(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力される磁界の向きに応じて電圧値を出力するブリッジ回路を含む磁気センサが出力した電圧値に基づいて、前記磁気センサの磁界検出面に対する垂直方向の軸を中心とした、S極とN極とが前記磁気センサの磁界検出面と対面するよう配置された磁石の回転角度を算出すると共に、記憶された前記回転角度ごとの予め定められた基準値に基づく算出した前記回転角度における前記基準値と前記磁気センサが出力した電圧値とに基づいて、前記磁界検出面に対する前記磁石の傾きの角度を算出する
角度算出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術の場合、水平方向に回転した角度を導くことが出来る。しかしながら、一方で、特許文献1に記載されているような技術の場合、磁石がどのくらい磁気センサとの平行面から垂直方向に偏向しているか(傾いているか)を導き出すことは出来ない。このような傾きを導き出すためには、垂直方向に同様の構造を有するもう1組の磁石と磁気センサを設けることが必要となる。その結果、構成が複雑になる、などの問題が生じていた。
【0006】
このように、水平方向の回転角を算出するとともに、傾きを算出するためには、複数の装置を用いることが必要になる、という問題が生じていた。換言すると、簡易な構造で、水平方向の回転角を算出するとともに偏向角度(傾き)を算出することが不可能である、という問題が生じていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、簡易な構造で、水平方向の回転角を算出するとともに偏向角度(傾き)を算出することが不可能である、という問題を解決することが出来る検出手段、角度センサを提供することにある。換言すると、本発明の目的は、上記問題を解決するために、水平方向の回転角と偏向角を同時に算出するための角度算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため本発明の一形態である検出手段は、
入力される磁界の向きに応じて電圧値を出力するブリッジ回路を含む磁気センサと、
S極とN極とが前記磁気センサの磁界検出面と対面するよう配置された磁石と、
前記磁気センサが出力した電圧値に基づいて、前記磁気センサの磁界検出面に対する垂直方向の軸を中心とした前記磁石の回転角度を算出するとともに、予め定められた基準値と前記磁気センサが出力した電圧値とに基づいて、前記磁界検出面に対する前記磁石の傾きの角度を算出する角度算出手段と、
を有する
という構成を採る。
【0009】
また、上記検出手段は、
前記角度算出手段は、前記基準値と前記磁気センサが出力した電圧値とに基づいて、前記磁気センサの磁界検出面に対する垂直方向の軸であって前記磁石の中心を通る回転軸の傾きである前記磁石の傾きの角度を算出する
という構成を採る。
【0010】
また、上記検出手段は、
前記回転角度ごとの前記基準値を記憶する記憶部を有し、
前記角度算出手段は、前記回転角度を算出するとともに、算出した前記回転角度における前記基準値と前記磁気センサが出力した電圧値とに基づいて前記磁石の傾きの角度を算出する
という構成を採る。
【0011】
また、上記検出手段は、
前記角度算出手段は、算出した前記回転角度における前記基準値と前記磁気センサが出力した電圧値から算出される値との差に応じて前記磁石の傾きの角度を算出する
という構成を採る。
【0012】
また、上記検出手段は、
前記角度算出部は、前記基準値と、前記磁気センサが出力した電圧値から算出される値を前記磁石の設置位置に基づいて生じるずれを補正するための補正値により補正した値と、に基づいて前記磁石の傾きの角度を算出する
という構成を採る。
【0013】
また、上記検出手段は、
前記角度算出部は、前記基準値と、前記磁気センサが出力した電圧値から算出される値を当該電圧値出力時の温度に応じて補正した値と、に基づいて前記磁石の傾きの角度を算出する
という構成を採る。
【0014】
また、上記検出手段は、
前記磁石は、前記磁気センサに対して予め定められた角度分傾けられた状態で設置されている
という構成を採る。
【0015】
また、上記検出手段は、
前記磁気センサは、2つのブリッジ回路を含んでいる
という構成を採る。
【0016】
また、本発明の他の形態である角度センサは、
上記いずれかに記載の検出手段を有する
という構成を採る。
【0017】
また、本発明の他の形態である角度算出方法は、
入力される磁界の向きに応じて電圧値を出力するブリッジ回路を含む磁気センサが出力した電圧値に基づいて、前記磁気センサの磁界検出面に対する垂直方向の軸を中心とした、S極とN極とが前記磁気センサの磁界検出面と対面するよう配置された磁石の回転角度を算出し、予め定められた基準値と前記磁気センサが出力した電圧値とに基づいて、前記磁界検出面に対する前記磁石の傾きの角度を算出する
という構成を採る。
【0018】
また、本発明の一実施例である風向計は、
請求項1乃至7のいずれかに記載の角度センサと、羽根部を有する本体部と、前記本体部を支持する支持部と、を有する風向計であって、
前記本体部は、前記風向計が設置される設置面に対する垂直方向の軸を中心として回転可能なよう前記支持部と連結されるとともに、前記設置面に対して平行な軸を中心として前後方向に揺動可能なよう前記支持部と連結され、
前記角度センサを構成する前記磁気センサは、前記設置面に対して平行となるよう前記支持部に配置され、
前記角度センサを構成する前記磁石は、S極とN極とが前記磁気センサの磁界検出面と対面するよう前記本体部に配置されている
という構成を採る。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以上のように構成されることにより、簡易な構造で、水平方向の回転角を算出するとともに偏向角度(傾き)を算出することが不可能である、という問題を解決することが出来る検出手段、角度センサ、角度算出方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態1>
本発明の第1の実施形態を、
図1乃至
図12を参照して説明する。
図1は、角度センサ1の構成の一例を示すブロック図である。
図2は、磁界検出手段11の構成の一例を示す図である。
図3は、磁気センサ113の一例を示す図である。
図4は、磁気センサ113に含まれるブリッジ回路114の構成の一例を示す図である。
図5は、磁気センサ113が検出する値の一例を示す図である。
図6は、情報格納部14に含まれる情報の一例を示す図である。
図7は、磁石111を360度回転させたときに得られるsin、cosの値を使って回転角(θ) = arctan ( sin / cos )をプロットした値の一例と基準点の座標(0、0)が回転プロットの中心になるように補正し半径rを正規化したプロットの一例を示す図である。
図8は、基準値情報143の一例を示す図である。
図9は、傾き情報144の一例を示す図である。
図10は、磁石111を45度ずつ回転させて、各点で磁石を傾けた際のsin , cosの値のプロットの一例を示す図である。
図11、12は、角度センサを有する風向計の構成の一例を示す図である。
【0022】
本実施形態においては、磁気センサ113などを用いて水平方向の回転角度を算出するとともに、垂直偏向角度である傾きを算出する角度センサ1について説明する。本実施形態における角度センサ1は、1つの磁気センサ113を有しており、当該磁気センサ113の出力結果に基づいて、水平方向の回転角度を算出する。また、後述するように、本実施形態における磁気センサ113は、磁気センサ113の出力結果と基準値との間の差(減少した割合)に応じて、傾きを検出する。このような構成により、本実施形態における角度センサ1は、1つの磁気センサ113の検出結果に基づいて、水平方向の回転角度を算出するとともに傾きを算出することが出来る。
【0023】
[構成]
図1は、本実施形態における角度センサ1(検出手段)の構成の一例を示すブロック図である。
図1を参照すると、角度センサ1は、例えば、磁界検出手段11と、温度センサ12と、角度算出部13と、情報格納部14と、を有している。
【0024】
磁界検出手段11は、
図2で示すように、磁石111と、当該磁石111と対向するよう配置された磁気センサ113と、を有している。磁界検出手段11は、磁石111の回転・傾きに応じて変化する磁界の変化に応じて電圧値を出力する。磁界検出手段11は、角度算出手段13と接続されており、出力した電圧値は角度算出手段13に送信される。
【0025】
磁石111は、径方向2極型や片面2極型などの同一方向(磁気センサ113の磁界検出面と対面する方向)にN極とS極とを有する円柱状の形状の磁石や球形の磁石などであり、支持部112を介して、水平方向の回転角度及び傾きの算出対象となる対象物に支持されている。換言すると、磁石111は、対象物の水平方向の回転に応じて水平方向に回転するとともに、対象物の傾きに応じて傾くよう、支持部112を介して対象物に支持されている。また、磁石111は、
図2で示すように、磁石111の傾きが無い状態において、磁気センサ113と対面する(磁気センサ113側の)S極とN極の割合が等しくなるよう、支持部112により支持されている。
【0026】
磁気センサ113は、磁界検出面を磁石111側に有し磁石111と対向するよう(平行に)配置されており、磁石111の水平方向の回転(磁界検出面に対する垂直方向の軸を中心とした磁石111の回転)や磁界検出面に対する傾き(磁石111の中心を通る軸であって磁界検出面に対する垂直方向の軸である回転軸の傾き)に起因する磁界の変化(磁束の変化)に応じて電圧値を出力する。
図2、
図3を参照すると、磁気センサ113は、例えば、略直方体の形状を有しており、平面視で短手側となる側面に、それぞれ4つの端子を有している。具体的には、磁気センサ113は、A相出力端子+A、−Aと、B相出力端子+B、−Bと、2つの電源端子Vccと、2つの接地端子Gndと、を有している。磁気センサ113は、電源端子Vccを介して外部から電圧を印加されている。また、磁気センサ113は、接地端子Gndを介して接地されている。さらに、磁気センサ113のうちの、A相出力端子+A、−A、B相出力端子+B、−B、は、角度算出部13と接続されており、電圧値を角度算出部13に出力する。以下、磁気センサ113のより詳細な構成の一例について説明する。
【0027】
磁気センサ113は、素子1141(素子1141−1、1141−2、1141−3、1141−4。特に区別しない場合は素子1141と表記する)を4つ有するブリッジ回路114を2つ有している。素子1141としては、ホール素子や磁気抵抗素子(AMR(Anisotropic Magneto Resistance)、GMR(Giant Magneto Resistance)、TMR(Tunneling Magneto Resistance)など)、マグネットインピーダンス素子、など様々な素子を採用することが出来る。
【0028】
図4を参照すると、ブリッジ回路114は、素子1141−1、1141−3と、素子1141−2、1141−4がそれぞれ直列に接続されており、当該直列接続された素子1141−1、1141−3と素子1141−2、1141−4とは、電源に対して並列に接続され、閉回路を構成している。このような構成により、素子1141−1と1141−3との接続点Va(例えば、
図3のA相出力端子+Aと接続される)と、素子1141−2と1141−4との接続点Vb(例えば、
図3のA相出力端子−Aと接続される)と、の間における差動電圧を検出することが可能となる。なお、1つのブリッジ回路114内の全ての素子1141は、同一の種類の素子であり同一方向に磁化固定されているものとする。
【0029】
また、上記のように、磁気センサ113は、ブリッジ回路114を2つ有している。具体的には、素子1141がAMRでない場合、磁気センサ113は、磁化方向を90度ずらした2個のブリッジ回路114を有している。一方、素子114がAMRである場合、磁気センサ113は、磁化方向を45度ずらした2個のブリッジ回路114を有しており、さらに、バイアス磁石を有している。
【0030】
本実施形態においては、このような2つのブリッジ回路114のうちの、一方のブリッジ回路114からの出力をA相、他方のブリッジ回路114からの出力をB相と定義する。従って、
図3で示す構成のうち、一方の電源端子Vccと、一方の接地端子Gndと、A相出力端子+A、−Aと、が2つのブリッジ回路114のうちの一方のブリッジ回路114に対応する端子となる。また、
図3で示す構成のうち他方の電源端子Vccと、他方の接地端子Gndと、B相出力端子+B、−Bと、が2つのブリッジ回路114のうちの他方のブリッジ回路114に対応する端子となる。
【0031】
図5は、A相(例えば、A相出力端子+Aから出力される電圧値からA相出力端子−Aから出力される電圧値を減算した値)、及び、B相(B相出力端子+Bから出力される電圧値からB相出力端子−Bから出力される電圧値を減算した値)の値と磁石の水平方向の回転角度との関係の一例を示している。
図5を参照すると、A相の値が0、B相の値が1、の状態(角度0の状態)から、
図5で示す90度回転した状態に磁石111が回転すると、A相の値が1となりB相の値が0となっていることが分かる。同様に、さらに90度磁石111が回転すると、A相の値が0となりB相の値が−1となっていることが分かる。このように、
図5を参照すると、磁石111の水平方向の回転角度に応じてA相、B相の値が変化しており、磁石111の水平方向の回転角度とA相、B相の値との間には所定の関係があることが分かる。また、
図5を参照すると、A相、B相の値に基づいて、磁石111の水平方向の回転角度を求めることが出来ることが分かる。
【0032】
温度センサ12は、当該温度センサ12周辺の温度を測定することで、磁界検出手段11周辺の温度を測定する。例えば、温度センサ12は、磁気センサ113による電圧値の出力時の温度を測定する。温度センサ12は、角度算出手段13と接続されており、測定結果を角度算出手段13に送信する。
【0033】
角度算出手段13は、磁界検出手段11から受信した電圧値に基づいて、磁石111の水平方向の回転角度(つまり、対象物の水平方向の回転角度)を算出する。また、角度算出手段13は、後述するように、磁界検出手段11からの受信した電圧値や温度センサ12から受信した測定結果、情報格納部14から取得した各種情報などに基づいて、磁石111の垂直方向の偏向角度である傾き(つまり、対象物の傾き)を算出する。
【0034】
なお、角度算出手段13は、例えば、プロセッサなどの演算手段と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、を有しており、記憶装置が記憶するプログラムを演算手段が実行することで、上記算出処理(水平方向の回転角度の算出と傾きの算出)を実行する。
【0035】
角度算出手段13は、例えば下記数1に基づいて、水平回転角θを算出する
[数1]
θ = arctan ( Out A / Out B )
なお、
Out A = ( Vout +A) - ( Vout -A)
Out B = ( Vout +B) - ( Vout -B)
ここで、Vout +Aは、A相出力端子+Aから出力される電圧値を示しており、Vout -Aは、A相出力端子−Aから出力される電圧値を示している。また、Vout +Bは、B相出力端子+Bから出力される電圧値を示しており、Vout -Bは、B相出力端子−Bから出力される電圧値を示している。
【0036】
なお、A相をsinとし、B相をcosとすると、上記数1は、下記数2のように表すことが出来る。
[数2]
θ = arctan ( sin / cos )
数2で示す式は、回転角を求める際に一般的に用いられる、周知の式である。
【0037】
また、角度算出手段13は、上記sin、cosの値(つまり、A相、B相の値)を用いて、磁石111の垂直方向の偏向角度である傾きを算出する。
【0038】
具体的には、例えば、角度算出手段13は、上記sin、cosの値を基準となる値と比較するため、当該sin、cosの値を、温度センサ12から受信した測定結果や情報格納部14から取得した後述する軸ずれ補正値141に基づいて補正する。
【0039】
一般に、磁石111の回転軸と磁気センサ113の回転検出軸との間にはずれ(磁石111の設置位置に基づいて生じるずれ)がある。このずれを補正するため、角度算出手段13は、軸ずれ補正値141を用いて、sin、cosの値の補正を行う。また、一般的なフェライト磁石の場合、温度が1度上昇すると、磁界強度は約0.2%減少する。この温度に起因したsin、cosの値のずれを補正するため、角度算出手段13は、温度センサ12から受信した測定結果と情報格納部14から取得した基準温度を示す基準温度情報142とに基づいて、基準となる温度である場合に検出されたであろう値となるよう、sin、cosの値を補正する。換言すると、水平角の検出であれば、sin、cosとも同様に、磁石111の回転軸と磁気センサ113の回転検出軸との間のずれの影響や温度による変動の影響を受ける。そのため、数2による計算上、上記ずれや温度の変動は影響しない。一方で、偏向角は、sin、cosそれぞれの絶対値と基準値とに基づいて求めることになる。そのため、基準値と比較するための情報(軸ずれ補正値141、基準温度情報142)が必要となる。
【0040】
このように、角度算出手段13は、sin、cosの値を、温度センサ12から受信した測定結果や情報格納部14に格納されている各種情報に基づいて補正する。続いて、角度算出手段13は、情報格納部14から、算出した水平回転角度θの場合における基準値を示す基準値情報143を取得する。そして、角度算出手段13は、基準値情報143が示す基準値と補正したsin、cosの値との間の絶対値の差(減少の割合)(換言すると、基準値に対する、補正したsin、cosの値の割合)を算出し、当該算出した差に基づいて磁石111の傾きを算出する。具体的には、例えば、差と磁石111の傾きとの関係を示す傾き情報144が情報格納部14に格納されており、角度算出手段13は、傾き情報144を参照することで、算出した差に基づいて磁石111の傾きを算出する。
【0041】
角度算出手段13は、例えば、このような処理により、磁石111の水平方向回転角度を算出するとともに、磁石111の垂直方向偏向角度である傾きを算出する。
【0042】
情報格納部14は、ディスク装置や不揮発性メモリなどの記憶装置である。情報格納部14は、角度算出手段13で利用される各種情報を記憶している。
【0043】
図6は、情報格納部14に格納されている情報の一例を示している。
図6を参照すると、情報格納部14は、軸ずれ補正値141と、基準温度情報142と、基準値情報143と、傾き情報144と、を有している。
【0044】
軸ずれ補正値141は、磁石111の回転軸と磁気センサ113の回転検出軸との間に存在するずれに起因した値のずれを補正するための値である。例えば、
図7のC1で示すように、磁石111を360度回転させたときに得られるsin、cosの値をそのままプロットすると、磁石111の回転軸と磁気センサ113の回転検出軸との間にずれがあるため、磁石111を360度1周させてもその中心が座標(X=0、Y=0)に来ない。そこで、磁石111を360度回転させた際の中心が座標(X=0、Y=0)に来るよう補正する。このプロットした円の中心を座標(X=0、Y=0)に補正するための値が軸ずれ補正値141である。
【0045】
軸ずれ補正値141は、例えば、予め、磁石111の傾きがない状態において磁石111を360度回転させて得た値をプロットし、当該磁石111を360度回転させた際のプロットの中心を座標(X=0、Y=0)に補正するための値を算出しておくことで得ることが出来る。このように、軸ずれ補正値141は、予め測定された結果に基づいて予め算出され、格納されている。
【0046】
基準温度情報142は、磁石111の傾きを算出する際の基準となる温度を示している。上述したように、一般的なフェライト磁石の場合、温度が1度上昇すると、磁界強度は約0.2%減少する。この温度に起因したsin、cosの値のずれを補正するため、基準となる温度が予め定められている。なお、基準となる温度は、任意の温度で構わない。
【0047】
基準値情報143は、基準温度情報142が示す温度の際に測定されるsin、cosの値と水平回転角度θとの関係を示しており、上述した軸ずれ補正値141を用いて補正した後の値を示している。基準値情報143は、例えば、予め基準温度情報142が示す温度の際に磁石111を360度回転させて各地点(水平回転角度)におけるsin、cosの値を測定して軸ずれ補正値141で補正する、又は、磁石111を360度回転させて測定した際の温度・軸ずれ補正値141を基に補正する、などの方法により予め測定・算出され、情報格納部14に格納されている。
【0048】
図8は、基準値情報143の一例である。
図8を参照すると、基準値情報143は、水平方向の回転角度ごとのsin(A相)の値とcos(B相)の値とを示している。例えば、
図8の1行目は、角度TA1のときsin(A相)の基準値がa1、cos(B相)の基準値がb1であることを示している。
【0049】
このように、基準値情報143には、水平方向の回転角度ごとの基準値が格納されている。なお、基準値情報143には、任意の角度ごとのsin、cosの値を格納して構わない。
また、基準値情報143をプロットすると、例えば
図7のC2で示すようになる。
図7のC2を参照すると、円の中心が座標(X=0、Y=0)に補正されていること(軸ずれ補正値141により補正されていること)や、円の大きさが補正されていること(基準値温度情報142により補正されていること)が分かる。
【0050】
傾き情報144は、基準値情報143が示す基準値と傾き算出の対象となる出力値(軸ずれ補正値141や基準温度情報142に基づく補正を行ったsin、cosの値)との間の差と、磁石111の傾きと、の関係を示している。
【0051】
一般に、磁気センサ113が検出する磁界強度は、磁石111の傾きによって変動する。具体的には、磁石111が磁気センサ113に対して平行(つまり、傾き=0)のときの磁界強度が最大であり、磁石111が傾くほど磁界強度は減少する。従って、磁石111の傾きが大きくなれば大きくなるほど、基準値と補正を行った出力値との間の差は大きくなることになる(基準値に対する補正を行ったsin、cosの値の割合は小さくなることになる)。そこで、予め、ある水平方向への回転角度の状態(例えば、
図5で示す角度0の状態)において傾きの角度(上方向+τ、下方向−τ。間隔は任意で構わない)を変えながら変化する出力値をそれぞれ検出し、検出結果と基準値との間の差と磁石111の傾きの関係を調べておく。例えば、このような方法により、傾き情報144を予め算出し、格納することが出来る。
【0052】
図9は、傾き情報144の一例である。
図9を参照すると、傾き情報144は、基準値と補正を行った出力値との間の差と磁石111の傾きとの関係を示している。例えば、
図9の1行目は、基準値と補正を行った出力値との間の差がD1である場合、磁石111は+S1傾いていることを示している。
【0053】
なお、傾き情報144は、水平方向の回転角度が様々な場合(例えば、45度ごと)における、それぞれの基準値と補正を行った出力値との間の差と、磁石111の傾きと、の間の関係を含んでいても構わない。つまり、傾き情報144には、水平方向の回転角度ごと(つまり、複数)の差と傾きの関係を示す情報を含むことが出来る。
【0054】
以上が、角度センサ1の構成の一例についての説明である。
【0055】
[計測原理]
続いて、本実施形態における角度センサ1の計測原理について説明する。
【0056】
図5で示したように、磁石111の水平方向への回転と磁気センサ113が出力する出力値(sin、cosの値)には、所定の関係がある。例えば、
図5の場合、磁石111と磁気センサ113が平行でかつその間の距離(Gap)が一定であれば、sinの絶対値とcosの絶対値との和は常に1である。
【0057】
磁石111と磁気センサ113との間の距離(Gap)が変化すれば、磁気センサ113が受ける磁界強度は変化する。一般的に、距離(Gap)が大きくなれば磁気センサ113が出力するsin , cosの値は減少し、距離(Gap)が小さくなれば逆に磁気センサ113が出力するsin , cosの値は増加する。ここで、角度算出手段13が水平方向の回転角度を算出する際に用いる数式はθ = arctan ( sin / cos )である。そのため、角度算出手段13は、sin , cosの値が同じ方向に変化する磁石111と磁気センサ113との間の距離(Gap)の変動に影響されずに正確な水平方向の回転角度を算出することが出来る。
【0058】
また、磁気センサ113の出力値は、磁石111と磁気センサ113との間の距離(Gap)だけでなく、計測時の周囲の温度にも影響される。この場合も、sin , cosの値は同じ割合で変動するため、角度算出手段13は、周囲の温度に影響されずに正確な水平方向の回転角度を算出することが出来る。
【0059】
さらに、磁気センサ113の出力値は、磁石111の傾きによっても変動する。この場合も上記2つの場合と同様に、sin , cosの値は同じ割合で変動するため、角度算出手段13は、磁石111の傾きに影響されずに正確な水平方向の回転角度を算出することが出来る。
【0060】
以上のように、角度算出手段113は、sin , cosの出力値が正確に得られる範囲内において、距離(Gap)、温度変動、傾きの変動を受けずに正確な水平方向の回転角度を算出することが出来る。
【0061】
また、一般的に、角度センサ1において、磁石111は支持部112により支持されている。そのため、磁石111と磁気センサ113との間の距離(Gap)が変化することは考えにくい。従って、温度変動によるsin , cosの出力値の変化を補正すれば、水平方向の回転角度がある状態におけるsin , cosの出力値を補正した値の基準値からの変化(基準値と補正した値との間の差)は、磁石111の傾きの影響によるものであると考えることが出来る。そこで、予め磁石111の傾きと、基準値と補正した値との間の差と、の間の関係を調べておくことで、基準値と補正した値との間の差に応じて、磁石111の傾きを算出することが可能であるものと考えられる。角度算出手段113は、例えば、このような考え方により、磁石111の傾きを算出することになる。また、上記算出をより正確に実現するため、磁石111の回転軸と磁気センサ113の回転検出軸とのずれに起因する値のずれを軸ずれ補正値141により補正した上で、基準値と補正した値との間の差に応じて、磁石111の傾きを算出する。これにより、より正確に磁石111の傾きを算出することが出来る。
【0062】
図10は、磁石111を45度ずつ回転させて、各点で磁石111を上方向、下方向に傾けた際のsin , cosの値をプロットしたものである。
図10の例では、磁石111は磁気センサ113に対して平行ではなく、15度下向に傾けた状態で正規化(補正)を行った。そのため、基準となる円よりも外側にプロットされている箇所が存在する。磁石111を平行な状態で補正を行った場合、基準となる円よりも内側に全てのプロットがされることになる。
【0063】
図10の場合、例えば、時計の文字盤としたときに6時の位置に位置するプロットが水平方向の回転角度が0°の時のプロットである。ここで、6時の位置のプロットのうち、最も下側のプロットが傾きなし(磁界の強さ最大)のときのプロットである。また、6時の位置のプロットでは、傾きの角度を上に向けていくことで、磁界の強さが減って、円の内側に向かって傾き角度に応じたプロットがされている様子がしめされている(円の最も内側は70°上向きに傾けたときのプロットである)。同様に、7時と8時の間にあるプロットが水平45°の時の偏向角を変えたときのプロットであり、9時の位置にあるプロットが水平90°、10時と11時の間が135°、12時が180°、1時と2時の間が225°、3時が270°、4時と5時の間が315°の場合を示している。なお、
図10の場合、各水平方向の回転角度の状態において、同じ角度だけ傾けているため、各地点におけるプロットの線の長さは一定となる。
【0064】
このように、
図10を参照すると、磁石111を傾けたことにより磁界強度(に応じた電圧値)が変化していることが明確に読み取れる。また、
図10からは、水平方向の回転角度を算出する際に、磁石111が必ずしも磁気センサ113と平行である必要はないことが分かる。なお、
図10において、磁石の傾きによっては、水平方向の値が多少変化している。これは、正確に磁石を上方向、下方向に傾けられていないことによるもので、正確に磁石を傾けることができれば、水平方向の変化はないものと考えられる。
【0065】
以上説明したように、水平方向の回転角度は、sin , cosの相対的な値に基づいて計算されることから、測定時の温度や磁石111の傾きの影響を受けずに算出可能であることが分かる。また、測定時の温度や軸のずれに起因するずれを補正すると、基準値と実際に出力され補正されたsin , cosとの間のずれは、磁石111の傾きに応じて現れていることになる。そのため、基準値と実際に出力され補正されたsin , cosとの間のずれを示す差に基づいて、磁石111の傾きを算出することが可能であることが分かる。
【0066】
[効果]
このように、本実施形態における角度センサ1は、磁界検出手段11と、温度センサ12と、角度算出手段13と、情報格納部14と、を有している。このような構成により、角度算出手段13は、磁界検出手段11から受信した出力値に基づいて、水平方向の回転角度を算出することが出来る。また、角度算出手段13は、温度センサ12からの測定結果や情報格納部14に格納されている情報などを加味して、傾きを算出することが出来る。つまり、本実施形態における角度センサ1によると、1つの磁界検出手段11により水平方向の回転角度を算出するとともに、傾きを算出することが出来る。その結果、簡易な構造で、水平方向の回転角を算出するとともに偏向角度(傾き)を算出することが難しい、という問題を解決することが出来る。つまり、簡易な構造で、水平方向の回転角を算出するとともに偏向角度(傾き)を算出することが出来る。
【0067】
なお、基準値情報143は、例えば、予め測定された複数のプロットを通過する円を示す情報により表しても構わない。このような円を示す情報を用いることで、sin、cosの値と水平回転角度θとの関係をより詳細に表すことが出来る。つまり、切れ目なく水平回転角度θに応じたsin、cosの値を算出することが可能となる。
【0068】
また、本実施形態で説明した方法によると、sin, cosの絶対値の減少割合(差)を計算して偏向角度(傾き)を算出している。そのため、本実施形態で説明した方法によると、磁石111が上方向(仰角)、下方向(伏角)のどちらに傾いているかを検出することは出来ない。これに対処するため、磁石111を予め所定角度分傾けて設置しておくことが考えられる。例えば、磁石111を仮に45度上向きに設置しておくことで、検出軸が下向き45度になった時点で(磁石は水平になる)磁力は最大となることになる。換言すると、磁石111を予め45度上向きに設置しておくことで、磁力は検出軸が下向き45度から上に向くにつれて減少することになる。従って、下向き45度の状態からの減少割合を計算すれば、上下45度の範囲で、現在軸がどれだけどちら方向に傾いているかを検出、判別することが可能となる。なお、磁石111を予めどの程度傾けて設置しておくかは、検出したい角度の範囲で任意に定めて構わない。例えば、下向き30度から上向き60度の範囲を検出したい場合、磁石111は30度上向きに設置すればよいことになる。
【0069】
以上のような角度センサ1は、角度を算出することが必要となる様々な場面で活用することが出来る。例えば、角度センサ1は、部品の組み立て時における軸の傾きを検出する際や風向計により風向きを検出する際に用いることが考えられる。
【0070】
図11、
図12は、角度センサ1が組み込まれる風向計の一例である風向計2の構成の一例を示している。
図11を参照すると、風向計2は、例えば、一対の羽根部21と本体部22と支持部23と基台24(設置面)とを有している。
【0071】
図11を参照すると、基台24は、例えば略直方体状の形状を有している。基台24は、一方の面において支持部23を介して本体部22と連結されており、他方の面において風向計2を設置する設置対象と接した状態で当該設置対象に固定される。
【0072】
本体部22は一対の羽根部21を有しており(つまり、本体部22と羽根部21とは一体的に形成されている)、支持部23を介して基台24と連結されている。具体的には、例えば、支持部23は、本体部22の側面を両側から挟持するとともに、本体部22の挟持する部分を挿通し基台24に対して平行な軸を有するU字状部材を含んでおり、当該U字状部材を介して本体部22と連結されている。また、U字状部材の中央部には、基台24に対する垂直方向の軸が挿通しており、U字状部材及びU字状部材と連結される本体部22は、当該垂直方向の軸を中心に水平方向に回転可能なよう構成されている。このような構成により、本体部22は、例えば、羽根部21が風を受けることで、垂直方向の軸を中心として水平方向に回転するとともに、平行方向の軸を中心として前後に揺動することになる。このように、本体部22は、基台24に対する垂直方向の軸を中心として回転可能なよう支持部23と連結されるとともに、基台24に対して平行な軸を中心として前後方向に揺動可能なよう支持部23と連結されている。なお、
図12では、基台24に対して平行な軸を延長した軸である軸Z2と、基台24に対する垂直方向の軸を延長した軸である軸Z1と、を示している。
図12を参照すると、羽根部21を有する本体部22は、軸Z1を中心として水平方向に回転するとともに、軸Z2を中心として前後方向に揺動することが分かる。
【0073】
角度センサ1は、例えば、本体部22や支持部23に組み込まれている。具体的には、例えば、角度センサ1を構成する磁気センサ113は、基台4に対して平行となるよう支持部23に配置されている。また、例えば、角度センサ1を構成する磁石111は、S極とN極とが磁気センサ113の磁界検出面と対面するよう本体部22に配置されている。換言すると、本体部22の内部には磁石111が配置されており、支持部23には磁気センサ113が配置されている。このような構成により、本体部22が回転・傾くことに応じて、磁石111が回転・傾くことになる。また、磁石111の回転・傾きに応じて、磁気センサ113が電圧値を出力することになる。
【0074】
以上が、風向計2の構成の一例である。このような構成により、本体部22は、一対の羽根部21により風を受けると、当該風の風向きに応じて、基板24に対する垂直方向の軸を中心として回転する(水平方向に回転する)とともに、基板24に対して平行な軸を中心として前後方向に揺動することになる。また、風向計2の内部に設置されている角度センサ1により、本体部22の回転・傾きの角度を算出することになる。
【0075】
以上、上記各実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の範囲内で当業者が理解しうる様々な変更をすることが出来る。