【実施例】
【0038】
<多孔質アルニウムシートNo.1〜No.20の作製>
先ず、平均粒子径4μmのアルミニウム粉末(不純物として、Fe:0.15質量%、Si:0.05質量%およびNi:0.01質量%を含む)と、平均粒子径9.1μmの水素化チタン粉末を用意した。このアルミニウム粉末と水素化チタン粉末を質量比で99:1となる割合で、合計で500gとなるように混合してアルミニウム混合原料粉末を調製した。
また、メチルセルロースを0.1質量部、エチルセルロースを2.9質量部、グリセリンを3質量部、ポリエチレングリコールを3質量部、そして水を91質量部の割合で、合計500gとなるように混合してバインダー溶液を調製した。
【0039】
上記のアルミニウム混合原料粉末50質量部と、上記のバインダー溶液49質量部とを混練して粘性組成物を調製し、次いで、この粘性組成物にヘプタン1質量部を加えて発泡させ、気泡含有粘性組成物を得た。なお、アルミニウム混合原料粉末、バインダー溶液およびヘプタンは、合計500gとなるように混合した。
【0040】
次に、得られた気泡含有粘性組成物を、剥離剤が塗布されたポリエチレンシート上に、単位面積当たりの塗布量が下記の表1に示す量となるように、ドクターブレード法にて塗布して気泡含有粘性組成物塗布膜を形成した。この気泡含有粘性組成物塗布膜を温度35℃、湿度95%RHに調整された環境中で表1に示す保持時間にて保持して、気泡を整寸化した後、大気乾燥機を用いて温度70℃で50分間乾燥した。乾燥後の気泡含有粘性組成物塗布膜をポリエチレンシートから剥がし、直径100mmの円形に切り出して、焼結前成形体を得た。
【0041】
得られた焼結前成形体を、ジルコニア敷粉を敷いたアルミナセッターの上に載置して、アルゴン雰囲気中で、温度520℃で30分間仮焼成して、バインダー溶液成分を除去した。仮焼成した後の焼結前成形体を、アルゴン雰囲気中で、表1に示す本焼成温度と本焼成時間で本焼成して、アルミニウム多孔質焼結体を得た。得られたアルミニウム多孔質焼結体をロールプレスにかけ、表1に示す厚さとなるまで圧延して、多孔質アルミニウムシート(発泡アルミニウムシート)を作製した。但し、No.20では、シートの形状を維持できなかったため、多孔質アルミニウムシートを作製できなかった。
【0042】
<多孔質アルニウムシートNo.1〜No.19の評価>
得られた多孔質アルミニウムシートの平均孔径、気孔率、金属骨格長さ100μm当たりの骨格孔の数を下記の方法により測定した。この結果を表1に示す。
【0043】
(平均孔径)
多孔質アルミニウムシートを走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、気孔の長径を孔径として1試料につき50か所測定した。なお、40μm以上の長径を持つ気孔のみを測定対象とした。測定した孔径の算術平均値を算出し、これを平均孔径とした。
【0044】
(気孔率)
多孔質アルニウムシートを5cm角のサイズで切り出し、切り出した多孔質アルミニウムシートの質量M(g)と、体積V(cm
3)、真密度D(g/cm
3)を測定した。気孔率は、下記の計算式にて算出した。真密度は気相置換法(マイクロメトリクス社製 アキュピックII 1340)により測定した。
気孔率(%)=[1−{M÷(V×D)}]×100
【0045】
(金属骨格の長さ100μmあたりの骨格孔の平均個数)
樹脂埋めした多孔質アルニウムシートを準備し、シートの面方向に平行な断面を出した。その後、多孔質アルニウムシートの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、写真中央に金属骨格が写るようにそれぞれ別視野で撮影したSEM写真を10枚用意した。SEM写真の倍率は1000倍とした。
図2に、No.1の多孔質アルニウムシートの断面のSEM写真を、
図3に
図2中の破線で囲まれた部分の拡大写真を示す。
図3に示すように、SEM写真の対角線の交点から対角線上の各隅に向かって50μmずつ、全長100μmの直線を2本描いた。そして、その2本の長さ100μmの直線にそれぞれ接する骨格孔(長径が5μm以上40μm以下の範囲にあるもの)の個数を計数した。用意した10枚の各SEM写真で計数された骨格孔の個数の算術平均値を算出し、これを断面観察によって測定される長さ100μmあたりの骨格孔の平均個数とした。
【0046】
【表1】
【0047】
<放熱シートの作製>
[本発明例1]
上記方法で作製した多孔質アルニウムシートNo.1に、液状シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製:KE−1830)を塗布し、次いで、真空脱泡に1時間かけて、多孔質アルニウムシートの気孔に液状シリコーンゴムを充填した。液状シリコーンゴムを充填した多孔質アルニウムシートを、二枚の離形フィルム(ダイセルバリューコーティング株式会社:T1432)の間に、多孔質アルミニウムシートと同じ厚さのスペーサーと共に挟み、2MPaの力でプレスしながら120度で1時間加熱して、液状シリコーンゴムを硬化させて、多孔質アルニウムシートNo.1にシリコーンゴムを充填した放熱シートを作成した。
【0048】
[本発明例2]
液状シリコーンゴムの代わりに、二液型シリコーンゲル(信越化学工業株式会社製:KE−1013)を用いたこと、および真空脱泡にかける時間を0.1時間としたこと以外は、本発明例1と同様にして、多孔質アルニウムシートNo.1にシリコーンゲルを充填した放熱シートを作製した。
【0049】
[本発明例3]
液状シリコーンゴムの代わりに、液状シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製:KE−1830)と二液型シリコーンゲル(信越化学工業株式会社製:KE−1013)とを質量比で1:1の割合で混合した混合物を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、多孔質アルニウムシートNo.1にシリコーンゴムとシリコーンゲルの混合物を充填した放熱シートを作製した。
【0050】
[本発明例4]
本発明例1で用いた液状シリコーンゴムの代わりに、液状フッ素ゴム(ダイキン工業株式会社製:DPA−382)を用いた。上記方法で作製した多孔質アルニウムシートNo.1に、液状フッ素ゴムを塗布し、次いで、真空脱泡に1時間かけて、多孔質アルニウムシートの気孔に液状フッ素ゴムを充填した。次に、80℃で30分乾燥を行った。続いて液状フッ素ゴムを充填した多孔質アルニウムシートを、二枚の離形フィルムの間に、多孔質アルミニウムシートと同じ厚さのスペーサーと共に挟み、0.5MPaの力でプレスした。その後、マッフル炉にて120℃で1時間加熱して、液状フッ素ゴムを硬化させて、多孔質アルニウムシートNo.1にフッ素ゴムを充填した放熱シートを作製した。
【0051】
[本発明例5〜15および比較例1〜7]
多孔質アルニウムシートNo.1の代わりに、表1に示すように多孔質アルニウムシートNo.2〜19を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、放熱シートを作製した。
【0052】
<放熱シートの評価>
本発明例1〜15および比較例1〜7で作製した放熱シートの表面粗さRa、シート硬さ、熱伝導度、熱抵抗を、下記の方法により測定した。その結果を表2に示す。
【0053】
(表面粗さRa)
表面粗さRaは、Bruker Nano社製Dektak150を用いて測定した。測定は1mmスキャンによって行い、荷重は5.00mg、スキャンスピードは1mm/30sとした。
【0054】
(シート硬さ)
放熱シートを重ねて、5mm厚の試料を作製した。作製した5mm厚の試料に対して、JIS−K−6253に準じて、タイプAのデュロメーター(テフロック、GS−719N)を用いて硬さを5点測定した。測定した硬さの算術平均値を算出し、これをシート硬さとした。
【0055】
(熱伝導度)
熱伝導度は、放熱シートの垂直方向の熱拡散率から算出した。放熱シートの垂直(厚み)方向の熱拡散率は、NETZSCH−GeratebauGmbH製のLFA477 Nanoflash を用いたレーザーフラッシュ法で測定した。放熱シートの熱伝導度の計算には、多孔質アルニウムシートの密度と比熱、および弾性体の密度と比熱から体積分率に基づいて計算した値を用いた。
【0056】
(熱抵抗)
放熱シートを銅板(50mm×60mm、厚さ3mm)の上に貼り付けた。この放熱シートを貼り付けた銅板の放熱シートと発熱体パッケージとをトルク40Ncmの力でねじ留めした上で、T3Star装置を用いて、放熱シートの熱抵抗を測定した。発熱体パッケージはTO−3Pを用いた。発熱:1A、30sec(素子温度:ΔT=2.6℃)、測定:0.01A、測定時間:45secの条件で測定を行った。
【0057】
【表2】
【0058】
本発明例1〜15で得られた放熱シートは、比較例1〜7で得られた放熱シートと比較して熱抵抗が低いこと、すなわち優れた放熱特性を有することが確認された。比較例1〜7で得られた放熱シートの熱抵抗が高くなった理由は、次のように推察される。
【0059】
比較例1の放熱シートは厚さが薄くなりすぎて、密着性が低下したためであると推察される。これは本発明例1の熱伝導度、厚みとの関係からより明確に支持される。つまり本発明例1の熱伝導度は比較例1のものと同程度で、比較例1の厚みは本発明例1の半分である。従って、バルク熱抵抗としては比較例1のほうが低い。しかしながら熱抵抗としては比較例1のほうが高くなっている。これは、界面熱抵抗が高いことを示しており、密着性が低下していることを示している。
比較例2の放熱シートは厚さが厚くなりすぎて、バルク熱抵抗が大きくなりすぎたためであると推察される。
【0060】
比較例3の放熱シートは平均孔径と気孔率が小さくなりすぎて、密着性が低下したためであると推察される。これは本発明例1の熱伝導度、厚みとの関係からより明確に支持される。つまり比較例3の熱伝導度は本発明例1よりも高く、厚みは同じである。従ってバルク熱抵抗は比較例3のほうが低い。しかしながら熱抵抗としては比較例3のほうが高くなっている。これは、界面熱抵抗が高いことを示しており、密着性が低下していることを示している。
比較例4の放熱シートは、平均孔径が大きく、表面粗さRaが大きくなりすぎたため、密着性が低下したためであると推察される。これは本発明例1の熱伝導度、厚みとの関係からより明確に支持される。つまり比較例4の熱伝導度は本発明例1と同程度であり、厚みは同じである。従ってバルク熱抵抗はほぼ変わらない。しかしながら熱抵抗としては比較例4のほうが高くなっている。これは、界面熱抵抗が高いことを示しており、密着性が低下していることを示している。
比較例5の放熱シートは、気孔率が低くなりすぎて、密着性が低下したためであると推察される。これは本発明例1の熱伝導度、厚みとの関係からより明確に支持される。つまり比較例5の熱伝導度は本発明例1よりも高く、厚みは同じである。従ってバルク熱抵抗はほぼ変わらない。しかしながら熱抵抗としては比較例5のほうが高くなっている。これは、界面熱抵抗が高いことを示しており、密着性が低下していることを示している。
【0061】
比較例6の放熱シートは、金属骨格に形成されている骨格孔の数が少なくなりすぎて、密着性が低下したためと推察される。これは本発明例1とのシート-6硬さの違いや熱抵抗の違いからより明確に支持される。つまり比較例6の熱伝導度は本発明例1と同じであり、厚みも同じである。従ってバルク熱抵抗はほぼ変わらない。しかしながら熱抵抗としては比較例6のほうが高くなっている。これは、界面熱抵抗が高いことを示しており、密着性が低下していることを示している。この密着性の低下は、シート硬さからわかるように、金属骨格に形成されている骨格孔の数が少なくなりすぎて、シートの柔軟性が低下したためと推察される。
比較例7の放熱シートは、骨格孔の数が多くなりすぎて、多孔質アルミニウムシートの熱伝導度が低下したためであると推察される。これは熱伝導度測定値から明確に支持される。