(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6767384
(24)【登録日】2020年9月23日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】凍結融解安定性に優れる土壌侵食防止剤
(51)【国際特許分類】
C09K 17/20 20060101AFI20201005BHJP
C09K 17/18 20060101ALI20201005BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
C09K17/20 P
C09K17/18 P
E02D17/20 102Z
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-554127(P2017-554127)
(86)(22)【出願日】2016年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2016085477
(87)【国際公開番号】WO2017094747
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-232653(P2015-232653)
(32)【優先日】2015年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】福田 皓一
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏典
(72)【発明者】
【氏名】小手 和洋
【審査官】
小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】
韓国登録特許第10−1088355(KR,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0131562(US,A1)
【文献】
米国特許第3651649(US,A)
【文献】
国際公開第2015/122333(WO,A1)
【文献】
特開2000−129259(JP,A)
【文献】
特開昭60−004587(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101080479(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00− 17/52
E02D 17/00− 17/20
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性樹脂エマルジョンと水溶性高分子とを含む土壌侵食防止剤であって、前記水性樹脂エマルジョンが、主モノマーに由来する構造単位100質量部に対し多官能モノマーに由来する構造単位0.01〜0.10質量部を含有する事を特徴とし、水性樹脂エマルジョンの含有量が99〜93質量%、水溶性高分子の含有量が1〜7質量%である事を特徴とする土壌侵食防止剤。
【請求項2】
前記水性樹脂エマルジョンが、主モノマーに由来する構造単位100質量部に対し多官能モノマーに由来する構造単位0.05〜0.10質量部を含有する事を特徴とする、請求項1に記載の土壌侵食防止剤。
【請求項3】
酢酸ビニルに由来する構造単位を含む水性樹脂エマルジョンを用いる事を特徴とする、請求項1又は2に記載の土壌侵食防止剤。
【請求項4】
エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンを用いる事を特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の土壌侵食防止剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の土壌侵食防止剤を使用した緑化工法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の土壌侵食防止剤を吹付資材1m3当たり1〜10kg使用した緑化工法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の土壌侵食防止剤を吹付資材1m3当たり1〜10kg使用した吹付資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造成地、道路、ダムなどの建設での盛土や切土によって形成される法面等からの土壌の侵食を防止するために好適に使用される土壌侵食防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
造成地、道路、ダムなどの建設では盛土や切土が行われ、それによって形成される法面は、そのまま放置すると降雨や風化などによって侵食され、地滑りや落石などの事故が発生する。そのために、特許文献1では、水膨潤性吸水性樹脂、界面活性剤及び合成樹脂エマルジョンからなる土壌乾燥防止剤を吹付資材1m
3当り0.5〜1.5kgの割合で配合した吹付資材を法面に対して吹き付けることによって、土壌の侵食を防止している。
【0003】
法面工事に使用される資材は倉庫等に保管されることもあるが、現場に運び込みシート等をかぶせて保管されることもある。寒冷地の冬場には、保管場所によっては氷点を下回ることがあり、土壌侵食防止剤が凍結し凝集するなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4048800号公報
【特許文献2】特開2000−129259号公報
【特許文献3】特表2011−510135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
土壌侵食防止剤に関し特許文献1に記述があるものの、特許文献2ではポリアクリルアマイド系の樹脂に関するものであり、特許文献3ではアルコキシル化化合物を構成成分としたものであり、酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの凍結融解安定性改良に関する技術は知られていない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、土壌侵食防止効果を損なうことなく凍結融解安定性を向上させる土壌侵食防止剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)水性樹脂エマルジョンと水溶性高分子とを含む土壌侵食防止剤であって、水性樹脂エマルジョンが、主モノマーに由来する構造単位100質量部に対し多官能モノマーに由来する構造単位0.01〜0.10質量部を含有する事を特徴とし、水性樹脂エマルジョンの含有量が99〜93質量%、水溶性高分子の含有量が1〜7質量%である事を特徴とする土壌侵食防止剤。
(2)水性樹脂エマルジョンが、主モノマーに由来する構造単位100質量部に対し多官能モノマーに由来する構造単位0.05〜0.10質量部を含有する事を特徴とする、(1)に記載の土壌侵食防止剤。
(3)酢酸ビニルに由来する構造単位を含む水性樹脂エマルジョンを用いる事を特徴とする(1)又は(2)に記載の土壌侵食防止剤。
(4)エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンを用いる事を特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の土壌侵食防止剤。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の土壌侵食防止剤を使用した緑化工法。
(6) (1)〜(4)のいずれかに記載の土壌侵食防止剤を吹付資材1m
3当たり1〜10kg使用した緑化工法。
(7) (1)〜(4)のいずれかに記載の土壌侵食防止剤を吹付資材1m3当たり1〜10kg使用した吹付資材。
【発明の効果】
【0008】
本発明者による実験によれば、水性樹脂エマルジョン中の多官能モノマー含有量が多いほど、より少ない水溶性高分子添加量で凍結融解安定性が良好になることがわかった。また、同量の水溶性高分子を含有した土壌侵食防止剤の場合では、水性樹脂エマルジョン中の多官能モノマー含有量ごとに凍結融解安定性に差異があることがわかった。具体的には、主モノマーに由来する構造単位100質量部に対し多官能モノマーに由来する構造単位0.01〜0.10質量部を含有する水性樹脂エマルジョンと、水溶性高分子の含有量が水性樹脂エマルジョンに対し1〜7質量%である土壌侵食防止剤が優れた効果を発揮することを見出し、本発明の完成に至った。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0010】
本発明の土壌侵食防止剤は、水性樹脂エマルジョンと水溶性高分子とを含む土壌侵食防止剤であって、主モノマーに由来する構造単位100質量部に対し多官能モノマーに由来する構造単位0.01〜0.10質量部を含有する水性樹脂エマルジョンと、水溶性高分子の含有量が水性樹脂エマルジョンに対し1〜7質量%である事を特徴とする。好ましくは、主モノマーに由来する構造単位100質量部に対し多官能モノマーに由来する構造単位は0.05〜0.10質量部、水溶性高分子の含有量が水性樹脂エマルジョンに対し1〜5質量%である。
【0011】
水性樹脂エマルジョンの種類は、水を分散媒、樹脂を分散質としたものであれば特に限定されず、主モノマーとして、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、スチレン、エチレン、ブタジエン等の、種々のオレフィン系化合物を単独または複数用いて重合し調製した水性樹脂エマルジョンが使用できる。具体的には、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、酢酸ビニル共重合体エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂エマルジョン、スチレンアクリル酸エステル共重合体エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、スチレン−ブタジエン共重合体エマルジョン、ビニリデン樹脂エマルジョン、ポリブテン樹脂エマルジョン、アクリルニトリル−ブタジエン樹脂エマルジョン、メタアクリレート−ブタジエン樹脂エマルジョン、アスファルトエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、シリコン樹脂エマルジョンなどが例示され、このうち、酢酸ビニルに由来する構造単位を含む樹脂のエマルジョン(酢酸ビニル樹脂エマルジョン、酢酸ビニル共重合体エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン等)が好ましく、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンがさらに好ましい
。
【0012】
本発明における多官能モノマーとは、共重合体の構成成分となった場合に、二個以上のエチレン性二重結合を供給し得るモノマーを意味し、具体的にはトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレートなどを例示することができる。
【0013】
水性樹脂エマルジョンの製造方法は、特に限定されないが、例えば、水を主成分とする分散媒中に乳化剤とモノマーを添加し、撹拌させながらモノマーを乳化重合させることによって製造することができる。この製造時に使用するモノマーの種類や添加速度によって、得られるエマルジョンのトルエン不溶分を変化させることができる。乳化剤としては、イオン性(カチオン性・アニオン性・双性)界面活性剤や非イオン性(ノニオン性)界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、アルキルグリコシドのような低分子系界面活性剤、あるいはポリエチレングリコールやポリビニルアルコールのような高分子系界面活性剤が挙げられ、高分子系界面活性剤が好ましい。高分子系界面活性剤は、ポリビニルアルコールからなるものが特に好ましく、その平均重合度は例えば200〜2500であり、400〜2200が好ましく、500〜2000がさらに好ましい。ポリビニルアルコールは、平均重合度が大きいほど乳化分散力が高まるので、所望の分散度のエマルジョンが得られるように、適切な平均重合度を有するポリビニルアルコールを使用すればよい。また、ポリビニルアルコールは、平均重合度が互いに異なる複数種類のものを組み合わせて使用してもよい。ポリビニルアルコールのケン化度は、特に限定されないが、例えば、70%以上であり、80〜95%が好ましい。ケン化度が低すぎると極端に水への溶解性が低下し、特殊な溶解方法を用いなければ溶解できず、工業的には使用し難いからである。ポリビニルアルコールは、ケン化度が低いほど乳化分散力が高まるので、所望の分散度のエマルジョンが得られるように、適切なケン化度を有するポリビニルアルコールを使用すればよい。乳化剤は異なる複数種類のものを組み合わせて使用してもよい。乳化剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、分散媒100質量部に対して0.5〜20質量部であり、1から10質量部が好ましい。乳化剤は添加量が多いほど乳化分散力が高まるので、乳化剤の添加量は、所望の分散度のエマルジョンが得られるように、適宜調整される。
【0014】
土壌侵食防止剤の固形分率は、25〜60質量%であり、30〜40質量%が好ましい。この固形分率が低すぎると、土壌侵食防止剤のポリマー量が少なすぎて土壌侵食防止効果が弱く、固形分率が高すぎると粘度が高くなりすぎて吹付資材に配合することが容易でなくなり、また、凍結融解安定性が低下する傾向があるからである。
【0015】
また、本発明の水性樹脂エマルジョンに含まれる水溶性高分子は、特に限定されず、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類;デンプン、カラギーナン、マンナン、アガロース、デキストラン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸又はその塩;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸又はその塩ポリメタクリル酸又はその塩;ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等のアクリルアミド類;ヒアルロン酸及びその塩、コンドロイチン硫酸及びその塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンが例示され、複数種を組み合わせて使用することもできる。また、水と混和するノニオン性界面活性剤も用いることができ、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類又はポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等が例示される。
【0016】
水溶性高分子は土壌侵食防止剤中の含有量が多いほど水性樹脂エマルジョンの凍結融解安定性が向上するが、一方で土壌侵食防止効果は低下する傾向にある。このため含有される水溶性高分子は1〜7質量%が好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。
【0017】
次に、本発明の土壌侵食防止剤の使用方法について説明する。この土壌侵食防止剤は保護すべき面に対して単独で吹き付けてもよく、土壌を主体とし、種子、肥料などを混合した吹付資材に配合して吹付資材と共に保護すべき面に対して吹き付けてもよい。吹付資材を対象面に吹き付ける工法に特に制限はなく、例えば、種子散布工、客土吹付工、基材吹付工などを挙げることができ、あるいは、対象面が広大な場合には、ヘリコプターなどの航空機から実播して吹き付けることもできる。
【0018】
使用する吹付資材に特に制限はなく、例えば、バーク堆肥、ピートモスなどの有機質資材又は砂質土に、種子、肥料などを混合したものを用いることができる。
【0019】
土壌侵食防止剤の添加量は、特に限定されないが、吹付資材1m
3に対して1〜10kg、好ましくは4〜6kgになるように添加する。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を説明する。以下の説明中で特に断りがない限り、「部」、「%」は、それぞれ、「質量部」、「質量%」を意味する。
【0021】
(製造例1:水性樹脂エマルジョン1)
攪拌機付きの高圧重合缶に、予め100部の純水に乳化剤としてデンカポバールB−05(鹸化度88mol%、平均重合度600、電気化学工業社製)1.6部及びデンカポバールB−17(鹸化度88mol%、平均重合度1700、電気化学工業社製)2.7部、助剤としてホルムアミジンスルフィン酸0.1部、酢酸ソーダ0.2部、硫酸第一鉄七水和物0.005部、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム0.01部を溶解したものを投入後、攪拌下酢酸ビニルモノマー57部、エチレン19部、及びトリアリルシアヌレートモノマー0.06部を充填し内液温度を55℃とした後、5%t−ブチルハイドロパーオキサイド水溶液2.7部を連続添加し重合を行った。重合途中に酢酸ビニルモノマーを25部、トリアリルシアヌレートモノマーを0.02部分添した。未反応の酢酸ビニルモノマー量が2%未満になるまで重合を継続した。
重合後に残存するエチレンをパージし、生成したエマルジョン中の未反応の酢酸ビニルモノマーを減圧除去した結果、表1に記した、主モノマーに対する多官能モノマーの含有部数が0.10部である水性樹脂エマルジョン1を得た。
【0022】
(製造例2〜6:水性樹脂エマルジョン2〜6)
以下表1記載の組成で製造例1に準じた手順で重合を行い、表1に記した通り、それぞれ主モノマーに対する多官能モノマーの含有部数が0.05部である水性樹脂エマルジョン2、主モノマーに対する多官能モノマーの含有部数が0.01部である水性樹脂エマルジョン3、多官能モノマーを含有しない水性樹脂エマルジョン4、主モノマーに対する多官能モノマーの含有部数が0.20部である水性樹脂エマルジョン5、主モノマーに対する多官能モノマーの含有部数が0.10部である水性樹脂エマルジョン6を得た。
【0023】
(土壌侵食防止剤の調製:実施例1)
製造例1で得た水性樹脂エマルジョン1に対し水溶性高分子としてPEG400(純正化学製)を最終的に得られる水性樹脂エマルジョン全体に対して表2記載の所定の含有量(質量%)となるよう加え、水性樹脂エマルジョン全体の固形分率が30%となるよう適宜水を加えて調整し実施例1の土壌侵食防止剤とした。なお表2において、使用した水溶性高分子種類は「*」で表示した。
【0024】
(土壌侵食防止剤の調製:実施例2〜14及び比較例1〜3)
表2記載の組成、比率に従い実施例2〜14及び比較例1〜3の土壌侵食防止剤とした。なお、水溶性高分子はそれぞれPEG400(純正化学製)、PEG20000(純正化学製)、デンカポバールB−05(鹸化度88mol%、平均重合度600、電気化学工業社製)、デンカポバールB−17(鹸化度88mol%、平均重合度1700、電気化学工業社製)、デンカポバールB−33(鹸化度88mol%、平均重合度3300、電気化学工業社製)、ヒドロキシエチルセルロース(2%水溶液粘度(20℃):200−300mPa・s東京化成工業製)、カルボキシメチルセルロースセロゲン7A(第一工業製薬製)を用いた。
【0025】
得られた土壌侵食防止剤それぞれに対し、凍結融解安定性、土壌侵食防止性能評価を行い、その結果を表2に示す。
【0026】
(トルエン不溶分率測定)
(1)エマルジョン10gをフッ素樹脂板に塗布し(100cm
2程度の面積とする)、23℃で5日間乾燥させる。
(2)乾燥皮膜を5mm角に切断し、スクリュー管に1g入れ、トルエン50gで満たし密栓する。
(3)50℃の湯浴中で5時間振とうする。
(4)200メッシュ金網で濾過し、回収した不溶分をドラフト内で23℃、1晩乾燥後、乾燥機(105℃)にて3時間乾燥させ、不溶分の乾燥重量を測定する。
(5)次式からトルエン不溶分率を求める。トルエン不溶分(%) = 回収不溶分乾燥重量 ÷ 仕込みフィルム重量 × 100
【0027】
(凍結融解安定性評価)
(1)エマルジョンを100ml容器に50g計り取る。
(2)環境試験機中(−20℃)で16時間静置し、凍結させる。
(3)環境試験機から取り出し、30℃の湯浴中で1時間静置し、融解させる。
(4)融解後の状態を目視で観察し、凝集の程度を下記基準で判定する。
○: 凍結前のエマルジョンと同等
△: 流動し液状になるが凝集物が見られる
×: スポンジ状になり流動しない
【0028】
(土壌侵食防止評価)
次に、以下の方法により、作製したサンプルを配合した厚層基材吹付工の植生基盤を作製し、降水試験により流出してくる土壌の量を測定した。
(1)混合: 容器にバーク堆肥(富士見環境緑化社製フジミソイル5号)を7L、高度化成肥料(日東エフシー社製、15−15−15)を21g、種子(カネコ種苗社製イタリアンライグラス)を3.5g、各種侵食防止剤を21g加え混練し、植生基盤材とした。
(2)施工: 植生基盤材を木枠(30cm×30cmの矩形、高さ10cm)に充填し平らに均したのちに上から体積半分まで圧縮した。
(3)養生: 木枠を外し、23℃室内で1晩養生した。
(4)降水: 養生した植生基盤に対し、ジョウロで降水した。植生基盤に9°の傾斜を与え、降水は50cmの高さから1時間に200mmの強さで30分間実施し、流出した土壌量を目視により観察し以下のように判定した。
○: ほとんど流出が認められない。
△: 一部流出が認められる。
×: 全体的に流出が認められる。
【0029】
表2を参照すると、水溶性高分子の含有量が多くなるほど水性樹脂エマルジョンの凍結融解安定性が向上し、土壌侵食防止効果は低下する傾向にあることがわかる。また、同じ水溶性高分子含有量では水性樹脂エマルジョン中の多官能モノマー含有量が多いほど少量の水溶性高分子添加で凍結融解安定性が向上していることがわかる。
【0030】
以上より、主モノマーに由来する構造単位100質量部に対し多官能モノマーに由来する構造単位0.01〜0.10質量部を含有する水性樹脂エマルジョンと、水溶性高分子の含有量が水性樹脂エマルジョンに対し1〜7質量%である事を特徴とする土壌侵食防止剤を使用することによって、土壌侵食防止効果を損なうことなく高い凍結融解安定性を得られることが実証された。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の水性樹脂エマルジョンからなる土壌侵食防止剤は、土壌侵食防止効果を損なうことなく凍結融解安定性に優れることから、寒冷地の冬季においても保管安定性に優れ、緑化工事等に使用できる。