特許第6768198号(P6768198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6768198無機粉体用分散剤の製造方法および無機粉体用分散剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768198
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】無機粉体用分散剤の製造方法および無機粉体用分散剤
(51)【国際特許分類】
   B01F 17/52 20060101AFI20201005BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20201005BHJP
   C04B 35/634 20060101ALI20201005BHJP
   C08F 216/16 20060101ALI20201005BHJP
   C08F 222/02 20060101ALI20201005BHJP
   C08F 222/04 20060101ALI20201005BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20201005BHJP
   C08F 4/04 20060101ALI20201005BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20201005BHJP
   C08L 29/10 20060101ALI20201005BHJP
   C08L 55/00 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   B01F17/52
   C08F290/06
   C04B35/634
   C08F216/16
   C08F222/02
   C08F222/04
   C08F8/44
   C08F4/04
   C08K3/00
   C08L29/10
   C08L55/00
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-42370(P2017-42370)
(22)【出願日】2017年3月7日
(65)【公開番号】特開2018-143969(P2018-143969A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】岡林 善司
(72)【発明者】
【氏名】小田 和裕
(72)【発明者】
【氏名】松井 龍也
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−072870(JP,A)
【文献】 特開2007−261911(JP,A)
【文献】 特開2016−168584(JP,A)
【文献】 特表2006−521193(JP,A)
【文献】 特開2004−290839(JP,A)
【文献】 特開2009−161621(JP,A)
【文献】 特開2000−159973(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103910832(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101601381(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 17/00−17/56
C04B 35/634
C08F 4/04
C08F 8/44
C08F 216/16
C08F 222/02
C08F 222/04
C08F 290/06
C08K 3/00
C08L 29/10
C08L 55/00
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体用分散剤を製造する方法であって、
(a) 下記式(1)で示されるポリオキシアルキレン誘導体と、(b)マレイン酸系化合物とを、(c)水溶性アゾ系重合開始剤の存在下に重合させることによって、重量平均分子量が3,000〜14,000のポリカルボン酸系共重合体からなる無機粉体用分散剤を得ることを特徴とする、無機粉体用分散剤の製造方法。

R1O(AO)nR2 ・・・・(1)

(式(1)中、
R1は炭素数1〜4の炭化水素基を示し、
R2は炭素数2〜5の不飽和炭化水素基を示し、
AOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基を示し、
nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数であって、1〜100を示す。)
【請求項2】
前記水溶性アゾ系重合開始剤が、アゾアミド系重合開始剤、アゾアミジン系重合開始剤およびアゾイミダゾリン系重合開始剤からなる群から選ばれた少なくとも一種の重合開始剤であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
重量平均分子量が3,000〜14,000のポリカルボン酸系共重合体からなる無機粉体用分散剤であって、前記ポリカルボン酸系共重合体が、(a)下記式(1)で示されるポリオキシアルキレン誘導体に由来する構造単位と、(b)マレイン酸系化合物に由来する構造単位とを有しており、(c)水溶性アゾ系重合開始剤の存在下に得られたことを特徴とする、無機粉体用分散剤。

R1O(AO)nR2 ・・・・(1)

(式(1)中、
R1は炭素数1〜4の炭化水素基を示し、
R2は炭素数2〜5の不飽和炭化水素基を示し、
AOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基を示し、
nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数であって、1〜100を示す。)
【請求項4】
前記水溶性アゾ系重合開始剤が、アゾアミド系重合開始剤、アゾアミジン系重合開始剤およびアゾイミダゾリン系重合開始剤からなる群から選ばれた少なくとも一種の重合開始剤であることを特徴とする、請求項3記載の無機粉体用分散剤。
【請求項5】
請求項3または4記載の無機粉体用分散剤、分散媒および無機粉体を含有する分散組成物であって、前記無機粉体100質量部に対して前記無機粉体用分散剤を0.5〜20質量部含有することを特徴とする分散組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粉体を溶媒中に分散させることができる無機粉体用分散剤、および無機粉体用分散剤を含有する分散組成物に関する。さらに詳しくは、極めて微細な無機粉体を水中に分散させることができるとともに、優れた分散安定性を付与することができる無機粉体用分散剤、および無機粉体用分散剤を含有する分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
無機粉体は種々の産業分野で利用されており、塗料や研磨剤、電子部品などの材料として用いられている。無機粉体としては例えば酸化アルミニウムやチタン酸バリウム等が挙げられる。これら無機粉体を材料として用いる場合、初期工程にて無機粉体粒子を細かく均一にするために、ボールミル等の粉砕機中で機械粉砕を繰り返す粉砕処理が施される。一般的に無機粉体を粉砕処理する際、水中に無機粉体を均一に分散させ、分散組成物を調製する。このような手法によって粉砕処理された無機粉体は、積層セラミックコンデンサの誘電体層、半導体基板、センサー、液晶表示素子等の電子部品に利用されている。
【0003】
分散組成物を調製する際、無機粉体は単独では分散性が不十分な場合が多く、無機粉体を水中に短時間で分散させるとともに、長時間にわたって凝集することなく、安定な分散状態を維持させるための分散剤が使用される。
【0004】
このような分散剤として、これまで多くの高分子界面活性剤、例えばポリアクリル酸やこれらの共重合体の塩、無水マレイン酸とα−オレフィンとの共重合体の塩などが提案されている。
【0005】
近年では、各種電子部品の開発が著しい進展を見せており、高性能化や小型化、高容量化が求められている。これら要求を満たすべく、無機粉体の微粒子化が求められており、サブミクロンないしナノサイズの極めて微細な粉体を使用する。また、無機粉体の微粒子化に伴い、粉体表面積増加による凝集力増加により、分散組成物中で粉体同士が凝集しやすくなる。その結果、従来のポリアクリル酸等の高分子界面活性剤系の分散剤は十分な分散性が発揮されない課題がある。
【0006】
これらの課題を解決するために、ポリオキシアルキレン誘導体とマレイン酸系化合物からなる共重合体が提案されている(特許文献1)。当該共重合体により、微粒子化された無機粉体に対して安定に分散することは、ある程度可能になった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−261911
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般に無機粉体を微粒子化するには、無機粉体の粗い粒子をボールミル等の粉砕機中で機械粉砕を繰り返し行うことによって実施されている。その際、分散剤を共存させて、無機粉体の微粒子化と分散を同時に行わせている。しかし、特許文献1記載の共重合体を使用しても、粉砕性が不十分で無機粉体の微粒子化が十分に進まず、長時間の粉砕処理が必要になる場合があった。また、一旦、微粒子にまで粉砕できたとしても、再凝集を起こして、粒子径が十分に小さくならなかったり、分散液として安定性を十分に保有するものでなかったりするという問題があった。
【0009】
このように粉砕性や分散安定性が不十分な分散組成物では、生産性やハンドリング性の低下を招くだけでなく、最終製品である電子部品の良品率低下の恐れがあり、粉砕性および分散安定性ともに良好な無機粉体用分散剤が望まれていた。
【0010】
本発明の課題は、微細な無機粉体に対して短時間でも効率よく細かく粉砕することができ、かつ分散安定性に優れた分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定成分から構成されるポリカルボン酸系共重合体を分散剤として用いることで、極めて微細な無機粉体に対して優れた分散効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のものである。
(1) 無機粉体用分散剤を製造する方法であって、
(a) 下記式(1)で示されるポリオキシアルキレン誘導体と、(b)マレイン酸系化合物とを、(c)水溶性アゾ系重合開始剤の存在下に重合させることによって、重量平均分子量が3,000〜14,000のポリカルボン酸系共重合体からなる無機粉体用分散剤を得ることを特徴とする、無機粉体用分散剤の製造方法。

R1O(AO)nR2 ・・・・(1)

(式(1)中、
R1は炭素数1〜4の炭化水素基を示し、
R2は炭素数2〜5の不飽和炭化水素基を示し、
AOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基を示し、
nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数であって、1〜100を示す。)
【0013】
(2) 前記水溶性アゾ系重合開始剤が、アゾアミド系重合開始剤、アゾアミジン系重合開始剤およびアゾイミダゾリン系重合開始剤からなる群から選ばれた少なくとも一種の重合開始剤であることを特徴とする、(1)の方法。
【0014】
(3) 重量平均分子量が3,000〜14,000のポリカルボン酸系共重合体からなる無機粉体用分散剤であって、前記ポリカルボン酸系共重合体が、(a)下記式(1)で示されるポリオキシアルキレン誘導体に由来する構造単位と、(b)マレイン酸系化合物に由来する構造単位とを有しており、(c)水溶性アゾ系重合開始剤の存在下に得られたことを特徴とする、無機粉体用分散剤。

R1O(AO)nR2 ・・・・(1)

(式(1)中、
R1は炭素数1〜4の炭化水素基を示し、
R2は炭素数2〜5の不飽和炭化水素基を示し、
AOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基を示し、
nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数であって、1〜100を示す。)
【0015】
(4) 前記水溶性アゾ系重合開始剤が、アゾアミド系重合開始剤、アゾアミジン系重合開始剤およびアゾイミダゾリン系重合開始剤からなる群から選ばれた少なくとも一種の重合開始剤であることを特徴とする、(3)の無機粉体用分散剤。
【0016】
(5) (3)または(4)の無機粉体用分散剤、分散媒および無機粉体を含有する分散組成物であって、
前記無機粉体100質量部に対して前記無機粉体用分散剤を0.5〜20質量部含有することを特徴とする、分散組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、無機粉体粗粒子を効率よく粉砕できるだけでなく、微細に粉砕した粒子の凝集を防ぐことができる。また、微細な無機粉体を用いた場合でも、粉体同士の凝集による分散不良を生じることなく、分散安定性に優れる分散組成物を提供することができる。
【0018】
更に、本発明の分散剤は、水溶性アゾ系重合開始剤を用いて重合させたものであるが、他の種類の重合開始剤や非水溶性アゾ系重合開始剤を用いて得られた重合体と客観的に物性が異なっており、製法的な規定に適するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、更に詳細に説明する。
本発明では、(a) 式(1)で示されるポリオキシアルキレン誘導体と、(b)マレイン酸系化合物とを、(c)水溶性アゾ系重合開始剤の存在下に重合させることによって、重量平均分子量が3,000〜14,000のポリカルボン酸系共重合体からなる無機粉体用分散剤を得る。
【0020】
((a)成分)
(a)成分は、式(1)で表されるポリオキシアルキレン誘導体である。

R1O(AO)nR2 [1]
【0021】
ここで、Rは、炭素数1〜4の炭化水素基を示し、直鎖状及び分枝状のいずれの形態であってもよい。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられ、中でも好ましくは、直鎖状のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、更に好ましくはメチル基である。
【0022】
は、炭素数2〜5の不飽和炭化水素基を示し、直鎖状及び分枝状のいずれの形態であってもよい。Rとして、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、メタリル基、3−ブテニル基などが挙げられ、中でも、炭素数3〜4の不飽和炭化水素基が好ましく、アリル基、メタリル基がより好ましい。
【0023】
AOは、炭素数2〜3のオキシアルキレン基を示す。オキシアルキレン基AOは、直鎖状及び分枝状のいずれの形態であってもよい。また、AOは1種であっても、2種であってもよく、AOが2種のとき、その付加形式はランダム状であっても、ブロック状であってもよい。AOとしては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基などが挙げられる。粉砕性、分散安定性および水溶性の観点から、オキシエチレン基が好ましい。
【0024】
nは、オキシアルキレン基AOの平均付加モル数であって、1〜100を示す。ポリオキシアルキレン誘導体は、分散剤の構造中で、粉体に吸着した際に立体反発部位として作用する。nが0であると粉砕性、分散安定性および水溶性が低い。この観点からは、nは、1以上とするが、5以上が好ましく,10以上が更に好ましい。また、nが100を超えると、粘度が高くなり、扱い難くなる。この観点からは、nを100以下とするが、60以下が好ましく、30以下が更に好ましい。
【0025】
(a)成分のポリオキシアルキレン誘導体を製造する際には、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルに不飽和炭化水素基を導入してもよく、ポリオキシアルキレンモノアルケニルエーテルに炭化水素基を導入してもよい。すなわち、炭素数が1〜4の炭化水素基を有するアルコールに炭素数2〜3のアルキレンオキシドを付加重合させた後、炭素数2〜5の不飽和炭化水素基を有するモノハロゲン化不飽和炭化水素とのエーテル化反応によりポリオキシアルキレン誘導体を得ることができる。あるいは、炭素数2〜5の不飽和炭化水素基を有するアルコールに炭素数2〜3のアルキレンオキシドを付加重合させた後、炭素数が1〜4の不飽和炭化水素基を有するモノハロゲン化不飽和炭化水素とのエーテル化反応により、ポリオキシアルキレン誘導体を得ることができる。
【0026】
ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルに不飽和炭化水素基を導入する方法に特に制限はなく、例えば、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルに水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を加え、塩化アリル、臭化アリル、ヨウ化アリル、塩化メタリル、臭化メタリルなどのモノハロゲン化不飽和炭化水素とのエーテル化反応により得ることができる。
【0027】
また、ポリオキシアルキレンモノアルケニルエーテルに炭化水素基を導入する方法についても特に制限はなく、例えば、ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル、又はポリオキシアルキレンモノメタリルエーテルに水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を加え、塩化メチル、臭化メチル、塩化ブチル、臭化ブチルなどのモノハロゲン化炭化水素とのエーテル化反応により得ることができる。
【0028】
また、(a)成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
(b)成分は、マレイン酸系化合物である。マレイン酸系化合物とは、分子中にマレイン酸構造を有する化合物である。
マレイン酸系化合物としては、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸塩およびマレイン酸エステルが挙げられる。
【0030】
マレイン酸塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩などが挙げられ、これらの塩はモノ置換体であっても、ジ置換体であってもよい。アルカリ金属塩としてはモノリチウム塩、ジリチウム塩、モノナトリウム塩、ジナトリウム塩、モノカリウム塩、ジカリウム塩などが挙げられ、アルカリ土類金属塩としてはカルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられ、アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、ジアンモニウム塩などが挙げられ、有機アミン塩としては、メチルアミン塩、ジメチルアミン塩、エチルアミン塩などのアルキルアミン塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルエタノールアミン塩などのアルカノールアミン塩などが挙げられる。マレイン酸エステルとしては、例えば、メタノール、エタノール等の飽和アルコール;アリルアルコール、メタリルアルコール等の不飽和アルコール;ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンモノメチルエーテル、ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル等のポリアルキレングリコール誘導体とのエステル化物が挙げられる。
【0031】
また、(b)成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。粉砕性および分散安定性の観点から、無水マレイン酸、マレイン酸およびマレイン酸アンモニウム塩が好ましく、マレイン酸アンモニウム塩がより好ましい。
【0032】
(c)重合開始剤は、水溶性アゾ系重合開始剤である。本発明においては、分散性に優れるポリカルボン酸系共重合体を得るために、水溶性アゾ系重合開始剤の存在下に重合を行う。
【0033】
水溶性アゾ系重合開始剤としては、アゾアミド系重合開始剤、アゾアミジン系重合開始剤およびアゾイミダゾリン系重合開始剤からなる群から選ばれた少なくとも一種の重合開始剤であることが好ましい。
【0034】
すなわち、水溶性アゾ系重合開始剤は、例えば、2, 2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩、2,
2’−アゾビス−2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−N−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−2−メチル−N−フェニルメチルプロピオンアミジン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−2−メチル−N−2−プロペニルプロピオンアミジン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−2−メチル−N−[(1,1−ビスヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミジン、2, 2’−アゾビス−2−メチル−N−[(1,1−ビスヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミジン、2, 2’−アゾビス−2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミジン、2, 2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン二水和物、2, 2’−アゾビス−N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン四水和物等のアゾアミジン化合物;2, 2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン等のアゾイミダゾリン化合物;2, 2’−アゾビス−2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン塩酸塩、2, 2’−アゾビス−2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物;2,2’−アゾビス−2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド等のアゾアミド化合物;2−カルバモイルアゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物等が挙げられる。
【0035】
粉砕性、分散安定性および水溶性の観点から、アゾアミジン化合物、アゾイミダゾリン化合物およびアゾアミド化合物が好ましく、特に2, 2’−アゾビス−N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン四水和物、2, 2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン、および2,2’−アゾビス−2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミドが好ましい。
【0036】
本発明のポリカルボン酸系共重合体は、(a)成分に由来する構成成分および(b)成分に由来する構成成分を含む。すなわち、当該共重合体は、ラジカル重合反応により(a)成分と(b)成分とが共重合することで構成されている。当該共重合体中の各単量体に由来する構成成分の配列形態は特に制限はなく、例えば、ランダム共重合であっても、交互共重合であってもよい。
【0037】
本発明のポリカルボン酸系共重合体には、その性能に影響しない範囲で共重合可能な単量体を共重合させてもよい。このような単量体としては、例えば、スチレン、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、イソブチレン、ジイソブチレン、ビニルシクロヘキサンなどのエチレン性不飽和結合を有する化合物が挙げられる。
【0038】
本発明のポリカルボン酸系共重合体中における各単量体の仕込割合は、(a)成分:(b)成分:その他単量体成分=30〜55モル%:45〜70モル%:0〜20モル%が好ましく、(a)成分:(b)成分:その他単量体成分=35〜50モル%:50〜65モル%:0〜15モル%が更に好ましい。
【0039】
本発明では、(a)成分、(b)成分、(c)重合開始剤および水を一括仕込みし、水溶液重合にてポリカルボン酸系共重合体を製造することが好ましい。ここで水溶液重合とは、水を反応溶媒とし、モノマーを水に溶解させた状態で共重合することを意味する。なお、水に加えて他の親水性溶剤を併用することもできる。また、当該共重合体中の(b)成分に由来する構成成分がマレイン酸塩である場合、例えば、(b)成分として無水マレイン酸を用いて重合反応を行い、前述の塩基化合物で処理することによりマレイン酸塩とする方が好ましい。
【0040】
モノマーを一括仕込みする際、仕込み順序は特に限定しないが、まず(a)成分と水から仕込むことが好ましい。また、仕込み時の溶液温度についても、(a)成分、(b)成分および水に関しては特に限定されないが、(a)成分の凝固点、水の沸点および凝固点を考慮して20〜80℃が好ましい。また、(c)重合開始剤の仕込み時の溶液温度は、重合反応温度よりも5〜25℃低いことが好ましく、仕込み温度としては5〜40℃が好ましい。
【0041】
重合温度は、通常45〜100℃、好ましくは50〜80℃である。この範囲よりも反応温度が低い場合は、重合反応の進行が遅く、実製造には適さない。一方、この範囲よりも反応温度が高くても重合は進行するが、粉砕性および分散安定性の観点から好ましくない。重合時間は通常5〜25時間である。
【0042】
ポリカルボン酸系共重合体の重量平均分子量(Mw)は14,000以下であり、より好ましくは12,000以下である。Mwが14,000を超えると、分散性が低下し、その性能を十分に発揮できない。本発明においては、Mwが低いほど、粉砕性および分散安定性が向上するが、Mwが3,000未満のものについては、製造上困難を伴うことがあり、Mwの下限は3,000が好ましい。
なお、本明細書において、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリエチレングリコール換算の重量平均分子量をいう。
【0043】
本発明の無機粉体用分散剤は、本発明の目的が損なわれない範囲で他の分散剤、粘度調整剤、界面活性剤、消泡剤など、従来公知の各種添加剤を含有させることができる。なお、本発明の分散剤は無機粉体の粉砕処理時に限定するものではなく、粉砕処理済み無機粉体に対しても使用することができる。
【0044】
本発明の分散組成物は、従来公知の方法に従って、無機粉体を均質に分散させることにより調製することができる。その場合、分散剤の含有量は、無機粉体の質量を100質量部としたときに、0.5〜20質量部とする。これが0.5質量部未満だと十分な粉砕性および分散安定性が得られず、20質量部を超えても含有量に見合う効果が得られないため好ましくない。分散剤の含有量は、粉砕性および分散安定性の観点から、好ましくは0.5〜15質量部、更に好ましくは0.5〜10質量部である。
【0045】
本発明で使用される無機粉体は特に限定されないが、例えば、下記のような無機粉体が使用可能である。
すなわち、カオリン、ケイ酸アルミニウム、クレー、タルク、マイカ、ケイ酸カルシウム、セリサイト、ベントナイトなどのケイ酸塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、塩基性炭酸鉛、などの炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;ストロンチウムクロメート、ピグメントイエローなどのクロム酸塩;モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム亜鉛、モリブデン酸マグネシウムなどのモリブデン酸塩;酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化チタニウム、酸化コバルト、酸化ジルコニウム、四酸化三鉄、三酸化二鉄、四酸化三鉛、一酸化鉛、酸化クロムグリーン、三酸化タングステン、酸化イットリウムなどの金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄、メタチタン酸などの金属水酸化物;炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化ホウ素、炭化チタンなどの金属炭化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ウルトラマリン、パリスブルー、チタニウムイエロー、クロムバーミリオン、リトポン、ニッケル、銀、パラジウム、チタン酸ジルコン酸鉛などの粉末が挙げられる。
【0046】
本発明で使用される無機粉体の平均粒径はその種類によって大きく異なるが、平均粒径が100nm以下の超微粒子が好ましい。平均粒径が100nm以下の範囲内であれば、異種の粒子を2種類以上組み合わせて使用してもよい。また、無機粉体の平均粒径の下限は特にないが、一般的には10nm以上とすることができる。
なお、平均粒径(D50)は、使用する無機粉体を粒度分布計(動的光散乱法、FPAR-1000、大塚電子社製)や走査型電子顕微鏡(SEM)で測定して得る。
【0047】
本発明の分散組成物の濃度は、取扱い性、成形性、及び焼結性などの点から、無機粉体の全質量に対して通常20質量部以上、好ましくは30質量部以上であり、その上限は90質量部以下、好ましくは80質量部以下である。
【実施例】
【0048】
以下、具体例により本発明を説明する。
(GPC測定条件)
GPCシステムとしてShodex GPC-101、示差屈折検出器としてShodex RI-71Sを使用し、カラムとしてShodex OHpak
SB-802HQ、Shodex OHpak SB-806M HQおよびガードカラムを連結し、カラム温度40℃とした。0.1M塩化ナトリウム水溶液を展開溶剤として1mL/分の流速で流し、試料0.1質量部の0.1M塩化ナトリウム水溶液0.1mLを注入し、BORWIN GPC計算プログラムを用いて屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムにおいて、試料のピークを検出し、ポリエチレングリコール標準体から作成した検量線をもとに、BORWIN GPC計算プログラムを用いて重量平均分子量を求めた。
【0049】
(分散剤の調製)
(合成例1)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管を装着した1リットルフラスコに、表1のポリオキシエチレンモノアリルモノメチルエーテル150g(0.28モル)、無水マレイン酸32.2g(0.33モル)、イオン交換水121gを加えた。窒素ガス雰囲気下、重合開始剤としての2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]を7.69g(0.03モル)加え、50±5℃で16時間反応させ、ポリカルボン酸系共重合体を得た。得られたポリカルボン酸系共重合体にアンモニア水29.4g(アンモニアとして0.48モル)を加えて中和し、ポリカルボン酸アンモニウム塩とした。得られたポリカルボン酸アンモニウム塩の分子量をGPCにより測定した結果、重量平均分子量は11,000であった。
【0050】
(合成例2〜8)
表1、表2に示す原料に変更したこと以外は、合成例1と同様の方法によりポリオキシエチレンモノアリルモノメチルエーテルを用いてポリカルボン酸系共重合体を得た。なお、合成例7は反応が進行せず、ポリカルボン酸系共重合体が得られなかった。
【0051】
(合成例9)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管及び還流冷却器を装着した1リットルフラスコに、ポリオキシエチレンモノアリルモノメチルエーテル150g(0.3モル)、無水マレイン酸26.4g(0.3モル)、スチレン0.3g(0.003モル)、ドデシルメルカプタン3.3g(0.02モル)、及びトルエン30gを加えた。窒素ガス雰囲気下、重合開始剤としての2,2’-アゾビスイソブチロニトリル2.7g(0.02モル)をトルエン9gに溶解させたものを加え、85±2℃で3時間かけて滴下した。滴下終了後、更に85±2℃で3時間反応させた。減圧下にてトルエンを留去し、得られたポリカルボン酸系共重合体の分子量をGPCにより測定した結果、重量平均分子量は12,000であった。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
(分散実験1)
無機粉体として平均粒径が60nm(平均一次粒径、BET法)の酸化チタン(製品名:スーパータイタニアF−2、昭和電工セラミックス社製)を用いて、次のようにして分散組成物を得た。すなわち、50mLスクリュー管に酸化チタンを5g量り取り、これに表1に示す分散剤0.25g(無機粉体に対して5.0質量部)、イオン交換水11.7g、ジルコニアビーズ(φ1mm)15g(無機粉体に対して3倍量)を加え、小型ボールミル機を用いて350±5rpmで混合・粉砕した。混合・粉砕時間1時間および8時間の条件で得られた分散組成物の25℃における粒度分布を測定した。粒度分布は粒度分布計(動的光散乱法、FPAR-1000、大塚電子社製)を用いて測定し、D50(平均粒径値)にて評価を行った。また、その分散組成物を室温にて1週間静置し、分散組成物の沈降の有無を目視にて評価した。結果を表3に示す。
【0055】
なお、粉砕性および分散安定性の評価基準は下記のとおりである。
(粉砕性評価基準)
分散剤無添加、未粉砕条件のD50:1000nmに対する比率によって以下のように評価した。

◎: 25%(D50:250nm)以下で、粉砕性が非常に良好。
○: 26〜50%(D50:260〜500nm)で、粉砕性が良好。
×: 51%(D50:510nm)以上で、粉砕性が悪い。
【0056】
(分散安定性評価基準)

○: 分散組成物の沈降がなく、分散安定性が良好。
×: 分散組成物の沈降があり、分散安定性が悪い。
【0057】
【表3】

【0058】
(分散実験2)
無機粉体として平均粒径が30nm(平均一次粒径、BET法)の酸化チタン(製品名:スーパータイタニアF−4A、昭和電工セラミックス社製)を使用し、分散剤添加量を0.50g(無機粉体に対して10質量部)とした以外は、分散実験1と同様の方法により分散組成物を得た。混合・粉砕時間1時間および8時間の条件で得られた分散組成物の25℃における粒度分布を測定した。結果を表4に示す。
【0059】
なお、粉砕性および分散安定性の評価基準は下記のとおりである。
(粉砕性評価基準)
分散剤無添加、未粉砕条件のD50:750nmに対する比率によって評価した。

◎: 25%(D50:190nm)以下で、粉砕性が非常に良好。
○: 26〜50%(D50:200〜370nm)で、粉砕性が良好。
×: 51%(D50:380nm)以上で、粉砕性が悪い。
【0060】
(分散安定性評価基準)

○: 分散組成物の沈降がなく、分散安定性が良好。
×: 分散組成物の沈降があり、分散安定性が悪い。
【0061】
【表4】

【0062】
本発明に係る合成例1〜5の化合物を添加した実施例1〜10の分散組成物は、いずれも良好な粉砕性を示しており、かつ分散組成物の沈降も確認されなかった。
【0063】
重合開始剤として、非水溶性の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)を用いた合成例6の化合物は、D50が大きく粉砕性が悪く、さらに分散組成物の沈降も見られ、実施例と比較して分散性が劣っていた。
【0064】
重合開始剤として、アゾ系ではないt−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートを用いた合成例8の化合物は、混合8時間で粉砕性が良好であるが、分散組成物の沈降が見られ、実施例と比較して分散性が劣っていた。
【0065】
重合開始剤として、非水溶性の2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを用いた合成例9の化合物は、混合8時間で粉砕性が良好であるが、分散組成物の沈降が見られ、実施例と比較して分散性が劣っていた。
【0066】
上記の実施例と比較例の結果から、本発明の分散剤が、極めて微細な無機粉体に対して、粉砕性が良好であり、かつ長時間経過しても分散安定性に優れていることがわかる。