【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明の効果を具体的に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
<感熱マスク層塗工液の調製>
ε−カプロラクタム53重量部、N,N’−ビスアミノプロピルピペラジンアジペート38重量部、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンアジペート9重量部とを重合せしめて、融点139℃、比粘度1.95の三級窒素含有ポリアミドを得た。カーボンブラック分散液(AMBK−8 オリエント化学工業(株)製)と上述のようにして得られた三級窒素含有ポリアミドを固形分重量比でカーボンブラック分散液:三級窒素含有ポリアミド=63:37になるよう、メタノール・エタノール・イソプロピルアルコール混合液に溶解し、感熱マスク層塗工液を調製した。
【0046】
<分割層塗工液の調製>
下記のようにして得た各種の鹸化度および重合度を有するポリビニルアルコール(PVA505、PVA405、PVA403、PVA205、PVA−1〜7)を水・イソプロピルアルコール混合液に溶解し、分割層塗工液を調製した。
【0047】
ポリビニルアルコールPVA505、PVA405、PVA403、PVA205はクラレ(株)製のクラレポバールを使用した。
【0048】
ポリビニルアルコールPVA−1は次のようにして合成した。酢酸ビニル50重量部、メタノール60重量部を窒素置換下、60℃で重合せしめ、重合度が100に達したところで冷却して重合を停止した。次いで、未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。得られた溶液にNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加して脱酢酸し、鹸化度63モル%のポリビニルアルコールPVA−1を得た。
【0049】
ポリビニルアルコールPVA−2〜5は次のようにして合成した。ポリビニルアルコールPVA−1と同様にして酢酸ビニル50重量部、メタノール60重量部を窒素置換下、60℃で重合せしめ、重合度が300、500、700、1000に達したところで冷却して重合を停止した。次いで、未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。得られた溶液にNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加して脱酢酸し、重合度が300で鹸化度63モル%のポリビニルアルコールPVA−2、重合度が500で鹸化度63モル%のポリビニルアルコールPVA−3、重合度が700で鹸化度63モル%のポリビニルアルコールPVA−4、及び重合度が1000で鹸化度63モル%のポリビニルアルコールPVA−5を得た。
【0050】
ポリビニルアルコールPVA−6は次のようにして合成した。酢酸ビニル50重量部、メタノール60重量部を窒素置換下、60℃で重合せしめ、重合度が700に達したところで冷却して重合を停止した。次いで、未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。得られた溶液にNaOHメタノール溶液(15%濃度)を添加して脱酢酸し、鹸化度80モル%のポリビニルアルコールPVA−6を得た。
【0051】
ポリビニルアルコールPVA−7は次のようにして合成した。酢酸ビニル50重量部、メタノール60重量部を窒素置換下、60℃で重合せしめ、重合度が500に達したところで冷却して重合を停止した。次いで、未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。得られた溶液にNaOHメタノール溶液(7%濃度)を添加して脱酢酸し、鹸化度50モル%のポリビニルアルコールPVA−7を得た。
【0052】
<積層フィルムXの作製>
両面に離形処理を施した100μmのPETフィルム上に感熱マスク層塗工液を適切な種類のバーコーターを用いて塗工し、120℃で5分間乾燥し、PETフィルム上に膜厚1.5μmの感熱マスク層を積層した。この時の光学濃度は2.3であった。この光学濃度は、白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン製造(株))によって測定した。
次いで、上記感熱マスク層の上に分割層塗工液を適切な種類のバーコーターを用いて塗工し、120℃で5分間乾燥し、PETフィルム上に膜厚1.5μmの感熱マスク層と膜厚3.0μmの分割層をこの順に積層されている積層フィルムXを得た。
【0053】
<感光性樹脂層Aを有する感光性凸版印刷原版の調製>
ε−カプロラクタム53重量部、N,N’−ビスアミノプロピルピペラジンアジペート38重量部、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンアジペート9重量部とを重合せしめて、融点139℃、比粘度1.95の三級窒素含有ポリアミドを得た。得られたポリアミド55部をメタノール200重量部、水24重量部に溶解し、この溶液にメタクリル酸3重量部、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルとアクリル酸35モル%及び、メタクリル酸65モル%との反応物36部、N−エチル−p−トルエンスルホンアミド5重量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1重量部、ベンジルジメチルケタール1重量部を加え、感光性樹脂組成物溶液を得た。この感光性樹脂溶液を濃縮機に送り、110℃で濃縮して感光性樹脂組成物Aを得た。次いで、250μmのPETフィルムに接着剤を20μmコートして得た支持体フィルムの接着剤塗布面側と、前記積層フィルムXの分割層側との間に感光性樹脂組成物Aを挟み込み、110℃で加熱プレスして、全厚み950μmの感光性凸版印刷原版を作成した。
【0054】
<感光性樹脂層Bを有する感光性凸版印刷原版の調製>
N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン80部と2−メチルペンタメチレンジアミン20部をメタノール1000部に溶解した後、該ジアミン溶液にポリエチレングリコール(平均分子量600)600部とヘキサメチレンジイソシアネート369部を反応させて得られた実質的に両末端にイソシアネート基を有するウレタンオリゴマー450部を、撹拌下徐々に添加した。両者の反応は約15分で完了し、比粘度が1.75の三級窒素含有ポリエーテルウレアウレタンを得た。得られたポリエーテルウレアウレタン55.0部を、メタノール100部に65℃で加熱溶解し、N−エチルトルエンスルホン酸アミド5.0部、1,4−ナフトキノン0.03部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1部を添加してさらに30分撹拌溶解させた。その後、乳酸3.6部、グリシジルメタクリレート(GMA)2.5部、水18部、亜硫酸アンモニウム0.3部、シュウ酸0.1部、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1.0部、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピルメタクリレート(日本油脂株式会社製架橋剤ブレンマーGAM)32.5部を添加して30分撹拌溶解させた。この感光性樹脂溶液を濃縮機に送り、110℃で濃縮して感光性樹脂組成物Bを得た。次いで、250μmのPETフィルムに接着剤を20μmコートして得た支持体フィルムの接着剤塗布面側と、前記積層フィルムXの分割層側との間に感光性樹脂組成物Bを挟み込み、110℃で加熱プレスして、全厚み950μmの感光性凸版印刷原版を作成した。
【0055】
<感光性樹脂層Cを有する感光性凸版印刷原版の調製>
nyloprint(登録商標)WF95H(BASF社製)のフィルムベース上に配置された水現像可能な市販の凸版印刷板から保護フィルムを剥離した。次いで、混合比9:1のn−プロパノールと水の混合物を使用し、保護フィルムを剥離した方の面に前記積層フィルムXを積層させ、感光性凸版印刷原版を得た。
【0056】
<感光性樹脂層Dを有する感光性凸版印刷原版の調製>
TORELIEF(登録商標)WF95DT IV(東レ社製)のフィルムベース上に配置された水現像可能な市販の凸版印刷板から保護フィルムを剥離した。次いで、混合比18:1のn−プロパノールと水の混合物を使用し、保護フィルムを剥離した方の面に前記積層フィルムXを積層させ、感光性凸版印刷原版を得た。
【0057】
<印刷版の作製>
感光性凸版印刷原版から保護フィルムを剥離した後、外面ドラム型IRレーザ装置にて(C)感熱マスク層に描画した。IRレーザー装置は、CDI Spark2530(エスコグラフィックス(株)社)、ThermoFlex Narrow(Kodak(株)製)を使用した。アブレーション条件は、それぞれのレーザー装置で、上記感感熱マスク層がレーザー照射により実質上分解、蒸散される条件に設定した。描画された原版を活性光線で75秒(Philips10R、365nmにおける照度8mW/cm
2)UV露光したのち、ブラシ式洗出し機・乾燥機一体型装置(日本電子精機(株)JOWA2 SD)で2分30秒洗い出し、60℃10分の乾燥を行った。その後に、後露光として75秒(Philips10R、365nmにおける照度8mW/cm
2)UV露光し、印刷版を得た。
【0058】
実施例1〜8、比較例1〜7
表1又は表2に記載の条件に従って、上記の方法により実施例1〜8及び比較例1〜7の各印刷版を得た。そして、得られた各印刷版を以下のようにして評価した。評価結果を表1又は表2に示す。
【0059】
レーザー許容性の評価
コンピュータ製版技術に好適なレーザシステムは、印刷原版を保持する回転円筒ドラム、赤外線レーザの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含む。アブレーション条件は、感熱マスク層がレーザー照射により実質上分解、蒸散される条件に設定される。アブレーション条件は、具体的には回転円筒ドラムの回転数(レーザー照射時間)と、レーザー照射出力値(レーザーエネルギー)により設定される。好適なレーザシステムとして様々なレーザー装置が市販されているが、そのアブレーション条件や良好なレリーフを与えるアブレーション適正範囲はレーザー装置により異なる。そこで、CDI Spark2530(エスコグラフィックス(株)社)を用いて様々なアブレーション条件にてマスク描写を行った。マスク描写後の版表面を超深度レーザー微鏡で観察し、凹凸、うねり、皺などの微細な荒れの有無を確認した。判定は以下の通りに行った。
○:版表面に凹凸、うねり、皺などの荒れなし
△:版表面の一部に軽微な凹凸、うねり、皺があり。
×:版表面に凹凸、うねり、皺などの荒れが生じた
マスク描写後の版表面の状態の例として、実施例3、比較例1における顕微鏡写真を
図1、
図2に示す。
アブレーション条件:CDI Spark2530、200rpm、9W
超深度レーザー顕微鏡:KEYENCE VK−9500、観察倍率100倍
【0060】
画像再現性の評価
レーザーアブレーションによって得られた150線1%(直径19μm)のマスク層のネガ画像を用いて、以下の方法でレリーフ表面の面積再現率を計算した。なお、網点面積の測定方法は、レリーフ表面を顕微鏡で50倍に拡大し、市販の画像解析ソフトを用いて面積を測定した。画像ソフトとしは市販のものが使用できるが、画像解析ソフト A像くん(旭化成エンジニアリング社製)を用いた画像解析によって網点表面の面積を測定した。
150線1%のネガマスク層画像に対するレリーフ面積再現率(%)=(B/A)×100
A:マスク層のネガ画像の網点面積
B:レリーフの網点面積
【0061】
耐刷性の評価
版の表面が弱い場合、印刷部数を増やしていくと、微細なヒビ割れが発生する。このヒビ割れの発生有無を以下に述べる耐刷加速試験にて評価した。印刷機の運転環境は20から25℃、湿度30から40%RHで行った。印刷機は、凸輪転印刷機(三條機械P−20)を用いて1画像すべてに印圧がかかる状態に印刷版を版胴に配置する。印刷版画像の形状は直径16mmの星型で行った。印圧は、通常150〜250μm印刷物に対して押し込むところを、450μm押し込んで負荷を過剰に掛けて行った。このときの印刷速度は20〜30m/分で行った。インキは、UVインキ(T&K TOKA ベストキュアーUVカラー藍B)を使用、反射濃度計(大日本スクリーン製造DM−800)で0.6以上2.0以下になるようインキ濃度を調整した。印刷用の紙はミラーコートのタック紙(リンテック グロスPW 8K)を用いた。印刷は8000ショットまで行ない、ヒビ割れ発生が生じたものを不可として判定した。ヒビ割れ発生の評価は、印刷物に現れるヒビ跡の有無をルーペで目視観察することで判定した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1から明らかな通り、感光性樹脂層中の合成高分子化合物が三級窒素原子を含有するポリアミド又はポリエーテルウレアウレタンを含有し、かつ分割層が本発明の範囲の低鹸化低重合度のポリビニルアルコールからなる実施例1〜8は、どのアブレーション条件を用いた場合でも凹凸、うねり、皺などの荒れのない良好な印刷版を与え、レーザー許容性に優れるといえる。 又、画像再現性については、実施例1〜8の画像再現率が95〜103%と殆ど太りが見られず、特にポリビニルアルコールの鹸化度が60〜80モル%の範囲では画像再現率が95〜100%と優れた画像再現性であることが分かる。
【0065】
一方、ポリビニルアルコールの鹸化度が本発明の範囲未満の比較例3では画像再現率が92%と小さくなりすぎ、またポリビニルアルコールの鹸化度が本発明の範囲超の比較例2では画像再現率が107%と大きくなりすぎるために好ましくない。また、ポリビニルアルコールの重合度が本発明の範囲超の比較例1及びポリビニルアルコールの鹸化度が本発明の範囲超の比較例2は、アブレーション条件によって版表面に凹凸、うねり、皺などの荒れを生じた。これらの荒れは製版後のレリーフ上でも観察され、印刷性に影響をきたすものであった。ポリビニルアルコールの鹸化度が本発明の範囲未満の比較例3は、どのアブレーション条件を用いた場合でも凹凸、うねり、皺などの荒れは観察されなかった。ところが、鹸化度が低すぎるために水現像することができず、レリーフを得ることができなかった。ポリビニルアルコールの重合度が本発明の範囲未満の比較例4は、分割層塗工液の造膜性に欠け、分割層を作成することができなかった。従って、評価不可能であった。比較例5は、分割層を有さないので、均一な大気酸素条件下で適度の重合阻害を受けながら感光性樹脂層の硬化反応が進行する。よって、版表面に荒れのない良好な印刷版を与える。ところが、印刷版表面の露光硬化不足のため、印刷時に刷版表面ベタ部にヒビ割れが生じやすく、耐刷性に劣るものであった。また、感光性樹脂層中の合成高分子化合物が三級窒素原子を含有するポリアミド又はポリエーテルウレアウレタンを含有しない比較例6〜7は、軽微なものではあるが、アブレーション条件によって版表面に軽微な荒れを生じた。耐刷性も実施例の評価よりもやや劣るものであった。