(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768255
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】成形金型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/26 20060101AFI20201005BHJP
B29C 33/10 20060101ALI20201005BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
B29C45/26
B29C33/10
B29C45/14
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-128734(P2016-128734)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-1492(P2018-1492A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前野 正藏
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−204228(JP,A)
【文献】
特開2012−218331(JP,A)
【文献】
特開2004−195853(JP,A)
【文献】
特開平06−166064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部品が配置される固定型と、該固定型に配置された前記第1部品との間にキャビテ
ィを形成する可動型を備え、前記固定型に前記第1部品を配置した状態で、前記可動型の
前記キャビティ内に充填した溶融樹脂を固化させて第2部品を成形することによって、該
第2部品と前記第1部品とが一体化した複合部品を製造するための成形金型において、
前記固定型とこれに配置された前記第1部品に、前記可動型のキャビティと大気とを連
通させる貫通孔を形成し、該貫通孔にピンを挿通して両者間の隙間をガス抜き通路として
構成したことを特徴とする成形金型。
【請求項2】
前記ガス抜き通路を構成する前記隙間は、ガスの通過を許容し且つ溶融樹脂の通過を阻
止する大きさに設定されていることを特徴とする請求項1記載の成形金型。
【請求項3】
前記第1部品は、光学部品であって、光学的に不要な部分に前記貫通孔が形成されてい
ることを特徴とする請求項1又は2記載の成形金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形によって第1の部品と第2の部品とを一体化して複合部品を製造するための、例えばインサート成形金型とこれによって成形される成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の部品を一体化して複合部品を製造する手法として、多色成形やインサート成形が知られているが、特許文献1には、複合部品を多色成形によって製造するための多色成形金型として
図6に示すものが提案されている。
【0003】
即ち、
図6は特許文献1において提案された多色成形金型の縦断面図であり、この多色成形金型101は、二次成形金型であって、不図示の一次成形金型によって予め成形された一次成形品(レンズ)111をセットした状態で、固定型102と可動型103によって一次成形品111の周囲に形成されたキャビティ106に溶融樹脂を充填し、この溶融樹脂を固化させることによって、一次成形品(レンズ)111とその周囲の二次成形品(樹脂部品)112とが一体化された複合部品(製品)110を製造するものである。
【0004】
ところで、二次成形時においては、キャビティ106内に充填された溶融樹脂から発生するガスがキャビティ106内に溜まると、二次成形品112に窪みが発生する等して成形不良を招く。このため、
図6に示す多色成形金型101においては、固定型102と一次成形品111、二次成形品(溶融樹脂)112及び可動型103との間にガス抜き用のエアベント105を設け、このエアベント105からガスを抜く構成が採用されている。
【0005】
又、インサート成形には、例えば
図7に示すインサート成形金型201が用いられている。
【0006】
即ち、
図7は従来のインサート成形金型の縦断面図であり、図示のインサート成形金型201は、インサート部品211が装填される固定型202と、該固定型202に装填されたインサート部品211との間にキャビティ206を形成する可動型203を備えている。
【0007】
而して、予め成形されたインサート部品211を固定型202に装填した状態で、固定型202に形成されたゲート202bから溶融樹脂を可動型203のキャビティ206内に充填し、この充填された溶融樹脂を冷却によって固化させて樹脂部品212を成形すれば、該樹脂部品212とインサート部品211とが一体化した複合部品210を得ることができる。このようなインサート成形によれば、インサート部品211と樹脂部品212との組み立てを成形段階で行うことができるため、工程を効率化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−218331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、
図7に示すインサート成形金型201のように可動型203の製品面が全て意匠面であるものにおいては、固定型202とインサート部品211、樹脂部品212及び可動型203の間にガス抜き用ベントを形成することができず、樹脂部品212の成形不良を免れないという問題がある。特に、インサート部品211がレンズ等の光学部品である場合であって、該インサート部品211の可動型203との合わせ面13にシボ加工が施されている場合には、固定型202と可動型203とを強い力で密着させる必要があるため、両者の間にガス抜き用ベントを形成することができない。
【0010】
又、固定型202のゲート202bが形成されている部分には可動型203との合わせ面が存在しないため、この部分にガス抜き用ベントを形成することは不可能である。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、二次成形のガス抜き通路を確保することによって樹脂部品の成形不良を防ぐことができる成形金型とこれによって成形される成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、第1部品が配置される固定型と、該固定型に配置された前記第1部品との間にキャビティを形成する可動型を備え、前記固定型に前記第1部品を配置した状態で、前記可動型の前記キャビティ内に充填した溶融樹脂を固化させて第2部品を成形することによって、該第2部品と前記第1部品とが一体化した複合部品を製造するための成形金型において、前記固定型とこれに配置された前記第1部品に、前記可動型のキャビティと大気とを連通させる貫通孔を形成し、該貫通孔にピンを挿通して両者間の隙間をガス抜き通路として構成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ガス抜き通路を構成する前記隙間は、ガスの通過を許容し且つ溶融樹脂の通過を阻止する大きさに設定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記第1部品は、光学部品であって、光学的に不要な部分に前記貫通孔が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、可動型のキャビティは、ガス抜き通路を介して大気に連通するため、成形時にキャビティ内に充填された溶融樹脂から発生するガスは、ガス抜き通路を通って大気中へと放出されてキャビティ内に溜まることがない。このため、樹脂部品にガスによる窪み等の成形不良が発生することがなく、該樹脂部品に高い品質が確保される。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、ガス抜き通路をガスのみが通過して所要のガス抜きが確実に行われるとともに、溶融樹脂がガス抜き通路に流れ込んで固化することがないために樹脂部品にバリ等が発生することがなく、該樹脂部品に高い品質が確保される。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、光学部品の光学的に不要な部分に貫通孔を形成したため、この貫通孔によって光学部品の光学的な機能が阻害されることがなく、該光学部品に高い光学性能が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】本発明に係る成形金型の固定型に第1部品が装填された状態を示す縦断面図である。
【
図3】本発明に係る成形金型の第2部品成形時の状態を示す縦断面図である。
【
図5】本発明に係る成形金型によって製造された複合部品の縦断面図である。
【
図6】特許文献1において提案された多色成形金型の縦断面図である。
【
図7】従来のインサート成形金型の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は第1部品の縦断面図、
図2は本発明に係る成形金型の固定型に第1部品が配置された状態を示す縦断面図、
図3は同成形金型の第2部品成形時の状態を示す縦断面図、
図4は
図3のA部拡大詳細図、
図5は同成形金型によって製造された複合部品の縦断面図である。
【0023】
本実施の形態に係る成形金型1は、
図5に示す複合部品10を成形によって製造するものであって、本実施の形態では、複合部品10は、自照式パネルである。この自照式パネル10は、車両の車室内に設置されるものであって、第1部品である透明な導光レンズ11と第2部品である不透明なベース板12とをインサート成形によって一体化して構成されている。
【0024】
光学部品である上記導光レンズ11は、導光性の高いアクリルやポリカーボネイト等の透明樹脂によって逆皿状に成形されており、
図1に示すように、その中心部には、光源である不図示のLED(発光ダイオード)を収容するための円孔11aが形成されている。又、導光レンズ11の外周縁には、前記ベース板12の外周を外側から覆う垂直な周壁11Aが一体に形成されている。
【0025】
そして、導光レンズ11の
図1の上面の2箇所には、反射・屈折手段としての非円形の溝11bがそれぞれ形成されている。溝11bは、その外周において反射・屈折により、該溝11b周囲の配光を制御する。溝11bの内部は、導光レンズ11と異なる屈折率を有する空間として構成されている。光学的作用は導光レンズ11と溝11bの界面で生じ、溝11b内部のみでの光学作用はない。ここで、導光レンズ11の各溝11bが形成された部分(
図1の領域Xの部分)は、光学的に不要な部分であり、この部分には、円孔状の垂直な貫通孔11cがそれぞれ形成され、各貫通孔11cは、各溝11bにそれぞれ開口している。
【0026】
又、前記ベース板12は、不透明樹脂によって板状に一体成形され、その外周縁が導光レンズ11の外周に一体に形成された前記周壁11Aによって外側から覆われている。この構成により、第2部品であるベース板12のある領域を除き導光レンズ11が発光可能となる。
【0027】
ところで、本実施の形態に係るインサート成形金型1は、
図2及び
図3に示すように、不動の固定型2と、該固定型2に対して上下に移動可能な可動型3を備えており、固定型2には、導光レンズ11を装填するための凹部2Aが形成されている。又、固定型2の中心部には、導光レンズ11の中心部に形成された円孔11aに嵌入する円柱状の突起2aが凹部2Aに向かって突設されており、この突起2aが形成された箇所には、溶融樹脂を注入するためのゲート2bが貫設されている。
【0028】
更に、固定型2の2箇所には、円孔状の垂直な貫通孔2cが、凹部2Aに装填された導光レンズ11の貫通孔11cと同軸にそれぞれ形成されており、
図2に示すように導光レンズ11が固定型2の凹部2Aに装填された状態では、固定型2の各貫通孔2cと導光レンズ11の各貫通孔11cとは、導光レンズ11に形成された各溝11bを介して同軸的に相連通している。
【0029】
そして、本実施の形態では、
図2に示すように導光レンズ11が固定型2の凹部2Aに装填された状態では、互いに連通する固定型2の各貫通孔2cと導光レンズ11の各貫通孔11cには、円柱状のピン4がそれぞれ挿通しており、各ピン4は、その頭部4aが固定型2に係合することによって固定型2に固定されている。ここで、
図4に詳細に示すように、導光レンズ11と固定型2のそれぞれ形成された各2つの貫通孔11c,2cの内径は、これらに挿通するピン4の外径よりも僅かに大きく設定されており、各貫通孔11c,2cと各ピン4との間に形成される微小(例えば0.2mm程度)な隙間は、導光レンズ11の溝11bと共にガス抜き通路5を構成している。
【0030】
次に、
図5に示す複合部品としてのカップホルダ10のインサート成形による製造工程について説明する。
【0031】
図5に示す自照式パネル10のインサート成形による製造に際しては、予め成形された
図1に示す導光レンズ11を
図2に示すように固定型2の凹部2Aに装填する。この状態から可動型3を上動させてこれを
図2に示すように固定型2に合わせると、樹脂部品であるベース板12(
図3参照)の外形形状に沿ったキャビティ6が導光レンズ11と可動型3によって形成される。この場合、導光レンズ11に形成された各貫通孔11cの一端(
図2の下端)はキャビティ6に開口し、固定型2に形成された各貫通孔2cの一端(
図2の上端)は大気に開口している。従って、キャビティ6は、ガス抜き通路5を介して大気に連通している。
【0032】
次に、
図2に示す状態から、固定型2に形成されたゲート2bから溶融樹脂を
図3に示すようにキャビティ6内に充填し、この充填された溶融樹脂を冷却して固化させれば、導光レンズ11とベース板12とが結合一体化されて
図5に示す自照式パネル10が製造される。ここで、可動型3のキャビティ6は、ガス抜き通路5を介して大気に連通しているため、インサート成形時にキャビティ6内に充填された溶融樹脂から発生するガスは、ガス抜き通路5を通って大気中へと放出されてキャビティ6内に溜まることがない。このため、樹脂部品であるベース板12にガスによる窪み等の成形不良が発生することがなく、該ベース板12に高い品質が確保される。
【0033】
又、本実施の形態では、ガス抜き通路5を構成する貫通孔2c,11cとピン4との間の隙間は、ガスの通過を許容し且つ溶融樹脂の通過を阻止する大きさに設定されているため、ガス抜き通路5をガスのみが通過して所要のガス抜きが確実に行われるとともに、溶融樹脂がガス抜き通路5に流れ込んで固化することがないためにベース板12にバリ等が発生することがなく、該ベース部材12に高い品質が確保される。
【0034】
更に、本実施の形態では、光学部品である導光レンズ11の光学的に不要な部分(
図1の領域Xの部分)に貫通孔11cを形成したため、この貫通孔11cによって導光レンズ11の光学的な機能が阻害されることがなく、該導光レンズ11に高い光学性能が確保される。尚、
図5に示す自照式パネル10においては、不図示のLEDからの光が導光レンズ11内を進み、この光は、最終的には導光レンズ11の周壁11Aの端面から出射するため、ベース板12の外周縁が明るく光って自照式パネル10の位置を夜間においても乗員に視認させることができる。
【0035】
尚、以上の実施の形態では、複合部品が車載の自照式パネルである場合のインサート成形金型について説明したが、本発明に係る成形金型は、インサート成形金型の他に2色成形の金型にも適用可能であり、他の任意の複合部品を製造するものに対しても同様に適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 インサート成形金型
2 固定型
2A 固定型の凹部
2a 固定型の突起
2b 固定型のゲート
2c 固定型の貫通孔
3 可動型
4 ピン
4a ピンの頭部
5 ガス抜き通路
6 キャビティ
10 自照式パネル(複合部品)
11 導光レンズ(第1部品)
11A 導光レンズの周壁
11a 導光レンズの円孔
11b 導光レンズの溝
11c 導光レンズの貫通孔
12 ベース板(第2部品)
13 合わせ面(シボ面)
X 導光レンズの光学的に不要な領域