(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6767056
(24)【登録日】2020年9月23日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】安全帯
(51)【国際特許分類】
A62B 35/00 20060101AFI20201005BHJP
【FI】
A62B35/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-175522(P2018-175522)
(22)【出願日】2018年9月20日
(65)【公開番号】特開2020-44144(P2020-44144A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2020年2月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000149930
【氏名又は名称】株式会社谷沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 雅一
【審査官】
坂口 達紀
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04512437(US,A)
【文献】
特開平11−333010(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0278819(US,A1)
【文献】
特開2006−223639(JP,A)
【文献】
米国特許第05957091(US,A)
【文献】
特開2004−321487(JP,A)
【文献】
特開2013−027523(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3058660(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 35/00−35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯と、装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯と、前記腿帯に接続される脚帯と、前記肩帯と前記脚帯との少なくとも一方が挿通されて命綱を接続する接続部材と、一対の前記腿帯同士を連結する連結帯とを備える安全帯において、
前記肩帯と前記脚帯とは、前記腿帯の前方部分に固定され、
前記脚帯は、前記腿帯への固定位置よりも後方から当該固定位置まで前記腿帯に重合する重合部を備えることを特徴とする安全帯。
【請求項2】
前記腿帯は、前記脚帯の固定状態を維持して前記重合部を上方向に脱出自在に収容する収容部を備えることを特徴とする請求項1記載の安全帯。
【請求項3】
装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯と、装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯と、前記腿帯に接続される脚帯と、前記肩帯と前記脚帯との少なくとも一方が挿通されて命綱を接続する接続部材と、一対の前記腿帯同士を連結する連結帯とを備える安全帯において、
前記肩帯と前記脚帯とは、前記腿帯の前方部分に固定され、
前記連結帯には、その長手方向に延びる左右一対の折り曲げ部を介して上方に向かって折り返された折返し部が設けられていることを特徴とする安全帯。
【請求項4】
前記肩帯と前記脚帯とは、前記腿帯の前方部分に同一箇所で固定されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1記載の安全帯。
【請求項5】
前記肩帯と前記脚帯とは、前記腿帯の前方部分であって互いに離間する位置に固定されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1記載の安全帯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯を備える安全帯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い場所で作業する作業員(装着者)に命綱を付けて装着される所謂フルハーネス型の安全帯であり、装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯と、装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
所謂フルハーネス型の安全帯では、装着者の右肩に掛け回される右肩帯は、装着者の左腿に巻き回される左腿帯に連結される。反対に装着者の左肩に掛け回される左肩帯は、装着者の右腿に巻き回される右腿帯に連結される。特許文献1の安全帯は、装着者の背中で両肩帯をX字状に交差させるパッドを備える所謂X型安全帯である。
【0004】
また、装着者の動き易さを向上させるべく、両腿帯から延びる2つの肩帯を装着者の腰のあたりに設けられた結束具で一度まとめるように重ね合わせて、その後、装着者の背中のあたりに位置する分岐部材を用いて対応する装着者の肩に向かうように肩帯をY字状に分岐させる安全帯(Y型安全帯)も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、この種の安全帯として、肩帯(及び脚帯)から連続して腰骨あたりで交差させ腿帯を環状に構成
したものが知られている(例えば、特許文献3参照)。更に、このものでは、一対の腿帯が互いに離れすぎないように連結帯で連結させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−223639号公報
【特許文献2】特開2013−81597号公報
【特許文献3】特開平11−333011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の安全帯は、高所作業時に装着者が背中側に接続された命綱によって吊り下げられた状態になると、肩帯や脚帯によって腿帯が引っ張られ、装着者の股関節周りに腿帯がきつく食い込んだ状態となる。このとき、両腿帯を連結する連結帯が臀部側に位置しても、装着者の背中側の命綱で吊り下げられた状態であるので、両腿帯には前方から後方に向かう引っ張り力が付与されて、連結帯が臀部下から位置ずれして連結帯によって重量(装着者の体重)を殆ど受けることができない。
【0008】
これにより、股関節周りにきつく食い込ん
だ腿帯によって装着者が苦痛を感じる不都合がある。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、背中側の命綱による吊り下げ状態の時に、股関節周りへの腿帯の圧迫を軽減することができる安全帯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明は、装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯と、装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯と、前記腿帯に接続される脚帯と、前記肩帯と前記脚帯との少なくとも一方が挿通されて命綱を接続する接続部材と、一対の前記腿帯同士を連結する連結帯とを備える安全帯において、前記肩帯と前記脚帯とは、前記腿帯の前方部分に固定さ
れ、前記脚帯は、前記腿帯への固定位置よりも後方から当該固定位置まで前記腿帯に重合する重合部を備えることを特徴とする。なお、本明細書において、前記腿帯の前方部分とは、装着者の腰骨よりも前方に位置する側を指すものとする。
【0011】
本発明によれば、前記肩帯と前記脚帯とが前記腿帯の前方部分に固定されていることにより、背中側の命綱による吊り下げ状態となると、前記肩帯と前記脚帯とから伝達される装着者の重量(体重)は、前記腿帯の前方部分から斜め後方(腰や背中の方向)への引っ張り力となって、前記腿帯に付与される。
【0012】
腿帯の前方部分に付与された引っ張り力は、装着者の腿(或いは股関節)の前方部分を上方に引き上げるように作用し、腿帯は前側が高くなり後側が低くなって装着者を支持する。そして、両腿帯を連結している連結帯が装着者の臀部の下側に当たるので、装着者は連結帯に大略着座したような状態となる。これにより、従来のように腿帯の後方や側方から腿帯に引っ張り力が付与された場合に比べて、股関節周りへの腿帯の圧迫や食い込みによる装着者の苦痛を軽減することができる。
【0013】
また、本発明において、前記腿帯は、前記脚帯の固定状態を維持して前記重合部を上方向に脱出自在に収容する収容部を備えることが好ましい。
【0014】
前記脚帯は、前記重合部を設けることにより弛みを持った状態で前記腿帯に連結固定される。脚帯の弛みとなる重合部は、腿帯の収容部に収容されて、外部から隠蔽されるので外観低下が防止される。
【0015】
重合部は、装着者の歩行時等に、腿帯の収容部から上方に露出して、脚帯から腿帯への引っ張り力の伝達を比較的小とする。これにより、脚帯による腿帯の動きの制約が緩和されるので、安全帯の装着感を良好とすることができる。
【0016】
また、本発明は、装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯と、装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯と、前記腿帯に接続される脚帯と、前記肩帯と前記脚帯との少なくとも一方が挿通されて命綱を接続する接続部材と、一対の前記腿帯同士を連結する連結帯とを備える安全帯において、前記肩帯と前記脚帯とは、前記腿帯の前方部分に固定され、前記連結帯には、その長手方向に延びる左右一対の折り曲げ部を介して上方に向かって折り返された折返し部が設けられていることを特徴とする。連結帯が折返し部を備えることにより、臀部に接する面を比較的広く確保することができる。これにより、装着者が命綱で吊り下げられた状態のとき、装着者の臀部を連結帯が確実に支え、装着者の重量(体重)に伴う腿帯による股関節周りの締め付けを一層確実に軽減することができる。
【0017】
本発明において、前記肩帯と前記脚帯とは、前記腿帯の前方部分に同一箇所で固定されていてもよく、或いは、前記腿帯の前方部分であって互いに離間する位置で固定されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】本実施形態の安全帯の環状接続部材とその周辺部分を示す説明図。
【
図4】本実施形態の肩帯が一方にずれた状態を示す説明図。
【
図6】本実施形態の安全帯の装着状態を装着者の後側から示す説明図。
【
図7】本実施形態の安全帯の装着状態を装着者の左側から示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図2示すように、本実施形態の安全帯1は、高所で作業する作業員(装着者)に命綱を付けて装着される所謂フルハーネス型のものであり、装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯2,3と、装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯4,5と、装着者の腰に巻き回される腰帯6とを備えている。
【0020】
両肩帯2,3は、同一の帯状の帯状体で構成されており、帯状体の中央部を装着者の背中に位置する環状接続部材7に通してV字状に折り返して構成される。環状接続部材7はD環8(アンカーリング)が一体に設けられて8字形状となっており、環状接続部材7がD環8の位置決めとしてのD環止めとしての機能を兼ね備えている。環状接続部材7にはD環8を介して命綱が接続される。
【0021】
肩帯2,3は、装着者の前方側(胸側)を下方に向かって延び、その下端が、夫々、腿帯4,5の前方部分(装着者の腰骨よりも前方に位置する側)に固定されている。
【0022】
肩帯2,3を腿帯4,5の前方部分に固定することにより、腰帯6に道具袋などを取り付けても肩帯2,3が道具袋などと接触し難く、肩帯2,3が邪魔にならない。
【0023】
また、腿帯4,5は、連結帯300によって連結されており、同一の帯状体で2つの輪を作れるように構成される。環状接続部材7には、一対の腿帯4,5の後前方部分に両端が夫々摺動自在に連結固定される脚帯11が設けられている。脚帯11は、肩帯2,3と同様に、その中央部で環状接続部材7に挿通されて下方へV字状に折り返されている。脚帯11と肩帯2,3とは、腿帯4,5の前方部分の同一箇所に固定されている。
【0024】
図3に拡大して示すように、肩帯2,3及び脚帯11は、肩帯2,3及び脚帯11の大部分をそれぞれ構成する第1帯体100と、第1帯体100よりも短い第2帯体200とでそれぞれ構成されている。
【0025】
図3では、第1帯体100と第2帯体200とを区別し易くすべく、第2帯体200にハッチングを施して示している。第1帯体100は、環状接続部材7に挿入されて折り返されている。第1帯体100は、環状接続部材7で折り返された部分を軸にV字形状に開かれるようにして折り返されている。第2帯体200は、折り返された第1帯体100の内側に配置されている。
【0026】
ここで、環状接続部材7を通って環状接続部材7の一方(例えば装着者の背中に向かう側)から延びる第1帯体100の部分を第1一方部分110、環状接続部材7を通って環状接続部材7の他方(例えば装着者の背中から離隔する側)から延びる第1帯体100の部分を第1他方部分120、環状接続部材7を通って環状接続部材7の一方(例えば装着者の背中に向かう側)から延びる第2帯体200の部分を第2一方部分210、環状接続部材7を通って環状接続部材7の他方(例えば装着者の背中から離隔する側)から延びる第2帯体200の部分を第2他方部分220、とする。
【0027】
第1一方部分110には、第2他方部分220の先端が、環状接続部材7から所定の長さだけ離隔した位置で固定されている。第1他方部分120には、第2一方部分210が、環状接続部材7から所定の長さだけ離隔した位置で固定されている。所定の長さは、安全帯1の安全性に問題がなく、且つ装着者が一方の肩を上方に上げたときに肩帯2,3の長さを微調整できる程度に設定されており、具体的な長さについては安全帯1のサイズ、種類によって異なっている。
【0028】
両腿帯4,5は、互いに連結帯300によって連結されている。両腿帯4,5が連結帯300で連結されることにより、腿帯4,5同士が離れすぎることを防止できる。
【0029】
図5に示すように、連結帯300には、連結帯300の外側(装着者に接触する側とは反対側)から上方に向かって折り返された折返し部310が設けられている。折返し部310の両端部分は、折り返された状態を維持できるように、腿帯4,5に縫い付けられている。
【0030】
本実施形態の安全帯1によれば、一対の腿帯4,5を連結する連結帯300に、上方に向かって折り返された折返し部310を設けることにより、
図6及び
図7に示すように、連結帯300の側縁(上側の側縁)が装着者の臀部に接触し難くなり、装着者に不快感を与えることなく、連結帯300の折返し部310で装着者の臀部をしっかりと包み込むように支えることができる。
【0031】
また、本実施形態の安全帯1によれば、脚帯11と肩帯2,3とが、腿帯4,5の前方部分の同一箇所に固定されていることにより、環状接続部材7のある背中側から命綱による吊り下げ状態となったとき、装着者の重量(体重)が、腿帯4,5の前方部分から斜め後方(腰や背中の方向)への引っ張り力となって、腿帯4,5に付与される。このとき、腿帯4,5は前側が高くなり後側が低くなって装着者を支持する。
【0032】
そして、両腿帯4,5を連結している連結帯300が装着者の臀部の下側に当たるので、装着者は連結帯300に大略着座したような状態となる。これにより、股関節周りへの腿帯4,5の圧迫や食い込みを軽減することができる。よって、吊り下げ状態となった装着者が腿帯4,5から受ける苦痛を軽減することができる。
【0033】
なお、脚帯11と肩帯2,3とは、腿帯4,5の前方部分に固定されていれば同一箇所でなくてもよい。即ち、
図8Aに示すように、肩帯2,3と腿帯4,5との縫製による固定位置aと、脚帯11と腿帯4,5との縫製による固定位置bとが離間していてもよい。
図8A及び
図8Bにおいては、一方の腿帯4及び肩帯2を示しているが、他方の腿帯5及び肩帯3も同様である。
【0034】
また、
図8A及び
図8Bに示すように、脚帯11の下端部(腿帯4,5への固定位置bよりも後方から当該固定位置bまでの部分)に、腿帯4,5に所定の長さ(本実施形態では)重合する重合部12を形成してもよい。
【0035】
重合部12は脚帯11の下端部を折り返して腿帯4,5に沿わせるようにして形成される。そして、腿帯4,5には、各重合部12を収容部13が設けられている。収容部13は、腿帯4,5を夫々2重に構成してその間に形成されている。重合部12は、脚帯11の弛みとして作用する。
【0036】
装着者の歩行時等に脚帯11から腿帯4,5に対して上方への引っ張り力が付与されると、
図8Bに示すように、重合部12が腿帯4,5の収容部13から上方に引き出されて、脚帯11から腿帯4,5に付与される引っ張り力が緩和される。
【0037】
これにより、装着者が動き易くなり、安全帯1の装着感が向上する。しかも、脚帯11から腿帯4,5への引っ張り力が付与されていないときには、重合部12は、腿帯4,5の収容部13内に隠蔽されて、外観が良好となる。
【符号の説明】
【0038】
1…安全帯、2,3…肩帯、4,5…腿帯、7…環状接続部材(接続部材)、11…脚帯、12…重合部、13…収容部、300…連結帯、310…折返し部。