(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768216
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】板ガラス製造方法、清澄容器及び板ガラス製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 5/225 20060101AFI20201005BHJP
【FI】
C03B5/225
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-244309(P2016-244309)
(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公開番号】特開2018-95535(P2018-95535A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】塚本 晃之
【審査官】
有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/050824(WO,A1)
【文献】
特開2000−128548(JP,A)
【文献】
特開2014−094843(JP,A)
【文献】
特開昭54−081321(JP,A)
【文献】
特開平10−095627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を溶解槽にて溶解して溶融ガラスを生成する溶解工程と、白金又は白金合金により構成される清澄容器に前記溶融ガラスを通過させることにより脱泡する清澄工程と、前記清澄工程後の前記溶融ガラスを成形槽により板ガラスとして成形する成形工程と、を備える板ガラス製造方法において、
前記清澄容器は、前記溶融ガラスを上流から下流へと移送する中空状の本体部と、前記本体部に間隔をおいて配置される複数の仕切板と、を備え、
前記本体部は、その上部に設けられるとともに前記溶融ガラス中に発生するガスを排出するベント部を備え、
前記仕切板は、その上部に設けられるとともに前記ガスによる泡を通過させる第一開口部と、前記第一開口部の下方位置に設けられるとともに前記溶融ガラスを通過させる第二開口部と、を備え、
前記清澄容器内に気相空間が形成されないように、前記本体部の内面全てに前記溶融ガラスを接触させながら前記清澄工程を実行することを特徴とする、板ガラス製造方法。
【請求項2】
前記本体部の内面全てに前記溶融ガラスを接触させるべく、前記溶解槽における前記溶融ガラスの液面が、前記本体部における内面の頂部よりも上方位置に設定される、請求項1に記載の板ガラス製造方法。
【請求項3】
溶融ガラスを上流から下流へと移送する中空状の本体部と、前記本体部に間隔をおいて配置される複数の仕切板と、を備え、かつ白金又は白金合金により構成されてなる清澄容器であって、
前記本体部は、その上部に前記溶融ガラス中に発生するガスを排出するベント部を備え、
前記仕切板は、その上部に設けられるとともに前記ガスによる泡を通過させる第一開口部と、前記第一開口部の下方位置に設けられるとともに前記溶融ガラスを通過させる第二開口部とを備え、
前記第一開口部は、前記仕切板の上部に形成される凹部であることを特徴とする、清澄容器。
【請求項4】
前記ベント部よりも上流側であって、かつ前記ベント部の直近に位置する前記仕切板と、前記ベント部との距離が10mm以上300mm以下である、請求項3に記載の清澄容器。
【請求項5】
前記ベント部よりも下流側であって、かつ前記ベント部の直近に位置する前記仕切板と、前記ベント部との距離が10mm以上300mm以下である、請求項3又は4に記載の清澄容器。
【請求項6】
前記仕切板の前記第一開口部は、前記仕切板の幅方向における中心部よりも前記幅方向の一方側にオフセットされてなる、請求項3から5のいずれか一項に記載の清澄容器。
【請求項7】
前記複数の仕切板は、その幅方向の中心部から前記幅方向の一方側にオフセットされた第一開口部を有する第一仕切板と、その幅方向の中心部から前記幅方向の他方側にオフセットされた第一開口部を有する第二仕切板とを含む、請求項3から5のいずれか一項に記載の清澄容器。
【請求項8】
前記複数の仕切板は、前記ベント部よりも上流側に位置する、請求項3、4、6、7のいずれか一項に記載の清澄容器。
【請求項9】
前記複数の仕切板の全てに前記第一開口部が形成されてなる、請求項3から8のいずれ一項に記載の清澄容器。
【請求項10】
前記複数の仕切板よりも下流側に配置されるとともに、前記第一開口部が形成されない仕切板をさらに備える、請求項3に記載の清澄容器。
【請求項11】
ガラス原料を溶解して溶融ガラスを生成する溶解槽と、請求項3から10のいずれか一項に記載の清澄容器と、前記溶融ガラスを板ガラスに成形する成形槽とを備える板ガラス製造装置において、
前記溶解槽における前記溶融ガラスの液面が、前記本体部の内面の頂部よりも上方位置に設定されることを特徴とする、板ガラス製造装置。
【請求項12】
ガラス原料を溶解して溶融ガラスを生成する溶解槽と、白金又は白金合金により構成されてなる清澄容器と、前記溶融ガラスを板ガラスに成形する成形槽とを備える板ガラス製造装置において、
前記清澄容器は、前記溶融ガラスを上流から下流へと移送する中空状の本体部と、前記本体部に間隔をおいて配置される複数の仕切板と、を備え、
前記本体部は、その上部に前記溶融ガラス中に発生するガスを排出するベント部を備え、
前記仕切板は、その上部に設けられるとともに前記ガスによる泡を通過させる第一開口部と、前記第一開口部の下方位置に設けられるとともに前記溶融ガラスを通過させる第二開口部とを備え、
前記溶解槽における前記溶融ガラスの液面が、前記本体部の内面の頂部よりも上方位置に設定されることを特徴とする、板ガラス製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラスを製造する方法、この方法に使用される清澄容器、及びこの清澄容器を含む板ガラス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイには、板ガラスが使用される。近年、スマートフォンやタブレット型端末の登場により、フラットパネルディスプレイの薄型化及び軽量化と共に、高精細化が進んでおり、これに伴い、板ガラスの薄板化も推進されている。ガラス基板の材質としては、変形や重力たわみが小さく、高温プロセスでの寸法安定性に優れる無アルカリガラスが好適に使用される。
【0003】
板ガラスは、溶解工程、清澄工程、均質化工程、成形工程等の各工程を経て薄板状に形成される。例えば特許文献1には、白金あるいは白金合金で構成される清澄容器中において、気相空間が形成された状態で前記溶融ガラスを通過させる間、溶融ガラスを加熱することにより、この溶融ガラスから気相空間に泡を放出させる脱泡処理を行う清澄工程を含む板ガラスの製造方法が開示されている。清澄容器の上部には、清澄容器内の気相空間に連通するとともに気相空間のガスを外部に排出するためのベント部(通気管)が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−028734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の板ガラス製造方法では、清澄容器内の気相空間が高温になり、清澄容器の内面における揮発損耗が生じ易くなるという問題がある。また、清澄容器内のガスがベント部から排出される際に、ガスに含まれる白金の揮発成分が冷却され、凝固して溶融ガラス中に混入し、板ガラスの品質を低下させるおそれがあった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、溶融ガラスの脱泡処理を良好に行うとともに、高品質な板ガラスを製造することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、ガラス原料を溶解槽にて溶解して溶融ガラスを生成する溶解工程と、白金又は白金合金により構成される清澄容器に前記溶融ガラスを通過させることにより脱泡する清澄工程と、前記清澄工程後の前記溶融ガラスを成形槽により板ガラスとして成形する成形工程と、を備える板ガラス製造方法において、前記清澄容器は、前記溶融ガラスを上流から下流へと移送する中空状の本体部と、前記本体部に間隔をおいて配置される複数の仕切板と、を備え、前記本体部は、その上部に設けられるとともに前記溶融ガラス中に発生するガスを排出するベント部を備え、前記仕切板は、その上部に設けられるとともに前記ガスによる泡を通過させる第一開口部と、前記第一開口部の下方位置に設けられるとともに前記溶融ガラスを通過させる第二開口部と、を備え、前記清澄容器内に気相空間が形成されないように、前記本体部の内面全てに前記溶融ガラスを接触させながら前記清澄工程を実行することを特徴とする。
【0008】
かかる方法によれば、清澄工程を実行する場合に、清澄容器における本体部の内部空間全てに溶融ガラスが満たされることで、本体部の内面と溶融ガラスとの間に気相空間が形成されなくなる。また、本体部内に設けられる仕切板は、溶融ガラス中に発生するガスによる泡を第一開口部に通過させ、ベント部に向かって誘導できる。これにより、従来のように高温の気相空間において本体部の内面から白金が揮発することを防止できる。よって、溶融ガラスへの白金の混入を防止して溶融ガラスの脱泡処理を良好に行うとともに、高品質な板ガラスを製造することが可能になる。
【0009】
上記の場合において、前記本体部の内面全てに前記溶融ガラスを接触させるべく、前記溶解槽における前記溶融ガラスの液面が、前記本体部における内面の頂部よりも上方位置に設定されることが望ましい。これにより、溶融ガラスを本体部における内面の頂部まで到達させ、本体部の内面と溶融ガラスとの間に気相空間を形成することなく清澄工程を実行できる。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、溶融ガラスを上流から下流へと移送する中空状の本体部と、前記本体部に間隔をおいて配置される複数の仕切板と、を備え、かつ白金又は白金合金により構成されてなる清澄容器であって、前記本体部は、その上部に前記溶融ガラス中に発生するガスを排出するベント部を備え、前記仕切板は、その上部に設けられるとともに前記ガスによる泡を通過させる第一開口部と、前記第一開口部の下方位置に設けられるとともに前記溶融ガラスを通過させる第二開口部とを備えることを特徴とする。
【0011】
清澄工程を実行するにあたり、溶融ガラス中に発生する泡をベント部に誘導させる必要がある。本発明では、清澄容器は、仕切板の上部に形成される第一開口部に泡を通過させることにより、この泡をベント部へと確実に誘導でき、溶融ガラスの脱泡処理を良好に行うことができる。
【0012】
上記構成の清澄容器では、前記ベント部よりも上流側であって、前記ベント部の直近に位置する前記仕切板と、前記ベント部との距離が10mm以上300mm以下であることが望ましい。また、前記ベント部よりも下流側であって、前記ベント部の直近に位置する前記仕切板と、前記ベント部との距離が10mm以上300mm以下であることが望ましい。上記のようにベント部と仕切板とを適切な距離に離間させることで、溶融ガラス中の泡をベント部に好適に誘導できる。
【0013】
上記の構成の清澄容器において、前記仕切板の前記第一開口部は、前記仕切板の幅方向における中心部よりも前記幅方向の一方側にオフセットされてなることが望ましい。また、前記複数の仕切板は、その幅方向の中心部から前記幅方向の一方側にオフセットされた第一開口部を有する第一仕切板と、その幅方向の中心部から前記幅方向の他方側にオフセットされた第一開口部を有する第二仕切板とを含むことが望ましい。
【0014】
前記複数の仕切板は、前記ベント部よりも上流側に位置することが望ましい。また、前記複数の仕切板の全てに前記第一開口部が形成されることが望ましい。
【0015】
また、本発明に係る清澄容器では、前記第一開口部は、前記複数の前記仕切板の上部に形成される凹部であってもよい。
【0016】
本発明に係る清澄容器は、前記複数の仕切板よりも下流側に配置されるとともに、前記第一開口部が形成されない仕切板をさらに備えてもよい。このように最も下流側に第一開口部が形成されない仕切板を配置することにより、溶融ガラスを清澄容器から次工程へと移送する際に、溶融ガラスに生じる泡が溶融ガラスとともに次工程へと移送されることを防止できる。
【0017】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであり、ガラス原料を溶解して溶融ガラスを生成する溶解槽と、上記の清澄容器と、前記溶融ガラスを板ガラスに成形する成形槽とを備える板ガラス製造装置において、前記溶解槽における前記溶融ガラスの液面が、前記本体部の内面の頂部よりも上方位置に設定されることを特徴とする。
【0018】
かかる構成によれば、清澄工程を実行する場合に、清澄容器の本体部の内部空間全てに溶融ガラスを充満させることができる。このため、本体部の内面と溶融ガラスとの間に気相空間が形成されない。したがって、従来のように高温の気相空間により本体部の内面において白金が揮発することがなくなる。これにより、揮発した白金が溶融ガラスに混入する事態を防止して溶融ガラスの脱泡処理を良好に行うとともに、高品質な板ガラスを製造することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶融ガラスの脱泡処理を良好に行うとともに、高品質な板ガラスを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】板ガラス製造装置の全体構成を示す側面図である。
【
図7】清澄容器及び溶解槽を並べて示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図10は、本発明における板ガラス製造装置及び板ガラス製造方法の一実施形態を示す。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る板ガラス製造装置は、上流側から順に、溶解槽1と、清澄容器2と、均質化槽(攪拌槽)3と、状態調整槽4と、成形槽5と、各槽1〜5を連結するガラス供給路6a〜6dとを備える。この他、板ガラス製造装置は、成形槽5により成形された板ガラスGRを徐冷する徐冷炉(図示せず)及び徐冷後に板ガラスGRを切断する切断装置(図示せず)を備え得る。
【0023】
溶解槽1は、投入されたガラス原料を溶解して、溶融ガラスGMを得る溶解工程を行うための容器である。溶解槽1は、ガラス供給路6aによって清澄容器2に接続されている。清澄容器2は、溶解槽1から供給された溶融ガラスGMを清澄剤等の作用により脱泡する清澄工程を行うための容器である。清澄容器2は、ガラス供給路6bによって均質化槽3に接続されている。
【0024】
均質化槽3は、清澄された溶融ガラスGMを攪拌翼等により攪拌し、均一化する均質化工程を行うための容器である。均質化槽3は、ガラス供給路6cによって状態調整槽4に接続されている。状態調整槽4は、溶融ガラスGMを成形に適した状態に調整する状態調整工程を行うための容器である。状態調整槽4は、ガラス供給路6dによって成形槽5に接続されている。
【0025】
成形槽5は、溶融ガラスGMを所望の形状に成形するための容器である。本実施形態では、成形槽5は、オーバーフローダウンドロー法によって溶融ガラスGMを板状に成形する。詳細には、成形槽5は、断面形状(
図1の紙面と直交する断面形状)が略楔形状を成しており、この成形槽5の上部には、オーバーフロー溝(図示せず)が形成されている。
【0026】
成形槽5は、ガラス供給路6dによって溶融ガラスGMがオーバーフロー溝に供給された後、溶融ガラスGMをオーバーフロー溝から溢れ出させて、成形槽5の両側の側壁面(紙面の表裏面側に位置する側面)に沿って流下させる。成形槽5は、流下させた溶融ガラスGMを側壁面の下頂部で融合させ、板状に成形する。
【0027】
成形された板ガラスGRは、例えば、厚みが0.01〜10mmであって、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などの基板や保護カバーに利用される。なお、成形槽5は、スロットダウンドロー法などの他のダウンドロー法を実行するものであってもよい。
【0028】
以下、清澄容器2の具体的構成について、
図2乃至
図10を参照しながら説明する。清澄容器2は、溶融ガラスGMを上流から下流へと移送する中空状の本体部7と、本体部7内に間隔をおいて配置される複数の仕切板8と、本体部7を加熱する加熱部9とを備える。本体部7、仕切板8及び加熱部9はいずれも白金又は白金合金により所定の形状に構成される。
【0029】
本体部7は、所定の長さを有する円筒状に構成されるが、この形状に限定されるものではなく、中空状で内部に溶融ガラスGMを流動させる空間を備えていればよい。本体部7における長手方向の一端部(上流側端部)には、溶解槽1と当該本体部7とを接続するガラス供給路6aが接続されている。本体部7の長手方向の他端部(下流側端部)には、均質化槽3と本体部7とを接続するガラス供給路6bが接続されている。
【0030】
本体部7は、溶融ガラスGM中に発生するガスを排出するためのベント部7a(通気管)を備える。ベント部7aは、本体部7の上部から上方に突出するように設けられる。ベント部7aは、筒状(例えば円筒状)に構成されるとともに、本体部7の上部外面に固定され、本体部7の内部と連通している。ベント部7aは、本体部7と同様に白金又は白金合金により構成される。
【0031】
本体部7は、複数の筒状体7bを有する。本体部7は、筒状体7bと仕切板8とを交互に連結してなる。筒状体7bは円筒状に構成されるが、この形状に限定されない。ベント部7aは、複数の筒状体7bの一つに一体的に形成される。
【0032】
仕切板8は、円板状に構成されるが、この形状に限定されず、本体部7の形状に応じて適切な形状に構成される。仕切板8は、その表面の一部が本体部7における筒状体7bの端面に固定されている。仕切板8の直径は、本体部7における筒状体7bの外径と同一に設定される。
【0033】
以下、複数の仕切板8のうち、ベント部7aの上流側であって、当該ベント部7aの直近に位置する仕切板(以下「第一仕切板」という)8a、及びベント部7aの下流側であって、当該ベント部7aの直近に位置する仕切板(以下「第二仕切板」という)8bを例として、
図3乃至
図6を参照しながら説明する。
【0034】
なお、以下の説明では、各仕切板8の中心部Oを通る垂線を「第一中心線」(符号Y1で示す)といい、仕切板8の中心部Oを通る水平線を「第二中心線」(符号X1で示す)という。また、第一中心線Y1に沿う方向を「上下方向」(符号Yで示す)といい、第二中心線X1に沿う方向を「幅方向」(符号Xで示す)という。また、各仕切板8において、第一中心線Y1よりも上側の部分を当該仕切板8の「上部」といい、第一中心線Y1よりも下側の部分を当該仕切板8の「下部」という。
【0035】
本体部7の長手方向において、第一仕切板8aとベント部7aとの距離D1は、10mm以上300mm以下に設定されることが望ましい。また、第二仕切板8bとベント部7aとの距離D2は、10mm以上300mm以下に設定されることが望ましい。
【0036】
第一仕切板8a及び第二仕切板8bは、その上部に設けられるとともに溶融ガラスGM中に発生するガスによる泡Bを通過させる第一開口部10と、第一開口部10の下方位置に設けられるとともに溶融ガラスGMを通過させる第二開口部11とを備える。
図3乃至
図6に示すように、第一開口部10は、仕切板8の周縁部よりも内側に形成される貫通孔である。第一開口部10は、第二開口部11よりも上方位置に形成される。第二開口部11の開口面積は、第一開口部10の開口面積よりも大きく設定される。
【0037】
第一開口部10は、主として溶融ガラスGM中に発生するガスによる泡Bを流通させるためのものである。一方、第二開口部11は、主として溶融ガラスGMを流通させるためのものである。
【0038】
第一仕切板8aの及び第二仕切板8bの第一開口部10は、
図4に示すように、中心角が約90度の扇形状に構成されるが、この形状に限定されるものではない。第一仕切板8aの第一開口部10は、
図4及び
図5に示すように、第一仕切板8aの中心部Oに対して、幅方向Xの一方側にオフセットされる。
【0039】
すなわち、第一仕切板8aの第一開口部10は、
図5に示す如く、第一中心線Y1に対して幅方向Xの一方側(
図5の紙面に対して右側)にずれた位置に形成される。また、第二仕切板8bの第一開口部10は、第二仕切板8bの中心部Oに対して幅方向Xの他方側にオフセットされている。すなわち、第二仕切板8bの第一開口部10は、
図6に示す如く、第一中心線Y1に対して幅方向Xの他方側(
図6の紙面に対して左側)にずれた位置に形成される。換言すれば、第二仕切板8bの第一開口部10は、幅方向Xにおいて、第一仕切板8aの第一開口部10とは反対側にオフセットされる。
【0040】
第一仕切板8aの第二開口部11は、正面視において楕円状に構成される。この第二開口部11の中心部は、第一仕切板8aの中心部Oと一致している。第二仕切板の第二開口部11は、当該第二仕切板8bの下部に形成される。この第二開口部11は、正面視において半円形に構成される。具体的には、第二仕切板8bの第二開口部11は、その直線部が上方に位置し、円弧部が直線部よりも下方に位置するように第二仕切板8bに形成される。この第二開口部11の中心部は、第二仕切板8bの中心部Oよりも下方にずれた位置にある。したがって、第一仕切板8aの第二開口部11と、第二仕切板8bの第二開口部11とは、正面視において、上下方向Yの位置がずれた状態となる。このように、第二開口部11の形成位置を各仕切板8(8a,8b)において異ならせることにより、本体部7を流動する溶融ガラスGMを蛇行させ、良好な脱泡処理を行うことが可能になる。
【0041】
加熱部9は、
図2に示すように、本体部7の端部の周縁を囲むように形成されるフランジ部12と、フランジ部12の上部に形成される電極部13とを備える。フランジ部12及び電極部13は、本体部7と同様に白金又は白金合金により構成される。加熱部9は、電極部13に所定の電圧を印加することにより、本体部7を直接的に加熱する。これにより、清澄容器2は、清澄工程において本体部7内を流動する溶融ガラスGMを所定温度に維持する。
【0042】
図7に示すように、溶解槽1における溶融ガラスGMの液面GSは、本体部7の内面の頂部(頂点)7cよりも上方位置又はこの頂部7cと同じ位置に設定される。その高低差Hは、0mm以上200mm以下とされるが、この範囲に限定されるものではない。この設定により、本体部7の内部空間は全て、溶解槽1から流入した溶融ガラスGMによって満たされることになる。すなわち、本体部7の内部では、当該本体部7の上部内面と溶融ガラスGMとが離間することなく、当該内面全てに溶融ガラスGMが接触することとなる(
図3参照)。このように、本体部7の内面全てに溶融ガラスGMが接触することにより、本体部7に気相空間が形成されなくなる。
【0043】
本体部7内に配置される仕切板8のうち、最も下流側に配置される仕切板8c(
図2参照)には、第一開口部10が形成されていない。この仕切板8により、溶融ガラスGM中に発生する泡Bが清澄容器2の下流側に移送されることを防止できる。
【0044】
図8乃至
図10は、仕切板8の他の例を示す。これらの例では、第一開口部10の構成が
図5、
図6に示す例とは異なる。
図8に示す例では、仕切板8の第一開口部10として、仕切板8の上端を切り欠いて成る凹部が形成されている。この凹部は、仕切板8の上縁部から仕切板8の中心部Oに向かって凹むように形成される。この例では、本体部7における筒状体7bの内面に仕切板8の周縁部を接触させることで、当該本体部7を構成することが望ましい。すなわち、仕切板8の外径は、筒状体7bの内径と同一に設定される。
【0045】
図9に示す例では、複数(二個)の第一開口部10が仕切板8に形成されている。具体的には、当該仕切板8の第一中心線Y1を挟んで一対の第一開口部10が形成されている。各第一開口部10は、仕切板8の第一中心線Y1に対して幅方向Xにオフセットされている。また、一対の第一開口部10は、第一中心線Y1に対して線対称となるように設けられる。
【0046】
図10に示す例では、第一開口部10は、半円形に構成されている。具体的には、第一開口部10の直線部分が下方位置にあり、円弧部分が上方位置にあるように仕切板8に形成される。また、第一開口部10の中心部は、仕切板8の中心部Oに対して幅方向Xにオフセットされる。すなわち、第一開口部10は、その中心部を通る垂線(中心線)Y2が、仕切板8の第一中心線Y1よりも幅方向Xの一方側(右側)にずれるように位置する。このため、第一開口部10は、仕切板8の第一中心線Y1に対して非対称となる(第一中心線Y1に対して線対称に構成されない)。
【0047】
以下、上記構成の板ガラス製造装置を使用して板ガラスGRを製造する方法について説明する。本方法は、溶解槽1にて原料ガラスを溶解させ(溶解工程)、溶融ガラスGMを得る。ガラス原料には清澄剤が配合されており、溶融ガラスGMには、この清澄剤の作用によりガス(泡)が発生する。清澄剤としては、As
2O
3、Sb
2O
3、SnO
2、Fe
2O
3、SO
3、F、Cl等を使用できる。ただし、As
2O
3及びSb
2O
3は、環境負荷物質であることからその使用を極力避けるべきであり、SnO
2を清澄剤として使用することが最も好ましい。
【0048】
清澄工程では、溶解槽1からガラス供給路6aを経て供給された溶融ガラスGMを清澄容器2における本体部7の一端部(上流)から他端部(下流)へと移動させる。本体部7は、加熱部9により加熱されることで、流動する溶融ガラスGMの温度を1300〜1500℃に維持する。この清澄工程では、清澄剤の酸化還元作用により生じたガスに起因する泡Bを浮上させる(
図3参照)。この泡Bは、溶融ガラスGMとともに各仕切板8の第一開口部10を通過し、ベント部7aに面する溶融ガラスGMの液面からガスとして放出される。ガスは、最終的にベント部7aから本体部7外へと排出される。また、ベント部7aを通過した泡Bは、ベント部7aの下流側に位置する仕切板8(第二仕切板8b)の第一開口部10を通じて逆流し、当該ベント部7aからガスとして排出され得る。
【0049】
その後、清澄(脱泡処理)が実施された溶融ガラスGMを、均質化槽3による均質化工程、及び状態調整槽4による状態調整工程を経て成形槽5に移送する。成形工程では、成形槽5により溶融ガラスGMを板ガラスGRとして成形する(
図1参照)。その後、板ガラスGRは、徐冷炉による徐冷工程、切断装置による切断工程を経て、所定寸法に形成される。あるいは、板ガラスGRは、徐冷工程後に、切断されることなくロール状に巻き取られる。
【0050】
以上説明した本実施形態に係る板ガラス製造方法によれば、清澄工程を実行する場合に、清澄容器2の本体部7の内部空間全てに溶融ガラスGMが満たされる。すなわち、溶融ガラスGMは、本体部7の内面全て(全面)に接触しながら本体部7を上流から下流へと流動する。したがって、本体部7の内面と溶融ガラスGMとの間には、気相空間は形成されない。
【0051】
このため、従来のように高温の気相空間により本体部7の内面において白金が揮発することがなくなる。これにより、従来のように揮発した白金が溶融ガラスGMに混入する事態を防止できる。また、本体部7内に設けられる仕切板8は、溶融ガラスGM中に発生する泡Bを通過させる第一開口部10を有することから、溶融ガラスGM中のガス(泡B)をこの第一開口部10を通じてベント部7aから確実に排出することができる。
【0052】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能 である。
【0053】
上記の実施形態では、仕切板8の第一開口部10を仕切板8の中心部Oよりも幅方向にオフセットした例を示したが、これに限定されない。第一開口部10は、その中心部が、仕切板8の中心部Oと幅方向Xにおいて一致するように構成されてもよい。
【0054】
上記の実施形態では、ベント部7aの上流側及び下流側に複数の仕切板8を配置した例を示したが、これに限定されない。本発明では、例えば、ベント部7aよりも上流側のみに複数の仕切板8を配置する構成を採用できる。この場合、ベント部7aの下流側に、第一開口部10を有しない仕切板8のみを配置させた構成としてもよい。
【0055】
上記の実施形態では、本体部7に一個のベント部7aを備えた清澄容器2を例示したが、この構成に限定されない。本体部7には、その長手方向に間隔をおいて複数個のベント部7aを備えてもよい。この場合において、最も下流側に位置するベント部7aよりも上流側に複数の仕切板8を配置できる。また、最も下流側に位置するベント部7aのさらに下流側に、第一開口部10及び第二開口部11を備える仕切板8を配置してもよく、第一開口部10を有していない(第二開口部11のみを有する)仕切板8のみを配置してもよい。
【0056】
上記の実施形態では、一つの溶解槽1を有する板ガラス製造装置を例示したが、本発明はこの構成に限定されない。板ガラス製造装置は、複数の溶解槽1を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 溶解槽
2 清澄容器
5 成形槽
8 仕切板
8a 第一仕切板
8b 第二仕切板
10 第一開口部
11 第二開口部
GM 溶融ガラス
GR 板ガラス