(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態及び実施例について
図1〜
図10を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係る震源位置推定システムを示す全体構成図である。
図2は、本発明の第一実施形態に係る震源位置推定方法を示すフロー図である。
【0019】
本発明の一実施形態に係る震源位置推定システム1は、例えば、
図1に示したように、水中に沈められ所定の音波を発震可能な震源2と、略直線状に配列され水中の音波を観測可能な複数の受振器3i(iは1以上の整数)と、複数の受振器3iの観測信号から震源2の直接波Wdを抽出して震源2の位置を推定する制御装置4と、を備えている。
【0020】
震源2は、例えば、油圧サーボを用いた低周波発生装置である。低周波発生装置としては、例えば、特開平8−280089号公報に記載されたように、振動板の振動を油圧で制御することにより水中に音波を発震させる水中音源が使用可能である。震源2として低周波発生装置を使用することにより、所望の周波数及び波形を有する音波を自在に発生させることができる。また、かかる震源2を使用することにより、既知の周波数帯域の音波を発震することができ、エアガンとは異なり再現性の高い観測を行うことができる。
【0021】
なお、震源2から水中に発震される音波は、例えば、10〜100Hz程度の低周波であることが好ましいが、上述した油圧サーボ式の低周波発生装置であれば、100〜500Hzの周波数の音波まで発生させることもできる。また、震源2は、油圧サーボを用いた低周波発生装置に限定されるものではなく、発震する音波の周波数や発震時間等が調整可能である等、発震波形が明確な音波発生装置、すなわち、音波の発震波形を任意に調整可能な音波発生装置であればよい。また、震源2は、震動源として、圧電素子や電動機を用いたものであってもよい。
【0022】
震源2は、例えば、ケーブル21を介して曳航船5に接続されている。震源2は、例えば、水深数十m〜数百mあるいは数千mまでの深い水中に沈められる。かかる水深まで震源2を沈めると曳航船5との距離が離れすぎてしまい、USBL(Ultra Short Base Line)のような水中測位機器では正確な位置を測定することが困難であり、GPS(全地球測位システム)を用いて震源2の位置を直接的に測定することもできない。
【0023】
なお、震源2は、曳航船5に曳航されるものに限定されず、例えば、自走式水中航走体に接続したものであってもよいし、海底に固定したものであってもよい。
【0024】
複数の受振器3iは、例えば、複数のハイドロフォンをケーブルに連結したストリーマケーブル3(曳航型受振器)により構成される。ストリーマケーブル3は、例えば、一端がケーブルを介して曳航船5に接続され、他端がケーブルを介してブイ6に接続されている。曳航船5及びブイ6を用いることにより、ストリーマケーブル3を略直線状に展張することができる。また、ストリーマケーブル3は、図示したように、水中に沈められた状態で展張される。
【0025】
なお、「略直線状」とは、複数の受振器3iが文字通り直線状に配列した場合に限定されるものではなく、左右方向又は上下方向に蛇行している場合や湾曲している場合を含む趣旨であり、全体として一方向に配列した状態を保持することができていればよい。
【0026】
ストリーマケーブル3に配置される受振器3iの個数は任意であるが、少なくとも三個以上であることが好ましい。また、受振器3iは、震源2に近い側から離れる方向に向かってi=1,2,3,…,Nと番号を振るものとし、以下の説明において、各受振器3iをチャンネルと呼ぶこともある。
【0027】
制御装置4は、震源2から発震される音波の周波数、波形、発震時刻等の制御を行う他、震源2の位置を推定する処理を行う。なお、制御装置4は、震源2の制御機能と震源2の位置推定機能とを分離して別の制御装置で処理するようにしてもよい。また、震源2の位置推定機能を有する制御装置4は、曳航船5に配置される場合に限定されず、ブイ6に配置されていてもよいし、専用の作業船に配置されていてもよいし、地上基地に配置されていてもよい。また、ストリーマケーブル3から制御装置4へのデータ伝送は有線であってもよいし無線であってもよい。
【0028】
上述した震源位置推定システム1において、震源2から音波を発震すると、音波は水中で球形状に伝播する。各受振器3iは、震源2からダイレクトに伝播した音波(直接波Wd)、海底や地層等に反射して伝播した音波(反射波Wr)及びノイズ(波の音、船舶のプロペラ音、海洋生物の発する音等)を受信する。各受振器3iが受信した信号(観測信号)は制御装置4に伝送される。
【0029】
一般に、海底探査では、反射波Wrの観測信号を使用して海底の物理的特性を予測している。したがって、通常の海底探査では、震源2の直接波Wdはノイズとして扱われる。本実施形態では、このノイズとして捨てられていた直接波Wdの観測信号を用いて震源2の位置推定を行っている。
【0030】
本発明の第一実施形態に係る震源位置推定方法は、
図2に示したように、水中に沈められた震源2から所定の音波を発震する発震ステップStep1と、水中の音波を略直線状に配列された複数の受振器3iで観測する観測ステップStep2と、観測信号から震源2の直接波Wdを抽出する抽出ステップStep3と、抽出した直接波Wdの観測信号をパルス圧縮するパルス圧縮ステップStep4と、直接波Wdの観測信号から震源2の位置を推定する推定ステップStep5と、を備えている。
【0031】
発震ステップStep1は、
図1に示した震源2から既知の周波数帯域の音波を発震するステップである。上述したように、震源2として低周波発生装置を使用することにより、帯域制限された低周波であって予め設定した波形を有する音波(指令信号)を任意に発震させることができる。
【0032】
観測ステップStep2は、
図1に示したストリーマケーブルに内蔵された複数の受振器3iにより水中の音波を観測する。各受振器3iが受信した音波(観測信号)には、上述したように、震源2の直接波Wd、反射波Wr及びノイズが含まれていることから、観測信号から直接波Wdの観測信号のみを抽出する必要がある。
【0033】
抽出ステップStep3は、受振器3iの観測信号から反射波Wr及びノイズを除去するステップである。例えば、抽出ステップStep3は、FFT(高速フーリエ変換)を行うことにより周波数領域で指令信号に含まれていない帯域を取り除き、窓掛け(重み付けを行う窓関数を掛ける処理)及び逆FFTを行った後、STFT(短時間フーリエ変換)を行うことにより時間周波数領域で直接波Wd以外の成分を取り除き、窓掛け及び逆STFTを行う。
【0034】
本実施形態では、震源2に低周波発生装置を使用していることから、周波数の時間変動が既知であり、時間変動に沿った抽出を行うことができる。また、FFTによる抽出とSTFTによる抽出とに二段階に分けることにより、STFTで時間を区切ることによって周波数分解能が低下して低帯域の周波数を取り除くことが難しい場合であっても、FFTによる抽出によって低帯域の周波数を効果的に取り除くことができる。なお、直接波Wdの抽出方法は上述した方法に限定されるものではない。
【0035】
パルス圧縮ステップStep4は、直接波Wdの観測信号と震源2の指令信号との相互相関をとることによりピーク値を際立たせるステップである。パルス圧縮することにより、小さな振幅を保ったまま幅の長いパルスを変調させた指令信号を送信した後、観測信号と指令信号との相互相関をとることによって、振幅が大きく幅の短いパルスを送信した場合と同じ効果を得ることができ、高い距離分解能を保持することができる。
【0036】
推定ステップStep5は、例えば、図示したように、震源2の位置をパラメータaとして、あるパラメータaを選択し、そのときの到達時間tにおける各受振器3iの観測信号からラドン変換R(a)の値の最大値を計算することによって震源2の位置を推定するステップである。
【0037】
具体的には、
図2に示したように、推定ステップStep5は、初期パラメータを設定する第一ステップStep51と、ラドン変換R(a)の値の最大値を計算する第二ステップStep52と、所定の停止条件を満たしている否か判定する第三ステップStep53と、を備え、所定の停止条件に達するまで第二ステップStep52を繰り返す。
【0038】
ここで、
図3は、推定ステップを示す概念図である。
図3において、横軸はチャンネル(受振器3i)を示し、縦軸は時間(下向きを正とする。)を示している。また、
図3は、チャンネルごとに観測信号の時間変動を図示したものである。また、t
i(x,y,p)は、震源2の位置(X座標及びY座標)及びスローネス(音速の逆数)pを特定した場合における指令信号の各チャンネルでの到達時間を示している。
【0039】
震源2の座標は、i=1の受振器3i(1番目のチャンネル)を原点とし、曳航船5に向かう水平方向を正とするX座標とし、鉛直方向下向きを正とするY座標によって表現される。なお、音速cは、水深、温度及び塩分濃度によって変化する変数である。
【0040】
図示したように、指令信号の到達時間(観測時間)は、チャンネルの番号が大きくなるに連れて遅くなり、t
iは点線で示した双曲線状に表示することができる。また、双曲線状における各チャンネルにおける観測信号の振幅は、チャンネルの番号が大きくなるに連れて小さくなる。したがって、震源2の位置及び音速を推定して特定し、そのときの各チャンネルにおける指令信号の到達時間における振幅を足し合わせることができれば、その加算値から尤もらしい震源2の位置を推定することが可能となる。
【0041】
例えば、震源2の位置及びスローネスpを(x
1,y
1,p)、(x
2,y
2,p)、(x
3,y
3,p)と三種類の推定をした場合において、到達時間t
i(x
1,y
1,p)を通る線上の各チャンネルにおける振幅を足し合わせた場合、到達時間t
i(x
2,y
2,p)を通る線上の各チャンネルにおける振幅を足し合わせた場合、到達時間t
i(x
3,y
3,p)を通る線上の各チャンネルにおける振幅を足し合わせた場合を考察する。
【0042】
このとき、到達時間t
i(x
1,y
1,p)の加算値が最も大きく、到達時間t
i(x
2,y
2,p)の加算値、到達時間t
i(x
3,y
3,p)の加算値と順に小さくなることは図から容易に理解することができる。すなわち、到達時間t
i(x
1,y
1,p)の推定値が尤もらしい震源2の位置であると推定することができる。
【0043】
ここで、ラドン変換とは、パラメータで変化する線に沿う線積分をとる変換である。各チャンネルの信号を足し合わせることで、個々のノイズの影響を小さくし、尤もらしいパラメータを推定することができる。震源2と受振器3iとの位置関係から、指令信号の到達時間t
i(x,y,p)は、p{(x−h
i)
2+y
2}
1/2と表現することができ、受振器3iの位置に対して双曲線状に変化する。なお、h
iはi番目のチャンネルの原点からの水平距離を示している。
【0044】
いま、パラメータa=(x,y,p)と定義すれば、t
i(a)に沿って線積分するラドン変換は、直接波Wdを抽出した後の観測信号と指令信号との相互相関をとった信号のi番目のチャンネルの時刻tにおける振幅をD
i(t)とすると、式(1)のように表される。
【0046】
式(1)は、振幅の最大値を多く通る双曲線において最大となる。つまり、式(1)が最大となるパラメータaが尤もらしいパラメータとなる。なお、ここでの観測信号は、時間に対して離散的であるころから観測信号を一次補間して、時刻t
iにおける振幅を求めるようにしてもよい。
【0047】
上述したように、ラドン変換で得られた領域の最大となる点から震源2の位置を推定することが可能であるが、探索範囲の全てを計算する必要がある。したがって、第三ステップStep53における停止条件は、例えば、探索範囲の全てについてラドン変換したか否かに設定される。
【0048】
一方で、この方法では、探索範囲の全てについてラドン変換しなければならないことから処理に時間を要することとなる。そこで、ラドン変換R(a)を目的関数とし、目的関数を最大化する解を求める非線形計画問題として、式(2)を勾配法で解くことにより、パラメータ推定を高速化するようにしてもよい。
【0050】
ここで、
図4は、本発明の第二実施形態に係る震源位置推定方法を示すフロー図である。
図4に示した震源位置推定方法の推定ステップStep5は、震源2の位置をパラメータaとして、あるパラメータaを選択し、そのときの到達時間における各受振器3iの観測信号からラドン変換R(a)の値の勾配を計算することによって震源2の位置を推定するようにしたものである。
【0051】
具体的には、
図4に示したように、推定ステップStep5は、初期パラメータを設定する第一ステップStep51と、ラドン変換R(a)の値の勾配を計算する第四ステップStep54と、パラメータaの更新を行う第五ステップStep55と、所定の停止条件を満たしている否か判定する第三ステップStep53と、を備え、所定の停止条件に達するまで第四ステップStep54及び第五ステップStep55を繰り返す。
【0052】
第四ステップStep54では、例えば、ネステロフの加速勾配法(Nesterov's Accelerated Gradient)を用いることができる。勾配法は、微分を用いて最適解を求める手法である。本実施形態では、観測信号を連続関数で近似することにより、ラドン変換した領域での微分を考えることができる。また、連続関数で近似することで、1次での近似よりも正確にラドン変換を求めることができ、より正確なパラメータを推定することができる。この連続関数の近似には、例えば、sinc関数を用いることができる。
【0053】
一般に、標本化された信号は標本化定理より、標本化周波数f
sの半分までの帯域のみを含む信号であれば、sinc関数を畳み込むことによって元の連続信号を得ることができる。ここで、sinc関数とは式(3)に示した式である。
【0055】
連続信号をx(t)、標本化周波数f
sで標本化された信号をx
s(t)とすると、x
s(t)はディラックのデルタ関数を用いて式(4)のように表せる。ここで、T
sは標本化周期(=1/f
s)、x
j=x(jT
s)である。また、畳み込む関数g(t)は、g(t)=f
ssinc(f
st)と表せる。よって、連続信号x(t)は、式(4)から式(5)のように表せる。
【0057】
したがって、式(1)のラドン変換は、直接波Wdの抽出後の観測信号と指令信号との相互相関をとった信号のi番目のチャンネルでのkサンプル目の振幅をd(i,j)とすると式(6)のように表すことができる。
【0059】
ネステロフの加速勾配法は、最急降下法の勾配とパラメータの間に別のパラメータをいれることで更新による移動方向を反復全体で平均することにより、収束速度を速くするアルゴリズムである。最急降下法とは、勾配法の中で最も基本的なものであり、勾配のみからパラメータを更新するアルゴリズムである。
【0060】
R(a)を最大化するパラメータaを求めるとき、最急降下法は、a
k+1=a
k+α∇R(a
k)のようにパラメータを更新する。ここで、αは更新の重みを決めるパラメータであり、∇R(a)は、R(a)の勾配を表している。
【0061】
ネステロフの加速勾配法では、a
k+1=a
k+v
k+1のようにパラメータを更新する。ここで、v
k+1=μv
k+α∇R(a
k+μv
k)であり、μ,αは更新の重みを決めるパラメータである。また、vは速度のパラメータであり、勾配∇R(a)によって更新される。速度パラメータvに勾配∇R(a)が反復ごとに加算され平均化されることにより、移動方向を解の方向へ促すことができる。
【0062】
勾配R(a)は、式(7)のように表される。
【0064】
ここで、R
ij(a)=d(i,j)sinc(f
st
i(a)−j+1)であり、∂R
ij/∂t
iは式(8)により表され、∇ti(a)は式(9)により表される。
【0066】
よって、式(7)〜式(9)により∇R(a)は式(10)のように表される。この式(10)を解くことにより、尤もらしい震源2の位置(X座標及びY座標)を推定することができる。
【0068】
かかる第二実施形態における停止条件は、例えば、微分値(勾配の大きさ)が閾値以下であるか否か、パラメータaの変化量が閾値以下であるか否か、ラドン変換R(a)の値の変化量が閾値以下であるか否か、ループ回数が閾値を超えたか否か等の中から任意に選択することができる。
【0069】
上述した震源位置推定方法及び震源位置推定システム1によれば、水中に沈めた震源2から所定の音波(指令信号)を発震し、複数の受振器3iで受信した観測信号から震源2の直接波Wdを抽出し、該直接波Wdの観測信号から震源2の位置を推定するようにしたことにより、いわゆる海底探査(海底資源及び地形の調査を含む。)で使用する機器以外の水中測位機器を用いることなく、震源2の位置を正確に推定することができる。
【0070】
また、ラドン変換R(a)を用いることにより、パラメータの推定処理をより正確かつ円滑に行うことができ、さらに、ラドン変換R(a)の勾配∇R(a)を用いることにより処理の高速化を図ることができる。なお、上述した推定ステップStep5では、ラドン変換R(a)を用いた場合について説明したが、ラドン変換を用いたものに限定されず、最小二乗法等の他の手法を用いてもよいことはいうまでもない。
【0071】
なお、海底探査を行う際には、通常、ストリーマケーブル3(受振器3i)の絶対位置は、曳航船5及び/又はブイ6に装備されたGPSにより求められていることから、ストリーマケーブル3(受振器3i)に対する震源2の相対位置を正確に推定することにより、震源2の絶対位置を容易に特定することができる。
【実施例1】
【0072】
ここで、上述した実施形態について、新潟県粟島沖で測定された実測データを用いて推定手法の検討を行った。ここでは、4800回のデータのうち最初の20回の発震によるデータに対して、直接波を抽出した後に各手法を適用した。
図1に示した震源位置推定システム1を用いて発震を定期的に行った。実験条件を表1に示す。なお、以下の説明において、第三実施形態とは推定ステップで最小二乗法を用いたものである。
【0073】
【表1】
【0074】
また、発震する指令信号の波形を
図5(a)に、指令信号のスペクトログラムを
図5(b)に示す。また、1回目の発震によって得られた観測信号を
図6(a)に、その1チャンネル目の観測信号を
図6(b)に示す。また、観測信号と指令信号との相互相関をとった信号(すなわち、パルス圧縮後の信号)を
図7(a)に、その1チャンネル目の信号を
図7(b)に示す。
【0075】
本実施形態に係る推定手法を適用する前処理として、観測信号から直接波の抽出を行った。まず、全体を離散フーリエ変換し、周波数が6〜150Hz以外の成分を取り除いた。さらに、STFTにより、スイープに沿って直接波のみを取り出した。窓関数にはブラックマンウィンドウを用い、窓長を0.256s(256サンプル)、オーバーラップ長を0.250s(250サンプル)とした。
【0076】
1回目の発震によって得られた観測信号から直接波を抽出した結果を
図8(a)に、1チャンネル目の信号を
図8(b)に示す。また、1回目の発震の直接波抽出後の信号を指令信号と相互相関をとった信号を
図9(a)に、1チャンネル目の信号を
図9(b)に示す。
【0077】
まず、第一実施形態に係る震源位置推定方法について説明する。かかる第一実施形態では、探索範囲での各点のラドン変換を計算し、最大となる点を求めることによりパラメータ推定を行った。
【0078】
計算する点は、50≦x≦150(m)、20≦y≦100(m)の範囲を0.1m刻みに定めた。スローネスp(s/m)は、音速c(m/s)を1505≦c≦1515(m/s)の範囲を0.1m/s刻みとし、p=1/cとしてスローネスp(s/m)を定め、合計1001×801×101=80981901点とした。
【0079】
1回目の発震による直接波抽出を行った観測信号と指令信号との相互相関をとった信号をラドン変換した結果をxy平面、xc平面、yc平面で表示したものをそれぞれ
図10(a)、
図10(b)、
図10(c)に示す。
【0080】
次に、第二実施形態に係る震源位置推定方法について説明する。かかる第二実施形態では、まず最急降下法によるパラメータ推定との収束速度の比較を行い、収束速度が速められていることを確かめ、次に20回の発震データに対してパラメータ推定を行った。
【0081】
まず、三つのパラメータの桁数をそろえるために、スローネスpの単位を(μs/m)とし、振幅の単位を(×10
12)とした。更新の重みパラメータはα=4、μ=0.5ろした。初期値はa
0=(100,50,(1/1500)×10
6)とし、速度パラメータの初期値はv
0=(0,0,0)とした。
【0082】
次に、ネステロフの加速勾配法と最急降下法とによるパラメータ推定の収束速度の比較を行ったところ、ネステロフの加速勾配法の方が少ない反復回数でパラメータ変化量及び最大値との差が小さくなり、ネステロフの加速勾配法を用いることで少ない反復回数で解を求めることができることが確かめられた。なお、反復回数は500回とした。
【0083】
次に、第三実施形態に係る震源位置推定方法について説明する。かかる第三実施形態では、直接波の到達時間を求め、最小二乗法によりパラメータ推定を行った。
【0084】
まず、各チャンネルの直接波の到達時間を求める。ここでは、一つ前のチャンネルの到達時間から20ms後の間の中で次のチャンネルの差分の最小値を取った。本実施形態では、距離が大きくなるにしたがって振幅が小さくなりノイズとの区別がつきにくく、到達時間を求めることが難しくなることから、1〜70チャンネルまでのデータを用いて推定を行った。ニュートン法は、初期値a
0=(100,50,1/1500)、反復回数は15回とした。
【0085】
上述した第一実施形態〜第三実施形態の推定手法を用いて、20回の発震データに対する震源位置の推定を行った結果の平均値を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
ここで、震源の中心点とストリーマケーブルの中心点とのオフセット距離を他の機器で実測したところ、x=96.155(m)であった。また、震源の深さは、表1に記載したように、y=50(m)に設定した。これらのデータと表2のデータとを比較すれば、いずれの実施形態においても、震源の位置をほぼ正確に推定できていることがわかる。
【0088】
計算時間については、最小二乗法を用いた第三実施形態が最も速いが、各チャンネルにおける到達時間を正しく求めることができないような場合には誤差が大きくなってしまうことが予想される。また、ラドン変換の勾配を用いた第二実施形態では、ラドン変換の最大値を用いた第一実施形態と比較して、計算時間を約1/100に縮めることができ、処理時間の高速化を実現することができる。
【0089】
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。