(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
補助モータ(2)と、運転者が「ハンドルトルク」(T3)と呼ばれる力を及ぼし得るハンドル(3)とを備えたパワーステアリング装置(1)のサーボ制御方法であって、
ハンドルトルク設定値を規定するステップ(a)であって、到達されるべきハンドルトルク値を表すハンドルトルク設定値(T3_set)を生成することを含むステップ(a)と、
実ハンドルトルクを測定するステップ(b)であって、「実ハンドルトルク」(T3_meas)と呼ばれる、運転者によって上記ハンドル(3)に実際に及ぼされるハンドルトルクの値を測定するステップ(b)と、
「ハンドルトルク誤差」(ΔT3)と呼ばれる、上記ハンドルトルク設定値(T3_set)と上記実ハンドルトルク(T3_meas)との間の差を求めることを含む比較ステップ(c)と、
モータトルク設定値を決定するステップ(d)であって、上記補助モータが上記ハンドルトルク誤差(ΔT3)を低減するように作用するために上記補助モータ(2)に適用されるモータトルク設定値(T2_set)を生成することを含むステップ(d)とを含んでおり、
上記モータトルク設定値を決定する上記ステップ(d)において、上記モータトルク設定値(T2_set)を、一方では、「補助ゲイン」(KP)と呼ばれる第1ゲインにより重み付けされた上記ハンドルトルク誤差(ΔT3)を位相進みフィルタ(15)によってフィルタ処理することで得られる「フィルタ処理比例成分」(CPF)と呼ばれる第1成分から、他方では、上記実ハンドルトルクの時間微分(d(T3_meas)/dt)を計算し、上記実ハンドルトルクの上記時間微分を「微分ゲイン」(KD)と呼ばれる第2ゲインにより重み付けすることで得られる「微分フィードバック成分」(CD)と呼ばれる第2成分から生成する
ことを特徴とする方法。
【背景技術】
【0003】
車両の動的状態(速度、横加速度、など)やステアリング装置の構成(ステアリング角度、ハンドルの回転角速度、など)に応じて、ハンドルトルク設定値を規定することを含む方法が既に知られている。当該ハンドルトルク設定値は、考慮される時点において実際に運転者によってハンドルに及ぼされる実ハンドルトルクの測定値と比較され、その後、運転者が感じる実ハンドルトルクが上記ハンドルトルク設定値に追従するように補助モータがステアリング機構に作用するために、当該補助モータに適用されるモータトルク設定値が決定される。
【0004】
一般に、モータトルク設定値は、(補助構成によってはゼロであり得る)ハンドルトルク設定値と実ハンドルトルクとの間の差、すなわちハンドルトルク誤差に所定の補助ゲインを乗じることによって比例的に得られる。
【0005】
そのようなサーボ制御の実装における第1の困難は、補助ゲイン値の設定に関連する。
【0006】
確かに、特に車両が停止している場合(例えば、運転者が駐車場を出るために大きなステアリングを行っている場合)または車両が低速で走行している場合、ステアリング機構、より具体的にはタイヤによるステアリング操作への抵抗が比較的大きく、そのような場合に良好な操作快適性を実現するためには、運転者がハンドルに大きなトルクを及ぼす必要なくして補助モータに大トルクを発生させ得る大きな補助ゲインを提供することが好ましい。
【0007】
しかし、ステアリングのサーボ制御の安定性を実現するため、よって特にハンドルの振動の発生を回避するために、その逆に補助ゲインを制限する、すなわち(ナイキスト基準の意味での)十分なゲインマージンに対応する最大許容値以下に当該補助ゲインを維持する必要がある。
【0008】
また、ステアリング装置の機械部は、様々な物理現象、特に(乾燥および/または粘性)摩擦現象または当該機械部を構成する種々の部材(補助モータのシャフト、ラック、ハンドル、車輪、など)の質量に関連する慣性現象にさらされる。
【0009】
そして、これらの様々な現象は、ハンドル操作の感覚に関して、すなわち運転者がハンドルを介して便宜的にステアリング挙動を感知するに際して、よってより広くは運転者が車両の挙動を直感的に感じ取るに際して副次的作用を及ぼすおそれがある。
【0010】
とりわけ、摩擦および慣性は、例えば、ステアリング操作が開始された時、すなわち運転者がハンドルを回し始めた時にステアリングが応答していないという感覚を与える場合があり、それにより運転者に重たい印象や応答性に欠ける印象を与える。
【0011】
逆に、運転者がハンドル操作において乾燥静的摩擦に打ち勝つのに十分な力に達するとすぐ、ステアリングが急に緩むおそれがある。この突然の離脱効果(「スティックスリップ」としても知られる)は、ガタついた運転の不快な感覚を与える。
【0012】
そのような突然の離脱効果は、「ゼロ出力」の間において、すなわち運転者がハンドルを実質的な中央起点の角度位置から(左へまたは右へ)回して、ステアリング装置を、典型的には直線経路に対応するゼロステアリング角度から曲線経路に対応する非ゼロステアリング角度に切り替える場合に、またはステアリング反転の間において、すなわち運転者がハンドルの回転方向を反転させる場合(右ステアリングから左ステアリングに切り替えるか、もしくはその逆)に、特に生じやすい。
【0013】
そのような効果を抑えるため、モータトルク設定値の決定において、ハンドルトルク微分フィードバック、すなわち実ハンドルトルク(すなわち、運転者によってハンドルに実際に及ぼされるハンドルトルクの値)を測定して、この実ハンドルトルクの時間微分を計算し、それによりモータトルク設定値の生成においてこの微分を微分ゲインによって重み付けして考慮に入れることを可能とするフィードバックブランチ(「フィードバック」)を利用することができるかも知れない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、パワーステアリング装置1のサーボ制御方法に関する。
【0027】
図1に示すように、パワーステアリング装置1は、補助モータ2と、運転者が力を、より具体的には「ハンドルトルク」T3と呼ばれるトルクを及ぼし得るハンドル3とを備える。
【0028】
パワーステアリング装置1は、また好ましくは、公知の態様で、車両のフレームに固定されたステアリングケースにスライド可能に取り付けられたラック4を備える。
【0029】
ラックは、左タイロッド5および右タイロッド6によって、左操舵輪7および右操舵輪8に接続されており、そのためラック4が並進移動すると当該操舵輪7,8のステアリング角度(ヨー方向)が変化する。
【0030】
ハンドル3は、好ましくは、ステアリングコラム10の一端部に固定されており、当該ステアリングコラム10の他端部にはラック4に噛み合う駆動ピニオン11が設けられている。
【0031】
補助モータ2は、好ましくは、双方向動作を伴う電気モータ、例えば「ブラシレス」モータである。
【0032】
補助モータ2は、任意の適当な伝達機構を介して、ラック4に補助力を、より具体的には補助トルクT2を及ぼすことができるように構成されている。
【0033】
このために、補助モータ2は、例えば、ウォームホイール減速機やウォームねじ減速機といった減速機12を介してステアリングコラム10に噛み合っており、それにより、
図1に示すように、「シングルピニオン」機構と呼ばれる機構が形成されている。
【0034】
変形例(図示せず)によると、モータは、「ダブルピニオン」機構と呼ばれる機構において、例えばステアリングコラム10に固定された駆動ピニオン11とは別個のボールねじまたは第2ピニオンによって、ラック4に直接的に噛み合っていてもよい。
【0035】
もちろん、本発明に係る方法は、特に補助モータ2によるラック4の駆動構成がどんなものであれ、より広くは補助モータ2が操舵輪7,8の向きを変えられるようにする機構の構成がどんなものであれ、任意のタイプのパワーステアリング1に適用可能である。
【0036】
本発明によると、当該方法は、ハンドルトルク設定値を規定するステップ(a)であって、到達されるべきハンドルトルク値を表すハンドルトルク設定値T3_setを生成することを含むステップ(a)を含む。
【0037】
方法におけるサーボ制御量は、実際にはハンドルトルクT3である。
【0038】
「パッシブな従来的サーボ制御」と呼ばれる特にシンプルな第1の実施可能性によると、ハンドルトルク設定値を規定するステップ(a)は、一義的に前もって、工場での設定において、またはサーボ制御方法に対応するプログラムのコーディングにおいて実施されるだろう。そして、ハンドルトルク設定値T3_setは固定され、無作為にゼロに選択される。
【0039】
しかしながら、「アクティブサーボ制御」と呼ばれる特に好ましい第2の実施可能性によると、ハンドルトルク設定値を規定するステップ(a)は、自動的に周期的に繰り返され、ハンドルトルク設定値T3_setを、車両の使用状況に応じて、時間と共に更新ないし変更することを可能とする。
【0040】
この第2の実施可能性によると、
図1に示すように、ハンドルトルク設定値は、ハンドルトルク設定値生成モジュール13によって、典型的にはマッピングまたは「マップ」であり得る所定の補助規則にしたがって、リアルタイムに生成されるだろう。ここで、当該補助規則は、車両の各使用状況に対して、所与の考慮される時点においてハンドル操作で感じるハンドルトルクT3に対応するハンドルトルク設定値T3_setを車両の当該使用状況と関連付ける。
【0041】
この目的のために、トルク設定値生成モジュール13は、入力として、一方では、考慮される時点における車両の動的状態(例えば、当該車両の縦速度、当該車両の横加速度、など)を表す「車両データ」を、他方では、考慮される時点におけるステアリング装置1の構成(例えば、ステアリング角度、ハンドル3の回転速度、など)を表す「方向データ」を使用し、当該データからハンドルトルク設定値T3_setを決定する。
【0042】
方法は、また、実ハンドルトルクを測定するステップ(b)であって、「実ハンドルトルク」T3_measと呼ばれる、運転者によってハンドル3に実際に及ぼされるハンドルトルクの値を測定することを含むステップ(b)を含む。
【0043】
このために、任意の適当なトルクセンサ14、例えばハンドル3を担持するステアリングコラム10の上流部と、駆動ピニオン11を担持するステアリングコラム10の下流部との間に介在するトーションバーのねじれ弾性変形を測定する磁気トルクセンサが用いられてもよい。
【0044】
そして、方法は、また、「ハンドルトルク誤差」ΔT3と呼ばれる、ハンドルトルク設定値T3_setと実ハンドルトルクT3_measとの間の差を求めることを含む比較ステップ(c)を含む。ここで、ΔT3=T3_set−T3_meas(保持符号規則によっては、この逆の場合もあり)である。
【0045】
留意すべきこととして、簡単な表示の慣習により、
図1では、実ハンドルトルクT3_measは正符号で示される一方、ハンドルトルク設定値T3_setは(暗黙的に)逆の符号、すなわち負符号で示されている(そのため、ΔT3=T3_meas−T3_setが形式的に示されている)。もちろん、これらの符号の正負が逆であっても、本発明の範囲を逸脱することはない。
【0046】
そして、方法は、モータトルク設定値を決定するステップ(d)であって、補助モータ2がハンドルトルク誤差ΔT3を低減するように作用するために当該補助モータ2に適用されるモータトルク設定値T2_setを生成することを含むステップ(d)を含む。
【0047】
換言すれば、モータトルク設定値T2_setの適用において、補助モータ2は、実ハンドルトルクT3_measを、ハンドルトルク設定値T3_setを構成する目標値に収束させることを可能とする補助トルクT2を出力するだろう。それにより、トルク誤差ΔT3が低減されるだろう(すなわち、トルク誤差ΔT3がゼロに近づくだろう)。
【0048】
本発明によると、モータトルク設定値を決定するステップ(d)において、モータトルク設定値T2_setは、一方では、「補助ゲイン」K
Pと呼ばれる第1ゲインにより重み付けされたハンドルトルク誤差ΔT3を位相進みフィルタ15によってフィルタ処理することで得られる「フィルタ処理比例成分」C
PFと呼ばれる第1成分から、他方では、実ハンドルトルクの(一階)時間微分、すなわちd(T3_meas)/dtを計算し、当該実ハンドルトルクの時間微分を「微分ゲイン」K
Dと呼ばれる第2ゲインにより重み付けすることで得られる「微分フィードバック成分」C
Dと呼ばれる第2成分から生成される。
【0049】
補助ゲインK
Pは、ここではトルク誤差ΔT3の(比例)増幅係数に相当し、有利には、適当なマッピングによって与えられてもよく、また必要に応じて、車両の各使用状況に対して補助量を適応させるように、特にトルク誤差ΔT3の増幅の程度や、したがって補助モータ2によって出力される補助トルクT2の最終強度を適応させるようにリアルタイムで変化してもよい。
【0050】
補助ゲインK
Pの設定(選択)により、所望の補助レベルを規定すること、すなわちステアリング1の全操縦動作における(運転者によって及ぼされる手動力T3に対する)補助モータ2の介入レベルの量を定めることが可能となる。
【0051】
同様に、微分ゲインK
Dによると、実ハンドルトルクの時間微分d(T3_meas)/dtの値に対する比例動作により、ステアリング挙動の感覚を規定すること、より具体的にはステアリング挙動の感覚の滑らかさの程度を選択することが可能となる。
【0052】
上記微分ゲインK
Dは、また、適当なマッピングによって規定されてもよく、さらに車両の使用状況に応じて時間と共に変化してもよい。
【0053】
方法を実施するための構成やプログラミング規則にしたがって単一の補助ゲインK
Pまたは単一の微分ゲインK
Dを用いることが排除される訳ではないが、当該ゲインK
P,K
Dは、好ましくは単一的なものではなく、また有利には、必要に応じて、特に車両の使用状況に応じて設定されるものであってもよい。
【0054】
また、留意すべきこととして、本発明によって提示されるサーボ制御、特に上述した微分フィードバック成分C
Dとハンドルトルク誤差ΔT3に適用される位相進みフィルタ15との組合せ使用は、ハンドルトルク設定値T3_setが固定されかつほぼゼロである(したがって、ハンドルトルク誤差ΔT3が単純に実ハンドルトルクT3_measの測定値に等しい)従来のパッシブサーボ制御と、変化するハンドルトルク設定値T3_set(たいてい非ゼロである)がリアルタイムに決定されるアクティブサーボ制御との両方に適用可能である。
【0055】
パッシブな従来的サーボ制御の場合、(非ゼロの)ハンドルトルク設定値T3_setが存在せず、本発明はシンプルに、一方では、実ハンドルトルクT3_measの微分から算出される上述した微分フィードバック成分C
Dと、他方では、実ハンドルトルクT3_measの測定値に(補助ゲインK
Pを介して)シンプルかつ直接的に比例する値に適用される位相進みフィルタ15とを組み合わせて使用することになる。
【0056】
換言すれば、特にシンプルな従来のパッシブサーボ制御では、実ハンドルトルクT3_measの測定値によって構成されるフィードバックのみからフィルタ処理比例成分C
PFが算出される。
【0057】
いずれにせよ、特にゼロ固定のハンドルトルク設定値T3_setであろうと、あるいは逆に可変で(場合によっては)非ゼロのハンドルトルク設定値T3_setであろうと、上述したようにハンドルトルク誤差ΔT3に関連する位相進みフィルタ15と実ハンドルトルクT3_measの微分フィードバックを実現するバイパスモジュール16とを組み合わせて使用することにより、一方では、(フィルタ処理比例成分C
PFによって)自由に選択される補助増幅、特に補助の大きな増幅の有利な効果と、他方では、(微分成分C
Dによって)自由に選択される、特に効率的に滑らかにされて急変動や重たいまたは遅い他の印象が制限され、さらには「除去」されるステアリング1の挙動の感覚レベルとを累積する一方で、(位相進みフィルタ15のおかげで)サーボ制御の安定性、特に低周波域での安定性を実現することが可能となる。
【0058】
したがって、留意すべきこととして、ステアリング装置1の機械部は、特にハンドル3、ステアリングコラム10、当該ステアリングコラム10に挿入されたトルクセンサ14のトーションバー、駆動ピニオン11、ラック4、タイロッド5,6、および操舵輪7,8といった様々な部材を含むものであって、質量−ばね系、あるいは質量−ばね−ダンパに概して同化され得る。
【0059】
特に、ばね効果は、機械的部材、特にトルクセンサ14のトーションバーやホイール7,8に嵌められたタイヤなどの容易に変形可能な機械的部材の固有弾性に由来していてもよい。
【0060】
しかし、そのような質量−ばね系(または質量−ばね−ダンパ)は、(少なくとも)1つの固有振動数(共振振動数)f
0を有しており、それは実際には一般に12〜20Hzの範囲に含まれる。
【0061】
この低振動数域(この例では、25Hz以下または22Hz以下、より具体的には20Hz以下)では、したがって、ステアリング機構1が作動する場合に不安定(振動)モードに切り替わるリスクがないようにサーボ制御の(全体)ゲインを規定する必要がある。
【0062】
このために、したがって、特に補助ゲインK
Pが何であれ、十分なゲインマージン(系を安定限界にもっていくために加えられるべきゲイン値)を、すなわち線図においてナイキストプロット(複素平面上で開ループサーボ制御の伝達関数を表す)と座標点(−1,0)との間の十分な距離を維持する必要がある。
【0063】
この役割は、位相進みフィルタ15によって果たされる。
【0064】
位相進みフィルタ15は、当該フィルタ15が処理する信号(ここでは、補助ゲインによって重み付けされたハンドルトルク誤差)に位相進みを与える、すなわち当該信号に正の位相シフトΔφを適用することができるものであれば、任意の適当なタイプのものであってもよい。
【0065】
好ましくは、位相進みフィルタ15は、一次フィルタである。
【0066】
そのような選択によって、シンプルかつ高速でわずかな計算リソースしか必要としない一方、特に補助ゲインK
Pの増大による不安定化効果を相殺することで十分な安定性を効率的に実現可能なフィルタ処理を実行することができる。
【0067】
もちろん、位相進みフィルタ15は、1以上の任意の次数nから選択されてもよく、例えば二次または三次フィルタを形成していてもよい。
【0068】
保持される次数nが何であれ、n次位相進みフィルタにしたがって得られる(最大)位相シフトΔφ、すなわちこの場合それに応じて導かれる(最大)位相進みΔφは、特に
図2Bに示すように、+n×90°であるだろう。
【0069】
同様に、上記位相進みフィルタ15の最大増幅ゲインG[dB]は、+n×20dBであるだろう。
【0070】
好ましくは、位相進みフィルタ15は、H(s)=(1+T
1s)/(1+T
2s)の形式である。ここで、T
1=1/(2πf
1)(f
1:第1カットオフ周波数)であり、T
2=1/(2πf
2)(f
2:第2カットオフ周波数(第1カットオフ周波数f
1よりも高い))であり、sはラプラス演算子である。
【0071】
そのようなフィルタ15は、
図2Aおよび
図2Bに示す線図に対応する。
【0072】
有利には、カットオフ周波数f
1,f
2間において、位相進みトレイ(un plateau d'avance de phase)Δφは+n×90°であり、またゲイン傾斜(第1カットオフ周波数f
1から始まり、そして第2カットオフ周波数f
2から、および超えて漸近的にピークに達する)が存在する。
【0073】
そのようなフィルタ15によると、有利には、わずかな計算リソースしか必要としないシンプルな態様で、当該フィルタ15が能動的に位相を進め、よって能動的に作用してサーボ制御を安定化させる区間[f
1;f
2]を規定することができる。
【0074】
実際には、カットオフ周波数f
1,f
2は、ステアリング機構の固有振動数f
0をその間に含むように選択されるのが好ましい。
【0075】
目安として、第1(最小)カットオフ周波数f
1は実質的に6Hzであってもよい一方、第2(最大)カットオフ周波数f
2は実質的に22Hzであってもよい。
【0076】
好ましくは、位相進みフィルタ15は、少なくとも第1カットオフ周波数f
1を、好ましくは第1および第2カットオフ周波数f
1,f
2を有しており、当該カットオフ周波数、好ましくは複数のカットオフ周波数f
1,f
2は、
図1に示すように、パワーステアリング装置1を備える車両の縦速度V
vehicに応じて設定される。
【0077】
よって、車両が停止している場合(ゼロ速度V
vehic)と走行している場合(非ゼロ速度V
vehic)とで安定マージン(典型的にはゲインマージン)が異なり得るという事実を考慮に入れることが有利である。
【0078】
確かに、例えば、タイヤの弾性は、車両が停止している場合よりも走行している場合により大きく影響し得、よってステアリング機構の固有振動数f
0が変化する。
【0079】
同様に、ステアリング1の操縦補助の必要性は、停車している場合(実質的にゼロ速度)や低速運転時(典型的には0〜50km/h)において、高速運転時よりも大きくなる。よって、特に速度V
vehicがゼロに近づいている場合に、低速補助ゲインK
Pを大きくすることが考えられるが、それは安定性に対して悪影響を及ぼしかねず、よってこの点において位相進みフィルタ15によるより広範な補償が必要である。
【0080】
より具体的に、第1カットオフ周波数f
1は第2カットオフ周波数f
2よりも厳密に低く、車両の縦速度V
vehicが増大する場合に第1カットオフ周波数f
1を増大させ、および/または第2カットオフ周波数f
2を低減させ、それにより第1カットオフ周波数f
1と第2カットオフ周波数f
2との間の区間[f
1;f
2]を小さくすることが考えられる。
【0081】
よって、車速V
vehicが増大する場合、特に車両が停止状態(ゼロ速度)から走行状態(非ゼロ速度)へ移行する場合、および/または車速V
vehicが低速域、典型的には0〜50km/hで増大する場合に、位相進みトレイΔφの幅に(実質的に)相当する周波数区間[f
1;f
2]を小さくすることが考えられる。
【0082】
その逆に、車速が低下する場合、特に当該速度が50km/hを下回る場合、とりわけ当該速度が打ち消される場合に、区間[f
1;f
2]を大きくしてもよい。
【0083】
好ましくは、区間[f
1;f
2]の幅を変更する間において、当該区間[f
1;f
2]は同じ一定の中心周波数、すなわち1/2(f
1+f
2)を実質的に中央値としたままである。当該中心周波数は、必要に応じて、車両が停止している場合のステアリング機構の固有振動数f
0に対応していてもよい。
【0084】
また、好ましくは、微分フィードバック成分C
Dを計算する場合に、(高周波)デジタルノイズを低減するためにローパスフィルタ17が適用される。
【0085】
図1に示すように、上記ローパスフィルタ17は、好ましくは、微分係数K
Dによって重み付けされた後に適用され、当該重み付けはバイパスモジュール16に続くものである。
【0086】
ローパスフィルタ17は、好ましくは、とりわけサーボ制御の更新、特に実ハンドルトルクT3_measの測定値の更新および当該実ハンドルトルクの微分の計算が実行されるサンプリング周波数が実質的に1kHzである場合(1μ秒のサンプリング周期に相当する)に、150〜200Hzの範囲に含まれるカットオフ周波数fcを有する。
【0087】
上記ローパスフィルタ17のおかげで、上記カットオフ周波数fcよりも高い周波数のデジタルノイズが除去され得る。
【0088】
留意すべきこととして、モータトルク設定値を決定するステップ(d)において、フィルタ処理比例成分C
PFと微分フィードバック成分C
Dとの代数和が求められることが好ましい。
【0089】
これらの成分C
PF,C
Dの他の組合せの形態も考えられるが、代数和が特に高いシンプルさを提供する。
【0090】
フィルタ処理比例成分C
PFおよび微分フィードバック成分C
D、ならびにそれらの代数和は、したがってモータトルク設定値T2_setにおいて同次である。
【0091】
必要ならば、フィルタ処理比例成分C
PFと微分フィードバックC
Dとの上記代数和は、例えばモータトルク設定値T2_setとして使用されてもよい。
【0092】
しかしながら、可能な実施変形例によると、フィルタ処理比例C
PFと微分フィードバックC
Dとの上記代数和に、例えば前処理および/または補償成分などの他の補正成分を加え、最後に、補助モータ2に適用されるモータトルク設定値T2_setを形成することも考えられる。
【0093】
「前処理成分」は、「前置成分」とも呼ばれ、モータトルク設定値T2_setに最初から導入されるオフセット式の補正成分であって、典型的には、モータトルク設定値T2_setが補助モータ2に適用される前にでも、ステアリングシステムが望まれるように正しく動作しないであろうことが予めわかっている場合に、当該モータトルク設定値T2_setの大きさを増大させるものである。
【0094】
例として、その値がわかる非ゼロの静的誤差の発生が系統的に確認された場合、前処理成分によって、フィルタ処理比例成分C
PFと微分フィードバック成分C
Dとの代数和を、当該静的誤差に対応する(オフセット)値だけ増大させることができる。
【0095】
次に、「補償成分」は、例えばステアリング機構における乾燥摩擦または慣性の影響を補償するためのものである。
【0096】
乾燥摩擦の場合、任意の適当な手段によって当該摩擦の推定値を計算し、摩擦の当該推定値に対応する値を有する摩擦補償成分を適用することが可能である。
【0097】
システムの反応に遅れを生じさせる傾向にある慣性の場合、例えば、慣性を表すゲイン(「二階微分ゲイン」と呼ばれる)とハンドルの角度位置の二階時間微分(すなわち、ハンドルの角加速度)との積に等しい値を有する慣性補償成分を算出することが可能である。
【0098】
もちろん、本発明は、また例えば、ハンドルトルク設定値T3_setの生成モジュール13と、実ハンドルトルクT3_measの測定モジュール(センサ)14と、ハウジング誤差ΔT3からフィルタ処理比例成分C
PFを生成することのできる増幅モジュール21と、測定された実ハンドルトルクT3_measから微分フィードバック成分C
Dを生成することのできる微分フィードバックモジュール22とを備えた、パワーステアリング装置1のためのサーボ制御モジュール20に関する。
【0099】
増幅モジュール21は、有利には、内部でハンドルトルク誤差ΔT3に補助ゲインK
Pを乗じて処理前の比例成分が得られる第1重み付けモジュール23と、当該処理前の比例成分に適用されてフィルタ処理比例成分C
PFが得られる位相進みフィルタ15とを有する「比例ブランチ」と呼ばれる第1ブランチを形成している。
【0100】
次に、微分フィードバックモジュール22は、第1比例ブランチとは別個であって、実ハンドルトルクの一階時間微分d(T3_meas)/dtを計算するバイパスモジュール16と、実ハンドルトルクの一階時間微分に微分ゲインK
Dを乗じる第2重み付けモジュール24と、デジタルノイズを除去するローパスフィルタ17とを連続して有する「微分フィードバックブランチ」と呼ばれる第2ブランチを形成している。
【0101】
そして、2つのブランチ21,22は、(それらの各下流部を、すなわち特に、第1比例ブランチ21における位相進みフィルタ15の下流側と、第2微分フィードバックブランチ22におけるバイパスモジュール16の下流側、より具体的にはローパスフィルタ17の下流側とを介して)代数和へと合流する。当該代数和は、フィルタ処理比例C
PFと微分フィードバックC
Dとを結び付けるものであって、モータトルク設定値T2_setのベースとして機能する。
【0102】
上述した任意のモジュール16,20,21,22,23,24および任意のフィルタ15,17、特にサーボ制御モジュール20全体、位相進みフィルタ15、バイパスモジュール16、およびより一般的に微分フィードバックモジュール22は、任意の計算機、コンピュータ、電子基板、または適当なプログラム可能な論理制御器によって構成されていてもよく、モジュールおよびフィルタの構造は、電子的な配線によって規定される物理的なものであってもよく、および/またはコンピュータプログラムによって得られる仮想コンポーネントであってもよい。
【0103】
本発明は、上述した実施形態の変形例に限定されるものでは全くなく、当業者であれば特に、上述した特徴のいずれかを自由に単離もしくは結合させたり、またはそれらを等価物と置換したりすることができるだろう。
【0104】
とりわけ、比例ブランチ21における補助ゲインK
Pと位相進みフィルタ15との適用順序、または微分フィードバックブランチ22におけるバイパスモジュール16と微分ゲインK
Dとローパスフィルタ17との適用順序を変更することは除外されない。