(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物は、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂100質量部に対して、前記アルコキシシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が、シリカ換算で3〜100質量部の範囲内でハイブリッド化されたものである請求項1に記載の擬革。
前記五員環環状カーボネート化合物が、二酸化炭素とエポキシ化合物との反応物であり、該五員環環状カーボネート化合物と、アミノ基を有する化合物との重付加反応物である前記ポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が1〜25質量%取りこまれている請求項1〜3のいずれか1項に記載の擬革。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に発明を実施するための好ましい実施形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の防汚染性擬革は、基材と、基材の表面に形成された表皮層とを有してなり、前記表皮層の形成成分が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂(単に、「ポリヒドロキシウレタン樹脂」とも呼ぶ)を必須のバインダー樹脂成分とし、このバインダー樹脂中に、アルコキシシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が分散してなる状態の、ポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物を含むことを特徴とする。
【0019】
[一般式(1)中、Xは、直接結合を表すか、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜40の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜40の芳香族炭化水素基のいずれかを表し、これらの基の構造中には、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合、カルボニル基、水酸基、ハロゲン原子及び繰り返し単位1〜30の炭素数2〜6からなるポリアルキレングリコール鎖を含んでもよい。Y
1は、炭素数1〜15の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜15の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜15の芳香族炭化水素基のいずれかを表し、これらの基の構造中には、エーテル結合、スルホニル結合、水酸基及びハロゲン原子を含んでもよい。2つのZは、それぞれ独立に下記式(2)〜(5)のいずれかの構造を表し、繰り返し単位内で、同一の構造であっても異なる構造であっていてもよく、且つ、繰り返し単位間においても、同一の構造であっても異なる構造であってもよい。]
【0020】
[式(2)〜(5)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、左側の結合手は、前記一般式(1)中のXと結合し、Xが直接結合の場合は、他方のZと結合し、右側の結合手は酸素原子と結合する。]
【0021】
本発明を構成する上記ポリヒドロキシウレタン樹脂は、例えば、少なくとも1つの五員環環状カーボネート基を有する化合物と、少なくとも1つのアミノ基を有する化合物とを重付加反応させることより得られる。また、上記ポリヒドロキシウレタン樹脂と併用する、本発明を構成する上記アルコキシシラン化合物は、少なくとも1つのシラノール基とアルコキシ基とを有する化合物である。アルコキシシラン化合物は、空気中の水分等でも容易に加水分解する。このため、本発明では、ポリヒドロキシウレタン樹脂中に分散した状態のものを、アルコキシシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物と表現した。本発明の防汚染性擬革は、有機無機の複合材料である上記したポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物を用い、基材表面に、この複合材料からなる皮膜(表皮層)を形成したことで、後述するように、表面に、防汚染性などの優れた機能性が付与された表皮層を有する擬革を実現している。
【0022】
発明者らは、擬革を構成する基材表面の表皮層の形成材料を、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物としたことで、防汚染性を向上させた良好な機能性を有する擬革にできた理由を下記のように考えている。先に述べたように、本発明で使用するアルコキシシラン化合物は、加水分解し易い。そして、アルコキシシラン化合物の加水分解物は、非常に高い親水性を有しており、その親水性により、汚染物質を擬革表面に付着しにくくし、さらには、表面をふき取り易くする効果がある。しかしながら、アルコキシシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物の単独皮膜は、非常に硬く、屈曲性がないことから、擬革への用途としては適切ではない。これに対し、ポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に水酸基を有するため、本発明で使用するアルコキシシラン化合物の加水分解したシラノール基が、一部、共有結合の形成及び水素結合すると考えられ、これにより、両者は相溶性がよく、基材表面に形成した表皮層に、ポリヒドロキシウレタン樹脂のもつ屈曲性が付与され、且つ、上記シラノール基の親水性による防汚染性の向上が実現できたものと考えられる。
【0023】
上記の優れた特性を有し、実用性に優れる本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物は、下記のような製造方法によって容易に得ることができる。例えば、1以上の五員環環状カーボネート基(以下、単に「環状カーボネート基」とも呼ぶ)を有する五員環環状カーボネート化合物と、1以上のアミノ基を有するアミン化合物とを重付加反応させることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂溶液を得る。そして、このポリヒドロキシウレタン樹脂溶液と、少なくとも1つのシラノール基を有するアルコキシシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(以下、単に、「アルコキシシラン化合物」と略す場合がある)を混合し、一部、縮合反応により共有結合を形成させることで、有用なポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物が得られる。さらに、上記で得られた溶液を塗料として基材に塗布し、加熱乾燥することによって、バインダー樹脂であるポリヒドロキシウレタン樹脂のマトリックス中に、均一に分散した加水分解性アルコキシシランの縮合物、すなわち、シリカを膜中に含む、ポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド皮膜(表皮層)が基材の表面に形成される。本発明者らの検討によれば、この皮膜は優れた防汚染性を有しており、形成された擬革は、防汚染性が向上した擬革となる。以下に、各構成について説明する。
【0024】
[ポリヒドロキシウレタン樹脂]
<反応概略>
本発明で用いる複合材料を構成する一つの要素であるポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素を原材料の一つに用いて製造された、1分子中に1以上の環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に1以上のアミノ基を有する化合物とをモノマー単位とし、これらを重付加反応することによって得られたものであることが好ましい。ここで、高分子鎖を構成する、五員環環状カーボネート基を有する化合物とアミン化合物との反応においては、下記に示すように環状カーボネート基の開裂が2種類あるため、2種類の構造の生成物が得られることが知られている。
【0026】
従って、例えば、2官能同士の化合物同士を反応させた場合、2個の五員環環状カーボネート基を有する環状カーボネート化合物と、2個のアミノ基を有するアミン化合物の重付加反応により得られる高分子樹脂は、下記式の4種類の化学構造が生じ、これらはランダム位に存在すると考えられる。
【0027】
[上記式中のR
1、R
2は、そのモノマー単位由来の炭化水素又は、芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中には、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでもよい。]
【0028】
このように、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、主鎖にウレタン結合と水酸基を有した化学構造を持つことが特徴である。これに対し、従来から工業利用されているポリウレタン樹脂の製法であるイソシアネート化合物とポリオール化合物との付加反応では、主鎖に水酸基を有することは不可能であり、上記構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂は、この点で、従来のポリウレタン樹脂とは明確に区別される構造を持ったものである。
【0029】
<五員環環状カーボネート化合物>
本発明を構成する上記したポリヒドロキシウレタン樹脂は、1分子中に1つ以上の五員環環状カーボネート基を有する化合物(以下、「環状カーボネート化合物」と呼ぶ場合がある)と、1分子中に1つ以上のアミノ基を有する化合物(以下、単に「アミン化合物」と呼ぶ場合がある)から得ることができる。使用する環状カーボネート化合物としては、例えば、下記の式(6)で示される、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応で得ることができる環状カーボネート化合物(a)を使用することができる。二酸化炭素を原料とした環状カーボネート化合物(a)を用いることで、前記した一般式(1)で示される繰り返し単位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂中に二酸化炭素由来の−O−CO−結合を効率的に導入することができる。
【0030】
[式(6)中、Xは、前記一般式(1)中のXと同義である。]
【0031】
また、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂を製造する場合、上記環状カーボネート化合物(a)とともに、下記一般式(7)で示される、(多価)アルコール、イソシアネート化合物及びグリセリンカーボネートの反応で得られる環状カーボネート化合物(b)を使用することも好ましい形態である。さらに、上記した環状カーボネート化合物(a)及び環状カーボネート化合物(b)の他にも、環状カーボネート化合物を併用してもよいが、本発明においては、環状カーボネート化合物の少なくとも1つは、前記した環状カーボネート化合物(a)であることが好ましい。
【0032】
[一般式(7)中、Bは、炭素数1〜400の、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素のいずれかを表し、これらの構造中に、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合、カーボネート基、水酸基又はハロゲン原子を含んでいてもよい。Y
2は、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜40の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜40の芳香族炭化水素基のいずれかを表し、これらの構造中には、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合、水酸基、ハロゲン原子を含んでいてもよい。mは、1〜10を示す。]
【0033】
上記した構造の環状カーボネート化合物(b)を使用することで、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂は、ポリオール変性のポリヒドロキシウレタン樹脂を含むものになる。このため、形成した皮膜は、柔軟性に優れたものになり、擬革の表皮層の形成材料に使用した場合、ソフトフィール性や耐寒性などに優れたものとなる。また、環状カーボネート化合物(b)は、前記した環状カーボネート化合物(a)を得る際に使用するエポキシ原料よりも原料の選択性が高く、また、その製造工程が短いといったメリットもあり、これらの点でも併用することが好ましい。
【0034】
(環状カーボネート化合物(a)の製造方法)
前記した式(6)で示される環状カーボネート化合物(a)は、下記の反応によって合成できる。具体的には、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させる。この結果、二酸化炭素をエステル部位に固定化した環状カーボネート化合物(a)を得ることができる。
【0036】
上記のようにして二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物(a)を使用することによって、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のポリヒドロキシウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素の有効利用の立場からはできるだけ高くなる方がよいが、例えば、上記した環状カーボネート化合物を用いることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に1〜25質量%の範囲で、二酸化炭素を含有させることができる。
【0037】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部が好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるために、トリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0038】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであればいずれのものも使用可能である。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤が挙げられる。
【0039】
本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂を得る際に使用される環状カーボネート化合物の構造は、1分子中に1つ以上の5員環環状カーボネート基を有するものであって、アミン化合物と反応させた場合に、本発明で規定する一般式(1)で示される構造の繰り返し単位を形成できるものであればよく、いずれも使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれの環状カーボネートも使用可能である。以下に使用可能な化合物を例示する。
【0040】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つ化合物としては、以下の構造のものが例示される。なお、下記式中のRは、H又はCH
3である。
【0041】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネート化合物としては、以下の化合物が例示される。なお、下記式中のRは、H又はCH
3である。
【0043】
(環状カーボネート化合物(b)の製造方法)
前記した一般式(7)で示される環状カーボネート化合物(b)は、ポリオール、イソシアネート化合物及びグリセリンカーボネートを反応させることによって合成することができる。具体的には、まず、ポリオールとジイソシアネート化合物を、イソシアネート基が水酸基に対して過剰となる配合比で混合し、20〜150℃の温度で理論イソシアネート%になるまで反応させる。これにより、ポリオールの末端にイソシアネート化合物が結合した、主鎖の両末端にイソシアネート基を有する化合物を得ることができる。次いで、グリセリンカーボネートを加えて20〜150℃の温度で1〜24時間反応させれば、一般式(7)で示される環状カーボネート化合物(b)に該当する化合物を得ることができる。下記に上記合成の概略を示した。
【0045】
上記のようにして得られる環状カーボネート化合物(b)は、その構造中にポリオール由来の構造を有するものであり、これを用いて得られるポリヒドロキシウレタン樹脂は、柔軟性に優れた、高い破断伸度を有するポリヒドロキシウレタン樹脂となる。このような樹脂を基材の表面に皮膜(表皮層)を形成する際のバインダー樹脂成分として使用することで、基材の柔軟性に追従できる、ソフトフィール性に優れた皮膜となり、例えば、合成皮革とした場合には、ひび割れの発生を抑制することができるものとなるため好ましい。下記に環状カーボネート化合物(b)を合成する際の概略を示した。また、環状カーボネート化合物(b)を用いて得たポリヒドロキシウレタン樹脂を、ポリオール変性のポリヒドロキシウレタン樹脂と呼ぶ場合がある。
【0046】
環状カーボネート化合物(b)の製造に使用することができるポリオールとしては、従来公知のポリオールを用いることができる。具体的にはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールを用いることができる。
【0047】
ポリエーテルポリオールは2価アルコール類にアルキレンオキシドを付加することにより得られる。2価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。アルキレンオキシドとしてはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシドなどが挙げられる。アルキレンオキシドは2種類以上併用してもよい。また、テトラヒドロフランを開環重合して得られるポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)も使用することができる。
【0048】
ポリエステルポリオールは2価アルコール類とジカルボン酸もしくはジカルボン酸誘導体とを重合させることにより得られる。2価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸などの脂肪族系ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族系ジカルボン酸が挙げられる。2価アルコール類とジカルボン酸はそれぞれ2種類以上を併用してもよい。また、ポリエステルポリオールの別な重合方法としては、2価アルコール類を開始剤としたラクトンの開環重合が挙げられる。
【0049】
ポリカーボネートポリオールの具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリネオペンチルカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ジオール、及びこれらのランダム/ブロック共重合体などを挙げることができる。
【0050】
ポリオールは、市場から入手したポリオールを用いることもできる。また、ポリオールは2種類以上を併用してもよい。
【0051】
環状カーボネート化合物(b)の製造に使用することができるイソシアネート化合物としては、従来公知のポリイソシアネートを用いることができる。イソシアネート化合物の具体例としては、トルエン−2,4−ジイソシアネート、4−メトキシ−1,3−フェニレンジイソシアネート、4−イソプロピル−1,3−フェニレンジイソシアネート、4−クロル−1,3−フェニレンジイソシアネート、4−ブトキシ−1,3−フェニレンジイソシアネート、2,4−ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’−メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o−ニトロベンジジンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジベンジルなどの芳香族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添MDI、水添XDIなどの脂環式ジイソシアネート;これらのジイソシアネートと、低分子量のポリオール又はポリアミンとを、末端がイソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマーなどを挙げることができる。
【0052】
環状カーボネート化合物(b)の合成反応の際には、必要に応じて触媒を加えてもよい。触媒としては、例えば、ジブチルチンラウレート、ジオクチルチンラウレート、スタナスオクトエート、オクチル酸亜鉛、テトラn−ブチルチタネートなどの、金属と有機酸又は無機酸との塩;有機金属誘導体;トリエチルアミンなどの有機アミン;ジアザビシクロウンデセン系触媒などを挙げることができる。
【0053】
環状カーボネート化合物(b)は、溶剤を用いずに合成してもよく、有機溶剤を用いて合成してもよい。有機溶剤としては、イソシアネート基に対して不活性な有機溶剤や、イソシアネート基に対して反応成分よりも低活性な有機溶剤を用いることができる。有機溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;トルエン、キシレン、スワゾール(商品名、コスモ石油社製)、ソルベッソ(商品名、エクソン化学社製)などの芳香族系炭化水素溶剤;n−ヘキサンなどの脂肪族系炭化水素溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネートなどのグリコールエーテルエステル系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;N−メチル−2−ピロリドンなどのラクタム系溶剤などを挙げることができる。
【0054】
<アミン化合物>
本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、上記に列挙したような環状カーボネート化合物と、1分子中に2つ以上のアミノ基を有するアミン化合物とを反応させることで、容易に得ることができる。上記アミン化合物には、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとして、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン(ヘキサメチレンジアミン)、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、2,5−ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0055】
<ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法>
本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、前述の環状カーボネート化合物と、アミン化合物とを重付加反応させることで得ることができ、上記の重付加反応では、例えば、溶剤の存在下又は非存在下、環状カーボネート化合物と、アミン化合物とを、40〜200℃で4〜24時間反応させる。これにより、目的とするポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができる。
【0056】
上記の重付加反応において溶剤を用いる場合、この溶剤は、使用する原料及び得られるポリヒドロキシウレタン樹脂に対して不活性な有機溶剤であればよい。有機溶剤としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、パークロルエチレン、トリクロルエチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0057】
溶剤の存在下で製造されたポリヒドロキシウレタン樹脂は、そのままの状態で用いることもできる。また、貧溶媒を添加してポリヒドロキシウレタン樹脂を沈殿させて回収したり、加熱して溶剤を揮発させた後、用途に適した溶剤に再溶解して使用することもできる。
【0058】
上記の重付加反応においては、反応を促進させるべく、触媒の存在下で反応させることも好ましい。触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジンなどの塩基性触媒;テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などを用いることができる。触媒の使用量は、カーボネート化合物とアミン化合物の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部とすることが好ましい。
【0059】
上記ポリヒドロキシウレタン樹脂は、基材の表面に形成する表皮層のバインダー樹脂成分として用いられるものであるため、その重量平均分子量が、10000〜100000程度のものであることが好ましい。
【0060】
[アルコキシシラン化合物]
本発明の防汚染性擬革は、基材の表面に形成された表皮層が、上記した一般式(1)で示される繰り返し単位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂をバインダー樹脂成分としてなり、該バインダー樹脂中に、アルコキシシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が分散されてなることを特徴とする。すなわち、本発明の擬革は、その表皮層が、上記したポリヒドロキシウレタン樹脂と、アルコキシシラン化合物を使用してなる、ポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物(複合材料)で構成されたものであることを特徴とする。以下、アルコキシシラン化合物について説明する。
【0061】
上記したポリヒドロキシウレタン樹脂からなるバインダー樹脂中に分散されている本発明を構成するアルコキシシラン化合物は、例えば、一般式:R
1nSi(OR
2)
4-n(式中、nは0〜2の整数を示し、R
1は炭素原子に直結した官能基を持っていてもよい低級アルキル基、アリール基、又は、不飽和脂肪族残基であり、同一でも異なっていてもよい。R
2は水素原子又は低級アルキル基を示す。)で表される化合物である。上記でいう低級アルキル基とは、炭素数6以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を意味する。前記したように、アルコキシシラン化合物は加水分解し易いため、一部或いは全部が、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物の形態で分散されていてもよい。
【0062】
上記一般式で表されるアルコキシシラン化合物としては、具体的には、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類が挙げられ、これらの部分加水分解縮合物の形態で分散されていてもよい。
【0063】
本発明では、これらのアルコキシシラン類及びこれらの部分縮合物の中でも、特に炭素数4以下のアルコキシ基を持つテトラアルコキシシラン類及びこれらの部分縮合物が好ましい。また、使用するアルコキシシラン化合物全体に対して、テトラアルコキシシラン類及びこれらの部分縮合物の使用量を90質量%以上とすることが好ましい。
【0064】
<有機無機ハイブリッド皮膜の作製方法>
本発明の防汚染性擬革は、基材と、基材の表面に形成された表皮層(皮膜)とを有し、該表皮層を、下記のような簡便な方法で容易に形成することができる。具体的には、基材の表面に、上記したポリヒドロキシウレタン樹脂及びアルコキシシラン化合物を混合して得られる、ポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物(以下、有機無機ハイブリッド組成物と呼ぶ場合がある)を適宜な厚みに塗布し、必要に応じて加熱乾燥することで、ポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド皮膜(以下、有機無機ハイブリッド皮膜と呼ぶ場合がある)を形成することができる。この結果、高い防汚染性を実現できる、工業的に応用可能な性能を有する複合材料である擬革となる。また、ポリヒドロキシウレタン樹脂の構成材料として、前記した手法で得た環状カーボネート化合物(a)を使用することで、その構造中に二酸化炭素由来の構造を導入することができる。さらに、ポリヒドロキシウレタン樹脂の構成材料として、前記した環状カーボネート化合物(b)を使用することで、基材表面に形成される皮膜は、さらに柔軟性、耐寒性にも優れたものとなり、形成した擬革は、防汚染性に加えてソフトフィール性にも優れたものになる。
【0065】
本発明において、表皮層を構成する、ポリヒドロキシウレタン樹脂と、アルコキシシラン化合物との使用割合は、得られる有機無機ハイブリッド皮膜の諸性能を勘案して適宜に決定すればよい。通常は、アルコキシシラン化合物の縮合により生成するシリカが、ポリヒドロキシウレタン樹脂100質量部に対して、生成するシリカ換算で、3〜100質量部程度とするのが好ましい。生成するシリカが少なくなり過ぎると、汚染防止の十分な効果が得られなくなるため、生成するシリカは3質量部以上とするのがより好ましい。また、生成するシリカが多くなり過ぎると、有機無機ハイブリッド皮膜が不透明化したり、脆くなったり、亀裂が生じ易くなる傾向があるため、生成するシリカは、100質量部以下とするのが好ましい。
【0066】
また、本発明を構成する有機無機ハイブリッド組成物には、アルコキシシラン化合物とポリヒドロキシウレタン間の共有結合の形成を促進させるため、アルコキシシラン化合物の加水分解、縮合を行うことのできる硬化触媒を添加することが好ましい。硬化触媒としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸触媒やジブチル錫ジラウレートやオクチル酸錫など錫系の触媒、ホウ酸、リン酸等の無機酸触媒やアルカリ系の触媒が挙げられる。特に、錫系触媒は、アルコキシシラン化合物の使用割合が多い場合でも、透明性の高い塗工物が得られ易いので好ましい。硬化触媒は、所謂触媒量の使用でよい。すなわち、前記触媒の使用量は使用する触媒の活性により適宜決めることができる。通常、使用するアルコキシシランに対しモル比率で触媒能力の高いジブチル錫ジラウレートなどで0.001〜5モル%程度、触媒能力の低いギ酸、酢酸などで0.01〜50モル%程度使用される。
【0067】
本発明における有機無機ハイブリッド組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、粘度調節剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤、安定剤、溶解性を調整するための溶剤等、有機無機系各種添加剤を必要に応じて添加することもできる。その固形分濃度は特に制限はされず、基材への塗布における使用粘度等を考慮して適宜決定すればよいが、通常は、10〜70重量%の範囲に調整するのが実用上好適である。
【0068】
本発明の防汚染性擬革を構成する、上記したようにして基材の表面に形成される表皮層は、その水接触角が40°以下であることを特徴とする。水接触角が上記範囲であると、優れた防汚染性を発揮することができる。なお、水接触角の測定方法については後述する。
【0069】
本発明の擬革は、基布(基材)に充填或いは積層させ、その表面に皮膜を形成する樹脂組成物に、特定の構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂と、アルコキシシラン化合物からなる、ポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物を主成分とするものを用いたことを特徴とする。したがって、擬革の製造方法については、何ら限定されるものではなく、公知の人工皮革、合成皮革の製法をいずれも利用できる。本発明の擬革を構成する基布(基材)としては、不織布などの擬革製造に従来から使用されている基布がいずれも使用でき、特に制限されない。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を、製造例、実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0071】
<環状カーボネート化合物の製造>
(製造例1:化合物(I))
撹拌機、温度計、ガス導入管、及び還流冷却器を備えた反応容器に、エポキシ当量190g/eqのビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:「YD−128」、新日鉄住金化学社製)100部、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)100部、及びヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部を入れて均一に溶解させた。撹拌下、炭酸ガスを0.5L/minの速度で導入しながら、100℃で10時間反応させた。反応後、イソプロピルアルコール2000部を加えて析出した白色沈殿をろ取し、乾燥機で乾燥して白色の粉末を得た。
【0072】
赤外分光光度計(商品名:「FT−720」、堀場製作所社製、以下も同様の装置を使用してIR分析した)を使用して得られた粉末をIR分析したところ、910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収ピークが消失し、新たに、1800cm
-1付近にカーボネート基(カルボニル基)由来の吸収ピークが生じていることが分かった。このため、得られた粉末は、エポキシ基と二酸化炭素との反応により形成された環状構造のカーボネート基を有する、下記式(I)で表される化合物と確認された。下記式(I)から算出される、化合物(I)中の二酸化炭素由来の構造部分の割合(二酸化炭素含有率)は、20.5%であった。
【0073】
【0074】
(製造例2:化合物(II))
撹拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応容器に、ポリエーテルグリコールである数平均分子量が658のポリテトラメチレンエーテルグリコール(商品名「PolyTHF 650S」、BASFジャパン社製)を51.31部、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)を30.27部、及びトルエン(TOL)を17.66部入れて均一に溶解させた後、90℃で2時間反応させた。NCO%が6.59%となったことを確認した後、グリセリンカーボネートを18.42部加え、さらに5時間反応させた。IRにて2260cm
-1付近のNCOピークが消失していることを確認した。TOLを減圧留去し、下記の構造の環状カーボネート化合物(II)を得た。
【0075】
【0076】
<ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造>
(製造例3:樹脂(III))
撹拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応容器に、先に調製した化合物(I)を79.59部、ヘキサメチレンジアミン(HMD)を20.42部、反応溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを42.83部入れた。100℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行った後、プロピレングリコールモノメチルエーテルを107.17部入れて希釈し、固形分40%の化合物を得た。これを樹脂(III)と呼ぶ。
【0077】
上記で得られた樹脂(III)の一部をIR分析したところ、1800cm
-1付近のカーボネート基(カルボニル基)由来の吸収ピークが消失しており、新たに1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収ピークが生じていることが分かった。樹脂(III)についての、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定〔装置:「HLC−8220GPC」(東ソー社製)、カラム:「TSKgel SuperHM−N」×2(東ソー社製);以下の例も同様にして測定〕による数平均分子量は、23000(ポリメタクリル酸メチル換算)であった。
【0078】
(製造例4:樹脂(IV))
撹拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応容器に、先に調製した化合物(I)を79.59部、ヘキサメチレンジアミン(HMD)を20.42部、反応溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを42.83部入れた。100℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行った後、プロピレングリコールモノメチルエーテルを107.17部入れて希釈して化合物を得た。得られた化合物の一部をIR分析したところ、1800cm
-1付近のカーボネート基(カルボニル基)由来の吸収ピークが消失しており、新たに1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収ピークが生じていることが分かった。また、アミン価は固形分換算で0.16mmol/gだった。
【0079】
ここに、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)1.35部とプロピレングリコールモノメチルエーテル2.03部の混合物を滴下し、室温で30分撹拌することで、固形分40%の化合物を得た。これを樹脂(IV)と呼ぶ。得られた樹脂(IV)のIR分析で、2260cm
-1付近のイソシアネート基由来の吸収ピークが消失していることを確認した。樹脂(IV)のGPC測定による重量平均分子量は、35000であった。
【0080】
(製造例5:樹脂(V))
撹拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応容器に、先に調製した化合物(I)を42.60部、先にポリエーテルグリコールを用いて調製した化合物(II)を42.60部、ヘキサメチレンジアミン(HMD)を14.80部、反応溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを42.83部入れた。100℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行った後、プロピレングリコールモノメチルエーテルを107.17部入れて希釈した。得られた化合物の一部をIR分析したところ、1800cm
-1付近のカーボネート基(カルボニル基)由来の吸収ピークが消失しており、新たに1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収ピークが生じていることが分かった。また、アミン価は固形分換算で0.15mmol/gだった。
【0081】
ここに、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)1.27部とプロピレングリコールモノメチルエーテル1.91部の混合物を滴下し、室温で30分撹拌することで、固形分40%のポリオール変性したポリヒドロキシウレタン樹脂化合物を得た。これを樹脂(V)と呼ぶ。得られた樹脂(V)についてのIR分析で、2260cm
-1付近のイソシアネート基由来の吸収ピークが消失していることを確認した。樹脂(V)のGPC測定による重量平均分子量は、35000であった。
【0082】
<擬革の製造例>
(擬革用基布シートの製造)
織布上に接着剤層としてポリウレタン系樹脂溶液(商品名:レザミンUD−602S、大日精化工業社製)を、乾燥時の厚さが20μmとなるように塗布及び乾燥して、擬革用基布シートを作成した。
【0083】
(実施例1)
撹拌機を備えた反応容器に、先に得た樹脂(III)を100部(固形分で40部)、テトラメトキシシラン加水分解縮合物(商品名:「MKCシリケート MS56」、SiO
2:56.5%、三菱化学社製)を14.2部(SiO
2換算値で8.0部)、水を4.7部、ジブチルスズジラウレートを0.1部、プロピレングリコールモノメチルエーテルを73.0部入れ、室温で2時間撹拌することで、固形分25%の有機無機ハイブリッド組成物を得た。得られた組成物を、先に作成した擬革用基布シートに、乾燥時の厚さが30μmとなるように塗布した。そして、130℃で10分加熱乾燥して溶媒を除去することで擬革を得た。
【0084】
(実施例2)
実施例1において、樹脂(III)100部の替わりに、先に得た樹脂(IV)を100部(固形分で40部)用いた以外は実施例1と同様にして、擬革を得た。
【0085】
(実施例3)
実施例1において、樹脂(III)100部の替わりに、先に得たポリオール変性したポリヒドロキシウレタン樹脂である樹脂(V)を100部(固形分で40部)用いた以外は実施例1と同様にして、擬革を得た。
【0086】
(実施例4)
撹拌機を備えた反応容器に、先に得たポリオール変性した樹脂(V)を100部(固形分で40部)、テトラメトキシシラン加水分解縮合物(商品名:「MKCシリケート MS56」、SiO
2:56.5%、三菱化学社製)を3.5部(SiO
2換算値で2.0部)、水を1.2部、ジブチルスズジラウレートを0.03部、プロピレングリコールモノメチルエーテルを87.3部入れ、室温で2時間撹拌することで、固形分25%の有機無機ハイブリッド組成物を得た。得られた組成物を、擬革用基布シートに乾燥時の厚さが30μmとなるように塗布した。そして、130℃で10分加熱乾燥して溶媒を除去することで擬革を得た。
【0087】
(実施例5)
撹拌機を備えた反応容器に、先に得たポリオール変性した樹脂(V)を100部(固形分で40部)、テトラメトキシシラン加水分解縮合物(商品名「MKCシリケート MS51」、SiO
2:52.0%、三菱化学社製)を15.4部(SiO
2換算値で8.0部)、水を5.8部、ジブチルスズジラウレートを0.1部、プロピレングリコールモノメチルエーテルを70.8部入れ、室温で2時間撹拌することで、固形分25%の有機無機ハイブリッド組成物を得た。得られた組成物を擬革用基布シートに乾燥時の厚さが30μmとなるように塗布した。そして、130℃で10分加熱乾燥して溶媒を除去することで擬革を得た。
【0088】
(比較例1)
撹拌機を備えた容器に、先に得た樹脂(III)100部(固形分で40部)、プロピレングリコールモノメチルエーテルを60部入れ、室温で2時間撹拌することで、固形分25%の樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液を擬革用基布シートに乾燥時の厚さが30μmとなるように塗布した。そして、130℃で10分加熱乾燥して溶媒を除去することで擬革を得た。すなわち、本比較例では、皮膜形成用の塗料原料に、ポリヒドロキシウレタン樹脂である樹脂(III)を用いており、他の比較例と同様、有機無機ハイブリッド組成物を用いていない点で実施例と異なる。
【0089】
(比較例2)
比較例1において、樹脂(III)100部の替わりに、先に得た樹脂(IV)100部(固形分で40部)を用いた以外は、比較例1と同様の方法で擬革を得た。
【0090】
(比較例3)
比較例1において、樹脂(III)100部の替わりに、先に得た樹脂(V)100部(固形分で40部)を用いた以外は、比較例1と同様の方法で擬革を得た。
【0091】
【0092】
(二酸化炭素含有量)
表1中に示した二酸化炭素含有量は、各樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリヒドロキシウレタン樹脂の合成反応に使用した化合物(I)を合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、樹脂Iの場合には、使用したカーボネート化合物(I)の二酸化炭素由来の成分は20.5%であり、これより、樹脂の固形組成物中の二酸化炭素濃度は(79.6部×20.5%)/100全量=16.3質量%となる。
【0093】
【0094】
[評価]
上記で得た実施例の組成物で形成した皮膜及び擬革、比較例の樹脂溶液で得た皮膜及び擬革について、各皮膜の破断強度及び破断伸度の測定、各擬革の耐寒屈曲性を下記の方法及び評価基準で評価した。また、各擬革表面の接触角を測定し、さらに、種々の汚染物質に対する擬革表面の耐汚染性を以下の方法で評価した。結果を表3及び表4にまとめて示した。
【0095】
(破断強度及び破断伸度)
実施例の有機無機ハイブリッド組成物及び比較例の樹脂溶液をそれぞれ離型紙上に塗布した後、乾燥して溶媒を除去することで、厚さ約50μmのフィルム(試験片)を作製した。作製した各試験片につき、オートグラフ(商品名「AGS−J」、島津製作所社製)を使用し、JIS K−6251に準拠した測定方法によって、各形成皮膜の室温(25℃)における破断強度(MPa)及び破断伸度(%)を測定し、皮膜の強度を比較した。表3に結果をまとめて示した。
【0096】
(耐寒屈曲性)
実施例及び比較例でそれぞれ得た擬革を用い、フレキソ試験機にて、0℃、屈曲回数2万回の条件で耐寒屈曲性を測定した。試験後の擬革の表皮層を観察し、性状に変化がないものを◎、若干の亀裂があるものは○、亀裂がひどいものを×と評価した。◎と○を合格とし、×を不合格とした。結果を表3にまとめて示した。
【0097】
(水接触角及びn−ドデカン接触角)
実施例及び比較例で得られた擬革の表面に、接触角計(商品名:「ポータブル接触角計 PCA−1」、協和界面科学社製)により、水2μL又はn−ドデカン2μLを滴下し、θ/2法によってそれぞれの接触角を算出した。結果を表4にまとめて示した。
【0098】
(耐汚染性)
表4に示した各汚染物質を塗膜上に滴下し、室温(20℃)にて18時間放置後、水を含ませた布で汚染物質を擦り取り、表面に残った汚染具合を目視で判定し、下記の基準で評価した。◎、○、△を合格とし、×を不合格とした。
<判定基準>
◎:全く跡が残らない(拭取り時に力が不要)。
○:全く跡が残らない(拭取り時にやや力が必要)。
△:僅かに跡が残る。
×:完全に跡が残る。
<汚染物質>
コーヒー:ネスカフェゴールドブレンド10gを水100mlに溶解して作成。
醤油:キッコーマン社製の「濃い口醤油」をそのまま使用。
水性ペン:PILOT社製の黒
油性ペン:寺西化学工業社製の「マジックインキ No.500」の黒
【0099】
【0100】
【0101】
表4に示した評価結果から明らかなように、実施例に示した本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂−シリカハイブリッド組成物を用いた擬革は、ベースに、アルコキシシラン化合物を含まない比較例に示した従来のポリヒドロキシウレタン樹脂を用いた擬革と比較して、各種の汚染物質に対して優れた耐汚染性を示し、特に防汚染性擬革として有用であることが確認された。この優れた耐汚染性は、ポリヒドロキシウレタンとシリカの複合化によって、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂と比較して水接触角が低下したために発現したと考えられる。
【0102】
実施例の擬革表面の皮膜は、ポリヒドロキシウレタン樹脂にアルコキシシラン化合物を複合化させた構成であるが、表3に示したように、擬革としての使用が可能な強度を保っていることが確認された。さらに、表3に示したように、実施例3、実施例4、実施例5の擬革を構成する皮膜は、いずれも高い破断伸度を有しており、また、これらの擬革は耐汚染性とともに耐寒屈曲性も有している。
【0103】
本発明の擬革において、皮膜形成成分中の必須成分であるカーボネート化合物は化学構造の一部として二酸化炭素を高濃度で固定化していることより、得られた皮膜も二酸化炭素を固定化した皮膜であり、環境問題に対応する防汚染性擬革として工業的に有用であることが証明された。