(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケルイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオンを含有する前駆体水溶液に沈殿剤を添加して水酸化ニッケル、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を生成させ、該沈殿物に還元焼成処理を施して請求項1又は2に記載のCO2吸蔵還元型触媒を得ることを特徴とするCO2吸蔵還元型触媒の製造方法。
【背景技術】
【0002】
CO
2を原料としたメタン化反応は、近年の地球温暖化抑制のためのCO
2排出量削減の観点から注目されており、貴金属であるRuやベースメタル元素であるNiがCO
2を原料としたメタン化反応において高い活性を示す触媒として検討されている。
【0003】
しかしながら、原料ガスとして燃焼排ガスやバイオガスを用いた場合、これらのガスにはCO
2のほかにO
2等の反応阻害成分が含まれるため、この反応阻害成分によってCO
2の還元反応が阻害され、メタンの製造効率は必ずしも十分に高いものではなかった。このため、従来のCO
2からメタンを製造する方法においては、予め、燃焼排ガスやバイオガス等の原料ガスからCO
2を分離回収し、これを原料として用いる必要があった。ところが、燃焼排ガスやバイオガス等の原料ガスから予めCO
2を分離回収するには、熱や圧力が必要なため、外部からエネルギーを投入する必要があった。また、CO
2の分離回収装置は複雑かつサイズが大きくなるという問題があった。
【0004】
一方、特表2015−502247号公報(特許文献1)には、ハイドロタルサイトと硝酸ニッケルとを物理混合し、得られた混合物を500℃未満の温度で焼成した後、500℃以上の温度で焼成することによって得られた、MgAl
2O
4及びMgNiO
2を含有するメタン化触媒が記載されており、CO及び/又はCO
2をメタン化できることも記載されている。しかしながら、原料ガスとしてCO
2とO
2とを含有するガスを用いたメタンの製造方法において、特許文献1に記載のメタン化触媒を用いた場合、メタンを高収率で製造することは困難であった。
【0005】
また、特開2005−238131号公報(特許文献2)には、マグネシウム及びアルミニウムとともに金属ニッケル微粒子及び/又は金属鉄微粒子を含有するメタン化触媒であって、金属ニッケル微粒子及び/又は金属鉄微粒子の平均粒子径が1〜20nmであり、金属ニッケル及び/又は金属鉄の含有量がメタン化触媒に対して0.15〜60質量%であり、かつ、ニッケル及び/又は鉄の含有量がマグネシウム、アルミニウム、ニッケルの合計モル数に対して0.001〜0.52であるメタン化触媒が記載されており、このメタン化触媒が、COとH
2とを混合して反応させるメタン化反応において、幅広い温度域でCOをメタン化できることも記載されている。しかしながら、特許文献2に記載のメタン化触媒は、CO
2のメタン化を抑制することができるため、CO
2からメタンを製造するための触媒としては不向きであった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
〔CO
2吸蔵還元型触媒〕
先ず、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒について説明する。本発明のCO
2吸蔵還元型触媒は、Ni、Mg、Ca及びAlを含む複合酸化物多孔体と金属ニッケル微粒子とを含有するものである。
【0017】
前記複合酸化物多孔体において、Ni、Mg、Ca及びAlは酸化物の状態で存在しており、酸化物状態のNiは多孔体構造の形成に寄与する。また、酸化還元雰囲気が変動する条件では酸化物状態のNiの一部が金属ニッケル状態となり、メタン化活性点として作用する。Mgは金属ニッケル微粒子の微粒安定化と多孔体構造の安定化に寄与する。CaはCO
2の吸蔵サイトとして作用し、Alは高温雰囲気における多孔体構造の安定化に寄与する。一方、Caの代わりにアルカリ金属やCa以外のアルカリ土類金属が含まれていても、アルカリ金属やCa以外のアルカリ土類金属がNi、Mgと安定して複合酸化物多孔体を形成することが難しいため、本発明のような高いCO
2吸蔵還元性能を得ることが難しい。
【0018】
本発明のCO
2吸蔵還元型触媒においては、Ni、Mg、Ca及びAlが前記複合酸化物多孔体中に原子レベルで分散した状態(より好ましくは、均一に分散した状態)で存在していることが好ましい。これにより、CO
2吸蔵サイトのCaとCO
2還元活性点のNiとが近接して存在するため、CO
2を効率よく吸蔵することができ、さらに、吸蔵したCO
2を効率よく還元することができ、優れたCO
2吸蔵還元性能が得られる。なお、前記複合酸化物多孔体中のNi、Mg、Ca及びAlの分散状態は、EDX分析により得られる各元素のマッピング像及び後述するEDXスポット組成分析により確認することができる。
【0019】
また、このような複合酸化物多孔体において、Niの含有量としては、Ni、Mg、Ca及びAlの合計100at%に対して、10〜60at%が好ましく、20〜55at%がより好ましく、30〜50at%が特に好ましい。Niの含有量が前記下限未満になると、多孔体内部に保有される金属ニッケル微粒子の量が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、CO
2の吸蔵に必要なCaや多孔体構造の安定化に必要なAl、Mg等の元素が不足する傾向にある。
【0020】
また、前記複合酸化物多孔体におけるMgの含有量としては、Ni、Mg、Ca及びAlの合計100at%に対して、1〜50at%が好ましく、5〜45at%がより好ましく、10〜40at%が特に好ましい。Mgの含有量が前記下限未満になると、金属ニッケル微粒子の粒子径が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、Ni含有量が不足してメタン化活性点が不足する傾向や、Ca含有量が不足してCO
2吸蔵量が低下する傾向にある。
【0021】
さらに、前記複合酸化物多孔体におけるCaの含有量としては、Ni、Mg、Ca及びAlの合計100at%に対して、1〜40at%が好ましく、2〜30at%がより好ましく、3〜20at%が特に好ましい。Caの含有量が前記下限未満になると、多孔体内部に含まれるCO
2吸蔵サイトの量が不足してCO
2吸蔵量が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、Ni含有量が不足してメタンの生成量が低下する傾向や、Mg、Alが不足して耐久性が低下する傾向にある。
【0022】
また、前記複合酸化物多孔体におけるAlの含有量としては、Ni、Mg、Ca及びAlの合計100at%に対して、10〜40at%が好ましく、15〜35at%がより好ましく、20〜30at%が特に好ましい。Alの含有量が前記下限未満になると、多孔体構造を形成することができず、比表面積や細孔容積が低下し、十分なCO
2吸蔵還元性能が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、Ni含有量が不足してメタンの生成量が低下する傾向や、Ca含有量が不足してCO
2吸蔵量が低下する傾向にある。
【0023】
なお、複合酸化物多孔体中のNi、Mg、Ca及びAlの含有量は、CO
2吸蔵還元型触媒のSTEM写真(暗視野STEM像)において、金属ニッケル微粒子が存在しない箇所を無作為に5点以上抽出し、抽出した5点以上の測定点(各測定点の大きさ:約4nm×4nm)についてEDXスポット組成分析を行い、各元素について、前記5点以上の測定点における含有量を平均することによって求めることができる。
【0024】
また、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒において、金属ニッケル微粒子はCO
2の還元反応の活性点として作用するものである。このような金属ニッケル微粒子の平均粒子径は1〜10nmである。金属ニッケル微粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、CO
2還元時の生成物の選択性が変化すると考えられ、他方、前記上限を超えると、金属ニッケル微粒子の比表面積が低下してメタン化活性点が不足すると考えられ、いずれの場合もメタン生成量が低下する。また、CO
2還元時の生成物の選択性が安定し、金属ニッケル微粒子の比表面積が増加してメタン化活性点の量が増加すると考えられ、いずれの場合もメタン生成量が増加するという観点から、金属ニッケル微粒子の平均粒子径としては、2〜9nmが好ましく、3〜8nmがより好ましい。なお、金属ニッケル微粒子の平均粒子径は、X線回折(XRD)測定により得られるXRDスペクトルにおいて観測される2θ=51.5°付近のXRDピークに基づいて求めることができる。
【0025】
また、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒の比表面積は80m
2/g以上である。触媒の比表面積が前記下限未満になると、金属ニッケル微粒子由来のメタン化活性点やCa由来のCO
2吸蔵サイト等の多孔体内部に存在する反応点と気相中のガスとの接触性が低下する。また、多孔体内部に存在する反応点と気相中のガスとの接触性が向上するという観点から、触媒の比表面積としては、90m
2/g以上が好ましく、100m
2/g以上がより好ましい。なお、触媒の比表面積の上限としては特に制限はないが、多孔体構造の熱的安定性を確保するという観点から、500m
2/g以下が好ましく、300m
2/g以下がより好ましい。また、触媒の比表面積は、Brunauer−Emmett−Teller(BET)1点法により求めることができる。
【0026】
さらに、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒において、細孔径が100nm以上の細孔の全細孔容量は0.15cm
3/g以上である。触媒の前記細孔容量が前記下限未満になると、多孔体内部のガス拡散性が低下する。また、多孔体内部のガス拡散性の向上という観点から、触媒の前記細孔容量としては、0.17cm
3/g以上が好ましく、0.20cm
3/g以上がより好ましい。なお、触媒の前記細孔容量の上限としては特に制限はないが、多孔体構造の熱的安定性を確保するという観点から、5cm
3/g以下が好ましく、3cm
3/g以下がより好ましい。また、触媒の細孔径が100nm以上の細孔の全細孔容量は、窒素吸着等温線に基づいてBarrett Joyner Halenda(BJH)法により求めた細孔径分布から算出することができる。
【0027】
また、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒において、Niの酸化物換算の含有量としては、Ni、Mg、Ca及びAlの酸化物換算の合計量100質量%に対して、5〜80質量%が好ましく、10〜75質量%がより好ましく、15〜70質量%が特に好ましい。Niの酸化物換算の含有量が前記下限未満になると、メタン化活性点である金属ニッケル微粒子の量が不足してメタンの生成量が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、相対的にCO
2吸蔵サイトであるCaや多孔体構造の安定化に必要なMg、Alが不足する傾向にある。
【0028】
また、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒におけるMgの酸化物換算の含有量としては、Ni、Mg、Ca及びAlの酸化物換算の合計量100質量%に対して、1〜50質量%が好ましく、3〜40質量%がより好ましく、5〜30質量%が特に好ましい。Mgの酸化物換算の含有量が前記下限未満になると、多孔体構造の形成が困難となり、触媒の熱的安定性やCO
2吸蔵量が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、相対的にCO
2吸蔵サイトであるCaやメタン化活性点である金属ニッケル微粒子の量が不足する傾向にある。
【0029】
さらに、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒におけるCaの酸化物換算の含有量としては、Ni、Mg、Ca及びAlの酸化物換算の合計量100質量%に対して、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。Caの酸化物換算の含有量が前記下限未満になると、CO
2吸蔵サイトが不足してCO
2吸蔵量が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、多孔体構造の形成が困難となり、CO
2吸蔵量が低下する傾向にある。
【0030】
また、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒におけるAlの酸化物換算の含有量としては、Ni、Mg、Ca及びAlの酸化物換算の合計量100質量%に対して、1〜50質量%が好ましく、5〜45質量%がより好ましく、10〜40質量%が特に好ましい。Alの酸化物換算の含有量が前記下限未満になると、多孔体構造の形成が困難となり、触媒の比表面積や細孔容量が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、メタン化活性点である金属ニッケル微粒子やCO
2吸蔵サイトであるCaの量が不足し、CO
2吸蔵還元性能が低下する傾向にある。
【0031】
なお、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒におけるNi、Mg、Ca及びAlの酸化物換算の含有量は、蛍光X線(XRF)分析により求めることができる。
【0032】
また、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒には、貴金属が更に担持されていることが好ましい。これにより、CO
2吸蔵還元性能が更に向上する。このような貴金属としては、Ru、Pt、Pd、Rh等が挙げられる。これらの貴金属の中でも、CO
2吸蔵還元性能がより向上するという観点から、Ruが好ましい。
【0033】
〔CO
2吸蔵還元型触媒の製造方法〕
次に、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒の製造方法について説明する。本発明のCO
2吸蔵還元型触媒の製造方法は、ニッケルイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオンを含有する前駆体水溶液に沈殿剤を添加して水酸化ニッケル、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムを含有する沈殿物を生成させ、この沈殿物に還元焼成処理を施して、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒を得る方法である。
【0034】
ニッケルイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオンを含有する前駆体水溶液としては特に制限はないが、例えば、水に、ニッケルの塩、マグネシウムの塩、カルシウムの塩及びアルミニウムの塩を溶解した前駆体水溶液が挙げられる。ニッケルの塩、マグネシウムの塩、カルシウムの塩及びアルミニウムの塩としては、これらの金属の硝酸塩、塩化物、酢酸塩、硫酸塩等が挙げられる。
【0035】
前述の前駆体水溶液において、ニッケルイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオンの含有量としては、得られるCO
2吸蔵還元型触媒中のNi、Mg、Ca及びAlの酸化物換算の含有量が前記範囲内となる量が好ましい。
【0036】
本発明のCO
2吸蔵還元型触媒の製造方法においては、先ず、このようなニッケルイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオンを含有する前駆体水溶液に沈殿剤を添加する。これにより、水酸化ニッケル、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムを含有する沈殿物(好ましくは、共沈物)が生成する。前記沈殿剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムが挙げられる。これらの沈殿剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0037】
このようにして得られる沈殿物においては、水酸化ニッケル、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムが高度に分散(好ましくは、高度かつ均一に分散)しているため、得られるCO
2吸蔵還元型触媒を構成する複合酸化物においては、Ni、Mg、Ca及びAlが原子レベルで分散(好ましくは、均一に分散)しており、優れたCO
2吸蔵還元性能が得られる。
【0038】
次に、このようにして得られた沈殿物を、還元雰囲気下(例えば、水素含有ガス雰囲気下)で焼成する。これにより、水酸化ニッケルの一部が酸化ニッケルに、水酸化マグネシウムが酸化マグネシウムに、水酸化カルシウムが酸化カルシウムに、水酸化アルミニウムが酸化アルミニウムにそれぞれ変換(好ましくは、ニッケル、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの複合酸化物に変換)されて、Ni、Mg、Ca及びAlを含む複合酸化物多孔体が形成され、水酸化ニッケルの残りが金属ニッケル微粒子に変換されて、前記複合酸化物多孔体と前記金属ニッケル微粒子とを含有する本発明のCO
2吸蔵還元型触媒が得られる。
【0039】
沈殿物の焼成温度としては特に制限はないが、300〜700℃が好ましく、400〜600℃がより好ましい。沈殿物の焼成時間としては特に制限はないが、0.1〜24時間が好ましく、1〜10時間がより好ましい。
【0040】
また、このようにして得られたCO
2吸蔵還元型触媒に貴金属を担持させる方法としては特に制限はなく、含浸法等の公知の担持方法により、貴金属が担持した本発明のCO
2吸蔵還元型触媒を得ることができる。
【0041】
〔CO
2の吸蔵還元処理〕
次に、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒を用いたCO
2の吸蔵還元処理方法について説明する。前記CO
2の吸蔵還元処理方法では、前記本発明のCO
2吸蔵還元型触媒に、CO
2と還元性ガス(例えば、H
2含有ガス)とを接触させ、CO
2を還元する方法である。特に、本発明のCO
2吸蔵還元型触媒は、CO
2を選択的に吸蔵できることから、原料ガスとしてCO
2とO
2等の反応阻害成分とを含有するガスを用いる場合に有効である。すなわち、前記本発明のCO
2吸蔵還元型触媒にCO
2とO
2等の反応阻害成分とを含有する原料ガスを接触させてCO
2吸蔵還元型触媒に選択的にCO
2を吸蔵させた後、このCO
2が吸蔵したCO
2吸蔵還元型触媒に還元性ガス(例えば、H
2含有ガス)を接触させることによって、吸蔵したCO
2が還元され、メタンが生成する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
イオン交換水500mlに硝酸ニッケル六水和物11.64g、硝酸マグネシウム六水和物2.56g、硝酸カルシウム四水和物2.36g及び硝酸アルミニウム九水和物7.50gを溶解して原料水溶液を調製した。この原料水溶液に、イオン交換水100mlに炭酸ナトリウム10.6gを溶解して調製したNaCO
3水溶液を、激しく攪拌しながら送液ポンプを用いて徐々に滴下し、さらに、1MのNaOH水溶液を滴下して水溶液のpHを11.5に調整した。得られた水溶液を攪拌しながら80℃で3時間加熱した後、65℃の恒温槽中で15時間静置して熟成させた。得られた懸濁液を吸引ろ過し、回収した沈殿物をイオン交換水で洗浄した。洗浄後の沈殿物を110℃で一晩乾燥した後、5%の水素ガスを含む還元雰囲気(残りは窒素ガス)中、500℃で5時間の還元焼成処理を行い、Ni、Mg、Ca及びAlを含有する触媒粉末(Ni4Mg1Ca1Al2)を得た。
【0044】
(実施例2)
原料水溶液として、イオン交換水500mlに硝酸ニッケル六水和物5.82g、硝酸マグネシウム六水和物5.12g、硝酸カルシウム四水和物4.72g及び硝酸アルミニウム九水和物7.50gを溶解して調製した原料水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてNi、Mg、Ca及びAlを含有する触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)を得た。
【0045】
(実施例3)
イオン交換水150mlに実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)5gを分散させ、得られた分散液に硝酸ルテニウム溶液(田中貴金属工業株式会社製、Ru濃度:50g/L)5.26mlを添加した。その後、得られた分散液を蒸発乾固させ、回収した粉末を110℃で一晩乾燥した後、大気中、500℃で5時間焼成して、Ni、Mg、Ca及びAlを含有する粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)にRuが担持した触媒粉末(Ru/Ni2Mg2Ca2Al2)を得た。
【0046】
(比較例1)
イオン交換水150mlにアルミナ担体(WRグレース社製「MI−307」)5gを分散させ、得られた分散液に硝酸ルテニウム溶液(田中貴金属工業株式会社製、Ru濃度:50g/L)6.25ml及び硝酸カルシウム四水和物2.21gを添加した。その後、得られた分散液を蒸発乾固させ、回収した粉末を110℃で一晩乾燥した後、大気中、500℃で5時間焼成して、アルミナ担体にRuとCaOが担持した触媒粉末(Ru/CaO/Al
2O
3)を得た。
【0047】
(比較例2)
原料水溶液として、イオン交換水500mlに硝酸ニッケル六水和物11.64g、硝酸マグネシウム六水和物5.12g及び硝酸アルミニウム九水和物7.50gを溶解して調製した原料水溶液を用い、1MのNaOH水溶液を滴下して水溶液のpHを10.0に調整した以外は実施例1と同様にしてNi、Mg及びAlを含有する触媒粉末(Ni4Mg2Al2)を得た。
【0048】
(比較例3)
イオン交換水150mlに比較例2で得られた触媒粉末(Ni4Mg2Al2)2.5gを分散させ、得られた分散液に硝酸カルシウム四水和物1.86gを添加した。その後、得られた分散液を蒸発乾固させ、回収した粉末を110℃で一晩乾燥した後、大気中、500℃で5時間焼成し、さらに、5%の水素ガスを含む還元雰囲気(残りは窒素ガス)中、500℃で5時間の還元焼成処理を行い、Ni、Mg及びAlを含有する粉末(Ni4Mg2Al2)にCaOが担持した触媒粉末(CaO/Ni4Mg2Al2)を得た。
【0049】
(比較例4)
イオン交換水150mlにアルミナ担体(WRグレース社製「MI−307」)2gを分散させ、得られた分散液に硝酸ニッケル六水和物5.84g、硝酸マグネシウム六水和物4.77g及び硝酸カルシウム四水和物3.16gを添加した。その後、得られた分散液を蒸発乾固させ、回収した粉末を110℃で一晩乾燥した後、大気中、500℃で5時間焼成し、さらに、5%の水素ガスを含む還元雰囲気(残りは窒素ガス)中、500℃で5時間の還元焼成処理を行い、アルミナ担体にNiとMgOとCaOが担持した触媒粉末(NiO/MgO/CaO/Al
2O
3)を得た。
【0050】
(比較例5)
イオン交換水150mlに比較例2で得られた触媒粉末(Ni4Mg2Al2)3gを分散させ、得られた分散液に炭酸カリウム0.43gを添加した。その後、得られた分散液を蒸発乾固させ、回収した粉末を110℃で一晩乾燥した後、大気中、500℃で5時間焼成し、さらに、5%の水素ガスを含む還元雰囲気(残りは窒素ガス)中、500℃で5時間の還元焼成処理を行い、Ni、Mg及びAlを含有する粉末(Ni4Mg2Al2)にK
2CO
3が担持した触媒粉末(K
2CO
3/Ni4Mg2Al2)を得た。
【0051】
(比較例6)
硝酸カルシウム四水和物の代わりに硝酸ストロンチウム2.11gを用いた以外は実施例1と同様にしてNi、Mg、Sr及びAlを含有する触媒粉末(Ni4Mg1Sr1Al2)を得た。
【0052】
(比較例7)
硝酸カルシウム四水和物の代わりに硝酸バリウム2.61gを用いた以外は実施例1と同様にしてNi、Mg、Ba及びAlを含有する触媒粉末(Ni4Mg1Ba1Al2)を得た。
【0053】
<SEM観察及びEDX分析>
実施例2で得られた触媒粉末について、エネルギー分散型X線分光(EDX)分析装置(AMETEK株式会社製「EDAX Octane T Ultra W」)を備える走査型透過電子顕微鏡(STEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「HD−2700Cs」)を用いてSTEM観察及びEDX分析を行なった。
図1の(a)には実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)の二次電子像、
図1の(b)には実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)の暗視野STEM像、
図1の(c)〜(f)には実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)の各金属元素のEDXマッピング像を示す。また、実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)の金属ニッケル微粒子が存在していない箇所(
図2の暗視野STEM像の測定点A〜E、各測定点の大きさ:約4nm×4nm)においてEDXスポット組成分析を行なった。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
図1の(b)と(c)とを対比すると、(b)の暗視野STEM像の明部と(c)のNi元素のEDXマッピング像のNi元素が多く存在する部分とが一致しており、実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)は、内部に金属ニッケル微粒子を含有する多孔体であることがわかった。
【0056】
さらに、
図1の(c)〜(f)に示したように、前記多孔体においては、Ni、Mg、Ca及びAlが原子レベルで分散していることがわかった。また、表1に示したように、測定点A〜Eのいずれにおいても、Ni、Mg、Ca、Al及びOが検出され、各元素の含有量も測定点A〜Eの間で大きな差がないことがわかった。
【0057】
以上の結果から、実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)は、内部に金属ニッケル微粒子を含有し、Ni、Mg、Ca及びAlが原子レベルで均一に分散した複合酸化物多孔体であることがわかった。
【0058】
<金属ニッケル微粒子の平均粒子径測定>
実施例1〜2及び比較例1〜7で得られた各触媒粉末について、試料水平型多目的X線回折装置(株式会社リガク製「UltimaIV」)を用いてX線回折(XRD)測定を行い、得られたXRDスペクトルにおける2θ=51.5°付近のXRDピークに基づいて、金属ニッケル微粒子の平均粒子径を求めた。その結果を表2に示す。なお、比較例4で得られた触媒粉末(NiO/MgO/CaO/Al
2O
3)において、Niは酸化ニッケル微粒子として存在し、その平均粒子径も18.7nmと大きいものであった。また、実施例3で得られた触媒粉末(Ru/Ni2Mg2Ca2Al2)については、Ru担持前の触媒粉末、すなわち、実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)における金属ニッケル微粒子の平均粒子径を表2に記載した。
【0059】
<BET比表面積測定>
実施例1〜2及び比較例1〜7で得られた各触媒粉末の比表面積を、全自動比表面積測定装置(マイクロデータ社製「Micro Sorp 4232II」)を用いてBrunauer−Emmett−Teller(BET)1点法により求めた。その結果を表2に示す。なお、実施例3で得られた触媒粉末(Ru/Ni2Mg2Ca2Al2)については、Ru担持前の触媒粉末、すなわち、実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)の比表面積を表2に記載した。
【0060】
<細孔容量測定>
実施例1〜2及び比較例1〜7で得られた各触媒粉末70mgを真空下、120℃で2時間乾燥させた後、全自動窒素吸着量測定装置(Quantachrome社製「Autosorb−1」)を用いて−196℃で各触媒粉末の窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線に基づいてBarrett Joyner Halenda(BJH)法により細孔径分布を求め、細孔径が100nm以下の細孔の全細孔容量を算出した。その結果を表2に示す。なお、実施例3で得られた触媒粉末(Ru/Ni2Mg2Ca2Al2)については、Ru担持前の触媒粉末、すなわち、実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)における細孔径が100nm以下の細孔の全細孔容量を表2に記載した。
【0061】
<蛍光X線分析>
実施例1〜2及び比較例1〜7で得られた各触媒粉末について、走査型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製「ZSX PrimusII」)を用いて蛍光X線(XRF)分析を行い、各金属元素の酸化物換算の含有量を求めた。その結果を表2に示す。なお、実施例3で得られた触媒粉末(Ru/Ni2Mg2Ca2Al2)については、Ru担持前の触媒粉末、すなわち、実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)における各金属元素の酸化物換算の含有量を表2に記載した。
【0062】
<CO
2吸蔵還元性能評価>
実施例1〜3及び比較例1〜7で得られた各触媒粉末1gをステンレス鋼(SUS)製反応管(内径:6mm)に充填し、この触媒にH
2(20%)+He(残り)のH
2含有ガスを触媒入りガス温度320℃、流量50ml/minで30分間流通させて還元前処理を行い、さらに、Heガスを触媒入りガス温度320℃、流量100ml/minで5分間流通させてHeパージ処理を行なった。次に、CO
2(10%)+O
2(5%)+He(残り)のCO
2含有ガスを触媒入りガス温度320℃、流量100ml/minで20分間流通させて触媒にCO
2を吸蔵させた後、Heガスを触媒入りガス温度320℃、流量100ml/minで5分間流通させてHeパージ処理を行なった。その後、H
2(5%)+He(残り)のH
2含有ガスを触媒入りガス温度320℃、流量100ml/minで20分間流通させて触媒に吸蔵されたCO
2をCH
4に還元した後、Heガスを触媒入りガス温度320℃、流量100ml/minで5分間流通させてHeパージ処理を行なった。この一連の操作(CO
2吸蔵→Heパージ→H
2還元→Heパージ)を3回繰返し行い、3サイクル目の触媒出ガス中のCO
2量を質量分析計(株式会社アルバック製「Qulee BGM−202」)により測定した。また、ブランク試験として、触媒粉末を充填していないSUS製反応管に上記と同一の条件で一連の操作(前記CO
2含有ガス流通→Heパージ→前記H
2含有ガス流通→Heパージ)を3回繰返し行い、3サイクル目に反応管から排出されるガスに含まれるCO
2の量を質量分析計により測定した。このようにして測定した、前記3サイクル目の触媒出ガス中のCO
2量と前記3サイクル目の反応管からの排出ガス中のCO
2量に基づいて、各触媒粉末1g当たりのCO
2処理量を算出した。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
表2に示したように、実施例1で得られた触媒粉末(Ni4Mg1Ca1Al2)及び実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)は、貴金属を含んでいないにもかかわらず、貴金属を含有する触媒粉末(Ru/CaO/Al
2O
3)(比較例1)に匹敵するCO
2吸蔵還元性能を有することがわかった。
【0064】
また、実施例1で得られた触媒粉末(Ni4Mg1Ca1Al2)及び実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)は、Caを含まない触媒粉末(Ni4Mg2Al2)(比較例2)、Caの代わりにK
2CO
3を担持した触媒粉末(K
2CO
3/Ni4Mg2Al2)(比較例5)、Caの代わりにSrを含有する触媒粉末(Ni4Mg1Sr1Al2)(比較例6)、Caの代わりにBaを含有する触媒粉末(Ni4Mg1Ba1Al2)に比べて、CO
2吸蔵還元性能に優れていることがわかった。このことから、CO
2の吸蔵還元性能にはCaが寄与していることがわかった。
【0065】
さらに、実施例1で得られた触媒粉末(Ni4Mg1Ca1Al2)及び実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)は、CaOが担持した触媒粉末(CaO/Ni4Mg2Al2)(比較例3)及びNi、MgO及びCaOが担持した触媒粉末(NiO/MgO/CaO/Al
2O
3)(比較例4)に比べてCO
2吸蔵還元性能に優れていることがわかった。このことから、CO
2の吸蔵還元性能には酸化物多孔体内にCaが原子レベルで均一に分散していることも寄与していることがわかった。
【0066】
また、実施例3で得られた触媒粉末(Ru/Ni2Mg2Ca2Al2)は、実施例2で得られた触媒粉末(Ni2Mg2Ca2Al2)に比べて、CO
2吸蔵還元性能に優れていることがわかった。このことから、Ni、Mg、Ca及びAlを含む本発明のCO
2吸蔵還元型触媒に貴金属を担持することによって、CO
2の吸蔵還元性能が更に向上することがわかった。