特許第6768241号(P6768241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6768241シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化方法及びシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペン含有溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768241
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化方法及びシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペン含有溶液
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20201005BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20201005BHJP
   A23L 2/42 20060101ALN20201005BHJP
【FI】
   C11B9/00 B
   A61K9/08
   A61K47/26
   A61K47/06
   !A23L2/00 N
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-130286(P2016-130286)
(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公開番号】特開2018-2842(P2018-2842A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591014097
【氏名又は名称】サンエイ糖化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】井上 孝司
(72)【発明者】
【氏名】平光 正典
(72)【発明者】
【氏名】岡田 実紀
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−033664(JP,A)
【文献】 特開2005−253380(JP,A)
【文献】 特開2007−022915(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0173044(US,A1)
【文献】 米国特許第03829583(US,A)
【文献】 特開平06−007184(JP,A)
【文献】 蜂蜜中のマルトビオン酸の存在について,応用糖質科学,(2012), Vol.2, No.3,p.49
【文献】 石川 洋哉,低温真空技術を用いて作製した春ウコン及び実生柚子皮乾燥粉末の香気特性及び抗酸化活性,季刊香料,(2015), No.268,P.29-38
【文献】 深見健 他1名,風味改善ソリューション 酸っぱい水飴''オリゴ糖酸''の力(チカラ)〜果汁感・不快味マスキング・減塩へのアプローチ〜,食品と開発,(2019), Vol.54, No.7,Page.17-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00− 5/02
A23L 2/00− 2/84
C12G 1/00− 3/12
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンを含有する溶液に、
マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選ばれる少なくとも一種を添加することを特徴とするシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化方法。
【請求項2】
前記マルトビオン酸塩は、マルトビオン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載のシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化方法。
【請求項3】
前記シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンは、リモネン及びテルピネンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化方法。
【請求項4】
ルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選ばれる少なくとも一種がマルトビオン酸として0.5g/L以上添加されていることを特徴とするシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペン含有溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化方法及びシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペン含有溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、植物が作り出す二次代謝物としてテルペンが知られている。例えばレモンには、香気成分として、非環式モノテルペンのシトラール、シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンとしてリモネン、テルピネン等が含有され、様々な分野への適用が検討されている。しかしながら、これらの香気成分は、物理的な要因や化学的な要因により容易に劣化(分解・変性)することが知られている。特に、リモネン等のシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンは、経時的な劣化が生じやすいため、その分解のし易さにより様々な分野へ容易に適用できないという問題があった。
【0003】
従来より、特許文献1,2に開示される柑橘類由来の香気成分の劣化抑制方法が知られている。特許文献1は、レモンフレーバー含有飲料にクエン酸カリウムを添加して、pHを上昇させることによりレモンフレーバーの香気劣化を抑制する方法について開示する。特許文献2は、レモンフレーバー含有飲料にアスコルビン酸ナトリウムを添加して、pHを上昇させることによりレモンフレーバーの香気劣化を抑制する方法について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−39610号公報
【特許文献2】特開2007−319050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定性を向上させるシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化方法及びシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペン含有溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、マルトビオン酸等がシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定性を向上させることを見出したことに基づくものである。
上記目的を達成するために、本発明の一態様では、シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンを含有する溶液に、マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選ばれる少なくとも一種を添加するシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化方法を提供する。
【0007】
前記マルトビオン酸塩は、マルトビオン酸カルシウムであってもよい。前記シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンは、リモネン及びテルピネンから選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0008】
本発明の別の態様では、シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化剤としてマルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選ばれる少なくとも一種が添加されているシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペン含有溶液を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペン(以下、単に「単環性モノテルペン」という)の安定化方法を具体化した一実施形態を説明する。
本実施形態の単環性モノテルペンの安定化方法は、単環性モノテルペンを含有する溶液に、マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選ばれる少なくとも一種(以下、「マルトビオン酸等」という)を添加する工程を含む。マルトビオン酸等は、単環性モノテルペンの安定化剤として添加される。マルトビオン酸は、4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表される。マルトビオン酸塩としては、特に限定されず、例えばアルカリ土類金属塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。マルトビオン酸等は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、単環性モノテルペンの安定性の向上作用に優れる観点から、マルトビオン酸又はマルトビオン酸カルシウムが好ましく適用される。
【0011】
単環性モノテルペンのより具体的な例としては、メンタン又はその誘導体等が挙げられる。メンタン誘導体としては、例えばリモネン、テルピネン、フェランドレン、テルピノレン、シメン、メントール、テルピネオール、イソプレゴール、カルベオール、ペリルアルデヒド、メントン、プレゴン、カルボン、シネオール、アスカリドール等が挙げられる。これらのモノテルペンのうち、1種類のみに適用してもよく、2種以上の混合物に適用してもよい。これらの中で、マルトビオン酸等による保存安定性の効果の発揮に優れるリモネン又はテルピネンに対して適用されることが好ましく、テルピネンがより好ましい。
【0012】
単環性モノテルペンを含有する溶液を構成する溶媒としては、特に限定されず、水、有機溶媒、又はそれらの混合物が挙げられる。これらの中から用途、目的、各配合成分の溶解性等に応じて適宜選択される。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等が挙げられる。例えば、単環性モノテルペンが天然物から抽出溶媒を用いて得られた場合、得られた抽出液をそのまま単環性モノテルペンを含有する溶液として適用してもよい。
【0013】
単環性モノテルペン含有溶液中にマルトビオン酸等は、有効量添加される。より具体的には、前記溶液中にマルトビオン酸として0.5g/L以上が好ましく、1g/L以上がより好ましく、5g/L以上がさらに好ましい。この場合、添加量を多くすることにより、単環性モノテルペンの安定性をより向上させることができる。また、マルトビオン酸等の添加量の上限は、特に限定されないが、マルトビオン酸として70g/L以下が好ましく、60g/L以下がより好ましく、50g/L以下がさらに好ましい。この場合、添加量を少なくすることにより、前記溶液中におけるマルトビオン酸等の溶解安定性をより向上させ、より効率的な単環性モノテルペンの安定性の向上作用を発揮することができる。また、前記溶液を飲食品に適用する場合、味覚の低下をより抑制することができる。
【0014】
次に、本実施形態の単環性モノテルペンの安定化方法の作用について説明する。
単環性モノテルペンを含有する溶液に、マルトビオン酸等を添加することにより、かかる溶液中における単環性モノテルペンの安定性を向上させることができる。特に、本発明は、溶液のpHの上昇に頼ることなく、単環性モノテルペンの安定性を向上させることができる。
【0015】
よって、マルトビオン酸等を添加することにより安定性が向上した単環性モノテルペンを含有する溶液を、液状の飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品・皮膚外用品、化成品・工業薬品、試験用試薬等の各分野に好ましく適用することができる。特に、pHの変動(上昇)が好ましくない各種製剤に好適に適用することができる。
【0016】
安定化剤としてマルトビオン酸等が添加された単環性モノテルペンを含有する溶液を、飲食品として適用する場合、液状の飲食品、例えば各種飲料類(果汁又は野菜汁入り飲料、清涼飲料、ミネラル飲料、スポーツドリンク、紅茶、炭酸飲料、アルコール飲料、ノンアルコール飲料等)、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、調味料(調味液、ドレッシング等)、果汁入りポーション、内容物が液状であるカプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル)等に適用することができる。飲食品には、ペクチンやカラギーナンなどのゲル化剤、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の糖類・甘味料、香料等の食品添加剤、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を適宜含有させることができる。また、飲食品の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品として適用することができる。
【0017】
前記溶液を医薬品又は医薬部外品として適用する場合は、液状の形態で投与される投与方法であれば、特に限定されず、例えば風香味を感じやすい経口投与への適用が検討される。剤形としては、例えば液剤、スプレー剤等が挙げられる。医薬組成物の形で投与される場合、製剤用担体と混合して調製されることが好ましい。製剤用担体としては、製剤分野において公知の担体、各種添加剤を適用することができる。
【0018】
前記溶液を化粧品として適用する場合は、液状の化粧品、例えば化粧水、乳液、クリーム等の形態を挙げることができる。化粧品の基剤は、特に限定されず、一般に化粧料に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤、香料等の添加剤が適宜配合されてもよい。
【0019】
本実施形態の単環性モノテルペンの安定化方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、溶液中における単環性モノテルペンの安定性を向上させることができる。特に、溶液のpHの上昇に頼ることなく、モノテルペンの安定性を向上させることができる。
【0020】
(2)好ましくは、マルトビオン酸塩としてマルトビオン酸カルシウムが用いられる。したがって、溶液中における単環性モノテルペンの安定性をより向上させることができる。
【0021】
(3)好ましくは、単環性モノテルペンは、リモネン又はテルピネンが適用される。したがって、柑橘類由来の香気成分を含有する溶液又はそれを含んでなる各種製品の保存安定性をより向上させることができる。より具体的には、柑橘類の果汁、オレンジオイル等の精油、又はそれらを含有する各種製品の保存安定性をより向上させることができる。
【0022】
(4)単環性モノテルペンの安定化剤としてマルトビオン酸等が添加されている単環性モノテルペン含有溶液は、上述したように単環性モノテルペンの安定性が向上している。したがって、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品・皮膚外用品、化成品・工業薬品等の各分野の製品への適用をより容易に行うことができる。
【0023】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、単環性モノテルペンは、化学合成品であってもよく、天然物から公知の方法を用いて得られる抽出物又は精製品であってもよい。単環性モノテルペンを含有する天然物としては、公知の素材を適宜採用することができ、例えば、レモン、オレンジ、ライム、グレープフルーツ、スダチ等の柑橘類、ユーカリ、ミント、ハッカ等の植物体を挙げることができる。
【0024】
・単環性モノテルペン含有溶液を飲料として適用した場合、飲料の包装形態は、特に限定されず、公知の包装形態、例えばペットボトル等の合成樹脂製の容器、ガラス瓶、金属缶、及び紙パックに充填する構成を採用することができる。
【0025】
・上記実施形態において、溶液とは、液状の他、クリーム状、ゲル状、ゼリー状を含む概念である。
【実施例】
【0026】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<試験例1:マルトビオン酸塩を用いたリモネン等の香気成分の劣化抑制効果に関する試験>
レモン香気成分(単環性モノテルペン)としてリモネン又はγテルピネンを含有する飲料にマルトビオン酸塩を添加した場合の香気成分の劣化抑制効果について評価した。
【0027】
まず、果糖ブドウ糖液50g/L、レモン搾出液(レモンストレート果汁)150g/L、ビタミンCを0.95g/L、レモンオイル(果皮から圧搾又は水蒸気蒸留により得られる精油)2g/L、残部水からなるレモン香気成分含有飲料を調製した。
【0028】
レモン香気成分含有飲料に、マルトビオン酸塩としてマルトビオン酸カルシウム(マルトビオン酸70.2質量%、カルシウム4.3質量%で構成される)を23.3g/L又は40.7g/L添加することにより、実施例1,2のレモン香気成分含有飲料を調製した。マルトビオン酸塩を配合しない構成を比較例1(コントロール)のレモン香気成分含有飲料とした。なお、一般的にpHを高くする程、香気成分の劣化抑制効果が発揮されることから、実施例1,2のレモン香気成分含有飲料は、比較例1のレモン香気成分含有飲料と同じpH(pH3.4)になるように水酸化ナトリウムにより調整した。
【0029】
保存試験は、まず得られた各例のレモン香気成分含有飲料をそれぞれ褐色密閉容器に充填し、60℃暗所にて4日間放置した。4日後に、各例のレモン香気成分含有飲料中におけるリモネン又はγテルピネンの含有量を、ガスクロマトグラフィーを用いて下記条件にて測定した。
<ガスクロマトグラフィー分析条件>
装置;GC:Agilent Technologies社製 GC6890N
MS:Agilent Technologies社製 5973insert
カラム;DB-WAX、内径0.25mm×60m(膜厚0.5μm)
SPMEファイバー;Supelco社製、2cm-50/30μm DVB/CarboxenTM/PDMS
質量範囲;m/z=20〜550
温度条件:50℃−5℃/min−240℃
キャリアガス流量;He 1.0ml/min
注入方;パルスドスプリットレス
IJT温度;240℃
IF温度;230℃
イオン化室温度;230℃
60℃4日間放置後の比較例1のレモン香気成分含有飲料中におけるリモネン及びγテルピネンの含有量の値をそれぞれ100とした場合、各実施例におけるレモン香気成分含有飲料中におけるリモネン及びγテルピネンの含有量を相対値として求めた。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示されるように、レモン香気成分含有飲料中のリモネン及びγテルピネンは、マルトビオン酸カルシウムの濃度依存的に劣化が抑制され、比較例1に対し、リモネン又はγテルピネンの残存量が多いことが確認された。
【0032】
<試験例2:有機酸又は有機酸塩を用いたリモネン等の香気成分の劣化抑制効果に関する試験>
レモン香気成分(単環性モノテルペン)としてリモネン又はγテルピネンを含有する飲料に、有機酸又は有機酸塩を添加した場合の香気成分の劣化抑制効果について評価した。
【0033】
上記実施例1のレモン香気成分含有飲料において、マルトビオン酸カルシウムの代わりに乳酸(乳酸50質量%で構成される)又は乳酸カルシウム(乳酸85.4質量%、カルシウム13.7質量%で構成される)を使用した場合をそれぞれ比較例2,3のレモン香気成分含有飲料とした。
【0034】
上記実施例1のレモン香気成分含有飲料において、マルトビオン酸カルシウムの代わりにグルコン酸(グルコン酸50質量%で構成される)又はグルコン酸カルシウム(グルコン酸89.31質量%、カルシウム8.69質量%で構成される)を使用した場合をそれぞれ比較例4,5のレモン香気成分含有飲料とした。
【0035】
上記実施例1のレモン香気成分含有飲料において、マルトビオン酸カルシウムの代わりにマルトビオン酸(マルトビオン酸50.68質量%で構成される)を使用した場合を実施例3のレモン香気成分含有飲料とした。
【0036】
香気成分の劣化抑制に関する保存試験方法は、上記試験例1欄に記載の方法に従った。また、各例のレモン香気成分含有飲料中におけるリモネン又はγテルピネンの含有量は、ガスクロマトグラフィーを用いて以下の条件にて行った。
<ガスクロマトグラフィー分析条件>
装置;GC:Agilent Technologies社製 GC7890B
MS:Agilent Technologies社製 5977A
カラム;DB-WAX、内径0.25mm×60m(膜厚0.5μm)
SPMEファイバー;Supelco社製、2cm-50/30μm DVB/CarboxenTM/PDMS
質量範囲;m/z=35〜450
温度条件;40℃−8℃/min−2 40℃
キャリアガス流量;He 1.0ml/min
注入方;パルスドスプリットレス
IJT温度;250℃
IF温度;250℃
イオン化室温度;230℃
60℃4日間放置後の比較例1(コントロール)のレモン香気成分含有飲料中におけるリモネン及びγテルピネンの含有量の値をそれぞれ100とした場合、各例におけるレモン香気成分含有飲料中におけるリモネン及びγテルピネンの含有量を相対値として求めた。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
マルトビオン酸以外の有機酸又はそれらの塩を使用した各比較例は、コントロールよりもリモネン又はγテルピネンの保存安定性に劣ることが確認された。一方、マルトビオン酸を使用した実施例3は、コントロールよりもγテルピネンの残存量が多いことが確認された。
【0039】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンの安定化剤としてマルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選ばれる少なくとも一種が添加されたシクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペン含有飲料。したがって、この(a)に記載の発明によれば、例えばレモン等の柑橘系果汁又は香気成分入り飲料の保存安定性を向上させることができる。