(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768253
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】対象者の男性型脱毛症に関する情報を取得する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20201005BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20201005BHJP
【FI】
C12Q1/6851 ZZNA
!C12N15/12
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-201530(P2015-201530)
(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公開番号】特開2017-70269(P2017-70269A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年10月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年5月12日に一般社団法人日本抗加齢医学会が発送した「第15回日本抗加齢医学会総会プログラム・抄録集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年10月8日に岩手県民会館で開催された「第24回日本形成外科学会基礎学術集会」で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年9月15日に岩手医科大学形成外科学講座が発行した「第24回日本形成外科学会基礎学術集会プログラム・抄録集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年5月29日に福岡国際会議場で開催された「第15回日本抗加齢医学会総会」で発表
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507089090
【氏名又は名称】井上 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有里
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 長興
(72)【発明者】
【氏名】小林 一広
(72)【発明者】
【氏名】井上 肇
【審査官】
鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/154259(WO,A1)
【文献】
特表2006−524038(JP,A)
【文献】
特表平08−506961(JP,A)
【文献】
特開2004−248632(JP,A)
【文献】
特開平05−180827(JP,A)
【文献】
特開2008−220287(JP,A)
【文献】
FML理事会で日本抗加齢医学会の報告,毛髪医学通信, 理事会レポート, インターネット, URL<http://www.fml.jp/column/documentary/fml-360.html>,2015年 6月12日,掲載日はURL<http://www.fml.jp/column/documentary>を参照, 検索日:2019年6月5日
【文献】
予防医学のアンファー, 第15回日本抗加齢医学会総会で発表,インターネット, URL<https://www.angfa.jp/presentation/?p=467>,2015年 6月12日,検索日:2019年6月5日
【文献】
Prog. Med.,2015年 6月,Vol. 35, No. 6,pp. 77(1011)-81(1015)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68−1/6897
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の男性型脱毛症の治療薬に関する情報を取得する方法であって、対象者の頭部における、
(1)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量と、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率、および、
(2)II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量と、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率を算出し、
(A)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値と同程度であるか低いが、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値よりも高い場合、治療薬としてフィナステリドが有効と判定
(B)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値よりも高いが、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値と同程度であるか低い場合、治療薬としてデュタステリドが有効と判定
する情報として取得することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者が男性型脱毛症であるかどうかの判定やその発症の予測、治療薬の選択や有効性の判定などを行うために有益な情報を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
男性型脱毛症(androgenetic alopecia:以下「AGA」と略称する)は、頭髪が薄くなる進行性の疾患で、現代社会において悩みを抱えている男性が多いことは周知の通りであり、近年では女性の患者も増加している。AGAには様々な要因が関係しているが、その1つとして、男性ホルモンであるジヒドロテストステロンが毛根に作用して髪の成長を抑制することが挙げられている。ジヒドロテストステロンは、テストステロンが還元酵素である5αリダクターゼによって還元されて生成するが、5αリダクターゼにはI型とII型の2種類が存在することが知られており、AGAにはII型の5αリダクターゼが深く関与しているとされている。このため、II型の5αリダクターゼを選択的に阻害することで、テストステロンがジヒドロテストステロンに還元されることを阻止するフィナステリドが、AGAの治療薬として使用されている(例えば特許文献1)。しかしながら、AGAの原因は未だ不明な部分も多いことから、AGAであるかどうかの判定やその発症の予測を行うことは困難であり、また、AGAの治療法についても、フィナステリドが有効でない患者が存在するといったことから、十分な提供がなされていない現状にある。近頃、I型とII型の両方の5αリダクターゼを非選択的に阻害する、前立腺肥大症治療薬として知られているデュタステリドが、AGAにも有効であることが指摘されているが、個々の患者に対してフィナステリドとデュタステリドを使い分けるための指標となる情報や有効性の判定を行うための情報は、これまでのところ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−220287公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、対象者がAGAであるかどうかの判定やその発症の予測、治療薬の選択や有効性の判定などを行うために有益な情報を取得する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の点に鑑みてなされた本発明の対象者のAGA
の治療薬に関する情報を取得する方法は、請求項1記載の通り、対象者の頭部における
、
(
1)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量
と、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率、および、
(
2)II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量
と、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率を
算出し、
(A)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値と同程度であるか低いが、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値よりも高い場合、治療薬としてフィナステリドが有効と判定
(B)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値よりも高いが、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値と同程度であるか低い場合、治療薬としてデュタステリドが有効と判定
する情報として取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、対象者がAGAであるかどうかの判定やその発症の予測、治療薬の選択や有効性の判定などを行うために有益な情報を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例による、AGA患者の集団と健常人ボランティアの集団の、それぞれの前頭部と頭頂部における、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率((5A1+5A2)/AR)の平均値を示すグラフである(遺伝子発現量はReal−Time PCRによる増幅物の電気泳動バンドのシグナル強度に基づく)。
【
図2】同、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率(5A1/AR)の平均値と、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率(5A2/AR)の平均値を示すグラフである(遺伝子発現量はReal−Time PCRによる増幅物の電気泳動バンドのシグナル強度に基づく)。
【
図3】同、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量(5A1)の平均値、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量(5A2)の平均値、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量(AR)の平均値を示すグラフである(遺伝子発現量はコピー数に基づく)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の対象者のAGAに関する情報を取得する方法は、対象者の頭部における、
(1)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量
(2)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量
(3)II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量
の少なくとも1つと、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率を、情報として取得することを特徴とするものである。即ち、本発明においては、対象者の頭部において、毛根に作用して髪の成長を抑制するジヒドロテストステロンの生成環境がどのような状態にあるか、生成したジヒドロテストステロンが作用を発揮するための細胞の受け皿がどれだけ存在するかについて、前者を、(1)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量、(2)I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量、(3)II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の少なくとも1つを指標とし、後者をアンドロゲン受容体の遺伝子発現量を指標として、両者の比率を対象者のAGAに関する定量的な情報として利用する。
【0009】
I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量と、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率は、例えばI型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率として求めることができる。I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とアンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率は、例えばI型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率として求めることができる。II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とアンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率は、例えばII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率として求めることができる。
【0010】
頭部における、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量は、それぞれ頭部の毛包試料を用いてReal−Time PCRなどによる方法によって測定することができる。本発明において、頭部には、前頭部、頭頂部、後頭部などが含まれる。毛包試料は、内毛根鞘、外毛根鞘、毛乳頭、バルジ領域などの毛周期に関与する組織を形成する細胞の一部または全部を含むものであればどのようなものであってもよく、例えば抜去された頭髪の根元に付着したものを用いることが簡便である。この場合、根元に毛包が付着した頭髪は、抜去してから1か月以内のものであることが望ましい。
【0011】
例えば、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率(I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量/アンドロゲン受容体の遺伝子発現量)、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率(I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量/アンドロゲン受容体の遺伝子発現量)、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率(II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量/アンドロゲン受容体の遺伝子発現量)について、AGA患者の集団の平均値と健常人の集団の平均値を比較した場合、いずれも、AGA患者の集団の平均値の方が、健常人の集団の平均値よりも高い。従って、AGA患者の集団の平均値と、健常人の集団の平均値を、予め基準値として設定しておき、これらの基準値と対象者の比率を対比し、対象者の比率がいずれの基準値に該当するか、あるいは近似するかを調べることで、対象者がAGAであるかどうかの判定やその発症の予測を行うことができる。また、AGA患者の集団の平均値と、健常人の集団の平均値から、両者の境界値を設定し、対象者の比率が境界値よりも高い時はAGAであるかその発症リスクが多いと判定し、境界値よりも低い時はAGAでないかその発症リスクが低いと判定するといったこともできる。
【0012】
また、AGA患者の中には、例えば、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値と同程度であるか低いが、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値よりも高いといった患者や、逆に、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値よりも高いが、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率は、健常人の集団の平均値と同程度であるか低いといった患者が存在する。こうした場合、前者の患者に対しては、II型の5αリダクターゼを阻害するフィナステリドが有効であると見込まれるが、後者の患者に対しては、フィナステリドは有効でないと見込まれるので、I型の5αリダクターゼを阻害するデュタステリドを治療薬として選択するといったことが可能となる。
【0013】
また、AGA患者の、例えば、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率について、時間的推移をモニタリングし、比率の変動を調べることで、治療薬の有効性を判定するといったことが可能となる(例えば比率が低下して健常人の集団の平均値に近づいている場合には治療が奏功していると判定できる)。
【0014】
なお、言うまでもないことであるが、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量と、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とアンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とアンドロゲン受容体の遺伝子発現量の比率は、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量を分子に、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量を分母にして求めてもよい。この場合、比率の高低の意味するところは、上記の説明と逆になる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0016】
実施例1:
(実験方法)
未治療のAGA患者50名(AGAであることの診断は頭髪外来の専門医によるハミルトン・ノーウッドの分類による症状の進行度の判定に基づく。以下同じ)の、前頭部と頭頂部のそれぞれの毛髪(抜去してから1か月以内の根元に毛包が付着したもの5〜10本/人)を、実体顕微鏡下で2〜3mmに細断し、アルカリ融解法を用いて全遺伝子cDNAを回収した後、Real−Time PCRを行い、I型の5αリダクターゼ、II型の5αリダクターゼ、アンドロゲン受容体のそれぞれの遺伝子cDNAを増幅させた。なお、I型の5αリダクターゼ遺伝子のcDNAを増幅させるために、全長1229bpのヒト遺伝子の第1exon内で設計した、Forwardプライマー:acccatttctgatgcgaggaggaa(配列番号1)とReverseプライマー:tcaacatgcccgttaaccacaagc(配列番号2)を用いた(増幅物:186bp、参考文献:D.W.Russellら、Annual Review of Biochemistry,vol.63,pp.25−61,1994)。II型の5αリダクターゼ遺伝子のcDNAを増幅させるために、全長1573bpのヒト遺伝子の第2exonと第3exonをまたぐ形で設計した、Forwardプライマー:cgtctggtgctccataaagg(配列番号3)とReverseプライマー:gtacaagaccagtgccccaag(配列番号4)を用いた(増幅物:154bp、参考文献:Labrie Fら、Endocrinology 1992;131(3):1571−1573)。アンドロゲン受容体遺伝子のcDNAを増幅させるために、全長8112bpのヒト遺伝子のN末ドメイン内で設計した、Forwardプライマー:catgttttgcccattgactattac(配列番号5)とReverseプライマー:ctcttttgaagaagaccttgcag(配列番号6)を用いた(増幅物:124bp、参考文献:Brinkmann AOら、J Steroid Biochem.1989;34(1−6):307−310)。Real−Time PCRは、Rotor−Gene SYBR Green PCR kit(Qiagen)を用い、Rotor−GeneQマニュアルに従って行った。それぞれの増幅物を1%アガロースにて電気泳動し、Chemi−Doc XRS+(BIO−RAD)を用いてGel−Red蛍光強度を数値化することでバンドのシグナル強度を測定し、この測定値に基づいて、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量とII型の5αリダクターゼの遺伝子発現量の合計量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率((5A1+5A2)/AR)、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率(5A1/AR)、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量のアンドロゲン受容体の遺伝子発現量に対する比率(5A2/AR)を算出した。また、健常人ボランティア(6名)についても同様の実験を行った。
【0017】
(実験結果)
未治療のAGA患者50名と健常人ボランティア6名の、それぞれの前頭部と頭頂部における、(5A1+5A2)/AR、5A1/AR、5A2/ARの平均値を
図1と
図2に示す。
図1と
図2から明らかなように、前頭部と頭頂部のいずれにおいても、(5A1+5A2)/AR、5A1/AR、5A2/ARは、AGA患者の平均値の方が健常人ボランティアの平均値よりも有意に高かった。AGA患者50名それぞれの前頭部と頭頂部における5A1/ARと5A2/ARに着目すると、前頭部および/または頭頂部における5A1/ARは健常人ボランティアの平均値と同程度であるか低いが、5A2/ARは健常人ボランティアの平均値よりも高い患者は2名存在し、逆に、前頭部および/または頭頂部における5A1/ARは健常人ボランティアの平均値よりも明らかに高いが、5A2/ARは健常人ボランティアの平均値よりと同程度であるか低い患者は21名存在した。以上の結果から、(5A1+5A2)/AR、5A1/AR、5A2/ARは、AGA患者と健常人の区別を可能にする定量的な指標であり、AGAであるかどうかの判定やその発症の予測、治療薬の選択や有効性の判定などを行うために有益な情報であることがわかった。
【0018】
なお、未治療のAGA患者38名と健常人ボランティア6名の、それぞれの前頭部と頭頂部における、I型の5αリダクターゼの遺伝子発現量(5A1)の平均値、II型の5αリダクターゼの遺伝子発現量(5A2)の平均値、アンドロゲン受容体の遺伝子発現量(AR)の平均値を、コピー数に基づいて求めたところ(Rotor−GeneQマニュアルに従って目的遺伝子の発現量を内部標準遺伝子(B−Actin)の発現量による補正を行って算出)、5A1とARは、AGA患者の平均値の方が健常人ボランティアの平均値よりも有意に高かったが、5A2は、AGA患者の平均値と健常人ボランティアの平均値で違いがほとんどなかった(
図3)。以上の結果から、5A1とARの遺伝子発現量そのものは、AGA患者と健常人の区別を可能にする定量的な指標になり得るが(よってこれらは本発明における補助的情報として利用可能である)、5A2の遺伝子発現量そのものはなり得ないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、対象者がAGAであるかどうかの判定やその発症の予測、治療薬の選択や有効性の判定などを行うために有益な情報を取得する方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]