を行うために、レーザ治療装置が用いられてもよい。レーザ治療装置4の構成には周知の構成を採用できるので、その詳細な説明は省略する。眼底の治療を行う場合には、例えば、特開2015−6402号公報、特開2014−230743号公報等に開示されている構成を採用できる。
【0047】
レーザ治療装置4は、種々の制御パラメータに従って治療レーザ光の照射を制御する。制御パラメータとしては、例えば、治療レーザ光のパワー、照射時間、エネルギー(パワーと照射時間の積)、治療レーザ光の照射位置等の少なくともいずれかが挙げられる。また、同一箇所に治療レーザ光を断続的に複数回照射させる場合には、デューティー比(パルス幅をパルス周期で割った値)等が制御パラメータとして用いられてもよい。
【0048】
<処理>
図3等を参照して、医療装置(本実施形態ではPC1)のCPU11が実行する処理について説明する。前述したように、不揮発性メモリ14には、図3に示す偏光特性適用処理を実行するための医療装置用プログラムが記憶されている。CPU11は、治療レーザ光の制御パラメータを決定する指示、または状態判別画像データの作成指示が入力されると、以下説明する処理をプログラムに従って実行する。
【0049】
まず、CPU11は、生体における偏光特性を取得する(S1)。本実施形態では、偏光特性として偏光均一度(Degree Of Polarization Uniformity)が取得される。一例として、本実施形態では、PS−OCT方式を用いたOCT装置3が偏光特性を取得する。CPU11は、ネットワークおよび外部メモリ23等を介してOCT装置3から偏光特性を取得する。
【0050】
本実施形態のOCT装置3は、患者眼の眼底で測定光を1つのラインに沿って走査させる(いわゆるBスキャンを行う)ことで、眼底の断面上の偏光特性を取得することができる。さらに、OCT装置3は、眼底上の複数のラインに沿って測定光を走査させることで、眼底の三次元上の偏光特性を取得することができる。CPU11は、断面上の偏光特性、三次元上の偏光特性、および、正面から見た場合の二次元領域の偏光特性等を取得することができる。
【0051】
一例として、本実施形態では、眼底を正面から見た場合の二次元領域の偏光特性(正面二次元偏光特性)が少なくとも取得される。正面二次元偏光特性は、例えば、各位置における深さ方向の偏光特性を加算または平均化することで算出されてもよい。また、眼底に含まれる複数の層を断層画像等から判別することで、特定の層の偏光特性が正面二次元偏光特性として算出されてもよい。一例として、本実施形態のCPU11は、網膜色素上皮(RPE)層の偏光均一度を取得する。その結果、他の層に含まれるメラニンの影響が排除されて、より正確な制御が行われる。ただし、偏光均一度の取得方法を変更することも可能である。例えば、治療レーザ光を照射する照射位置が予め決められている場合等には、照射位置における偏光均一度のみが取得されてもよい。
【0052】
次いで、CPU11は、取得した偏光均一度から、生体に含まれるメラニンの濃度を算出(予測)する(S2)。一例として、本実施形態では、図4に示すように、メラニンの濃度と偏光均一度の関係が実験等によって予め取得されている。図4に示すように、一般的には、メラニンの濃度が高くなると、偏光均一度は低下する。CPU11は、例えば、メラニンの濃度と偏光均一度を対応付けるテーブルまたは計算式等を用いて、眼底上のそれぞれの位置におけるメラニンの濃度を偏光均一度から算出することができる。なお、本実施形態では、正面二次元偏光特性に基づいて、眼底を正面から見た二次元領域におけるメラニンの濃度分布が算出される。また、本実施形態では、網膜色素上皮層におけるメラニンの濃度が算出される。なお、治療レーザ光を照射する照射位置が予め決められている場合等には、照射位置におけるメラニンの濃度のみが算出されてもよい。
【0053】
治療レーザ光の制御パラメータを決定する指示が入力されている場合には(S3:YES)、CPU11は、治療レーザ光の制御パラメータを、メラニンの濃度に基づいて決定する(S4)。一例として、本実施形態のCPU11は、治療レーザ光を照射しようとする照射位置のメラニン濃度に基づいて、治療レーザ光のエネルギー、パワー、照射時間、およびデューティー比の少なくともいずれかを決定する。メラニンは治療レーザ光を吸収するので、治療レーザ光を照射した際の生体の変化(例えば、温度上昇等)はメラニン濃度に応じて変化する。例えば、均一のエネルギーの治療レーザ光を照射する場合、メラニン濃度が高い部位では、メラニン濃度が低い部位に比べて生体の温度が上昇し易い。従って、本実施形態によると、照射位置のメラニン濃度の差に起因して治療効果が変動してしまうことが抑制される。
【0054】
照射位置のメラニン濃度に応じて制御パラメータを決定するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、CPU11は、操作部22を介して入力された指示に応じて、医師が所望する治療効果(例えば、照射位置の目標温度)を得るための仮のパラメータを決定する。次いで、CPU11は、仮のパラメータに対して、照射位置のメラニン濃度に応じた係数を掛けることで、制御パラメータを決定してもよい。また、目的の治療効果、メラニン濃度、および制御パラメータの関係を対応付けるテーブルまたは計算式が予め用意されていてもよい。
【0055】
状態判別画像の作成指示が入力されている場合には(S3:NO)、CPU11は、偏光特性に関する情報を用いて、状態判別画像のデータを作成する(S5)。状態判別画像とは、眼底を正面から見た場合の二次元の画像であり、治療レーザ光が既に照射された眼底の状態(例えば、治療レーザ光が照射された位置、および、治療レーザ光の照射による生体の変化の程度等)を判別するために用いられる。
【0056】
本実施形態では、偏光均一度から算出されるメラニンの濃度分布に基づいて、状態判別画像のデータが作成される。眼底に治療レーザ光が照射されると、眼底の網膜色素上皮に存在していたメラニンが変化(例えば、破壊または蒸散等)し得る。従って、メラニンの濃度分布を用いることで、正面から見た場合の眼底の状態が適切に状態判別画像に表れる。
【0057】
図5を参照して、状態判別画像のデータを作成する方法の一例について説明する。本実施形態では、CPU11は、眼底の正面画像71のデータを取得する。本実施形態で取得される正面画像71は、メラニンの濃度分布を示す画像よりも眼底の構造(例えば、乳頭、黄斑、血管等の少なくともいずれか)を判別し易い画像である。正面画像71は、白黒の画像でもよいし、カラー画像でもよい。例えば、周知の眼底カメラで撮影された正面画像、共焦点走査型レーザ検眼鏡(SLO)で撮影された正面画像、OCT装置によって撮影されたEnface画像、OCT装置によって撮影されたモーションコントラスト画像(例えば、アンジオグラフィー画像)等、種々の眼底正面画像を用いることができる。なお、PC1(医療装置)は、ネットワーク等を介して他のデバイスから正面画像71のデータを取得してもよいし、内蔵している撮影手段によって眼底を撮影することで正面画像71のデータを取得してもよい。
【0058】
また、CPU11は、メラニンの濃度分布に関する情報を準備する。一例として、図5では、メラニンの濃度分布を示す濃度分布画像73が準備されている。図5に示す濃度分布画像73では、メラニンの濃度の範囲が互いに異なる3つの領域74,75,76が例示的に示されている。
【0059】
次いで、CPU11は、正面画像71上に、メラニンの濃度分布に関する情報を付加することで、状態判別画像80のデータを作成する。図5に示す例では、正面画像71上に濃度分布画像73が重畳されることで、状態判別画像80が作成されている。例えば、医師は、メラニンの濃度が最も低い領域76を、治療レーザ光が既に照射された領域として判別することができる。なお、メラニンの濃度分布は、領域でなく、色の変化または明度の変化等によって示されてもよい。また、CPU11は、メラニンの濃度が閾値以下となる領域を、治療レーザ光の照射済み領域として示してもよい。また、CPU11は、治療レーザ光の照射前後におけるメラニンの濃度変化を示す画像等を、状態判別画像として作成してもよい。
【0060】
<変容例>
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、網膜色素上皮層における血液の漏出箇所を判別させるために、メラニンの濃度分布に関する情報が用いられてもよい。血液の漏出箇所では、メラニンを含む網膜色素上皮層が破壊されている。従って、医師等は、メラニンの濃度が低い位置を、血液の漏出箇所として推定することができる。
【0061】
なお、血液の漏出箇所を判別させるためにメラニンの濃度分布を用いる場合、CPU11は、OCTによって取得されるモーションコントラストデータを共に用いてもよい。モーションコントラストデータによると、眼底の血管の位置、および、漏出した血液の位置が、より明確に判別される。従って、例えば、CPU11は、モーションコントラストデータに基づいて作成した正面画像と、メラニンの濃度分布を示す正面画像とを重畳させて、または並べて表示させてもよい。この場合、医師は、漏出した血液の位置(例えば、漏出した血液が広がっている位置、または、血液の漏出点等)と、メラニンの濃度が低い位置を比較することで、血液の漏出箇所をより正確に判断することができる。
【0062】
上記の変容例は、以下のように表現することも可能である。医療装置であって、前記医療装置の制御部は、患者眼の眼底に向けて照射された測定光の反射光の検出結果を処理することで得られる、前記眼底における偏光均一度を取得し、取得した偏光均一度から、前記眼底を正面から見た場合のメラニンの濃度分布を示す情報を取得し、前記眼底における血液の動きを示すモーションコントラストデータを取得し、メラニンの濃度分布を示す情報と、モーションコントラストデータに基づいて、前記眼底の網膜色素上皮層における血液の漏出位置を判別するための漏出位置画像のデータを作成する。
【0063】
また、CPU11は、治療レーザ光のパラメータとして、治療レーザ光の照射位置を決定してもよい。例えば、偏光特性(一例として、偏光方向)を用いることで、眼底における神経繊維層の走行状態がより明確になる。CPU11は、神経繊維層の走行状態に基づいて、治療レーザ光の照射位置を決定してもよい。一例として、CPU11は、治療レーザ光の照射位置を、神経線維の密度が閾値未満となる領域に限定してもよい。また、CPU11は、メラニンの濃度分布から予測される血液の漏出箇所を、治療レーザ光の照射位置として決定してもよい。
【0064】
CPU11は、偏光均一度以外の偏光特性を用いてもよい。例えば、複屈折性を用いることで、治療レーザ光が照射された位置の凝固の程度が判別される。従って、CPU11は、眼底における複屈折性に基づいて状態判別画像を作成してもよい。
【0065】
CPU11は、メラニンの濃度に関する情報を、偏光特性以外の情報に基づいて取得してもよい。例えば、CPU11は、光音響効果を用いた技術によって得られるメラニンの濃度に関する情報を取得してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 PC
3 OCT装置
4 レーザ治療装置
10 制御部
11 CPU
71 正面画像
80 状態判別画像
100 眼科システム
図1
図2
図3
図4
図5