【文献】
ANTHONY, S. P. et al.,C2-Symmetric Bis(amide) Molecules: Solid-State Assembly, Thermal Stability, and Second Hamonic Generation,Molecular Crystals and Liquid Crystals,2007年,Vol. 473,pp. 67-85
【文献】
LUTS, H. A. et al.,2-Deoxystreptamine Derivatives,Journal of Pharmaceutical Sciences,1961年,Vol. 50,pp. 328-331
【文献】
HAJIBEYGI, M et al.,Synthesis and Characterization of New Organosoluble Poly(Amide-Imide)s with Good Thermal Properties Containing Photosensitive and Bicyclo Segments in the Main Chain,Designed Monomers and Polymers,2011年,Vol. 14,pp. 617-633
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現在液晶ディスプレー(LCD)等の画像表示装置には無機のガラス基板(例えば無アルカリガラス基板、以下単にガラス基板という)が用いられているが、ガラス基板の代わりにプラスチック基板を適用することで、画像表示装置の軽量化・薄型化・フレキシブル化を実現しようとする検討が活発になされている。
【0003】
工業的に生産されている無着色透明なスーパーエンジニアリングプラスチックの中で、最も優れた特性を有するものとしてポリエーテルスルホン(以下PESと称する)が知られている。PESは透明性に加え、靱性、難燃性および加工性に優れ、現行のスーパーエンジニアリングプラスチックの中で最も高い物理的耐熱性(即ちガラス転移温度:T
g=225℃)を有している。しかしながらPESでさえも、画像表示装置製造工程における透明電極や薄膜トランジスタ(TFT)形成等の様々な高温プロセスに対する物理的耐熱性(短期耐熱性ともいう)の観点では必ずしも十分ではない。
【0004】
画像表示装置製造工程では、上記高温プロセスと室温への冷却を繰り返す温度サイクルがあるが、最近プラスチック基板材料には、温度サイクルに対する優れた寸法安定性も強く求められている。寸法安定性を高める最も有効な方法の1つは、プラスチック基板材料のフィルム面方向(XY方向)の熱膨張特性、具体的にはガラス転移温度以下(ガラス領域)でのXY方向線熱膨張係数(以下CTEと称する)をできるだけ下げることである。CTEが低いほど、温度サイクルに追従するフィルムの可逆的熱膨張−収縮そのものを低減することができる。これにより素子層のひび割れや位置ずれといった深刻な問題を回避することができる。
【0005】
上記に加えて、不可逆的な熱膨張―収縮を抑制することも重要である。プラスチック基板のCTEが大きいほど、温度サイクルが繰り返されるうちに熱膨張―収縮においてヒステリシスが顕著になるか、更には不可逆的な熱膨張−収縮が増加してフィルムに歪(微小変形)が蓄積される等により、素子層のひび割れ、層間接着不良あるいは素子の位置ずれ等の深刻な問題が生じる恐れがある。この観点からもプラスチック基板材料のCTEをできるだけ下げることが好ましい。
【0006】
しかしながら、PESを含む殆どの有機高分子フィルムは60〜100ppm/Kと高いCTE値を有しており、上記寸法安定性の要求に合致する透明樹脂材料がないのが実情である。
【0007】
全芳香族ポリイミドは物理的・化学的耐熱性、電気絶縁性、機械的特性、難燃性および製造工程の簡便さの観点から現在最も信頼性の高い耐熱性絶縁樹脂材料としてエレクトロニクス分野を中心に広く用いられている。しかしながら、下記式(1)で表される東レ・デュポン社製KAPTON−Hや下記式(2)で表される宇部興産社製UPILEX−Sに代表される現行の全芳香族ポリイミドフィルムは、電子供与体(ジアミン由来の芳香族基)と電子受容体(ビスイミド構造単位)が交互に連結した連鎖に由来する電荷移動相互作用により強く着色しており(例えば非特許文献1参照)、本目的には適合しない。
【化1】
【0008】
このような状況から、全芳香族ポリイミドに比べると必然的に耐熱性は劣るものの、PESよりも高い耐熱性を維持した無色透明ポリイミドが検討されている。全芳香族ポリイミドのうち、下記式(3):
【化2】
で表されるポリイミドは、全芳香族ポリイミドの中でも無着色透明なフィルムを与える非常に限られたケースである(例えば非特許文献2参照)。このポリイミドフィルムの透明性は、電子吸引基として作用し、高分子鎖間の凝集力を弱める働きを持つトリフルオロメチル基(CF
3)の効果によるものであり、この効果によりこのポリイミドは優れた溶媒溶解性即ち溶液加工性も有している。しかしながら、このポリイミドフィルムは残念ながら低熱膨張特性を示さない(例えば非特許文献2参照)。
【0009】
一般に、ポリイミドフィルムが低いXY方向CTEを示すためには、ポリイミド主鎖がXY方向へ高度に分子配向(面内配向と称する)する必要があり、そのためにはポリイミド主鎖の直線性・剛直性が不可欠であることが報告されている(例えば非特許文献3参照)。式(3)で表されるポリイミド中、トリフルオロイソプロピリデン基部位における折れ曲がった構造によりポリイミド主鎖が非直線状構造となり、主鎖の面内配向が妨害されることが、このポリイミドフィルムが低熱膨張特性を示さない要因である。
【0010】
ポリイミドを無色透明化する有効な他の方法は、モノマー成分であるテトラカルボン酸二無水物かあるいはもう1つのモノマー成分であるジアミンのいずれか一方、または両方に非芳香族即ち脂肪族モノマーを使用することである。耐熱性の観点から、脂肪族モノマーとして線状ではなく環状のもの(脂環式モノマーと称する)が通常選択される。
【0011】
例えば下記式(4):
【化3】
で表される汎用の脂環式ジアミンと下記式(5):
【化4】
で表される汎用の芳香族テトラカルボン酸二無水物即ちピロメリット酸二無水物(以下PMDAと称する)より得られる下記式(6):
【化5】
で表されるポリイミドは無色透明なフィルムを与える。しかしながら、脂肪族ジアミンが芳香族ジアミンに比べてはるかに高い塩基性を持っているために、等モル重付加反応(以下単に重合反応という)の初期段階で生成した低分子量アミド酸のカルボキシル基と脂肪族アミノ基との間で塩が形成される(例えば非特許文献4参照)。この塩は架橋した構造をとり、無水の重合溶媒に溶けにくいため、塩が沈殿として析出し、重合反応が全く進行しなくなる場合がある。生成した塩が重合溶媒に僅かでも溶解する場合は、一旦析出後室温で撹拌することで徐々に重合が進行するが、塩が完全に溶解して均一なワニスとなるまで、非常に長時間必要となる。また均一化までに要する重合反応時間やポリイミド前駆体の分子量の再現性が乏しい。
【0012】
また、上記式(6)で表されるポリイミドのフィルムは低熱膨張特性を示さない。これは、メチレン結合部位における主鎖の折れ曲がりと、シクロヘキシレン基部位においてトランス−シス異性体が混合していることにより、ポリイミド主鎖の直線性が低下し、面内配向が妨害されるためである。
【0013】
ポリイミドフィルムの低熱膨張化に有利な唯一の脂環式ジアミンとして下記式(7):
【化6】
で表されるトランス−1,4−シクロヘキサンジアミン(以下CHDAと称する)が知られているが、式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物(PMDA)と通常の重合方法で反応を行おうとすると、初期段階で形成される塩が極めて強固なため、如何なる反応条件でも析出した塩が全く溶解せず、ポリイミド前駆体は得られない(例えば非特許文献4参照)。
【0014】
式(7)で表されるCHDAは下記式(8):
【化7】
で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物即ち、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下s−BPDAと称する)とは反応するので、最終的に均一で高粘度のポリイミド前駆体ワニスを得ることは可能であるが、重合初期に一旦析出した塩を溶解させるのに短時間の加熱操作が必要であるため、このプロセスは大規模生産にとって不都合である。得られたポリイミド前駆体を基板上に塗布乾燥後、300℃以上に加熱して脱水閉環反応(イミド化反応)させると式(9):
【化8】
で表されるポリイミドが得られ、そのフィルムは比較的透明で低熱膨張性を示す(例えば非特許文献5参照)。しかしながらこのポリイミドフィルムは実用的な膜靱性を有していない。またこのポリイミドは溶媒に全く不溶で溶液加工性に乏しい。
【0015】
一方、脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの組み合わせでは、上記のような塩形成の問題なく通常の方法でポリイミド前駆体ワニスを得ることができる。重合反応の際に用いるモノマーとして、直線的・平面的で剛直な構造の脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを選択することで、低熱膨張性の透明ポリイミドが得られる。直線的・平面的で剛直な構造を有する、入手可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物は非常に限られており、例えば下記式(10):
【化9】
で表される剛直構造の脂環式テトラカルボン酸二無水物即ち、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下CBDAと称する)が知られているのみである。これと例えば下記式(11):
【化10】
で表される剛直で直線的な構造を有する芳香族ジアミン即ち、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下TFMBと称する)との重合反応により、容易に高分子量のポリイミド前駆体が得られ、これをキャスト製膜・熱イミド化して得られる下記式(12):
【化11】
で表されるポリイミドのフィルムは無着色透明で低いCTEを示す(例えば非特許文献5参照)。しかしながら、このポリイミドフィルムは自立膜とはなるものの可撓性が十分ではなく、ポリイミド自身の溶液加工性も有していない(例えば非特許文献6参照)。
【0016】
またCBDAはその製造法上の制約によるコストの問題も有している。CBDAは無水マレイン酸の光二量化反応によって合成される(例えば非特許文献7参照)。そのため紫外線照射装置上の制約から通常の熱反応のように大型反応釜による大規模生産に必ずしも適していないことから、大量生産による低コスト化は容易ではない。
【0017】
これに対して、下記式(13):
【化12】
(式(13)中、中央のシクロヘキサン部位は舟型構造である。)
で表されるシス、シス、シス−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下H−PMDAまたは、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物と称する)の合成方法として、安価なPMDAを水素還元して製造する技術が知られている。また、ピロメリット酸を水素還元して1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸を得た後、当該1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水物化してH−PMDAを製造する技術も知られている。それらの方法によれば、大規模生産が可能であるため、現在入手可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物の中で最も低コストで実用的である。
【0018】
H−PMDAは屈曲性の連結基としてエーテル結合を含む通常の芳香族ジアミンと室温で重合反応させてポリイミド前駆体を得る場合、その固有粘度から推測される重合度はからずしも高くはならないものの、透明で優れた靱性を有するポリイミドフィルムを与えることが知られている(例えば非特許文献8参照)。例えば下記式(14)および(15):
【化13】
で表されるポリイミドはその代表的なものであるが、これらのポリイミドフィルムは主鎖が折れ曲がった構造であるため、殆ど面内配向せず、低熱膨張特性を示さない。
【0019】
しかしながら低熱膨張化を期待して剛直で直線性の高い構造のジアミン例えば式(11)で表されるTFMBを用いた場合、重合度の低くさとポリマー鎖同志の絡み合いに不利な剛直な主鎖構造の影響でポリイミドフィルムは非常に脆弱になり、製膜困難になる(例えば非特許文献8参照)。これに対して前述のようにTFMBとCBDAとの重合反応では、極めて高重合度のポリイミド前駆体が得られる。この結果はH−PMDAがCBDAよりも重合反応性に劣ることによるものである。
【0020】
H−PMDAの重合反応性が必ずしも高くない理由として、H−PMDAの立体構造に由来してH−PMDA官能基が成長鎖によってブロックされる状態となり、重合反応の立体障害となるためであるとの機構が提案されている(例えば非特許文献8参照)。
【0021】
H−PMDAと組み合わせるジアミン成分として、低CTE化に有利な極めて剛直で直線性の高い構造を持ち、且つ極めて重合反応性が高いものを使用すれば、H−PMDAの低重合反応性を補って、十分高分子量のポリイミドを得ることは原理的に可能であるが、そのようなジアミンは知られていない。
【0022】
H−PMDAとジアミンの重合反応性を高めるために、重合反応を高温下で行うこともしばしば有効である。重合反応を溶媒中加熱して行うと、ポリイミド前駆体で止まることなく、イミド化反応も同時に進行して溶液中でポリイミドが生成する。この方法(以下ワンポット重合法と称する)により、安定なポリイミドワニスが得られるならば、このワニスを基板に塗布・乾燥するだけで即ち、より高温の熱イミド化反応工程なしでポリイミドフィルムを作製できるため、プロセス上大きなメリットがある。
【0023】
しかしながら低CTE化を期待して剛直で直線状のジアミンを使用すると、生成したポリイミドが溶解性を失い、沈殿が析出することになり、沈殿したポリイミドを濾別・再溶解してフィルム状に成形する工程はもはや適用不可となる。そのため、上記目的に適合するジアミンは、ポリイミドフィルムのCTEをできるだけ下げるために剛直で直線状の構造であるだけでなく、それと同時に、生成したポリイミドの重合溶媒に対する溶解性も悪化させてはならないという制約がある。しかし、これらを両立することは原理的に極めて困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<1−1.ジアミン>
以下、本発明のジアミンについて詳細に説明する。
本発明のジアミンは、下記式(I)で表される。
【化22】
(式(I)中、
Aはシクロヘキサン環を含む二価の基を表し、
Xはアミド基を表し、
R
11〜R
18は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。)
【0030】
後述するように、本発明のポリイミドはH−PMDAと上記式(I)で表されるジアミンより得られるが、上記式(I)中、連結基であるXをアミド基とすることで、ポリイミド主鎖に剛直性が付与され、ポリイミドフィルムの線熱膨張係数を低減することが可能になる。
【0031】
また、式(I)中、Aをシクロヘキサン環を含む二価の基とすることで、末端アミノフェニル基とAとの間のアミド基を介した電子共役を切断し、ポリイミドフィルムの着色を抑制することができる。A中のシクロヘキサン部位は、ジアミン全体の剛直性及び直線性が保持されていれば立体構造の制約は特にない。
【0032】
本発明のジアミンを製造する際、原料のコストや入手のしやすさ、ジアミンの製造工程、重合工程、製膜工程およびポリイミドフィルム特性の観点から、式(I)中のAは下記式(A−1)〜(A−3)のいずれかで表されることが好ましい。
【化23】
(式(A−2)中、R
21〜R
24は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、
式(A−3)中、R
31〜R
38は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。)
【0033】
式(A−2)中のR
21〜R
24は、それぞれ独立に、好ましくは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、より好ましくは水素原子、メチル基またはメトキシ基を表し、さらに好ましくは水素原子を表す。
式(A−3)中のR
31〜R
38は、それぞれ独立に、好ましくは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、より好ましくは水素原子、メチル基またはメトキシ基を表し、さらに好ましくは水素原子を表す。
【0034】
上記式(A−1)〜(A−3)で表されるAにおいて、シクロヘキサン部位の立体構造は特に限定さない。ただし、ジアミンおよび、そのジアミンとH−PMDAより得られるポリイミド又はその前駆体の溶媒溶解性の低下を防止するという観点またはポリイミドのCTE低減の観点からは、Aは下記式(A−1−1)〜(A−3−1)のいずれかで表されることが好ましい。
【化24】
(式(A−2−1)中のR
21〜R
24は、式(A−2)中のR
21〜R
24と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(A−3−1)中のR
31〜R
38は、式(A−3)中のR
31〜R
34と同様に定義され、好ましい様態も同様である。)
【0035】
式(I)中のXはアミド基(即ち、−NH−CO−)を表す。このとき、(i)Aとアミド基の窒素原子とが結合し、かつ、末端アミノフェニル基とアミド基の炭素原子とが結合してもよいし、又は(ii)Aとアミド基の炭素原子とが結合し、かつ、末端アミノフェニル基とアミド基の窒素原子とが結合してもよい。
【0036】
式(I)中のR
11〜R
18は、それぞれ独立に水素原子であってもよいが、炭素数1〜6のアルキル基や炭素数1〜6のアルコキシ基であってもよい。R
11〜R
18を適切に選択することで、ポリイミドフィルムの特性に悪影響を及ぼすことなく、本ジアミンの溶媒溶解性や重合反応性を高めることができることに加え、ポリイミド前駆体やポリイミドの溶媒溶解性を高めて、重合時の不均一化(ゲル化)を抑制することが可能である。
R
11〜R
18は、それぞれ独立に、好ましくは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、より好ましくは水素原子、メチル基またはメトキシ基を表す。
【0037】
本発明のジアミンを製造する際、原料のコストや入手のしやすさ、ジアミンの製造工程、重合工程、製膜工程およびポリイミドフィルム特性の観点から、本発明のジアミンは、下記式(I−1)〜(I−5)のいずれかで表されることが好ましい。
【化25】
(式(I−1)中のR
14及びR
18は、式(I)中のR
14及びR
18と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(I−2)中のR
13及びR
17は、式(I)中のR
13及びR
17と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(I−3)中のR
11及びR
18は、式(I)中のR
11及びR
18と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(I−4)中のR
11及びR
15は、式(I)中のR
11及びR
15と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(I−5)中のR
13及びR
17は、式(I)中のR
13及びR
17と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、式(I−5)中のR
34及びR
38は、式(A−3)中のR
34及びR
38と同様に定義され、好ましい様態も同様である。)
【0038】
上記式(I−1)〜(I−5)で表されるジアミンにおいて、シクロヘキサン部位の立体構造は特に限定さない。ただし、ジアミンおよび、そのジアミンとH−PMDAより得られるポリイミド又はその前駆体の溶媒溶解性の低下を防止するという観点またはポリイミドのCTE低減の観点からは、ジアミンは下記式(I−1−1)〜(I−5−1)のいずれかで表されることが好ましい。
【化26】
(式(I−1−1)中のR
14及びR
18は、式(I−1)中のR
14及びR
18と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(I−2−1)中のR
13及びR
17は、式(I−2)中のR
13及びR
17と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(I−3−1)中のR
11及びR
18は、式(I−3)中のR
11及びR
18と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(I−4−1)中のR
11及びR
15は、式(I−4)中のR
11及びR
15と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(I−5−1)中のR
13、R
17、R
34及びR
38は、式(I−5)中のR
13、R
17、R
34及びR
38と同様に定義され、好ましい様態も同様である。)
【0039】
式(I)で表される本発明のジアミンにおいて、A中のシクロヘキサン環をベンゼン環のような芳香族基に変更すると、アミド結合を介して末端アミノフェニル基との電子共役効果により、ジアミンが着色し、結果としてポリイミドフィルムの著しい着色を招くことになり、本目的にとって非常に好ましくない。更にジアミンだけでなくポリイミド及びその前駆体の溶媒溶解性が著しく低下する。
【0040】
ポリイミドフィルムのCTEを下げるという観点から、ジアミン中のフェニレン基およびシクロヘキシレン基における結合位置は全てパラ結合かまたはそれに準じたものであることが好ましい。例えば、式(I−1)および式(I−2)で表されるジアミンにおいては、中央のシクロヘキシレン基における2つのアミド結合の結合位置が1,4−結合であり、また、2つのフェニレン基の各々におけるアミド基と末端のアミノ基の結合位置がパラ結合である。
【0041】
<1−2.ジアミンの製造方法>
本発明のジアミンの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。以下に、本発明のジアミンの製造方法について具体例を用いて説明するが、本発明のジアミンの製造方法はそれら具体例に限定されるものではない。
一例として式(I−1−1)で表され、R
14及びR
18がメトキシであるジアミンの製造方法について説明する。
原料となる下記式(16):
【化27】
で表されるトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド(以下t−CHDCCと称する)と下記式(17):
【化28】
で表される2−メトキシ−4−ニトロ−アニリン(以下2MeO−4NAと称する)よりアミド化反応を行い、下記式(18):
【化29】
で表されるジニトロ体を得た後、続いて末端ニトロ基を水素還元して下記式(19):
【化30】
で表されるジアミンが得られる。
【0042】
まずアミド化反応について説明する。t−CHDCCを溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓し、A液とする。次に2MeO−4NAを同一溶媒に溶解し、これに適当量の塩基(脱酸剤)を添加し同様に密封してB液とする。A液を氷浴中で冷却し、撹拌子で撹拌しながら、A液にB液をシリンジにてゆっくり滴下し、数時間反応させ、続いて室温で12時間撹拌する。反応後、析出した沈殿物を濾別し、少量の反応溶媒で洗浄続いて、水で洗浄して副生成物である水溶性の塩酸塩を除去し、生成物の融点以下の温度即ち50〜120℃の温度範囲で5〜12時間真空乾燥してジニトロ体を得る。これを適当な溶媒から再結晶して精製してから、次の水素還元工程に用いることもできるが、通常は上記洗浄・乾燥工程のみで十分高純度のジニトロ体が得られるため、精製工程を省略してもよい。
得られたジニトロ体の末端ニトロ基の接触還元は以下のようにして行う。まずジニトロ体を溶媒に溶解し、これに適当量のパラジウム/カーボン(Pd/C)触媒を添加する。この反応溶液を使用した溶媒の沸点以下の温度即ち、水素雰囲気中、室温〜150℃の範囲で一定温度に加熱しながら2〜24時間反応させる。反応の終点は薄層クロマトグラフィーにより、原料として用いた2MeO−4NAの完全な消失と新たなスポットが1つのみ出現することをもって確認することができる。反応終了後、触媒を熱濾過して除去する。熱濾過の際、反応溶液が冷えて、生成物が一部析出した場合は、温めた溶媒で沈殿を溶解し、濾液に加えてもよい。濾液は適宜エバポレーターで濃縮してもよい。濃縮により沈殿が析出する場合は濾別して、少量の反応溶媒続いて水およびメタノールでよく洗浄し、最後に生成物の融点以下の温度即ち50〜120℃の温度範囲で5〜12時間真空乾燥して目的とするジアミンが得られる。高純度化するためにこれを適当な溶媒から再結晶してもよい。
【0043】
上記アミド化反応の際、2MeO−4NAの仕込み量(mol)は、t−CHDCCの物質量(mol)の2倍(当量)でもよいが、収率を上げるために場合によっては2〜5倍にしてもよい。しかしながらこれ以上2MeO−4NAの仕込み量が高いと、過剰な2MeO−4NAを除去しにくくなる恐れがある。
【0044】
また、アミド化反応の際に使用可能な溶媒としては、反応原料と反応せず且つ反応原料が溶解すればよく、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル等のエステル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒、トルエン、キシレン等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や除去のしやすさの観点からテトラヒドロフランおよび1,4−ジオキサンが好適に用いられる。
【0045】
またアミド化反応は、−10〜50℃で行われるが、より好ましくは0〜30℃で行われる。反応温度が50℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあるため好ましくない。
【0046】
またアミド化反応は、溶質濃度5〜50質量%の範囲で行われる。副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮して、好ましくは10〜40質量%の範囲で行われる。
【0047】
アミド化反応に用いる脱酸剤としては特に限定されず、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が用いられる。塩酸塩の除去のしやすさの観点からピリジンが好適に用いられる。
【0048】
アミド化反応により生成した沈殿物は、ジニトロ体だけでなく、脱酸剤としてピリジンを使用した場合、水溶性のピリジン塩酸塩を含んでいる。ジニトロ体は水に不溶であるので、沈殿物を水でよく洗浄するだけで、塩酸塩を溶解除去することができる。塩酸塩除去の完結は洗液に1%硝酸銀水溶液を添加して塩化銀の白色沈殿の生成の有無から容易に確認することができる。
【0049】
上記アミド化反応は公知の方法を適用でき、上記のように塩基(酸受容剤)存在下、ジカルボン酸ジクロリドとアミンより行う以外にも、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下t−CHDCAと称する)と2MeO−4NAより、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(以下DCCと称する)、亜リン酸トリフェニル/ピリジン、ジフェニル(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホネート/トリエチルアミン、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール/DCC、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシスクシンイミド/DCC等の縮合剤を用いて行うこともできる。
【0050】
上記ニトロ基のアミノ基への還元反応の方法は特に限定されず、公知の方法を適用できる。水素とPd/Cを用いる前述の方法の他にも、塩酸酸性中スズ、亜鉛、鉄等の金属粉末を用いる接触還元法や塩化スズ二水和物のエタノール溶液を用いる方法も適用可能である。水素雰囲気中、Pd/Cを触媒として行う上記接触還元反応の際に使用可能な溶媒としては反応原料と反応せず且つジニトロ体が溶解すればよく、特に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル等のエステル系溶媒、トルエン、キシレン等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や除去のしやすさの観点からがN,N-ジメチルホルムアミド、好適に用いられる。また、溶媒は生成物であるジアミンに対しても高い溶解性を持つことが好ましい。もし溶解性が著しく悪い場合、モノアミン体の段階で一部析出し、還元反応の完全な進行が妨げられる恐れがある。
【0051】
別の一例として、式(I−2−1)で表され、R
13及びR
17が水素原子であるジアミンの製造方法について説明する。使用する原料は異なるが、上記式(19)で表されるジアミンの製造方法と同様なアミド化反応と還元反応によって得られる。
原料となる下記式(20):
【化31】
で表されるトランス−1,4−シクロヘキサンジアミン(以下t−CHDAと称する)と下記式(21):
【化32】
で表される4−ニトロベンゾイルクロリド(以下4−NBCと称する)よりアミド化反応を行って下記式(22):
【化33】
で表されるジニトロ体を得た後、末端ニトロ基を還元して下記式(23):
【化34】
で表されるジアミンが得られる。
【0052】
別の一例として、式(I−3)で表され、R
11及びR
18が水素原子であるジアミンの製造方法について説明する。使用する原料は異なるが、上記式(19)で表されるジアミンの製造方法と同様なアミド化反応と還元反応によって得られる。
原料となる下記式(24):
【化35】
で表されるジカルボン酸ジクロリドと下記式(25):
【化36】
で表される4−ニトロアニリン(以下4−NAと称する)よりアミド化反応を行って下記式(26):
【化37】
で表されるジニトロ体を得た後、末端ニトロ基を還元して下記式(27):
【化38】
で表されるジアミンが得られる。
【0053】
更に詳しく述べると、上記式(24)で表されるジカルボン酸ジクロリドは下記式(28):
【化39】
で表される核水素化トリメリット酸無水物(以下H−TMAと称する)と下記式(29):
【化40】
で表される4−アミノ安息香酸(以下4−ABAと称する)を溶媒中、室温〜100℃で2〜24時間反応後、150〜200℃で2〜12時間還流することで得られる下記式(30):
【化41】
で表されるジカルボン酸を得た後、触媒としてN,N-ジメチルホルムアミド存在下、塩化チオニルを用いてこれを塩素化することにより得られる。
【0054】
上記式(30)で表されるジカルボン酸を合成する際に使用可能な溶媒は、原料であるH−TMAおよび4−ABAが溶解し且つH−TMAの酸無水物基と反応しないものであればよく、特に限定されない。例えばN,N-ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、γ−ブチロラクトン等の環状エステル系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒等が挙げられる。特にN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンのような非プロトン性高沸点溶媒が好適に用いられる。
【0055】
上記式(28)で表されるH−TMAにおいて、シクロヘキサン部位の立体構造は特に限定されない。ただし、これを原料として得られる式(27)で表される本発明のジアミンおよび、そのジアミンとH−PMDAより得られるポリイミド又はその前駆体の溶媒溶解性の低下を防止するという観点またはポリイミドのCTE低減の観点から、H−TMAは下記式(31):
【化42】
で表される、シス、シス−H−TMAであることが好ましい。
【0056】
別の一例として、式(I−4−1)で表され、R
11及びR
15が水素原子であるジアミンの製造方法について説明する。使用する原料は異なるが、上記式(19)で表されるジアミンの製造方法と同様なアミド化反応と還元反応によって得られる。
原料となる下記式(32):
【化43】
で表されるジカルボン酸ジクロリドと前述の4−NAより上記と同様にアミド化反応を行い、得られた下記式(33):
【化44】
で表されるジニトロ体を上記と同様な方法で還元することにより下記式(34):
【化45】
で表される本発明のジアミンが得られる。
【0057】
更に詳しく説明すると、上記式(32)で表されるジカルボン酸ジクロリドは下記式(13):
【化46】
で表される前述のH−PMDAと4−ABAより、上記式(30)で表される前述のジカルボン酸の合成と同様な方法で、下記式(35):
【化47】
で表されるジカルボン酸を得た後、これを式(24)で表される前述のジカルボン酸ジクロリドを合成する場合と同様にして塩素化することにより得られる。
【0058】
別の一例として、式(I−5−1)で表され、R
13、R
17、R
34及びR
38が水素原子であるジアミンの製造方法について説明する。使用する原料は異なるが、上記式(19)で表されるジアミンの製造方法と同様なアミド化反応と還元反応によって得られる。
原料となる下記式(36):
【化48】
で表されるジアミンと前述の4−NBCより上記と同様にアミド化反応を行い、得られた下記式(37):
【化49】
で表されるジニトロ体を上記と同様な方法で還元することにより下記式(38):
【化50】
で表される本発明のジアミンが得られる。
【0059】
更に詳しく述べると、上記式(36)で表されるジアミンは、H−PMDAと4−NAより下記式(39):
【化51】
で表されるジニトロ体を得た後、これを上記と同様な方法で還元することにより得られる。
【0060】
<2−1.ポリイミド>
以下、本発明のポリイミドについて詳細に説明する。
本発明のポリイミドは、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む。
【化52】
(式(II)中、
Aはシクロヘキサン環を含む二価の基を表し、
Xはアミド基を表し、
R
11〜R
18は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。)
【0061】
式(II)中のA、X及びR
11〜R
18は、式(I)中のA、X及びR
11〜R
18と同様に定義され、好ましい様態も同様である。式(II)中、連結基であるXをアミド基とすることで、ポリイミド主鎖に剛直性が付与され、ポリイミドフィルムの線熱膨張係数を低減することが可能になる。
【0062】
ポリイミドフィルム特性の観点から、本発明のポリイミドは、下記式(II−1)〜(II−5)のいずれかで表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【化53】
(式(II−1)中のR
14及びR
18は、式(II)中のR
14及びR
18と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(II−2)中のR
13及びR
17は、式(II)中のR
13及びR
17と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(II−3)中のR
11及びR
18は、式(II)中のR
11及びR
18と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(II−4)中のR
11及びR
15は、式(II)中のR
11及びR
15と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(II−5)中のR
13及びR
17は、式(II)中のR
13及びR
17と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、式(II−5)中のR
34及びR
38は、式(A−3)中のR
34及びR
38と同様に定義され、好ましい様態も同様である。)
【0063】
上記式(II−1)〜(II−5)で表される繰り返し単位において、ジアミンから誘導される構造中に含まれるシクロヘキサン部位(式(II)におけるAに含まれるシクロヘキサン部位)の立体構造は特に限定さない。ただし、ポリイミドのCTE低減または溶媒溶解性の低下を防止するという観点からは、ポリイミドは式(II−1−1)〜(II−5−1)のいずれかで表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【化54】
(式(II−1−1)中のR
14及びR
18は、式(II−1)中のR
14及びR
18と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(II−2−1)中のR
13及びR
17は、式(II−2)中のR
13及びR
17と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(II−3−1)中のR
11及びR
18は、式(II−3)中のR
11及びR
18と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(II−4−1)中のR
11及びR
15は、式(II−4)中のR
11及びR
15と同様に定義され、好ましい様態も同様であり、
式(II−5−1)中のR
13、R
17、R
34及びR
38は、式(II−5)中のR
13、R
17、R
34及びR
38と同様に定義され、好ましい様態も同様である。)
【0064】
本発明のポリイミドは、下記式(13)で表されるシス、シス、シス−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(または、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物とも言う。以下H−PMDAと称することがある。)と、上記式(I)で表される本発明のジアミンとを反応させて得ることができる。
【化55】
(式(13)中、中央のシクロヘキサン部位は舟型構造である。)
ただし、ジアミンとの重合反応性およびポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、H−PMDA以外のテトラカルボン酸二無水物を部分的に使用即ち共重合してもよい。また、テトラカルボン酸二無水物との重合反応性およびポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、本発明のジアミン以外のジアミンを部分的に使用即ち共重合してもよい。
【0065】
共重合成分として使用することができるテトラカルボン酸二無水物は、脂環式テトラカルボン酸二無水物でもよいし、芳香族テトラカルボン酸二無水物でもよい。
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下H’−PMDAと称する)、(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下、H”−PMDAと称する)、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物(以下BTAと称する)、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]ヘプタンテトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3c−カルボキシメチルシクロペンタン−1r,2c,4c−トリカルボン酸1,4:2,3−二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。H−PMDAの共重合成分としてこれらの脂環式テトラカルボン酸二無水物を使用する場合、その含有量はH−PMDAを含めた脂環式テトラカルボン酸二無水物総量のうち1〜70mol%、好ましくは10〜50mol%の範囲である。
【0066】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えばピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタリックアンハイドライド、3,4’−オキシジフタリックアンハイドライド、3,3’−オキシジフタリックアンハイドライド、ハイドロキノン−ジフタリックアンハイドライド、4,4’−ビフェノール−ジフタリックアンハイドライド、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等が挙げられる。またこれらを2種類以上用いてもよい。H−PMDAの共重合成分としてこれらの芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用する場合、H−PMDAも含めたテトラカルボン酸二無水物量総量に対して1〜30mol%、好ましくは1〜20mol%の範囲である。
【0067】
共重合成分として使用することができるジアミンは、脂肪族ジアミンでもよいし、芳香族ジアミンでもよい。
脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3−メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−シクロヘキサンジアミン、シス−1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上を併用してもよい。本発明のジアミンの共重合成分としてこれらの脂肪族ジアミンを使用する場合、その含有量は本発明のジアミンを含めたジアミン総量のうち1〜50mol%、好ましくは5〜30mol%の範囲である。
【0068】
芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンビス(3−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、p−ターフェニレンジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンビス(3−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。本発明のジアミンの共重合成分としてこれらの芳香族ジアミンを使用する場合、ジアミン総量に対して1〜50mol%、好ましくは5〜30mol%の範囲である。
【0069】
本発明のポリイミドは、式(II)で表される繰り返し単位のみからなってもよい。一方で、本発明のポリイミドは上述のように、H−PMDA以外のテトラカルボン酸二無水物を、及び/又は、本発明のジアミン以外のジアミンを、共重合して得てもよいため、式(II)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位をさらに含みえる。そのような場合、本発明のポリイミド中における式(II)で表される繰り返し単位の含有比率は、ポリイミドを構成する全繰り返し単位に対して、30モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0070】
本発明のポリイミドの固有粘度は0.4〜3dL/gの範囲であることが好ましく、0.5〜2dL/gの範囲であることがより好ましい。固有粘度が0.4dL/gを下回ると、ポリイミドの分子量が十分高くないために、ポリマー鎖どうしの絡み合いが不十分となり、製膜時にひび割れなどが発生し、製膜性に重大な問題を生じる恐れがある。一方、固有粘度が3dL/gを上回ると、ワニスの粘度が高すぎて、脱泡に長時間を要したり、塗工時のハンドリングが悪くなる恐れがある。
【0071】
<2−2.ポリイミドの製造方法>
本発明のポリイミドの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重付加反応させて、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を得た後、次いで当該ポリアミド酸を加熱脱水閉環反応(熱イミド化)させるか、又は当該ポリアミド酸に脱水環化剤を添加してイミド化(化学イミド化)することで、ポリイミドを製造することができる。また、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中高温で加熱還流して、一段階でポリイミドを製造(ワンポット重合)することもできる。
【0072】
<2−2−1.ポリイミド前駆体およびそのワニス>
上述の通り、本発明のポリイミドは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を経由して製造することができる。即ち、本発明のポリイミド前駆体は、式(13)で表されるテトラカルボン酸二無水物(H−PMDA)と式(I)で表される本発明のジアミンとを重付加反応させて得られるものである。したがって、本発明のポリイミド前駆体は、下記式(III)で表される繰り返し単位を含む。
【化56】
(式(III)中、
Aはシクロヘキサン環を含む二価の基を表し、
Xはアミド基を表し、
R
11〜R
18は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、
Zは、下記式(III−Z)で表される2価の基を表す。)
【化57】
(式(III−Z)中、
R
41及びR
42の一方がカルボキシル基を表し、もう一方がアミド基を表し、
R
43及びR
44の一方がカルボキシル基を表し、もう一方がアミド基を表す。)
【0073】
式(III)中のA、X及びR
11〜R
18は、式(I)中のA、X及びR
11〜R
18と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
式(III)中のZは、上述の通り、下記式(III−Z)で表される2価の基を表すが、これはH−PMDAと本発明のジアミンの開環付加反応により生じるアミド基に関して、その結合位置が1,4−結合である場合と1,3−結合である場合があることを意味する。即ち、本発明のポリイミド前駆体中には、開環重付加反応により生じるアミド基の結合位置が1,4−結合である繰り返し単位と1,3−結合である繰り返し単位とが混在することを意味する。
例えば、式(III−Z)においてR
41がカルボキシル基を表し、R
42がアミド基を表し、R
43がアミド基を表し、R
44がカルボキシル基を表す場合には、式(III)で表される繰り返し単位は下記式(III−1)で表される繰り返し単位である(この繰り返し単位においては、開環付加反応により生じるアミド基の結合位置は1,3−結合である)。このとき、本発明のポリイミド前駆体は、式(III−1)で表される繰り返し単位を含むが、式(III−1)で表される繰り返し単位のみからなるということを意味するものではない。
【化58】
(式(III−1)中のA、X及びR
11〜R
18は、式(III)中のA、X及びR
11〜R
18と同様に定義され、好ましい様態も同様である。)
【0074】
また、本発明のポリイミド前駆体は、本発明のポリイミドと同様に、H−PMDA以外のテトラカルボン酸二無水物を、及び/又は、本発明のジアミン以外のジアミンを、部分的に使用即ち共重合して得てもよい。それら共重合成分の具体的な化合物や含有量についてもポリイミドの場合と同様である。
【0075】
本発明のポリイミド前駆体の固有粘度は0.4〜3dL/gの範囲であることが好ましく、0.5〜2dL/gの範囲であることがより好ましい。固有粘度が0.4dL/gを下回ると、ポリイミド前駆体の分子量が十分高くないために、ポリマー鎖どうしの絡み合いが不十分となり、製膜時にひび割れなどが発生し、製膜性に重大な問題を生じる恐れがある。一方、固有粘度が3dL/gを上回ると、ワニスの粘度が高すぎて、脱泡に長時間を要したり、塗工時のハンドリングが悪くなる恐れがある。
【0076】
本発明のポリイミド前駆体ワニスは、本発明のポリイミド前駆体が有機溶媒に溶解してなるものである。即ち、本発明のポリイミド前駆体ワニスは、本発明のポリイミド前駆体及び有機溶媒を含み、当該ポリイミド前駆体は当該有機溶媒に溶解している。有機溶媒の詳細については、後述する。
本発明のポリイミド前駆体ワニスは、本発明のポリイミド前駆体を5〜40質量%含むことが好ましく、10〜30質量%含むことがより好ましい。
また、本発明のポリイミド前駆体ワニスは、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
【0077】
以下にポリイミド前駆体及びそのワニスの製造方法について説明する。ポリイミド前駆体及びそのワニスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、以下のような製造方法が挙げられるが、それに限定されるものではない。
まずジアミンを溶媒に溶解し、その溶液にテトラカルボン酸二無水物の粉末を徐々に添加し、0〜100℃、好ましくは20〜50℃で0.5〜120時間、好ましくは4〜72時間攪拌する。
【0078】
この際、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の物質量(mol)比(即ち仕込み比)は、ジアミンの総量1に対して、テトラカルボン酸二無水物の量を0.8〜1.1とすることができるが、好ましくは0.9〜1.1であり、より好ましくは0.95〜1.05である。分子量ができるだけ高いものを得るという観点から、モノマーは実質的に等モルで仕込まれる。
【0079】
また、ポリイミド前駆体重合の際のモノマー(溶質)濃度は、5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%である。この範囲より低いモノマー濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の分子量が十分に上がらない恐れがあり、逆にこの範囲より高いモノマー濃度では、モノマー及び生成するポリイミド前駆体の溶解性を十分確保することができない場合があり、ゲル化等反応溶液が不均一化する恐れがある。なお、ポリイミド前駆体の分子量が増加しすぎて、反応溶液が攪拌しにくくなった場合は、適宜適量の同一溶媒で希釈することもできる。
【0080】
上記ポリイミド前駆体を重合する際に使用される溶媒は、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体と反応せず且つこれらが十分に溶解すればよく、特に限定されないが例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン等の環状エステル溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が使用可能である。これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や除去のしやすさの観点から、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよびγ−ブチロラクトンが好適に用いられる。
使用する溶媒は場合によっては低吸湿性であることが好ましい。低吸湿性溶媒を用いることで、塗工の際、吸湿によりポリイミド前駆体が部分的に析出して塗膜が白化するリスクが低減することに加え、塗工時の湿度管理が不要になるなど低コスト化にも有利である。この観点から使用する溶媒としてγ−ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジグライム、トリグライム等が好適である。
【0081】
<2−2−2.ポリイミドワニス>
本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミドが有機溶媒に溶解してなるものである。即ち、本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド及び有機溶媒を含み、当該ポリイミドは当該有機溶媒に溶解している。有機溶媒の詳細については、後述する。
本発明のポリイミドは、溶媒溶解性が十分に高い場合、室温で安定な高溶質濃度のワニスとすることができる。本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミドを5〜40質量%含むことが好ましく、10〜30質量%含むことがより好ましい。
また、本発明のポリイミドワニスは、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
【0082】
本発明のポリイミドワニスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、以下のような製造方法が挙げられるが、それに限定されるものではない。
【0083】
窒素導入管、撹拌装置、ディーン・スタークトラップおよびコンデンサーを備えた反応容器中、ジアミンを室温で重合溶媒に溶かしておき、撹拌しながらテトラカルボン酸二無水物粉末を添加し、室温で0.5〜12時間撹拌して一旦ポリイミド前駆体のワニスを得る。その後反応溶液に共沸剤を加え、用いた溶媒の沸点にもよるが150〜250℃で加熱・撹拌してイミド化反応の副生成物である水を共沸留去しながら1〜12時間還流することでポリイミドワニスが得られる。ワニスの着色を抑制するという観点から、この反応は窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましいが、不活性ガスの導入を省略することもできる。
【0084】
上記のようにポリイミドワニスを得る前段階で一旦ポリイミド前駆体ワニスとしてもよいが、この工程は省略することができる。即ち、室温においてジアミン溶液に必要量のテトラカルボン酸二無水物粉末を全て添加した後、反応溶液に共沸剤を加え、用いた溶媒の沸点にもよるが150〜250℃で還流することで、一段階でポリイミドのワニスを得ることもできる。ポリイミドの溶媒溶解性が十分高い場合は、この方法が適用できるが、そうでない場合は、一旦ポリイミド前駆体を得るか否かに関わらず、還流中に沈殿物の析出やゲル化等反応溶液が不均一となり、イミド化反応が完結しないため、この方法は適用不可である。
【0085】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込比(モル比)は、ジアミンの総量1に対して、0.8〜1.1とすることができるが、好ましくは0.9〜1.1であり、より好ましくは0.95〜1.05である。分子量ができるだけ高いものを得るという観点から、モノマーは実質的に等モルで仕込まれる。
【0086】
また、ポリイミド重合の際のモノマー(溶質)濃度は、5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%である。この範囲より低いモノマー濃度で重合を行うと、ポリイミドの分子量が十分に上がらない恐れがあり、逆にこの範囲より高いモノマー濃度では、モノマー及び生成するポリイミドの溶解性を十分確保することができない場合があり、ゲル化や沈殿析出等、反応溶液不均一化する恐れがある。なおポリイミドの分子量が増加しすぎて、反応溶液が攪拌しにくくなった場合は、適宜適量の同一溶媒で希釈することもできる。
【0087】
ポリイミドを重合する際に使用される溶媒は、原料モノマーと生成するポリイミドが十分に溶解し、イミド化反応完結の観点から沸点が150℃以上であればよく、特に限定されないが例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン等の環状エステル溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が使用可能である。これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や沸点の観点から、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよびγ−ブチロラクトンが好適に用いられる。
使用する溶媒は場合によっては低吸湿性であることが好ましい。低吸湿性溶媒を用いることで、塗工の際、吸湿によりポリイミドが部分的に析出して塗膜が白化するリスクが低減することに加え、塗工時の湿度管理が不要になるなど低コスト化にも有利である。この観点から使用する溶媒としてγ−ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジグライム、トリグライム等が好適である。
【0088】
イミド化反応時に生ずる水を除去するために用いられる共沸剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、クメン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ピリジン等が挙げられる。沸点や除去のしやすさの観点からトルエンやキシレンが好適に用いられる。
【0089】
イミド化反応促進剤を添加して、イミド化反応の低温化や反応時間を短縮化することができる。その際使用可能なものとして例えば、ピリジン、ビピリジン、ピコリン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、アクリジン、フェナジン、ベンズイミダゾール、ベンゾオキサゾールおよびこれらの異性体、誘導体等の有機弱塩基が挙げられる。添加量は特に制限はないが、反応溶液中1〜50質量%の範囲である。溶媒の代わりにこれらを用いてもよい。ただし、上記イミド化促進剤はポリイミドワニスを着色し、結果としてポリイミドフィルムの透明性を悪化させる場合があるため、着色に注意しながら適宜選択し使用することが望ましい。
【0090】
上記のようにワンポット重合法で得られたポリイミドワニスをそのまま用いるかまたはこれを同一溶媒で適宜希釈してから大量の貧溶媒中にゆっくりと滴下して析出させ、濾過・洗浄・乾燥してポリイミド粉末として単離することができる。その際使用可能な貧溶媒としては、重合溶媒とよく混和し、ポリイミドを溶解しない溶媒であれば特に制限はないが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等が用いられる。これらを2種類以上混合して使用してもよい。
得られたポリイミド粉末を5〜40質量%の溶質濃度で溶媒に再溶解してポリイミドワニスとしてもよい。この際に使用可能な溶媒として、ワンポット重合法でポリイミドを得る重縮合反応の際に使用可能な前述の溶媒と同一なものが用いられる。ポリイミド粉末を溶媒に再溶解する際に、ワニスが著しく着色しない範囲であれば40〜200℃で1分〜24時間加熱しても差し支えない。
【0091】
また、ポリイミドの溶媒溶解性が十分高い場合、ポリイミド前駆体ワニスを同一溶媒で適宜希釈し、塩基と脱水縮合剤の混合物からなる脱水閉環剤(以下化学イミド化剤と称する)をゆっくりと添加し、20〜100℃で2〜24時間撹拌することで、反応溶液を均一に保持しながらイミド化(以下化学イミド化と称する)を完結することができる。化学イミド化工程中に沈殿析出やゲル化が起こると、イミド化が完結しない場合があり好ましくない。
【0092】
化学イミド化剤中の塩基としては有機3級アミンが使用可能であり、特に限定されないが、例えばピリジン、ピコリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等が用いられる。毒性やコストの観点からピリジンが好適に使用される。
【0093】
化学イミド化剤中の脱水縮合剤としては、特に限定されず、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が使用可能であるが、除去の容易さやコストの観点から無水酢酸が好適に用いられる。
【0094】
化学イミド化剤中の脱水縮合剤と塩基の混合比は特に限定されず、脱水縮合剤の質量を1とすると、塩基の質量は0.1〜5の範囲であり、好ましくは0.3〜2の範囲である。
【0095】
化学イミド化剤は、その中に含まれる脱水縮合剤がポリイミド前駆体中のカルボキシル基量即ち理論脱水量(mol)の1〜20倍量の範囲になるよう添加する。化学イミド化剤の添加量が少ない程、反応速度が低下するためイミド化の完結に長時間を要する。一方、化学イミド化剤の添加量が多すぎると、溶媒が溶解力を失い、反応溶液の均一性が保持できなくなる恐れがある。この観点から、脱水縮合剤は理論脱水量(mol)の3〜10倍量の範囲であることが好ましい。
【0096】
化学イミド化反応の完結は、化学イミド化後の反応溶液からポリイミドを粉末として単離したものを重水素化溶媒に溶解して
1H−NMRスペクトルを測定し、ポリイミド前駆体由来のNHCOプロトンやCOOHプロトンの完全な消失より確認することができる。また、4〜5μm厚のポリイミド薄膜を作製するか、ポリイミド粉末を用いてKBr法によりFT−IRスペクトルを測定して、例えばポリイミド前駆体由来のアミドC=O伸縮振動バンドの完全な消失とイミド特性吸収バンドの出現からも化学イミド化の完結を確認できる。
【0097】
化学イミド化剤を添加して得られた均一なポリイミドワニスをそのまま製膜工程に使用することもできるが、反応溶液中に残存している化学イミド化剤が製膜工程でフィルムを着色させる恐れがあるため、製膜工程には化学イミド化剤を除去したワニスを用いる方が好ましい。具体的には、化学イミド化後、反応溶液を適宜重合溶媒で希釈し、大量の貧溶媒例えば水、メタノール、エタノール、プロパノールやこれらの混合溶液中にゆっくりと滴下してポリイミドを析出させ、濾過・洗浄・乾燥してポリイミド粉末として単離し、これを5〜40質量%の溶質濃度で純粋な溶媒に再溶解して製膜工程に適したワニスを得ることができる。この際に使用可能な溶媒として、ワンポット重合法でポリイミドを得る重縮合反応の際に使用可能な前述の溶媒と同一なものが用いられる。ポリイミド粉末を溶媒に再溶解する際に、ワニスが著しく着色しない範囲であれば40〜200℃で1分〜24時間加熱しても差し支えない。
【0098】
<3.ポリイミドフィルム>
本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミドを含む。本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミド前駆体ワニスを基板上に塗布・乾燥し、更にこれをより高温で加熱してイミド化させる従来の二段階法(熱イミド化法)により製造することができる。また、本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミドワニスを基板上に塗布・乾燥することによっても製造することができる。
【0099】
まず、ポリイミド前駆体ワニスからポリイミドフィルムを製造する方法について説明する。本発明のポリイミド前駆体ワニスをガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に塗布し、強制対流乾燥器中40〜120℃、好ましくは50〜100℃で10分〜4時間好ましくは0.5〜2時間乾燥する。得られたポリイミド前駆体フィルムを基板上で200〜350℃、好ましくは250〜330℃で加熱することで本発明のポリイミドフィルムが得られる。この際、加熱温度はイミド化反応を完結するという観点から200℃以上、ポリイミドフィルムの着色を抑制するという観点から、350℃以下が好ましく、更に真空中または窒素等の不活性ガス中で熱イミド化を行うことが好ましい。
【0100】
次に上記ワンポット重合法や化学イミド化法により得られた安定なポリイミドワニスからポリイミドフィルムを作製する方法について説明する。本発明のポリイミドワニスをガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に塗布し、40〜220℃、好ましくは60〜200℃で10分〜4時間、好ましくは0.5〜2時間乾燥する。続いて更に昇温し、200〜350℃、好ましくは250〜330℃で10分〜2時間、好ましくは0.5〜1時間熱処理することでポリイミドフィルムが得られる。ポリイミドフィルムの着色を抑制するという観点から、熱処理は350℃以下で行うことが好ましく、更に真空中または窒素等の不活性ガス中で行うことが好ましい。また、ポリイミドフィルム表面の平滑性および低熱膨張特性の観点から上記乾燥・熱処理工程は緩やかな昇温となるようにできるだけ多段階で行うことが好ましく、更に200℃を越える乾燥・熱処理工程は真空中または窒素等の不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0101】
本発明のポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されず、使用目的に応じて適宜調節することができる。LCD、OLED、EP等の画像表示装置におけるガラス基板代替プラスチック基板材料として用いる場合、フィルム厚は20〜100μmが好適な範囲であり、フレキシブル回路基板として用いる場合であれば、30〜200μmが好適な範囲である。
また、本発明のポリイミドフィルムは、300℃以上のガラス転移温度及び45ppm/K以下の線熱膨張係数を有することが好ましい。
【0102】
本発明のポリイミドフィルムは、上述した通り優れた特性を有することから、LCD、OLED、EP等の画像表示装置におけるプラスチック基板として好適に使用できる。即ち、本発明の画像表示装置用プラスチック基板は、本発明のポリイミドフィルムを含む。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0104】
<赤外線吸収(FT−IR)スペクトル>
ジアミンの赤外線吸収スペクトルは、日本分光社製フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR4100)を用い、KBr法で測定した。
<
1H−NMRスペクトル>
ジアミンおよびポリイミドフィルムの
1H−NMRスペクトルは、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d
6)を溶媒として、日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用いて測定した。
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
ジアミンの融点および融解曲線は、ネッチ・ジャパン社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用い、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。
<固有粘度>
ポリイミド前駆体およびポリイミドの還元粘度は、溶質濃度0.5質量%、30℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。この値は固有粘度と見なすことができ、この値が高い程分子量が高いことを表す。
<ガラス転移温度(T
g)>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)のガラス転移温度(T
g)は、ネッチ・ジャパン社製熱機械分析装置(TMA4000)を用い、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失エネルギー曲線のピーク温度からを求めた。T
gが高いほど、物理的耐熱性が高いことを表す。
<線熱膨張係数(CTE)>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)のCTEは、ネッチ・ジャパン社製熱機械分析装置(TMA4000)を用い、荷重0.5g/膜厚1μm当たり、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値として求めた。CTE値が0に近いほど寸法安定性にすぐれていることを表す。
<5%重量減少温度(T
d5)>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)の5%重量減少温度(T
d5)は、ネッチ・ジャパン社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中および空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(20μm厚)の質量が、初期質量の5%減少した時の温度から求めた。T
d5値が高いほど化学的耐熱性(熱安定性)が高いことを表す。
<引張弾性率、破断伸び、破断強度>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)の機械的特性はエー・アンド・デイ社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて評価した。試験片(30mm長×3mm幅×約20μm厚)を作製し、引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施して、応力−歪曲線の初期勾配から引張弾性率、破断点応力から破断強度、破断時の伸び率から破断伸びを求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを表す。
<ポリイミドフィルムの透明性:光透過率、カット・オフ波長、黄色度、ヘイズ>
ポリイミドフィルムの透明性は以下の光学特性から評価した。日本分光社製紫外−可視分光光度計(V−530)を用いて波長200〜800nmの範囲でポリイミドフィルム(約20μm厚)の光透過率曲線を測定し、波長400nmにおける光透過率および、光透過率が事実上ゼロとなる波長(カット・オフ波長)を求めた。またこのスペクトルを基に、日本分光社製色彩計算プログラムを用い、ASTM E313規格に基づいて黄色度(YI値)を求めた。更に、日本電色工業社製ヘイズメーター(NDH4000)を用い、JIS K7361−1およびJIS K7136規格に基づき、全光線透過率および濁度(ヘイズ)を求めた。
【0105】
<H−PMDAの合成>
内容積5リットルのハステロイ製(HC22)オートクレーブにピロメリット酸552g、活性炭にロジウムを担持させた触媒(エヌ・イーケムキャット株式会社(N.E. Chemcat Corporation)製)200g、水1656gを仕込み、攪拌をしながら反応器内を窒素ガスで置換した。次に水素ガスで反応器内を置換し、反応器の水素圧を5.0MPaとして60℃まで昇温した。水素圧を5.0MPaに保ちながら2時間反応させた。反応器内の水素ガスを窒素ガスで置換し、反応液をオートクレーブより抜き出し、この反応液を熱時濾過して触媒を分離した。濾過液をロータリーエバポレーターで減圧下に水を蒸発させて濃縮し、結晶を析出させた。析出した結晶を室温で固液分離し、乾燥して1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸481g(収率85.0%)を得た。
続いて、得られた1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸450gと無水酢酸4000gとを、5リットルのガラス製セパラブルフラスコ(ジムロート冷却管付)に仕込み、攪拌しながら反応器内を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下で溶媒の還流温度まで昇温し、10分間溶媒を還流させた。攪拌しながら室温まで冷却し、結晶を析出させた。析出した結晶を固液分離し、乾燥して一次結晶を得た。更に分離母液をロータリーエバポレーターで減圧下に濃縮し、結晶を析出させた。この結晶を固液分離し、乾燥して二次結晶を得た。一次結晶、二次結晶を合わせて1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(式(13)で表されるH−PMDA)375gが得られた(無水化の収率96.6%)。
【0106】
[実施例1]
<ジアミンの合成(式(I−1−1)中、R
14=H、R
18=H)>
3つ口フラスコ中、イハラニッケイ化学工業社製トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド(t−CHDCC、10mmol、2.09g)をよく脱水したテトラヒドロフラン(THF、5.4mL)に溶解し、セプタムキャップで密封してこれをA液とした。次に別の容器中、東京化成工業社製4−ニトロアニリン(4−NA、23mmol、3.18g)をTHF8.2mLに溶解し、これにピリジン2.4mL(30mmol)を加えて同様に密封しB液とした。A液を氷浴で冷やして撹拌しながら、これにB液をシリンジで徐々に滴下し、数時間撹拌した後、更に室温で12時間撹拌を続けた。析出した沈殿物を濾別して、少量のTHF、次いで水で十分に洗浄して副生成物のピリジン塩酸塩を溶解除去し、メタノールで洗浄して120℃で12時間真空乾燥し、収率93%で黄白色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3320/3287/3221(アミド基、N−H伸縮振動)、3090(芳香族C−H伸縮振動)、(2945/2867(脂肪族C−H伸縮振動)、1677(アミド基、C=O伸縮振動)、1555/1337(ニトロ基、N−O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):10.52(s、2H(実測積分強度2.05H)、NHCO)、8.22(d、4H(4.00H)、J=8.6Hz、末端ニトロベンゼンの2,6−プロトン)、7.86(d、4H(4.02H)、J=8.7Hz、末端ニトロベンゼンの3,5−プロトン)、2.43(m、2H(2.10H)、中央シクロヘキサンの1,4−プロトン)、2.00−1.97(m、4H(3.96H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−アクシャルプロトン)、1.53−1.48(m、4H(3.99H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−エクアトリアルプロトン)。これらの分析結果より、この生成物は下記式(40):
【化59】
で表されるジニトロ体であることが確認された。
上記のジニトロ体の還元は次のようにして行った。まずこのジニトロ体(3.09g)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)300mLに溶解し、Pd/C(0.378g)を加えた。この溶液を水素雰囲気中80℃で5時間還流し、Pd/Cを熱濾過して分離除去した。濾液をエバポレーターで濃縮後、大量の水中に滴下して析出させ、濾別して水およびメタノールで洗浄し、120℃で12時間真空乾燥し、収率52%で融点385℃の桃白色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3376(アミノ基、N−H伸縮振動)、3294/3222/3172(アミノ基+アミド基、N−H伸縮振動)、3034(脂肪族C−H伸縮振動)、2952/2915/2853(脂肪族C−H伸縮振動)、1669/1536(アミド基、C=O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):9.40(s、2H(実測積分強度2.01H)、NHCO)、7.22(d、4H(4.00H)、J=8.8Hz、末端アニリンの3,5−プロトン)、6.47(d、4H(4.01H)、J=8.7Hz、末端アニリンの2,6−プロトン)、4.81(s、4H(4.07H)、NH
2)、2.25(m、2H(2.01H)、中央シクロヘキサンの1,4−プロトン)、1.85−1.84(m、4H(4.00H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−アクシャルプロトン)、1.47−1.42(m、4H(4.01H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−エクアトリアルプロトン)。元素分析(分子量352.44):推定値C;68.16%、H;6.86%、N;15.90%、分析値C;67.99%、H;6.65%、N;16.03%。これらの分析結果より、この生成物は下記式(41):
【化60】
で表される目的とするジアミンであることが確認された。
【0107】
[実施例2]
<ジアミンの合成(式(I−1−1)中、R
14=CH
3、R
18=CH
3)>
3つ口フラスコ中、イハラニッケイ化学工業社製トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド(t−CHDCC、10mmol、2.09g)をよく脱水したテトラヒドロフラン(THF、5.5mL)に溶解し、セプタムキャップで密封してこれをA液とした。次に別の容器中、東京化成工業社製2−メチル−4−ニトロアニリン(2M−4NA、25mmol、3.81g)をTHF10mLに溶解し、これにピリジン3.3mL(40mmol)を加えて同様に密封しB液とした。A液を氷浴で冷やして撹拌しながら、これにB液をシリンジで徐々に滴下し、数時間撹拌した後、更に室温で12時間撹拌を続けた。析出した沈殿物を濾別して、少量のTHF、次いで水で十分に洗浄して副生成物のピリジン塩酸塩を溶解除去し、100℃で12時間真空乾燥し、収率91%で黄白色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3279(アミド基、N−H伸縮振動)、2942/2863(脂肪族C−H伸縮振動)、1660(アミド基、C=O伸縮振動)、1534/1348(ニトロ基、N−O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):9.49(s、2H(実測積分強度2.00H)、NHCO)、8.13(s、2H(2.01H)、末端3−メチルニトロベンゼンの2−プロトン)、8.06(dd、2H(2.00H)、J=8.8、2.4Hz、末端3−メチルニトロベンゼンの6−プロトン)、7.94(d、2H(2.01H)、J=9.0Hz、末端3−メチルニトロベンゼンの5−プロトン)、2.51(m、2H(1.97H)、中央シクロヘキサンの1,4−プロトン)、2.36(s、6H(6.08H)、CH
3)、1.56−1.53(m、4H(3.96H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−アクシャルプロトン)、1.51−1.38(m、4H(4.02H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−エクアトリアルプロトン)。これらの分析結果より、この生成物は下記式(42):
【化61】
で表されるジニトロ体であることが確認された。
上記のジニトロ体の還元は次のようにして行った。まずこのジニトロ体(1.50g、3.4mmol)をDMF(280mL)に溶解し、Pd/C(0.153g)を加えた。この溶液を水素雰囲気中80℃で5時間還流し、Pd/Cを熱濾過して分離除去した。濾液をエバポレーターで濃縮後、大量の水中に滴下して析出させ、濾別して水およびメタノールで洗浄し、100℃で12時間真空乾燥し、収率80%で融点326℃の桃白色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3380(アミノ基、N−H伸縮振動)、3272(アミノ基+アミド基、N−H伸縮振動)、3025(脂肪族C−H伸縮振動)、2949/2930/2853(脂肪族C−H伸縮振動)、1652/1529(アミド基、C=O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):8.92(s、2H(実測積分強度2.00H)、NHCO)、6.85(d、2H(2.02H)、J=8.4Hz、末端3−メチルアニリンの5−プロトン)、6.43(sd、2H(2.02H)、J=2.2Hz、末端3−メチルアニリンの2−プロトン)、6.38(dd、2H(1.97H),J=8.3、2.5Hz、末端3−メチルアニリンの6−プロトン)、5.27(s、4H(4.07H)、NH
2)、2.30(m、2H(2.01H)、中央シクロヘキサンの1,4−プロトン)、2.01(s、6H(5.96H)、CH
3)、1.89−1.88(m、4H(3.98H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−アクシャルプロトン)、1.49−1.44(m、4H(4.00H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−エクアトリアルプロトン)。これらの分析結果より、この生成物は下記式(43):
【化62】
で表される目的とするジアミンであることが確認された。
【0108】
[実施例3]
<ジアミンの合成(式(I−1−1)中、R
14=OCH
3、R
18=OCH
3)>
3つ口フラスコ中、イハラニッケイ化学工業社製トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド(t−CHDCC、10mmol、2.09g)をよく脱水したテトラヒドロフラン(THF、5.5mL)に溶解し、セプタムキャップで密封してこれをA液とした。次に別の容器中、東京化成工業社製2−メトキシ−4−ニトロアニリン(2MeO−4NA、25mmol、4.20g)をTHF19mLに溶解し、これにピリジン3.3mL(40mmol)を加えて同様に密封しB液とした。A液を氷浴で冷やして撹拌しながら、これにB液をシリンジで徐々に滴下し、数時間撹拌した後、更に室温で12時間撹拌を続けた。析出した沈殿物を濾別して、少量のTHF、次いで水で十分に洗浄して副生成物のピリジン塩酸塩を溶解除去し、100℃で12時間真空乾燥し、収率89%で黄白色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3311(アミド基、N−H伸縮振動)、3104(芳香族C−H伸縮振動)、2941/2866(脂肪族C−H伸縮振動)、1665(アミド基、C=O伸縮振動)、1539/1348(ニトロ基、N−O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):9.53(s、2H(実測積分強度2.00H)、NHCO)、8.40(d、2H(1.99H)、J=9.0Hz、末端3−メトキシニトロベンゼンの6−プロトン)、7.89(dd、2H(2.02H)、J=9.0、2.5Hz、末端3−メトキシニトロベンゼンの5−プロトン)、7.81(sd、2H(2.00H)、J=2.5Hz、末端3−メチル−ニトロベンゼンの2−プロトン)、3.99(s、6H(6.00H)、OCH
3)、2.71(m、2H(2.01H)、中央シクロヘキサンの1,4−プロトン)、1.92−1.91(m、4H(4.01H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−アクシャルプロトン)、1.50−1.45(m、4H(4.01H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−エクアトリアルプロトン)。これらの分析結果より、この生成物は下記式(18):
【化63】
で表されるジニトロ体であることが確認された。
上記のジニトロ体の還元は次のようにして行った。まずこのジニトロ体(1.50g)をDMF(280mL)に溶解し、Pd/C(0.151g)を加えた。この溶液を水素雰囲気中80℃で5時間還流し、Pd/Cを熱濾過して分離除去した。濾液をエバポレーターで濃縮後、大量の水中に滴下して析出させ、濾別して水およびメタノールで洗浄し、100℃で12時間真空乾燥し、収率57%で融点292℃の薄橙色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3368(アミノ基、N−H伸縮振動)、3300(アミノ基+アミド基、N−H伸縮振動)、2930/2861(脂肪族C−H伸縮振動)、1656/1530(アミド基、C=O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):8.60(s、2H(実測積分強度2.00H)、NHCO)、7.29(d、2H(2.01H)、J=8.4Hz、末端3−メチルアニリンの5−プロトン)、6.25(sd、2H(2.01H)、J=2.2Hz、末端3−メチルアニリンの2−プロトン)、6.07(dd、2H(2.00H),J=8.4、2.3Hz、末端3−メチルアニリンの6−プロトン)、4.95(s、4H(4.00H)、NH
2)、3.70(s、6H(6.01H)、OCH
3)、2.36(m、2H(2.01H)、中央シクロヘキサンの1,4−プロトン)、1.82−1.81(m、4H(4.01H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−アクシャルプロトン)、1.47−1.37(m、4H(4.00H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−エクアトリアルプロトン)。これらの分析結果より、この生成物は下記式(19):
【化64】
で表される目的とするジアミンであることが確認された。
【0109】
[実施例4]
<ジアミンの合成(式(I−2−1)中、R
13=H、R
17=H)>
3つ口フラスコ中、イハラニッケイ化学工業社製トランス−1,4−シクロヘキサンジアミン(t−CHDA、10.8mmol、1.231g)をよく脱水したTHF、5.5mLに溶解し、これに脱酸剤としてピリジン3.2mLを加え、セプタムキャップで密封してA液とした。次に別の容器中、東京化成工業社製4−ニトロベンゾイルクロリド(4−NBC)3.964g(24mmol)をTHF10mLに溶解し、同様に密封しB液とした。A液を氷浴で冷やして撹拌しながら、これにB液をシリンジで徐々に滴下し、数時間撹拌した後、更に室温で12時間撹拌を続けた。析出した沈殿物を濾別して、少量のTHF、次いで水で十分に洗浄して副生成物のピリジン塩酸塩を溶解除去し、100℃で12時間真空乾燥し、収率81%で薄黄白色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3311(アミド基、N−H伸縮振動)、3119/3058(芳香族C−H伸縮振動)、2947/2852(脂肪族C−H伸縮振動)、1637(アミド基、C=O伸縮振動)、1535/1346(ニトロ基、N−O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):8.65(d、2H(実測積分強度2.00H)、J=7.7Hz、NHCO)、8.32(d、4H(4.01H)、J=8.7Hz、末端ニトロベンゼンの2,6−プロトン)、8.08(d、4H(4.01H)、J=8.7Hz、末端ニトロベンゼンの3,5−プロトン)、3.9−3.8(m、2H(2.01H)、中央シクロヘキサンの1,4−プロトン)、1.95−1.94(m、4H(3.89H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−アクシャルプロトン)、1.49(m、4H(3.89H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−エクアトリアルプロトン)。これらの分析結果より、この生成物は下記式(22):
【化65】
で表されるジニトロ体であることが確認された。
上記のジニトロ体の還元は次のようにして行った。まずこのジニトロ体(1.50g)をDMF(260mL)に溶解し、Pd/C(0.150g)を加えた。この溶液を水素雰囲気中80℃で4.5時間還流し、Pd/Cを熱濾過して分離除去した。濾液をエバポレーターで濃縮後、大量の水中に滴下して析出させ、濾別して水およびメタノールで洗浄し、100℃で12時間真空乾燥し、収率80%で融点374℃の白色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3489(アミノ基、N−H伸縮振動)、3328/3215(アミノ基+アミド基、N−H伸縮振動)、3034(芳香族C−H伸縮振動)、2949/2866(脂肪族C−H伸縮振動)、1625/1534(アミド基、C=O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):7.73(d、2H(実測積分強度2.00H)、J=8.0Hz、NHCO)、7.57(d、4H(4.04H)、J=8.4Hz、末端アニリンの3,5−プロトン)、6.53(d、4H(4.03H)、J=8.4Hz、末端アニリンの2,6−プロトン)、5.57(s、4H(4.02H)、NH
2)、3.71(m、2H(2.00H)、中央シクロヘキサンの1,4−プロトン)、1.84−1.83(m、4H(4.01H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−アクシャルプロトン)、1.43−1.41(m、4H(4.05H)、中央シクロヘキサンの2,3,5,6−エクアトリアルプロトン)。
これらの分析結果より、この生成物は下記式(23):
【化66】
で表される目的とするジアミンであることが確認された。
【0110】
[実施例5]
<ジアミンの合成(式(I−3−1)中、R
11=H、R
18=H)>
反応容器中、4−アミノ安息香酸(以下4−ABAと称する)2.75g(20mmol)をよく脱水したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)32mLに溶解してA液とした。次に下記式(31):
【化67】
で表される、シス、シス−核水素化トリメリット酸無水物(以下H−TMAと称する)粉末4.76g(24mmol)をA液に少しずつ加え、密封して室温で撹拌した。6時間後、薄層クロマトグラフィーにより4−ABAの消失が確認されたため、無水酢酸(9.4mL)とピリジン(4mL)からなる脱水環化剤をこの溶液にゆっくりと添加し、密封して室温で12時間撹拌した。反応後、反応溶液を大量の水中にゆっくりと滴下して沈殿を析出させ、濾別して真空乾燥し、収率79%で融点332℃の白色粉末を得た。FT−IRおよび
1H−NMRスペクトルより、生成物は下記式(44):
【化68】
で表されるジカルボン酸であることが確認された。
次に上記ジカルボン酸3.96gおよび塩化チオニル20〜30mLを3つ口フラスコに入れ、触媒としてDMFを3滴添加し、窒素雰囲気中80℃で3時間還流した。反応後、ベンゼンを添加し、40℃、減圧下で塩化チオニルを共沸留去し、白色粉末を得た。FT−IRおよび
1H−NMRスペクトルより、生成物は下記式(45):
【化69】
で表されるジカルボン酸ジクロリドであることが確認された。
次に3つ口フラスコ中、上記ジカルボン酸ジクロリド4.42g(12.5mmol)をTHF11.5mLに溶解し、セプタムキャップで密封してこれをA液とした。別の容器中、東京化成工業社製4−ニトロアニリン(4−NA、27.5mmol、3.80g)をTHF9.8mLに溶解し、これにピリジン2.4mL(30mmol)を加えて密封しB液とした。A液を氷浴で冷やして撹拌しながら、これにB液をシリンジで徐々に滴下し、数時間撹拌した後、更に室温で12時間撹拌を続けた。析出した沈殿物を濾別して、少量のTHF、次いで水で十分に洗浄して副生成物のピリジン塩酸塩を溶解除去し、エタノールで洗浄して100℃で12時間真空乾燥し、収率72%で黄色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3341(アミド基、N−H伸縮振動)、3086(芳香族C−H伸縮振動)、2938/2865(脂肪族C−H伸縮振動)、1775/1712(イミド基、C=O伸縮振動)、1683(アミド基、C=O伸縮振動)、1543/1334(ニトロ基、N−O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):10.90(s、1H(実測積分強度1.00H)、芳香族C−CONH、アミドプロトン)、10.58(s、1H(1.00H)、NHCO−脂肪族C、アミドプロトン)、8.29(d、2H(2.00H)、J=8.3Hz、芳香族C−CONH−Ph−NO
2、ニトロベンゼンの2,6−プロトン)、8.23(d、2H(2.00H)、J=9.3Hz、NO
2−Ph−NHCO−脂肪族C、ニトロベンゼンの2,6−プロトン)、8.11−8.06(m、4H(4.01H)、イミド基N−Ph、2,3,5,6−プロトン)、7.85(d、2H(1.99H)、J=9.3Hz、NO
2−Ph−NHCO−脂肪族C、ニトロベンゼンの3,5−プロトン)、7.54(d、2H(2.00H)、J=8.6Hz、芳香族C−CONH−Ph−NO
2、ニトロベンゼンの3,5−プロトン)、3.18−1.46(m、9H(8.00)、脂肪族C−H)。これらの分析結果より、この生成物は下記式(46):
【化70】
で表されるジニトロ体であることが確認された。
上記のジニトロ体の還元は次のようにして行った。まずこのジニトロ体(5.39g,9.66mmol)をDMF(52mL)に溶解し、Pd/C(0.538g)を加えた。この溶液を水素雰囲気中70℃で5時間還流し、Pd/Cを熱濾過して分離除去した。濾液をエバポレーターで濃縮後、大量の水中に滴下して析出させ、濾別して水およびメタノールで洗浄し、120℃で12時間真空乾燥し、収率92%で融点274℃の白色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm
−1):3353(アミノ基+アミド基、N−H伸縮振動)、3042(芳香族C−H伸縮振動)、2937/2866(脂肪族C−H伸縮振動)、1774/1704(イミド基、C=O)、1655/1541(アミド基、C=O伸縮振動)。
1H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d
6,δ,ppm):9.96(s、1H(実測積分強度1.00H)、芳香族C−CONH、アミドプロトン)、9.41(s、1H(1.00H)、NHCO−脂肪族C、アミドプロトン)、8.01(d、2H(2.00H)、J=8.5Hz、イミド基N−Ph、2,6−プロトン)、7.45(d、2H(2.00H)、J=8.5Hz、イミド基N−Ph、3,5−プロトン)、7.38(d、2H(2.00H)、J=8.7Hz、芳香族C−CONH−Ph−NH
2、アニリンの3,5−プロトン)、7.21(d、2H(2.00H),J=8.8Hz、NH
2−Ph−NHCO−脂肪族C、アニリンの3,5−プロトン)、6.55(d、2H(2.00H)、J=8.7Hz、芳香族C−CONH−Ph−NH
2、アニリンの2,6−プロトン)、6.49(d、2H(1.98H)、J=8.8Hz、NH
2−Ph−NHCO−脂肪族C、アニリンの2,6−プロトン)、4.93(s、4H(4.00)、NH
2)、3.13−1.39(m、9H(8.00H)、脂肪族C−H)。これらの分析結果より、この生成物は下記式(47):
【化71】
で表される目的とするジアミンであることが確認された。
【0111】
<重合、製膜およびポリイミドフィルムの特性評価>
[実施例6]
よく乾燥した反応容器中に実施例1に記載の下記式(41):
【化72】
で表される本発明のジアミン(3mmol)を入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したNMPを加えて撹拌した。この溶液に、H−PMDA(1.5mmol)とH’−PMDA(1.5mmol)の粉末を混合したものを、徐々に加え撹拌を続けた。重合反応は溶質濃度30質量%から開始し、徐々に溶媒を追加して最終的には溶質濃度17.5質量%まで同一溶媒で希釈し、室温で72時間攪拌して均一で粘稠なポリイミド前駆体ワニスを得た。NMP中、30℃、0.5質量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の固有粘度は0.87dL/gであった。
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、熱風乾燥器中80℃で3時間乾燥してポリイミド前駆体フィルムを作製した。これをガラス基板ごと真空中250℃で1時間、更に300℃で1時間熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして更に真空中300℃で1時間熱処理を行い、膜厚約20μmの柔軟なポリイミドフィルムを得た。イミド化が完結したことは、
1H−NMRスペクトルにより確認された。
得られたポリイミドフィルムについて動的粘弾性測定を実施したところ、371℃にT
gが見られ、高い物理的耐熱性を示した。また線熱膨張係数は22.0ppm/Kであり、低熱膨張特性を示した。また5%重量減少温度(T
d5)は窒素中で410℃、空気中で360℃であった。全光線透過率は86.7%、波長400nmにおける光透過率は61.2%、カット・オフ波長は307nm、黄色度7.7、ヘイズ0.87%であり、比較的高い透明性を維持していた。
【0112】
[実施例7]
実施例6で使用したジアミンの代わりに、実施例3に記載の下記式(19):
【化73】
で表される本発明のジアミンを用い、実施例6に記載したものと同一のテトラカルボン酸二無水物と同様な条件で重合反応させて、均一なポリイミド前駆体ワニスを得た。このポリイミド前駆体の固有粘度0.68dL/gであった。また、実施例6の記載と同様な方法で製膜・熱イミド化して膜厚約20μmのポリイミドフィルムを作製した。イミド化が完結したことは、
1H−NMRスペクトルにより確認された。膜物性を評価したところ、このポリイミドフィルムのT
gは335℃であった。またCTEは39.5ppm/Kであり、比較的低い値を示した。また、全光線透過率85.9%、400nmにおける光透過率59.4%、ヘイズ2.4%と比較的良好な透明性を有していた。
【0113】
[実施例8]
実施例6で使用したジアミンの代わりに、実施例5に記載の下記式(47):
【化74】
で表される本発明のジアミン(13mmol)を用い、これと等モルのH−PMDAをγ−ブチロラクトンに溶解して溶質濃度40質量%の溶液とした。これを窒素雰囲気中で昇温していき190℃で3時間還流し、一段階でポリイミドの重合を行った。得られたポリイミドの固有粘度は0.44dL/gであった。ポリイミドワニスをガラス基板に塗布し、80℃で2時間乾燥し、次いで真空中で250℃1時間乾燥した後、ガラス基板から剥がして、更に真空中250℃で1時間熱処理して膜厚約20μmの柔軟なポリイミドフィルムを得た。イミド化が完結したことは、
1H−NMRスペクトルにより確認された。膜物性を評価したところ、このポリイミドフィルムのT
gは352℃であった。またCTEは43.9ppm/Kであり、比較的低い値を示した。また、全光線透過率87.8%、400nmにおける光透過率80.9%、カット・オフ波長335nm、黄色度3.1、ヘイズ0.33%と比較的良好な透明性を有していた。窒素中での5%重量減少温度は436℃であった。このフィルムの機械的特性を評価したところ、引張弾性率は3.24GPa、破断伸びは13.4%(最大値23.0%)、破断強度は0.079GPaであり、可撓性を有していた。
【0114】
[比較例1]
ジアミンとして2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(以下BAPPと称する)を選択し、これと等モルのH−PMDAをγ−ブチロラクトンに溶解し、窒素雰囲気中190℃で2.5時間還流し、実施例8と同様にして一段階でポリイミドを重合した。得られたポリイミドの固有粘度は0.49dL/gであった。ポリイミドワニスをガラス基板に塗布し、80℃で2時間乾燥し、真空中で200℃1時間乾燥した後、ガラス基板から剥がして、真空中250℃で1時間熱処理して膜厚約20μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの全光線透過率は89.1%、波長400nmにおける光透過率は86.6%、カット・オフ波長は295nm、黄色度1.3、ヘイズ0.57%であり、高い透明性を有していた。窒素中での5%重量減少温度は483℃であった。しかし、T
gは239℃と耐熱性に乏しかった。またCTEは60.2ppm/Kであり、低熱膨張特性も有していなかった。
【0115】
[比較例2]
ジアミンとして2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を選択し、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、この溶液に等モルのH−PMDA粉末を徐々に加えて室温で撹拌し、ポリイミド前駆体を得た。ポリイミド前駆体の固有粘度は0.17dL/gと非常に低く、実施例6に記載の方法に従って製膜を試みたが、膜が激しくひび割れ、ポリイミド前駆体の段階で製膜困難であった。また、このポリイミド前駆体ワニスを適宜溶媒で希釈し、化学イミド化剤を添加して化学イミド化完了後、大量の貧溶媒中にゆっくり滴下して沈殿を析出させ、濾別・洗浄・乾燥してポリイミド粉末を得た。このポリイミドの固有粘度は0.21dL/gであり、これを搾取溶媒に再溶解して製膜を試みたが、分子量が低く過ぎて製膜困難であった。更に常法に従って、ポリイミドの一段階重合を試みたが、得られたポリイミドワニスを用いて製膜することは困難であった。