【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変更や修正が可能であることは言うまでもない。
【0053】
[実施例1]
外径16mm、長さ1m60cmの硼珪酸ガラス製のガラス管を使用し、以下の方法により、容量2mLのバイアルを得た。まず、
図2の(1)に示すようにガラス管11の端部を上にして管瓶の縦型成型機12に挿入し、下端部をガスバーナーで加熱してガラスを軟化させ、瓶の開口部分の形状となるように成形加工した。以下、より詳しく
図2に基づいて工程順に説明する。
【0054】
(1)ガラス管11の下端部を1200〜2000℃のフィッシュテールバーナー13で加熱した。
(2)ローラー14とプランジャー15とを用いて肩部を成形した。
(3)1200〜2000℃のポイントバーナー16で加熱した。
(4)ローラー14とプランジャー15とで口部を成形した。
(5)全高板17を用いて瓶高さを決定した。
(6)温度1200〜2000℃のカットバーナー18を用いてカットした。
(7)ポイントバーナー16を用いて底部を均質化した。
(8)エアー19を吹き込み、1200〜2000℃のポイントバーナー16を用いてバイアル20の底部成形を完成した。
【0055】
このようにして得られたバイアル20を、ネットコンベアー21上に載置された治具に挿入した状態(
図3)で洗浄機22に搬送し、大気温下に放冷し(
図2における(9)冷却工程)、約30℃のバイアルの内表面をシリンジを使用して10mLの25℃の洗浄液(クエン酸)で10秒間吹き上げ洗浄(クエン酸の噴霧圧0.2MPa)を行い(
図2における(10)洗浄工程)、さらに、精製水で10秒間吹き上げ洗浄(0.2MPa)を行った後、エアー19を吹き込んで十分に水を切った(
図2における(11)水切り工程)。尚、
図3では細部を省略しているが、バイアル20は、ネットコンベアー21によって洗浄機22および除歪炉24に搬送可能とされている。
【0056】
図4は、洗浄機22でバイアル20を洗浄する様子を示す概略構成図である。
図4において、31はマニホールド、32はノズル、33はニードルバルブ、34は流量計、35は圧力計、36はポンプ、37は洗浄液の貯槽である。ニードルバルブ33の開度を調整することにより、洗浄液の噴霧圧を調節することができる。
【0057】
クエン酸と精製水による洗浄及び水切りが終了した約25℃のバイアル20を、30分以内にバーナーヒーター23を備えた加熱炉有効長5mの除歪炉24に搬送し(
図2における(12)除歪工程)、除歪炉内の目標最高雰囲気温度が670℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が670℃以上である時間は108秒で、ガラス容器の実際の温度は670〜700℃で、ガラス容器の実際の温度が690〜700℃である時間が1分間)を行った硼珪酸ガラス製の実施例1のガラス容器を得、このガラス容器を常温まで放冷した。なお、除歪炉24は、入口側と出口側が開放されているので、除歪炉内に設けた熱電対で感知される除歪炉内の雰囲気温度を、例えば670〜700℃としても、入口側や出口側はこの温度よりも低くなる。また、除歪炉内の雰囲気温度は3箇所に設置した熱電対で測定し、そのうちの1つの熱電対で測定した温度が目標温度となるように、バーナーヒーター23をオン・オフ制御した。さらに、ガラス容器の実際の温度はガラス容器に融着させた熱電対により測定した。
【0058】
また、段落0055に記載したクエン酸と精製水による洗浄を行わなかった以外は、実施例1と同じ工程を経て、比較例1の硼珪酸ガラス製のガラス容器を得た。以下の表3は、X線光電子分光分析法によって測定された実施例1のガラス容器と比較例1のガラス容器の内表面の原子数比を示し、以下の表4は、母材である硼珪酸ガラスの成分組成(重量%)と、実施例1のガラス容器と比較例1のガラス容器について表3の原子数比に基づいて求められたガラス容器内表面に形成された酸化物被膜の比率(重量%)を示す。表4に示すように、本発明の実施例1のガラス容器内表面に形成された酸化物被膜の88.6重量%がSiO
2被膜であって、酸化物被膜のほとんどを占めることが分かる。X線光電子分光分析法とは、超高真空下で試料表面に軟X線を照射することによって光電効果により試料表面から真空中に放出された光電子の運動エネルギーを観測して、試料表面の元素組成や化学状態に関する情報を得ることができる分析法である。具体的には、次式によって必要な情報を得ることができる。E
b=hv−E
kin−φ(E
bは束縛電子の結合エネルギー、hvは軟X線のエネルギー、E
kinは光電子の運動エネルギー、φは分光器の仕事関数である)。ここで、束縛電子の結合エネルギー(E
b)は元素固有のものであるから、光電子のエネルギースペクトルを解析すれば、物質表面に存在する元素の同定が可能となる。さらに、ピーク面積比を用いることにより、元素を定量することができる。光電子が物質中を非弾性散乱することなく進む距離(平均自由工程)は1〜10nm程度であるため、本分析手法による検出深さは1〜10nm程度である。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
その後、
図5(a)に示すように、上記実施例1において常温まで放冷することによって得た硼珪酸ガラス製の実施例1のガラス容器40に0.7mLの精製水40aを注入した後、121℃で60分間、オートクレーブ処理を行った。41はゴム栓である。また、外径16mm、長さ1m60cmの硼珪酸ガラス製のガラス管から段落0053と0054に記載したのと同じようにして得た、
図5(b)に示すような円柱形状の容量2mLの比較例2の硼珪酸ガラス製のガラス容器50にも0.7mLの精製水50aを注入した。51aと51bはゴム栓である。そして、これらのガラス容器内の精製水について、精製水注入後1時間経過時点、精製水注入後4時間経過時点および精製水注入後8時間経過時点において、原子吸光分光光度計を用いて、溶出Na量(ppm)を測定し、誘導結合プラズマ発光分光分析計を用いて、溶出B量(ppm)と溶出Al量(ppm)と溶出Si量(ppm)と溶出Ca量(ppm)と溶出Ba量(ppm)を測定した。その結果、以下の表5に示すような測定結果を得た。精製水をガラス容器に注入するのは、例えば、ガラス容器に医薬品(例えば、液剤、凍結乾燥製剤、粉剤)を収納したときに、ガラス容器内面がどの程度の期間で劣化するかを見積もるための加速試験の意味を有しており、精製水注入後1時間経過時点は1.6年に相当し、精製水注入後4時間経過時点は8年に相当し、精製水注入後8時間経過時点は13年に相当する。
【0062】
【表5】
【0063】
表5に示すように、内表面にSiO
2を主とする酸化物被膜が形成された本発明の実施例1の硼珪酸ガラス容器は、アルカリ成分の溶出量が極めて少なく、化学的耐久性に極めて優れていることが分かる。また、実施例のガラス容器の内表面に分相が生成せず、且つフリーラジカルが存在せず、フレークスやデラミネーションがないことを電子顕微鏡によって確認した。
【0064】
《シリカを含有するガラスの構造》
理想的なガラスは、石英ガラスと総称されるシリカ100%のガラスであるが、シリカ100%のガラスは融点が2000℃以上と非常に高温で成形も困難である。そこで、一般的に使用されているシリカを含有するガラスは、これを改善するために、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属を添加することでシリカのシロキサン結合を切断し、融点を下げるとともに成形がしやすいようにしている。さらに、添加したアルカリ金属を安定的にガラス中に保持するために、カルシウムやアルミニウムなどの元素を加えている。
図7(a)は、一般的に使用されているシリカを含有するガラスの構造を平面状態で模式的に示す図である。
図7(a)において、100は珪素、101は酸素、102aはアルカリ金属、102bはアルカリ土類金属、103は共有結合、104はイオン結合を示す。すなわち、珪素100と酸素101は共有結合103で結ばれ、アルカリ金属102a又はアルカリ土類金属102bと酸素101はイオン結合104で結ばれている。しかし、すべてのアルカリ金属102a又はアルカリ土類金属102bが酸素と結ばれているのでなく、遊離しているアルカリ金属102a又はアルカリ土類金属102bも存在する。
【0065】
《サルファー処理を施した後のガラスの構造》
ガラスの主成分であるシリカは珪素と酸素が原子の最外殻電子を互いに共有する共有結合で結合し、強固なシロキサン結合を呈している。アルカリ金属はこの共有結合を切断し、フリーとなった酸素のラジカルをアルカリ金属が中和するイオン結合の状態で存在している。イオン結合は共有結合と比較して結合の強度が弱く、上記のように、ガラス容器においては、添加されたアルカリ金属やアルカリ土類金属が経時的に容器内の内容液に溶出する現象が発生する。医薬品用容器の場合、この溶出するアルカリ金属類等が薬剤成分に影響を与えるため、日本薬局方にて医薬品用として使用するガラス容器のアルカリ溶出量は厳密に規定されている。
【0066】
そのため、医薬品用容器においては、このアルカリ溶出を防止するために、様々な対策が実施されている。現在、一般的に行われている最も効果的な方法は、アルカリ金属成分を亜硫酸ガスと反応させ、水に可溶な硫酸ナトリウムの状態にして選択除去するサルファー処理である。しかしながら、このサルファー処理では、除去されたアルカリ金属成分の痕跡として、切断された非架橋のフリーラジカルが生成する。
図7(b)は
図7(a)に示すガラスにサルファー処理を施した後のガラスの構造を平面状態で模式的に示す図である。
図7(b)に示すように、サルファー処理を施すことによって多くのフリーラジカル105が生成し、シロキサン結合に多くの欠損が発生する。フリーラジカル105が生成することによって、ガラス表面の物理的な強度が劣化してガラス容器の表面が剥離するフレークス(デラミネーション)などの問題が発生する。
【0067】
《ガラスの構造と加熱温度》
シリカを含有するガラスは、その強固なシロキサン結合が粘性流動を開始するガラス転移点から軟化点までの領域(ガラスにより異なるが、約520℃から785℃の温度領域)でその物性が大きく変化する。ガラス転移点以上の温度領域ではガラス構造が流動的に変化し、アルカリ金属イオン等の修飾酸化物の動きが活発になる。このアルカリ金属イオンの移動速度は温度に大きく依存し、低温領域のガラス転移点付近での移動速度は時間単位であるが、高温領域である軟化点に近い温度領域では秒単位で生じることもある。ガラスの化学的耐久性を向上させるためには、分相現象により劣化した表面のアルカリ金属イオンを除去した後、ガラス表面の温度を上昇させ、ケイ酸成分に富んだ均一なガラス表面とする必要がある。しかし、温度が比較的低い領域(550〜650℃)であるとケイ酸成分に富んだ均一相とならない。また温度が高すぎる(710℃以上)と一旦均一化された表面層に深層からのアルカリ金属イオンが拡散することによって表面層の組成が変化する。そのため、ガラス転移点から軟化点までの領域におけるガラス温度の10℃〜30℃の差はガラス表面に大きな影響を与える。以下に、この点について説明する。
【0068】
そこで、本発明の特徴を理解するために必要であると思われるので、先の出願に開示した方法を以下に記載する。すなわち、本発明者は、加熱下においてガラス表面に析出したアルカリ金属類等を適切な条件の洗浄工程で除去した後、適切な条件の除歪工程を経ることによって、このような欠陥の少ないガラス容器を得る方法を、先の出願(特願2014−190753号、特許第6159304号)に開示した。
【0069】
《先の出願の開示》
先の出願に開示した方法は、以下のとおりである。すなわち、段落0053及び0054に記載したようにして得られた容量2mLのバイアル20に、洗浄時間を10秒と3秒の2種類を選択して段落0055に記載したように洗浄処理を行ったものと、洗浄処理を行わなかったものについて、除歪炉内の最高雰囲気温度が670℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が670℃以上である時間は90秒で、実際のガラス容器の温度は670〜700℃)を行って、常温まで放冷した。その後、これら各ガラス容器に1.8mLの精製水を注入した後、121℃で60分間、オートクレーブ処理を行った。このガラス容器内の精製水について、原子吸光分光光度計を用いて、溶出Na量(ppm)を測定した。その結果、以下の表6の結果を得た。
【0070】
【表6】
【0071】
洗浄時間が10秒の場合、洗浄なしのものに比べて、溶出Na量は、1/27〜1/31になっている。一方、段落0055と0057に記載した、10秒間の洗浄処理を行った後、除歪炉内の目標最高雰囲気温度が670℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が670℃以上である時間は108秒で、ガラス容器の実際の温度は670〜700℃で、ガラス容器の実際の温度が690〜700℃である時間が1分間)を行った実施例1のガラス容器と、洗浄処理を行わなかった以外は実施例1と同様の加熱処理を行った比較例のガラス容器の内表面の原子数比を示す表3と酸化物被膜の重量比率(重量%)を示す表4は、表6とは大きく異なる結果を示している。すなわち、表3では、Naは洗浄処理を行うことによって27%減少していることが示されており、表4では、Na
2Oは洗浄処理を行うことによって32%減少していることが示されている。表3及び表4と、表6とを比べることによって、先の出願に開示された「670〜700℃」と本願実施例1の「690〜700℃」の温度差がガラスの表面構造に非常に大きな影響を与えたことが分かる。表3及び表4と、表6との差は、洗浄処理後のガラス容器の実際の温度に由来すると考えられる。すなわち、ガラス容器の実際の温度が690〜700℃である時間が1分間である加熱処理を行うことによってガラス内表面の珪素と酸素のシロキサン結合が強化され、ガラス容器内部の遊離ナトリウムの内表面への拡散が抑制されたものと思われる。
【0072】
[実施例2]
そこで、加熱温度がガラスの構造に与える影響を調査するために、直径16mm、長さ1m60cmの硼珪酸ガラス製のガラス管を使用し、実施例1と同じ方法により、容量2mLのバイアルを得た。そして、このバイアルを、クエン酸の噴霧圧を0.15MPa又は0.10MPaにした以外は実施例1と同じ方法により洗浄した。クエン酸と精製水による洗浄及び水切りが終了した約25℃のバイアル20を、30分以内にバーナーヒーター23を備えた加熱炉有効長5mの除歪炉24に搬送し(
図2における(12)除歪工程)、1)除歪炉内の目標最高雰囲気温度が635℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が635℃以上である時間は180秒で、ガラス容器の実際の温度は635〜650℃で、ガラス容器の実際の温度が635〜650℃である時間が60秒)を行ったガラス容器と、2)除歪炉内の目標最高雰囲気温度が655℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が655℃以上である時間は180秒で、ガラス容器の実際の温度は655〜670℃で、ガラス容器の実際の温度が655〜670℃である時間が60秒)を行ったガラス容器と、3)除歪炉内の目標最高雰囲気温度が685℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が685℃以上である時間は180秒で、ガラス容器の実際の温度は685〜700℃で、ガラス容器の実際の温度が685〜700℃である時間が60秒)を行ったガラス容器と、4)除歪炉内の目標最高雰囲気温度が700℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が700℃以上である時間は180秒で、ガラス容器の実際の温度は700〜710℃で、ガラス容器の実際の温度が700〜710℃である時間が60秒)を行ったガラス容器と、5)除歪炉内の目標最高雰囲気温度が715℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が715℃以上である時間は180秒で、ガラス容器の実際の温度は715〜730℃で、ガラス容器の実際の温度が715〜730℃である時間が60秒)を行ったガラス容器と、6)除歪炉内の目標最高雰囲気温度が735℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が735℃以上である時間は180秒で、ガラス容器の実際の温度は735〜750℃で、ガラス容器の実際の温度が735〜750℃である時間が60秒)を行ったガラス容器とを得、これらのガラス容器を常温まで放冷した。その後、各ガラス容器に0.7mLの精製水を注入した後、121℃で60分間オートクレーブ処理を行った。この各ガラス容器内の精製水について原子吸光分光光度計を用いて、溶出Na量(ppm)を測定した。その結果を以下の表7(クエン酸の噴霧圧が0.15MPaの場合)と表8(クエン酸の噴霧圧が0.10MPaの場合)に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
図8は、表7と表8に示す数値に基づいて、加熱温度(℃)を横軸とし、Naの溶出量(ppm)を縦軸とする図である。
図8の横軸の加熱温度(℃)とは、段落0072に記載した除歪炉内の目標最高雰囲気温度(℃)を示す。
図8の横軸の各目標最高雰囲気温度(℃)において、左側の斜線で示す棒グラフはクエン酸の噴霧圧が0.15MPaの場合であり、右側の点線で示す棒グラフはクエン酸の噴霧圧が0.10MPaの場合である。
図8に示すように、目標最高雰囲気温度が685〜700(℃)において、Naの溶出量(ppm)は最も少なくなっている。すなわち、ガラス容器の実際の温度が685〜710℃である場合に、Naの溶出量(ppm)は最も少なくなっている。そこで、この
図8の結果について、以下に考察する。
【0076】
石英に代表される純粋なシリカ(SiO
2)の溶融温度は2000℃以上であり、ガラス容器等に成形する操作が極めて困難である。そのため、実用ガラスの作製においてはナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属を一定量添加して、シリカ中のシロキサン構造を随所で切断し、溶融温度を低下させると共に、ホウ素、アルミニウム、カルシウム、バリウム等その他の金属成分と合わせて、ブロー成形などのガラスの成形が容易になるような温度−粘度特性を付与するようにしている。
【0077】
上記のように実用ガラスの作製のために添加される金属の挙動を以下に説明する。添加されたナトリウム等の金属はシロキサン構造を随所で切断し、切断された部位にイオンの状態で滞留することでガラス構造の安定性を保っているが、イオン結合はシロキサン結合のように強固な結合でないため、ガラス転移点以上の温度ではこのナトリウム等の金属の移動が活発になる。
【0078】
本発明のガラス容器に使用される硼珪酸ガラスは耐熱性、耐薬品性に優れているが、硼珪酸ガラスの特性として、ガラス容器の成形加工時、溶融されたガラス表面がシリカに富む相とそれ以外の金属酸化物(ホウ素、ナトリウム、アルミニウム等の酸化物)の相に分離する分相と称される現象が発生する。分相現象が発生したガラス表面にはシリカ以外の金属酸化物が濃縮して堆積し、それがガラス表面の劣化に繋がっている。具体的には、加工劣化が発生したガラス表面には、ポーラス状の二酸化ケイ素(シリカ)の相が存在し、ナトリウム、その他金属及びその酸化物が島状に偏在化している。洗浄によってこの偏在しているナトリウム等の金属は除去されるが、除去された直後のガラス表面はポーラス状であるため、シリカ細孔の内部表面には除去しきれなかったナトリウム等の金属が表面部に付着した状態で残存し、これがナトリウム溶出量の増加の原因となっている。
【0079】
本発明においては、ガラス容器内面を洗浄後、ガラス容器を685℃〜710℃で熱処理を行うことによって、このポーラス状となったシリカ相をガラス化(珪素と酸素のシロキサン結合)し、残存するナトリウム等の金属をガラス表層中に均一に分散すると共に、表層部のシロキサン構造中にイオン結合状態で固定化させることで、極めて溶出が少ない化学的耐久性の高い構造とすることができる。
【0080】
630℃〜650℃より低い温度であれば、ポーラス状となったガラス表面の平滑化が不十分なため、残存する細孔の表面にあるナトリウム等の金属はシロキサン構造中に完全に固定化されることが無く、また、730℃〜750℃よりも高い温度であれば、ガラス容器深層部からの金属イオンの移動が活発となり、アルカリ溶出量が増加すると考えられる。685℃〜710℃でガラス容器を加熱することにより、単に内表面の二酸化ケイ素の濃度を上げることだけで無く、表面に付着している金属酸化物成分を、偏在化が無い状態で、言い換えればミクロな領域でその濃度に差が出ない状態で二酸化ケイ素の構造中に固定化することができる。
【0081】
このように、本発明の硼珪酸ガラス容器によれば、シロキサン結合に欠損が発生することはない。すなわち、加熱下においてガラス表面に析出したアルカリ金属類等を適切な条件の洗浄工程で除去した後、適切な条件の除歪工程を経ることによって、分相及び非架橋のフリーラジカルが生成することなく、
図7(c)に示すように、内表面に存在する珪素100と酸素101がシロキサン結合で結ばれた、石英ガラスに近い構造を得ることができ、アルカリ金属102a又はアルカリ土類金属102bは上記シロキサン構造中にイオン結合104で固定されている。また、本発明の硼珪酸ガラス容器の他の構成成分であるアルミニウムや硼素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属などと同様に成形加工時の加熱によって揮発しやすいので、相当量のアルミニウムや硼素は容器成形時にガラス内面に付着して堆積する。このガラス内面に堆積したアルミニウムや硼素は適切な条件の洗浄工程で除去されるが、除去されずに容器内に残留したアルミニウムや硼素は適切な条件の除歪工程を経てガラスの網目形成体としてガラス構造中に強固に固定される。そのため、本発明の硼珪酸ガラス容器内表面は珪酸成分に富み、石英ガラスに近い表面構造となっている。従って、本発明の硼珪酸ガラス容器は、表面にフレークスやデラミネーションがなく、ガラス表面からのアルカリ成分の溶出量が極めて少ないのである。
【0082】
[実施例3]
そこで、本発明の硼珪酸ガラス容器の内表面に分相及びフリーラジカルが生成せず、内表面に存在する珪素と酸素がシロキサン結合で結ばれている構造であることを確認するために、さらに、以下の実験を行った。本発明の硼珪酸ガラス容器は医薬品収納用として使用されることが多く、医薬品は多くの化学物質を含んでいる。その多くの化学物質の中でアミン化合物は硼珪酸ガラス成分との親和性が高く、ガラス容器の内表面のフリーラジカルと反応しやすい。
【0083】
そこで、加熱温度がガラスの構造に与える影響を調査するために、直径16mm、長さ1m60cmの硼珪酸ガラス製のガラス管を使用し、実施例1と同じ方法により、容量2mLのバイアルを得た。そして、このバイアルを、クエン酸の噴霧圧を0.2MPaにした以外は実施例1と同じ方法により洗浄した。クエン酸と精製水による洗浄及び水切りが終了した約25℃のバイアル20を、30分以内にバーナーヒーター23を備えた加熱炉有効長5mの除歪炉24に搬送し(
図2における(12)除歪工程)、除歪炉内の目標最高雰囲気温度が685℃となるように制御して25分間除歪処理(雰囲気温度が685℃以上である時間は180秒で、ガラス容器の実際の温度は685〜700℃で、ガラス容器の実際の温度が685〜700℃である時間が60秒)を行った本発明の実施例3−1と実施例3−2のガラス容器と、クエン酸と精製水による洗浄及び水切りを行わなかった以外は同じ処理をした比較例3−1と比較例3−2のガラス容器とを得、これらのガラス容器を常温まで放冷した。その後、各ガラス容器に一定濃度の低分子(分子量が100以下)アミン溶液を注入し、低分子アミン溶液の注入直後(5分以内)と、1週間後と、1カ月後と、3カ月後において、ガラス容器内のアミン濃度(%)を赤外分光光度計により測定した。その結果を以下の表9(低分子アミン溶液Aの場合)と表10(低分子アミン溶液Bの場合)に示す。低分子アミン溶液Aは、一級アミンであるメチルアミン化合物溶液をいい、低分子アミン溶液Bは、三級アミンであるトリエチルアミン化合物溶液をいう。
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
赤外分光光度計により測定した容器内のアミン溶液のアミン濃度が低いということは、容器の内表面に多く存在するフリーラジカルと溶液中のアミンが結合したことによって溶液中のアミンが減少したことを示す。逆に、赤外分光光度計により測定した容器内のアミン溶液のアミン濃度が高いということは、ガラス容器の内表面にフリーラジカルが存在しないので、溶液中のアミンは温存され、最初の注入時の状態を維持するか、最初の注入時の状態に極めて近いことを示す。このように、ガラス容器内のアミン溶液のアミン濃度の変化を知ることによって、間接的にガラス容器の内表面のフリーラジカルの存在を推定することが可能である。表9と表10に示すように、本発明の硼珪酸ガラス容器は、低分子アミン溶液の注入直後(5分以内)における、容器内のアミン溶液のアミン濃度は100%であるから、本発明の硼珪酸ガラス容器の内表面にはフリーラジカルが存在しないことが分かる。
【0087】
また、実施例3−1と3−2のガラス容器の胴部内面と、比較例3−1と3−2のガラス容器の胴部内面とを走査型電子顕微鏡で観察した結果、実施例3−1と3−2のガラス容器の胴部内面に分相は見られなかったが、比較例3−1と3−2のガラス容器の胴部内面には、
図6(b)に示すような分相が見られたことを確認した。