【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 平成28年4月14日 ウェブサイトのアドレス http://www.ans.org/meetings/file/642 〔刊行物等〕 開催日 平成28年4月20日 集会名、開催場所 トリチウム2016第11回トリチウム科学技術国際会議、アメリカ合衆国 サウスカロライナ州 チャールストン、チャールストン マリオット(Tritium 2016,11th international conference on tritium science and technology、Charleston Marriott Charleston,south Carolina United states)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被測定物に含まれる同位体の測定では、まず、被測定物を昇温することにより各同位体を脱離させる。次に、脱離させた同位体をパージガスによって測定装置まで輸送させる。そして、軽水素及び重水素を測定対象とする場合には、例えば、質量分析装置が用いられる。また、三重水素を測定対象とする場合には、例えば、比例計数管や電離箱などが用いられる。このように、軽水素及び重水素を測定対象とする場合の測定装置と、三重水素を測定対象とする場合の測定装置とが別であるので、軽水素及び重水素の測定と、三重水素の測定とを並列的に行うことが困難であった。従って、当該分野においては、複数種の同位体を並列的に測定し得る装置と方法とが望まれていた。
【0005】
そこで、本発明は、複数の同位体を含む被測定物の測定において、複数種の同位体を並列的に測定し得る同位体測定装置と同位体測定方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態は、被測定物に含まれる第1の同位体及び第2の同位体に関する測定を行う同位体測定装置であって、被測定物を加熱することにより被測定物から第1の同位体及び第2の同位体を昇温脱離させる脱離部と、脱離部に接続され、被測定物から脱離された第1の同位体及び第2の同位体を輸送するためのガスを脱離部に供給するガス供給部と、大気圧よりも低い減圧環境下において、第1の同位体に関する測定を行う第1の測定部と、大気圧環境下において、第2の同位体に関する測定を行う第2の測定部と、脱離部、第1の測定部及び第2の測定部のそれぞれに接続されて、脱離部から排出されたガスを第1の測定部及び第2の測定部にそれぞれ分配するガス分配部と、を備え、ガス分配部は、脱離部に接続される接続端部と、第1の測定部にガスを提供する第1のガス提供端部と、を含む第1のガス管と、第1のガス管を収容すると共に、第1のガス提供端部と連通する連通端部と、第2の測定部にガスを提供する第2のガス提供部と、を含む第2のガス管と、第2のガス管の連通端部に取り付けられた弁部と、を有し、弁部は、第1のガス提供端部の近傍に配置され、第1のガス提供端部から第1の測定部へ提供されるガスの流れを制御する。
【0007】
この同位体測定装置では、被測定物に含まれた同位体が脱離部において被測定物から脱離され、ガス供給部から供給されるガスによって第1の測定部及び第2の測定部まで輸送される。ここで、脱離部から排出されたガスは、ガス分配部において第1の測定部に提供されるガスと、第2の測定部に提供されるガスとに分配される。より詳細には、脱離部から排出されたガスは、第1のガス管の接続端部から導入されて、第1のガス提供端部から排出される。ここで、第1のガス提供端部の近傍には、弁部が配置されているので、第1のガス提供端部から排出されたガスの一部は、弁部を介して第1の測定部へ提供される。また、第1のガス提供端部は、第2のガス管の連通端部と連通するので、第1の測定部へ提供されなかった残りのガスが第2のガス管へ輸送される。第2のガス管に輸送されたガスは、第2のガス提供部を介して、第2の測定部へ提供される。このような構成によれば、大気圧より低い減圧環境下におかれた第1の測定部と、大気圧環境下におかれた第2の測定部とに好適にガスを分配することが可能になる。従って、一形態に係る同位体測定装置によれば、第1の同位体と第2の同位体とを並行して測定することができる。
【0008】
本発明の一形態に係る同位体測定装置は、脱離部に供給されるガスを制御するための制御部をさらに備え、ガス供給部は、ガスを収容するガス収容部と、ガス収容部から脱離部へ供給されるガスの流量を制御するガス流量調整部と、を有し、ガス流量調整部は、制御部から提供される制御信号に基づいて、脱離部に供給するガスの流量を調整してもよい。この構成によれば、ガスの流量を調整することが可能になる。従って、被測定物から脱離された第1の同位体が第1の測定部に到達するタイミングと、被測定物から脱離された第2の同位体が第2の測定部に到達するタイミングと、を調整することができる。従って、第1の同位体と第2の同位体とを同時に測定することができる。
【0009】
第1の同位体及び第2の同位体は、水素の同位体であり、ガス供給部から提供されるガスは、アルゴンガスであってもよい。この構成によれば、アルゴンは、水素よりも原子量が大きいので、水素の同位体である第1の同位体及び第2の同位体の測定の測定精度の低下を抑制できる。また、アルゴンは、不活性気体であるので、加熱によるガスと被測定物との意図しない反応の発生を抑制することができる。
【0010】
第1の測定部は、四重極質量分析計であってもよい。この構成によれば、第1の同位体を好適に測定することができる。
【0011】
第2の測定部は、比例計数管及び電離箱の少なくとも一方を有してもよい。この構成によれば、第2の同位体を好適に測定することができる。
【0012】
本発明の別の形態は、被測定物に含まれる第1の同位体及び第2の同位体に関する測定を行う同位体測定方法であって、同位体測定装置であって、被測定物を加熱することにより被測定物から第1の同位体及び第2の同位体を昇温脱離させる脱離部と、脱離部に接続され、被測定物から脱離された第1の同位体及び第2の同位体を輸送するためのガスを脱離部に供給するガス供給部と、大気圧よりも低い減圧環境下において、第1の同位体に関する測定を行う第1の測定部と、大気圧環境下において、第2の同位体に関する測定を行う第2の測定部と、脱離部、第1の測定部及び第2の測定部のそれぞれに接続されて、脱離部から排出されたガスを第1の測定部及び第2の測定部にそれぞれ分配するガス分配部と、を備える同位体を準備する工程と、被測定物を脱離部に配置する工程と、ガス供給部から脱離部へガスの供給を開始する工程と、ガス分配部を制御する工程と、脱離部における昇温を開始する工程と、第1の測定部における第1の同位体に関する測定を行うと共に、第2の測定部における第2の同位体に関する測定を行う工程と、を有し、ガス分配部は、脱離部に接続される接続端部と、第1の測定部にガスを提供する第1のガス提供端部と、を含む第1のガス管と、第1のガス管を収容すると共に、第1のガス提供端部と連通する連通端部と、第2の測定部にガスを提供する第2のガス提供部と、を含む第2のガス管と、第2のガス管の連通端部に取り付けられた弁部と、を有し、弁部は、第1のガス提供端部の近傍に配置され、第1のガス提供端部から第1の測定部へ提供されるガスの流れを制御する。
【0013】
この測定方法は、上述した同位体測定装置を用いているので、第1の同位体と第2の同位体とを並行して測定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の同位体を含む被測定物の測定において、複数種の同位体を並列的に測定し得る同位体測定装置と同位体測定方法とが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、実施形態に係る同位体測定装置1の構成を概略的に示すブロック図である。
図1に示された同位体測定装置1は、いわゆる昇温脱離法に基づく昇温脱離測定装置である。被測定物を所定の条件に基づいて昇温させ、被測定物に含まれている同位体を脱離させる。被測定物は、例えば、核融合炉の炉壁を構成するタングステン製の部品である。この部品の表面には、核融合反応によって生じ得る軽水素(H)、重水素(D)、及び三重水素(T:トリチウム)が付着している。従って、以下の説明で述べる同位体は、軽水素(H)、重水素(D)、三重水素を含む。脱離された各同位体は、パージガスにより測定装置に輸送され、それぞれの測定装置によって所望の測定値が得られる。
【0018】
同位体測定装置1は、主要な構成要素として、脱離部2と、ガス供給部3と、ガス分配部4と、第1の測定部6と、第2の測定部7と、を有する。脱離部2は、被測定物8を収容すると共に被測定物8の温度を制御する。ガス供給部3は、脱離部2に接続され、脱離部2にパージガスを供給する。ガス分配部4は、脱離部2に接続され、脱離部2から排出されるパージガスを受け入れる。さらに、ガス分配部4は、第1の測定部6と第2の測定部7とに接続され、受け入れたパージガスを第1の測定部6及び第2の測定部7にそれぞれ分配する。第1の測定部6は、軽水素(H)及び重水素(D)に関する第1の測定値を得る。第2の測定部7は、三重水素(T)に関する第2の測定値を得る。
【0019】
同位体測定装置1は、付加的な構成要素として、キャリブレーション部9と、後処理部11と、を有する。キャリブレーション部9は、ガス分配部4に接続され、第1の測定部6の較正(キャリブレーション)のための基準ガスを供給する。後処理部11は、パージガスを大気中に放出可能な程度までパージガスに含まれた同位体を回収する。後処理部11は、ガス分配部4及び第1の測定部6に接続されている。
【0020】
図2は、実施形態に係る同位体測定装置1の構成を詳細に示すブロック図である。脱離部2は、チャンバ12と赤外線ランプ13とを有するいわゆる赤外イメージ炉である。チャンバ12は、被測定物8を収容する空間を形成する。チャンバ12は、パージガスを受け入れるガス受入口12aと、パージガスを排出するガス排出口12bとを有する。また、チャンバ12の内部は、大気圧と略同等の圧力とされている。被測定物8は、サンプルホルダ14に載置されて、チャンバ12の内部に配置される。サンプルホルダ14は、例えば、モリブデンにより形成されている。サンプルホルダ14には、熱電対14aが設けられている。この熱電対14aによれば、被測定物8の温度を直接的に測定できる。従って、精度のよい測定値を得ることができる。赤外線ランプ13は、チャンバ12を囲むように配置されている。この赤外線ランプ13は予め設定された温度履歴に基づいて制御される。例えば、昇温工程では、一定の昇温速度(例えば30K/分)で昇温することができる。さらに、赤外線ランプ13は、被測定物8を所定時間だけ1000℃に保持することもできる。
【0021】
ガス供給部3は、ガスタンク16(ガス収容部)と、マスフローコントローラ17(以下MFC17ともいう)(ガス流量調整部)と、吸着部18と、を有する。ガスタンク16は、バルブB1を介してMFC17と接続されている。MFC17は、バルブB2を介して吸着部18と接続されている。吸着部18は、チャンバ12のガス受入口12aと接続されている。従って、ガスタンク16から供給されるパージガスは、バルブB1、MFC17、バルブB2、吸着部18をこの順に通過して、脱離部2に供給される。ガスタンク16は、パージガスとしてのアルゴンガスを収容している。MFC17は、脱離部2に供給すべきパージガスの流量を制御する。このMFC17は、外部から入力される制御信号、又は、作業者の操作によって、流量を調整することができる。吸着部18は、パージガスに含まれる水分を除去する。吸着部18によれば、乾燥したパージガスが脱離部2に供給されるので、加熱による被測定物8とパージガスに含まれる水分との反応を抑制できる。
【0022】
ガス分配部4は、パージガス受入口4aと、標準ガス受入口4bと、第1のガス排出口4cと、第2のガス排出口4dと、を有する。パージガス受入口4aは、バルブB3を介して脱離部2のガス排出口12bと接続されている。標準ガス受入口4bは、バルブB4を介してキャリブレーション部9と接続されている。第1のガス排出口4cは、第1の測定部6と接続されている。第2のガス排出口4dは、バルブB5を介して第2の測定部7及び後処理部15に接続されている。ガス分配部4の構造については、後に詳細に説明する。
【0023】
第1の測定部6は、四重極質量分析計19と、ターボ分子ポンプ21とを有する。四重極質量分析計19は、水素原子をイオン化し、生成されたイオンをその質量によって分離することにより、測定対象としての原子に関する情報を得る。四重極質量分析計19は、例えば、EIS(Enclosed Ion Source )付きの質量分析装置で有り得る。四重極質量分析計19は、ガス分配部4の第1のガス排出口4cに接続され、パージガスを受け入れる。四重極質量分析計19の内部は、ターボ分子ポンプ21によって大気圧よりも低い減圧状態とされている。例えば、四重極質量分析計19の作動真空度は、10
−4Paである。ターボ分子ポンプ21は、四重極質量分析計19と、後処理部15と、に接続されている。
【0024】
第2の測定部7は、第1の評価部22と、第2の評価部23と、を有する。
【0025】
第1の評価部22は、パージガスに含まれる三重水素(T)の割合が比較的低い場合に用いられる。第1の評価部22は、計数ガス供給部24と、第1の比例計数管26と、第2の比例計数管27と、酸化銅触媒部28と、を有する。
【0026】
第1の比例計数管26は、バルブB5を介してガス分配部4の第2のガス排出口4dに接続されている。バルブB5から第1の比例計数管26との間には、計数ガス供給部24が接続される接続部24aが設けられている。従って、第1の比例計数管26には、同位体を含むパージガスと計数ガスとを含む混合ガスが供給される。計数ガス供給部24は、ガスタンク29と、MFC31と、バブラー32とを有する。計数ガス供給部24は、計数ガスとしてのメタンガス或いはPRガスを供給する。第1の比例計数管26は、混合ガスに含まれた全ての態様の三重水素(T)を測定対象とする。第2の比例計数管27は、バブラー32を介して第1の比例計数管26と接続されている。第2の比例計数管27は、混合ガスに含まれた気体の三重水素(T)を測定対象とする。酸化銅触媒部28は、第2の比例計数管27に接続されている。酸化銅触媒部28は、第2の比例計数管27から供給される混合ガスに含まれた三重水素(T)を触媒反応により酸化させる。酸化銅触媒部28は、例えば、350℃程度に加熱されている。
【0027】
第2の評価部23は、パージガスに含まれる三重水素(T)の割合が比較的高い場合に用いられる。なお、第2の評価部23を用いる場合には、計数ガス供給部24からの計数ガスの供給が停止される。第2の評価部23は、電離箱33を有する。電離箱33は、バルブB5と接続部24aとの間に設けられた接続部23aに接続されている。電離箱33から排出されたパージガスは、バブラー34を介して大気中に放出される。
【0028】
なお、第2の測定部7は、第1の評価部22及び第2の評価部23のいずれか一方のみを有する構成であってもよい。また、三重水素(T)の全量評価は、液体シンチレーションカウンターを用いてバブラー34で回収された三重水素(T)を測定することで評価してもよい。
【0029】
キャリブレーション部9は、バルブB4を介してガス分配部4の標準ガス受入口4bに接続されている。キャリブレーション部9は、ガスタンク9aと、マスフローコントローラ9b(以下MFC9bともいう)を有する。ガスタンク9aには、標準ガスとしてのアルゴンと重水素(D)との混合ガスが収容されている。
【0030】
後処理部15は、第1の測定部6のターボ分子ポンプ21と、バルブB5を介してガス分配部4の第2のガス排出口4dとに接続されている。後処理部15は、バルブ36と、SP37と、酸化銅触媒部38と、バブラー39と、を有する。バルブ36は、第1の測定部6のターボ分子ポンプ21と、バルブB1を介してガス分配部4の第2のガス排出口4dとに接続されている。スクロールポンプ37(以下はSP37ともいう)、であり、バルブ36と酸化銅触媒部38とに接続されている。酸化銅触媒部38は、パージガスに含まれた同位体を触媒反応により酸化させ、バブラー39で回収する。酸化銅触媒部38から排出されたパージガスは、バブラー39を介して大気中に放出される。
【0031】
次に、ガス分配部4について詳細に説明する。前述したように、第1の測定部6における四重極質量分析計19の測定系は、減圧環境下に配置される。一方、第2の測定部7における第1の比例計数管26、第2の比例計数管27及び電離箱33は、大気圧環境下に配置される。従って、脱離部2、第1の測定部6及び第2の測定部7を単にガラス管等で接続すると、第1の測定部6及び第2の測定部7に所望の比率をもって分配することが困難になる場合がある。例えば、バルブなどにより、パージガスの供給先が第1の測定部6又は第2の測定部7の一方になるように構成することも考えられる。しかし、第1の測定部6又は第2の測定部7の一方を選択するような構成では、並列的な測定が行えない。本実施形態のガス分配部4によれば、異なる圧力環境とされた2個の測定系に対して並列的な測定が可能であるように、パージガスを分配することができる。
【0032】
図3に示されるように、ガス分配部4は、第1のガス管41と、第2のガス管42と、バリアブルリークバルブ43(以下VLV43ともいう)と、を有する。円筒状の第1のガス管41は、例えば、外径が1/4インチのガラス管であり、略T字状の第2のガス管42は、例えば、外径が1/8インチのガラス管である。VLV43(弁部)は、いわゆる開口に嵌め合される針状の弁によって流量を調整する可変バルブである。
【0033】
第1のガス管41は、その軸線が第2のガス管42の軸線と重複するように第2のガス管42の内部に配置され、接続端部41aと第1のガス提供端部41bとを有する。接続端部41aは、第2のガス管42から突出し、脱離部2に接続されている。第1のガス提供端部41bは、第2のガス管42の内部に配置されている。
【0034】
第2のガス管42は、第1のガス管41の大部分を収容している。第2のガス管42は、閉鎖端部42aと、連通端部42bと、第2のガス提供部42cと、を有する。具体的には、第2のガス管42は、両端のそれぞれが閉鎖端部42a及び連通端部42bとされた円筒状の本体部44と、本体部44の軸線と交差方向に延び、基端が本体部44の円周面に固定され、先端が第2のガス提供部42cとされた枝部46とを有するT字状の形状を呈する。本体部44の軸線方向において、枝部46は、連通端部42bよりも閉鎖端部42aに近い側に設けられている。
【0035】
第2のガス管42の閉鎖端部42aは、蓋47により閉鎖されており、蓋47には第1のガス管41が挿通される貫通穴が設けられている。本体部44の軸線方向において連通端部42bより僅かに内側には、第1のガス管41の第1のガス提供端部41bが配置されている。換言すると、連通端部42bの端面A1と第1のガス提供端部41bの端面A2との間には、隙間Kが設けられている。そして、連通端部42bの端面A1には、VLV43が設けられている。このVLV43によって、連通端部42bの開口は閉鎖されている。従って、第1のガス提供端部41bは、隙間KをもってVLV43と対面している。この隙間Kが形成されるようにVLV43を配置した構成を、第1のガス提供端部41bの近傍にVLV43を配置したと規定する。この隙間Kは、例えば、0.2mm〜1mmであり、一例として0.5mmである。この隙間Kは、第1のガス管41の内径、第1のガス管41を流れるパージガスの流量、圧力、流速、第1の測定部6における減圧の程度、VLV43の吸気口44aの孔径などにより決定される値である。定性的には、第1のガス提供端部41bから排出されたパージガスがVLV43に向かって吹付けられるように、各部の寸法が決定される。具体的には、VLV43の吸気口44aにおいて、パージガスが所定の流速(例えば13.3sccm(standard cm
3/分)、或いは所定の圧力(例えば四重極質量分析計19内の圧力が5×10
−4Pa)を有するように各部の寸法が決定される。
【0036】
VLV43は、ベース45と弁48と排出管50とを有する。ベース45には、吸気口44aが設けられ、この吸気口44aと連通するように排出管50が形成されている。吸気口44aの内部には、吸気口44aの形状に倣う弁48が配置される。この弁48は、ハンドルを操作することにより、軸線方向に往復移動可能とされている。従って、弁48と吸気口44aの内周面との隙間の大きさを調整することができるので、この隙間によって第1の測定部6に提供するパージガスの流量を調整することができる。
【0037】
次に、ガス分配部4におけるパージガスの流れを説明する。まず、脱離部2から排出されたパージガスは、接続端部41aを介して第1のガス管41に移動する(
図3の矢印Y1参照)。次に、パージガスは、第1のガス管41内を移動し、第1のガス提供端部41bから排出される。ここで、パージガスの一部は、VLV43の吸気口44aから吸いこまれて、第1の測定部6へ提供される(矢印Y2a)。第1の測定部6は、減圧環境とされているので、VLV43を開状態とすれば、圧力差等に応じて吸気口44aに吸いこまれる。しかし、VLV43に吸い込まれるパージガスの量は、第1のガス提供端部41bから排出されるパージガスの量よりも少ないので、VLV43に吸い込まれないパージガスが生じる(矢印Y2b)。この吸気口44aに吸いこまれなかったパージガスは、隙間Kを介して、第1のガス管41と第2のガス管42との間に形成された流路49に提供される。流路49に提供されたパージガスは、第1のガス管41内における移動方向とは逆向きに移動して(矢印Y3参照)、枝部46に到達し、第2のガス提供部42cから第2の測定部7に提供される(矢印Y4参照)。
【0038】
パージガスに含まれる軽水素(H)及び重水素(D)に比べて、三重水素(T)の量はごく僅かである。従って、三重水素(T)を測定する第2の測定部7には大量のパージガスを供給する必要がある。このガス分配部4によれば、例えば、VLV43を介して第1の測定部6に提供されるパージガスと、第2の測定部7に提供される残りのパージガスとの比率は、1:443程度としてもよいし、1:450程度としてもよい。従って、第1の測定部6と第2の測定部7とのそれぞれに好適な量のパージガスを分配することができる。なお、この比率は、実験例として、石けん膜流量計を用いてターボ分子ポンプ21及びスクロールポンプ37からの排気量を計測したところ、チャンバ12内の圧力が5×10
−4Pa、標準ガスの流速が13.3sccmのとき排気量が0.03sccmであったことに基づく。チャンバ12内の圧力(1×10
−2〜8×10
−2Pa)に対し、排気量を数点計測した結果に近似曲線を用いて外挿することにより得た。
【0039】
図4に示されるように、同位体測定装置1を用いた同位体測定方法は、被測定物の配置工程S1と、ガス供給開始工程S2と、バルブ調整工程S3と、昇温工程S4と、測定工程S5とを有する。まず、サンプルホルダ14に被測定物8を設置し、サンプルホルダ14を脱離部2内の所定位置に取り付ける(S1)。次に、ガス供給部3からパージガスの供給を開始する(S2)。次に、VLV43の開度を調整して、第1の測定部6と第2の測定部7とに分配されるパージガスの割合を、予め設定された値になるように調整する(S3)。次に、脱離部2において被測定物8の昇温を開始する(S4)。昇温の開始と同時に、第1の測定部6と第2の測定部7において測定値の取得を開始する(S5)。測定値は、経過時間と関連付けて記録される。被測定物8の昇温は、予め設定された温度履歴に沿って行われる。そして、設定された温度履歴が終了すると、同位体の測定が終了する。
【0040】
この同位体測定装置1では、被測定物8に含まれた同位体が脱離部2において被測定物8から脱離され、ガス供給部3から供給されるパージガスによって第1の測定部6及び第2の測定部7まで輸送される。ここで、脱離部2から排出されたパージガスは、ガス分配部4において第1の測定部6に提供されるパージガスと、第2の測定部7に提供されるパージガスとに分配される。より詳細には、脱離部2から排出されたパージガスは、第1のガス管41の接続端部41aから導入されて、第1のガス提供端部41bから排出される。ここで、第1のガス提供端部41bの近傍には、VLV43が配置されているので、第1のガス提供端部41bから排出されたパージガスの一部は、VLV43を介して第1の測定部6へ提供される。また、第1のガス提供端部41bは、第2のガス管42の連通端部42bと連通するので、第1の測定部6へ提供されなかった残りのパージガスが第2のガス管42へ輸送される。第2のガス管42に輸送されたパージガスは、第2のガス提供部42cを介して、第2の測定部7へ提供される。このような構成によれば、大気圧より低い減圧環境下におかれた第1の測定部6と、大気圧環境下におかれた第2の測定部7とに好適にパージガスを分配することが可能になる。従って、同位体測定装置1によれば、第1の同位体と第2の同位体とを同時に測定することができる。
【0041】
さらに、同位体測定装置1によれば、一度の測定で全ての水素の同位体を測定可能である。従って、被測定物における同位体の捕捉挙動や放出挙動を比較することができる。
【0042】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0043】
図5に示されるように、例えば、変形例に係る同位体測定装置1Aは、パージガスの流量や第1の測定部6に提供するパージガスの流量を制御する制御装置51(制御部)をさらに備えていてもよい。制御装置51は、予め定められた値や、第1の測定部6及び第2の測定部7の出力結果をフィードバックして、パージガスの流量を制御してもよい。この場合には、同位体を測定する方法におけるガス供給開始工程S2において、制御装置51が制御信号を生成して、MFC17に制御信号を出力し、MFC17が制御信号に基づいて流量を調整する工程を含む。なお、ガス供給開始工程S2において、作業者が予め設定された流量になるようにMFC17を操作してもよい。
【0044】
図6の(a)部及び(b)部は、第1の測定部6及び第2の測定部7において得られた結果を示すグラフである。横軸は、被測定物8の昇温を開始した時間を基準とした経過時間である。左の縦軸は、第1の測定部6及び第2の測定部7における出力値であり、右の縦軸は被測定物8の温度である。グラフG1A,G1Bは、第1の測定部6において検出された重水素(D)を示し、グラフG2A,G2Bは、第2の測定部7において検出された三重水素(T)を示す。また、グラフG3A,G3Bは、被測定物8を加熱するために予め設定される温度履歴を示す。
【0045】
昇温脱離試験においては、測定部において検出される同位体の検出結果と、被測定物8の温度との関係が重要である。被測定物8の温度は、脱離部2におけるヒータの温度履歴に基づいている。換言すると、昇温脱離試験においては、測定部において検出される同位体の検出結果と、被測定物8の昇温開始後の経過時間との関係が重要であるとも言える。
【0046】
ここで、脱離部2から第1の測定部6にパージガスが移動するまでの時間と、脱離部2から第2の測定部7にパージガスが移動するまでの時間と、が異なる場合、第1の測定部6の結果と第2の測定部7の結果とを対比させる場合に有用な情報が得られにくい(例えば
図6の(a)部参照)。従って、脱離部2から第1の測定部6にパージガスが移動するまでの時間と、脱離部2から第2の測定部7にパージガスが移動するまでの時間と、を近づけることが望ましい(例えば
図6の(b)部参照)。
【0047】
この時間は、ガス供給部3から提供されるパージガスの流量によって制御することができる。例えば、流量を6.7sccmとした場合(
図6の(a)部参照)よりも、13.3sccmとした場合(
図6の(b)部参照)の方がより好適な結果を得ることができる。
【0048】
すなわち、変形例に係る同位体測定装置1Aによれば、パージガスの流量を調整することが可能になる。従って、被測定物8から脱離された第1の同位体が第1の測定部に到達するタイミングと、被測定物8から脱離された第2の同位体が第2の測定部に到達するタイミングと、を調整することができる。従って、第1の同位体と第2の同位体とを同時に測定することができる。
【0049】
また、第1の測定部は、高分解能質量分析装置を有していてもよい。この装置によれば、重水素(D
2)とヘリウム(He)とをそれぞれ測定することが可能になる。
【0050】
また、第2の測定部は、放射能を測定対象とした装置を有していてもよい。この装置によれば、微量の放射性水素である三重水素を高感度に測定することができる。