(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6766473
(24)【登録日】2020年9月23日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】石炭灰混合セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/26 20060101AFI20201005BHJP
C04B 7/28 20060101ALI20201005BHJP
C04B 7/52 20060101ALI20201005BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
C04B7/26
C04B7/28
C04B7/52
G01N33/38
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-130003(P2016-130003)
(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公開番号】特開2018-2530(P2018-2530A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100120570
【弁理士】
【氏名又は名称】中 敦士
(72)【発明者】
【氏名】高林 龍一
(72)【発明者】
【氏名】野田 謙二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊之
【審査官】
田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−196220(JP,A)
【文献】
特開2007−186396(JP,A)
【文献】
特開2000−344555(JP,A)
【文献】
特開2010−030885(JP,A)
【文献】
特開平11−011999(JP,A)
【文献】
特開2005−305344(JP,A)
【文献】
特開2010−037130(JP,A)
【文献】
特開2016−113319(JP,A)
【文献】
特開2001−121084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰とセメントクリンカーと石膏とを含む石炭灰混合セメントの製造方法であって、
粉砕していない石炭灰とセメントと水とを混練して得られたセメント組成物の表面状態を確認する品質試験工程と、
前記品質試験工程の試験結果を基に、前記石炭灰混合セメントの製造に使用する石炭灰を選別する選別工程と、
閉回路式ボールミルを使用して前記セメントクリンカーを粉砕する粉砕工程と、
選別された前記石炭灰と、セパレータ分級後のセメントクリンカーと、石膏とを粉砕せずに混合する、または、選別された前記石炭灰と、前記粉砕工程で粉砕されたセメントクリンカーと、石膏とを粉砕せずにセパレータ部分にて混合する混合工程と
を含むことを特徴とする、
石炭灰混合セメントの製造方法。
【請求項2】
前記品質試験工程において、前記セメント組成物の表面の画像を二値化処理して、前記セメント組成物の表面状態を確認することを特徴とする、
請求項1に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
【請求項3】
前記品質試験工程において更に石炭灰の強熱減量を測定し、
前記品質試験の結果を基に、前記石炭灰混合セメントの製造に使用する石炭灰の添加率を設定する工程を含むことを特徴とする、
請求項1または2に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
【請求項4】
前記石炭灰混合セメント中の前記セメントクリンカーと石膏との合計含有量が75〜99.9質量%であり、前記石炭灰の含有量が0.1〜25質量%であることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
【請求項5】
前記品質試験工程において、前記石炭灰0.1〜25質量%と前記セメント75〜99.9質量%とを混ぜた混合セメント100質量部に、5〜600質量部の細骨材を加えて水/粉体質量比=30〜100質量%のセメントモルタルを練り混ぜることで、前記セメント組成物を得ることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
【請求項6】
前記石炭灰に対して分級処理、加熱処理、静電分離処理、石炭灰同士の混合処理の少なくともいずれか1つを行う工程を含むことを特徴とする、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
【請求項7】
前記品質試験工程において、前記石炭灰と前記セメントと前記水とを混練してセメント組成物を得る際に、高せん断ミキサーを使用する
請求項1〜6のいずれか1項に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電所で発生する石炭灰を有効に利用可能な石炭灰混合セメントの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所では、多量の石炭灰が発生し、その処理に苦慮している。石炭灰の有効利用としては、セメントの原材料としての利用、コンクリート用フライアッシュとしての利用、土工材等への利用が進められているが、いずれも利用量に限界があり、全ての石炭灰を有効利用できている訳ではない。
【0003】
セメントの原材料としての石炭灰の利用では、主にクリンカーの粘土源代替原料としての利用が進められてきたが、クリンカー品質を維持するため、その処理量も限界となっている。また、フライアッシュセメントの混合材としての石炭灰の利用も進められているが、フライアッシュセメントの需要は少なく、利用量が伸びていないのが現実である。
【0004】
需要の多い普通ポルトランドセメント中の少量添加成分(≦5質量%)として石炭灰の利用が可能であるが、モルタルまたはコンクリートとして使用した場合に、石炭灰中の未燃カーボンが表面に黒く浮いてしまい、現状で一般的に出回っている普通ポルトランドセメントに比べて見た目が悪いため、利用が避けられていた。また、コンクリート打設時のブリーディング水に未燃カーボンの黒色浮遊物が含まれることで、コンクリート打ち継ぎ部に黒色の層が生じる問題があった。
【0005】
この未燃カーボンの浮きの問題を解決し、ポルトランドセメントへの石炭灰の添加を可能とする技術として、セメント組成物中の石炭灰由来の強熱減量が0.35質量%以下になるようにセメントクリンカーおよび石膏と共に石炭灰を混合粉砕することで、製造から6時間後のブリーディング水に黒色層が形成され難くした石炭灰混合セメントが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−196220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、石炭灰とセメントとを単純に混合した場合は、石炭灰に由来するセメント組成物中の強熱減量を0.35質量%以下に制御しても、石炭灰の発生元や石炭種によってはモルタル表面や打継部に未燃カーボンが浮いてしまう場合があり、美観が損なわれるという問題が生じていた。したがって、石炭灰の添加量を必要以上に低減せざるをえず、石炭灰の有効利用を妨げていた。また、実際のコンクリート施工では現場での受入時に検査をしているため、混練から間もないモルタル・コンクリートにおいても未燃カーボンの浮きが抑制された石炭灰混合セメントが求められている。
【0008】
本発明は、従来の上記問題を解決したものであり、モルタルやコンクリートの練り混ぜにおける石炭灰からの未燃カーボンの浮き易さを簡便に評価でき、石炭灰混合セメントを使用したモルタル・コンクリートの打設において、製造直後から施工後に渡って表面の美観に優れ、打ち継ぎ部の黒色層が形成され難く、また品質が安定したコンクリートを得ることができる石炭灰混合セメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、セメント組成物を製造してその表面状態を確認することで、石炭灰からの未燃カーボンの浮き易さを簡便に評価できるとともに、セメントの製造工程において石炭灰の未燃カーボンの浮き易さを評価する工程を加え、この判定結果をもとに使用する石炭灰の選別および添加量の設定をすることで、モルタルやコンクリート表面に未燃カーボンによる黒色層が形成され難い石炭灰混合セメントを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明により、以下が提供される。
[1]石炭灰とセメントクリンカーと石膏とを含む石炭灰混合セメントの製造方法であって、粉砕していない石炭灰とセメントと水とを混練して得られたセメント組成物の表面状態を確認する品質試験工程と、前記品質試験工程の試験結果を基に、前記石炭灰混合セメントの製造に使用する石炭灰を選別する選別工程と、閉回路式ボールミルを使用して前記セメントクリンカーを粉砕する粉砕工程と、選別された前記石炭灰と
、セパレータ分級後のセメントクリンカーと
、石膏とを粉砕せずに混合する
、または、選別された前記石炭灰と、前記粉砕工程で粉砕されたセメントクリンカーと、石膏とを粉砕せずにセパレータ部分にて混合する混合工程とを含むことを特徴とする、石炭灰混合セメントの製造方法。
[2]前記品質試験工程において、前記セメント組成物の表面の画像を二値化処理して、前記セメント組成物の表面状態を確認することを特徴とする、[1]に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
[3]前記品質試験工程において更に石炭灰の強熱減量を測定し、前記品質試験の結果を基に、前記石炭灰混合セメントの製造に使用する石炭灰の添加率を設定する工程を含むことを特徴とする、[1]または[2]に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
[4]前記セメントクリンカーを粉砕する粉砕工程を更に含む、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
[5]前記粉砕工程において閉回路式ボールミルを使用して前記セメントクリンカーを粉砕し、前記混合工程においてセパレータ分級後の前記セメントクリンカーと前記石膏と前記石炭灰とを混合することを特徴とする、[4]に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
[4]前記石炭灰混合セメント中の前記セメントクリンカーと石膏との合計含有量が75〜99.9質量%、前記石炭灰の含有量が0.1〜25質量%であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
[5]前記品質試験工程において、前記石炭灰0.1〜25質量%と前記セメント75〜99.9質量%とを混ぜた混合セメント100質量部に、5〜600質量部の細骨材を加えて水/粉体質量比=30〜100質量%のセメントモルタルを練り混ぜることで、前記セメント組成物を得ることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
[6]前記石炭灰に対して分級処理、加熱処理、静電分離処理、石炭灰同士の混合処理の少なくともいずれか1つを行う工程を含むことを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
[7]前記品質試験工程において、前記石炭灰と前記セメントと前記水とを混練してセメント組成物を得る際に、高せん断ミキサーを使用する[1]〜[6]のいずれか1項に記載の石炭灰混合セメントの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、石炭灰混合セメントを使用したコンクリートの打設において、打ち継ぎ部に浮いた未燃カーボンの黒色層が形成され難く、モルタルやコンクリートの表面の美観に優れ、また品質が安定したコンクリートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】水準2のセメントペーストの表面をデジタルカメラにて撮影した画像(左)とそれを二値化処理した画像(右)である。
【
図2】表面の未燃カーボンの浮き状態を目視で評価した場合のA評価の一例である。
【
図3】表面の未燃カーボンの浮き状態を目視で評価した場合のB評価の一例である。
【
図4】表面の未燃カーボンの浮き状態を目視で評価した場合のC評価の一例である。
【
図5】表面の未燃カーボンの浮き状態を目視で評価した場合のD評価の一例である。
【
図6】表面の未燃カーボンの浮き状態を目視で評価した場合のE評価の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る石炭灰混合セメントの製造方法の一例について説明する。下記の製造方法によれば、未燃カーボンの浮きを抑制した石炭灰混合セメントを製造することができる。
【0015】
本発明に係る石炭灰混合セメントの製造方法は、石炭灰の品質試験工程と、石炭灰の選別工程と、石炭灰をセメントクリンカーと石膏とを混合する混合工程と、とを含む。本発明に係る石炭灰混合セメントの製造方法は、石炭灰の添加率を設定する工程、セメントクリンカーを粉砕する粉砕工程、及び石炭灰に対して分級処理、加熱処理、静電分離処理、または石炭灰同士の混合処理を行う工程の少なくとも1つを更に含むことができる。
【0016】
本発明で用いる石炭灰とは、石炭火力発電所等において石炭を燃焼させた際に発生する副産物であり、電気集じん器で捕集されるフライアッシュや、ボイラー下部に堆積したクリンカアッシュ、ボトムアッシュなどである。安定した品質の石炭灰混合セメントを得るためには、石炭火力発電所から発生するフライアッシュを使用することが好ましく、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に規定されるフライアッシュを使用することがより好ましい。
【0017】
本発明で用いるセメントクリンカーは特に限定されないが、例えば、SP方式(多段サイクロン余熱方式)やNSP方式(仮焼炉を併設した多段サイクロン余熱方式)等の既存のセメント製造設備を用いて製造されたものを使用することができる。
【0018】
本発明で用いる石膏としては、JIS R 9151「セメント用天然せっこう」に規定される石膏をはじめ、二水石膏、半水石膏、無水石膏を使用することができる。また、セメントクリンカーと石膏の全部または一部の代わりとしてポルトランドセメントを使用することもできる。ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸ポルトランドセメントなどが挙げられる。
【0019】
品質試験工程では、少なくとも石炭灰とセメントと水とを混練してセメント組成物を製造し、その表面状態を確認する。セメント組成物としては、石炭灰とセメントと水とを混練して得られるセメントペースト、石炭灰とセメントと細骨材と水とを混練して得られるモルタル、石炭灰とセメントと細骨材と粗骨材と水とを混練して得られるコンクリートが挙げられるが、試験の手間等を考慮すると、セメントペーストまたはモルタルが好ましく、より安定した品質の石炭灰混合セメントを製造するという観点からモルタルが最も好ましい。正確な理由は不明だが、モルタル製造時に細骨材と石炭灰とを混練することで石炭灰の粒度が細かくなり未燃カーボンが浮きやすくなると考えられ、簡便でありながら実際の製品に近い条件を再現できるので、石炭灰を有効利用しながらも確実に未燃カーボンの浮きを抑制できる石炭灰添加量の設定が可能になる。
【0020】
品質試験工程で使用するセメントは、石炭灰混合セメントに使用するセメントであれば特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等である。また、セメントの代わりとして粉砕したセメントクリンカーを石炭灰と混合してもよいし、石炭灰とセメントクリンカーとを混合粉砕しても良い。
【0021】
品質試験工程で使用するセメント組成物は、例えば石炭灰0.1〜25質量%とセメント75〜99.9質量%とを混ぜた混合セメント100質量部に、5〜600質量部の細骨材を加えて水/粉体質量比=30〜100質量%のセメントモルタルを練り混ぜて製造することができる。細骨材としては、例えばセメント強さ試験用標準砂を用いることができる。さらに、得られたセメント組成物に対してバイブレータを用いて振動を与える操作を加えてもよい。バイブレータ処理を行うことで未燃カーボンが浮きやすくなる為、石炭灰を有効利用しながらも確実に未燃カーボンの浮きを抑制できる石炭灰添加量の設定が可能になる。練り混ぜの詳細な方法は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従って実施することができる。
【0022】
混合セメント中の石炭灰の含有量は、通常0.1〜25質量%であり、好ましくは0.2〜15質量部であり、より好ましくは0.3〜5質量部である。混合セメント中のセメントの含有量は、通常75〜99.9質量%であり、好ましくは85〜99.8質量%であり、より好ましくは95〜99.7質量部である。細骨材の量は、混合セメント100質量部に対して通常5〜600質量部であり、好ましくは50〜500質量部であり、さらに好ましくは100〜400質量部であり、最も好ましくは200〜300質量部である。水/粉体質量比は、通常30〜100質量%であり、好ましくは40〜80質量%であり、より好ましくは45〜55質量%である。
【0023】
品質試験工程においてセメント組成物の製造に用いるミキサーは、特に限定されるものではなく、ハンドミキサーやホバートミキサーなどを使用することができる。より安定した品質の石炭灰混合セメントを製造するためには、ホモミキサーや二軸ミキサーなどの高せん断ミキサーを使用することが好ましい。混練時に高いせん断力を加えることで石炭灰中に含まれる未燃カーボンが浮きやすくなると考えられ、石炭灰を有効利用しながらも確実に未燃カーボンの浮きを抑制できる石炭灰添加量の設定が可能となる。また、混練する際のミキサーの回転数は特に限定されるものではないが、例えばホモミキサーの場合は通常2000〜6000rpmであり、好ましくは3000〜4000rpmである。回転数を2000rpm以上とすることで、セメント組成物表面に未燃カーボンの浮きが生じやすくなり、石炭灰混合セメントを製造して使用した際の未燃カーボンの浮きを抑制できる石炭灰の選別や石炭灰添加量の判断が容易となる。ここで、「rpm」は「1分間当たりの回転数」を意味する。
【0024】
製造されたセメント組成物の表面状態は、未燃カーボンの浮きの量や色から判断することができる。評価者が肉眼で評価を行うことができるほか、最も簡便な方法としては、セメント組成物の表面をデジタルカメラ等で撮影し、得られた画像を二値化処理して黒色部の面積を算出する。なお、二値化処理とは、濃淡のある画像を2階調に変換する処理であり、ある閾値を定めて、各画素の値が閾値を上回る場合と下回る場合とをそれぞれ別の色に置き換える。通常は閾値を基準に白と黒とに置き換えればよいが、特に限定されない。二値化処理の閾値は製造する石炭灰混合セメントの目標仕様や目視評価との対応によって適宜設定してもよいし、画像の撮影環境によっても適宜調整することができる。後述する実施例で示すように、黒色部の面積は目視評価と概ね対応する傾向が得られることから、二値化処理して未燃カーボンの浮き面積を算出することで評価者毎の判定基準ずれが無くなるため、製造する石炭灰混合セメントの品質が安定したものとなるほか、石炭灰混合セメントの仕様・目標に併せて石炭灰を選別することが容易となる。
【0025】
品質試験工程は、更に石炭灰の強熱減量の測定を行うことができる。測定方法としては、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュの強熱減量の測定方法」に従って測定することができる。石炭灰の強熱減量の測定を行うことで、石炭灰のおおまかな添加量を見積もることができ、前記品質試験を効率良く実施することが可能となる。すなわち、本発明に係る石炭灰混合セメントの製造方法では、更に、石炭灰の添加率を設定する工程を含むことができる。
【0026】
選別工程では、前記品質試験工程の結果を基に、石炭灰混合セメントの製造に使用可能な石炭灰を選別する。
【0027】
石炭灰の添加率を設定する工程では、前記品質試験工程の結果を基に、未燃カーボンによる浮きを抑制できる範囲に、前記石炭灰混合セメントの製造に使用する石炭灰の添加率を設定する。
【0028】
混合工程では、石炭灰とセメントクリンカーと石膏とを混合する。セメントクリンカーは粉砕されたものでもよい。セパレータ分級されたセメントクリンカーと石膏と石炭灰とを混合する、もしくはセパレータ部分にて石炭灰とセメントクリンカーと石膏とを混合することが、未燃カーボンの浮きを抑制する観点から特に好ましい。
【0029】
本発明に係る石炭灰混合セメントの製造方法では、更に粉砕工程を含むことができる。粉砕工程では、セメントクリンカーを粉砕する。粉砕方法としては、縦型ミル、ボールミルなど種々の粉砕機が使用できる。閉回路式のボールミルで粉砕し、セパレータで分級することが最も好ましい。
【0030】
本発明に係る石炭灰混合セメントの製造方法では、更に、石炭灰に対して分級処理、加熱処理、静電分離処理、石炭灰同士の混合処理を行うことができる。
【0031】
分級処理では、セパレータや篩などにより石炭灰の粒度を調整する。例えば、石炭灰の粒度を細かくすることで石炭灰混合セメントの強度発現性を高めることができ、また特定の粒度範囲を除去することで石炭灰中の未燃カーボン量を調整することができる。
【0032】
加熱処理では、石炭灰をロータリーキルンや流動床式の焼却炉などで加熱する。加熱温度は、600〜1200℃であることが好ましく、より好ましくは600〜1000℃であり、特に好ましくは700〜900℃である。600℃未満では十分に未燃カーボンを低減できず、1200℃超では石炭灰が融着してしまう恐れがある。
【0033】
静電分離処理では、石炭灰に含まれる未燃カーボンを静電気力により分離する。方式は特に限定されるものではなく、誘導帯電式でもよいし、摩擦帯電式でもよい。また、誘導帯電式としては、回転ドラム電極表面に石炭灰を投下する方式や、多孔質の電極上を空気輸送する方式などが使用できる。
【0034】
複数種類の石炭灰を混合することで、未燃カーボンの浮きや活性度を調整することができる。混合する石炭灰やその量は、特に品質試験工程の結果から選別・設定することで、石炭灰を有効に利用することができる。また、複数種類の石炭灰が実質的に混合されればよく、例えば石炭灰とクリンカーとの混合物に更に別の石炭灰を混合したり、複数種類の石炭灰を混合してからクリンカーと混合したりすることができる。
【0035】
本願発明により製造される石炭灰混合セメント中のセメントクリンカーと石膏との合計含有量は、通常75〜99.9質量%であることが好ましい。好ましくは85〜99.8質量%であり、より好ましくは95〜99.7質量部である。セメントクリンカーと石膏との代わりとして一般的なセメントを使用してもよく、一般的なセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。好ましくは、普通ポルトランドセメントである。
【0036】
本願発明により製造される石炭灰混合セメント中の石炭灰の含有量は、通常0.1〜25質量%である。好ましくは0.2〜15質量%であり、より好ましくは0.3〜5質量%である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を示す。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0038】
1.使用原料
原料として、以下の材料を使用した。また、一部の水準では、以下の石炭灰から静電分離機にて未燃カーボンを分離したもの(静電)、以下の石炭灰を電気炉にて800℃で30分間加熱処理したもの(加熱)、または以下の石炭灰をボールミルでブレーン比表面積5500±150cm
2/gにまで予め粉砕したもの(分離粉砕)を使用した。石炭灰の強熱減量(ig.loss)はJIS A 6201「コンクリート用フライアッシュの強熱減量の測定方法」に従って測定した。
・普通ポルトランドセメント
・石炭灰1(ig.loss=10.5質量%)
・石炭灰2(ig.loss=3.54質量%)
・石炭灰3(ig.loss=2.6質量%)
・石炭灰4(ig.loss=5.83質量%)
・セメント強さ試験用標準砂(セメント協会)
【0039】
2.モルタル及びセメントペーストの作製
(1)モルタル
普通ポルトランドセメントに、石炭灰を表1に示す含有量となるように混合した。また、一部の水準では、普通ポルトランドセメントと石炭灰を混合した後にブレーン比表面積3100±50cm
2/gとなるようにボールミルで粉砕した(混合粉砕)。このようにして得られた石炭灰と普通ポルトランドセメントとの混合物450gに対し、更に1350gの標準砂と、水紛体比が50質量%となるように水道水とを加え、ホバートミキサーにて混練し、供試体作製用の型枠に流し込んだ状態でバイブレータ処理を施した。混練およびバイブレータの詳細な手順は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じた。
【0040】
(2)セメントペースト
石炭灰含有量が5質量%となるように石炭灰と普通ポルトランドセメントとを混合し、水紛体比が50質量%となるように水道水とを加え、ハンドミキサー又はホモミキサーで混練した。なお、混練時間は2分間とし、ホモミキサーの回転数は4000rpmとした。
【0041】
3.未燃カーボンの浮き状態の評価
モルタルの場合は、型枠に流し込んで120秒間のバイブレータ処理を行った直後の表面状態を目視にて確認し、未燃カーボンの浮き状態を評価した。セメントペーストの場合は、混練したセメントペーストをポリ容器に入れ、超音波洗浄機を用いて120秒間の振動を与えた後、直ちにその表面状態を目視にて確認し、未燃カーボンの浮き状態を評価した。また、両サンプルとも表面をデジタルカメラにて撮影し、その画像を二値化処理することで、未燃カーボンの浮き面積を算出した。なお、
図1に、水準2のセメントペーストの表面をデジタルカメラで撮影した画像と、その二値化処理後の画像を示す。目視による未燃カーボンの浮き状態の評価はA〜Eの5段階評価とし、各判定基準は、A:未燃カーボンの浮きは確認されない(
図2)、B:非常に薄い黒色の浮遊物が確認できる(
図3)、C:薄い黒色の浮遊物が多数確認できる(
図4)、D:黒色の浮遊物がまばらに確認できる(
図5)、E:黒色の浮遊物が多数確認できる(
図6)とした。AまたはBは美観上問題がなく、Cは未燃カーボンの浮きが認められるものの問題となることはあまりなく、DまたはEは未燃カーボンの浮きによって明らかに美観が損なわれた状態である。
【0042】
4.結果
(1)モルタル
石炭灰を添加したモルタルの未燃カーボンの浮き試験の結果を表1に示す。石炭灰に由来する強熱減量が0.35質量%を越える場合(水準1、2、5)、モルタル表面に多量の未燃カーボンが確認された。一方、石炭灰に由来するセメント中の強熱減量が十分少ない(0.35質量%以下)場合でも、モルタル表面に未燃カーボンが浮く場合があることが確認された(水準3、6、7、8、11)。以上より、石炭灰とセメントと水とを混合してセメント組成物を作製しその表面を観察することにより、石炭灰由来の強熱減量が0.35質量%以下と少ない石炭灰混合セメントに生じる未燃カーボンの浮きを発見・評価できることが分かった。したがって、未燃カーボンの浮きを抑制しながらも、従来の製造方法と比較して多くの石炭灰を有効利用することができる。
【0043】
更に、モルタル表面の画像を二値化処理して浮いた未燃カーボンの面積を算出したところ、未燃カーボンの浮きを簡便に定量評価することができ、目視評価と概ね対応する傾向が得られた。したがって、モルタル表面の画像を二値化処理して未燃カーボンの浮きを評価することで、評価者による判定ずれを起こすことなく、簡便に石炭灰混合セメントに生じる未燃カーボンの浮きを判定することができる。
【0044】
また、分離粉砕処理した石炭灰では未燃カーボンの浮きが悪化した(水準2、11)。よって、セメント製造工程における石炭灰の添加方法として、閉回路ミルでセメントを製造する場合は、ボールミル内ではなくセパレータ部分またはセパレータ分級後のセメント精粉に投入することで未燃カーボンの浮きをさらに低減できる。また、セパレータへの投入が粒度を制御する面からも好ましく、セメントの精粉に投入する場合は事前に石炭灰の粉末度を確認して、好ましくは5000cm
2/g以上のブレーン比表面積である石炭灰を選別して投入した方が好ましい。
【0045】
また、石炭灰に静電分離処理または加熱処理を施すことで、未燃カーボンの浮きが大幅に改善した(水準3、4、7、12、13)。
【0046】
【表1】
【0047】
(2)セメントペースト
石炭灰を添加したペーストの未燃カーボンの浮き試験の結果を表2に示す。モルタルの場合と同様、ペーストの場合でも石炭灰混合セメントの未燃カーボンの浮きを評価することができ、石炭灰由来の強熱減量が0.35質量%以下と少ない場合でも未燃カーボンの浮きを発見・評価できることが分かった(水準19、20、24)。
【0048】
また、セメントペースト表面の画像を二値化処理して未燃カーボンの浮きの面積を算出したところ、モルタルの場合と同様に目視評価と概ね対応した傾向が得られた。さらに、せん断力の高いホモミキサーで混練した場合に未燃カーボンの浮きの面積がより大きくなるという、目視では判別困難なミキサーによる違いまで反映することができた(水準15、20)。したがって、ホモミキサーによる混練とセメントペースト表面の画像の二値化処理とを組み合わせれば、簡便な試験工程でありながら、未燃カーボンの浮きを確実に抑制しながら、より多くの石炭灰を利用することが可能となる。分離粉砕処理した石炭灰では未燃カーボンの浮きが悪化するのも、モルタルの場合と同様であった(水準16、24)。
【0049】
また、石炭灰に静電分離処理または加熱処理を施すことで、未燃カーボンの浮きを品質上問題無いレベルに抑制することができた(水準17、18、21、25)。
【0050】
【表2】