(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記温度測定装置は、前記電場発生装置を停止した状態で取得した前記パラメータに対する、前記電場発生装置を稼働した状態で取得した前記パラメータの比に基づき、対応する各グリッドの温度もしくは温度変化を推定する、
請求項1に記載の患部加熱システム。
前記電場発生装置による前記電場の発生が実施されている間は、前記温度測定装置による超音波の発生及び超音波エコーの受波を行わず、前記電場発生装置による前記電場の発生が停止されている間に、前記温度測定装置による超音波の発生及び超音波エコーの受波を行う、請求項1又は2に記載の患部加熱システム。
前記電場発生装置による前記電場の発生が実施されている間は、前記温度測定装置による温度情報の算出を行わず、前記電場発生装置による前記電場の発生が停止されている間に、前記温度測定装置による超音波の発生及び超音波エコーの受波を行う、請求項5又は6に記載の腫瘍診断システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ハイパーサーミアやオンコサーミアにより治療を行う場合には、悪性腫瘍を約42.5度まで加熱する必要があるため、悪性腫瘍の温度を測定する必要がある。現実的には,患部周辺を切開しNTCサーミスタなどの測温抵抗体温度センサや熱電対温度センサプローブを埋め込み温度を測定する方法が考えられる。しかしながら、センサプローブを埋め込んでしまうと、非侵襲的な治療法という温熱治療の特徴が失われてしまう。また、温度測定装置を生体内に埋め込んだ状態で生体に電磁波を照射したり、強磁場や高周波電流を印加すると、温度測定装置が発熱してしまい、悪性腫瘍以外の細胞も破壊してしまうおそれがある。
【0007】
また、発明者らは、オンコサーミア方式で生体に高周波電流を流すと悪性腫瘍が選択的に加熱される特徴を活かし、生体内の温度を測定することで悪性腫瘍の有無を判定する腫瘍診断システムを開発している。しかしながら、このような腫瘍診断システムにおいても、同様な問題が生じてしまう。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、高周波電流を人体に印加することで非侵襲的なハイパーサーミアやオンコサーミアを施術することができ、温度測定装置による悪性腫瘍以外の細胞の破壊を防止できる患部加熱システム、及びオンコサーミアの原理を用いた腫瘍診断システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の患部加熱システムは、体内の患部を加熱治療するための患部加熱システムであって、高周波電源、及び、患部を挟むように配置された一対の電極を有し、高周波電源により一対の電極に電圧を印加することにより患部を含む領域に電場を発生させる電場発生装置と、患部に向けて超音波を発生する送波器、体内からの超音波エコーを受波する受波器、及び、受波器が受波したエコーに基づき
、患部を通る平面もしくは体積における各グリッドに対応するエコー波を取得し、各グリッドのエコー波の強度の頻度分布データに分布関数を適用することにより各グリッドのパラメータを取得し、取得した各グリッドのパラメータに基づき対応する各グリッドの生体内の温度情報(温度もしくは温度変化)を算出する温度算出回路を有する温度測定装置と、温度測定装置が測定した温度情報に基づき、患部が所定の温度になるように電場発生装置の高周波電源が印加する電圧を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成の本発明によれば、温度測定装置が受波器により超音波エコーを受波し、この受波したエコーに基づき生体内の温度情報を算出し、これに基づき電場発生装置の高周波電源が印加する電圧を制御するため、温度測定装置を患者の体内に配置するための手術等を行う必要がなくなるとともに、温度測定装置が高温になり悪性腫瘍以外の細胞を破壊するのを防止できる。
【0011】
上記構成の本発明によれば、患部の断面もしくは体積内の全体の温度に基づき、電場発生装置を制御することができ、患部全体の治療を確実に所定の温度に加熱することができる。
【0012】
オンコサーミアにより癌治療を行う際に悪性腫瘍Cを42.5度まで加熱するが、通常体温は36度程度であるため、わずかな温度の変化を検知する必要がある。これに対して、上記構成の本発明によれば、わずかな温度の変化を検知することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、温度測定装置は、電場発生装置を停止した状態で取得したパラメータに対する、電場発生装置を稼働した状態で取得したパラメータの比に基づき、対応する各グリッドの温度もしくは温度変化を推定する。
上記構成の本発明によれば、より正確に患部の温度を推定することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、電場発生装置による電場の発生が実施されている間は、温度測定装置による超音波の発生及び超音波エコーの受波を行わず、電場発生装置による電場の発生が停止されている間に、温度測定装置による超音波の発生及び超音波エコーの受波を行う。
【0016】
送波器及び受波器は、超音波の発振及び受信に圧電素子を用いており、構造的にキャパシタンスを有するため、周囲で高周波電磁波が生じているような状況では、高周波電磁波による雑音が混入し正確な測定を行うことができない。これに対して、上記構成の本発明によれば、電場発生装置による電場の発生が停止されている間に、温度測定装置による超音波の発生及び超音波エコーの受波を行うため、電場発生装置による送波器及び受波器への影響を防ぎ、正確な測定を行うことができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、さらに、アンテナを備え、アンテナを用いて、電場発生装置による電場の発生が実施されているか停止されているかを検知する。
上記構成の本発明によれば、電場発生装置により電場が生じているか否かを確実に検知して、正確な測定を行うことができる。
【0018】
本発明の腫瘍診断システムは、生体内の腫瘍の有無を診断するための腫瘍診断システムであって、高周波電源、及び、生体の診断領域を挟むように配置された一対の電極を有し、高周波電源により一対の電極に電圧を印加することにより生体の診断領域に電場を発生させる電場発生装置と、診断領域に向けて超音波を発生する送波器、体内からの超音波エコーを受信する受波器、及び、受波器が受信したエコーに基づき診断領域の温度情報を算出する温度算出回路を有する温度測定装置と、温度測定装置が測定した温度情報に基づき、診断領域に所定以上の温度もしくは温度上昇となる部分がある場合には、当該部分を腫瘍と判定する診断装置と、を備えることを特徴とする。
【0019】
上記構成の本発明によれば、電場発生装置により生体の診断領域に電場を発生させることにより、診断領域内に悪性腫瘍がある場合には悪性腫瘍が選択的に加熱されるため、温度測定装置により測定された温度情報に基づき、悪性腫瘍の有無を非侵襲的に判定することができる。
【0020】
本発明において、好ましくは、温度測定装置は、生体を含む平面もしくは体積における温度もしくは温度変化の分布を温度情報として算出する。
上記構成の本発明によれば、悪性腫瘍の有無のみならず、悪性腫瘍の位置及び大きさを検知することができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、電場発生装置による電場の発生が実施されている間は、温度測定装置による超音波の発生及び超音波エコーの受波を行わず、電場発生装置による電場の発生が停止されている間に、温度測定装置による超音波の発生及び超音波エコーの受波を行う。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高周波電流を人体に印加することで非侵襲的なハイパーサーミアやオンコサーミアを施術することができ、温度測定装置による悪性腫瘍以外の細胞の破壊を防止できる患部加熱システム、及びオンコサーミアの原理を用いた腫瘍診断システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の第1実施形態である患部加熱システムを図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1は、第1実施形態の患部加熱システムの構成を示すブロック図である。同図に示すように、患部加熱システム1は、制御装置3と、制御装置3に接続された電場発生装置2と、制御装置3に接続された温度測定装置4と、を有する。温度測定装置4は悪性腫瘍(癌細胞)を含む患者の生体内の温度情報を算出する装置であり、電場発生装置2は患者の生体に電場を発生する装置である。制御装置3は、例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置5を有する。制御装置3は温度測定装置4から生体内の温度情報が入力され、制御装置3はこの温度情報に基づき電場発生装置2の高周波電源が電極に印加する電圧を制御する。
【0025】
図2は、
図1に示す患部加熱システムにおける電場発生装置の構成を示し、(A)は患者の側方から見た立面図であり、(B)は患部断面図である。
図2に示すように、電場発生装置2は、診療台15上に配置された一方の電極12と、患者Pの腹部の悪性腫瘍(癌細胞)Cに当たる位置に載置された他方の電極14と、一方及び他方の電極12、14に接続された高周波電源10と、を有する。一方及び他方の電極12、14は、患者Pの腹部の悪性腫瘍(癌細胞)Cを上下から挟み込むように配置されている。
【0026】
ここで、本実施形態の患部加熱システムにより悪性腫瘍を治療する原理であるオンコサーミアについて説明する。癌細胞に13.56MHzの高周波電流を流すと、高周波のエネルギーは癌細胞膜に選択的に吸収される。癌細胞は所定の温度(約42.5度)を超える温度になると自死(アポトーシス)する。悪性腫瘍のみを加熱することにより、悪性腫瘍以外の細胞を損傷することなく、悪性腫瘍を治療することができる。
【0027】
ここで、悪性腫瘍で損傷した組織は超短波域の高周波に対してインピーダンスが低く、13.56MHzの高周波電流は癌細胞を流れやすい。患者Pの悪性腫瘍Cを挟むように一対の電極12、14を配置し、これら一対の電極12、14に高周波電源10により電圧を印加することにより、患者Pの生体内を高周波電流が流れるが、この高周波電流は
図2に示すように悪性腫瘍Cに集束して流れる。これにより、悪性腫瘍Cの癌細胞を選択的に加熱することができ、悪性腫瘍Cを自死させることができる。
【0028】
図3は、
図1に示す患部加熱システムにおける温度測定装置の構成を示す図である。
図3に示すように、温度測定装置4は、測定用端末16と、測定用端末16に接続された超音波プローブ20と、を備える。超音波プローブ20の下部には、複数のトランスデューサ22が幅方向に等間隔で配列されている。なお、
図3では、図示の関係からトランスデューサ22は13列のみしか示していないが、それ以上の数のトランスジューサを配列してもよい。また、3次元計測用の2次元配列型プローブを使用してもよい。それぞれのトランスデューサ22は、超音波プローブ20の検査面もしくは検査体積に垂直な方向に超音波を送波する送波器と、患者の生体内からの超音波エコーを受波する受波器とを含んでいる。トランスデューサ22の受波器により受波された超音波エコーは、測定用端末16の温度算出回路18に送られる。温度測定装置4は、
図3に示す超音波プローブ20の検査面に垂直な平面の所定の診断領域Rの各グリッドGにおける温度を測定する。
【0029】
ここで、本実施形態の患部加熱システムの温度測定装置4により患者の生体内の診断領域Rの温度分布を測定する方法について説明する。
まず、超音波プローブ20の各トランスデューサ22から診断領域Rに向けて超音波を送波し、超音波プローブ20の各トランスデューサ22により超音波エコーを受波する。各トランスデューサ22により受波された超音波エコーは測定用端末16に送られる。
【0030】
次に、測定用端末16は超音波エコーを、悪性腫瘍Cを含む診断領域Rの各グリッドGに対応する温度検出用波形を作成する。各グリッドGに対応する温度検出用波形は、例えば、以下のように作成することができる。まず、各グリッドGの上方に位置する複数個のトランスデューサ22により受波された複数ラインの超音波エコー信号を、時間軸に応じて分割し、分割した複数列の超音波エコーを各グリッドの深さに応じて各グリッドに対応づける。受信超音波エコー信号には、ヒルベルト変換などの処理を適用してエコー信号の包絡線を求めることにより、各グリッドGに対応する温度検出用波形を作成することができる。
図4は、このようにして作成した温度検出用波形の一例を示す。
【0031】
次に、各グリッドGの温度検出用波形の頻度分布データを作成する。頻度分布データとは、温度検出用波形について、各振幅(amplitude)の範囲にどの程度の割合(密度)で含まれているかを示すものである。
図5は、このようにして作成された温度検出用波形の頻度分布データの一例を、棒グラフにて示す。
【0032】
次に、各グリッドGの頻度分布データに仲上分布を適用し、各グリッドの仲上パラメータmを算出する。
ここで、仲上分布とは、下記の式(1)で示される分布関数である。
【数1】
なお、上記式(1)におけるΓ(m)はガンマ関数であり、U(r)は単位ステップ関数であり、ΩはスケールパラメータでありΩ=E(R
2)である。
【0033】
また、仲上パラメータmは以下の式(2)により算出することができる。
【数2】
【0034】
具体的には、各グリッドGの頻度分布データを近似するような仲上パラメータmを算出する。なお、
図5には、このようにして算出した仲上パラメータmに対応する仲上分布を頻度分布データに重ねて示す。
【0035】
図6は、発明者が実験により得た診断領域内の仲上パラメータmの平均値と、温度との関係を示すグラフである。本実験では、センサプローブを生体を模した物質内に埋設し、センサプローブにより温度を測定するとともに、上述のようにして各温度における各グリッドの仲上パラメータmを算出した。
図6に示すように、仲上パラメータmは、擬似生体物質では温度が低いほど大きく、温度が高いほど小さくなる所定の関係があることが確認された。なお、このことは、B.GAMMION他著、ACT PHYSICA POLONICA Vol 128 "Temperature Measurement by Statistical Parameters of Ultrasound Signal Backscattered form Tissue Smples"、POLISH ACADEMY OF SCIENVES INSTITUTE OF PHYSICS、2015年(http://przyrbwn.icm.edu.pl/APP/PDF/128/a128z1ap13.pdf)にも示されている。
【0036】
さらに、発明者らは、参照温度TRにおける仲上パラメータmをm
TRとし、測定した各温度における仲上パラメータmをm
Tとし、下記数式(3)により算出されるARCNを算出した。なお、本実験では、参照温度TRを22度としている。
【数3】
【0037】
図7は、発明者が実験により得た診断領域内のARCNの平均値と、温度との関係を示すグラフである。
図7に示すように、ARCNと温度とは、温度が上昇するに従い、ARCNが増加するという関係がある。また、
図8は、発明者が実験により得た複数の温度における診療領域内の各グリッドのARCNの値を濃淡で示す図である。同図に示すように、36度では、診療領域の各グリッドのARCNは低い値であるが、温度の上昇とともにARCNの値が高いグリッドが増え、42度では、多くのグリッドのARCNの値が高くなっている。なお、このことは、PO-Hsiang Tsui他著、Medical Physics May 2012 "Ultrasound temperature estimation based on probability variation of backscatter data"、2012年5月(https://www.researchgate.net/publication/224912194_Ultrasound_temperature_estimation_based_on_probability_variation_of_backscatter_data)にも示されている。
【0038】
本実施形態では、上述したように、ARCNと温度との関係を例えば近似式などで近似し、この近似式を用いて、超音波エコーから各グリッドの温度を推定し、患者の生体内の診断領域Rの温度分布を測定することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、ARCNと温度の関係を用いているが、上述の通り各グリッドの仲上パラメータmと温度とも所定の関係があるため、この関係を例えば近似式などで近似し、この近似式を用いて、超音波エコーから各グリッドの温度を推定し、患者の生体内の診断領域Rの温度分布を測定してもよい。また、仲上分布以外の分布関数を用いて、超音波エコー振幅の統計量を解析してもよい。
【0040】
また、下記の数式(4)によって得られる仲上パラメータmの変化率RCNも当然温度と所定の関係を有するため、ARCNに代えて用いてもよい。
【数4】
【0041】
以下、第1実施形態の患部加熱システム1を用いた治療方法を説明する。
図9は、第1実施形態の患部加熱システムを用いた治療方法の流れを示すフローチャートである。
まず、高周波電源10により電極間に電圧を印加していない状態で、患者Pを診療台15上に仰向けに寝かせ、温度測定装置4の超音波プローブ20及び電場発生装置2の電極14を腹部の患者Pの悪性腫瘍Cに相当する位置に配置する。そして、S1〜S4により各グリッドGの参照温度TRにおける仲上パラメータm
TRを算出する。
【0042】
具体的には、まず、超音波プローブ20の各トランスデューサ22から超音波を送波し、超音波プローブ20の各トランスデューサ22により超音波エコーを受波する(S1)。各トランスデューサ22により受波された超音波エコーは測定用端末16に送られる。
【0043】
次に、温度算出回路18により、測定用端末16は超音波エコーに基づき、悪性腫瘍Cを含む診断領域Rの各グリッドGに対応する温度検出用波形を作成する(S2)。なお、各グリッドGに対応する温度検出用波形は、上述のように作成することができる。
【0044】
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの温度検出用波形の頻度分布データを作成する(S3)。
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの頻度分布データに仲上分布を適用し、各グリッドGの参照温度TRにおける仲上パラメータm
TRを算出する(S4)。
【0045】
このようにして各グリッドGの参照温度TRにおける仲上パラメータm
TRを算出した後、制御装置3により電場発生装置2を駆動し、高周波電源10により電極12、14間に高周波電流を印加する(S5)。これにより、患者Pの悪性腫瘍Cに電流が集束され、悪性腫瘍Cが発熱する。
【0046】
次に、所定の時間間隔で、S6〜S13の工程を行い、各グリッドの温度を算出し、この算出した温度に関する温度情報に基づき高周波電源10により電極12、14間に印加する電圧を制御する。
【0047】
具体的には、まず、超音波プローブ20の各トランスデューサ22から超音波を送波し、超音波プローブ20の各トランスデューサ22により超音波エコーを受波する(S6)。各トランスデューサ22により受波された超音波エコーは測定用端末16に送られる。
【0048】
次に、温度算出回路18により、測定用端末16は、超音波エコーに基づき、悪性腫瘍Cを含む診断領域Rの各グリッドGに対応する温度検出用波形を作成する(S7)。
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの温度検出用波形の頻度分布データを作成する(S8)。
【0049】
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの頻度分布データに仲上分布を適用し、各グリッドGの温度Tにおける仲上パラメータm
Tを算出する(S9)。
次に、温度算出回路18により、各グリッドGのARCNを、上記の数式(3)を用いて算出する(S10)。
【0050】
次に、温度算出回路18により、ARCNと温度との関係を規定する近似式により、各グリッドGの温度を算出し、各グリッドGの温度に関する温度情報を作成する(S11)。作成された温度情報は、制御装置3に送られる。
次に、制御装置3は、温度情報に含まれる温度と、加熱目標温度とを比較する(S12)。加熱目標温度としては癌細胞が自死する温度である約42.5度に設定されている。
【0051】
そして、温度情報に含まれる温度が加熱目標温度以下の場合には、制御装置3は、電場発生装置2を高周波電源10により電極12、14間に電圧を印加した状態を継続する。また、温度情報に含まれる温度が加熱目標温度を超えた場合には、制御装置3は、電場発生装置2を高周波電源10により電極12、14間に印加する電圧を低くする(S13)。なお、制御装置3は、診断領域Rの温度分布を表示装置5に表示するとよい。
以上の工程S6〜S13を所定の時間間隔で繰り返すことにより、悪性腫瘍Cを所定の温度に維持することができ、オンコサーミアによる治療を行うことができる。
【0052】
以上説明したように、上記実施形態によれば、温度測定装置4がトランスデューサ22により超音波のエコーを受波し、この受波したエコーに基づき生体内の温度情報を算出し、これに基づき電場発生装置2の高周波電源10が印加する電圧を制御するため、温度測定装置4を患者の体内に配置するための手術等を行う必要がなくなるとともに、温度測定装置が高温になり悪性腫瘍以外の細胞を破壊するのを防止できる。
【0053】
また、上記実施形態によれば、温度測定装置4は、患部を通る平面における温度分布を温度情報として算出するため、悪性腫瘍Cの断面内の全体の温度に基づき、電場発生装置2を制御することができ、悪性腫瘍Cの治療を確実に行うことができる。
【0054】
また、オンコサーミアにより癌治療を行う際に悪性腫瘍Cを約42.5度まで加熱するが、通常体温は36度程度であるため、わずかな温度の変化を検知する必要がある。これに対して、上記実施形態によれば、温度測定装置4が、悪性腫瘍Cを含む平面もしくは体積における各グリッドに対応するエコー波を取得し、エコー波の振幅分布に分布関数を適用することにより、パラメータを取得し、取得したパラメータに基づき対応する各グリッドGの温度を推定しているため、わずかな温度の変化を検知することができる。
【0055】
また、上記実施形態によれば、温度測定装置4は、電場発生装置2を停止した状態で取得した仲上パラメータm
TRに対する、電場発生装置2を稼働した状態で取得したパラメータm
Tの比に基づき、対応する各グリッドGの温度を推定しており、より正確に悪性腫瘍Cの温度を推定することができる。
【0056】
なお、上記実施形態では、ARCNに基づき各グリッドの温度を算出したが、本発明はこれに限定されず、上述の通り、RCN、又は、仲上パラメータmから温度を推定することも可能である。仲上パラメータmから温度を推定する場合には、
図9に示すS1〜S5、S10を行う必要はなくなり、また、S11では、仲上パラメータmから直接グリッドの温度を求めればよい。
【0057】
次に、本発明の第2実施形態である腫瘍診断システムについて説明する。
図10は、第2実施形態である腫瘍診断システムの構成を示すブロック図である。同図に示すように、腫瘍診断システム101は、診断装置103と、診断装置103に接続された電場発生装置2と、診断装置103に接続された温度測定装置4と、を有する。電場発生装置2及び温度測定装置4の構成は、第1実施形態の患部加熱システムの電場発生装置2及び温度測定装置4と同様の構成である。診断装置103は、例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置105を有する。診断装置103は、電場発生装置2により生体に電流を印加し、所定の時間が経過すると温度測定装置4から生体内の温度情報が入力され、この温度情報に基づき悪性腫瘍の有無を診断する。
【0058】
以下、腫瘍診断システム101により悪性腫瘍の有無を診断する方法を説明する。
図11は、第2実施形態である腫瘍診断システムにより悪性腫瘍の有無を診断する流れを示すフローチャートである。
まず、高周波電源10により電極間に電圧を印加していない状態で、患者Pを診療台15上に仰向けに寝かせ、温度測定装置4の超音波プローブ20及び電場発生装置2の電極14を腹部の患者Pの悪性腫瘍Cに相当する位置に配置する。そして、S101〜S104により各グリッドGの参照温度TRにおける仲上パラメータm
TRを算出する。
【0059】
具体的には、まず、超音波プローブ20の各トランスデューサ22から超音波を送波し、超音波プローブ20の各トランスデューサ22により超音波エコーを受波する(S101)。各トランスデューサ22により受波された超音波エコーは測定用端末16に送られる。
【0060】
次に、温度算出回路18により、測定用端末16は超音波エコーに基づき、悪性腫瘍Cを含む診断領域Rの各グリッドGに対応する温度検出用波形を作成する(S102)。なお、各グリッドGに対応する温度検出用波形は、上述のように作成することができる。
【0061】
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの温度検出用波形の頻度分布データを作成する(S103)。
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの頻度分布データに仲上分布を適用し、各グリッドGの参照温度TRにおける仲上パラメータm
TRを算出する(S104)。
【0062】
このようにして各グリッドGの参照温度TRにおける仲上パラメータm
TRを算出した後、診断装置103により電場発生装置2を駆動し、高周波電源10により電極12、14間に高周波電流を印加する(S105)。これにより、患者Pの生体内に悪性腫瘍Cがある場合には、悪性腫瘍Cに電流が集束され、悪性腫瘍Cが発熱する。
【0063】
次に、所定の時間が経過した後、S106〜S113の工程を行い、各グリッドの温度を算出し、この算出した温度に関する温度情報に基づき悪性腫瘍の有無を診断する。
具体的には、まず、超音波プローブ20の各トランスデューサ22から超音波を送波し、超音波プローブ20の各トランスデューサ22により超音波エコーを受波する(S106)。各トランスデューサ22により受波された超音波エコーは測定用端末16に送られる。
【0064】
次に、温度算出回路18により、測定用端末16は超音波エコーに基づき、診断領域Rの各グリッドGに対応する温度検出用波形を作成する(S107)。
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの温度検出用波形の頻度分布データを作成する(S108)。
【0065】
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの頻度分布データに仲上分布を適用し、各グリッドGの温度Tにおける仲上パラメータm
Tを算出する(S109)。
次に、温度算出回路18により、各グリッドGのARCNを、上記の数式(3)を用いて算出する(S110)。
【0066】
次に、温度算出回路18により、ARCNと温度との関係を規定する近似式により、各グリッドGの温度を算出し、各グリッドGの温度に関する温度情報を作成する(S111)。作成された温度情報は、診断装置103に送られる。
【0067】
次に、診断装置103は、診断領域R内において所定以上の温度もしくは温度上昇となる部位があるかどうかを判定する(S112)。そして、診断領域R内において所定以上の温度もしくは温度上昇となる部分がある場合には、この部位に悪性腫瘍が存在する可能性があると判定する。これに対して、診断領域R内の温度分布が均一である場合には、診断領域R内には悪性腫瘍が存在しないと判定する。
次に、診断装置103は、表示装置105により、2次元の温度分布とともに診断結果を表示する。
【0068】
上記実施形態によれば、電場発生装置2により生体の診断領域Rに電場を発生させることにより、診断領域R内に悪性腫瘍がある場合には悪性腫瘍が選択的に加熱されるため、温度測定装置4により測定された温度情報に基づき、非侵襲的に悪性腫瘍の有無を判定することができる。
【0069】
また、上記実施形態によれば、温度測定装置4により生体を含む平面もしくは体積における温度もしくは温度変化の空間分布を算出しているため、悪性腫瘍の有無のみならず、悪性腫瘍の位置及び大きさを検知することができる。
【0070】
なお、上記実施形態では、ARCN基づき各グリッドの温度を算出したが、本発明はこれに限定されず、上述の通り、RCN、又は、仲上パラメータmから温度もしくは温度変化を推定することも可能である。また、超音波エコー信号の振幅頻度分布の解析および温度情報の推定には、仲上分布以外の分布関数を使用してもよい。
【0071】
次に、本発明の第3実施形態である患部加熱システムについて説明する。
図12は、第3実施形態である患部加熱システムの構成を示すブロック図である。同図に示すように、患部加熱システム201は、制御装置3と、制御装置3に接続された電場発生装置202と、制御装置3に接続された温度測定装置204と、温度測定装置4に接続されたアンテナ206とを備える。電場発生装置202と温度測定装置204とはインターフェース207を介して接続されている。電場発生装置2、制御装置3及び温度測定装置4の構成は、第1実施形態の患部加熱システムの電場発生装置2及び温度測定装置4と同様の構成である。アンテナ206は、例えば、患者の患部近傍などの電場発生装置2により電場が発生される領域内に設けられており、電磁波を検知することができる。
【0072】
以下、第3実施形態の患部加熱システム201を用いた治療方法を説明する。
図13は、第3実施形態の患部加熱システムを用いた治療方法の流れを示すフローチャートである。
まず、高周波電源10により電極間に電圧を印加していない状態で、患者Pを診療台15上に仰向けに寝かせ、温度測定装置4の超音波プローブ20及び電場発生装置2の電極14を腹部の患者Pの悪性腫瘍Cに相当する位置に配置する。そして、S201〜S204により各グリッドGの参照温度TRにおける仲上パラメータm
TRを算出する。
【0073】
具体的には、まず、超音波プローブ20の各トランスデューサ22から超音波を送波し、超音波プローブ20の各トランスデューサ22により超音波エコーを受波する(S201)。各トランスデューサ22により受波された超音波エコーは測定用端末16に送られる。
【0074】
次に、温度算出回路18により、測定用端末16は超音波エコーに基づき、悪性腫瘍Cを含む診断領域Rの各グリッドGに対応する温度検出用波形を作成する(S202)。なお、各グリッドGに対応する温度検出用波形は、上述のように作成することができる。
【0075】
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの温度検出用波形の頻度分布データを作成する(S203)。
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの頻度分布データに仲上分布を適用し、各グリッドGの参照温度TRにおける仲上パラメータm
TRを算出する(S204)。
【0076】
このようにして各グリッドGの参照温度TRにおける仲上パラメータm
TRを算出した後、制御装置3により電場発生装置2を駆動し、高周波電源10により電極12、14間に高周波電流を印加する(S205)。これにより、患者Pの悪性腫瘍Cに電流が集束され、悪性腫瘍Cが発熱する。
【0077】
次に、所定の時間間隔で、S206〜S215の工程を行い、各グリッドの温度を算出し、この算出した温度に関する温度情報に基づき高周波電源10により電極12、14間に印加する電圧を制御する。
【0078】
具体的には、まず、温度測定装置4が、電場発生装置2による電場の発生が実施されているか、電場発生装置2が電場の発生を停止しているかを検知する(S214)。詳細には、温度測定装置4による電場の発生の検知は、例えば、アンテナ206により所定の閾値以上の電磁波が検出されるかどうかに基づき行うことができる。アンテナ206により検出された電磁波の電場が所定の強度以上である場合には、電場発生装置2による電場の発生が実施されていると判定し、アンテナ206により検出された電磁波の電場が所定の強度よりも小さい場合には、電場発生装置2による電場の発生が実施されていないと判定することができる。また、インターフェース207を介して、電場発生装置2の駆動状態を検知することにより、電場発生装置2による電場の発生が実施されているか停止しているかを判定してもよい。
【0079】
電場発生装置2による電場の発生が実施されていない場合(S214において、NO)には、超音波プローブ20の各トランスデューサ22から超音波を送波し、超音波プローブ20の各トランスデューサ22により超音波エコーを受波する(S206)。各トランスデューサ22により受波された超音波エコーは測定用端末16に送られる。これに対して、電場発生装置2による電場の発生が実施されている場合(S214において、YES)には、温度測定装置4はインターフェース207を介して電場発生装置2を制御し、少なくともS206において超音波の送受信を行っている間、一時的に電場発生装置2による電場の発生を停止させる(S215)。そして、超音波プローブ20の各トランスデューサ22から超音波を送波し、超音波プローブ20の各トランスデューサ22により超音波エコーを受波する(S206)。なお、本実施形態では、電場発生装置2による電場の発生が実施されている場合には、一時的に電場発生装置2による電場の発生を停止させることとしたが、これに限らず、電場発生装置2が自動的に電場の発生を一時停止させる場合には、電場発生装置2が電場の発生を停止するまで待機し、電場の発生が停止したら、超音波の送波及び超音波エコーの受波を行ってもよい。
【0080】
次に、温度算出回路18により、測定用端末16は、超音波エコーに基づき、悪性腫瘍Cを含む診断領域Rの各グリッドGに対応する温度検出用波形を作成する(S207)。
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの温度検出用波形の頻度分布データを作成する(S208)。
【0081】
次に、温度算出回路18により、各グリッドGの頻度分布データに仲上分布を適用し、各グリッドGの温度Tにおける仲上パラメータm
Tを算出する(S209)。
次に、温度算出回路18により、各グリッドGのARCNを、上記の数式(3)を用いて算出する(S210)。
【0082】
次に、温度算出回路18により、ARCNと温度との関係を規定する近似式により、各グリッドGの温度を算出し、各グリッドGの温度に関する温度情報を作成する(S211)。作成された温度情報は、制御装置3に送られる。
次に、制御装置3は、温度情報に含まれる温度と、加熱目標温度とを比較する(S212)。加熱目標温度としては癌細胞が自死する温度である約42.5度に設定されている。
【0083】
そして、温度情報に含まれる温度が加熱目標温度以下の場合には、制御装置3は、電場発生装置2を高周波電源10により電極12、14間に電圧を印加した状態を継続する。また、温度情報に含まれる温度が加熱目標温度を超えた場合には、制御装置3は、電場発生装置2を高周波電源10により電極12、14間に印加する電圧を低くする(S213)。なお、制御装置3は、診断領域Rの温度分布を表示装置5に表示するとよい。
以上の工程S206〜S213を所定の時間間隔で繰り返すことにより、悪性腫瘍Cを所定の温度に維持することができ、オンコサーミアによる治療を行うことができる。
【0084】
超音波プローブ20は、超音波の発振及び受信に圧電素子を用いており、構造的にキャパシタンスを有するため、周囲で高周波電磁波が生じているような状況では、高周波電磁波による雑音が混入し正確な測定を行うことができない。これに対して、本実施形態によれば、電場発生装置2が電場を発生しているどうかを検知し、電場発生装置2が電場を発生していない時に、温度測定装置4により超音波の送波及び超音波エコーの受波を行っている。電場発生装置2による超音波プローブ20への影響を防ぎ、正確な測定を行うことができる。
【0085】
なお、上記の実施形態では、患部加熱システムにおいて、電場発生装置2による電場の発生が実施されているか、停止しているかをアンテナ206又はインターフェース207を介して検知し(S214)、電場の発生が実施されている場合(S214において、YES)には、一時的に電場発生装置2による電場の発生を停止させることとしたが、このような制御は、第2実施形態の腫瘍診断システムにも適用できる。すなわち、腫瘍診断システムにアンテナ及びインターフェースの何れかを設け、S105の後に、電場発生装置2による電場の発生が実施されているか、停止しているかをアンテナ又はインターフェースを介して検知し、電場の発生が実施されている場合には、一時的に電場発生装置2による電場の発生を停止させればよい。