特許第6766498号(P6766498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6766498
(24)【登録日】2020年9月23日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】昇温制御装置および車両
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20201005BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   F01N3/08 BZAB
   B01D53/94 222
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-144820(P2016-144820)
(22)【出願日】2016年7月22日
(65)【公開番号】特開2018-13115(P2018-13115A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 勝士
【審査官】 楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−264222(JP,A)
【文献】 特開2010−116858(JP,A)
【文献】 特開2009−127472(JP,A)
【文献】 特開2010−101237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08〜 3/38
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関で生じた排ガスを大気中に導く流路上に、還元剤を供給する噴射器と、前記噴射器の下流側にて前記排ガス中の窒素酸化物を還元するSCR触媒とが設けられた排気系と共に使用される昇温制御装置であって、
前記SCR触媒の上流側における前記排ガスの温度が第一温度以上第二温度以下の範囲内にある時間をカウントするカウンタと、
前記カウンタのカウント値が所定の閾値を超えた時に、前記噴射器と前記SCR触媒の間の排ガス温度を前記第二温度超に昇温させるコントローラと、を備え
前記カウンタのカウント値は、前記排ガスの温度が所定時間以上継続して前記第二温度超である場合にリセットされる、
昇温制御装置。
【請求項2】
前記第一温度未満では、前記噴射器は還元剤を前記排ガスに供給せず、
前記第二温度超では、前記排ガスの流路内において前記噴射器と前記SCR触媒との間の部分に堆積しうる堆積物が昇華する、請求項1に記載の昇温制御装置。
【請求項3】
内燃機関で生じた排ガスを大気中に導く流路と、
前記流路内を導かれる排ガス中に還元剤を供給する噴射器と、
前記流路内において前記噴射器の下流側に設けられ、前記流路内を導かれる排ガス中の窒素酸化物を還元するSCR触媒と、
前記SCR触媒の上流側における前記排ガスの温度が第一温度以上第二温度以下の範囲内にある時間をカウントするカウンタと、
前記カウンタのカウント値が所定の閾値を超えた時に、前記噴射器と前記SCR触媒の間の排ガス温度を前記第二温度超に昇温させるコントローラと、を備え
前記カウンタのカウント値は、前記排ガスの温度が所定時間以上継続して前記第二温度超である場合にリセットされる、
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、還元剤(典型的には尿素水)を排ガスに噴射することで排ガス流路内に堆積し得る堆積物を除去するための昇温制御装置および車両に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、上記のような堆積物を除去するための排気浄化装置が記載されている。この排気浄化装置は、(1)アンモニアを還元剤としてエンジンの排気中に含まれるNOxを選択還元するアンモニア選択還元型NOx触媒と、(2)アンモニア選択還元型NOx触媒の上流側の排気中に尿素水を供給する尿素水インジェクタと、(3)排気通路内に尿素由来堆積物が堆積する堆積運転領域でエンジンが運転されているか否かを判定し、堆積運転領域でエンジンが運転されている時間を計時し、計時時間が堆積限界判定時間に達したときに、尿素由来堆積物の堆積量の減少に従って目標温度を増加側に設定し、排気温度が目標温度となるように排気昇温制御を行うECUと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−101237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
堆積物を除去するにはこれを高温で加熱する必要がある。よって、この種の昇温制御装置および車両には効率的に堆積物を除去することが望まれる。
【0005】
本開示は、より効率的に堆積物を除去可能な昇温制御装置および車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面は、内燃機関で生じた排ガスを大気中に導く流路上に、還元剤を供給する噴射器と、前記噴射器の下流側にて前記排ガス中の窒素酸化物を還元するSCR触媒とが設けられた排気系と共に使用される昇温制御装置であって、前記SCR触媒の上流側における前記排ガスの温度が第一温度以上第二温度以下の範囲内にある時間をカウントするカウンタと、前記カウンタのカウント値が所定の閾値を超えた時に、前記噴射器と前記SCR触媒の間の排ガス温度を前記第二温度超に昇温させるコントローラと、を備え、前記カウンタのカウント値は、前記排ガスの温度が所定時間以上継続して前記第二温度超である場合にリセットされる、昇温制御装置に向けられる。
【0007】
また、本開示の他の局面は、内燃機関で生じた排ガスを大気中に導く流路と、前記流路内を導かれる排ガス中に還元剤を供給する噴射器と、前記流路内において前記噴射器の下流側に設けられ、前記流路内を導かれる排ガス中の窒素酸化物を還元するSCR触媒と、前記SCR触媒の上流側における前記排ガスの温度が第一温度以上第二温度以下の範囲内にある時間をカウントするカウンタと、前記カウンタのカウント値が所定の閾値を超えた時に、前記噴射器と前記SCR触媒の間の排ガス温度を前記第二温度超に昇温させるコントローラと、を備え、前記カウンタのカウント値は、前記排ガスの温度が所定時間以上継続して前記第二温度超である場合にリセットされる、車両に向けられる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、より効率的に堆積物を除去可能な昇温制御装置および車両を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の昇温制御装置および車両の構成を示す図
図2A図1の昇温制御装置の動作の前半部分を示すフロー図
図2B図1の昇温制御装置の動作の後半部分を示すフロー図
図3】第一タイマカウンタおよび第二タイマカウンタのカウント値の経時変化を例示する図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上記図面を参照して、本開示に係る昇温制御装置1および車両Vを詳説する。
【0011】
<1.昇温制御装置1の概略構成>
図1に示すように、車両Vには、内燃機関100と、排気系200と、温度センサSe1と、昇温制御装置1とが搭載されている。
【0012】
内燃機関100は、例えばディーゼルエンジンであって、燃焼室102と、インジェクタ104と、吸気バルブ106と、排気バルブ108と、可変バルブタイミング機構(以下、VVT機構という)110と、を備えている。
【0013】
燃焼室102は、ピストン112の頂部、シリンダ114およびシリンダヘッド116等で囲まれた空間である。
【0014】
インジェクタ104は、本開示では、燃焼室102内に燃料を噴射する。しかし、これに限らず、インジェクタ104は、吸気ポートに燃料を噴射しても構わない。
【0015】
吸気バルブ106および排気バルブ108のそれぞれは開閉可能に構成される。吸気バルブ106が開くことで、吸気流路118からの新気が燃焼室102に吸入される。また、排気バルブ108が開くことで、燃焼室102で燃料が燃焼して生じた排ガスが排気系200(具体的には、排気流路202)に送り出される。
【0016】
VTT機構110は、本開示では、油圧によりベーンを駆動することで、上記排気バルブ108を開閉させるための排気カムシャフト(図示せず)を進角側または遅角側に回転させる。これによって、排気バルブ108の開閉タイミングを進角させたり、遅角させたりする。なお、VTT機構110は、上記のような位相変化型に限らず、カム切り替え型等であっても構わない。
【0017】
排気系200は、内燃機関100で生じた排ガスを大気中(車外)に導く排気流路202を有する。また、本開示では、排気流路202の中には、後処理装置204の例示として、酸化触媒206と、DPF(Diesel Particulate Filter)208と、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒210とが、設けられる。また、SCR触媒210の直前(即ち、すぐ上流側)に噴射器212が設けられている。
【0018】
酸化触媒206は、自身に流入した排ガス中の窒素酸化物(以下、NOxという)の一部を二酸化窒素にして、排ガス(NOx)における二酸化窒素の比率を高める。
【0019】
DPF208は、排気流路202において酸化触媒206の下流側に設けられ、自身に流入した排ガス中に含まれる粒子状物質(以下、PMという)を捕集する。また、DPF208は、排ガスの温度が自己再生温度以上であれば、捕集したPMを燃焼させて除去する(所謂、自己再生)。ここで、DPF208における自己再生(即ち、PMの燃焼)には、排ガス中での二酸化窒素の重量比が重要である。よって、自己再生は、酸化触媒206とDPF208とが有機的に組み合わさって実施されることになる。
【0020】
なお、DPF208自体に、上記酸化触媒206と同様の酸化触媒が付加されていても構わない。この場合も、DPF208は、上記と同様に自己再生が可能である。
【0021】
SCR触媒210は、排気流路202においてDPF208の下流側に配置される。また、排気流路202においてDPF208およびSCR触媒210の間(より好ましくは、SCR触媒210の直ぐ上流)には、その位置に尿素水を添加する噴射器212が設けられる。これにより、SCR触媒210には、排ガスだけでなく、尿素水を排ガスに吹きかけることで生成されたアンモニアも供給される。
【0022】
SCR触媒210は、自身を通過する排ガスの温度が第一温度以上になると、供給されたアンモニアと、供給された排ガス中に含まれる窒素酸化物(以下、NOxという)を反応させて、NOxを無害化する。従って、噴射器212は、SCR触媒210の流入する排ガスの温度が第一温度以上の場合に、尿素水を排ガスに排気流路202内に供給することが好ましい。なお、第一温度は、本昇温制御装置1の設計開発段階での実験・シミュレーション等により、アンモニアとNOxとの反応温度等を考慮しつつ適宜適切に定められる。
【0023】
以上の各後処理装置204で排ガスを処理して生成される水、窒素、二酸化炭素は、マフラー(図示せず)等を介して、大気中に排出される。
【0024】
温度センサSe1は、例えば熱電対からなり、排気流路202において、噴射器212と、SCR触媒210の上流側端部(以下、入口という)との間に配置される。より好ましくは、温度センサSe1はSCR触媒210の入口の直ぐ上流側に配置される。このような場所にて、温度センサSe1は、排気流路202を案内される排ガスの温度を時系列で検出して、検出結果(即ち、SCR触媒210の入口温度)を示す信号を昇温制御装置1に時系列で出力する。
【0025】
ここで、入口温度の状態は、本開示では、状態(1),(2),(3)に大別される。
状態(1)では入口温度が第一温度未満である。
状態(2)では入口温度が第一温度以上第二温度以下である。
状態(3)では入口温度が第二温度超である。
【0026】
上記第二温度は、下記のように定義される。排気流路202において、噴射器212およびSCR触媒210の間の部分には、尿素水由来の白色堆積物(以下、単に堆積物という)が堆積することがある。しかし、尿素水由来の堆積物は、周囲温度(即ち、排ガス温度)が約500℃,600℃以上の高温となると昇華することが知られている。第二温度は、本昇温制御装置1の設計開発段階での実験・シミュレーション等により、堆積物の昇華温度に基づき適宜適切に定められる。
【0027】
また、この堆積物により排気流路202が閉塞されるおそれがある。また、堆積物は効率的に除去される必要がある。そのために、本車両Vには、昇温制御装置1が搭載されている。
【0028】
<2.昇温制御装置1の構成>
昇温制御装置1は、例えば電子制御ユニット(ECU)であって、回路基板上に実装された、コネクタ(図示せず)と接続された入力部10、コントローラの典型例としてのマイコン12、プログラムメモリ14、ワーキングメモリ16、出力部18、および各種電子部品(図示せず)を有する。
【0029】
マイコン12は、プログラムメモリ14に格納されたプログラムPをワーキングメモリ16を使って実行して、各部を制御する。より具体的には、入力部10には、温度センサSe1の検出結果が時系列で入力される。マイコン12は、温度センサSe1の検出結果に基づき、内部に保持する第一タイマカウンタ20および第二タイマカウンタ22のカウント動作を制御すると共に、第一タイマカウンタ20のカウント値が所定の第一閾値(後述)に到達すると、各種手法で排ガスの昇温制御を実行する。以下、本開示の昇温制御について詳細に説明する。
【0030】
<3.昇温制御装置1の処理>
次に、図2A図2Bを参照して、昇温制御装置1の処理手順を説明する。昇温制御装置1は、例えば、運転者が内燃機関100を始動させてから停止させるまでの間、他の車両制御と並行して、図2A図2Bの処理を継続的に行う。
【0031】
マイコン12は、図2Aの処理を開始すると、まず、内燃機関100を停止させるか否かを判断する(S001)。YESの場合、マイコン12は、必要な終了処理を行った後、図2Aの処理を終了する。
【0032】
ステップS001でNOと判断すると、マイコン12は、温度センサSe1から検出結果を取得する(S003)。その後、マイコン12は、取得した検出結果が第一温度未満か否かを、即ち、入口温度の状態が状態(1)か否かを判断する(S005)。
【0033】
ステップS005でYESと判断すると、マイコン12は、現在尿素水の噴射中か否かを判断する(S007)。YESの場合、マイコン12は、入口温度が状態(2)から状態(1)に遷移したとして、尿素水の噴射を停止するよう、出力部18から各部に制御信号を送信する(S009)。マイコン12はさらに、第一タイマカウンタ20のカウント動作を停止させる(S011)。これにより、第一タイマカウンタ20は、入口温度が第一温度以上第二温度以下の範囲内に入っている時間のカウントを停止する。
なお、ステップS009と、ステップS011の実行順は逆転しても構わない。
【0034】
ステップS011を実行後、または、ステップS007でNOと判断した後、マイコン12は、ステップS001に戻る。なお、ステップS005でYESと判断された場合、カウント動作の状態が停止から始動に遷移することはないし、カウント値がリセットされることもない。
【0035】
ステップS005でNOと判断すると、マイコン12は、ステップS003で取得した検出結果が(第一温度以上)第二温度以下か否かを判断する(S013)。
【0036】
ステップS013でYESと判断すると、マイコン12は、現在尿素水の噴射中か否かを判断する(S015)。NOの場合、マイコン12は、入口温度が状態(1)から状態(2)に遷移したとして、出力部18から各部に制御信号を送信して、尿素水の噴射を開始させる(S017)。マイコン12はさらに、第一タイマカウンタ20のカウント動作を開始させる(S019)。これにより、第一タイマカウンタ20は、入口温度が第一温度以上第二温度以下の範囲内に入っている時間のカウントを開始する。
この後、マイコン12は、ステップS001に戻る。なお、ステップS017と、ステップS019の実行順は逆転しても構わない。
【0037】
それに対し、ステップS015でYESと判断すると、マイコン12は、第一タイマカウンタ20が現在カウント動作を実行中か否かを判断する(図2B,S021)。NOの場合、マイコン12は、入口温度が状態(3)から状態(2)に遷移したとして、第一タイマカウンタ20のカウント動作(以下、第一カウント動作ということがある)を再開させると共に、第二タイマカウンタ22のカウント動作(以下、第二カウント動作ということがある)をリセットする(S023)。これにより、第一タイマカウンタ20は、入口温度が第一温度以上第二温度以下の範囲内に入っている時間のカウントを再開する。
【0038】
それに対し、ステップS021でYESと判断すると、マイコン12は、第一タイマカウンタ20の現在のカウント値が第一閾値以上になったか否かを判断する(ステップS025)。YESの場合、マイコン12は、排気流路202内の堆積物の量が多くなり、これらを強制的に昇華させて除去させる必要があるとして、入口温度が第二温度以上となるように昇温制御を実行する(ステップS027)。第一閾値は、本昇温制御装置1の設計開発段階での実験・シミュレーションにおいて、内燃機関100の排気量や、入口温度が状態(2)で車両Vを走行させた時に生じる堆積物の量等を考慮して適宜適切に定められる。また、昇温制御の手法としては、本開示の場合、下記(4),(5)が例示される。
【0039】
(4)燃焼室102への燃料の供給量を増加させる。
(5)VVT機構110は、排気バルブ108の開タイミングを進角させる。これにより、排気バルブ108は、内燃機関100の燃焼・膨張行程においてピストン112の頂部が下死点に下がり切らないうちに開けられるため、高温の排ガスが燃焼室102から排出される。
上記供給量や進角量は、本昇温制御装置1の設計開発段階での実験・シミュレーションにより適宜適切に定められる。
【0040】
ステップS023,S027の実行後、または、ステップS025でNOと判断した場合、マイコン12は、図2AのステップS001に戻る。
【0041】
また、ステップS013でNOと判断すると、マイコン12は、入口温度が状態(3)にあるとして、まず、第二タイマカウンタ22が現在カウント動作を実行中か否かを判断する(図2B,ステップS029)。NOの場合、マイコン12は、入口温度が状態(2)から状態(3)に遷移したとして、第二タイマカウンタ22のカウント動作を開始させる(ステップS031)。これにより、第二タイマカウンタ22は、入口温度が第二温度以下の範囲外に出ている時間のカウントを開始する。
【0042】
それに対し、ステップS029でYESと判断すると、マイコン12は、入口温度が状態(3)のままであるとして、第二タイマカウンタ22の現在のカウント値が第二閾値以上になったか否かを判断する(ステップS033)。YESの場合、マイコン12は、昇温制御と関係なく内燃機関100で生じた高温の排ガスにより排気流路202内の堆積物が昇華し除去されたとして、両タイマカウンタ20,22のカウント動作をリセットする(ステップS035)。その結果、両タイマカウンタ20,22のカウント値は初期化された状態となる。なお、第二閾値は、本昇温制御装置1の設計開発段階での実験・シミュレーションにおいて、内燃機関100の排気量や、入口温度が状態(3)で車両Vを走行させた時に生じる堆積物の量等を考慮して適宜適切に定められる。
【0043】
ステップS031,S035の実行後、または、ステップS033でNOと判断した場合、マイコン12は、図2AのステップS001に戻る。
【0044】
<4.作用・効果>
車両Vの走行中、例えば、図3上段の時間帯T1ではずっと、入口温度は状態(2)とする。この場合、昇温制御装置1において、図2Aに示すステップS019の実行後、第一タイマカウンタ20は時間をカウントしていく。また、車両Vの走行中、時間帯T1の後に続く時間帯T2でずっと、入口温度は状態(1)とする。この場合、図2Aに示すステップS011の実行により、第一タイマカウンタ20のカウント動作が一時停止する。時間帯T2の後に続く時間帯T3では、入口温度は状態(2)に遷移するため、第一タイマカウンタ20がカウントアップし、その後の時間帯T4に入ると、入口温度が状態(3)に遷移する。この場合、図2BのステップS031の実行後、第二タイマカウンタ22がカウントアップを開始する(図3下段を参照)。時間帯T4では状態(3)が維持され、やがて、第二タイマカウンタ22のカウント値が第二閾値以上になる(ステップS033)。この場合、ステップS027の昇温制御を行わずとも、排ガス温度が第二温度以上と十分に高く、これによって、排ガス流路202内の堆積物が昇華する。なお、時間帯T4では、第一タイマカウンタ20は継続して時間をカウントしているが、ステップS035において、両タイマカウンタ20,22はリセットされるため、時間帯T4の終期では、両タイマカウンタ20,22のカウント値はゼロに初期化される。
【0045】
時間帯T4の後に続き時間帯T5では、入口温度が状態(1)のままであるため、両タイマカウンタ20,22のカウント値はゼロのままであるが、その後の時間帯T6では、入口温度が状態(2)のまま長時間続くとする。この場合、第一タイマカウンタ20のカウント値が第一閾値以上となる。この場合、車両Vにおいては、図2BのステップS027において昇温制御がなされる。このように、本昇温制御装置1は、入口温度が低い状態(即ち状態(2))で車両Vが相当時間走行し続けた場合に限り、入口温度を強制的に昇温させて、排気流路202に生じた堆積物を昇華させる。
【0046】
以上説明したように、本昇温制御装置1は、車両Vの通常走行により入口温度が第二温度以上となる場合、昇温制御を行わず、入口温度が低い状態で車両Vが相当時間走行し続けた場合に限り、排気流路202に生じた堆積物を強制的に昇華させる。これによって、堆積物の昇華に要するエネルギーを節約でき、従来よりも効率的に堆積物を除去可能な昇温制御装置1および車両Vを提供することが出来る。
【0047】
また、DFP208の中には、車両Vが所定距離走行するたびに、強制的にPMを燃焼させるものがある。しかし、車両Vによっては、このようなDPF再生間隔が長い場合がある。また、DFP208とSCR触媒210との間の距離が長い場合もある。これらの場合、堆積物の昇華にDFP再生の熱を利用しにくいため、本昇温制御装置1のような昇温制御は極めて有効となる。
【0048】
<5.付記>
上記開示では、噴射器212は尿素水を排ガスに供給するとして説明した。しかし、SCRでは、周知の通り、尿素以外の還元剤を使用することも可能である。従って、本開示の範囲は、尿素水に限定されず、周知の還元剤を含む。
【0049】
上記開示では、ステップS027の昇温制御の具体例として、(4)燃焼室102への燃料供給量を増やすことと、(5)排気バルブ108の進角制御とを例示した。しかし、これらに限らず、排ガス流路202において噴射器212とSCR触媒210の間の区間をヒータ(例えば面状発熱体)で加熱しても構わない。
【0050】
上記開示では、プログラムメモリ14にプログラムPが格納されるとして説明した。しかし、これに限らず、プログラムPは、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体(例えばDVD等)に格納されて提供されても構わない。他にも、ECUがダウンロードできるように、プログラムPはサーバ装置に格納されていても良い。
【0051】
上記開示では、入口温度を温度センサSe1により検出していた。しかし、これに限らず、入口温度は、排ガス流路202の他の場所に設けられた温度センサの検出結果から推定されても良い。この場合、もしこの温度センサが排気流路202に別目的で元々設けられているものであるならば、温度センサSe1を省くことでセンサ数を減らすことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示の昇温制御装置および車両は、より効率的に堆積物を除去可能であり、ディーゼルエンジンを搭載した乗用車や商用車に好適である。
【符号の説明】
【0053】
V 車両
100 内燃機関
200 排気系
202 排ガス流路
210 SCR触媒
212 噴射器
1 昇温制御装置
20 第一タイマカウンタ(カウンタ)
22 第二タイマカウンタ
12 マイコン(コントローラ)
14 プログラムメモリ(記憶媒体)
P プログラム
図1
図2A
図2B
図3