(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態に係る弾性波素子(以下、SAW素子という)について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0011】
また、変形例等において、既に説明された実施形態と共通または類似する構成について、既に説明された実施形態と共通の符号を用い、また、図示や説明を省略することがある。
【0012】
<実施形態>
(SAW素子の構成)
(基本構成)
図1は、本開示の実施形態に係るSAW素子1の基本構成を示す平面図である。
図2は、
図1のII−II線における要部断面図である。SAW素子1は、弾性波としてSAWを利用し、
図1に示すように、圧電基板2、圧電基板2の上面2Aに設けられた励振電極3(以下、IDT電極3と記載する)を有している。IDT電極3は、互いに対向する2本のバスバー31と、各バスバー31から他のバスバー31側へ延びる複数の電極指32と、それぞれの電極指32に対向するダミー電極33を有している。各電極指32のうちダミー電極33と対向する部分を先端部34とする。
【0013】
ここで、本実施形態では、一方の電極指32の先端部34から他方のバスバー31までの間と、他方の電極指32の先端部34から一方のバスバー31までの間との端部領域A1,A2(後述の
図3参照)における電極指32,ダミー電極33の形状を後述の構成とすることにより、損失の少ないSAW素子1を提供することができる。以下、各構成について詳述する。
【0014】
圧電基板2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)結晶またはタンタル酸リチウム(LT:LiTaO
3)結晶または水晶(SiO
2)からなる圧電性を有する単結晶の基板によって構成されている。カット角は適宜なものとされてよい。例えば、LTであれば、42°±10°Y−Xカット,0°±10°Y−Xカットなどである。ニオブ酸リチウムであれば、128°±10°Y−Xカットまたは64°±10°Y−Xカットなどである。
【0015】
なお、以下では、主として圧電基板2がLTからなる38°以上48°以下Y−Xカットである態様を例にとって説明するものとする。特に断りがない限り、後述するシミュレーション結果等は、LTからなる38°以上48°以下Y−Xカットのものである。
【0016】
圧電基板2の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、圧電基板2の厚み(z方向)は、平面方向全体に亘って一定であり、0.2mm以上0.5mm以下を例示できる。
【0017】
圧電基板2の上面2AにはIDT電極3が配置されている。IDT電極3は、
図1に示すように、第1櫛歯電極30aおよび第2櫛歯電極30bを有している。なお、以下の説明では、第1櫛歯電極30aおよび第2櫛歯電極30bを単に櫛歯電極30といい、これらを区別しないことがある。
【0018】
櫛歯電極30は、
図1に示すように、互いに対向する2本のバスバー31(第1バスバー31a,第2バスバー31b)と、各バスバー31から他のバスバー31側へ延びる複数の電極指32とを有している。そして、1対の櫛歯電極30は、第1電極指32aと第2電極指32bとが、弾性波の伝搬方向に互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。第1電極指32aは第1バスバー31aに電気的に接続されており、第2電極指32bは第2バスバー31bに電気的に接続されている。
【0019】
ここで、第1バスバー31aと第2バスバー31bとは異なる電位に接続されている。
【0020】
また、櫛歯電極30は、それぞれの電極指32に対向するダミー電極33を有している。第1ダミー電極33aは、第1バスバー31aから第2電極指32bに向かって延びている。第2ダミー電極33bは、第2バスバー31bから第1電極指32aに向かって延びている。ここで、第2ダミー電極33bと第1電極指32aとの間の隙間を第1ギャップGp1とする。同様に、第1ダミー電極33aと第2電極指32bとの間の隙間を第2ギャップGp2とする。
【0021】
バスバー31は、例えば概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されている。従って、バスバー31の互いに対向する側の縁部は直線状である。複数の電極指32は、例えば、概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されており、弾性波の伝搬方向に概ね一定の間隔で配列されている。
【0022】
なお、バスバー31の幅は一定でなくてもよい。バスバー31の互いに対向する側(内側)の縁部が直線状であればよく、例えば内側の縁部を台形の底辺とするような形状であってもよい。
【0023】
これ以降、第1バスバー31aおよび第2バスバー31bを単にバスバー31といい、第1と第2とを区別しないことがある。同様に、第1電極指32aおよび第2電極指32bを単に電極指32といい、第1ダミー電極33aおよび第2ダミー電極33bを単にダミー電極33といい、第1ギャップGp1および第2ギャップGp2を単にギャップGpといい、第1と第2とを区別しないことがある。
【0024】
IDT電極3を構成する一対の櫛歯電極30の複数の電極指32は、図面のx方向に繰り返し配列されるように並んでいる。より詳しくは、
図2に示すように、第1電極指32aおよび第2電極指32bは、圧電基板2の上面2Aに間隔をあけて交互に繰り返し配置されている。
【0025】
このように、IDT電極3を構成する一対の櫛歯電極30の複数の電極指32は、ピッチPt1となるように設定されている。ピッチPt1は、複数の電極指32の中心間の間隔(繰り返し間隔)であり、例えば共振させたい周波数での弾性波の波長λの半波長と同等になるように設けられている。波長λ(2×Pt1)は、例えば1.5μm以上6μm以下である。IDT電極3は、複数の電極指32の殆どをピッチPt1となるように配置することにより、複数の電極指32が一定の繰り返し間隔で配置されるため、弾性波を効率よく発生させることができる。
【0026】
ここでピッチPt1は、
図2に示すように、弾性波の伝搬方向において、第1電極指32aの中心から当該第1電極指32aに隣接する第2電極指32bの中心までの間隔を指すものである。各電極指32は、弾性波の伝搬方向における幅w1が、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。電極指32の幅w1は、例えばピッチPt1に対して0.3倍以上0.7倍以下である。
【0027】
図2は、電極指32の交差領域の中央領域Ac(後述)における断面図である。中央領域Acは、電極指32の先端部34を除き電極指32が互いに交差する領域を指すものであり、交差部分の大部分を占めるものである。言い換えると、中央領域Acは、交差部分の大部分を占める幅で電極指32の繰り返し配列方向(弾性波の伝搬方向)に沿って延びる領域である。さらに言い換えると、中央領域Acは、電極指の交差領域から電極指32の先端部34と重なる領域を除いた領域である。
【0028】
例えば、中央領域Acは、弾性波の伝搬方向と直交する方向において交差幅の85%以上の幅を有していてもよい。ここで、各電極指32の中央領域Acにおける電極厚みをsといい、各電極指32のうち中央領域Acに位置する部分を中央部35とする。
【0029】
この複数の電極指32に直交する方向に伝搬する弾性波が発生する。従って、圧電基板2の結晶方位を考慮した上で、2本のバスバー31は、弾性波を伝搬させたい方向に交差する方向において互いに間隔を開けて対向するように配置される。複数の電極指32は、弾性波を伝搬させたい方向に対して直交する方向に延びるように形成される。なお、弾性波の伝搬方向は複数の電極指32の向き等によって特定されるが、本実施形態では、便宜的に、弾性波の伝搬方向を基準として複数の電極指32の向き等を説明することがある。
【0030】
複数の電極指32の長さ(バスバー31から電極指32の先端までの長さ)は、例えば概ね同じに設定される。なお、各電極指32の長さを変えてもよく、例えば伝搬方向に進むにつれて長くしたり、短くなるようにしたりしてもよい。具体的には、各電極指32の長さを伝搬方向に対して変化させることにより、アポダイズ型のIDT電極3を構成してもよい。この場合には、横モードのスプリアスを低減させたり、耐電力性を向上させたりすることができる。
【0031】
IDT電極3は、
図2に示すように、例えば金属からなる導電層15によって構成されている。この金属としては、例えばAlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)が挙げられる。Al合金は、例えばAl−Cu合金である。なお、IDT電極3は、複数の金属層が積層されていてもよい。IDT電極3の各種寸法は、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。厚みs(z方向)は、例えば、50nm以上600nm以下である。
【0032】
IDT電極3は、圧電基板2の上面2Aに直接配置されていてもよいし、別の部材を介して圧電基板2の上面2Aに配置されていてもよい。別の部材は、例えばTi、Crあるいはこれらの合金等からなる。別の部材を介してIDT電極3を圧電基板2の上面2Aに配置する場合は、別の部材の厚みはIDT電極3の電気特性に殆ど影響を与えない程度の厚み(例えば、Tiの場合はIDT電極3の厚みの5%程度の厚み)に設定される。
【0033】
IDT電極3は、電圧が印加されると、圧電基板2の上面2A付近においてx方向に伝搬する弾性波を励起する。励起された弾性波は、電極指32の非配置領域(隣接する電極指32間の長尺状の領域)との境界において反射する。そして、電極指32のピッチPt1を半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指32によって取り出される。このようにして、SAW素子1は、1ポートの共振子として機能する。
【0034】
反射器4は、弾性波の伝搬方向においてIDT電極3を挟むように配置されている。反射器4は、概ね格子状に形成されている。すなわち、反射器4は、弾性波の伝搬方向に交差する方向において互いに対向する反射器バスバー41と、これらバスバー41間において弾性波の伝搬方向に直交する方向に延びる複数の反射電極指42とを有している。反射器バスバー41は、例えば概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されており、弾性波の伝搬方向に平行に配置されている。
【0035】
複数の反射電極指42は、基本的には、IDT電極3で励起される弾性波を反射させるピッチに配置されている。反射電極指42のピッチは、複数の反射電極指42の中心間の間隔(繰り返し間隔)であり、IDT電極3のピッチPt1を弾性波の波長λの半波長に設定した場合には、ピッチPt1と同じ程度に設定すればよい。
【0036】
また、複数の反射電極指42は、概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されている。反射電極指42の幅は、例えば電極指32の幅w1と概ね同等に設定することができる。反射器4は、例えば、IDT電極3と同一の材料によって形成されるとともに、IDT電極3と同等の厚みに形成されている。
【0037】
保護層5は、
図2に示すように、IDT電極3および反射器4上を覆うように、圧電基板2上に設けられている。具体的には、保護層5は、IDT電極3および反射器4の表面を覆うとともに、圧電基板2の上面2AのうちIDT電極3および反射器4から露出する部分を覆っている。保護層5の厚みは、例えば1nm以上50nm以下である。このような保護層5としてはSiOx膜やSiNx膜を用いることができる。
【0038】
(端部領域A1,A2の構成)
ここで、端部領域A1,A2におけるIDT電極3の電極指32とダミー電極33との形状について詳述する。ここで、端部領域A1は、中央領域Acより第1バスバー31a側の領域をさし、端部領域A2は、中央領域Acより第2バスバー31b側の領域をさすものとする。
【0039】
図3に、IDT電極3の要部拡大平面図を示す。IDT電極3は、端部領域A1,A2において中央領域Acに比べて、厚みが厚く、かつ、幅が細くなっている。具体的には、端部領域A1において、第1電極指32a,第1ダミー電極33aおよび第2電極指32bを、中央領域Acにおける電極指32に比べ、厚みを厚く、幅を狭くしている。同様に、端部領域A2において、第1電極指32a,第2電極指32b,および第2ダミー電極33bを、中央領域Acにおける電極指32に比べ、厚みを厚く、幅を狭くしている。さらに、この例では、バスバー31の厚みも中央領域Acの電極指32の厚みよりも厚くしている、なお、
図3において、厚みの厚くなっている部分に斜線を付している。
【0040】
このような構成とすることで、SAW素子1はロスの発生を低減することができる。
【0041】
次に本構成による効果を検証する。
図4に、実施例1と比較例1,2との周波数特性をFEM法(有限要素法)によりシミュレーションした結果を示す。実施例1は、
図3に示すIDT電極3を備えるSAW素子1をモデル化したものである。比較例1は、端部領域A1,A2と中央領域Acとで膜厚および電極の幅が一様であるIDT電極を備えるSAW素子をモデル化した。比較例2は、端部領域A1,A2の位置にある電極指32,ダミー電極33の全てが厚みを厚くしているIDT電極を備えるSAW素子をモデル化した。すなわち、比較例2は端部領域A1,A2の電極幅を変えていない点で実施例1と異なる。
【0042】
比較例(リファレンスモデル)1のSAW素子の基本構成は下記の通りである。
【0043】
<基本構成>
圧電基板材料:42°YカットX伝搬LiTaO
3
圧電基板厚み:∞(通常LT基板を想定)
電極指材料 :Al
電極指厚み :121nm
電極指本数 :無限本数(周期境界条件)
電極指ピッチ:0.77μm
電極指幅 :0.385μm(Duty 0.5)
交差幅 :30.8μm
ギャップ長 :0.3μm
ダミー電極長:3.08μm
【0044】
なお、上述の基本構成において、一般的なSAW素子に比べ、若干ギャップ長(Gpのy方向における長さ,すなわち電極指先端とダミー電極先端との距離)を長くしている。
【0045】
これに対して、実施例1においては、端部領域A1,A2において電極膜厚を中央領域Acの厚みに対して15%厚くし(139nm厚)、電極幅を0.308μmとし(Duty0.4)、電極指32のうち先端部34の占める長さを3.25%(1μm)としてシミュレーションを行なった。比較例2の端部領域A1,A2における電極厚みも139nmとした。このようなモデルについて行なったシミュレーションの結果を
図4に示す。
【0046】
図4において、横軸は正規化周波数(無次元量)を、縦軸は左軸がインピーダンスの実数部(単位:Ohm)を、右軸がインピーダンスの位相(deg)をそれぞれ示す。インピーダンスの実数部は大きくなるほどロスが大きく、インピーダンスの位相は+90°、−90°から乖離していくほどロスが大きくなることを示す。図中において、実線でインピーダンスの特性を、破線で位相特性を示している。ここで、正規化周波数とは、周波数に電極指のピッチを掛け、適当な速度(ここではSSBW:Surface Skimming Bulk Waveの音速)で割ったものである。
【0047】
比較例1のモデルでは、共振周波数の高周波数側においてロスが発生していることが確認された。これは、適用する周波数が例えば2.3GHzというような高周波数の場合にギャップ長を十分に狭くとれないときに特に顕著となるが、正規化周波数でも傾向が確認されていることから、高周波数帯に限定されることなく生じうる現象と推察される。
【0048】
比較例2のモデルでは、共振周波数の高周波数側においてはロスを比較的低減していることを確認できるが、共振周波数の低周波数側ではロスが増大していることを確認できる。
【0049】
これに対して、実施例1のSAW素子1の場合には、比較例1で確認されていた共振周波数の高周波数側におけるロスの発生を低減することができることを確認した。さらに、実施例1のSAW素子1は、共振周波数よりも低周波数側のロスの発生を低減することを確認した。
【0050】
すなわち、実施例1のSAW素子1は、共振周波数近傍のロスを低減することができることを確認した。
【0051】
このメカニズムについて、圧電基板2の厚み方向へのバルク波の漏洩分布(振動分布)をシミュレーションした結果に基づき考察する。
【0052】
IDT電極直下の振動分布をシミュレーションした結果、共振周波数よりも高周波数の周波数帯では、SAWの伝搬方向からみて先端部34と重なる領域で電極厚を厚くすることでバルク波の漏洩を低減できることを確認した。
【0053】
その一方で、同じ構成であっても、共振周波数よりも低周波の周波数帯においては、電極が厚くなっていることで、先端部34から圧電基板2の下面2B側に向けて斜め下方向に漏洩するバルク波が増加することが分かった。すなわち、共振周波数よりも低周波の周波数帯においては、電極の厚みを厚くすることで先端部34からギャップGpを超えてダミー電極33側方向に向けて漏洩するバルク波が増加することが分かった。そこで、SAWの伝搬方向に沿ってみたときに、漏洩の起点となっている先端部34と重なる領域においては、電極幅を細くすることで、共振周波数より低周波数側のバルク波の漏洩を低減できることを確認した。すなわち、実施例1の構成とすることで、共振周波数の高周波数側および低周波数側の両側においてロスを低減できることを確認した。
【0054】
なお、上述のメカニズムより、ギャップGpおよびその近傍におけるバルク波の漏洩がロスの原因となっている。例えば、ギャップ長が電極指ピッチの略0.2倍となると、先端部34からの基板厚み方向へのバルク波の漏洩が無視できなくなり、共振周波数の高周波数側でのロスが顕著となる。このため、ギャップ長を電極指ピッチの0.2倍以上としたときに、本開示のIDT電極3の構成とするとよい。
【0055】
ここで、電極指32において中央部35は、励振するSAWの特性を定める部分であり、電極指32の大部分を占めるものである。このため、電極指32の先端部34とは、中央部35に比べy方向に延びる長さは短く、例えば電極指32の長さの5%以下とする。さらに、電極厚みを厚くする部分の厚みは、通常の厚みに比べて厚ければよいが、具体的には通常の厚みよりも1.05倍〜1.5倍の範囲で設定すればよい。1.05倍よりも小さい厚みになると共振周波数の高周波数側においてロスが大きくなる。一方で、1.6倍を超える厚みとすると、共振周波数よりも低周波数側においてロスが大きくなる傾向がある。以上より端部領域A1,A2における電極厚みは、中央領域Acの電極指32の厚みsに対して1.05〜1.5倍としてもよい。さらに、電極幅を細くする部分の幅は、中央部35の幅に比べ細ければよいが、例えば、中央部の幅の0.6倍〜0.95倍としてもよい。0.6倍以上とすることで、断線等の発生を低減することができる。0.95倍以下とすることで、共振周波数よりも低周波数側のバルク波漏洩を低減する効果を高めることができる。より具体的には、中央部の幅の0.8倍程度とするとよい。
【0056】
このような構成とすると、端部領域A1,A2における電極(電極指32およびダミー電極33)の弾性波の伝搬方向に沿った断面の断面積は、中央領域Acにおける電極指32の断面積以下の面積となる。
【0057】
<電極幅変更位置による効果検証>
次に、上述の共振周波数低周波数側のロスを低減するために電極幅をどの部分で細くする必要があるかについて検証する。まず、厚みを厚くしたのみで電極幅を変更していない比較例2に加え、比較例3〜5のモデルについてシミュレーションを行なった。
図5にこれら比較例2〜5のモデルを示す。比較例3は、ダミー電極33のみについて電極幅を細くしている。比較例4は、ダミー電極33に加え、ダミー電極33と重なる領域に位置する電極指32の電極幅も細くしている。比較例5は、ダミー電極33に加え、端部領域A1,A2に位置する電極指32の根本側(バスバー31に接続される側)の電極幅を細くしている。言い換えると、端部領域A1,A2に位置する電極指32のうち、先端部34を除く部分の線幅を細くしている。
図5において、
図3と同様に、厚みの厚い部分に斜線を付している。
【0058】
その結果を
図6に示す。
図6(a)において、横軸は規格化周波数であり、縦軸はインピーダンスの実数部を示している。
図6(b)において、横軸は規格化周波数であり、横軸は位相を示している。
図6(c)は
図6(b)の要部拡大図である。
図6からも明らかなように、端部領域A1,A2に位置する電極指32の全てと、ダミー電極33とについて電極幅を細くする必要があることを確認できる。
【0059】
<その他の変形例>
上述の例では、端部領域A1,A2の両方において、電極厚みを厚くし、電極幅を細くした場合について説明したが、どちらか一方の領域のみしてもよい。
【0060】
また、上述の例では、圧電基板は充分に厚い場合について説明したが、その下面に支持基板を貼り合せてもよい。
【0061】
図7に、SAW素子1の変形例の断面図を示す。
図7において、圧電基板2の下面2Bには、支持基板7が貼り合わされている。すなわち、本例では圧電基板2と支持基板7との貼り合せ基板で素子基板を構成している。
【0062】
このような場合には、圧電基板2の厚みを、例えば0.5μm〜30μmとしてもよい。
【0063】
支持基板7は、例えば、圧電基板2の材料よりも熱膨張係数が小さい材料によって形成されている。これによって、SAW素子1の電気特性の温度変化を補償することができる。このような材料としては、例えば、シリコン等の半導体、サファイア等の単結晶および酸化アルミニウム質焼結体等のセラミックを挙げることができる。なお、支持基板7は、互いに異なる材料からなる複数の層が積層されて構成されていてもよい。
【0064】
支持基板7の厚みは、例えば、支持基板7の平面方向全体に亘って一定であり、その大きさは、SAW素子1に要求される仕様等に応じて適宜に設定されてよい。ただし、支持基板7の厚みは、温度補償が好適に行われたり、圧電基板2の強度を補強したりできるように、圧電基板2の厚みよりも厚くされる。一例として、支持基板7の厚みは100μm以上300μm以下である。支持基板7の平面形状および各種寸法は、例えば、圧電基板2と同等である。
【0065】
圧電基板2および支持基板7は、例えば、不図示の接着層を介して互いに貼り合わされている。接着層の材料は、有機材料であってもよいし、無機材料であってもよい。有機材料としては、例えば、熱硬化性樹脂等の樹脂が挙げられる。無機材料としては、例えば、SiO
2が挙げられる。また、圧電基板2および支持基板7は、接着面をプラズマなどで活性化処理した後に接着層無しに貼り合わせる、いわゆる直接接合によって貼り合わされていても良い。
【0066】
このような、素子基板を用いたSAW素子においては、
図3に示す電極構造により、ロスに加え共振周波数近傍のスプリアスを低減することができる。
【0067】
なお、上述の例では、ギャップ長を電極指ピッチの0.2倍とした場合についてシミュレーションを行なった。これは、ギャップ長が電極指ピッチの略0.2倍となると、先端部34からの基板厚み方向へのバルク波の漏洩が無視できなくなり、共振周波数の高周波数側でのロスが顕著となるからである。このため、ギャップ長を電極指ピッチの0.2倍以上としたときに、特に上述の電極構成を設けるとよい。
【0068】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよく、また上述した実施形態は、適宜に組み合わされてよい。