特許第6768176号(P6768176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6768176非水電解質二次電池用樹脂組成物、ならびにこれを用いた非水電解質二次電池用セパレータ、電極合剤層用樹脂組成物、非水電解質二次電池用電極、および非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768176
(24)【登録日】2020年9月24日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用樹脂組成物、ならびにこれを用いた非水電解質二次電池用セパレータ、電極合剤層用樹脂組成物、非水電解質二次電池用電極、および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20201005BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20201005BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20201005BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   H01M4/62 Z
   H01M10/052
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-521697(P2020-521697)
(86)(22)【出願日】2019年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2019006559
(87)【国際公開番号】WO2019230075
(87)【国際公開日】20191205
【審査請求日】2020年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2018-104687(P2018-104687)
(32)【優先日】2018年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 善幸
(72)【発明者】
【氏名】四家 彩
【審査官】 近藤 政克
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
H01M 4/62
H01M 10/052
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン由来の構造単位と、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位と、を有するフッ化ビニリデン共重合体を含む、非水電解質二次電池用樹脂組成物であり、
前記フッ化ビニリデン共重合体のASTM D3418に準拠して測定される融点が、105〜125℃であり、
前記フッ化ビニリデン共重合体中の前記含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wと、前記フッ化ビニリデン共重合体の結晶化度Dと、前記フッ化ビニリデン共重合体の非晶化度Dと、が下記式(1)を満たす、
非水電解質二次電池用樹脂組成物。
4.7≦W×(D/D)≦14 (1)
【請求項2】
前記フッ化ビニリデン共重合体中の前記含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wが、15質量%以上30質量%以下である、
請求項1に記載の非水電解質二次電池用樹脂組成物。
【請求項3】
前記含フッ素アルキルビニル化合物が、ヘキサフルオロプロピレンである、
請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用樹脂組成物。
【請求項4】
分散媒をさらに含み、前記分散媒に、一次粒子径が10〜700nmの前記フッ化ビニリデン共重合体が分散されている、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用樹脂組成物。
【請求項5】
平均二次粒子径が30μm〜200μmである粉体状である、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用樹脂組成物。
【請求項6】
セパレータ膜、および前記セパレータ膜の少なくとも一方の面に配置された樹脂層を含み、
前記樹脂層が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用樹脂組成物の固形分を少なくとも含む、
非水電解質二次電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用樹脂組成物と、電極活物質と、を含む、
電極合剤層用樹脂組成物。
【請求項8】
集電体と、前記集電体上に配置された電極合剤層と、を含み、
前記電極合剤層が、請求項7に記載の電極合剤層用樹脂組成物の固形分を含む、
非水電解質二次電池用電極。
【請求項9】
一対の電極と、これらの間に配置されたセパレータと、を含み、
前記セパレータが、請求項6に記載の非水電解質二次電池用セパレータである、
非水電解質二次電池。
【請求項10】
一対の電極を少なくとも有し、
前記一対の電極のうち、少なくとも一方が、請求項8に記載の非水電解質二次電池用電極である、
非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用樹脂組成物、ならびにこれを用いた非水電解質二次電池用セパレータ、電極合剤層用樹脂組成物、非水電解質二次電池用電極、および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、高電圧および高エネルギー密度を有することから、種々の用途、例えばスマートフォン等の移動型電子機器や電気自動車等の電源として使用されている。
【0003】
一般的な非水電解質二次電池用の電極は、集電体と、当該集電体上に配置された電極合剤層とを有する。電極合剤層は通常、電極活物質と当該電極活物質を集電体に接着するためのバインダとを含む。そして従来、このようなバインダに、フッ化ビニリデン単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)、もしくはフッ化ビニリデンと他のモノマーとを共重合したフッ化ビニリデン共重合体が適用されている。また、これらは、非水電解質二次電池のセパレータを構成する樹脂層等にも適用されている。
【0004】
ここで、フッ化ビニリデンと含フッ素アルキルビニル化合物とを共重合したフッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン単独重合体より、非水電解質二次電池の構成材料(例えば集電体やセパレータ膜、電極活物質等)に対する接着強度が高いことが知られている。そこで、フッ化ビニリデンと含フッ素アルキルビニル化合物とを共重合した、様々なフッ化ビニリデン共重合体が提案されている(特許文献1〜3)。
【0005】
例えば、特許文献1には、フッ化ビニリデンと含フッ素アルキルビニル化合物との重合時の反応条件を連続的に変化させることで、連続的に構造を変化させたフッ化ビニリデン共重合体が記載されている。一方、特許文献2および3には、フッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率を高めることで、その結晶度を下げたフッ化ビニリデン共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−18002号公報
【特許文献2】特開2012−67324号公報
【特許文献3】特表2003−514036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率を増加させると、フッ化ビニリデン共重合体の集電体やセパレータ膜、活物質等への接着強度が高まる。その一方で、フッ化ビニリデン共重合体が非水電解質二次電池の電解液によって膨潤したり、電解液に溶解したりしやすくなる。また、フッ化ビニリデン共重合体を含む層を形成する際、フッ化ビニリデン共重合体をN−メチルピロリドンに溶解させて成膜することが一般的である。しかしながら、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の量が増加するとN−メチルピロリドンに対する溶解性が低くなり、成膜性が低下したりする。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものである。すなわち、非水電解質二次電池の構成材料に対する接着強度が高く、電解液による膨潤が少なく、N−メチルピロリドンに対する溶解性が高いフッ化ビニリデン共重合体を含む、非水電解質二次電池用樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂組成物は、フッ化ビニリデン由来の構造単位と、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位と、を有するフッ化ビニリデン共重合体を含み、前記フッ化ビニリデン共重合体のASTM D3418に準拠して測定される融点が、105〜125℃であり、前記フッ化ビニリデン共重合体中の前記含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wと、前記フッ化ビニリデン共重合体の結晶化度Dと、前記フッ化ビニリデン共重合体の非晶化度Dと、が下記式(1)を満たす。
4.7≦W×(D/D)≦14 (1)
【0010】
本発明の非水電解質二次電池用セパレータは、セパレータ膜、および前記セパレータ膜の少なくとも一方の面に配置された樹脂層を含み、前記樹脂層が、上記非水電解質二次電池用樹脂組成物の固形分を少なくとも含む。
本発明の電極合剤層用樹脂組成物は、上記非水電解質二次電池用樹脂組成物と電極活物質と、を含む。
本発明の非水電解質二次電池用電極は、集電体と、前記集電体上に配置された電極合剤層と、を含み、前記電極合剤層が、上記電極合剤層用樹脂組成物の固形分を含む。
【0011】
本発明の非水電解質二次電池は、一対の電極と、これらの間に配置されたセパレータと、を含み、前記セパレータが、上記非水電解質二次電池用セパレータである。
本発明の別の非水電解質二次電池は、一対の電極を少なくとも有し、前記一対の電極のうち、少なくとも一方が、上記非水電解質二次電池用電極である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非水電解質二次電池の構成材料に対する接着強度が高く、電解液による膨潤が少なく、N−メチルピロリドンに対する溶解性が高いフッ化ビニリデン共重合体を含む、非水電解質二次電池用樹脂組成物とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述の特許文献1〜3のように、フッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率を大きくしただけでは、フッ化ビニリデン共重合体のN−メチルピロリドンに対する溶解性が低くなる。その結果、当該フッ化ビニリデン共重合体を用いて均一な膜を形成することが困難となったり、フッ化ビニリデン共重合体の分析が困難となったりする。またさらには、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率を大きくすると、フッ化ビニリデン共重合体の融点が低下しやすく、フッ化ビニリデン共重合体が電解液に溶解しやすくなったり、当該電解液によって膨潤しやすくなったり、成膜性が低下する、という課題も生じる。
【0014】
これに対し、本発明者らは、融点が所定の範囲であり、かつフッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wと、フッ化ビニリデン共重合体の結晶化度Dと、フッ化ビニリデン共重合体の非晶化度Dと、が特定の関係を満たすフッ化ビニリデン共重合体によれば、上記課題が解決されることを見出した。すなわち、非水電解質二次電池の構成材料に対する接着強度が高く、電解液による膨潤が少なく、さらにはN−メチルピロリドンに対する溶解性が高いフッ化ビニリデン共重合体とできることを見出した。
【0015】
具体的には、上述のW、D、およびDが4.7≦W×(D/D)≦14を満たすことで、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の量と、フッ化ビニリデン共重合体の結晶性とのバランスが良好になる。その結果、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wをある程度多くしても、電解液による膨潤や電解液への溶解が抑制されるとともに、N−メチルピロリドンに対する溶解性が高まる。またこのとき、フッ化ビニリデン共重合体の融点を105℃以上125℃以下とすることで、フッ化ビニリデン共重合体の電解液による膨潤性が抑制されるとともに、N−メチルピロリドンに対する溶解性が向上する。また、フッ化ビニリデン共重合体の融点が当該範囲であると、非水電解質二次電池用樹脂組成物を用いて成膜する際に、均一な膜を形成しやすくなるといった利点もある。
【0016】
1.非水電解質二次電池用樹脂組成物
本発明の非水電解質二次電池用樹脂組成物(以下、「二次電池用樹脂組成物」とも称する)は、少なくとも上述のフッ化ビニリデン共重合体を含んでいればよく、フッ化ビニリデン共重合体のみからなるものであってもよく、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、水溶性高分子やフィラー、溶媒(分散媒)、各種添加剤等を含むものであってもよい。また、二次電池用樹脂組成物は、粉体状であってもよく、液体状(例えばコロイド状等)であってもよく、塊状(例えばクラム状等)等であってもよい。
【0017】
二次電池用樹脂組成物が含むフッ化ビニリデン共重合体の量は、二次電池用樹脂組成物の用途に応じて適宜選択されるが、例えば二次電池用樹脂組成物の固形分の総量に対して10質量%以上とすることができる。二次電池用樹脂組成物の固形分中に、フッ化ビニリデン共重合体が10質量%以上含まれると、二次電池用樹脂組成物から得られる層の強度が十分に高くなりやすく、非水電解質二次電池の構成材料に対する接着強度が十分になりやすい。なお、本明細書では、二次電池用樹脂組成物から溶媒もしくは分散媒を除いた成分を「二次電池用樹脂組成物の固形分」と称する。
【0018】
1−1.フッ化ビニリデン共重合体
(1)フッ化ビニリデン共重合体の構造
フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン由来の構造単位と、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位とを含む。フッ化ビニリデン共重合体は、ブロック共重合体であってもよいが、通常ランダム共重合体である。
【0019】
フッ化ビニリデン共重合体中のフッ化ビニリデン由来の構造単位の質量分率Wは、70質量%以上85質量%以下であることが好ましく、70質量%以上82質量%以下であることがより好ましく、71質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。フッ化ビニリデン由来の構造単位の質量分率Wが70質量%以上であると、フッ化ビニリデン共重合体の融点が上述の範囲に収まりやすくなる。また、フッ化ビニリデン由来の構造単位の量Wが85質量%以下であると、相対的に含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wが十分に大きくなり、フッ化ビニリデン共重合体の非水電解質二次電池の各種構成材料(例えば集電体やセパレータ膜、活物質等)に対する接着性が高まりやすくなる。上記フッ化ビニリデン由来の構造単位の質量分率Wは、フッ化ビニリデン共重合体を19F−NMRで分析することにより特定することができる。
【0020】
一方、フッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wは、15質量%以上30質量%以下であることが好ましく、18質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上29質量%以下であることがさらに好ましい。含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wが15質量%以上であると、フッ化ビニリデン共重合体の非水電解質二次電池の各種構成材料に対する接着性が高まりやすくなる。一方で、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wが30質量%以下であると、上述のW×(D/D)で表される値が所望の範囲に収まりやすくなる。上記含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Waも、フッ化ビニリデン共重合体を19F−NMRで分析することにより特定することができる。
【0021】
なお、本明細書において、「含フッ素アルキルビニル化合物」と称する化合物は、C(2n+1−y)で表される含フッ素アルキル基(nは0以上の整数、yは1以上かつ(2n+1)以下の整数を表す)が少なくとも1つ、ビニル基に結合した化合物(ただし、フッ化ビニリデンを除く)である。
【0022】
含フッ素アルキルビニル化合物の例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、およびヘキサフルオロプロピレン等が含まれる。これらの中でもヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびクロロトリフルオロエチレンが好ましく、ヘキサフルオロプロピレンが特に好ましい。フッ化ビニリデン共重合体中には、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0023】
フッ化ビニリデン共重合体は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、フッ化ビニリデンおよび含フッ素アルキルビニル化合物以外の化合物由来の構造単位(以下、「他の構造単位」とも称する)を含んでいてもよい。
【0024】
他の構造単位の例には、ビニル基および架橋性基を有する、架橋性アルキルビニル化合物由来の構造単位が含まれる。当該架橋性アルキルビニル化合物は、フッ素原子を含んでいることが好ましい。当該架橋性アルキルビニル化合物の例には、パーフルオロジビニルエーテルおよびパーフルオロアルキレンジビニルエーテル等が含まれる。なお、パーフルオロアルキレンジビニルエーテルの例には、すべての水素原子がフッ素原子で置換された2つのビニルエーテル基が、炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖状の2価のパーフルオロアルキレン基で結合された構造を有する化合物が含まれる。フッ化ビニリデン共重合体が、架橋性アルキルビニル化合物由来の構造単位を含むと、フッ化ビニリデン共重合体の非水電解質二次電池の各種構成材料に対する接着性が高まったり、フッ化ビニリデン共重合体が、電解液によって膨潤し難くなったりする。
【0025】
フッ化ビニリデン共重合体中の上記架橋性アルキルビニル化合物に由来する構造単位の質量分率は、5質量%未満であることが好ましく、0.1質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
また、フッ化ビニリデン共重合体に水素結合性の極性官能基を付与して集電体の表面への接着強度をより高める観点から、フッ化ビニリデン共重合体は、不飽和二塩基酸または不飽和二塩基酸モノエステルに由来する構造単位を含んでいてもよい。不飽和二塩基酸は、不飽和ジカルボン酸またはその誘導体であり、その例には、2つのカルボキシル基が、炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖状の不飽和アルキレン基で結合された化合物が含まれる。上記不飽和二塩基酸のより具体的な例には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、およびシトラコン酸等が含まれる。一方、不飽和二塩基酸モノエステルは、上記不飽和二塩基酸に由来するモノエステル化合物である。上記不飽和二塩基酸モノエステルの例には、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、およびシトラコン酸モノエチルエステル等が含まれる。
【0027】
また、フッ化ビニリデン共重合体に水素結合性の極性官能基を付与して、フッ化ビニリデン共重合体の非水電解質二次電池の各種構成材料への接着性をより高める観点から、ビニル基および極性基を含有する化合物(以下、「極性基含有化合物」ともいう。)に由来する構造単位を有してもよい。当該極性基含有化合物の例には、(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシプロピルコハク酸、およびグリシジル(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0028】
フッ化ビニリデン共重合体中の上記不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸モノエステルまたは極性基含有化合物に由来する構造単位の質量分率は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、任意に設定することができる。これらの導入量は、フッ化ビニリデン共重合体をFT−IR分析することにより特定することができる。
【0029】
(2)フッ化ビニリデン共重合体の物性
上述のフッ化ビニリデン共重合体の融点は、105〜125℃であるが、106〜123℃であることが好ましく、107〜120℃であることがより好ましい。フッ化ビニリデン共重合体の融点が上記範囲であると、フッ化ビニリデン共重合体の電解液に対する膨潤性が低くなったり、N−メチルピロリドンに対する溶解性が高まったりする。また、フッ化ビニリデン共重合体の融点が125℃より高いと、二次電池用樹脂組成物を用いて成膜する際に、均一な膜が形成されない等、成膜性が低下することがある。上記融点は、ASTM D3418に準拠して測定される値である。
【0030】
また、フッ化ビニリデン共重合体において、フッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率Wと、フッ化ビニリデン共重合体の結晶化度Dと、フッ化ビニリデン共重合体の非晶化度Dと、が下記式(1)を満たす。
4.7≦W×(D/D)≦14 (1)
×(D/D)で表される値は、4.8以上12.5以下であることが好ましく、4.9以上11以下であることがより好ましい。上述のように、フッ化ビニリデン共重合体が上記式(1)を満たすと、二次電池用樹脂組成物の電解液に対する溶解性や膨潤性が低くなったり、N−メチルピロリドンに対する溶解性が高くなったりする。
【0031】
フッ化ビニリデン共重合体の結晶化度Dおよびフッ化ビニリデン共重合体の非晶化度Dは、以下のように特定することができる。フッ化ビニリデン共重合体の結晶化度Dは、下記式から求められる。
【数1】
上記ポリフッ化ビニリデンの完全結晶の融解エンタルピーは、文献値を用いることができ、例えば、M Neidhofer:Polymer volume 45,Issue 5,2004,1679−1688に記載の104.5J/gとすることができる。一方、フッ化ビニリデン共重合体の真の融解エンタルピーは、フッ化ビニリデン共重合体について、温度変調示差走査熱量計(例えばQ−100、TAインスツルメンツ社製)にて、リバーシングヒートフローの融解エンタルピーを測定することで算出することができる。
【0032】
一方、フッ化ビニリデン共重合体の非晶化度Dは、以下の式によって算出することができる。
非晶化度D[%]=100[%]−結晶化度D[%]
【0033】
ここで、二次電池用樹脂組成物中でのフッ化ビニリデン共重合体の形状は特に制限されず、例えば溶媒に溶解していてもよいが、二次電池用樹脂組成物中に粒子状の状態(一次粒子または二次粒子)で含まれていてもよい。また、二次電池用樹脂組成物中でフッ化ビニリデン共重合体が固形の状態(例えば粒子状)である場合、その平均粒子径は、二次電池用樹脂組成物の用途や、フッ化ビニリデン共重合体がどのような状態で二次電池用樹脂組成物に含まれているかによって、適宜選択することができる。例えば、二次電池用樹脂組成物が分散媒を含み、フッ化ビニリデン共重合体が当該分散媒に分散されている場合、フッ化ビニリデン共重合体は主に一次粒子となっていることが多い。その場合の平均粒子径(平均一次粒子径)は、10nm〜700μmであることが好ましく、20nm〜600nmであることがより好ましく、30nm〜500nmであることがさらに好ましい。当該平均一次粒子径は、動的光散乱法の正則化解析によって算出される。具体的には、JIS Z8828に準拠して測定される。また、正則化解析によって得られる大小2つのピークのうち、大きいピークを平均一次粒子径とする。
【0034】
一方、二次電池用樹脂組成物が粉体状である場合等には、フッ化ビニリデン共重合体が二次粒子となっていることが多い。その場合の平均粒子径(平均二次粒子径)は、30μm〜200μmであることが好ましく35μm〜190μmであることがより好ましく、40μm〜180μmであることがさらに好ましい。平均二次粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定し、その粒度分布の累積平均径(d50)から算出される。
【0035】
(3)フッ化ビニリデン共重合体の調製方法
上述の物性を満たすフッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンと、含フッ素アルキルビニル化合物と、必要に応じて他の化合物とを、乳化重合法により、特定の条件下で重合することで調製できる。
【0036】
乳化重合法ではまず、フッ化ビニリデン、含フッ素アルキルビニル化合物、および必要に応じて他の化合物(以下、これらをまとめて「単量体」とも称する)と、液性媒体と、乳化剤と、をオートクレーブ内で混合する。このとき、液性媒体を、フッ化ビニリデン等が難溶な液体とする。そして、当該混合液に、液性媒体に溶解可能な重合開始剤を加えて、フッ化ビニリデンや含フッ素アルキルビニル化合物等を重合させる。
【0037】
ここで、重合を行う際のオートクレーブ内の圧力は、重合開始から一定時間、略同一の圧力で維持されることが好ましく、特に重合開始(重合率0%)から重合率が90%以上となるまで、同一の圧力で維持されることが好ましい。重合開始時の圧力を維持する方法としては、開始剤を添加した直後に単量体を添加する方法が挙げられる。また、添加する単量体は、主にフッ化ビニリデンであることが好ましく、実質的にフッ化ビニリデン共重合体のみであることが好ましい。また、重合時のオートクレーブ内の圧力は0〜20MPaとすることが好ましく、0.5〜15MPaとすることがより好ましく、1〜10MPaとすることがさらに好ましい。重合を行う際の圧力を上記範囲に調整することで、融点、およびW×(D/D)で表される値が上述の範囲に収まるフッ化ビニリデン共重合体が得られる。
【0038】
乳化重合に用いる液性媒体は、上記単量体が難溶な液体であれば特に制限されない。フッ化ビニリデン等は水に難溶性である。そこで、液性媒体の一例として、水が挙げられる。
【0039】
一方、乳化剤は、単量体によるミセルを液性媒体中に形成可能であり、かつ、合成される共重合体を液性媒体中に安定に分散させることができるものであれば特に制限されず、例えば公知の界面活性剤とすることができる。乳化剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。乳化剤の例には、ポリフッ化ビニリデンの重合に従来から使用されている過フッ素化界面活性剤、部分フッ素化界面活性剤および非フッ素化界面活性剤等が含まれる。これらの界面活性剤のうち、パーフルオロアルキルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルキルカルボン酸およびその塩、ならびに、フルオロカーボン鎖またはフルオロポリエーテル鎖を有するフッ素系界面活性が好ましく、パーフルオロアルキルカルボン酸およびその塩がより好ましい。乳化剤としては、上記のうちから選択される1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。乳化剤の添加量は、重合に用いられる全単量体の総量を100質量部とすると、0.0001〜22質量部であることが好ましい。
【0040】
重合開始剤は、液性媒体に溶解可能であり、かつ単量体を重合可能な化合物であれば特に制限されない。重合開始剤の例には、公知の水溶性過酸化物、水溶性アゾ系化合物およびレドックス系開始剤等が含まれる。水溶性過酸化物の例には、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウム等が含まれる。水溶性アゾ系化合物の例には、2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル(AIBN)および2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル(AMBN)等が含まれる。レドックス系開始剤の例には、アスコルビン酸−過酸化水素等が含まれる。これらの中でも水溶性過酸化物が反応性等の観点で好ましい。これらの重合開始剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の添加量は、重合に用いられる全単量体の総量を100質量部とすると、0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0041】
なお、乳化重合法は、ソープフリー乳化重合法またはミニエマルション重合法またはシード乳化重合であってもよい。
【0042】
ソープフリー乳化重合法とは、上記乳化重合を行う際に用いるような通常の乳化剤を用いることなく行われる乳化重合である。ソープフリー乳化重合によって得られたフッ化ビニリデン共重合体は、乳化剤が重合体粒子内に残存しないため好ましい。
【0043】
また、ソープフリー乳化重合法では、上記乳化剤として、分子中に重合性の二重結合を有する反応性乳化剤を用いることもできる。反応性乳化剤は、重合の初期には系中にミセルを形成するが、重合が進行するにつれ、単量体として重合反応に使用されて消費される。そのため、最終的に得られる反応系中には、遊離した状態ではほとんど存在しない。したがって、反応性乳化剤が、得られるフッ化ビニリデン共重合体の粒子表面にブリードアウトし難いという利点がある。
【0044】
反応性乳化剤の例には、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、メタクリロイルオキシポリオキシプロピレン硫酸エステルナトリウムおよびアルコキシポリエチレングリコールメタクリレート等が含まれる。
【0045】
一方、ミニエマルション重合法では、超音波発振器等を用いて強いせん断力をかけて、モノマー油滴をサブミクロンサイズまで微細化し、重合を行なう。このとき、微細化されたモノマー油滴を安定化させるために、公知のハイドロホーブを混合液に添加する。ミニエマルション重合法では、理想的には、各モノマー油滴でのみ重合反応が生じ、各油滴がそれぞれフッ化ビニリデン共重合体(微粒子)となる。そのため、得られるフッ化ビニリデン共重合体の粒径および粒径分布等を制御しやすい。
【0046】
シード乳化重合とは、上記のような重合方法で得られた微粒子を他の単量体からなる重合体で被覆する重合である。微粒子の分散液に、さらに単量体と、液性媒体、界面活性剤、重合開始剤等を添加し、重合させる。
【0047】
ここで、上記いずれの乳化重合方法においても、得られるフッ化ビニリデン共重合体粒子の重合度を調節するために、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤の例には、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジエチル、アセトン、エタノール、n−プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、および四塩化炭素等が含まれる。
【0048】
また、必要に応じてpH調整剤を用いてもよい。pH調整剤としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素カリウム等の緩衝能を有する電解質物質、ならびに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等の塩基性物質が挙げられる。
【0049】
また、必要に応じて沈降防止剤、分散安定剤、腐食防止剤、防カビ剤、湿潤剤等の他の任意成分を用いてもよい。これらの任意成分の添加量は、重合に用いられる全単量体の総量を100質量部とすると、5ppm〜10質量部であることが好ましく、10ppm〜7質量部であることがより好ましい。
【0050】
フッ化ビニリデン共重合体の重合において、重合温度は、重合開始剤の種類等によって、適宜選択すればよいが、例えば、0〜120℃、好ましくは20〜110℃、より好ましくは40〜100℃に設定すればよい。重合時間は、特に制限されないが、生産性等を考慮すると、1〜24時間であることが好ましい。
【0051】
上述の乳化重合法によれば、液性媒体を水とした時に、水中にフッ化ビニリデン共重合体粒子が略均一に分散されたラテックスが得られる。このようにして得られたフッ化ビニリデン共重合体を含むラテックスは、そのまま使用してもよい。また、当該ラテックスを塩析、凍結粉砕、スプレードライ、およびフリーズドライ等から選ばれる少なくとも1種類の方法で粉体化して使用してもよい。またさらに、粉体化したフッ化ビニリデン共重合体を、分散媒に物理的または化学的に再分散させて使用してもよい。また、未処理のフッ化ビニリデン共重合体粒子を含む分散液(ラテックス)に、水、界面活性剤、pH調整剤、沈降防止剤、分散安定剤、腐食防止剤、防カビ剤、湿潤剤等をさらに添加してもよいし、透析膜又はイオン交換樹脂等によって不純物を除去してもよい。
【0052】
1−2.その他の成分
二次電池用樹脂組成物は、フッ化ビニリデン共重合体以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよく、その例には、水溶性高分子やフィラー、溶媒(分散媒)および各種添加剤等が含まれる。
【0053】
二次電池用樹脂組成物が、水溶性高分子を含むと、二次電池用樹脂組成物の粘度が調整されたり、二次電池用樹脂組成物の固形分の分散性が向上したりする。水溶性高分子の例には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース化合物;上記セルロース化合物のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸;ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸等の不飽和カルボン酸と、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルブチラールまたはビニルエステルとの共重合体の鹸化物等の水溶性ポリマー等が含まれる。これらの中でも、セルロース化合物およびその塩が好ましい。二次電池用樹脂組成物は、水溶性高分子を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0054】
水溶性高分子の量は、特に限定されるものではないが、一例において、二次電池用樹脂組成物の固形分の総量に対して0.01〜20質量%とすることができる。
【0055】
二次電池用樹脂組成物がフィラーを含むと、二次電池用樹脂組成物から得られる層の耐熱性やイオン透過性を向上させることができる。フィラーは、無機フィラーであってもよく、有機フィラーであってもよいが、二次電池用樹脂組成物から得られる層の耐熱性等の観点から無機フィラーが好ましい。無機フィラーの例には、二酸化ケイ素(SiO)、アルミナ(Al)、二酸化チタン(TiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸バリウム(BaTiO)等の酸化物;水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))等の水酸化物;炭酸カルシウム(CaCO)等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;窒化物;粘土鉱物;およびベーマイト等が含まれる。二次電池用樹脂組成物は、フィラーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。二次電池の安全性や、二次電池用樹脂組成物の安定性の観点から、フィラーとして、アルミナ、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛およびベーマイトを含むことが好ましい。
【0056】
フィラーの平均粒子径は、5nm〜2μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがより好ましい。平均粒子径は、JIS Z8828に準拠して測定される。ここで、フィラーの量は、二次電池用樹脂組成物中のフッ化ビニリデン共重合体の総量に対して10〜900質量%であることが好ましい。
【0057】
二次電池用樹脂組成物は、フッ化ビニリデン共重合体等を分散させるための分散媒を含んでいてもよい。分散媒は水であることが好ましいが、フッ化ビニリデン樹脂を溶解せず、分散、懸濁、または乳化し得る非水溶媒も好ましく用いることができる。非水溶媒の例には、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;トルエン、キシレン、n−ドデカン、テトラリン等の炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル;o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン等のアミン化合物;γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン化合物等が挙げられる。これらの水または非水溶媒を単独で用いてもよく、水とこれら非水溶媒とを混合した混合溶媒としてもよい。このとき、非水溶媒を二種以上組み合わせてもよい。
【0058】
二次電池用樹脂組成物は、フッ化ビニリデン共重合体を溶解させるための溶媒を含んでいてもよい。この場合、溶媒は例えばN−メチルピロリドンであることが好ましいが、フッ化ビニリデン共重合体樹脂の少なくとも一部を溶解し、フィラーを溶解せず分散、懸濁、または乳化し得る溶媒であれば、特に限定されるものではない。これらの溶媒は一種のみからなるものであってもよく、溶媒を二種以上混合した混合溶媒であってもよい。
【0059】
分散媒もしくは溶媒を用いる場合、二次電池用樹脂組成物中の分散媒もしくは溶媒の量は、フッ化ビニリデン共重合体100質量部に対して、60〜3500質量部であることが好ましい。また、溶媒(分散媒)の量は、特に制限されないが、二次電池用樹脂組成物の総量に対して30〜99質量%であることが好ましく、35〜98質量部であることがより好ましい。
【0060】
また、各種添加剤の例には、分散安定剤、pH調整剤、増粘剤、沈降防止剤、腐食防止剤、防カビ剤、湿潤剤等が含まれる。これら各種添加剤は公知の化合物を用いることができる。分散安定剤の例には、上述の界面活性剤(上述のフッ化ビニリデン共重合体の調製時に用いる乳化剤)等が含まれる。pH調整剤の例には、NaHPO、NaHPO、およびKHPO等の緩衝能を有する電解質物質や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等の塩基性物質等が含まれる。これらの量は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で適宜選択される。
【0061】
1−3.二次電池用樹脂組成物の製造方法、および二次電池用樹脂組成物の用途
上述の二次電池用樹脂組成物は、上述のフッ化ビニリデン共重合体と、必要に応じて他の成分とを混合することで、調製することができる。これらの混合方法は特に制限されず、公知の方法で混合することができる。
【0062】
例えば、二次電池用樹脂組成物において、フッ化ビニリデン共重合体(粒子)が分散媒に分散されている状態とする場合、上述の乳化重合法によって得られたフッ化ビニリデン共重合体粒子および分散媒をそのまま二次電池用樹脂組成物として使用してもよい。あるいは、上記乳化重合によって得られたフッ化ビニリデン共重合体粒子を粉体化してから、必要に応じて他の成分等と混合し、別途容易した分散媒に、物理的または化学的に再分散させて二次電池用樹脂組成物としてもよい。粉体化の方法としては、例えば、塩析、凍結粉砕、スプレードライ、およびフリーズドライ等の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
一方、二次電池用樹脂組成物において、フッ化ビニリデン共重合体が溶媒に溶解している場合、上記乳化重合によって得られたフッ化ビニリデン共重合体粒子を、粉体化してから溶媒に溶解させ、二次電池用樹脂組成物としてもよい。粉体化方法としては、上記と同様の方法とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
また、二次電池用樹脂組成物が粉体である場合、上記乳化重合によって得られたフッ化ビニリデン共重合体粒子を粉体化したものをそのまま二次電池用樹脂組成物としてもよく、必要に応じて他の成分等と混合し、これを二次電池用樹脂組成物としてもよい。粉体化方法としては、上記と同様の方法とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
ここで、上述の二次電池用樹脂組成物中のフッ化ビニリデン共重合体は、電解液によって膨潤し難い。またN−メチルピロリドンに溶解させることが可能であるため、均一に成膜することができる。したがって、当該二次電池用樹脂組成物は、非水電解質二次電池の電極の電極合剤層や、セパレータの樹脂層や、電解質層等に好適に用いることができる。また、上述の二次電池用樹脂組成物中のフッ化ビニリデン共重合体は、非水電解質二次電池の各種構成材料に対する接着性が高い。
【0066】
2.非水電解質二次電池用セパレータ
本発明の非水電解質二次電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」とも称する)は、セパレータ膜と、当該セパレータ膜の少なくとも一方の表面に配置された樹脂層とを含み、樹脂層が、上述の二次電池用樹脂組成物の固形分を少なくとも含む。ただし、樹脂層自体がセパレータとしての機能を担うことができる場合には、セパレータがセパレータ膜を含まなくてもよい。
【0067】
2−1.セパレータ膜
セパレータ膜は、電気的に安定であり、電気伝導性を有していない膜とすることができる。当該セパレータには、内部に空孔又は空隙を有する多孔質基材が用いられ、イオン透過性に優れる多孔質基材であることが好ましい。このような多孔質基材の例には、ポリオレフィン系高分子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系高分子(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリイミド系高分子(例えば、芳香族ポリアミド系高分子、ポリエーテルイミド等)、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、セラミックス等、およびこれらの少なくとも2種の混合物からなる単層又は多層の多孔膜;不織布;ガラス;ならびに紙等が含まれる。なお、上記ポリマーは変性物とされていてもよい。
【0068】
セパレータ膜の材料としては、ポリオレフィン系高分子(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)が好ましく、シャットダウン機能の観点からポリエチレンを含むことがより好ましく、シャットダウン機能と耐熱性の両立の観点から95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むことがさらに好ましい。
【0069】
ポリオレフィン系高分子からなるセパレータ膜には、セルガード(登録商標、ポリポア株式会社製)として市販されている、単層ポリプロピレンセパレータ、単層ポリエチレンセパレータ、およびポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層セパレータが含まれる。
【0070】
また、セパレータ膜(多孔質基材)の厚さは、力学特性および内部抵抗の観点から、3μm以上25μm以下であることが好ましく、5μm以上25μmであることがより好ましい。
【0071】
セパレータ膜(多孔質基材)の表面は、樹脂層との密着性(もしくは上述の二次電池用樹脂組成物の濡れ性)を向上させる目的で、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、または紫外線照射処理等が施されていてもよい。
【0072】
2−2.樹脂層
樹脂層は、上述の二次電池用樹脂組成物の固形分を含んでいればよく、必要に応じて他の成分をさらに含んでいてもよい。樹脂層は、セパレータの強度を高めるための層であってもよく、セパレータと電極とを結着するための層であってもよく、これらの機能を同時に担う層であってもよい。当該樹脂層内で、上述のフッ化ビニリデン共重合体は、粒子状であってもよく、膜状(多孔質膜を含む)であってもよく、溶媒を含むゲル状であってもよい。
【0073】
樹脂層中のフッ化ビニリデン共重合体の量は、10質量%以上100質量%以下であることが好ましい。フッ化ビニリデン共重合体の量が当該範囲であると、樹脂層とセパレータ膜との接着性が高まったり、樹脂層と電極との接着性が高まったり、セパレータの強度が高まったり、樹脂層自体の強度が高まったりしやすくなる。樹脂層の厚みは、樹脂層の機能に応じて適宜選択され、特に限定されるものではない。
【0074】
樹脂層の形成方法は特に制限されず、例えば前述の二次電池用樹脂組成物が液状である(溶媒や分散媒を含む)場合には、当該二次電池用樹脂組成物を塗布し、溶媒や分散媒を乾燥させることにより形成することができる。なお、必要に応じて、二次電池用樹脂組成物に任意の成分を添加し、これを塗布してもよい。一方、二次電池用樹脂組成物が粉体状あるいは塊状である場合等には、当該二次電池用樹脂組成物を溶媒(分散媒)や必要に応じて他の成分と混合し、当該混合液を塗布する。そして、塗膜から溶媒(分散媒)を乾燥させることにより形成することができる。これらの塗布方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法およびディップコート法等を適用することができる。
【0075】
また、二次電池用樹脂組成物からなる樹脂層を乾燥させる場合、樹脂層中の溶媒(分散媒)の少なくとも一部を除去できる程度に行うことが好ましい。乾燥は、異なる温度で複数回行ってもよいし、乾燥の際には、圧力を印加してもよい。乾燥後にさらに熱処理を行ってもよい。例えば、乾燥温度は、40〜150℃であることが好ましく、45〜130℃であることがより好ましく、乾燥時間は、1分〜15時間とすることができる。
【0076】
樹脂層は、負極層と正極層との間に設けられるセパレータの少なくとも一方の面に配置されていてもよく、両方の面に配置されていてもよい。
【0077】
3.非水電解質二次電池用電極
本発明の二次電池用電極は、集電体と、当該集電体上に配置された電極合剤層とを含み、当該電極合剤層が、後述の電極合剤層用樹脂組成物の固形分を少なくとも含んでいればよい。また、当該二次電池用電極は、正極用であってもよく、負極用であってもよい。
【0078】
3−1.集電体
負極および正極用の集電体は、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、特に限定されるものではなく、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属鋼等を用いることができる。また、他の媒体の表面に上記金属箔あるいは金属鋼等を施したものであってもよい。
【0079】
3−2.電極合剤層用樹脂組成物および電極合剤層
一方、電極合剤層は、上述の二次電池用樹脂組成物を電極活物質と混合して、電極合剤層用樹脂組成物を調製し、当該電極合剤層用樹脂組成物を集電体上に塗布し、乾燥させた層とすることができる。電極合剤層は、上記集電体の一方の面のみに形成されていてもよく、両方の面に配置されていてもよい。
【0080】
ここで、電極合剤層は、集電体と活物質とを結着するための層であってもよく、活物質同士を結着するための層であってもよく、活物質と他の成分とを結着するための層であってもよく、二次電池用電極と上述のセパレータとを結着するための層であってもよい。当該電極合剤層において、上述の二次電池用樹脂組成物中のフッ化ビニリデン共重合体は粒子状であってもよく、膜状(多孔質膜を含む)であってもよく、溶媒を含んだゲル状であってもよい。
【0081】
電極合剤層は、例えば上述の二次電池用樹脂組成物の固形分と、電極活物質とを含んでいればよく、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、導電助剤や固体電解質、顔料分散剤、接着補助剤等が挙げられる。
【0082】
電極合剤層の総量に対する、フッ化ビニリデン共重合体の量は、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。フッ化ビニリデン共重合体の量が当該範囲であると、例えば電極合剤層と集電体との接着性が良好になりやすい。
【0083】
電極合剤層が含む電極活物質は、特に限定されるものではなく、例えば、従来公知の負極用の電極活物質(負極活物質)または正極用の電極活物質(正極活物質)を用いることができる。
【0084】
上記負極活物質としては、例えば、人工黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、活性炭、又はフェノール樹脂およびピッチ等を焼成炭化したもの等の炭素材料;Cu、Li、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、ZrおよびY等の金属・合金材料;ならびにGeO、GeO、SnO、SnO、PbO、PbO等の金属酸化物等が挙げられる。なお、負極活物質は、市販品であってもよい。
【0085】
一方、正極用の活物質としては、少なくともリチウムを含むリチウム系正極活物質が好ましい。リチウム系正極活物質の例には、LiCoO、LiNiCo1−x(0<x≦1)等の一般式LiMY(Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、およびV等の遷移金属のうち1種または2種以上、Yは、OおよびS等のカルコゲン元素)で表わされる複合金属カルコゲン化合物;LiMn等のスピネル構造をとる複合金属酸化物;およびLiFePO等のオリビン型リチウム化合物;等が含まれる。なお、正極活物質は、市販品であってもよい。
【0086】
また、導電助剤は、電極活物質同士、または電極活物質と集電体との間の導電性をより高めることができる化合物であれば特に制限されない。導電助剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、およびカーボンファイバー等が含まれる。
【0087】
導電助剤の量は、その種類や電池の種類に応じて任意に設定できる。導電性の向上および導電助剤の分散性をともに高める観点から、一例において、電極活物質、フッ化ビニリデン共重合体、および導電助剤の合計量に対して、0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0088】
固体電解質は、イオン伝導性を有する固形状の化合物であれば特に限定されるものではなく、従来公知の無機固体電解質および高分子固体電解質を用いることができる。無機固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、窒化物系固体電解質、錯体水素化物固体電解質等が含まれる。また、高分子固体電解質としては、例えば、ゲル系電解質や真性ポリマー電解質等が含まれる。
【0089】
酸化物系固体電解質としては、これに限定されるものではないが、ペロブスカイト型のLLTO、ガーネット型のLLZ、NASICON型の化合物、LISICON型の化合物、LIPON型の化合物、β-アルミナ型の化合物等が挙げられる。具体例には、LiPO、Li0.34La0.51TiO、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li2.9PO3.3N0.46、Li4.3Al0.3Si0.7、50LiSiO−50LiBO、LiO−Al−SiO−P−TiO、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO−0.05LiO等が含まれる。
【0090】
硫化物系固体電解質としては、これに限定されるものではないが、LGPS型の化合物、アルジロダイト型の化合物、非晶質系の化合物、Li−P−S系の化合物等が挙げられる。具体例には、Li10GeP12、Li3.25Ge0.250.75、0.03LiPO−0.59LiS−0.38SiS、57LiS−38SiS−5LiPO、70LiS−30P、Li11等が含まれる。
【0091】
窒化物系固体電解質としては、これに限定されるものではないが、具体的にはLiN等が挙げられる。
【0092】
錯体水素化物固体電解質としては、これに限定されるものではないが、具体的にはLiBH等が挙げられる。
【0093】
ゲル系電解質としては、これに限定されるものではないが、具体例にはPoly(ethylene oxide)−LiClO(エチレンカーボネート(EC)+プロピレンカーボネート(PC))、Poly(ethylene oxide)−LiClO(PC)、Poly(vinylidene fluoride)−LiN(CFSO(EC+PC)、Poly(vinylidene fluoride−co−hexafluoropropylene)−LiPF6(EC+ジエチルカーボネート(DEC)+ジメチルカーボネート(DMC))、Poly(ethylene glycol acrylate)−LiClO(PC)、Poly(acrylonitrile)−LiClO(EC+PC)Poly(methyl methacrylate)−LiClO(PC)等が含まれる。
【0094】
真性ポリマー電解質としては、これに限定されるものではないが、具体例にはPoly(ethylene oxide)−LiClO、Poly(oxymethylene)−LiClO、Poly(propylene oxide)−LiClO、Poly(dimethyl siloxane)−LiClO、Poly(vinylidene fluoride−co−hexafluoropropylene)−LiTFSI、Poly(2、2−dimethoxypropylene carbonate)−LiFSI、Poly[(2−methoxy)ethylglycidyl ether]−LiClO等が含まれる。
【0095】
これらの固体電解質は、上記電解質を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0096】
顔料分散剤の例には、ポリビニルピロリドン等が含まれる。接着補助剤の例には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイミド、カルボキシメチルセルロース等のセルロース化合物、セルロース化合物のアンモニウム塩およびアルカリ金属塩等が含まれる。これらの量は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されない。
【0097】
その他の樹脂の例には、上述のフッ化ビニリデン共重合体以外のフッ化ビニリデン重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、およびポリアクリロニトリル(PAN)等が含まれる。上記他の樹脂の含有量は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されない。
【0098】
ここで、電極合剤層の厚みは特に限定されるものではなく、任意の厚みとすることができる。電極では、電極合剤層が、上述のセパレータと接するように設けられていてもよい。
【0099】
上記電極合剤層は、上述の二次電池用樹脂組成物や電極活物質を、必要に応じて溶媒(分散媒)や増粘剤と混合した電極合剤層用樹脂組成物を、集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。
【0100】
溶媒(分散媒)としては特に限定はされるものではないが、二次電池用樹脂組成物で説明した溶媒(分散媒)を用いることができる。これらの溶媒(分散媒)は、一種のみを含んでいてもよく、二種以上を含んでいてもよい。
【0101】
また、増粘剤は公知の化合物を用いることができ、その量は、電極合剤層用樹脂組成物の粘度に合わせて適宜選択される。
【0102】
電極合剤層の形成方法は特に制限されず、例えば前述の二次電池用樹脂組成物が液状である(溶媒や分散媒を含む)場合には、二次電池用樹脂組成物に電極活物質を混合したものを電極合剤層用樹脂組成物とし、これを塗布・乾燥させて電極合剤層を形成してもよい。なお、必要に応じて、二次電池用樹脂組成物および電極活物質以外に任意の成分を添加し、これを塗布してもよい。一方、二次電池用樹脂組成物が粉体状あるいは塊状である場合等には、当該二次電池用樹脂組成物および電極活物質を溶媒(分散媒)や必要に応じて他の成分と混合して電極合剤層用樹脂組成物を調製する。そして、当該電極合剤層用樹脂組成物を塗布・乾燥させることにより電極合剤層を形成することができる。これらの塗布方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法およびディップコート法等を適用することができる。また、電極合剤層用樹脂組成物の塗布後、任意の温度で加熱し、溶媒を乾燥させることが一般的である。乾燥は、異なる温度で複数回行ってもよい。乾燥の際には、圧力を印加してもよい。乾燥後にさらに熱処理を行ってもよい。熱処理は、一例において、100℃以上300℃以下で10秒以上300分以下行う。
【0103】
上記塗布および乾燥後、さらにプレス処理を行ってもよい。プレス処理は、一例において、1MPa以上200MPa以下で行われる。プレス処理を行うことにより、電極密度を向上させることができる。
【0104】
4.非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、を少なくとも含み、正極と負極の間に配置されたセパレータを含んでもよい。当該非水電解質二次電池は、正極および/または負極として、上述の非水電解質二次電池用電極を含む。さらにセパレータとして、上述の非水電解質二次電池用セパレータを含んでもよい。
【0105】
非水電解質二次電池では通常、上記正極や負極、電解質を組み合わせる。電解質は、例えば非水溶媒に電解質を溶解した液体とすることができる。非水溶媒の例には、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート、フロロエチレンカーボネート、ジフロロエチレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、およびそのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル;ジメトキシエタン;ジエトキシエタン;テトラヒドロフラン;2−メチルテトラヒドロフラン;スルホラン;1,3−ジオキソラン等が含まれる。これらの非水溶媒は、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。上述の二次電池用樹脂組成物中のフッ化ビニリデン共重合体は、これらの非水溶媒によって膨潤したり溶解したりし難く、安定性の高い非水電解質二次電池とすることができる。
【0106】
また、電解質として、イオン性液体も用いることができる。イオン性液体としては、特に限定されず、公知のイオン性液体を用いることができ、一例において、エチルメチルイミダゾリウム塩、ブチルメチルイミダゾリウム塩等が挙げられる。イオン性液体は前述の非水溶媒に溶解して使用してもよいし、そのまま使用してもよい。
【0107】
また、電解質は、非水溶媒に溶解させずに固体のまま使用してもよい。本実施形態における二次電池に用いられる電解質は、特に限定されず、例えば、二次電池における公知の電解質を用いることができる。電解質の例には、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiAsF、LiCl、LiBr、LiB(C、LiSbF、LiCSO、Li(CFSOC、LiBPh、LiN(SOCF、Li(FSON(LiFSI)、Li(CFSON(LiTFSI)等が含まれる。
【実施例】
【0108】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0109】
[実施例1]
オートクレーブにイオン交換水280質量部を入れ、30分間の窒素バブリングによって脱気を行った。次に、リン酸水素二ナトリウム0.2質量部、およびパーフルオロオクタン酸アンモニウム塩(PFOA)1.0質量部を仕込み、4.5MPaまで加圧して窒素置換を3回行った。その後、酢酸エチル0.1質量部、フッ化ビニリデン(VDF)13質量部、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)22質量部を上記オートクレーブ中に添加した。撹拌しながら80℃まで昇温させた。そして、5質量%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を、APS量が0.06質量部となるように添加し、重合を開始させた。このときの缶内圧力は2.5MPaとした。缶内圧力が重合開始時の2.5MPaで維持されるように重合開始直後にVDF65質量部を連続的に添加した。添加終了後、1.5MPaまで圧力が降下したところで重合を完了とし、ラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は21.0質量%であり、ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は180nmであった。また、当該ラテックスを凍結乾燥し、フッ化ビニリデン共重合体のみを取り出した際、凍結乾燥品の二次粒子径は88μmであった。このとき凍結乾燥品は、重合後のラテックスを液体窒素で凍結させ室温下で減圧乾燥させることで得られた。なお、固形分濃度、平均一次粒子径、および平均二次粒子径は、後述の方法で測定した。
【0110】
[実施例2]
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を13質量部から8質量部に変更し、HFPの量を22質量部から27質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合し、ラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は21.3質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は190nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は89μmであった。
【0111】
[実施例3]
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を13質量部から5質量部に変更し、HFPの量を22質量部から30質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合し、ラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックス(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)の固形分濃度は22.3質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は220nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は161μmであった。
【0112】
[実施例4]
実施例2と同様に重合し、ラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックス(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)の固形分濃度は21.3質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は180nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(スプレードライ品)の二次粒子径は54μmであった。このときのスプレードライ運転条件は、入口温度170℃、出口温度100℃、ラテックス処理量3kg/hr、回転数15000rpmとした。
【0113】
[実施例5]
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を13質量部から18質量部に変更し、HFPの量を22質量部から17質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合し、ラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックス(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)の固形分濃度は20.9質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は170nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は66μmであった。
【0114】
[比較例1]
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を13質量部から20質量部に変更し、HFPの量を22質量部から15質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合し、ラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は24.0質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は190nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は78μmであった。
【0115】
[比較例2]
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を13質量部から10質量部に変更し、HFPの量を22質量部から35質量部に変更し、重合開始後に添加するVDFの量を65質量部から55質量部に変更した以外は、上述の実施例1と同様の方法でラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は23.4質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は190nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は294μmであった。
【0116】
[比較例3]
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を10質量部から5質量部に変更し、HFPの量を35質量部から40質量部に変更した以外は、比較例2と同様にラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は19.2質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は210nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は測定不可であった。
【0117】
[比較例4]
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を13質量部から22質量部に変更し、HFPの量を22質量部から8質量部に変更し、重合開始後に添加するVDFの量を65質量部から54質量部に変更し、HFPの量を0質量部から16質量部に変更した以外は、上述の実施例1と同様の方法でラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は20.9質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は190nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は72μmであった。
【0118】
[比較例5]
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を22質量部から20質量部に変更し、HFPの量を8質量部から10質量部に変更し、重合開始後に添加するVDFの量を54質量部から50質量部に変更し、HFPの量を16質量部から20質量部に変更した以外は、上述の比較例4と同様の方法でラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は24.1質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は200nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は96μmであった。
【0119】
[比較例6]
重合開始時の缶内圧力を2.5MPaから3.7MPaに変更し、重合中の圧力が2.5MPaまで下がったところで缶内圧力が2.5MPaで維持されるようにVDF65質量部を連続的に添加した以外は、実施例1と同様にラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は24.0質量%であり、ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は170nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は31μmであった。
【0120】
[比較例7]
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を13質量部から8質量部に変更し、HFPの量を22質量部から27質量部に変更した以外は、比較例6と同様にラテックス(樹脂組成物)を得た。得られたラテックスの固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は23.8質量%であった。ラテックスに含まれるフッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は180nmであり、フッ化ビニリデン共重合体(凍結乾燥品)の二次粒子径は81μmであった。
【0121】
[評価]
実施例および比較例で得られたフッ化ビニリデン共重合体について、以下の方法でそれぞれ物性を測定した。各数値を表1に示す。
【0122】
・固形分濃度
上述のラテックス中のフッ化ビニリデン共重合体の濃度(固形分濃度)は、得られたラテックス約5gをアルミ製のカップに入れ、80℃で3時間乾燥させた。そして、乾燥前後の重量を測定することで、固形分濃度を算出した。
【0123】
・平均粒子径
フッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は、重合後のラテックスを動的光散乱法で正則化解析することによって算出した。具体的には、BECKMAN COULTER社製 DelsaMaxCOREを使用し、JIS Z 8828に準拠して測定した。そして、正則化解析によって得られる大小2つのピークのうち、大きいピークを平均一次粒子径とした。
【0124】
また、フッ化ビニリデン共重合体の平均二次粒子径は、凍結乾燥あるいはスプレードライによって粉体化したフッ化ビニリデン共重合体を、レーザー回折・散乱法で測定し、その粒度分布の累積平均径(d50)を算出した。具体的には、マイクロトラック・ベル社製 Microtrac MT3300EXIIを使用し、上述のフッ化ビニリデン共重合体約0.5mgを撹拌によって水中に分散させ、測定用試料とした。測定媒体は水とし、媒体屈折率は1.333、粒子形状は真球形、粒子屈折率は1.42、測定時間30秒とし、透過モードで5回測定した時のd50の平均値を平均二次粒子径とした。
【0125】
・W×(D/D
フッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率W(ここでは、HFP構造単位量)は、19F−NMR(BURUKAR社製)で測定した。具体的には、塩析によって粉体化したフッ化ビニリデン共重合体40mgをアセトン−d6 750μLに溶解させて測定用サンプルとした。19F−NMR測定により得られる化学シフトのうち、HFP構造単位由来のCF部分のピークは−70−〜80ppm付近の2本のピークに相当し、VDF構造単位およびHFP構造単位(全ての構造単位)由来のCF部分のピークは−90ppm以下のピークに相当する。そこで、これらのピーク面積比からHFP構造単位量Wを求めた。
HFP構造単位量W[質量%]=CFピーク面積/CFピーク面積×100
【0126】
続いて、フッ化ビニリデン共重合体の結晶化度Dを、以下の式により算出した。
【数2】
上記式における、ポリフッ化ビニリデンの完全結晶の融解エンタルピーは、M Neidhofer:Polymer volume 45,Issue 5,2004,1679−1688に記載の104.5J/gとした。
【0127】
一方、フッ化ビニリデン共重合体の真の融解エンタルピーは、フッ化ビニリデン共重合体について、温度変調示差走査熱量計(Q−100、TAインスツルメンツ社製)にてリバーシングヒートフローの融解エンタルピーを測定することで算出した。より具体的には、重合によって得られたフッ化ビニリデン共重合体の凍結乾燥品、あるいはスプレードライ品10mgをアルミニウムパンに詰め、測定用サンプルとした。測定条件はヒートオンリー条件となるように、平均昇温速度5℃/min、モジュレイション周期40秒、モジュレイション振幅±0.531℃とした。
【0128】
また、フッ化ビニリデン共重合体の非晶化度Dは、以下の式によって算出した。
非晶化度D[%]=100[%]−結晶化度D[%]
そして、HFP構造単位量W、ならびにフッ化ビニリデン共重合体の結晶化度Dおよび非晶化度Dから、W×(D/D)の値を算出した。
【0129】
・融点
フッ化ビニリデン共重合体粒子の融点は、以下の方法で作製されるフィルムの形態で測定した。
まず、剥離剤を噴霧した2枚のアルミ箔の間に、縦5cm×横5cm×厚み150μmの鋳型と、重合後のラテックスから塩析により取り出した(粉体化した)フッ化ビニリデン共重合体約1gとを挟み、200℃でプレスした。融点は、示差走査熱量計(METTLER社製「DSC−1」)を用いてASTM D3418に準拠して測定した。
【0130】
・濁度
フッ化ビニリデン共重合体粒子のN−メチルピロリドンへの溶解性は濁度によって評価した。濁度は、以下の方法で調製されるサンプルの状態で測定した。まず、塩析または凍結乾燥によって粉体化したフッ化ビニリデン共重合体粒子1gを19gのN−メチルピロリドン(日本リファイン製)に添加し、40℃のホットスターラー上で撹拌させることでサンプルを調製した。そして、当該サンプルの濁度を、日本電色工業製のNDH2000(JIS K 7136に準拠)で測定した。なお、サンプルは石英セルに入れた。また、N−メチルピロリドンの濁度を0とし、サンプルの濁度を算出した。濁度が30以下であるときに、N−メチルピロリドンへの溶解性が高いと判断した。
【0131】
・膨潤率
融点測定時のサンプルと同様の方法で、プレスフィルムを作製し、当該プレスフィルムを2cm×4cmに切り出した。そして、富山化学製の電解液(LIPASTE(登録商標)−3E7MEC/PF12(V1))に完全に浸した。そして、40℃のギアオーブンで6時間保管し、サンプル片の重量変化から膨潤率を算出した。
【数3】
【0132】
【表1】
【0133】
上記表1に示されるように、融点が105〜125℃の範囲内であり、かつフッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物(HFP)由来の構造単位の質量分率Wと、フッ化ビニリデン共重合体の結晶化度Dと、フッ化ビニリデン共重合体の非晶化度Dとが、4.7≦W×(D/D)≦14を満たす実施例1〜5では、N−メチルピロリドンに対する溶解性が高く、かつ電解液に対する溶解性(膨潤率)も低かった(実施例1〜5)。
【0134】
これに対し、W×(D/D)が14超であり、かつフッ化ビニリデン共重合体の融点が125℃超である比較例1では、N−メチルピロリドンへの溶解性が低く、濁度が高かった。また、W×(D/D)が14以下であったとしても、融点が125度を超える場合には(比較例6および7)、N−メチルピロリドンへの溶解性が低く、濁度が高かった。
【0135】
一方、W×(D/D)量が4.7未満であり、かつ融点が105℃未満である場合(比較例2、比較例3および比較例5)では、フッ化ビニリデン共重合体が電解液に溶出したり、電解液によって膨潤したりしやすかった。また、W×(D/D)量が適度な範囲(4.7以上14以下)であったとしても、融点が低すぎる場合(比較例4)には電解液に溶出しやすかった。
【0136】
本出願は、2018年5月31日出願の特願2018−104687号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明によれば、集電体やセパレータや活物質等、非水電解質二次電池を構成する材料に対する接着強度が高く、電解液による膨潤が少なく、N−メチルピロリドンに対する溶解性が高いフッ化ビニリデン共重合体を含む、非水電解質二次電池用樹脂組成物を提供することができる。