特許第6767810号(P6767810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6767810
(24)【登録日】2020年9月24日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20201005BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20201005BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20201005BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20201005BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20201005BHJP
【FI】
   F16C33/78 Z
   B60B35/02 L
   F16C19/18
   F16J15/3232 201
   F16J15/3256
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-167387(P2016-167387)
(22)【出願日】2016年8月29日
(65)【公開番号】特開2018-35825(P2018-35825A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 隼人
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−56412(JP,A)
【文献】 特開2007−303491(JP,A)
【文献】 特開2013−194908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72−33/82
F16C 19/00−19/56,33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
複数のハブボルトが圧入される車輪取り付けフランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の前記小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に介装される複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材との間に形成される環状空間のアウター側端部を塞ぐように前記外方部材に内嵌されるシール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記シール部材が内嵌されている部分の外径側で、前記外方部材に外嵌される堰部材を具備し、
前記堰部材は、径方向外側へ向かって延びる二つの立板部を有し、インナー側の前記立板部とアウター側の前記立板部が所定の隙間をあけて並設されており、
前記複数のハブボルトは、前記内方部材の回転軸を中心とする同心円上に互いに等しい位相で配置されており、
アウター側の前記立板部とインナー側の前記立板部の一方若しくは両方は、前記ハブボルトを通すための案内溝が形成されており、
前記回転軸と交わり重力が作用する方向に対して平行となる上下方向線と、
同じく前記回転軸と交わり前記上下方向線に対して垂直となる前後方向線と、を想定した場合、
前記案内溝は、前記前後方向線に交わらないように形成されている
ことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
インナー側の前記立板部は、その高さ寸法がアウター側の前記立板部の高さ寸法よりも大きくなっている、
ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
アウター側の前記立板部は、その高さ寸法がインナー側の前記立板部の高さ寸法よりも大きくなっている、
ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
アウター側の前記立板部は、その外縁部がアウター側へ曲げられて前記車輪取り付けフランジと前記外方部材の隙間部分を覆っている、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記案内溝は、前記ハブボルトと同数若しくは倍数で、かつ前記同心円上に互いに等しい位相で形成されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、懸架装置を構成するナックルに外方部材が固定される。また、車輪用軸受装置は、外方部材の内側に内方部材が配置され、外方部材と内方部材の間に転動体が介装されている。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としているのである。
【0003】
ところで、このような車輪用軸受装置は、外方部材と内方部材の間に形成された環状空間に泥水や砂塵が侵入すると、転動体が損傷して軸受寿命が短くなる。また、環状空間に封入されているグリースが漏出しても、転動体が損傷して軸受寿命が短くなる。このため、車輪用軸受装置は、泥水や砂塵の侵入を防止するとともにグリースの漏出を防止すべく、環状空間を密封するシール部材を備えている。例えば特許文献1および特許文献2に記載の如くである。
【0004】
特許文献1に記載の車輪用軸受装置は、外方部材と、内方部材と、外方部材と内方部材の間に介装される転動体と、外方部材と内方部材の間に形成される環状空間を密封するシール部材と、を備えている。しかし、かかる車輪用軸受装置は、泥水が外方部材を伝ってシール部材に到達すると(図13の(A)に示す矢印F参照)、泥水に含まれる異物を噛み込んでシール部材が破損したり摩耗したりするという懸念があった。つまり、シール部材の密封性(耐久性)が低下するという懸念があった。
【0005】
そこで、特許文献2に記載の車輪用軸受装置は、泥水が外方部材を伝ってシール部材に到達するのを防ぐよう、外方部材に外嵌される堰部材を具備している。しかし、かかる車輪用軸受装置は、泥水が堰部材を乗り越えてシール部材に到達する場合があり(図13の(B)に示す矢印F参照)、シール部材が破損したり摩耗したりするという懸念を払拭できていないという問題があった。つまり、シール部材の密封性(耐久性)が低下するという懸念を払拭できていないという問題があった。
【0006】
加えて、車体が旋回しているときには、旋回方向外側の車輪(右旋回の場合は左側車輪、左旋回の場合は右側車輪)に掛かるラジアル荷重やアキシアル荷重が増大することが知られている。すると、外方部材のアウター側端部が楕円状に変形する場合があり、このような変形の繰り返しによって堰部材が抜けてしまうという問題もあった。
【0007】
更に加えて、内方部材の車輪取り付けフランジには、内方部材の回転軸を中心とする同心円上に複数のボルト穴が設けられており、それぞれのボルト穴にハブボルトが圧入されている。そして、それぞれのハブボルトは、その頭部が外方部材に近接した状態で配置されている。そのため、泥水が乗り越えにくくなることを考慮して堰部材の高さ寸法を大きくすれば、この堰部材が障害となってハブボルトの交換ができなくなってしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−219100号公報
【特許文献2】特開2011−7272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、泥水が外方部材を伝ってシール部材に到達するのを防ぐことができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。また、本発明の構成要素である堰部材が外方部材の変形の繰り返しによっても抜けにくく、かつハブボルトの交換時に障害とならない車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、複数のハブボルトが圧入される車輪取り付けフランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の前記小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に介装される複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材との間に形成される環状空間のアウター側端部を塞ぐように前記外方部材に内嵌されるシール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、前記シール部材が内嵌されている部分の外径側で、前記外方部材に外嵌される堰部材を具備し、前記堰部材は、径方向外側へ向かって延びる二つの立板部を有し、インナー側の前記立板部とアウター側の前記立板部が所定の隙間をあけて並設されている、ものである。
【0011】
本発明に係る車輪用軸受装置において、インナー側の前記立板部は、その高さ寸法がアウター側の前記立板部の高さ寸法よりも大きくなっている、ものである。
【0012】
本発明に係る車輪用軸受装置において、アウター側の前記立板部は、その高さ寸法がインナー側の前記立板部の高さ寸法よりも大きくなっている、ものである。
【0013】
本発明に係る車輪用軸受装置において、アウター側の前記立板部は、その外縁部がアウター側へ曲げられて前記車輪取り付けフランジと前記外方部材の隙間部分を覆っている、ものである。
【0014】
本発明に係る車輪用軸受装置において、前記複数のハブボルトが前記内方部材の回転軸を中心とする同心円上に互いに等しい位相で配置されており、アウター側の前記立板部とインナー側の前記立板部の一方若しくは両方は、前記ハブボルトを通すための案内溝が形成されている、ものである。
【0015】
本発明に係る車輪用軸受装置において、前記案内溝は、前記ハブボルトと同数若しくは倍数で、かつ前記同心円上に互いに等しい位相で形成されている、ものである。
【0016】
本発明に係る車輪用軸受装置において、前記回転軸と交わり重力が作用する方向に対して平行となる上下方向線と、同じく前記回転軸と交わり前記上下方向線に対して垂直となる前後方向線と、を想定した場合、前記案内溝は、前記前後方向線に交わらないように形成されている、ものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0018】
即ち、本発明に係る車輪用軸受装置は、シール部材が内嵌されている部分の外径側で、外方部材に外嵌される堰部材を具備している。そして、堰部材は、径方向外側へ向かって延びる二つの立板部を有し、インナー側の立板部とアウター側の立板部が所定の隙間をあけて並設されている。これにより、本車輪用軸受装置は、堰部材を構成するインナー側の立板部とアウター側の立板部がそれぞれ泥水を堰止めるので、泥水が外方部材を伝ってシール部材に到達するのを防ぐことができる。従って、シール部材の密封性(耐久性)が低下するという懸念を払拭でき、ひいては転動体の損傷を防いで軸受寿命の向上を実現できる。また、インナー側の立板部とアウター側の立板部に相当する部分の二箇所で嵌合面圧が高まるので、堰部材の抜けを防止することができる。
【0019】
本発明に係る車輪用軸受装置において、インナー側の立板部は、その高さ寸法がアウター側の立板部の高さ寸法よりも大きくなっている。これにより、本車輪用軸受装置は、外方部材の変形量が比較的に小さいインナー側の立板部に相当する部分の嵌合面圧が高くなるので、更に堰部材の抜けを防止することができる。
【0020】
本発明に係る車輪用軸受装置において、アウター側の立板部は、その高さ寸法がインナー側の立板部の高さ寸法よりも大きくなっている。これにより、本車輪用軸受装置は、外方部材の変形量が比較的に大きいアウター側の立板部に相当する部分の嵌合面圧が高くなるので、外方部材を拘束して一定以上の変形を抑えることができる。
【0021】
本発明に係る車輪用軸受装置において、アウター側の立板部は、その外縁部がアウター側へ曲げられて車輪取り付けフランジと外方部材の隙間部分を覆っている。これにより、本車輪用軸受装置は、アウター側の立板部が泥水の飛沫や浮遊する砂塵を受止めるので、泥水の飛沫や浮遊する砂塵がシール部材に到達するのを防ぐことができる。従って、更に転動体の損傷を防いで軸受寿命の向上を実現できる。
【0022】
本発明に係る車輪用軸受装置において、複数のハブボルトが内方部材の回転軸を中心とする同心円上に互いに等しい位相で配置されており、アウター側の立板部とインナー側の立板部の一方若しくは両方は、ハブボルトを通すための案内溝が形成されている。これにより、本車輪用軸受装置は、外方部材と内方部材を分解することなく、ハブボルトの交換作業が可能となる。
【0023】
本発明に係る車輪用軸受装置において、案内溝は、ハブボルトと同数若しくは倍数で、かつ同心円上に互いに等しい位相で形成されている。これにより、本車輪用軸受装置は、全ての案内溝に全てのハブボルトを重ねることができるので、容易にハブボルトの交換作業が可能となる。
【0024】
本発明に係る車輪用軸受装置において、回転軸と交わり重力が作用する方向に対して平行となる上下方向線と、同じく回転軸と交わり上下方向線に対して垂直となる前後方向線と、を想定した場合、案内溝は、前後方向線に交わらないように形成されている。これにより、本車輪用軸受装置は、外方部材が上下方向に拡張するように変形しても、前後方向における堰部材の剛性が確保されて嵌合面圧が保たれるので、更に堰部材の抜けを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】車輪用軸受装置の全体構成を示す斜視図。
図2】車輪用軸受装置の全体構成を示す断面図。
図3】車輪用軸受装置の一部構造を示す拡大断面図。
図4】車輪用軸受装置の一部構造を示す拡大断面図。
図5】第一実施形態に係る堰部材を示す拡大断面図。
図6】ハブボルトの交換作業を示す図。
図7】第二実施形態に係る堰部材を示す拡大断面図。
図8】ハブボルトの交換作業を示す図。
図9】第三実施形態に係る堰部材を示す拡大断面図。
図10】ハブボルトの交換作業を示す図。
図11】他の実施形態に係る堰部材を示す拡大断面図。
図12】他の実施形態に係る堰部材を示す拡大断面図。
図13】従来の車輪用軸受装置の一部構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図1から図4を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置1について説明する。なお、図2は、図1におけるA−A断面図である。図3および図4は、図2における一部領域の拡大図である。
【0027】
車輪用軸受装置1は、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2、内方部材3(ハブ輪4と内輪5)、転動体6、シール部材7(以降「一側シール部材7」とする)、シール部材10(以降「他側シール部材10」とする)を具備する。なお、以下において、「一側」とは、車輪用軸受装置1の車体側、即ち、インナー側を表す。また、「他側」とは、車輪用軸受装置1の車輪側、即ち、アウター側を表す。
【0028】
外方部材2は、内方部材3(ハブ輪4と内輪5)を支持するものである。外方部材2は、略円筒形状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外方部材2のインナー側端部には、拡径部2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部には、拡径部2bが形成されている。更に、外方部材2の内周には、環状に外側転走面2cと外側転走面2dが互いに平行となるように形成されている。外側転走面2cと外側転走面2dには、高周波焼入れが施され、表面硬さが58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。なお、外方部材2の外周には、懸架装置を構成するナックルに取り付けるためのナックル取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。また、外方部材2の外周には、後述する堰部材20が外嵌されている。
【0029】
内方部材3は、図示しない車輪を回転自在に支持するものである。内方部材3は、ハブ輪4と内輪5で構成されている。
【0030】
ハブ輪4は、略円筒形状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪4のインナー側端部には、小径段部4aが形成されている。小径段部4aには、内輪5が圧入されている。また、小径段部4aには、そのインナー側端部を径方向外側へ折り曲げることにより、内輪5のカシメ部分4bが形成されている。更に、ハブ輪4の外周には、車輪取り付けフランジ4cが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ4cには、内方部材3の回転軸Lを中心とする同心円上に等間隔にボルト穴4dが設けられ、それぞれのボルト穴4dにハブボルト40が圧入されている。また、ハブ輪4の外周には、環状に内側転走面4eが形成されている。ハブ輪4は、小径段部4aから内側転走面4eを経てシールランド部(後述の軸面部4fと曲面部4gと側面部4hで構成される)まで高周波焼入れが施され、表面硬さが58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。これにより、ハブ輪4は、車輪取り付けフランジ4cに付加される回転曲げ荷重に対して十分な機械的強度と耐久性を有している。なお、内側転走面4eは、外方部材2の外側転走面2dに対向する。
【0031】
内輪5は、略円筒形状に形成されたSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼で構成されている。内輪5の外周には、環状に内側転走面5aが形成されている。つまり、内輪5は、ハブ輪4の小径段部4aに圧入嵌合され、小径段部4aの外周に内側転走面5aを構成している。内輪5は、いわゆるズブ焼入れが施され、芯部まで58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。これにより、内輪5は、車輪取り付けフランジ4cに付加される回転曲げ荷重に対して十分な機械的強度と耐久性を有している。なお、内側転走面5aは、外方部材2の外側転走面2cに対向する。
【0032】
転動体6は、外方部材2と内方部材3(ハブ輪4と内輪5)の間に介装されているものである。転動体6は、インナー側のボール列6a(以降「一側ボール列6a」とする)とアウター側のボール列6b(以降「他側ボール列6b」とする)を有している。一側ボール列6aと他側ボール列6bは、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼で構成されている。一側ボール列6aと他側ボール列6bには、いわゆるズブ焼入れが施され、芯部まで58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。一側ボール列6aは、複数のボールが保持器によって環状に保持されている。一側ボール列6aは、内輪5に形成されている内側転走面5aと、それに対向する外方部材2の外側転走面2cとの間に転動自在に収容されている。他側ボール列6bは、複数のボールが保持器によって環状に保持されている。他側ボール列6bは、ハブ輪4に形成されている内側転走面4eと、それに対向する外方部材2の外側転走面2dとの間に転動自在に収容されている。このようにして、一側ボール列6aと他側ボール列6bは、外方部材2と内方部材3(ハブ輪4と内輪5)とで複列アンギュラ玉軸受を構成している。なお、車輪用軸受装置1は、ハブ輪4の外周に他側ボール列6bの内側転走面4eが形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置であるがこれに限定するものではなく、ハブ輪4に一対の内輪5が圧入固定された第2世代構造や、ハブ輪4を備えずに外方部材2である外輪と内方部材3である内輪とで構成される第1世代構造であっても良い。
【0033】
一側シール部材7は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのインナー側端部に装着されるものである。一側シール部材7は、円環状のシールリング8と円環状のスリンガ9で構成されている。
【0034】
シールリング8は、外方部材2の拡径部2aに嵌合(内嵌)されて外方部材2と一体的に構成される。シールリング8は、芯金81と弾性部材であるシールゴム82を有する。
【0035】
芯金81は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。芯金81は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面が略L字状に形成されている。これにより、芯金81は、円筒状の嵌合部81aと、その一端から内方部材3(内輪5)に向かって延びる円板状の側板部81bと、が形成されている。嵌合部81aと側板部81bは、互いに略垂直に交わっており、嵌合部81aは、後述するスリンガ9の嵌合部9aに対向する。また、側板部81bは、後述するスリンガ9の側板部9bに対向する。なお、嵌合部81aと側板部81bには、弾性部材であるシールゴム82が加硫接着されている。
【0036】
シールゴム82は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。シールゴム82には、シールリップであるラジアルリップ82a、内側アキシアルリップ82bおよび外側アキシアルリップ82cが形成されている。
【0037】
スリンガ9は、内方部材3の外周(内輪5の外周)に嵌合されて内方部材3と一体的に構成される。
【0038】
スリンガ9は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。スリンガ9は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面が略L字状に形成されている。これにより、スリンガ9は、円筒状の嵌合部9aと、その端部から外方部材2に向かって延びる円板状の側板部9bと、が形成されている。嵌合部9aと側板部9bは、互いに垂直に交わっており、嵌合部9aは、前述したシールリング8の嵌合部81aに対向する。また、側板部9bは、前述したシールリング8の側板部81bに対向する。なお、側板部9bには、磁気エンコーダ9cが設けられている。
【0039】
一側シール部材7は、シールリング8とスリンガ9が対向するように配置される。このとき、ラジアルリップ82aは、油膜を介してスリンガ9の嵌合部9aに接触する。また、内側アキシアルリップ82bは、油膜を介してスリンガ9の側板部9bに接触する。そして、外側アキシアルリップ82cも、油膜を介してスリンガ9の側板部9bに接触する。このようにして、一側シール部材7は、いわゆるパックシールを構成し、泥水や砂塵の侵入を防止するとともにグリースの漏出を防止しているのである。
【0040】
他側シール部材10は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのアウター側端部に装着されるものである。他側シール部材10は、円環状のシールリング11で構成されている。
【0041】
他側シール部材10は、外方部材2の拡径部2bに嵌合(内嵌)されて外方部材2と一体的に構成される。シールリング11は、芯金111と弾性部材であるシールゴム112を有する。
【0042】
芯金111は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。芯金111は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略C字状に形成されている。これにより、芯金111は、円筒状の嵌合部111aと、その一端から内方部材3(ハブ輪4)に向かって延びる円板状の側板部111bと、が形成されている。嵌合部111aと側板部111bは、互いに湾曲しながら交わっており、嵌合部111aは、ハブ輪4の軸面部4fに対向する。また、側板部111bは、ハブ輪4の曲面部4gおよび側面部4h(車輪取り付けフランジ4cの端面を指す)に対向する。なお、側板部111bには、弾性部材であるシールゴム112が加硫接着されている。
【0043】
シールゴム112は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。シールゴム112には、シールリップであるラジアルリップ112a、内側アキシアルリップ112bおよび外側アキシアルリップ112cが形成されている。
【0044】
他側シール部材10は、シールリング11とハブ輪4が対向するように配置される。このとき、ラジアルリップ112aは、油膜を介してハブ輪4の軸面部4fに接触する。また、アキシアルリップ112bは、油膜を介してハブ輪4の曲面部4gに接触する。そして、外側アキシアルリップ112cも、油膜を介してハブ輪4の側面部4hに接触する。このようにして、他側シール部材10は、泥水や砂塵の侵入を防止するとともにグリースの漏出を防止しているのである。
【0045】
次に、図5および図6を用いて、第一実施形態に係る堰部材20について詳細に説明する。図5の(A)は、図2における領域Rを拡大した図であり、図5の(B)は、図2におけるB−B断面を示す図である。なお、図6は、ハブボルト40の交換作業を示している。
【0046】
第一実施形態に係る堰部材20は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。堰部材20は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略U字状に形成されている。これにより、堰部材20は、円筒状の嵌合部20aと、そのインナー側端部から径方向外側へ向かって延びる立板部20bと、そのアウター側端部から径方向外側へ向かって延びる立板部20cと、が形成されている。嵌合部20aと立板部20bは、互いに略垂直に交わっており、嵌合部20aと立板部20cも、互いに略垂直に交わっている。そのため、立板部20bと立板部20cは、所定の隙間をあけて互いに平行に配置されている。なお、第一実施形態に係る堰部材20において、インナー側の立板部20bは、その高さ寸法Dbがアウター側の立板部20cの高さ寸法Dcよりも大きくなっている(Db>Dc)。また、立板部20bと立板部20cの隙間寸法Daは、立板部20bの高さ寸法Dbとほぼ等しくなっている(Da≒Db)。隙間寸法Daと高さ寸法Dbは、少なくとも5mm以上を確保している。
【0047】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、堰部材20を構成するインナー側の立板部20bとアウター側の立板部20cがそれぞれ泥水を堰止めるので、泥水が外方部材2を伝って他側シール部材10に到達するのを防ぐことができる。より詳細には、インナー側の立板部20bが伝ってきた泥水の一部を堰止め、更にアウター側の立板部20cが立板部20bを乗り越えた泥水を堰止めるので、泥水が外方部材2を伝って他側シール部材10に到達するのを防ぐことができる。従って、他側シール部材10の密封性(耐久性)が低下するという懸念を払拭でき、ひいては転動体6(一側ボール列6aと他側ボール列6b)の損傷を防いで軸受寿命の向上を実現できる。
【0048】
加えて、堰部材20は、インナー側の立板部20bが径方向外側へ向かって延びているので、径方向へ掛かる荷重に対してインナー側端部における剛性が高くなっている。また、アウター側の立板部20cも径方向外側へ向かって延びているので、径方向へ掛かる荷重に対してアウター側端部における剛性も高くなっている。従って、インナー側の立板部20bとアウター側の立板部20cに相当する部分の二箇所で嵌合面圧が高まるので(面圧分布P参照)、堰部材20の抜けを防止することができる。より詳細には、立板部20cの高さ寸法Dcよりも立板部20bの高さ寸法Dbのほうが大きいことに起因し、アウター側の立板部20cに相当する部分の嵌合面圧よりもインナー側の立板部20bに相当する部分の嵌合面圧のほうが大きくなっている(面圧分布P参照)。すると、外方部材2の変形量が比較的に小さいインナー側の立板部20bに相当する部分の嵌合面圧が高くなるので、更に堰部材20の抜けを防止することができる。特に、堰部材20は、他側シール部材10が内嵌されている部分の外径側で、外方部材2に外嵌されているため、より堰部材20の抜けを防止することができる。これは、外方部材2が収縮する変形方向に対しては、他側シール部材10が突っ張り、外方部材2が拡張する変形方向に対しては、堰部材20が拘束することに起因する。
【0049】
加えて、本堰部材20は、立板部20bの外縁部にハブボルト40の案内溝20dが形成されている。より詳細には、立板部20bの外縁部が円弧状に切り欠かれることにより、ハブボルト40を通すための案内溝20dが形成されている。
【0050】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、泥水が乗り越えにくくなることを考慮してインナー側の立板部20bの高さ寸法Dbを大きくしても、外方部材2と内方部材3を分解することなく、ハブボルト40の交換作業が可能となる。
【0051】
加えて、本車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト40を有しており、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が72°となる位置に設けられている。そのため、堰部材20の立板部20bには、周方向に五ヶ所の案内溝20dが、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が72°となる位置に形成されている。但し、倍数である10ヶ所に案内溝20dが設けられていても良い。このとき、案内溝20dは、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が36°となる位置に形成される。また、車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト40を有しているが、例えば四つのハブボルト40を有するものとし、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が90°となる位置に設けられるとしても良い。この場合、四ヶ所の案内溝20dが、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が90°となる位置に形成される。但し、倍数である8ヶ所に案内溝20dが設けられるとしても良い。
【0052】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、全ての案内溝20dに全てのハブボルト40の位置を重ねることができるので、ハブボルト40の交換作業が容易となる。
【0053】
なお、回転軸Lと交わり重力が作用する方向に対して平行となる上下方向線Laと、同じく回転軸Lと交わり上下方向線に対して垂直となる方向を前後方向線Lbと、を想定した場合、案内溝20dは、前後方向線Lbに交わらないように形成されている。
【0054】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2が上下方向に拡張するように変形しても、前後方向における堰部材20の剛性が確保されて嵌合面圧が保たれるので、更に堰部材20の抜けを防止することができる。
【0055】
次に、図7および図8を用いて、第二実施形態に係る堰部材20について詳細に説明する。図7の(A)は、図2における領域Rを拡大した図に相当し、図7の(B)は、図2におけるB−B断面を示す図に相当する。なお、図8は、ハブボルト40の交換作業を示している。
【0056】
第二実施形態に係る堰部材20は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。堰部材20は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略U字状に形成されている。これにより、堰部材20は、円筒状の嵌合部20aと、そのインナー側端部から径方向外側へ向かって延びる立板部20bと、そのアウター側端部から径方向外側へ向かって延びる立板部20cと、が形成されている。嵌合部20aと立板部20bは、互いに略垂直に交わっており、嵌合部20aと立板部20cも、互いに略垂直に交わっている。そのため、立板部20bと立板部20cは、所定の隙間をあけて互いに平行に配置されている。なお、第二実施形態に係る堰部材20において、アウター側の立板部20cは、その高さ寸法Dcがインナー側の立板部20bの高さ寸法Dbよりも大きくなっている(Db<Dc)。また、立板部20bと立板部20cの隙間寸法Daは、立板部20cの高さ寸法Dcとほぼ等しくなっている(Da≒Dc)。隙間寸法Daと高さ寸法Dcは、少なくとも5mm以上を確保している。
【0057】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、堰部材20を構成するインナー側の立板部20bとアウター側の立板部20cがそれぞれ泥水を堰止めるので、泥水が外方部材2を伝って他側シール部材10に到達するのを防ぐことができる。より詳細には、インナー側の立板部20bが伝ってきた泥水の一部を堰止め、更にアウター側の立板部20cが立板部20bを乗り越えた泥水を堰止めるので、泥水が外方部材2を伝って他側シール部材10に到達するのを防ぐことができる。従って、他側シール部材10の密封性(耐久性)が低下するという懸念を払拭でき、ひいては転動体6(一側ボール列6aと他側ボール列6b)の損傷を防いで軸受寿命の向上を実現できる。
【0058】
加えて、堰部材20は、インナー側の立板部20bが径方向外側へ向かって延びているので、径方向へ掛かる荷重に対してインナー側端部における剛性が高くなっている。また、アウター側の立板部20cも径方向外側へ向かって延びているので、径方向へ掛かる荷重に対してアウター側端部における剛性も高くなっている。従って、インナー側の立板部20bとアウター側の立板部20cに相当する部分の二箇所で嵌合面圧が高まるので(面圧分布P参照)、堰部材20の抜けを防止することができる。より詳細には、立板部20bの高さ寸法Dbよりも立板部20cの高さ寸法Dcのほうが大きいことに起因し、インナー側の立板部20bに相当する部分の嵌合面圧よりもアウター側の立板部20cに相当する部分の嵌合面圧のほうが大きくなっている(面圧分布P参照)。すると、外方部材2の変形量が比較的に大きいアウター側の立板部20cに相当する部分の嵌合面圧が高くなるので、外方部材2を拘束して一定以上の変形を抑えることができる。特に、堰部材20は、他側シール部材10が内嵌されている部分の外径側で、外方部材2に外嵌されているため、より外方部材2の変形を抑えることができる。これは、外方部材2が収縮する変形方向に対しては、他側シール部材10が突っ張り、外方部材2が拡張する変形方向に対しては、堰部材20が拘束することに起因する。
【0059】
加えて、本堰部材20は、立板部20cの外縁部にハブボルト40の案内溝20dが形成されている。より詳細には、立板部20cの外縁部が円弧状に切り欠かれることにより、ハブボルト40を通すための案内溝20dが形成されている。
【0060】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、泥水が乗り越えにくくなることを考慮してアウター側の立板部20cの高さ寸法Dcを大きくしても、外方部材2と内方部材3を分解することなく、ハブボルト40の交換作業が可能となる。
【0061】
加えて、本車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト40を有しており、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が72°となる位置に設けられている。そのため、堰部材20の立板部20cには、周方向に五ヶ所の案内溝20dが、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が72°となる位置に形成されている。但し、倍数である10ヶ所に案内溝20dが設けられていても良い。このとき、案内溝20dは、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が36°となる位置に形成される。また、車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト40を有しているが、例えば四つのハブボルト40を有するものとし、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が90°となる位置に設けられるとしても良い。この場合、四ヶ所の案内溝20dが、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が90°となる位置に形成される。但し、倍数である8ヶ所に案内溝20dが設けられるとしても良い。
【0062】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、全ての案内溝20dに全てのハブボルト40の位置を重ねることができるので、ハブボルト40の交換作業が容易となる。
【0063】
なお、回転軸Lと交わり重力が作用する方向に対して平行となる上下方向線Laと、同じく回転軸Lと交わり上下方向線に対して垂直となる方向を前後方向線Lbと、を想定した場合、案内溝20dは、前後方向線Lbに交わらないように形成されている。
【0064】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2が上下方向に拡張するように変形しても、前後方向における堰部材20の剛性が確保されて嵌合面圧が保たれるので、更に堰部材20の抜けを防止することができる。
【0065】
次に、図9および図10を用いて、第三実施形態に係る堰部材20について詳細に説明する。図9の(A)は、図2における領域Rを拡大した図に相当し、図9の(B)は、図2におけるB−B断面を示す図に相当する。なお、図10は、ハブボルト40の交換作業を示している。
【0066】
第三実施形態に係る堰部材20は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。堰部材20は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略U字状に形成されている。これにより、堰部材20は、円筒状の嵌合部20aと、そのインナー側端部から径方向外側へ向かって延びる立板部20bと、そのアウター側端部から径方向外側へ向かって延びる立板部20cと、が形成されている。嵌合部20aと立板部20bは、互いに略垂直に交わっており、嵌合部20aと立板部20cも、互いに略垂直に交わっている。そのため、立板部20bと立板部20cは、所定の隙間をあけて互いに平行に配置されている。なお、第三実施形態に係る堰部材20において、インナー側の立板部20bとアウター側の立板部20cは、その高さ寸法Db・Dcが同じとなっている(Db=Dc)。また、立板部20bと立板部20cの隙間寸法Daは、立板部20bの高さ寸法Dbおよび立板部20cの高さ寸法Dcとほぼ等しくなっている(Da≒Db、Dc)。隙間寸法Daと高さ寸法Db・Dcは、少なくとも5mm以上を確保している。
【0067】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、堰部材20を構成するインナー側の立板部20bとアウター側の立板部20cがそれぞれ泥水を堰止めるので、泥水が外方部材2を伝って他側シール部材10に到達するのを防ぐことができる。より詳細には、インナー側の立板部20bが伝ってきた泥水の一部を堰止め、更にアウター側の立板部20cが立板部20bを乗り越えた泥水を堰止めるので、泥水が外方部材2を伝って他側シール部材10に到達するのを防ぐことができる。従って、他側シール部材10の密封性(耐久性)が低下するという懸念を払拭でき、ひいては転動体6(一側ボール列6aと他側ボール列6b)の損傷を防いで軸受寿命の向上を実現できる。
【0068】
加えて、堰部材20は、インナー側の立板部20bが径方向外側へ向かって延びているので、径方向へ掛かる荷重に対してインナー側端部における剛性が高くなっている。また、アウター側の立板部20cも径方向外側へ向かって延びているので、径方向へ掛かる荷重に対してアウター側端部における剛性も高くなっている。従って、インナー側の立板部20bとアウター側の立板部20cに相当する部分の二箇所で嵌合面圧が高まるので(面圧分布P参照)、堰部材20の抜けを防止することができる。より詳細には、立板部20bの高さ寸法Dbと立板部20cの高さ寸法Dcが同じとなっていることに起因し、インナー側の立板部20bに相当する部分の嵌合面圧とアウター側の立板部20cに相当する部分の嵌合面圧が同じとなっている(面圧分布P参照)。すると、外方部材2の変形量が比較的に小さいインナー側の立板部20bに相当する部分の嵌合面圧が高くなるので、更に堰部材20の抜けを防止することができ、同時に、外方部材2の変形量が比較的に大きいアウター側の立板部20cに相当する部分の嵌合面圧が高くなるので、外方部材2を拘束して一定以上の変形を抑えることができる。特に、堰部材20は、他側シール部材10が内嵌されている部分の外径側で、外方部材2に外嵌されているため、これらの効果を大きく得ることができる。これは、外方部材2が収縮する変形方向に対しては、他側シール部材10が突っ張り、外方部材2が拡張する変形方向に対しては、堰部材20が拘束することに起因する。
【0069】
加えて、本堰部材20は、立板部20bと立板部20cの外縁部にハブボルト40の案内溝20dが形成されている。より詳細には、立板部20bと立板部20cの外縁部が円弧状に切り欠かれることにより、ハブボルト40を通すための案内溝20dが形成されている。
【0070】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、泥水が乗り越えにくくなることを考慮してインナー側の立板部20bとアウター側の立板部20cの高さ寸法Db・Dcを大きくしても、外方部材2と内方部材3を分解することなく、ハブボルト40の交換作業が可能となる。
【0071】
加えて、本車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト40を有しており、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が72°となる位置に設けられている。そのため、堰部材20の立板部20bと立板部20cには、周方向に五ヶ所の案内溝20dが、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が72°となる位置に形成されている。但し、倍数である10ヶ所に案内溝20dが設けられていても良い。このとき、案内溝20dは、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が36°となる位置に形成される。また、車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト40を有しているが、例えば四つのハブボルト40を有するものとし、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が90°となる位置に設けられるとしても良い。この場合、四ヶ所の案内溝20dが、それぞれ回転軸Lを中心とする位相角が90°となる位置に形成される。但し、倍数である8ヶ所に案内溝20dが設けられるとしても良い。
【0072】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、全ての案内溝20dに全てのハブボルト40の位置を重ねることができるので、ハブボルト40の交換作業が容易となる。
【0073】
なお、回転軸Lと交わり重力が作用する方向に対して平行となる上下方向線Laと、同じく回転軸Lと交わり上下方向線に対して垂直となる方向を前後方向線Lbと、を想定した場合、案内溝20dは、前後方向線Lbに交わらないように形成されている。
【0074】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2が上下方向に拡張するように変形しても、前後方向における堰部材20の剛性が確保されて嵌合面圧が保たれるので、更に堰部材20の抜けを防止することができる。
【0075】
次に、図11を用いて、各実施形態に係る堰部材20に適用し得る構造について説明する。図11は、図2における領域Rを拡大した図に相当する。
【0076】
本実施形態に係る堰部材20において、アウター側の立板部20cは、その外縁部がアウター側へ曲げられて車輪取り付けフランジ4cと外方部材2の隙間部分Cを覆っている。なお、本実施形態においては、アウター側の立板部20cが所定の角度に曲げられた形状となっているが、曲げ角度や曲げ方の態様について限定するものではない。
【0077】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、アウター側の立板部20cが泥水の飛沫や浮遊する砂塵を受止めるので、泥水の飛沫や浮遊する砂塵が他側シール部材10に到達するのを防ぐことができる。従って、更に転動体6(一側ボール列6aと他側ボール列6b)の損傷を防いで軸受寿命の向上を実現できる。
【0078】
次に、図12を用いて、各実施形態に係る堰部材20に適用し得る構造について説明する。図12は、図2における領域Rを拡大した図に相当する。
【0079】
本実施形態に係る堰部材20において、インナー側の立板部20bは、その外縁部がインナー側へ曲げられている。なお、本実施形態においては、インナー側の立板部20bが所定の角度に曲げられた形状となっているが、曲げ角度や曲げ方の態様について限定するものではない。
【0080】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、インナー側の立板部20bによる泥水の堰止め効果が高まるので、更に泥水が外方部材2を伝って他側シール部材10に到達するのを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0081】
1 車輪用軸受装置
2 外方部材
2c 外側転走面
2d 外側転走面
3 内方部材
4 ハブ輪
4a 小径段部
4c 車輪取り付けフランジ
4e 内側転走面
5 内輪
5a 内側転走面
6 転動体
6a ボール列
6b ボール列
7 シール部材(一側シール部材)
10 シール部材(他側シール部材)
20 堰部材
20a 嵌合部
20b 立板部
20c 立板部
20d 案内溝
40 ハブボルト
S 環状空間
C 隙間部分
L 回転軸
La 上下方向線
Lb 前後方向線
Da 隙間寸法
Db 立板部の高さ寸法
Dc 立板部の高さ寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13