(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6767935
(24)【登録日】2020年9月24日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】アイソレータおよび、その滅菌方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20201005BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20201005BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20201005BHJP
A61L 9/015 20060101ALI20201005BHJP
A61L 101/22 20060101ALN20201005BHJP
【FI】
A61L2/20 106
C12M1/00 K
F24F7/06 C
A61L9/015
A61L101:22
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-116846(P2017-116846)
(22)【出願日】2017年6月14日
(65)【公開番号】特開2019-303(P2019-303A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2019年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 健
【審査官】
小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−195713(JP,A)
【文献】
特開2016−049226(JP,A)
【文献】
特開2012−152380(JP,A)
【文献】
特開2014−073190(JP,A)
【文献】
特開平05−192382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00− 2/28
A61L 11/00− 12/14
F24F 7/04− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業が行われる作業室と、前記作業室の空気を清浄にするフィルタと、前記作業室内に気流を生じさせるファンと、外部からの空気を給気する給気用気密ダンパと、外部に空気を排気する排気用気密ダンパと、滅菌ガスを生成する滅菌ガス発生器と、前記作業室内に設けた、前記滅菌ガス発生器からの前記滅菌ガスを噴霧する滅菌ガス噴霧手段とを有し、
前記滅菌ガス噴霧手段は、前記作業室を横断する内空を有する管であり、前記管の内空に前記滅菌ガスが流れ、前記滅菌ガスを排出する穴が設けてあり、前記作業室にガスを導入する側に近いほど前記穴の大きさを大きくすることを特徴とするアイソレータ。
【請求項2】
請求項1に記載のアイソレータにおいて、前記滅菌ガス噴霧手段には作業用の器材を吊り下げる位置を示す凹部を設けておき、前記凹部に前記器材を吊るすことが可能であることを特徴とするアイソレータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアイソレータにおいて、前記滅菌ガス噴霧手段は、ヒータを備えていることを特徴とするアイソレータ。
【請求項4】
作業が行われる作業室内にファンにより気流を生じさせ、滅菌ガス発生器からの滅菌ガスを前記作業室内に設けた滅菌ガス噴霧手段から前記作業室に滅菌ガスを噴霧し、前記滅菌ガス噴霧手段にフックをかけて、前記フックに前記作業室で用いた器材を吊るすことで、前記器材を滅菌することを特徴とするアイソレータの滅菌方法。
【請求項5】
請求項4に記載のアイソレータの滅菌方法であって、長さの異なる前記フックを、前記滅菌ガス噴霧手段の位置決めした位置から吊るすことで前記器材を滅菌することを特徴とするアイソレータの滅菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータに関し、特に、作業室の滅菌を効果的に行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病源体の研究や、再生医療で病源体に感染している可能性がある組織を取り扱う場合、アイソレータを使用する。アイソレータでは、作業者が作業室の外部から作業用の装着具であるグローブを介して作業を行うことができる。例えば、再生医療で、取り扱う患者組織が感染症に感染している場合があり、その感染症の病原体が次に取り扱う患者組織に感染しないように、取り扱う患者組織を変更する前に作業室内を清掃、消毒して無菌の状態にする必要がある。
【0003】
また、研究ではアイソレータの作業室で病源体を取り扱う。病源体とは、ウイルス、細菌、真菌などを示すが、それぞれ固有の性質が有り、病源体が、他の病原体に影響を及ぼす場合が有る。同一のアイソレータ内で取り扱う病原体の種類を変更する場合、作業室内や作業に用いるグローブ、廃棄用の袋などの器材を清掃、消毒して滅菌する必要がある。滅菌は、作業室やグローブに滅菌ガスを供給することにより、行われる。
【0004】
特許文献1では、HEPAフィルタを介して、無菌室(作業室)に除染(滅菌)ガスを導入して無菌室内を除染するアイソレータを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−198079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、HEPAフィルタを介して、無菌室(作業室)に除染(滅菌)ガスを導入しているため、滅菌ガスの気流が作業室内の隅々まで行き渡らない。そのために作業室の滅菌が十分にならない可能性がある。また、作業で用いた器材を滅菌する必要があるが、器材を効果的に滅菌することについては配慮されていない。
【0007】
本発明の目的は、作業室内の滅菌を効果的に行うとともに、作業で用いた器材を滅菌するに適したアイソレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の好ましい例としては、作業が行われる作業室と、前記作業室の空気を清浄にするフィルタと、前記作業室内に気流を生じさせるファンと、外部からの空気を給気する給気用気密ダンパと、外部に空気を排気する排気用気密ダンパと、滅菌ガスを生成する滅菌ガス発生器と、前記作業室内に設けた、前記滅菌ガス発生器からの前記滅菌ガスを噴霧する滅菌ガス噴霧手段とを設けたアイソレータである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業室内の滅菌を効果的に行えるとともに、作業で用いた器材を滅菌するに適したアイソレータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】
図1のアイソレータの作業時の気流の流れを示す図。
【
図4】吊りパイプへの滅菌ガス投入を説明するアイソレータの断面図。
【
図7】異なる長さの吊りパイプ用フックを用いた場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施例の説明に先立って、本発明が適用されるアイソレータを説明する。
図1および
図2は、それぞれアイソレータの一例を示す正面図および側面図である。また、
図3および
図4に、その内部断面図を示す。
【0012】
アイソレータ本室10について、ケース(筐体)内には、病原体等の試料を取り扱う作業を行う作業室12が設けられている。ケースの上部には給気用気密ダンパ14が設けられ、アイソレータの外部から空気を取り入れる。
【0013】
作業室12の上部には、ファン16が設けられ、その下流側にHEPAフィルタ18およびパンチング板20が設けられて、清浄な整流された空気が作業室12に供給される。
作業室12の下部にはスリットが設けられ、スリット300から排出された空気は、ファン16の上流側に戻り、空気が循環する。空気の一部は、ケースの上面に設けられた排気用気密ダンパ22から、外部へ排出される。
【0014】
作業室12の前面側には、ガラスや樹脂製の前面扉23が取り付けられ、前面扉23には、開口が開けられ、作業用グローブを取り付けるための複数(図では、左側、中央、右側)のグローブポート24が設けられている。そして、グローブポート24には、作業室内に、作業者が試料を取り扱うグローブ25が取り付けられる(
図2)。
【0015】
作業室12の側面には、連結部48を介して、パスボックス40が取り付けられている。パスボックス40には、上部に循環ファン42およびHEPAフィルタ44が、下部にパンチング板46が設けられて、パスボックスの動作時に空気が循環するように構成されている。作業室12のパスボックス側には、パスボックス側開閉扉26が設けられ、パスボックス40を通って試料等の搬入・搬出が行われるようになっている。
【0016】
アイソレータ装置は、滅菌時に使用する滅菌ガス発生装置50を備えており、コンディション(行き)経路54から過酸化水素ガスなどの滅菌ガスをアイソレータ本室10に供給する。
【0017】
滅菌ガスは、コンディション(戻り)経路52を通ってパスボックス40から滅菌ガス発生装置50に戻る。アイソレータ本室10には、エアレーション工程において、滅菌ガスを除去するためのエアレーション経路56が設けられている(
図2)。
【0018】
図3を用いて、作業室内で試料を処理する通常作業時の空気の流れを説明する。給気用気密ダンパ14によりアイソレータの外部から空気A1を取り入れる。ファン16により加圧チャンバに空気A2を送り、下流側のHEPAフィルタ18およびパンチング板20により、清浄な整列した空気A3を作業室12内へ送る。
【0019】
作業室12内の空気は、作業室の下部に設けたスリット300から排出され、A4、A5で示した流れのように、ファン16の上流側へ戻って、循環する。空気の一部であるA6やA7は、排気用気密ダンパ22から外部へ排出される。このように、清浄な整列した空気を作業室12へ供給することにより、作業中の試料の汚染などを防止することができる。
【0020】
取り扱う患者組織を変更する場合、取り扱う病原体等の種類を変更する場合などには、作業室内や作業に用いるグローブを滅菌する必要がある。
図4を用いて、滅菌時の滅菌ガスの流れを説明する。滅菌時には給気用気密ダンパ14および排気用気密ダンパ22を閉じて、アイソレータの外部との空気の流れを遮断する。
【0021】
滅菌ガス発生装置50で発生した、例えば過酸化水素ガスは、作業室12内へ送られる。滅菌時にはパスボックス側の開閉扉26が開かれており、作業室内の滅菌ガスは、パスボックス40へ送られる。
【0022】
滅菌ガスは、パスボックス40を通ってB4に示した経路で滅菌ガス発生装置50へ戻る。このように、滅菌ガスを、作業室12を含むアイソレータへ循環させることにより、作業室12を含むアイソレータや作業用のグローブなどの器材の滅菌を行うことができる。
【0023】
滅菌工程は、以下のように行われる。
(1)除湿工程
乾燥空気により湿度を下げる。湿度を下げることにより、引き続くコンディション工程およびデコンタミネーション工程中、滅菌ガス(例えば、過酸化水素水ガス)の必要濃度を飽和レベル以下に保つ。リターン空気は乾燥カートリッジを通って乾燥加熱される。
(2)コンディション工程
滅菌剤が気流内に注入されている間、滅菌ガスが機器から離れる直前まで乾燥空気が循環し続ける。コンディション工程は、目標滅菌濃度に速く達するための工程である。
(3)デコンタミネーション工程
特定時間、滅菌剤でアイソレータ内全体の滅菌ガス濃度を維持し、作業室や作業用のグローブの滅菌を行う。
(4)エアレーション工程
滅菌剤の注入を停止し、アイソレータと接続ホース内の滅菌ガス濃度を低くするために一定時間、乾燥空気を循環させる。
【実施例1】
【0024】
図4と、
図5を用いて、吊りパイプ内部に滅菌ガスを通し、作業室全体に過酸化水素ガスを噴霧できるようにした実施例1を説明する。
図4は、
図2に示したアイソレータの右側側面図のA-A‘におけるアイソレータの断面を示す図である。作業室12を横断するように、吊りパイプ30を設けている。吊りパイプ30には、滅菌ガスを流すようことで滅菌ガスを作業室12内に噴霧するようにしている。
【0025】
図5は、吊りパイプ30を説明する図である、
図5(a)は、その断面図を示す。吊りパイプ30の内部は、空間を設けている。その内部空間に例えば過酸化水素ガスを流す。
図4に示したように、滅菌ガス発生装置50で発生した、滅菌ガス(過酸化水素ガス)は、流路B1、B2を経て、吊りパイプ30に取り込む。
【0026】
図5(b)は、吊りパイプ30の側面を示す図であり、作業室12の下方に向けて、過酸化水素ガスを作業室12に吐出する穴100を設けている。吊りパイプ30の滅菌ガス吐出用の穴径は、アイソレータの本体投入口から近いほど穴径を大きくすることで、作業室12内だけでなく、後述するように、吊りパイプに吊り下げた滅菌したい器材も一緒に効率良く滅菌できる。
【0027】
図3で示したように、滅菌時において、ファン16により生じる作業室内壁面に沿った速い気流を利用すれば、
図4に示したように、作業室12内には、滅菌ガスの流れB3が生じる。よって、吊りパイプ30から噴出した濃度の高い滅菌ガスを、作業室12内の隅々まで広めることができる。そのため、作業室内の滅菌の効果を高めることができる。
【実施例2】
【0028】
図6を用いて本発明の実施例2を説明する。
図6は、吊りパイプに器材を掛ける位置決め構造を示す図である。
図6(a)は、吊りパイプ用フック61を吊りパイプ30に吊るした図であり、吊りパイプ30の断面方向から示す図である。
図6(b)は、吊りパイプ30の側面方向からみた図である。
【0029】
吊りパイプ30の一部に位置決め用の凹部62A、62Bや目印を設け、滅菌をする器材の配置を決めることで、初期(製品出荷時または現地据え付け後)に決めた滅菌パラメータでの滅菌性能(滅菌効果の再現性)を確保できる。
図6では、器材は、廃棄袋63の場合を示している。
【0030】
特に、排気袋内部は、滅菌するのは困難である。そこで、吊りパイプの穴100の下に、
図6のように廃棄袋63を吊るすことで排気袋内部の滅菌をしやすくする。作業室への滅菌ガスの投入口に近い穴径の大きな穴100の下に廃棄袋63を配置することで、廃棄袋63の内部に向かう滅菌ガスの流量が高くなり、滅菌の効果を高めることができる。
【実施例3】
【0031】
図7を用いて実施例3を説明する。
図7は、異なる長さの吊りパイプ用フックを用いる場合を説明する図である。
図7では、作業室の垂直方向に短い吊りパイプ用フック71と、長い吊りパイプ用フック72の2種類のフックを用いている。
【0032】
図7(a)は、吊りパイプ用フック71、72と器材63A,63Bを掛けた吊りパイプ30の断面方向から見た図であり、
図7(b)は、吊りパイプ用フック71、72と器材63A、63Bを掛けた吊りパイプ30の側面方向から見た図である。短い吊りパイプ用フック71と長い吊りパイプ用フック72には、それぞれ作業で使う器材63Aと器材63Bを、滅菌工程において、フックに掛けて吊るすことができる。
【0033】
器材を吊るすためのフックの長さを変えフックを用いたことで、滅菌する器材のサイズとガス流路を考慮し、器材に滅菌ガスを行き渡らせるに好適な気流を確保できる。ここでは2種類の吊りパイプ用フックを例にしたが、さらに多くの長さの異なる吊りパイプ用フックを用いてもよい。
【実施例4】
【0034】
図8を用いて実施例4を説明する。
図8は、吊りパイプ30を加温する実施例の説明図である。
図8(a)は、吊りパイプ用フック61を掛けた吊りパイプ30の断面方向から見た図であり、
図8(b)は、吊りパイプ用フック61を掛けた吊りパイプ30の側面方向から見た図である。
【0035】
実施例4では、吊りパイプ30に配管ヒータ80と、それらを繋ぐ電流を流すための電線を設けている。実施例4によれば、滅菌ガス噴霧時は、濃度の高い滅菌ガスが滞留することで生じる吊りパイプ30の内部の結露を、配管ヒータ80で発生する熱で、防止することができるという効果がある。
【符号の説明】
【0036】
10…アイソレータ本室、12…作業室、14…給気用気密ダンパ、16…ファン、18…HEPAフィルタ、22…排気用気密ダンパ、30…吊りパイプ、40…パスボックス、48…連結部、50…滅菌ガス発生装置、56…エアレーション経路