(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、ラック2のためのクリアランス補償装置1に関する。
【0031】
好ましくは、
図3に示すように、上記ラック2は、自動車などの乗物に装備されるステアリング機構3、より具体的にはパワーステアリング機構の一部である。
【0032】
有利には、ラック2は、乗物のシャシに固定されるステアリングケース4に、当該ラックの縦軸(YY’)にしたがって、可動的に取り付けられかつ並進的に案内される。
【0033】
好ましくは、ラック2の縦軸(YY’)は、以下では当該ラック2の並進運動軸(または「スライド軸」)と同一視されるものであって、乗物の(左右)交差横方向にしたがって向けられている。
【0034】
また、ステアリング機構3は、公知の態様で、
図3に概略的に示すように、ステアリングコラム6によって担持され、乗物の運転者によるステアリング操作を可能とするハンドル5を備える。
【0035】
好ましくは、ステアリングコラム6は、駆動ピニオン7(
図3において破線で概略的に示す)によってラック2に噛み合っている。
【0036】
また、ステアリングコラム6は、運転者によってハンドル5に加えられるトルクを測定するためのトルクセンサ8を有することが好ましい。
【0037】
例えば、上記トルクセンサ8は、ハンドル5を担持するステアリングコラム6の上流部とラック2に噛み合う駆動ピニオン7を担持する当該ステアリングコラム6の下流部との間に設けられるトーションバーの弾性変形を測定する磁気センサによって構成されていてもよい。
【0038】
また、ラック2は、好ましくはその端部(乗物に関連付けられる座標系における左右端部)において、ステアリングタイロッド、ここでは左タイロッドおよび右タイロッドに連結されており、そして当該タイロッドは、乗物の操舵(および好ましくは駆動)輪、ここでは左ホイールおよび右ホイールを担持するナックルに接続されている。
【0039】
よって、ラック2の(ここではステアリングケース4に対する軸(YY’)にしたがう並進的な)移動によって、上記操舵輪のステアリング角度(ヨー方向)を変えることができる。
【0040】
また、ステアリング機構は、所定の補助規則にしたがって、ステアリング機構の操作補助を可能とする補助トルクをラック2に作用させるように構成された補助モータ9、例えば油圧または電気補助モータを備えることが好ましい。
【0041】
例えば、補助モータ9は、
図3に概略的に示すように、好ましくはウォーム減速機のような減速機によってステアリングコラム6に係合していてもよく、それにより「シングルピニオン」機構と呼ばれる機構が構成される。
【0042】
別の可能な実施形態によると、補助モータ9は、例えばラック2に係合するボールねじによって、またはラック2に噛み合いかつステアリングコラム6に担持される第1駆動ピニオン7とは別個の第2駆動ピニオンによって、「ダブルピニオン」機構と呼ばれる機構を構成するように、必要に応じて減速機を介して、ラック2に直接的に係合していてもよい。
【0043】
ラック2に係合する駆動ピニオン7の構成や数に関わらず、本発明に係る装置は、当該ピニオン7の歯に対してラック2の歯2Tを押し付け、それにより製造誤差に、機構の摩耗に、または駆動装置が受けてラック2に伝わる衝撃や振動に関連する噛み合いクリアランスを補償することを狙いとする。
【0044】
このために、
図3に示すように、上記装置1は、ラック2に対してスラスト力F
thrustを作用させるためのタペット10を備える。
【0045】
より具体的に、タペット10は、スラスト力F
thrustが駆動ピニオン7に対してラック2を押し付けるように構成されている。
【0046】
このために、タペット10は、ラック2に対して、ピストン7が噛み合う当該ラックの歯2Tと径方向逆側のラック2の裏側に(好ましくは直接的に)当接している。
【0047】
好ましくは、タペット10は、ラック2を受けて支持するように構成されたクレードル11を有する。
【0048】
図1〜
図3および
図13に示すように、上記クレードル11は、ラック2のスライド軸(YY’)と平行な、さらには実質的に一致する母線軸を伴う実質的な円筒形状を有することが好ましい。
【0049】
また、クレードル11は、例えばポリマー材料で作られ、当該クレードル11内でのラック2のスライドを促進するコーティングまたはパッド12が適合されていることが好ましい。
【0050】
特に、このために使用されるポリマー材料は、例えば炭素繊維などの繊維で強化されたPA46もしくはPA66タイプのポリアミド、PTFE、シリコン、またはPOMであってもよい。
【0051】
あるいは、パッド12は、PTFEまたは樹脂層で覆われた金属シートによって形成されていてもよい。
【0052】
よって、パッド12、より広くはタペット10は、ラック2に属するスライド面13がスライド支持される(視認可能な)受け面14を提供する。当該スライド面13は、ここでは歯2Tの径方向逆側に位置するラックの滑らかな裏面によって形成される。
【0053】
有利には、パッド12の形状および寸法によって、そこでラック2のスライド面13がパッド12の受け面14に当接する接触線および/または面の位置や大きさ、ならびにしたがってパッド12上(より広くはタペット10上)でのラック2の移動を案内する案内構造の形態を規定することができる。
【0054】
特に、実質的に円弧状の輪郭を有するラック2のスライド面13を規定することが可能であり、その半径R13は、同じく実質的に円弧状の対応する受け面14の半径R14よりも厳密に小さい。
【0055】
有利には、スライド面13と受け面14との相互的な構成を適切に規定することにより、並進軸(YY’)に対して、「作用角度範囲」θ
2/10と呼ばれる角度範囲を実質的に予め定めることが可能となる。この作用角度範囲θ
2/10内には、例えば
図6に示すように、ラック2がその作用F
2/10をタペット10に作用させる「力線」L
2/10が位置し(かつ閉じ込められ)、それにより乗物の状態に関わらずタペット10の横方向傾きを回避できるように減衰システムを適合させることが可能となる。
【0056】
また、留意すべきこととして、走行装置に、したがってラック2やピニオン7にかかる負荷によっては、ラック2からタペット10への作用F
2/10は、実質的に中心に位置するか(すなわち、スラスト軸(ZZ’)に沿うか)、あるいは
図6に純粋に説明のために示すように、対照的に当該スラスト軸(ZZ’)に対して傾いて向く一方で基本的には上述した作用角度範囲θ
2/10の内側に位置する。
【0057】
タペット10は、好ましくは一体的に、例えば射出アルミ合金もしくは焼結鋼のような金属材料で作られていてもよく、または可能であれば繊維で強化された十分に硬質なポリマー材料、好ましくは射出成形を可能とする例えばPA46(ポリアミド)もしくはPPA(ポリフタルアミド)のような熱可塑性ポリマーであって可能であればガラスもしくは炭素繊維で強化されたもので作られていてもよい。
【0058】
本発明によると、タペット10は、ケーシング15,16内でスラスト軸(ZZ’)にしたがって可動的に取り付けられかつ並進的に案内される。
【0059】
上記ケーシング15,16は、一方では、スラスト軸(ZZ’)に沿ったタペット(10)の軸方向後退を抑止する、すなわちラック2によって当該タペット10に作用する圧縮作用F2/10の下でタペットがピニオン7から離れてケーシング15,16内へ押し下げられる軸方向運動を抑止する軸方向ストッパを形成し、他方では、タペットがスラスト軸(ZZ’)から横へ径方向に離れるのを抑止する、すなわちラック2からタペット10への作用F2/10によって誘発され、それによりタペット10がスラスト軸(ZZ’)から(偏心的におよび/または傾いて)離れようとする横方向移動を抑止する径方向ストッパを形成するように構成されている。
【0060】
特に
図3に示すように、スラスト軸(ZZ’)は、ラックの縦軸(YY’)(すなわち、ラックのスライド軸)に対する割線であり、好ましくは当該軸(YY’)に対して実質的に垂直である。
【0061】
また、タペット10は、実質的に筒状、必要に応じて母線軸(中心軸)が通常動作においてスラスト軸(ZZ’)と実質的に一致する円筒状の回転体形状である形状または少なくとも包絡面を有することが好ましく、したがって便宜上、当該母線軸をスラスト軸(ZZ’)と同一視する。
【0062】
慣習的に、また説明の便宜上、特に断らない限り、「軸方向」とは、考慮される軸に対して平行なまたは一致する方向または寸法、より具体的にはスラスト軸(ZZ’)に対して平行なまたは一致する方向を示すこととする。
【0063】
同様に、「径方向」とは、考慮される軸に対して交差する、より具体的には考慮される軸に対して垂直な方向または寸法、特にスラスト軸(ZZ’)に対して実質的に垂直な方向を示すこととする。
【0064】
図3に示すように、ケーシング15,16は、ラック2に対して開口するアクセス開口17から実質的にスラスト軸(ZZ’)にしたがって延びるジャケット15を有する。
【0065】
タペット10は、上記ジャケット15の内部で軸方向にスライドする。
【0066】
また、ケーシング15,16は、上記ジャケット15をアクセス開口17の反対側で塞ぐように当該ジャケット15に取り付けられて(例えばねじ止めによって)固定されたヨーク16を有する。
【0067】
好ましくは、装置1の構成にかかわらず、ヨーク16は(硬質)ポリマー材料で好ましくは一体的に形成されている。
【0068】
ポリマー材料は、可能であれば繊維で強化された十分に硬質な、そして好ましくは射出成形可能な熱可塑性樹脂の中から選択される。指標として、特にPA46(ポリアミド)またはPPA(ポリフタルアミド)であって可能であればガラスまたは炭素繊維で強化されたものを使用することができる。
【0069】
有利には、ポリマー製のヨーク16を実装することによって、装置1を軽量化することやヨーク16の製造をシンプルにすることができ、また振動や当該装置11内での部品間の衝突に関連する「金属」騒音の発生を回避するのを助けることができるだろう。
【0070】
それはそうとして、代わりにヨーク16を金属材料で形成することも可能である。
【0071】
次に、ジャケット15は、タペット10の形状に実質的に適合する形状、好ましくはスラスト軸(ZZ’)を中心とする実質的に円形ベースの円筒形状を有することが好ましい。
【0072】
考えられる実施形態によると、ジャケット15(すなわち、ケーシング15,16のうちジャケット15に対応する部分)は、有利には、ラック2を支持および案内するステアリングケース4の全体または一部と一体である。
【0073】
別の考えられる実施形態によると、ジャケット15、より広くはケーシング15,16全体は、ステアリングケース4と別個のサブアセンブリを形成していてもよく、当該ステアリングケース4に取り付けられて固定される。
【0074】
その構成に関わらず、ジャケット15は、有利には、例えばアルミ合金のような金属材料で作られていてもよい。
【0075】
また、実施可能な構成であって、
図1および
図2の分解図で分解軸の並びに示すものによると、タペット10は、その側面から突出し、ジャケット15の内壁15Iに形成された噛み合い軸方向スロットと協働するラグ18を有していてもよく、それがタペット10の角度位置の印になると共に当該タペットのスラスト軸(ZZ’)回りの回転がブロックされる。また、そのような構成によると、タペット10のジャケット15への取付けが簡略化される。
【0076】
それでも、好ましい変形例によると、
図1および
図2において分解軸から横方向にオフセットして示すように、タペット10は、ラグ18を有しておらず、ここでは「頭部10A」と呼ばれるその上側部分に、ジャケット15と直接に対向して、スラスト軸(ZZ’)周りの全周にわたって一定の半径を有する円形の滑らかな外周面を有するだろう。
【0077】
本発明によると、クリアランス補償装置1は、タペット10とケーシング15,16との間に設けられ、タペット10に属する第1当接面21とケーシング15,16に属する第2当接面22とにそれぞれ当接する
弾性の減衰部材20を備える。
【0078】
好ましくは、
減衰部材20は、特にコストを最小化するために、エラストマー製のリングによって構成されている。
【0079】
上記エラストマー製リングは、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な形状、例えば第1および第2当接面21,22の一方に実質的に適合する形状を有していてもよい。
【0080】
考えられる実施形態(図示せず)によると、
減衰部材20は、円錐台形状の平坦なシール、すなわち実質的に一定の厚みを有しかつスラスト軸(ZZ’)に対して傾斜した実質的に矩形状の断面を当該スラスト軸(ZZ’)回りに回転させてできるシールによって形成されていてもよい。
【0081】
特に、そのような円錐台形状シールは、第1および第2当接面21,22のいずれかが円錐台形状である場合に特に適当であり、そのため円錐台形状シールは、その径方向内側面および/または必要に応じてその径方向外側面により、当該第1当接面21および当該第2当接面22に対して平面的に適合するだろう。
【0082】
特に、そのような構成によると、第1および第2当接面21,22に対する円錐台形状シールの自己芯出しが可能となり、そして当該当接面21,22における当該円錐台形状シールの特に適当な当接がもたらされるだろう。
【0083】
平坦な円錐台形状シールは、射出成形によって製造されてもよい。
【0084】
それでもなお、特に好ましい変形例によると、
減衰部材20は、特に
図1〜
図7に示すように、円形断面を有するエラストマーによって、より具体的にはOリングシールによって構成される。
【0085】
したがって、説明の便宜上、以下では減衰部材20をOリングシール20と同一視するが、記述内容を、必要な変更を加えた上で他の形態の減衰部材20に一般化して置き換えることも可能であると考える。
【0086】
有利なことに、そのようなOリングシール20は、特に安価で実装が容易である。
【0087】
例として、その形状(ドーナツ状、平坦な円錐台形状、など)に関わらず、減衰部材20は、ポリウレタン、シリコン、ゴム、特にNBRまたはHNBRゴムで作られていてもよい。
【0088】
また、減衰部材20を構成するエラストマーは、60〜100のショアー硬度Aを有することが好ましい。
【0089】
また、上記減衰部材20は、スラスト軸(ZZ’)を中心として、タペット10、ヨーク16、およびジャケット15と同軸状であることが好ましい。よって、減衰部材20の動作は、スラスト軸(ZZ’)周りに良好に分散かつバランスされた多方向性のものになるだろう。
【0090】
有利には、減衰部材20の内縁部は第1当接面21に適合し、そのため減衰部材20(具体的にはOリングシール)が
図4に示すようにタペット10を(360°にわたって)取り囲み、一方で当該減衰部材20の外縁部は第2当接面22に適合する。
【0091】
ここで、留意すべきこととして、
図4では、Oリングシール20は、変形前のストレスフリーな状態を破線で示され、当該Oリングシール20が装置1に取り付けられてタペット10とケーシング15,16との間に挟まれた場合に当接面21,22の間に押しつぶされて位置する状態を実線で示されている。
【0092】
また、留意すべきこととして、クリアランス補償装置1は、好ましくは、減衰部材20とは別個であって、ラック2をピニオン7に対して戻すように当該ラック2に対してタペット10を軸方向に押し付ける、例えばコイルばねのような第1戻し部材25を備える。
【0093】
このために、上記第1戻し部材25は、好ましくは、軸方向においてタペット10とヨーク16との間に設けられていて、軸方向に圧縮されており、そのためタペットがヨーク16の方へ押し下げられた(軸方向に後退した)場合に増大する戻し力をもって当該タペット10およびしたがってラック2を支持するように構成されている。
【0094】
好ましくは、上記第1戻し部材25の動作は、主に、さらにはもっぱら、軸方向におけるものである。
【0095】
特に第1戻し部材25による戻し力の大きさは、好ましくは、タペットの後退に実質的に比例する態様で増加する(コイルばね25の剛性は考慮される変形範囲にわたって実質的に一定であるため)。
【0096】
軸方向において、減衰部材20は、好ましくは、第1戻し部材25による戻し動作を補完するような付加的な軸方向動作を行う追加的な第2戻し部材を形成するだろう。
【0097】
特に、第1戻し部材25の頂部に減衰部材20を追加することにより、当該減衰部材20の軸方向圧縮によって増大する軸方向剛性を得ることができるだろう。当該軸方向剛性は、タペット10が後退するにしたがって好ましくは非線形態様で増大するだろう。
【0098】
よって、タペット10が後退するほど、第1戻し部材25および第2戻し部材20の組合せ作用がより「強く」なり、したがって第1戻し部材25および第2戻し部材20の累積的な軸方向戻し作用の大きさ、すなわちスラスト力F
thrustの軸方向成分の大きさが、タペット10の後退に伴って比例的(線形)な態様ではなく「不均衡」な態様で、すなわちタペット10の後退に伴って傾きが大きくなる非線形関数にしたがって増大する。
【0099】
指標として、第1戻し部材25と第2戻し部材20とを組み合わせた系の軸方向剛性は、およそ700〜1000N/mmであってもよい。
【0100】
この態様では、ラックにかかるスラスト力F
thrustの軸方向成分は、約300Nに達し得る。
【0101】
これに対して、タペット10の横方向ブロックは、好ましくは完全に減衰部材20によるものである。
【0102】
このために、減衰部材20は、タペット10に対して(軸方向作用に加えて)径方向の戻し作用を作用させることができるように、径方向において当該タペット10とケーシング15,16との間に設けられるだろう。
【0103】
留意すべきこととして、減衰部材20は、したがって好ましくは、軸方向および径方向の両方においてタペット10とケーシング15,16との間に設けられる。このことは、メインの戻し部材25が、好ましくは、径方向ではなく軸方向のみにおいてタペット10とケーシング15,16との間に設けられることと対照的である。
【0104】
より一般的に、減衰部材20は、好ましくは、クリアランス補償装置1の(エラストマーで作られた)唯一の耐衝撃要素、すなわち径方向においてタペット10とケーシング15,16との間に設けられ、径方向に弾性圧縮されるただ1つの耐衝撃要素を形成しており、そのため当該耐衝撃要素は、ケーシング15,16に対するタペット10の径方向移動を、(径方向圧縮によって)当該径方向移動を弾性的に制動することによってブロックすることや、したがってタペット10(より具体的には当該タペットの側壁)がケーシング15,16に横方向に衝突するのを防ぐことができるだろう。
【0105】
本発明によると、第1当接面21および第2当接面22の少なくとも一方は、「分散面」23と呼ばれ、スラスト軸(ZZ’)に対して傾斜している。
【0106】
また、上記第1および第2当接面21,22の他方は、「座面」24と呼ばれ、分散面23に対向しかつ
減衰部材20に対して、当該座面24が減衰部材20に対して軸方向に作用するのを可能とする少なくとも1つの径方向伸長部24Rと、当該座面が減衰部材20に対して径方向に作用するのを可能とする少なくとも1つの軸方向伸長部24Aとを有する。
【0107】
この態様では、特に
図3〜
図5に示すように、タペット10が
減衰部材20をケーシング15,16に対して押し付ける場合、
減衰部材20は、それに応じてタペット10に対して、当該タペット10を一方では軸方向においてラック2の方に、他方では横方向(径方向)においてスラスト軸(ZZ’)の方に同時に戻そうとする保持力R
20/10を作用させる。
【0108】
留意すべきこととして、分散面23や座面24に対して提示する構成、特に分散面23の傾きは、少なくともラック2の縦軸(YY’)に垂直でありかつスラスト軸(ZZ’)を含む「前額面」と呼ばれる平面P0において確認することができる。
【0109】
また、上記前額面P0は、好ましくは、タペット10の(第1)対称面に対応しており、当該対称面は、当該タペットを2つの実質的に同一な半部に分割する。
【0110】
好ましくは、分散面23や座面24に対して提示する構成、特に分散面23の傾きは、スラスト軸(ZZ’)周りの方位角で(ヨー角で)考慮される複数の他の方向において、より好ましくは方位角方向のほとんどにわたって確認することができる。すなわち、減衰部材20および当接面21,22は、スラスト軸(ZZ’)周りにおいて、累積的に180°以上、さらには270°以上の角度範囲を占めていることが好ましい。
【0111】
特に好ましい態様では、そのような構成は、(例えば上述したOリングシールの場合において)全ての方位角方向において確認することができ、減衰部材20および当接面21,22は、上記スラスト軸(ZZ’)周りにおいて、360°にわたって延びている。
【0112】
よって、タペット10に対するラック2の作用F
2/10に関わらず、保持力R
20/10を効果的に分散させかつバランスさせることができる。
【0113】
また、その方位角の広がりに関わらず、減衰部材20および当接面21,22は、好ましくは、ラックの「矢状面」P1と呼ばれる平面に関して対称である。当該矢状面P1は、ラック2の縦軸(YY’)およびスラスト軸(ZZ’)を含んでいて、したがって前額面P0に対して垂直である。
【0114】
より具体的に、減衰部材20および当接面21,22は、スラスト軸(ZZ’)に関して回転対称である。
【0115】
矢状面P1の両側における対称な構成によって、特に減衰部材20によるタペット10の対称的な戻り挙動を得ることができ、そのため、当該減衰部材20は、ラック2からの作用下でタペット10がスラスト軸(ZZ’)から離れようとする方向に関わらず、当該スラスト軸(ZZ’)に向けてタペット10を再び芯出しさせようとする。
【0116】
よって、例として、タペット10がラックの作用によって右方へ逸れた場合、
図3〜
図6に示すように、減衰部材20によって当該タペット10が左方に戻される。その逆の場合も同様である。
【0117】
また、実施可能な構成によると、
図18に示すように、座面24を形成するのは第1当接面21であり、すなわち座面24はタペット10の一部であり、一方で第2当接面22は、ケーシングに、より具体的にはヨーク16に属していて、傾斜した分散面23を形成する。
【0118】
それでもなお、好ましい構成によると、それは上記の構成と反対でありかつ特に
図3、
図4、
図16、
図17、および
図19の構成に対応するものであって、タペット10に属する第1当接面21が傾斜した分散面23を形成する一方、ケーシング15,16に属する第2当接面22が座面24を形成する。
【0119】
換言すれば、分散面23は、タペット10に形成されているのが好ましく、一方で座面24は、ケーシング15,16に、より好ましくは、少なくとも一部、さらには全体がヨーク16に形成されている。
【0120】
特に、そのような構成によると、タペット10およびヨーク16の製造、およびこれらの部品と減衰部材20との組立てが容易化され得る。
【0121】
以下では、したがって説明の便宜上、特に断らない限り、分散面23をタペット10に属する第1当接面21と、また座面24をケーシング15,16に属する第2当接面とそれぞれ同一視することが可能であるが、そのように本発明を限定するものではない。なぜなら、実際に本発明は、必要な変更を加えた上で想定可能な逆の構成にもその特徴を適用できるためである。
【0122】
図16〜
図19は、非制限的な態様で、当接面21,22の、より広くは減衰部材20を介してタペット10とケーシング15,16との間に形成される減衰接続部の様々な実施可能な構成を示している。
【0123】
図16に示す変形例では、第1当接面21および第2当接面22の両方が、スラスト軸(ZZ’)を中心として同じ方向を向いた実質的に噛み合う形状の円錐台形状であって、そのため円錐/円錐タイプの当接を介して実質的に入れ子にすることができる。
【0124】
絶対的に言えば、
図16に示すこの構成によると、当接面21,22の各々がスラスト軸(ZZ’)に対して傾斜しているおかげで分散面23および座面24の両方の役割を果たすことができ、傾斜した当接面21,22の軸方向成分24A,L23が、弾性部材20に対する径方向保持ストッパを形成し、これと同じ傾斜した当接面21,22の径方向成分24R,H23が、当該弾性部材20に対する軸方向保持ストッパを形成する。
【0125】
換言すれば、第1および第2当接面21,22が互いに実質的に平行で傾斜しているこの構成では、当該第1および第2当接面21,22に割り当てられる分散面23および座面24の役割は、互いに交換のきくものである。
【0126】
とりわけ、
図16のこの構成の利点は、特に取付けの間においてヨーク16に対するタペット10の芯出しが促進されることである。
【0127】
これに対して、この同じ構成は、取付作業の間において減衰部材20を安定して保持しにくいという短所を有する。
【0128】
図17に示す変形例では、傾斜した分散面23は、ここでは円錐台形状であってスラスト軸を中心とし、かつその仮想頂点がヨーク16の方に位置する第1当接面21によって形成されている一方、座面24は、ヨーク16に形成された環状の肩部の形態を有する第2当接面22によって形成されている。
【0129】
この構成は、
図1〜
図4に示す構成にも対応するものであって、特にヨーク16の肩部内に配置された減衰部材20の軸方向および径方向の両方における非常に安定した保持を提供し、このことは取付作業中および装置1の動作中においても同様である。
【0130】
図18の変形例では、先の変形例とは対照的に、傾斜した分散面23は、ヨーク16に形成され、ここでは円錐台形状であってスラスト軸(ZZ’)を中心とし、かつその仮想頂点がヨーク16の方に位置する第2当接面22によって形成されている一方、座面24は、タペット10に形成された環状の肩部の形態を有する第1当接面21によって形成されている。
【0131】
ここでまた、タペット周りにおいて肩部内で締め付けられた減衰部材20の非常に安定した保持が得られ、このことは取付作業中および装置1の動作中においても同様である。
【0132】
説明の便宜上、座面24が肩部によって形成されている場合、当該肩部を当該座面24と同一視し、かつ当該肩部について座面と同じ参照番号24で言及することもある。
【0133】
図19に示す
実施形態では、座面24は、好ましくは環状で半円形断面を有し、かつスラスト軸(ZZ’)を中心とするスロット40によって形成されている。当該スロット40は、スラスト軸(ZZ’)を中心とする対応する円錐台形状の分散面23に対向する、好ましくはスラスト軸(ZZ’)に対して実質的に垂直な面に開口している。
【0134】
図19では、スロット40は、ヨーク16に形成されていて、当該ヨーク16の上面に開口している。ヨーク16の上面は、スラスト軸(ZZ’)に対して実質的に垂直であって、ここではタペット10に属する第1当接面21によって形成される円錐台形状の分散面23に対向している。
【0135】
好ましくは、スロット40の半円形断面の直径は、減衰部材20の(静止状態、変形前の)断面の直径D20に実質的に等しく、またはそれよりもわずかに大きく、それにより当該減衰部材20の大部分、ここでは軸方向の少なくとも半部を収容することができる。
【0136】
そのような構成によると、取付けの間においてスロット40内に比較的安定的に減衰部材20をセットすることができるが、
図17および
図18の変形例ほどには効果的に当該減衰部材20を保持することができない。そのため、当該減衰部材は容易にセットはされるが、2つの先の変形例とは違って、タペット10(
図18)またはヨーク16(
図17)に対して締め付けられない。
【0137】
以下では、これらの様々な変形例の他の特徴および利点についてより詳しく説明する。
【0138】
有利には、スラスト軸(ZZ’)周りにおいて考慮される各方位角方向に応じて、本発明に係る分散面23の傾きによると、ただ1つの当接面(
図3、
図4、
図16、
図17、および
図19では第1当接面21、
図18では第2当接面22)によって、ラック2からタペット10に及ぶ作用F
2/10の影響を分散させること、およびしたがって減衰部材20の反作用(すなわち、保持力R
20/10)を、
図5に示すように当該保持力の2つの成分にしたがって同時に分散させることが可能となる。2つの成分とは、第1軸方向保持力成分R
20/10_Aと、第2径方向保持力成分R
20/10_Rとである。
【0139】
第1軸方向保持力成分R
20/10_Aは、タペット10をラック2に対して(スラスト軸(ZZ’)と交差する歯2Tを駆動ピニオン7に押し付けるように)軸方向に、すなわちスラスト軸(ZZ’)と実質的に平行に(かつここでは上向きに)押そうとする。当該第1軸方向保持力成分R
20/10_Aは、一方では分散面23と、他方では座面24の径方向伸長部24R(当該径方向伸長部24Rは、減衰部材20の軸方向移動を抑止するストッパを構成する)との間における減衰部材20の軸方向弾性圧縮によって生じる。
【0140】
第2径方向保持力成分R
20/10_Rは、タペット10をスラスト軸(ZZ’)に向かって径方向に、かつ当該スラスト軸(ZZ’)に対して実質的に垂直な方向に押そうとする。当該第2径方向保持力成分R
20/10_Rは、一方では上記と同じ分散面23と、他方では座面24の軸方向伸長部24A(当該軸方向伸長部24Aは、減衰部材20の径方向移動を抑止するストッパを構成する)との間における上記と同じ減衰部材20の径方向弾性圧縮によって生じる。
【0141】
このように、同じ減衰部材20が、傾斜した分散面23と接触して、タペット10とケーシング15,16との間の境界部において、軸方向減衰ばねおよび径方向減衰ばねの両方として機能する。
【0142】
よって、本発明によると、必要に応じて、保持力R
20/10の斜め方向の戻りが、ラック2の方(軸方向)およびスラスト軸(ZZ’)の方(径方向)の両方において集中し得るものとして促進され、それにより特に効果的かつ安定的なタペット10の二方向(径方向および軸方向)の支持が実現される一方、その構造は比較的シンプルである。
【0143】
特に、保持力R
20/10は、実質的にラック2の縦軸(YY’)の方に、すなわちこの例では当該ラック2のスライド面13を規定する円弧状輪郭の中心O
13の方に向かうものであってもよい。
【0144】
概して、当接面21,22の構成は、好ましくは実質的に洗面器、またはじょうごのような形態であって、大きい開口がラック2の方に向けられて収縮していく、すなわちスラスト軸(ZZ’)に沿ってラック2(およびピニオン7)から軸方向に遠ざかるにつれて当該スラスト軸(ZZ’)に対して径方向に近くなる形態のものである。
【0145】
よって、当接面21,22の構成は、減衰部材20によって径方向に画定された周縁部の内側に「潜り込む」ようなものである。
【0146】
また、減衰部材にかかる斜め方向の荷重に関わらず当該減衰部材20を所定位置に確実に保持するために、第2当接面22、より具体的に座面24の軸方向伸長部24Aは、第1当接面21に対して、より具体的に傾斜分散面23に対して径方向外側にオフセットしている。すなわち、第2当接面22は、当該第1当接面21よりもスラスト軸(ZZ’)から離れている。
【0147】
より広く、スラスト軸(ZZ’)の同じ側において、第1当接面21、減衰部材20の中心線O
20、および第2当接面22は、有利には、互いに対してこの記載順に軸方向(ラック2およびピニオン7からの距離が大きくなることによる)および径方向(半径が大きくなることによる)の両方において並んでいる。
【0148】
「中心線」O
20の語は、ビーム理論における通常の意味において、スラスト軸(ZZ’)周りに減衰部材20を構成する一連の断面の各々の重心の全てによって形成される当該減衰部材20の生成線を意味する。表記の便宜上、したがって以下では、参照符号O
20によって、減衰部材20の「中心線」と、減衰部材20のある断面において当該中心線に対応する当該断面の「重心」との両方を示すことが可能である。
【0149】
特に好ましい態様では、分散面23は、スラスト軸(ZZ’)を、より具体的にはタペット10の母線軸を中心とし、その頂点S23が、
図3、
図4、および
図16〜19に示すように、タペット10の軸方向後退の方に、すなわちラック2と反対側、特に「ゲージ面」P
Jと呼ばれる平面に関してラック2およびピニオン7と反対側に位置する円錐台形を形成する。ゲージ面P
Jは、スラスト軸(ZZ’)に対して垂直であって減衰部材20の中心線O
20を含んでいる。
【0150】
特に、そのような円錐台形状の構成によると、Oリングシール20を収容および使用するのに適していて力をスラスト軸(ZZ’)周りの全方位角方向に分散させる効果を有する比較的大きな分散面23を(例えば機械加工または射出成形によって)容易に形成することが可能となり、それによりタペット10のバランスを取ることや、当該タペット10にラックから作用する荷重の向きに関わらず当該タペットの移動を減衰させることができる。
【0151】
説明の便宜上、分散面23が円錐台形状である場合、当該円錐台形を当該分散面23と同一視すること、および分散面と同じ参照番号23によって当該円錐台形に言及することもある。
【0152】
好ましくは、特に製造の便宜のために、また特に分散面23が設けられるタペット10またはヨーク16の寸法の計量的なコントロールを簡略化するために、分散面23を形成する円錐台形の側壁は、
図4および
図16〜19に示すように、実質的に直線状である。
【0153】
それはそうとして、円錐台形23の上記側壁が、その代わりに、わずかに凸状になった反りや、わずかに凹状になった湾曲を有することが排除されるのではない。
【0154】
好ましくは、特に
図3および
図4に示すように、スラスト軸(ZZ’)に対する分散面23の傾斜角θ
23、すなわちここでは具体的に円錐台形23の頂点における半角は、30〜60°、好ましくは実質的に45°または実質的に55°である。
【0155】
有利には、そのように傾斜θ
23を選択することにより、分散面23が軸方向および径方向の両方において優れた力伝達機能を有し、したがって軸方向および径方向の両方において減衰部材20に対する良好な協働および保持機能を有する。
【0156】
したがって、詰まるところ、そのような傾斜によると、保持力R
20/10の軸方向成分R
20/10_Aおよび径方向成分R
20/10_Rの適切な分散を実現することができ、またタペット10の傾斜防止のバランスを確保することができる。
【0157】
ここで、留意すべきこととして、径方向への分散が大きくなりすぎるのを回避するために、すなわちラック2からタペット10に作用する(主に)軸方向の力が、分散面23を介した(スペーサくさび効果による)当該力の変換により、装置1への過大な径方向作用を生じさせるのを回避するために、分散面23を過度に「鉛直」に傾かせることを回避すべきであり、よって傾斜角θ
23ができるだけ大きいことが好ましく、特に45°よりも厳密に大きく、例えば約55°である。
【0158】
指標として、分散面23(より具体的には、減衰部材20と接触するよう意図された当該分散面の直線状の傾斜部分)は、Oリングシール20の断面の(静止状態での)直径D20の50%以上、60%以上、さらには75%以上の幅L23にわたって径方向に延びていてもよく、および/または2〜3mmあるいは2〜5mmであってもよい。
【0159】
同様に、指標として、分散面23(より具体的には、減衰部材20と接触するよう意図された当該分散面の直線状の傾斜部分)は、Oリングシール20の断面の(静止状態での)直径D20の50%以上、60%以上、さらには75%以上の高さH23にわたって軸方向に延びていてもよく、および/または2〜3mmあるいは2〜5mmであってもよい。
【0160】
有利には、そのような好ましい寸法によると、分散面23の大きさは、減衰部材20を良好に収容することや力を効率的に伝えることに十分なものになり、かつ当該減衰部材20の自由な機能的変形を可能とするだろう。
【0161】
また、留意すべきこととして、座面24の構成は、当該座面が軸方向伸長部24Aおよび径方向伸長部24Rの両方を有するならば、すなわち、当該座面がその全体において径方向および軸方向の両方(径方向のみまたは軸方向のみではない)に延びているならば変化してもよく、そのため、
図5に概略的に示すように、一方では、その軸方向伸長部24Aによって、減衰部材20に径方向力成分を対向させて当該減衰部材20の(スラスト軸(ZZ’)と交差する)径方向移動を実質的にブロックすることを可能とする径方向ストッパを形成し、他方では、その径方向伸長部24Rによって、減衰部材20に軸方向力成分を対向させて当該減衰部材20の軸方向移動を実質的にブロックすることを可能とする軸方向ストッパを形成することができる。
【0162】
絶対的に言えば、例えば円錐台形状または湾曲状の連続的に傾斜した座面24を形成することを考えることもでき、当該面のスラスト軸(ZZ’)に対する傾斜は、必要な伸長部24A,24Rの両方を同時に提供するものである。
【0163】
円錐台形状の座面24を伴う変形例が
図16に示されており、そこでは分散面23と座面24との両方が円錐台形状の実質的に入れ子になる噛み合い形状を有する。そのため、径方向伸長部24Rは、円錐台形24を形成する斜面の径方向の広がりに対応し、軸方向伸長部24Aは、円錐台形24の同じ斜面の軸方向の広がりに対応する。
【0164】
留意すべきこととして、座面24が(も)円錐台形状である場合、その径方向伸長寸法24Rおよび軸方向伸長寸法24Aは、分散面23の径方向幅L23および軸方向高さH23に関して上述したのと同じ寸法規則に従うものであってもよい。
【0165】
考えられる実施形態によると、分散面23と座面24とがその間に減衰部材20を介在させるのに十分な軸方向および径方向の重なりを有するならば、実質的に(長さ測定において)24R=L23かつ24A=H23となるように寸法を選択することが可能である。
【0166】
ここで、湾曲形状の座面24を有する
実施形態が
図19に示されており、そこでは座面24は、半円形断面を有してスラスト軸(ZZ’)を中心とする(環状)スロット40によって形成されている。
【0167】
そして、径方向伸長部24Rは、上記スロット40の断面の直径、すなわちスラスト軸(ZZ’)に垂直な径方向軸に対して垂直に投影される当該スロット40の底部の寸法に実質的に対応し、一方、軸方向伸長部24Aは、当該スロット40の断面の半径、すなわちスラスト軸(ZZ’)に対して径方向に投影される当該スロット40の深さに実質的に対応する。
【0168】
それでもなお、特に好ましい態様では、座面24の径方向伸長部24Rおよび軸方向伸長部24Aは、特に
図4、
図17、および
図18に示すように、互いに交差する第1面部24Rおよび第2面部24Aによって別個に形成されており、そのため当該座面24によって肩部が形成される。
【0169】
換言すれば、座面24を2つの交差するサブ座面24A,24Rに分割することが好ましい。当該サブ座面24A,24Rは、方向変化を伴う「折れ部」26の高さにおいて折れ線を形成して合流することが好ましく、そのため、当該サブ座面24R,24Aの各々は、他方のサブ座面24A,24Rが延びる方向とは異なる(軸方向または径方向の)方向に実質的にあるいはもっぱらしたがって延びている。
【0170】
そのことは、特に
図17に示す変形例の場合、または
図18に示す変形例の場合に相当する。前者では、座面24によって構成される肩部は、ケーシング、より具体的にはヨーク16に形成され(
図1〜
図4の場合でもある)、後者では、座面24によって構成される肩部は、この例ではタペット10に形成されている。
【0171】
よって、第1面部24R(第1サブ座面)は、主に径方向に、さらにはもっぱら径方向に、すなわちスラスト軸(ZZ’)に対して垂直に当該スラスト軸(ZZ’)に垂直な平面にしたがって延びていることが好ましく、一方、第2面部24A(第2サブ座面)は、主に軸方向に、さらにはもっぱら軸方向に、すなわちスラスト軸(ZZ’)に対して平行に、ここでは当該直線状スラスト軸(ZZ’)を中心に生成される好ましくは円形ベースの筒にしたがって延びていることが好ましい。
【0172】
有利には、肩部24にしたがって各面部24R,24Aを構成することにより、当該肩部の底部において減衰部材20を効果的に収容、維持することができる。なぜなら、当該減衰部材20が、非常にはっきりしたストッパによって、軸方向および径方向の両方において縁取られるためである。
【0173】
特に、そのような二方向の保持は、装置1の組立てにおいて有用である。なぜなら、有利なことに、減衰部材20、より具体的にはOリングシール20を肩部24内に適合させることが可能であり、当該肩部24内では当該Oリングシール20が当接し、ヨーク16をタペット10に対向して係合させる前に、締付けおよび摩擦によって保持されるためである。
【0174】
よって、
図17および
図1〜
図4の変形例では、減衰部材20は、ヨーク16に形成された肩部24の内側で、当該ヨーク16がジャケット15に係合およびねじ止めされる前に、当該減衰部材20の外径に作用する内向きの圧縮力によって予め適合されかつ締め付けられ得る。
【0175】
図18の変形例では、減衰部材20は、タペット10に形成された肩部24内においてタペット10周りに予め適合され、当該減衰部材20の内径に作用する外向きの膨張力によって当該タペット10に対して維持されて締め付けられ得、当該タペットをジャケット15に係合させる。
【0176】
これにより、組立てに必要なヨーク16やタペット10を扱う間に、上記Oリングシール20が落下したり、または横向きに配置され、挟まれ、もしくは損傷するリスクを有して滑ったりするのを回避することができる。
【0177】
そのような肩部24による安定的かつ堅牢な二方向支持は、動作時においても有益である。なぜなら、当該二方向支持によって、減衰部材20、より具体的にOリングシール20がタペット10とケーシング15,16との間で圧縮されて外れるのを防止することができ、また当該二方向支持によって、当該Oリングシール20を介した軸方向および径方向の両方における大きな保持力成分(R
20/10_AおよびR
20/10_R)の伝達が可能となるためである。
【0178】
留意すべきこととして、好ましくは、特に製造の便宜のために、また肩部24による二方向支持の有効性を最適化するために、座面の第1部分24Rと座面の第2部分24Aとは、
図4、
図17、および
図18に示すように、実質的に直角をなして交差している。
【0179】
また、ケーシング15,16は、上述したように、ジャケット15と、このジャケット15とは別個に設けられ、当該ジャケットをアクセス開口17の反対側で塞ぐように当該ジャケット15に追加されて固定されるヨーク16とを有しており、座面24の径方向伸長部24Rおよび軸方向伸長部24Aは、好ましくは両方ともヨーク16の一部によって形成されている。
【0180】
換言すれば、座面24、より具体的に肩部24は、(ジャケット15まで延びることなく)完全にヨーク16に形成されていることが好ましい。
【0181】
より具体的に、好ましくは、座面24の径方向伸長部24Rは、上記ヨーク16に(軸方向に)形成されてスラスト軸(ZZ’)を中心とする座ぐり穴27の底壁(ここでは、平面状であってスラスト軸(ZZ’)に対して実質的に垂直である)によって形成され、一方、当該座面24の軸方向伸長部24Aは、当該ヨークに形成されてスラスト軸(ZZ’)を中心とする同じ座ぐり穴27の側壁(ここでは円筒状であってスラスト軸(ZZ’)に対して実質的に平行である)によって形成されている。
【0182】
まず、そのような構成によると、射出成形または機械加工(単一の座ぐり作業)による座面24のシンプルかつ迅速な形成が可能となる。
【0183】
次に、座面24をヨーク16に一体形成することにより、堅牢かつ安定的な構造を得ることができる。そのような構造によると、装置1の組立時において、ヨーク16をタペット10やジャケット15に付加する前に、減衰部材20をその最終的な機能位置に当該ヨーク16内の上記座面24と接触させて直接かつ正確に配置することができる。
【0184】
この同じ一体構造の座面24によると、その後、装置1の動作中において減衰部材20を堅固に保持することが可能となる。
【0185】
最後に、またとりわけ、ヨーク16内の座面24が2つの(軸方向24Aおよび径方向24R)部分を有する構成により、それ自体で1つの発明を構成し得る特徴にしたがって、径方向において、一方では、タペット10の(径方向外側の)側壁、より具体的には当該タペット10に属する分散面23と、他方では、(好ましくは金属製の)ジャケット15の内壁15Iとの間にヨーク16を配置することが可能となり、そのためヨーク16それ自体が耐衝撃バリアを構成する。この耐衝撃バリアは、タペット10の径方向移動を制限して、当該タペット10がジャケット15に直接的に衝突すること、およびより広くは当該ジャケット15と接触することを抑止する。
【0186】
より具体的に、本発明によると、したがって、径方向においてタペット10の側壁とジャケット15の内壁15Iとの間に、スラスト軸(ZZ’)を中心として当該スラスト軸(ZZ’)の全周にわたってタペット10を取り囲むように(環状の)ヨーク部16を配置することが可能である。
【0187】
よって同様に、減衰部材20は、タペット10の側壁、より具体的には当該タペットの分散面23と、当該環状ヨーク部16との間に配置されてもよい。
【0188】
タペット10とジャケット15の間に設けられた環状ヨーク部16は、(少なくとも)座面の軸方向伸長部24Aを形成するだろう。当該軸方向伸長部24Aは、径方向外方にしたがって、タペット10の側壁に(少なくとも径方向外方に向かって)当接するエラストマー製の減衰部材20を受けてブロックする。
【0189】
このタペット10/減衰部材20/ヨーク16の同軸状の積上げのために、当該タペット10は、有利には、径方向において、ジャケット15の内壁から離間して、ヨーク16に対して(かつヨーク16内に)弾性的に吊される。
【0190】
また、ポリマー材料で作られたヨーク16の好ましい使用によると、タペット10の起こり得る衝突によって生じる騒音を一定程度まで軽減することが可能であり、そのため、そのような衝突は、ジャケット15などの装置1の金属部分に対してではなく、当該樹脂製ヨーク16に対して、ここではタペット10に軸方向においてオーバーラップする(より具体的には、当該タペットの脚部10Bにオーバーラップする)上述したヨーク16の環状部分に対して生じるのであって、それにより当該衝撃の聞こえ度(「音質」)が好ましく変化する。
【0191】
さらに、留意すべきこととして、ヨーク16は、有利には、後でも述べるように、その上述した環状部分によって、タペット10の全軸方向高さH10の少なくとも一部にわたって、第1当接面21との対向部のみでなく、当該第1当接面21を越えて、当該タペット10の「脚部10B」と呼ばれる全端部(ここでは、下側部)にわたって当該タペット10と軸方向にオーバーラップしていてもよい。
【0192】
好ましくは、上述したように、ラック2は、タペット10に対してスライドする際に沿う縦軸(YY’)を有していて、またその縦軸(YY’)に交差する断面において、実質的に円弧状であって、タペット10に設けられた対応する受け面14上でスライド支持されるスライド面13を有する。
【0193】
好ましくは、少なくともラック2の縦軸(YY’)に対して実質的に垂直でありかつスラスト軸(ZZ’)を含む「前額面」P0と呼ばれる断面において、「傾斜境界」L
Tと呼ばれる仮想線は、一方ではスライド面13を生成する円弧のチャンバ右心O
13を通り、他方では減衰部材20の断面の中心(重心)O
20を通る(すなわち、当該減衰部材20の中心線O
20を通る)ものであって、
図3および
図4に示すように、スラスト軸(ZZ’)に対して「シート角」θ
LTと呼ばれる開き角を有する。当該シート角θ
LTは、20°以上、40°以下であって、より好ましくは20〜35°である。
【0194】
考えられる実施形態によると、上記シート角θ
LTは、実質的に35°となるように選択される。
【0195】
有利には、理解されるであろうこととして、
図6に示すように、ラック2からタペット10への作用F
2/10がスラスト軸(ZZ’)と傾斜境界L
Tとの間の角度範囲内に含まれる限り、すなわちラック2からタペット10への当該作用F
2/10が、減衰部材20の中心線O
20によってスラスト軸(ZZ’)周りに画定される閉じた範囲の内側を向いている限り、減衰部材20の中心線O
20に関して生じるラック2からタペット10への当該作用F
2/10によるモーメントは、当該タペット10を当該減衰部材20によって画定される環状範囲の内側に向けて戻そうとする。
【0196】
同様の状況において、ラック2からタペット10への作用F
2/10は、当該タペット10を減衰部材20の全体上で担持されるようにすることによって、ヨーク16内でのタペット10の自己バランス作用をもたらすだろう。そのとき、減衰部材20は、スラスト軸(ZZ’)のいずれかの側で(
図3および6では、左方でかつ締め付けられるように)軸方向に圧縮される。
【0197】
保持力R
20/10、より広く分散面23が減衰部材20に当接する接触部に沿ってスラスト軸(ZZ’)周りの全周において作用する保持力の合力は、よってラックの動作をバランスさせ得る。
【0198】
したがって、タペット10は、傾きのリスクなくして安定した態様で支持される。
【0199】
逆に、
図7に示すように、ラック2からタペット10への作用F
2/10が傾斜境界L
Tを越えて作用することは回避するべきである。なぜなら、こうなると、減衰部材20の中心線O
20に対して、当該減衰部材20をスラスト軸(ZZ’)の一方側(
図7で左側)でタペット10から離れさせようとし、かつスラスト軸(ZZ’)の他方側(ここでは、
図7で右側)においてタペット10を中心線O
20の上方で、したがって減衰部材10の上方で傾かせようとするモーメントが生じるためである。
【0200】
このため、シート角θ
LTは、十分に大きな最小値(典型的には、30°以上、さらには35°)を有するように、かつラック2からタペット10への作用θ
2/10の予想される角度範囲に対応する値よりも大きくなるように選択されるだろう。
【0201】
例として、
図6では、シート角θ
LTは、作用θ
2/10の予想される範囲によって占められる全角度範囲の半分よりも大きくなければならない。
【0202】
また、上記シート角θ
LTの最大値は、十分に小さく選択するべきであり、それにより減衰部材20の径方向の広がり、したがってヨーク16、タペット10、およびより広くは装置1の径方向の広がりを制限することができ、よって当該装置1のコンパクト性を保つことができる。
【0203】
同様に、ラック2からタペット10への作用F
2/10の径方向成分、およびラック2からパッド12への接触圧力の大きさを制限するように、シート角θ
LTを制限することが好ましい。
【0204】
このため、上記シート角θ
LTの値は、40°以下、さらに好ましくは35°以下の値に設定されることが好ましい。
【0205】
また、留意すべきこととして、ラックの縦軸(YY’)を基準としてシート角θ
LTを規定する場合、必要な変更を加えて(必要に応じて、クレードル11の母線軸に対するラック2のわずかな偏心を考慮に入れることにより)クレードル11の母線軸に関して当該シート角θ
LTを規定することも可能だろう。
【0206】
同様に、減衰部材20の中心線に対してではなく、分散面23の中心に対してシート角θ
LTを規定することも可能だろう。
【0207】
よって、例えば、一方ではタペット10の中心軸(母線軸)(ZZ’)と、他方では当該タペット10の分散面23の中心とクレードル11(またはパッド12)の縦軸(実質的にラックの縦軸(YY’)に対応する)の中心とを通る仮想線との間で形成される角度を上述したシート角θ
LTの値と等しいものとすることによって当該タペット10を実質的に寸法設定することが可能である。
【0208】
また、ケーシング15,16は、上述したように、ジャケット15と、このジャケット15とは別個に設けられ、当該ジャケット15に付加されかつ固定されてアクセス開口17の反対側で当該ジャケットを塞ぐヨーク16とを有する。タペット10は、好ましくは、特に
図3、
図11、および
図13に示すように、一方では当該タペット10が対向してスライドするジャケット15の内壁15Iの形状に実質的に適合する形状を有する頭部10Aと、他方ではこの頭部10Aを軸方向に延長する脚部10Bとを含む軸方向に連続した構造を有する。
【0209】
それ自体が減衰部材20の存在および/または構成から独立して1つの発明を構成し得るような好ましい特徴によると、タペット10の少なくとも一部、この例ではタペット10の脚部10Bは、ヨーク16に形成された(また、ここではスラスト軸(ZZ’)を中心とする)案内ボア30内に挿入されかつ当該案内ボア30と協働し、それにより当該ヨーク16に対して軸方向に並進的にタペット10を案内する。
【0210】
実際には、タペット10の頭部10Aは、タペットのうちラック2に最も近い部分、すなわちクレードル11が形成される(
図3では上側の)部分に対応する一方、(
図3では下側の)脚部10Bはラック2から最も離れている。
【0211】
脚部10Bは、好ましくは、頭部10Aよりも細く、すなわち当該頭部10Aの直径よりも小さい直径を有しており、それによりスラスト軸(ZZ’)周りにおける収縮を形成している。
【0212】
また、脚部10Bの直径は、減衰部材20の(最小)直径よりも小さいことが好ましい。
【0213】
好ましくは、脚部10Bは、減衰部材20の周縁部の内側に、より具体的には当該減衰部材の中心線O
20によって規定される周縁部の内側に差し込まれていて、ゲージ面P
Jを通過し、当該脚部10Bの案内を実現するボア30内に入り込んでいてもよい。
【0214】
そのような構成によると、装置1の組立てを簡略化することができ、また減衰部材20に当接するタペット10の安定性を高めることができる。
【0215】
好ましくは、脚部10Bは、頭部10Aと同軸上に配置された、すなわちタペット10の母線軸(ZZ’)を中心とした円形ベースの筒形状を実質的に有する。
【0216】
また留意すべきこととして、傾斜した分散面23(好ましくは環状、より具体的には円錐台形状)は、特に
図3、
図4、
図16、
図17、および
図19に示すように、タペット10の頭部10Aと脚部10Bとの間の移行部を形成している。
【0217】
図18に示す変形例では、座面24は、肩部を形成していて、タペット10の頭部10Aと脚部10Bとの間の直径移行部となる肩部となっている。
【0218】
したがって、どのような場合でも、特に製造の便宜のために、分散面23または座面24を作り出すために頭部10Aと脚部10Bとの間の収縮の利点を活かすことが可能である。
【0219】
座面24がケーシング15,16、より具体的にヨーク16に形成される場合、案内ボア30は、好ましくは、二方向座面24(肩部)を形成する座ぐり穴27の底部から穴あけされ、よって当該座ぐり穴27の深さを軸方向に延長する。
【0220】
そして、ボア30は、好ましくは、特に
図3および
図4に示すように、ヨーク16の中心部に、座ぐり穴27と同軸状に配置される。
【0221】
よって、コンパクトかつ製造容易な構成によると、座面24を形成する座ぐり穴27は、案内ボア30の口(ここでは頂部)を区画しかつ(完全に)取り囲んでいてもよい。
【0222】
同じことが、座面24(
図16)または、適切な場合には、分散面23(
図18)がヨーク16内の円錐台形状のくぼみによって形成されている変形例にも当てはまる。そして、案内ボア30は、当該円錐台形の軸方向延長部に配置されてもよく、よって当該ボアは、当該円錐台形の小ベースに接続され、かつ当該小ベースの直径と等しい直径を有することが好ましい。
【0223】
よって、案内ボア30は、タペットに対向して、円錐台形状の座面24によって、または円錐台形状の分散面23によって形成されたフレア状の口を有するだろう。
【0224】
留意すべきこととして、有利には、ヨーク16のボア30へのタペットの脚部10Bの係合により、タペット10に対する大きな軸方向案内高さがもたらされ、したがって特に取付時において、タペットの横方向移動やオーバーセンタによる詰まりの危険性を低減することができる一方、装置1の適切なコンパクト性は概して保つことができる。
【0225】
また、タペット10の脚部10Bは、第1戻し部材(コイルばね)25を収容する筒状ハウジング31を有することが好ましい。
【0226】
上記筒状ハウジング31は、有利には、隔壁34によって区画されており、当該隔壁34は、径方向において、一方では第1戻し部材25と、他方では案内ボア30の壁部および減衰部材20との間に設けられている。したがって、タペット10を案内するためにボア30と協働するのは当該隔壁34の径方向外側面である。
【0227】
そのような脚部10Bの中空の構成によると、有利には、限られたスペースに異なる機能を有する複数の構成要素を収容することが可能となり、そのような構成要素の中には、タペット10、第1戻し部材25、減衰部材20、ヨーク16、およびタペット10の並進案内を実現する各面が含まれる。
【0228】
また、特に
図3、
図13、および
図15に示すように、傾斜した分散面23は、好ましくは、環状の解放溝32によって延長されている。この解放溝32は、頭部10Aに(ここでは、当該頭部の下面に、および分散面23の上端に)軸方向に形成されていて、減衰部材20がタペット10の後退によって生じる圧縮作用下で変形するときに逆行する
減衰部材20の構成材料の少なくとも一部を収容できるようになっている。
【0229】
上記解放溝32は、減衰部材20の材料を当該材料が圧縮によって追い出される場合に収容し得るものであって、当該減衰部材20の自由な弾性変形を促進する。
【0230】
したがって、タペット10が後退する場合の装置1の剛性の増大は、特に漸増的なものとなるだろう。それにより、ラック2に対するタペット10の戻りは、効率的であって何らの衝撃や剛性の急増を伴わず滑らかに可変的なものになるだろう。
【0231】
また、解放溝32によって減衰部材20に与えられる変形自由度によって、当該減衰部材20の永久的かつ不可逆的な塑性変形を回避することができる。よって、減衰部材20は、有利には、長期にわたってその剛性、およびしたがってそのばね効果をタペット10の後退範囲の全体において保持する。
【0232】
好ましくは、
図4に示すように、タペットの脚部10Bとヨーク16の案内ボア30との間の径方向クリアランスJ
B(以下、「第2径方向クリアランス」)は、タペットの頭部10Aとジャケット15の内壁15Iとの間の径方向クリアランスJ
A(以下、「第1径方向クリアランス」)よりも厳密に小さい。
【0233】
有利には、したがって、タペットの脚部10Bを取り囲むヨーク16によって、タペット10の最も正確な案内が実現され、また当該タペット10の横方向移動(その全体、すなわち脚部10Bおよび頭部10Aの移動)がブロックされ、よって当該タペット10は全体にわたってジャケット15に到達することができず、かつ当該ジャケットの内壁15Iと直接的に接触することがない。
【0234】
ここでまた、留意すべきこととして、ヨーク16がジャケット15内に付加されているため、またタペット10それ自体の少なくとも一部(ここでは脚部10B)が当該ヨーク16内に進入しているため、ヨーク16は、入れ子により、径方向においてタペット10とジャケット15との間に位置する耐傾きおよび耐衝撃バッファを形成する。
【0235】
また、特に第1および第2径方向クリアランスJ
A,J
Bの適切な寸法設定のおかげで、必要に応じて、ケーシング15,16に対するタペット10の潜在的な衝突を吸収するのはジャケット15ではなくヨーク16である。
【0236】
よって、衝突が生じる場合であっても、その衝突は金属ジャケットに対してではなくポリマー材料で作られたヨークに対して生じる。そのため、当該衝突による「金属」反響や当該衝突のノイズ共鳴を回避することができ、よって何が起きてもタペット10の動作を特に静かにできる。
【0237】
有利には、タペット10の案内を、頭部10Aの高さではなくヨーク16のボア30を介した脚部10Bの高さにおいて行うことを選択することより、第1径方向クリアランスJ
Aを大きくすることができ、したがってタペットの頭部10Aに関する製造公差をゆるめることや、それによって製造コストを低減することができる。
【0238】
第1径方向クリアランスJ
Aを比較的大きくすることにより、取付時において、タペット10のジャケット15内への係合をより促進することができ、当該タペット10がオーバーセンタによってジャケット15の内壁15Iに対して詰まる危険性がない。
【0239】
好ましくは、タペットの脚部10Bとヨーク16の案内ボア30との間の第2径方向クリアランスJ
Bは、例えば起伏部のような径方向に突出するリリーフ33によって規定される。
【0240】
滑らかなシリンダと比較して、そのようなリリーフ33を有する構成によると、射出成形によるタペット10の製造時において、特に脚部10Bの直径の精度を高めることができる。
【0241】
より具体的に、リリーフ33を使用することによって、組立後において、機能的案内クリアランスのばらつき、すなわちタペット(タペットの脚部10B)とヨーク16の案内ボア30の壁部との間の第2径方向クリアランスJ
Bのばらつきを制限することができる。
【0242】
詰まるところ、したがって、タペット10および装置1を、タペット10の案内の質を損なうことなく低コストに製造することができる。
【0243】
指標として、タペットの頭部10Aとジャケット15の内壁15Iとの間の第1径方向クリアランスJ
A(広い)は、実質的に500〜1000μm(0.5〜1mm)であってもよく、タペットの脚部10Bと案内ボア30との間の第2径方向クリアランスJ
B(より精密)は、実質的に150〜400μmであってもよい(典型的に、頭部10Aの直径が約32〜40mm、脚部10Bの直径が約22〜30mmである場合)。
【0244】
第2径方向クリアランスJ
Bによると、有利には、ヨーク16に対するタペット10の、クリアランスを伴うスライド調節を実現できる。
【0245】
ここで、留意すべきこととして、分散面23の傾斜、より具体的に円錐台形状は、ヨーク16内におけるタペット10の、より広くはジャケット15内におけるタペット10の自己芯出し効果および耐傾き効果を提供しており、そのため、ジャケット15内におけるタペット10の案内の質を確保するために、第2径方向クリアランスJ
Bを特に精確に(かつしたがって狭く)する必要はない。
【0246】
もちろん、本発明は、記載した単一の変形例に限定されるものでは全くなく、当業者であれば、上述した特徴のいずれかを自由に単離しまたは組み合わせることや、それらを等価物と置き換えることができるだろう。