特許第6766908号(P6766908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6766908作物生産用施設への二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置及び供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6766908
(24)【登録日】2020年9月23日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】作物生産用施設への二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置及び供給方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/18 20060101AFI20201005BHJP
   A01G 7/02 20060101ALI20201005BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20201005BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20201005BHJP
   B01D 53/90 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   A01G9/18ZAB
   A01G7/02
   B01D53/50 100
   B01D53/86 222
   B01D53/86 245
   B01D53/86 280
   B01D53/90
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-25132(P2019-25132)
(22)【出願日】2019年2月15日
(62)【分割の表示】特願2015-71015(P2015-71015)の分割
【原出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2019-107007(P2019-107007A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-161077(P2014-161077)
(32)【優先日】2014年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】平山 敦
(72)【発明者】
【氏名】高須 展夫
【審査官】 大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3025591(JP,U)
【文献】 特開2010−058067(JP,A)
【文献】 特開昭63−012326(JP,A)
【文献】 特開昭62−266121(JP,A)
【文献】 特開2005−218327(JP,A)
【文献】 特開2008−201649(JP,A)
【文献】 実開平07−042604(JP,U)
【文献】 特開2008−253877(JP,A)
【文献】 特開2004−057145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/02、 9/14− 9/26
B01D 53/34−53/96
C21C 5/00、 5/28− 5/50
F23J 13/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物生産用施設へ二酸化炭素含有ガスと熱を供給する供給装置であって、
燃料を燃焼する燃焼炉と、
前記燃焼炉から排出された燃焼排ガスとの熱交換により熱を得て作物生産用施設へ熱を供給する熱交換器と、
燃焼排ガスに含まれる硫黄酸化物を除去する硫黄酸化物除去装置と、
燃焼排ガスに含まれる煤塵を捕集する集塵装置と、
燃焼排ガスにアンモニアガスを吹き込み、脱硝触媒により燃焼排ガスに含まれる窒素酸化物を除去する窒素酸化物除去装置と、
燃焼排ガスに含まれる一酸化炭素とエチレンを酸化触媒により除去する一酸化炭素及びエチレン除去装置と、
浄化された燃焼排ガスを作物生産用施設へ供給する浄化ガス供給装置と、
前記一酸化炭素及びエチレン除去装置から排出された循環ガスをガス加熱装置によって加熱し、前記一酸化炭素及びエチレン除去装置の上流側に戻し、前記一酸化炭素及びエチレン除去装置の前記酸化触媒を180℃〜300℃に加熱して前記一酸化炭素及びエチレン除去装置の前記酸化触媒に付着したタールミストを除去する触媒活性回復手段と、を備える二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置。
【請求項2】
前記ガス加熱装置に反応用空気を供給することを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置。
【請求項3】
前記燃料がバイオマスであり、
前記硫黄酸化物除去装置が、燃焼排ガスに重曹粉末を吹込み、硫黄酸化物との反応生成物を生成し、反応生成物を前記集塵装置により煤塵とともに捕集可能とする除去装置であり、
記浄化ガス供給装置が、浄化ガスを冷却する熱交換器を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置。
【請求項4】
作物生産用施設へ二酸化炭素含有ガスと熱を供給する供給方法であって、
燃焼炉で燃料を燃焼する工程と、
前記燃焼炉から排出された燃焼排ガスとの熱交換により熱を得て作物生産用施設へ熱を供給する工程と、
燃焼排ガスに含まれる硫黄酸化物を除去する硫黄酸化物除去工程と、
燃焼排ガスに含まれる煤塵を捕集する集塵工程と、
燃焼排ガスにアンモニアガスを吹き込み、脱硝触媒により燃焼排ガスに含まれる窒素酸化物を除去する窒素酸化物除去工程と、
燃焼排ガスに含まれる一酸化炭素とエチレンを酸化触媒により除去する一酸化炭素及びエチレン除去工程と、
浄化された排ガスを作物生産用施設へ供給する浄化ガス供給工程と、
前記一酸化炭素及びエチレン除去装置から排出された循環ガスをガス加熱装置によって加熱し、前記一酸化炭素及びエチレン除去装置の上流側に戻し、前記一酸化炭素及びエチレン除去装置の前記酸化触媒を180℃〜300℃に加熱して前記一酸化炭素及びエチレン除去装置の前記酸化触媒に付着したタールミストを除去する工程と、を備える二酸化炭素含有ガスと熱の供給方法。
【請求項5】
前記燃料がバイオマスであり、
前記硫黄酸化物除去工程が、燃焼排ガスに重曹粉末を吹込み、硫黄酸化物との反応生成物を生成し、反応生成物を前記集塵工程において煤塵とともに捕集可能とする除去工程であり、
記浄化ガス供給工程が、浄化ガスを冷却する熱交換工程を有することを特徴とする請求項に記載の二酸化炭素含有ガスと熱の供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物工場や作物栽培ハウス等の作物生産用施設に燃焼炉からの燃焼排ガスを供給して、燃焼排ガスに含まれる二酸化炭素を作物に施用することにより、作物の収率及び品質の向上を可能とするとともに、燃焼排ガスの燃焼熱を回収し、作物生産用施設に熱供給する作物生産用施設への二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置及び供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物工場や作物栽培ハウス等の作物生産用施設では、温度管理のため重油や灯油を燃焼させて得た熱を温水や温風として供給している。また、作物の光合成を促進し、作物の生育促進、収率及び品質の向上のため、作物生産用施設内の二酸化炭素濃度を高める二酸化炭素施用技術があり、重油や灯油を燃焼させた燃焼排ガス中の二酸化炭素を作物生産用施設内に供給し、光合成を促進するようにしている。
【0003】
例えば特許文献1には、作物生産用施設を温度管理し、また作物生産用施設に肥料としての二酸化炭素を供給するために、重油や灯油の燃焼によって得られた熱を温風として作物生産用施設に供給するとともに、燃焼排ガス中の二酸化炭素をタンクに貯留し、タンクに貯留した二酸化炭素を作物生産用施設に供給する二酸化炭素供給システムが開示されている。ボイラの燃焼排ガスには、作物の成長に悪影響を及ぼす硫黄酸化物及び窒素酸化物が含まれる。このため、特許文献1に記載の二酸化炭素供給システムでは、燃焼排ガスを水溜中にバブリングさせ、硫黄酸化物を除去し、高活性炭素繊維による触媒機能により窒素酸化物を除去している(段落0013〜段落0015参照)。
【0004】
他方、二酸化炭素の排出抑制による温暖化防止、資源の有効利用、廃棄物の減量化を目的として、バイオマスの利活用が要望されている。バイオマスを燃料として使用することができれば、化石燃料の燃焼により排出される二酸化炭素をなくすことができるので、さらなる温暖化防止対策につながる。
【0005】
特許文献2には、木質系バイオマスを炭化ガス化処理し、分解ガスを燃焼することによって得られた熱を利用して発電するとともに、分解ガスを燃焼することによって得られた二酸化炭素含有ガスを作物生産用施設に供給し、作物の成長を促進する二酸化炭素供給システムが開示されている(段落0019〜段落0023参照)。
【0006】
特許文献3には、バイオマスを立型炉で燃焼し、バイオマスを燃焼することによって得られた熱を作物生産用施設に供給するとともに、バイオマスを燃焼することによって得られた二酸化炭素含有ガスを作物生産用施設に供給する二酸化炭素供給システムが開示されている。バイオマスを燃料として燃焼させた燃焼排ガスには、作物の成長に悪影響を与える硫黄酸化物、窒素酸化物が含まれる。特許文献3に記載の二酸化炭素供給システムでは、燃焼排ガス中の硫黄酸化物、窒素酸化物などの有害成分をスクラバーで予備的に洗い落とし、さらに多孔質吸着剤により吸着除去する燃焼排ガス処理を行い、処理済み燃焼排ガスを作物生産用施設へ供給している(段落0041〜段落0044参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−16322号公報
【特許文献2】特開2006−191876号公報
【特許文献3】国際公開第2009/038103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、バイオマスの燃焼排ガスには、硫黄酸化物、窒素酸化物だけでなく、作物の成長に有害なエチレン、作物生産用施設内の作業者に有害な一酸化炭素が含まれる。エチレンは、蕾の脱落や葉や花の生育不良を招いたり、作物が熟すのを促進するため収穫時の作物が熟しすぎて出荷できないという事態を招く。また、一酸化炭素は、作物生産用施設内で働く作業者の中毒を招く。二次燃焼室を備える大規模な焼却炉では、一酸化炭素を十分に除去できるが、小規模の焼却炉では、二次燃焼室を備えないことが多く、一酸化炭素の除去が課題である。
【0009】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、燃料を燃焼した燃焼排ガス中の作物に有害な硫黄酸化物、窒素酸化物、一酸化炭素及びエチレンを除去し、浄化した排ガスを作物生産用施設に植物成長を促進する二酸化炭素含有ガスとして供給することができる作物生産用施設への二酸化炭素含有ガスと熱を供給する供給装置及び供給方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、作物生産用施設へ二酸化炭素含有ガスと熱を供給する供給装置であって、燃料を燃焼する燃焼炉と、前記燃焼炉から排出された燃焼排ガスとの熱交換により熱を得て作物生産用施設へ熱を供給する熱交換器と、燃焼排ガスに含まれる硫黄酸化物を除去する硫黄酸化物除去装置と、燃焼排ガスに含まれる煤塵を捕集する集塵装置と、燃焼排ガスにアンモニアガスを吹き込み、脱硝触媒により燃焼排ガスに含まれる窒素酸化物を除去する窒素酸化物除去装置と、燃焼排ガスに含まれる一酸化炭素とエチレンを酸化触媒により除去する一酸化炭素及びエチレン除去装置と、浄化された燃焼排ガスを作物生産用施設へ供給する浄化ガス供給装置と、前記一酸化炭素及びエチレン除去装置から排出された循環ガスをガス加熱装置によって加熱し、前記一酸化炭素及びエチレン除去装置の上流側に戻し、前記一酸化炭素及びエチレン除去装置の前記酸化触媒を180℃〜300℃に加熱して前記一酸化炭素及びエチレン除去装置の前記酸化触媒に付着したタールミストを除去する触媒活性回復手段と、を備える二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、燃焼排ガス中の硫黄酸化物、窒素酸化物、一酸化炭素、エチレンを効率よく除去できる。作物の成長に悪影響を与えることが無い燃焼排ガスを供給して、作物の成長促進に有効となる二酸化炭素を植物に与えることができる。また、燃焼排ガスから熱回収して、作物生産用施設内の温度管理に用いることができる。さらに、一酸化炭素及びエチレン除去装置の酸化触媒の触媒活性を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第一の実施形態の二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置の模式図
図2図1の供給装置に制御系統を付加したものを示す模式図
図3】本発明の第二の実施形態の二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1に基づいて、本発明の第一の実施形態の二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置(以下、単に供給装置という)を詳細に説明する。供給装置は、植物工場や作物栽培ハウス等の作物生産用施設11に二酸化炭素含有ガスと熱を供給するもので、上流側から順番に燃焼炉1、熱交換器2、硫黄酸化物除去装置3、集塵装置4、窒素酸化物除去装置5、一酸化炭素及びエチレン除去装置8、及び浄化ガス供給装置9を備える。以下に、各構成要素を順番に説明する。
【0016】
(燃焼炉)
燃焼炉1は、バイオマスの供給を受け、バイオマスを燃焼して排ガスを排出する。バイオマスには、木質系バイオマス(例えば木質チップ、木屑、間伐材、製材廃材、建築廃材等)が用いられる。典型的な燃焼炉1は、火格子式燃焼炉であり、火格子を有する燃焼室と、火格子上にバイオマスを供給するための供給口と、燃焼室に燃焼空気を供給する送風機と、を備える。火格子上のバイオマスに燃焼空気を供給して燃焼する火格子式燃焼炉は、燃焼効率が高く好ましいが、炉形式はこれに限定されるものではない。
【0017】
(熱交換器)
熱交換器2は、燃焼炉1の燃焼排ガス(以下、単に排ガスという)と水との熱交換により水を加熱して温水を得て、暖房、温度管理のための熱を作物生産用施設11に供給する。熱交換器2と作物生産用施設11とは、温水配管12で接続され温水が供給される。熱交換器2で得られた温水を別に設ける蓄熱槽に貯留することにより、作物生産用施設11の熱需要により効果的に対応して熱を供給することができる。例えば、昼間に得られ貯留された温水(蓄熱された温熱)を、熱需要の大きい夜間に使用するようにするなど、柔軟な対応が可能となる。
【0018】
熱交換器2は、排ガスと水との熱交換により水蒸気を得て、水蒸気を作物生産用施設11へ供給してもよいし、水蒸気を蒸気タービンに送り、蒸気タービンにより発電し、電気エネルギーを作物生産用施設11へ供給してもよい。また、燃焼炉1と熱交換器2とを一体化した燃焼ボイラを用いてもよいし、燃焼炉1と熱交換器2が別体のものを用いてもよい。
【0019】
燃焼炉1の排ガスには、作物又は作業者に有害な硫黄酸化物、窒素酸化物、一酸化炭素、エチレンが含まれる。硫黄酸化物(SO)、窒素酸化物(NO)は、大気汚染の原因物質であり、植物の生育に悪影響を及ぼし、作物生産用施設11で働く作業者にとって有害である。一酸化炭素(CO)は、作業者に一酸化炭素中毒をもたらす。エチレンは、作物の生育不良や作物の熟しすぎを招く。このため、これらの有害物は、以下の硫黄酸化物除去装置3、窒素酸化物除去装置5、一酸化炭素及びエチレン除去装置8によって除去される。
【0020】
(硫黄酸化物除去装置)
硫黄酸化物除去装置3は、熱交換器2で熱回収された排ガスに重曹(炭酸水素ナトリウム)粉末を吹き込む重曹吹込み装置を備える。重曹吹込み装置は、重曹を貯留する重曹貯留槽と、重曹貯留槽から重曹粉末を切り出す切出し装置と、切り出された重曹粉末を圧縮空気とともに排ガス中に吹き込むノズルと、を備える。ノズルは、熱交換器2の下流側かつ集塵装置4の上流側のダクト13に配置される。
【0021】
排ガスに吹き込まれた重曹粉末は、硫黄酸化物(SO)と反応して、反応生成物として硫酸ナトリウム(Na2SO4)を生成する。硫黄酸化物(SO)と重曹粉末(NaHCO3)との反応式は、式1のとおりである。
(式1)
2NaHCO3+SO2+1/2O2→Na2SO4+H2O+2CO2
【0022】
反応生成物粒子(Na2SO4)は、粉塵とともに集塵装置4により捕集され、排ガスから硫黄酸化物が除去される。硫黄酸化物を重曹粉末との反応により除去する際の温度は、反応効率を高くするため、170〜200℃とすることが好ましい。排ガス温度をこの範囲とするように熱交換器2による熱交換を制御する。
【0023】
(集塵装置)
集塵装置4は、排ガスに含まれる粉塵を捕集するとともに、重曹粉末と硫黄酸化物(SO)との反応生成物粒子を捕集する。バグフィルタ等の濾過式集塵装置を用いることが、粉塵と硫黄酸化物の反応生成物粒子を捕集する効率が高く好ましい。バグフィルタのフィルタ表面に付着した未反応の重曹粉末が、硫黄酸化物と反応することも行われる。
【0024】
(窒素酸化物除去装置)
窒素酸化物除去装置5は、集塵装置4で粉塵が除去された排ガスにアンモニアガスを吹き込むアンモニア供給装置6と、脱硝触媒を収容した脱硝触媒装置7と、を備える。脱硝触媒装置7は、窒素酸化物(NO)をアンモニアとの反応によりNとHOとに分解し窒素酸化物を除去する。アンモニア(NH3)と窒素酸化物(NO)との反応式は、式2のとおりである。
(式2)
4NO+4NH3+O2→4N2+6H2
NO+NO2+2NH3→2N2+3H2
【0025】
脱硝触媒は限定されないが、TiOを担体とし、V、WO等を活性体とするものが好ましく、触媒形状は圧力損失の少ないハニカム状や板状の並行流型を用いることが好ましい。窒素酸化物をアンモニアガスと脱硝触媒により除去する際の温度は特に限定されないが、硫黄酸化物除去を行う温度である170〜200℃の温度範囲で運転することが再加熱を行う必要がないため好ましい。この温度範囲で好適な脱硝触媒を用いるようにする。
【0026】
(一酸化炭素及びエチレン除去装置)
一酸化炭素及びエチレン除去装置8は、窒素酸化物除去装置5で窒素酸化物が除去された排ガスを、酸化触媒を収容した酸化触媒装置に導入し、触媒の作用により一酸化炭素とエチレンを酸化し、作物又は作業者に無害なCO、H2O等の物質にする。酸化に使用される酸素は、排ガスに含まれる酸素である。燃焼炉1には燃焼空気が吹き込まれるので、排ガスには十分な酸素が存在する。酸化触媒は限定されないが、担体に白金やロジウムを担持させた触媒を用いることが好ましい。一酸化炭素及びエチレンを酸化触媒により酸化して除去する際の温度は特に限定されないが、硫黄酸化物除去を行う温度である170〜200℃の温度範囲で運転することが再加熱を行う必要がないため好ましい。この温度範囲で好適な酸化触媒を用いるようにする。
【0027】
窒素酸化物除去装置5と一酸化炭素及びエチレン除去装置8との配置は、図1に示す順でも逆の順でもよい。すなわち、一酸化炭素及びエチレン除去装置8を上流側に配置し、窒素酸化物除去装置5を下流側に配置することもできる。
【0028】
集塵装置4の下流側に窒素酸化物除去装置5と一酸化炭素及びエチレン除去装置8とを設置することにより、バイオマスの燃焼排ガスに含まれる脱硝触媒や酸化触媒に対する被毒成分を集塵装置4で予め除去できる。
【0029】
(浄化ガス供給装置)
浄化ガス供給装置9は、上記の除去装置3,4,5,8によって浄化された燃焼排ガスを作物生産用施設11へ供給する。浄化ガス供給装置9は、熱交換器10を備える。一酸化炭素及びエチレン除去装置8で一酸化炭素及びエチレンが除去された排ガスは、熱交換器10で例えば100〜130℃まで冷却され、さらに空気で希釈され、例えば30〜50℃まで冷却され、作物生産用施設11へ二酸化炭素含有ガスとして供給される。二酸化炭素含有ガスを常温に近い温度にすることで、作物生産用施設11内の作物に悪影響を与えないようにする。熱交換器10は、浄化ガスと水との熱交換により水を加熱して温水を得て、暖房、温度管理のための熱を作物生産用施設11に供給するようにしてもよい。
【0030】
上記の各構成要素の装置を備える供給装置により、燃焼排ガス中の作物又は作業者に有害な硫黄酸化物、窒素酸化物、一酸化炭素、エチレンを効率よく除去でき、作物の成長に悪影響を与えることが無い燃焼排ガスを作物生産用施設11に供給して、作物の成長促進に有効となる二酸化炭素を植物に与えることができ、さらに、燃焼排ガスから熱回収して、作物生産用施設内11に熱を供給することができる。
【0031】
また、作物生産用施設11と供給装置の運転を制御する制御システムを設けて、作物生産用施設11の二酸化炭素需要や熱需要に応じて、供給装置の起動及び停止や、運転時の燃料燃焼量を制御するようにしてもよい。例えば、制御システムは、作物生産用施設11内の二酸化炭素や熱がより多く必要であると判断された場合に、供給装置を起動し、あるいは燃料燃焼量を増大し、需要に対応するように制御する。
【0032】
図2は、排ガスに含まれる有害物の濃度を抑制するための制御系統を付加した供給装置の構成図を示す。燃焼炉1、熱交換器2、硫黄酸化物除去装置3、集塵装置4、窒素酸化物除去装置5、一酸化炭素及びエチレン除去装置8、及び浄化ガス供給装置9の構成は、図1に示すものと同一であるので、同一の符号を附してその説明を省略する。
【0033】
一酸化炭素及びエチレン除去装置8の下流側には、浄化ガスの成分濃度を測定するガス成分濃度計21が配置される。制御装置22は、ガス成分濃度計21の硫黄酸化物の測定値に基づいて、硫黄酸化物除去装置3の重曹供給量を制御する。例えば、制御装置22は、ガス成分濃度計21の硫黄酸化物の測定値が所定の許容範囲値よりも高い場合には、重曹供給量を増大させ、低い場合には、重曹供給量を減少させる。
【0034】
制御装置22は、ガス成分濃度計21の窒素酸化物の測定値に基づいて、窒素酸化物除去装置5のアンモニアガス供給量を制御する。例えば、制御装置22は、ガス成分濃度計21の窒素酸化物の測定値が所定の許容範囲値よりも高い場合には、アンモニアガス供給量を増大させ、低い場合には、アンモニアガス供給量を減少させる。
【0035】
一酸化炭素及びエチレン除去装置8から排出された浄化ガスを熱交換器10に送るダクトには、分岐して浄化ガスの一部を一酸化炭素及びエチレン除去装置8の上流側に戻す循環流路23が設けられ、戻す循環ガス量を調整する調整弁24が配置される。浄化ガスの一部を一酸化炭素及びエチレン除去装置8の上流側に戻すことにより、浄化ガスに残存する一酸化炭素及びエチレンを再度酸化触媒と接触させ、一酸化炭素とエチレンをより低濃度にまで除去する。制御装置22は、ガス成分濃度計21の一酸化炭素及びエチレンの測定値に基づいて、調整弁24の開度を調整し循環ガス量を制御する。例えば、制御装置22は、ガス成分濃度計21の一酸化炭素及びエチレン除去装置8の測定値が一定時間以上にわたって所定の閾値以上の場合には、循環ガス量を増大させる。また、制御装置22は、ガス成分濃度計21の一酸化炭素及びエチレンの測定値に基づいて、一酸化炭素及びエチレン除去装置8の酸化触媒の交換時期を判定する。例えば、制御装置22は、ガス成分濃度計21の一酸化炭素及びエチレン除去装置8の測定値が一定時間以上にわたって所定の閾値以上の場合には、酸化触媒の交換を促す警報を表示する。
【0036】
図2に示す制御系統を付加した供給装置では、一酸化炭素及びエチレン除去装置8の下流側に、浄化ガスの成分濃度を測定するガス成分濃度計21が配置され、制御装置22により制御することとしているが、作物生産用施設11内の各種ガス成分濃度を測定するガス成分濃度計21を配置して計測し制御するようにしてもよい。すなわち、作物生産用施設11内の各種ガス成分濃度の測定値に基づき、硫黄酸化物除去装置3の重曹供給量、窒素酸化物除去装置5のアンモニアガス供給量、浄化ガスの一部を一酸化炭素及びエチレン除去装置8の上流側に戻す循環ガス量を制御して、作物生産用施設11の操業状況に応じて、供給装置のガス浄化機器を制御することも可能である。
【0037】
図3は、本発明の第二の実施形態の二酸化炭素含有ガスと熱の供給装置(以下、単に供給装置という)の模式図である。燃焼炉1、熱交換器2、硫黄酸化物除去装置3、集塵装置4、窒素酸化物除去装置5、一酸化炭素及びエチレン除去装置8、浄化ガス供給装置9の構成は、図1に示すものと同一であるので、同一の符号を附してその説明を省略する。
【0038】
第二の実施形態の供給装置では、脱硝触媒装置7の脱硝触媒、並びに一酸化炭素及びエチレン除去装置8の酸化触媒に付着したタールミストを除去して、触媒活性を回復させる触媒活性回復手段を付加している点が、第一の実施形態の供給装置と異なる。この触媒活性回復手段は、循環流路31と、ガス加熱装置32と、を備える。
【0039】
触媒活性回復手段を付加する理由は以下のとおりである。燃焼炉1でのバイオマス燃焼によって発生するタールのほとんどは集塵装置4により除去されるものの、排ガスが集塵装置4から脱硝触媒装置7、一酸化炭素及びエチレン除去装置8に流通するにつれて、排ガス温度がガス状タールの露点以下に低下し、ガス状タールが液化して微量のタールミストが発生する。このタールミストが脱硝触媒装置7の脱硝触媒、並びに一酸化炭素及びエチレン除去装置8の酸化触媒に付着すると、これらの触媒活性が低下する。
【0040】
触媒に付着したタールミストを除去する方法として、触媒を触媒装置から取り外し、触媒を加熱炉で空焼きすることによってタールを除去することが知られている。しかし、触媒装置から触媒を出し入れするのは煩雑であり、さらに触媒装置を一定期間停止する必要があることから望ましい除去方法とはいえない。
【0041】
一方、発明者は、上記のように発生する微量のタールミストの形態を詳しく調べた結果、触媒に付着しても比較的除去しやすい形態であることを見出した。そこで、発明者は、触媒を触媒装置から取り外す必要がない触媒活性回復手段を創案した。すなわち、本実施形態においては、一酸化炭素及びエチレン除去装置8から排出された浄化ガスの一部をガス加熱装置32によって加熱し、脱硝触媒装置7の上流側、並びに一酸化炭素及びエチレン除去装置8の上流側に戻し、脱硝触媒装置7の脱硝触媒、並びに一酸化炭素及びエチレン除去装置8の酸化触媒を加熱する。これにより、脱硝触媒及び酸化触媒に付着したタールミストを揮発・除去し、これらの触媒活性を回復させる。
【0042】
具体的には、一酸化炭素及びエチレン除去装置8から排出された浄化ガスを熱交換器10に送るダクトを分岐して、浄化ガスの一部を脱硝触媒装置7の上流側、並びに一酸化炭素及びエチレン除去装置8の上流側に戻す循環流路31を設ける。そして、循環流路31に浄化ガスの一部(以下、循環ガスという)を加熱するガス加熱装置32を配設する。ガス加熱装置32により加熱された循環ガスにより、脱硝触媒装置7の脱硝触媒、並びに一酸化炭素及びエチレン除去装置8の酸化触媒を加熱し、これにより、脱硝触媒及び酸化触媒に付着したタールミストを揮発・除去する。
【0043】
ガス加熱装置32としては、電気ヒーター式ガス加熱装置が好ましい。ガス加熱装置として電気ヒーター式ガス加熱装置を用いる場合には、触媒から揮発して循環ガスに含まれるタールを燃焼するために反応用空気を必要に応じて供給し、タールを燃焼する。
【0044】
脱硝触媒及び酸化触媒を昇温する温度は、160〜500℃の温度範囲とすることが好ましく、180〜300℃の温度範囲とすることがさらに好ましい。付着したタールミストを揮発・除去するために、脱硝触媒及び酸化触媒の温度を、集塵装置4の運転温度以上であって、タールミストの露点より高い温度にする必要があるからである。
【0045】
脱硝触媒及び/又は酸化触媒の触媒活性の低下が認められた場合に、加熱した循環ガスを戻す運転を行い、触媒活性を回復させる操作を行う。本実施形態によれば、脱硝触媒装置7並びに一酸化炭素及びエチレン除去装置8の運転中でも、各装置を停止させることなく触媒活性回復操作を行うことができる。もちろん各装置の停止中でも触媒活性回復操作を行うことができる。
【0046】
(実施例)
以下に本発明の実施例を比較例と比較しつつ説明する。燃焼炉から排出される排ガスを作物生産用施設に供給する際に、作物の生育に悪影響を及ぼさないような排ガス中の成分の許容上限濃度を以下の表1に示すように定めた。
【表1】
【比較例】
【0047】
木質チップを燃焼炉で燃焼させる実験を実施した。木質チップは水分30%、3〜10cmの寸法であり、燃焼炉に供給量120kg/hrで供給し燃焼した。
【0048】
排ガスは、燃焼炉と一体となった熱交換器に送られ、約180℃まで冷却されるとともに、水との熱交換により約85℃の温水を得た。 排ガス発生量はおよそ1200Nm3/hrであり、温水として得られる熱量はおよそ280KWであった。
【0049】
冷却された排ガスを、サイクロン式集塵機で除塵した。
【0050】
除塵された排ガス中の成分測定結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0051】
表2のとおり、排ガスに含まれる硫黄酸化物、窒素酸化物、およびエチレンの濃度は、いずれも作物生産用施設に供給できる許容上限濃度以上であり、このまま供給すると作物の成長に悪影響を与える。
【実施例1】
【0052】
比較例と同様にして木質チップを燃焼させ、サイクロン式集塵機で除塵された排ガスについてさらに下記の処理を実施した。
【0053】
サイクロン式集塵機で除塵された約180℃の排ガスに重曹粉末を供給量40g/hrで供給混合し、反応生成物と煤塵をバグフィルタで除塵した。 次いで、排ガスにアンモニアガスを供給量1L/minで供給混合し、脱硝触媒装置に空間速度(SV値)を4100/hrで供給した。 脱硝触媒としてバナジウム、タングステンを含む触媒を用いた。さらに排ガスを酸化触媒装置に空間速度(SV値)を22000/hrで供給した。酸化触媒として白金を含む触媒を用いた。
【0054】
上記処理後の排ガス中の成分測定結果を表3に示す。
【表3】
【0055】
表3のように、硫黄酸化物、窒素酸化物、およびエチレンのいずれも作物生産用施設に供給できる許容上限濃度以下に低減しており、作物の成長に悪影響を与えることなく、作物の成長促進に有効となる二酸化炭素を作物に与えることができる。一酸化炭素の濃度も作業者に悪影響を与えることのない25ppm以下に低減した。浄化処理後の排ガスを希釈して作物生産用施設に供給すれば、作物にも作業者にも悪影響を与えることのない二酸化炭素含有ガスを供給できる。
【符号の説明】
【0056】
1…燃焼炉
2…熱交換器
3…硫黄酸化物除去装置
4…集塵装置
5…窒素酸化物除去装置
6…アンモニア供給装置
7…脱硝触媒装置
8…一酸化炭素及びエチレン除去装置
9…浄化ガス供給装置
10…熱交換器
12…温水配管
13…ダクト
21…ガス成分濃度計
22…制御装置
23…循環流路
24…調整弁
31…循環流路(触媒活性回復手段)
32…ガス加熱装置(触媒活性回復手段)
図1
図2
図3