【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
図7Aは、本実施形態に示す電気泳動条件の一例を示す概略図である。以下では、
図7Aを参照して説明する。
(1)分離用の液体の調製
分散媒として、水に、非イオン性界面活性剤であるBrij S100(以下、「界面活性剤」と記す。)を1wt%溶解した水溶液を準備した。この分散媒に対して、単層カーボンナノチューブ混合物(eDIPS単層カーボンナノチューブ)を投入した。投入した液体に対して、ホーン型超音波破砕機(出力約300W、30分間)による超音波分散処理を行った。その後、超遠心分離操作を行い、上澄み50%を分散液(以下、CNT分散液と記す)として得た。
また、水に非イオン性界面活性剤であるBrij S100を2wt%溶解した水溶液(以下、Brij 2wt%水溶液と記す)と、水を用意した。
液体の比重は、Brij 2wt%水溶液が最も大きく、次いでCNT分散液であり、水の比重が最も小さかった。
【0083】
(2)液体の注入
調製した液体を、
図7Aに示す分離装置300の電気泳動槽301に注入した。まず、Brij 2wt%水溶液を電気泳動槽301内に注いだ。注いだBrij 2wt%水溶液によりBrij 2wt%層306が形成された。次いで、Brij 2wt%層306の上にCNT分散液305層が積層するように、CNT分散液を分離装置300の電気泳動槽301に静かに注入した。最後に、CNT分散液305層の上に水層304が積層するように、水を分離装置300の電気泳動槽301に静かに注入した。以上により、電気泳動槽301内の液体に、重力方向下から上に向かって減少する比重勾配を形成した。
【0084】
(3)分離操作
分離装置300の下側の電極303(陽極)と上側の電極302(陰極)間に直流電圧(30V)を印加した。
電圧印加終了後、電気泳動槽301における層の形成について確認を行った。分離操作前後の電気泳動槽101の写真を
図8A、
図8Bに示す。終状態では、金属型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(501、601)と透明な領域(502、602)、半導体型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(503、603)の3層を形成した状態となった。
【0085】
電圧印加終了後、電気泳動槽301の上部より約1mL毎に7フラクションとなるよう回収した。各フラクションは電気泳動槽301の陰極側(上部)から#1、#2、…、#7とした。得られたフラクションについて、後述する屈折率の測定を行なった。
【0086】
[実施例1の比較例]
図7Bは、
図7Aと比較する電気泳動条件を示す概略図である。以下では、
図7Aを参照して説明する。
図7Bに示す分離装置400の電気泳動槽301に、実施例1と同じCNT分散液のみを注入した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0087】
実施例1及びその比較例について電圧印加による、電気泳動槽301中の液体の変化を確認した。分離操作前後の分離装置の写真を
図8A、
図8Bに示す。
図8Aは実施例1の分離操作前後の電気泳動槽301の写真であり、
図8Bは実施例1の比較例の分離操作前後の電気泳動槽301の写真である。
図8A、
図8B、いずれの場合も、分離操作の終状態では、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(501、601)と透明な領域(502、602)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(503、603)の3層を形成した状態となった。
図8A、
図8Bによれば、実施例1では、その比較例に比べて、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(501)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(503)が、それぞれ上側の電極302(陰極)及び下側の電極303(陽極)の近傍に片寄って形成された。また、それぞれの濃度も高くなった。
【0088】
CNT分散液(Pristine)、陽極側で回収した液体(semicon)、陰極側で回収した液体(metal)に対して、吸光度スペクトル分析と顕微Ramanスペクトル分析とを行った。分析した結果から、実施例1及びその比較例について、金属型・半導体型の分離傾向について評価した。
【0089】
吸収スペクトルの結果を、
図9A(実施例1)、
図9B(実施例1の比較例)に示す。図中のSは半導体型の単層カーボンナノチューブ由来の吸収ピークであり、図中のMは金属型の単層カーボンナノチューブ由来の吸収ピークである。半導体型及び金属型の単層カーボンナノチューブ由来のピークにおける面積から、半導体型及び金属型の単層カーボンナノチューブの含有率を計算することができる。
図9A、
図9Bから、実施例1のほうが比較例1よりも高純度に分離できたことが分かった。
【0090】
Ramanスペクトルの結果を、
図10A(実施例1)、
図10B(実施例1の比較例)に示す。
図10A、
図10Bおいて、左側のグラフは波数が100〜300cm
−1の範囲の結果を、右側のグラフは波数が1200〜1680cm
−1の範囲の結果を、それぞれ表わしている。励起光としては633nmを用いた。
RBM領域のRamanスペクトルは、ナノチューブの直径が振動するモードであり、100−300cm
−1の低波数領域にあらわれる。
G−bandのRamanスペクトルは、1590cm
−1付近に観測され、グラファイトの物質に共通してあらわれるスペクトルである。グラファイトの場合には、1585cm
−1付近に観測されるが、カーボンナノチューブの場合にはG−bandが2つに分裂し、G+とG−に分裂する。したがって、G−bandが2つのピークをもつように見えればナノチューブがあると判断できる。また、金属型ナノチューブの場合には、半導体型ナノチューブに比べて、G−の振動数が1550cm
−1と大きくずれる。
D−bandのRamanスペクトルは、1350cm
−1付近に観測され、欠陥に起因するスペクトルである。
ゆえに、
図10A、
図10Bの左側のグラフからは、RBM(ラジアルブリージングモード)領域のRamanスペクトルが、
図10A、
図10Bの右側のグラフからは、G−bandのRamanスペクトル、及びD−bandのRamanスペクトルが、それぞれ読み取ることができる。
【0091】
図10A(実施例1)と
図10B(実施例1の比較例)から、実施例1の方が比較例に比べて、陰極側(metal)及び陽極側(semicon)のピークが何れも高いことが分かった。このことは、実施例1の方が比較例よりも金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブを高純度に分離できたことを示す。
【0092】
分離操作の終状態において、電気泳動槽301の上部より約1mL毎に7フラクションとなるよう回収した。各フラクションは電気泳動槽301の陰極側(上部)から#1、#2、…、#7とした。
実施例1及びその比較例における分離後試料(各フラクション)について、屈折率分布と泳動電流を評価した。
図11(A)、
図11(B)は順に、実施例1における分離後試料の屈折率分布、泳動電流を示すグラフである。
図12(A)、
図12(B)は順に、実施例1の比較例における分離後試料の屈折率分布、泳動電流を示すグラフである。
【0093】
図11(A)より、実施例1においては、フラクション#1からフラクション#7にかけて屈折率から割り出される界面活性剤の濃度について0wt%から2wt%まで濃度勾配が認められる。これに対して、
図12(A)より、比較例においては、濃度勾配が殆ど認められない。
【0094】
以上より、実施例1においては、対流が抑制されて金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離が安定的に行なわれているのに対し、比較例においては、対流が発生して分散液が全体的に撹拌され、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離が安定的に行なわれなかったことが推察される。すなわち、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブが安定的に分離されないとき(比較例)には、分離に有効な界面活性剤の濃度勾配が形成されていないことになる。
【0095】
また、
図11(B)より、実施例1においては、泳動電流が時間の経過とともに安定的に漸減していることが分かる。これに対して、
図12(B)より、比較例においては、泳動電流の電流値が実施例1[
図11(B)]に比較して高く、かつ不安定である。このことから、実施例1においては、比較例に比べて電気泳動槽301内の対流が抑制されていることが推察される。
【0096】
[実施例2]
(1)分離用の液体の調製
分散媒として、水に、非イオン性界面活性剤を0.25wt%溶解した水溶液を準備した。この分散媒に対して、単層カーボンナノチューブ混合物(eDIPS単層カーボンナノチューブ)を分散させた。分散させた液体に対して、ホーン型超音波破砕機(出力約300W、30分間)による超音波分散処理を行った。その後、超遠心分離操作を行い、上澄み50%を分散液(以下、CNT分散液Brij 0.25wt%と記す)として得た。
同様に、水に界面活性剤を1.5wt%溶解した分散媒に単層カーボンナノチューブ混合物を分散させた分散液(以下、CNT分散液Brij 1.5wt%と記す)を調製した。CNT分散液Brij 1.5wt%の方が、CNT分散液Brij 0.25wt%よりも比重が大きい。
【0097】
(2)分散液の注入
調製した分散液を、
図13Aに示す分離装置300Bの電気泳動槽301に注入した。まず、CNT分散液Brij 1.5wt%を電気泳動槽301内に注いだ。注いだCNT分散液Brij 1.5wt%によりCNT分散液Brij 1.5wt%層306Bが形成された。次いで、CNT分散液Brij 1.5wt%層306Bの上にCNT分散液Brij 0.25wt%層305Bが積層するように、CNT分散液Brij 0.25wt%を分離装置300Bの電気泳動槽301に静かに注入した。以上により、電気泳動槽301内の液体に、重力方向下から上に向かって減少する比重勾配を形成した。
【0098】
(3)分離操作
分離装置300Bの下側の電極303(陽極)と上側の電極302(陰極)間に直流電圧(50V)を印加した。同様に、分離装置400Bにおいても直流電圧(50V)を印加した。
【0099】
[実施例2の比較例]
分散媒として、水に界面活性剤を1wt%溶解した水溶液を準備した。準備した分散媒に、単層カーボンナノチューブ混合物を分散させた分散液(以下、CNT分散液Brij 1wt%と記す)を調製した。
図13Bに示すように、電気泳動槽301にCNT分散液Brij 1wt%のみを注入した。それ以外は、実施例2と同様にした。
【0100】
実施例2及びその比較例について電圧印加による、電気泳動槽301中の液体の変化を確認した。
図14Aに、実施例2の分離操作前後の分離装置の写真を示す。
図14Bに、実施例2の比較例の分離操作前後の分離装置の写真を示す。分離操作の終状態では、電気泳動槽301中の液体が、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(501B、601B)と透明な領域(502B、602B)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(503B、603B)の3層を形成した。
図14A、
図14Bより、実施例2は比較例に比べて、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(501B)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(503B)が、それぞれ上側の電極302(陰極)側及び下側の電極303(陽極)側に片寄って形成され、それぞれの濃度も高くなっていることが分かった。
【0101】
分離操作の終状態において、電気泳動槽301の上部より約1mL毎に10フラクションとなるよう回収した。各フラクションは電気泳動槽301の陰極側(上部)から#1、#2、…、#10とした。
実施例2及びその比較例における分離後試料(各フラクション)について、屈折率分布と泳動電流を評価した。
図15(A)、
図15(B)は順に、実施例2における分離後試料の屈折率分布、泳動電流を示すグラフである。
図16(A)、
図16(B)は順に、実施例2の比較例における分離後試料の屈折率分布、泳動電流を示すグラフである。
【0102】
図15(A)より、実施例2においては、フラクション#1からフラクション#10にかけて屈折率から割り出される界面活性剤の濃度について0.5wt%から1.5wt%まで濃度勾配が認められる。これに対して、
図16(A)より、比較例においては、濃度勾配が殆ど認められない。
以上のことから、実施例2においては、対流が抑制されて金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が比較的安定的に行なわれていることが推察される。
【0103】
また、
図15(B)より、実施例2においては、泳動電流が時間の経過とともに安定的に漸減することが分かった。これに対して、
図16(B)より、比較例では、泳動電流の電流値が実施例2に比較して高く、かつ漸減が認められない。このことから、実施例2では、比較例に比べて電気泳動槽301内の対流が抑制されていることが推察される。
【0104】
[実施例3]
(1)分離用の液体の調製
分散媒として、水に界面活性剤を1wt%溶解した水溶液を準備した。準備した分散液に、直径が1.3nmである単層カーボンナノチューブ混合物(eDIPS単層カーボンナノチューブ)を分散させた分散液を調製した。
【0105】
(2)液体の注入
分離装置として、
図5に示すU字形状に形成され両端が上方に開口したU字型構造の分離装置1Cを用いた。分離装置1Cの電気泳動槽10Aに、液体を注入した。まず、電気泳動槽10Aの開口部10Abから水を注いだ。これにより、電極30から開口部10Abまでを水で満たした。次に、電気泳動槽10Aの開口部10Aaから上記(1)で調製した分散液を、ピペットを用いて、分散液を電気泳動槽10Aの底部に注いだ。そして、電気泳動槽10Aの開口部10Aaから静かに水を注入し、分散液の上に水を積層させた。
【0106】
(3)分離操作
分離装置1Cの電極30(陽極)と電極20(陰極)間に直流電圧を印加した。後、電気泳動槽10Aにおける層の形成について確認を行った。分離操作前後の電気泳動槽10Aの写真を
図17に示す。分離操作の終状態では、電極30(陽極)から底面付近まで水の領域701、電極20(陰極)の直下付近に金属型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域702が形成され、その下部には底面付近まで透明な領域703があり、底面付近に半導体型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域704を形成していた。領域702と領域704においてそれぞれ金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブが分離されたことを確認した。
【0107】
[実施例4]
(1)分離用の液体の調製
界面活性剤を0.5wt%溶解した水溶液に単層カーボンナノチューブ混合物を分散させた分散液を準備した(以下、CNT分散液Brij 0.5wt%と記す)。次に、水に非イオン性界面活性剤を2wt%溶解した水溶液(以下、Brij 2wt%水溶液と記す。)と、水を用意した。
【0108】
(2)液体の注入
準備した液体を、
図18Aに示す分離装置300Cの電気泳動槽301に注入した。まず、Brij 2wt%水溶液を電気泳動槽301内に注いだ。これにより、電気泳動槽301内に比重の重いBrij 2wt%層306Cが形成された。次に、CNT分散液Brij 0.5wt%を静かに注いだ。このとき、Brij 2wt%水溶液とCNT分散液Brij 0.5wt%とが拡散されないように、CNT分散液Brij 0.5wt%をBrij 2wt%水溶液の液面付近で静かに注いだ。Brij 2wt%層306Cの上にCNT分散液Brij 0.5wt%層305Cが積層した。そして、水を静かに注入した。CNT分散液Brij 0.5wt%層305Cの上に水の層304Cが積層した。
【0109】
(3)分離操作
分離装置300Cの下側の電極302(陰極)と上側の電極303(陽極)間に直流電圧(50V)を印加した。同様に、後述する比較例の分離装置400C(
図18B)においても直流電圧(50V)を印加した。すなわち、直流電界が重力方向における上方から下方に向けて印加される。
【0110】
[実施例4の比較例]
図18Bに示すように、分離用の液体として界面活性剤を1wt%溶解した水溶液に単層カーボンナノチューブ(eDIPS単層カーボンナノチューブ)を分散させた分散液(CNT)のみを用いた以外は実施形態4と同様に行った。
【0111】
電圧印加終了後、電気泳動槽301における層の形成について確認を行った。実施例4及びその比較例における分離操作前後の電気泳動槽301の写真を
図19A、
図19Bにそれぞれ示す。分離操作の終状態では、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(501C、601C)と透明な領域(502C、602C)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(503C、603C)の3層を形成した状態となった。
図19A、
図19Bによれば、実施例4においては、比較例に比べて、金属型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(501C)、半導体型の単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(503C)が、それぞれ下側の電極302(陰極)及び上側の電極303(陽極)の近傍に片寄って形成され、それぞれの濃度も高くなっている。
【0112】
電圧印加終了後、電気泳動槽301の上部より約1mL毎に11フラクションとなるよう回収した。各フラクションは電気泳動槽301の陽極側(上部)から#1、#2、…、#11とした。
実施例4及びその比較例における分離後試料(各フラクション)について、屈折率分布と泳動電流を評価した。
図20(A)、
図20(B)は順に、実施例4における分離後試料の屈折率分布、泳動電流を示すグラフである。
図21(A)、
図21(B)は順に、実施例4の比較例における分離後試料の屈折率分布、泳動電流を示すグラフである。
【0113】
図20(A)より、実施例4においては、フラクション#1からフラクション#11にかけて屈折率から割り出される界面活性剤の濃度について0.25wt%から1.5wt%まで濃度勾配が認められる。これに対して、
図21(A)より、比較例においては、濃度勾配が殆ど認められない。
これより、直流電界が重力方向における上方から下方に向けて印加される状態であっても、実施例4では、電気泳動槽内の対流が抑制されて金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が安定的に行なわれたことが推察される。一方、比較例では、対流が発生して分散液が全体的に撹拌され、金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が安定的に行なわれなかったことが推察される。すなわち、金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブが安定的に分離されないとき(比較例)には、分離に有効な界面活性剤の濃度勾配が形成されていないことになる。
【0114】
また、
図20(B)より、実施例4においては、泳動電流が時間の経過とともに安定的に漸減することが分かった。これに対して、
図21(B)より、比較例では、泳動電流の電流値が実施例4に比較して高く、かつ不安定である。このことから、実施例4では、比較例に比べて電気泳動槽301内の対流が抑制されていることが推察される。
【0115】
図22Aは、
図18Aの例における分離後試料の吸収スペクトルである。
図22Aには、回収したフラクション#3(F03)、#10(F10)、分離前の液体(Pristine)の測定結果を示した。
図22Bは、310nm、640nm、937nm励起時における各フラクション#1、・・・、#11についての吸収スペクトルを示す。
【0116】
図22A中のSは半導体型の単層カーボンナノチューブ由来の吸収ピークであり、Mは金属型の単層カーボンナノチューブ由来の吸収ピークである。半導体型及び金属型の単層カーボンナノチューブ由来のピークにおける面積から、各フラクションにおける半導体型及び金属型の単層カーボンナノチューブの含有率を計算することが可能である。
図22Bから、陰極側(metal)におけるフラクション#10においては金属型の単層カーボンナノチューブの吸収率が高く、陽極側(semicon)におけるフラクション#3においては半導体型の単層カーボンナノチューブの吸収率が高く分離が高純度化されていることが確認できる。
【0117】
図23は、電気泳動時の経過時間に対する分散液の界面活性剤の密度分布の変化を示すグラフである。非イオン性界面活性剤は、負極性の電荷を有している。このため、
図23に示すように、電気泳動槽301において直流電圧を印加すると、その電界によって界面活性剤が電気泳動する。
【0118】
従って、重力方向における下方を陽極、上方を陰極とした場合、界面活性剤が陽極に向かって泳動する。この結果、時間の経過とともに重力方向における下方から上方に向かって濃度勾配が形成され、金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が促進されていた。本実施例においては、電気泳動槽301内において、予め重力方向における下方から上方に向かって濃度勾配を形成するように分散液を積層しているために、直流電圧の印加方向によらず金属型の単層カーボンナノチューブと半導体型の単層カーボンナノチューブの分離が促進される結果となった。
【0119】
[実施例5]
「単層カーボンナノチューブ分散液の調製」
重水に、非イオン性界面活性剤を1wt%溶解した溶液AAを調製した。
溶液AAに対して、単層カーボンナノチューブの混合物(eDIPS(enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis:改良直噴熱分解合成)単層カーボンナノチューブ、平均直径:1.3nm)を投入した。
単層カーボンナノチューブの混合物を投入した溶液AAに対して、ホーン型超音波破砕機(商品名:Digital Sonifier 450、ブランソン社製)により、出力40Wで20分間、超音波分散処理を行い、単層カーボンナノチューブの混合物を分散させた。その後、超遠心機(商品名:CS100GX、日立工機社製)により、250000×g、10℃にて1時間、超遠心分離操作を行った。そして、上澄み80%を分取し、単層カーボンナノチューブの含有量が10μg/mL、界面活性剤の含有量が1.0wt%の単層カーボンナノチューブ分散液を得た。
また、重水に非イオン性界面活性剤を2wt%溶解した重水溶液(以下、Brij 2wt%重水溶液と記す。)と、重水を用意した。
【0120】
「単層カーボンナノチューブ分散液の注入」
上述のように調製した単層カーボンナノチューブ分散液、重水およびBrij 2wt%重水溶液を、
図6に示す分離装置100の電気泳動槽101に注入した。電気泳動槽101に注入した単層カーボンナノチューブ分散液、重水およびBrij 2wt%重水溶液全体の高さ(電気泳動槽101の底面から液表面までの高さ)を25cmとした。
第1の電極102は、重水のみに接し、第2の電極103は、Brij 2wt%重水溶液のみに接するように、単層カーボンナノチューブ分散液、重水およびBrij 2wt%重水溶液を電気泳動槽101に注入した。
【0121】
「分離操作」
分離装置100の第1の電極102(陰極)と第2の電極103(陽極)に120Vの直流電圧を印加した。所定の時間が経過し、分離が充分に進行したところで電圧印加を停止した。
【0122】
「回収操作」
電圧印加終了後、電気泳動槽101の上部より約6mL毎に、15フラクションとなるように、単層カーボンナノチューブ分散液を回収した。各フラクションは電気泳動槽101の第2の電極103側(下部)からF1、F2、・・・、F15とした。
【0123】
「評価」
(単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度測定)
分光光度計(商品名:紫外可視近赤外分光光度計 UV−3600、島津製作所社製)を用いて、フラクションF1、フラクションF4、フラクションF8、フラクションF11およびフラクションF14から回収した単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度を測定した。
結果を
図24に示す。
図24において、縦軸は単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度、横軸は波長を示す。
【0124】
図24の結果から、フラクションF1およびF14から回収した単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度スペクトルには、波長643nmおよび波長937nmにおけるピークが極めて小さかった。従って、フラクションF1およびF14には、金属型単層カーボンナノチューブおよび半導体型単層カーボンナノチューブがほとんど含まれないことが確認された。
フラクションF4およびフラクションF8から回収した単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度スペクトルには、波長643nmにおけるピークが極めて小さく、波長937nmにおける大きなピークが観測された。従って、フラクションF4およびフラクションF8には、金属型単層カーボンナノチューブが含まれず、半導体型単層カーボンナノチューブが多量に含まれることが確認された。
【0125】
フラクションF11から回収した単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度スペクトルには、波長937nmにおけるピークが小さく、波長643nmにおける大きなピークが観測された。従って、フラクションF11には、半導体型単層カーボンナノチューブがほとんど含まれず、金属型単層カーボンナノチューブが多量に含まれることが確認された。
【0126】
[実施例6]
実施例6では、重水に、非イオン性界面活性剤を1wt%溶解した溶液AAを調製した。
溶液AAに対して、単層カーボンナノチューブの混合物(eDIPS(enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis:改良直噴熱分解合成)単層カーボンナノチューブ、平均直径:1.0nm)を投入した。
単層カーボンナノチューブの混合物を投入した溶液AAに対して、ホーン型超音波破砕機(商品名:Digital Sonifier 450、ブランソン社製)により、出力40Wで20分間、超音波分散処理を行い、単層カーボンナノチューブの混合物を分散した。その後、超遠心機(商品名:CS100GXII、日立工機社製)により、250000×g、10℃にて1時間、超遠心分離操作を行った。そして、上澄み80%を分取し、単層カーボンナノチューブの含有量が20μg/mL、界面活性剤の含有量が1.0wt%の単層カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0127】
次に、重水に、非イオン性界面活性剤を2wt%溶解した溶液BBを調製した。
分離装置の底部の注入/回収口より、100mLの容積をもつ電気泳動槽に、ペリスタポンプを用いて15mLの重水を静かに注入した。
次いで、同様に、調製した単層カーボンナノチューブ分散液を、70mL静かに注入した。
さらに、同様に、上記で調整した溶液BBを10mL静かに注入した。
この結果、
図25に示すように、第1の電極(陰極)に接する領域は重水、第2の電極(陽極)に接する領域は溶液BB(2wt%重水溶液)、中間の領域は単層カーボンナノチューブ分散液と、3層の溶液の積層構造が形成された(第1の電極と第2の電極は
図25では不鮮明で判別しにくい。)。
【0128】
次に、実施例5と同様に、第1の電極(陰極)と第2の電極(陽極)に120Vの直流電圧を印加した。所定の時間が経過すると、
図26に示すように、単層カーボンナノチューブは、電気泳動槽内で、上下2つの領域に分離し、間にはほとんど色を示さない中間層が形成された。
第1の電極と第2の電極への直流電圧の印加を止めた後に、分離装置の底部の注入/回収口より、ペリスタポンプを用い静かに電気泳動槽内部の溶液を回収した。溶液は、回収した順に約6mL毎に、15フラクションに分けられた。すなわち、各フラクションは電気泳動槽の下部から順にF1、F2、・・・、F15とした。
【0129】
(単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度測定)
分光光度計(商品名:紫外可視近赤外分光光度計 UV−3600、島津製作所社製)を用いて、フラクションF2、フラクションF12から回収した単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度を測定した。
結果を
図27および
図28に示す。
【0130】
図27において、縦軸は単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度、横軸は波長を示す。また、
図27において、波長503nmにおけるピークは金属型単層カーボンナノチューブに起因するものであり、波長725nmにおけるピークは半導体型単層カーボンナノチューブに起因するものである。
【0131】
図27の結果から、フラクションF2から回収した単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度スペクトルには、波長503nmにおけるピークが極めて小さく、波長725nmにおける大きなピークが観測された。従って、フラクションF2には、金属型単層カーボンナノチューブが含まれず、半導体型単層カーボンナノチューブが多量に含まれることが確認された。
【0132】
フラクションF12から回収した単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度スペクトルには、波長725nmにおけるピークが小さく、波長503nmにおける大きなピークが観測された。従って、フラクションF12には、半導体型単層カーボンナノチューブがほとんど含まれず、金属型単層カーボンナノチューブが多量に含まれることが確認された。
【0133】
図28において、左側の縦軸は波長310nmにおける単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度、右側の縦軸は波長725nmにおける単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度を波長503nmにおける単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度で除した値、横軸はフラクションを示す。すなわち、
図28における右側の縦軸は、半導体型単層カーボンナノチューブの純度に相当する。また、波長310nmにおける単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度は、単層カーボンナノチューブの濃度に相当する。
【0134】
図28の結果から、波長310nmにおける単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度は、フラクションF2〜F6とフラクションF10〜F14において大きくなっていることから、単層カーボンナノチューブが、分離槽内で2つの領域に分離していることが分かった。さらに、フラクションF2〜F6では、波長725nmにおける単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度を波長503nmにおける単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度で除した値が大きくなっていることから、高純度の半導体型単層カーボンナノチューブであることが分かった。フラクションF10〜F14においては、波長725nmにおける単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度を波長503nmにおける単層カーボンナノチューブ分散液の吸光度で除した値が小さくなっていることから、高純度の金属型単層カーボンナノチューブであることが分かった。このように、高純度な金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離ができていることが確認された。
【0135】
フラクションF3とF4の回収した単層カーボンナノチューブ分散液、および、分離操作前の単層カーボンナノチューブ分散液(未分離)について、顕微ラマン分光装置(商品名:HR−800、ホリバ社製)を用いて測定したRadial Breathing Mode(RBM)領域のRamanスペクトルを
図29に示す。
図29において、縦軸は規格化した強度、横軸は波数を示し、測定時の励起波長は514nmである。
図29において、波数140〜220(cm
−1)の領域のピークは、半導体型単層カーボンナノチューブに由来するものであり、波数220〜300(cm
−1)の領域のピークは、金属型単層カーボンナノチューブに由来するものである。分離操作前の単層カーボンナノチューブ分散液(未分離)では、金属型単層カーボンナノチューブが多量に含まれているが、フラクションF3とF4では、金属型単層カーボンナノチューブに由来するピークは非常に小さく、かつ、半導体型単層カーボンナノチューブに由来するピークが大きくなっていることが分かった。このピークを詳細に解析することで、フラクションF3とF4の半導体型単層カーボンナノチューブの純度は約98%であると見積もられた。
本発明のナノカーボンの分離法により、高純度の半導体型単層カーボンナノチューブが得られた。
【0136】
以上、本発明の実施例について、
図6に示した分離装置100において、上部に設けられた第1の電極102を陰極、下部に設けられた第2の電極103を陽極とし、I字型構造を有する電気泳動槽101内で、上向きの電界を与えた場合の実施例を説明した。しかし、本発明のナノカーボン分離方法はこれに限定されない。分離装置100にあっては、第1の電極102が陽極、第2の電極103が陰極であってもよい。
【0137】
[参考例1]
参考例1では、水に、非イオン性界面活性剤を溶解して、界面活性剤の濃度を0wt%、1wt%、2wt%、3wt%、4wt%、5wt%、6wt%、7wt%、8wt%、9wt%、10wt%とした溶液を調製した。
それぞれの濃度の界面活性剤の溶液の密度を、密度比重計(商品名:DA−650、京都電子工業社製)を用いて測定した。
界面活性剤の濃度と溶液の密度との関係を
図30に示す。
図28の結果から、界面活性剤の濃度と溶液の密度とが比例関係にあることが確認された。
図30に示すグラフを、後述する実施例7(実験例1)〜実施例26(実験例20)にて、溶液の比重を算出するための検量線として用いた。
【0138】
[参考例2]
参考例2では、重水に、非イオン性界面活性剤を溶解して、界面活性剤の濃度を0wt%、1wt%、2wt%、3wt%、4wt%、5wt%、6wt%、7wt%、8wt%、9wt%、10wt%とした溶液を調製した。
それぞれの濃度の界面活性剤の溶液の密度を、密度比重計(商品名:DA−650、京都電子工業社製)を用いて測定した。
界面活性剤の濃度と溶液の密度との関係を
図31に示す。
図31の結果から、界面活性剤の濃度と溶液の密度とが比例関係にあることが確認された。
図31に示すグラフを、後述する実施例7(実験例1)〜実施例26(実験例20)にて、溶液の比重を算出するための検量線として用いた。
【0139】
[実施例7(実験例1)]
以下では、
図6を参照して説明する。
(1)分離用の液体の調製
重水に、非イオン性界面活性剤を1wt%溶解した重水溶液を準備した。この分散媒に対して、単層カーボンナノチューブ混合物(eDIPS単層カーボンナノチューブ)を投入した。投入した液体に対して、ホーン型超音波破砕機(出力約300W、30分間)による超音波分散処理を行った。その後、超遠心分離操作を行い、上澄み50%をCNT分散液として得た。
また、重水に非イオン性界面活性剤を2wt%溶解した重水溶液(以下、Brij 2wt%重水溶液と記す。)と、重水を用意した。
CNT分散液、重水およびBrij 2wt%重水溶液の比重を、
図31に示すグラフを用いて算出した。
【0140】
(2)液体の注入
CNT分散液、重水およびBrij 2wt%重水溶液を、
図6に示す分離装置100の電気泳動槽101に注入した。まず、Brij 2wt%重水溶液を電気泳動槽101内に注いだ。注いだBrij 2wt%重水溶液によりBrij 2wt%層220A(電気泳動槽101内における下層溶液220からなる層)が形成された。次いで、Brij 2wt%層220Aの上にCNT分散液層230A(電気泳動槽101内における中間層溶液230からなる層)が積層するように、CNT分散液を分離装置100の電気泳動槽101に静かに注入した。最後に、CNT分散液305層の上に水層210A(電気泳動槽101内における上層溶液210からなる層)が積層するように、水を分離装置100の電気泳動槽101に静かに注入した。以上により、電気泳動槽101内の液体に、重力方向下から上に向かって減少する比重勾配を形成した。
【0141】
(3)分離操作
分離装置100の下側の第2の電極103(陽極)と上側の第1の電極102(陰極)間に直流電圧(120V)を印加した。
電圧印加終了後、電気泳動槽101における層の形成について確認を行った。分離操作が終了した状態では、金属型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(電気泳動槽101内における上側の領域)と透明な領域(電気泳動槽101内における中間の領域)、半導体型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域(電気泳動槽101内における下側の領域)の3層を形成した状態となった。
【0142】
(4)半導体型単層カーボンナノチューブの純度算出
実施例6と同様にして、半導体型単層カーボンナノチューブが多く含まれる領域から回収したCNT分散液について、顕微ラマン分光装置(商品名:HR−800、ホリバ社製)を用いて、Radial Breathing Mode(RBM)領域のRamanスペクトルを測定した。得られたRamanスペクトルのピークを詳細に解析することで、半導体型単層カーボンナノチューブの純度は97%を超えると見積もられた。
【0143】
分離操作前のCNT分散液、電気泳動槽101内における下層を形成する溶液(表1において、「下層溶液」と記す。)、および電気泳動槽101内における上層を形成する溶液(表1において、「上層溶液」と記す。)の組成、比重を表1に示す。また、分離操作における印加電圧および電界の向きを表1に示す。なお、表1において、電界の向きが「↑」で表わされる場合、電界の向きが電気泳動槽101の下方から上方へ向かうことを示し、電界の向きが「↓」で表わされる場合、電界の向きが電気泳動槽101の上方から下方へ向かうことを示す。また、半導体型単層カーボンナノチューブの純度を表1に示す。
表1に示されるCNT分散液の比重はそれぞれ、分散している単層カーボンナノチューブを含むBrij水溶液とBrij重水溶液の比重である。
【0144】
[実施例8(実験例2)〜実施例26(実験例20)]
分離操作前のCNT分散液、電気泳動槽301内における下層溶液、および電気泳動槽301内における上層溶液の組成、比重、並びに、分離操作における印加電圧および電界の向きを表1に示す通りとしたこと以外は実施例7(実験例1)と同様にして、分離操作を行った。
また、実施例6と同様にして、半導体型単層カーボンナノチューブの純度を算出した。なお、実施例8(実験例2)〜実施例26(実験例20)において、分散媒として水を用いる場合には、CNT分散液、水およびBrij水溶液の比重を、
図30に示すグラフを用いて算出した。また、分散媒として重水を用いる場合には、CNT分散液、重水およびBrij重水溶液の比重を、
図31に示すグラフを用いて算出した。
結果を表1に示す。
【0145】
【表1】
【0146】
表1の結果から、実施例7(実験例1)〜実施例26(実験例20)では、半導体型単層カーボンナノチューブの純度が90%を超えることが確認された。
【0147】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。