特許第6768260号(P6768260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768260
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】電子時計のムーブメント及び電子時計
(51)【国際特許分類】
   G04C 3/00 20060101AFI20201005BHJP
【FI】
   G04C3/00 K
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-12446(P2019-12446)
(22)【出願日】2019年1月28日
(62)【分割の表示】特願2015-27663(P2015-27663)の分割
【原出願日】2015年2月16日
(65)【公開番号】特開2019-82491(P2019-82491A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2019年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植村 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】中平 大輔
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−122992(JP,A)
【文献】 特開2012−7966(JP,A)
【文献】 特開2006−343240(JP,A)
【文献】 特開2003−287582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04C 3/00
G04C 3/14
G04B 43/00
G04G 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータを覆う耐磁板とを備え、
前記耐磁板は、前記モータよりも前記耐磁板に作用する磁界の磁気的に最も弱い向きの上流側の部分に、磁束の通る経路の断面積が小さい狭窄部が形成され、
前記狭窄部は、前記耐磁板の厚さが他の部分よりも薄くなって形成されている電子時計のムーブメント。
【請求項2】
前記耐磁板は、前記モータの変換器の周囲に別の狭窄部が形成されている請求項1に記載の電子時計のムーブメント。
【請求項3】
前記狭窄部は、前記モータのステータの2つのスリットを結んだ向きに略直交する向きの磁界の、前記モータに対する上流側の部分に形成されている請求項1又は2に記載の電子時計のムーブメント。
【請求項4】
前記狭窄部は、前記耐磁板の幅が他の部分よりも狭くなって形成されている請求項1から3のうちいずれか1項に記載の電子時計のムーブメント。
【請求項5】
前記耐磁板が複数のモータを覆うものであり、
少なくとも1個の前記モータが、前記耐磁板の長手方向と直交する方向に配置されている請求項1から4のうちいずれか1項に記載の電子時計のムーブメント。
【請求項6】
前記耐磁板の長手方向と直交する方向に配置された前記モータは、秒針を駆動するためのモータである請求項5に記載の電子時計のムーブメント。
【請求項7】
請求項1から6のうちいずれか1項に記載の電子時計のムーブメントと、
前記ムーブメントを収容するケースと、を備えた電子時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子時計のムーブメント及び電子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
モータにより指針を駆動する電子時計は、外部磁場からモータを保護するための耐磁板をムーブメントに備えている。
耐磁板は、一般に、モータを厚さ方向の上下から覆うように形成されている(例えば、特許文献1参照)。従来、耐磁板は、モータを広く覆うことでモータに対する耐磁性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−232680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、単に大きな耐磁板を配置しただけでは、その分のスペースを確保するために、電子時計自体のサイズが大きくなったり、電子時計自体の厚さが厚くなったりするという問題がある。機能の多い電子時計の場合は、ムーブメント内に大きな耐磁板を配置することができないことも起こり得る。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、耐磁板を大きくしたり厚くしたりすることなく、モータに対する耐磁性能を向上させることができる電子時計のムーブメント及び電子時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1は、モータと、前記モータを覆う耐磁板とを備え、前記耐磁板は、前記モータよりも前記耐磁板に作用する磁界の磁気的に最も弱い向きの上流側の部分に、磁束の通る経路の断面積が小さい狭窄部が形成され、前記耐磁板が複数のモータを覆うものであり、少なくとも1個の前記モータが、前記耐磁板の長手方向と直交する方向に配置されている電子時計のムーブメントである。
本発明の第2は、モータと、前記モータを覆う耐磁板とを備え、前記耐磁板は、前記モータよりも前記耐磁板に作用する磁界の磁気的に最も弱い向きの上流側の部分に、磁束の通る経路の断面積が小さい狭窄部が形成され、前記耐磁板の長手方向と直交する方向に配置されるモータは、秒針を駆動するためのモータである電子時計のムーブメントである。
本発明の第3は、モータと、前記モータを覆う耐磁板とを備え、前記耐磁板は、前記モータよりも前記耐磁板に作用する磁界の磁気的に最も弱い向きの上流側の部分に、磁束の通る経路の断面積が小さい狭窄部が形成され、前記狭窄部は、前記耐磁板の厚さが他の部分よりも薄くなって形成されている電子時計のムーブメントである。
本発明の第4は、本発明の電子時計のムーブメントと、前記ムーブメントを収容するケースと、を備えた電子時計である。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る電子時計のムーブメント及び電子時計によれば、耐磁板を大きくしたり厚くしたりすることなく、モータに対する耐磁性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る電子時計の一実施形態である電波修正時計を示す部分透視図である。
図2図1に示したムーブメントの一部を分解して表した分解斜視図である。
図3】2つの耐磁板とモータとの平面視での位置関係を示す、図1相当の平面図である。
図4図3に示した上側の耐磁板の単体を示す平面図である。
図5図3に示した下側の耐磁板の単体を示す平面図である。
図6図3に示した秒針モータの詳細を示す図である。
図7図4に示した耐磁板に対して、切欠きが無い二点鎖線で示した外形形状で、かつ、耐磁板における切欠きに対応する部分の厚さが、他の部分よりも薄く形成された耐磁板を示す図であり、(A)は図4相当の平面図、(B)は(A)におけるA−A線に沿った断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る電子時計のムーブメント及び電子時計の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0009】
<電波修正時計の構成>
図1は、本発明に係る電子時計の一実施形態である電波修正時計1を示し、裏蓋側から、二点鎖線で表したケース2を仮想的に透過して実線で表したムーブメント3が見えている状態を表す部分透視図である。図1の上方は12時方向、左方は3時方向である。図2は、図1に示したムーブメント3の一部を分解して表した分解斜視図である。
【0010】
電波修正時計1は、金属製のケース2の内部にムーブメント3が収容されている。
電波修正時計1は、電波を受信し、受信した電波に基づいてムーブメント3が時刻用の指針を自動的に修正する機能を有する。また、電波修正時計1は、太陽電池パネル及び二次電池を備えていて、太陽電池パネルで発電された電力によって、ムーブメント3を駆動している。
【0011】
<ムーブメントの構成>
ムーブメント3は、本発明に係る電子時計のムーブメントの一実施形態である。ムーブメント3は、地板5と、図示を省略した輪列と、輪列受け6と、回路基板7と、回路押さえ板8と、2つの耐磁板21,22と、電波受信用のアンテナ10(図1参照)と、4つのステップモータである秒針モータ11と、デュアル分時針モータ12と、分時針モータ15と、機能針モータ16と、を備えている。
なお、ムーブメント3は、上述した構成の他に、手動で時刻表示用の指針を修正するための機構や、アラーム用ブザー、二次電池、その他の機構等も備えているが、本実施形態の電波修正時計1の説明上必須ではないため説明を省略する。
【0012】
秒針モータ11は、コイル(変換器)11a、ステータ11b及びロータ11cを備えている。秒針モータ11のロータ11cは、秒針を駆動する輪列に連結されている。
デュアル分時針モータ12は、コイル12a、ステータ12b及びロータ12cを備えている。デュアル分時針モータ12のロータ12cは、小文字板用の分針及び時針を駆動する輪列に連結されている。
【0013】
分時針モータ15は、2つのコイル13a,14a、ステータ15b及びロータ15cを備えている。分時針モータ15のロータ15cは、分針及び時針を駆動する輪列に連結されている。分時針モータ15が2つのコイル13a,14aを備えているのは、正回転方向への回転速度と逆回転方向への回転速度を等しくするためである。
【0014】
すなわち、分針と時針は連動しているが、時差の修正のためには、時刻を進める方向(正回転方向)に分針及び時針を回転させる場合と、時刻を戻す方向(逆回転方向)に分針及び時針を回転させる場合がある。正回転方向と逆回転方向とで回転速度を等しくすることで、時刻を進めて修正する場合と時刻を戻して修正する場合とで、修正の際の分針及び時針の回転速度に差が生じないようにすることができる。
【0015】
機能針モータ16は、コイル16a、ステータ16b及びロータ16cを備えている。機能針モータ16のロータ16cは、小文字板用の機能針を駆動する輪列に連結されている。機能針は、例えば太陽電池パネルによって発電され、二次電池に充電されている電力の充電量を指示する指針や、曜日を指示する指針などである。なお、充電量を指示する指針と曜日を指示する指針とは、それぞれ独立した指針であってもよいし、1つの指針で兼用したものであってもよい。
【0016】
秒針モータ11、デュアル分時針モータ12、分時針モータ15及び機能針モータ16は、回路基板7に接合されている。回路基板7は、秒針モータ11、デュアル分時針モータ12、分時針モータ15及び機能針モータ16の制御や、電波受信及び受信した電波に基づく指針の修正の制御、太陽電池パネルで発電された電力を二次電池に充電し、二次電池からの電力を供給する制御等を行う電子回路が形成されている。なお、この電子回路自体は、二次電池から供給された電力によって駆動している。
【0017】
回路基板7の電子回路による制御で、秒針モータ11は1秒間に1回の頻度で駆動され、デュアル分時針モータ12は1分間に1回の頻度で駆動され、分時針モータ15は10秒間に1回の頻度で駆動され、機能針モータ16はその機能に対応した状態(充電量、曜日等)の表示を行う操作が入力されたときにのみ駆動される。
【0018】
このような駆動頻度により、4つのモータ11,12,15,16は、駆動頻度の高い順、すなわち保磁力が低い順に、秒針モータ11、分時針モータ15、デュアル分時針モータ12、機能針モータ16となる。保磁力が低いモータほど、耐磁性能が要求されるため、秒針モータ11、分時針モータ15、デュアル分時針モータ12、機能針モータ16の順に、耐磁性能が要求される優先度が高い。
【0019】
輪列は、地板5と輪列受け6とによって挟まれて支持され、対応するいずれかのモータ11,12,15,16の駆動により回転して、秒針、分針、時針又は機能針を駆動する。
回路押さえ板8は、導電性の金属板で形成されていて、一部が回路基板7の電子回路におけるグランド(GND)のラインに接続され、他の一部がケース2に接続される。これにより、回路押さえ板8は、電子回路のグランドのラインをケース2に電気的に導通させている。
アンテナ10は、時刻表示用の指針を正しい位置に合わせるための時刻情報を含む電波(例えば、GPS衛星から発信された、時刻情報を含むGPS信号)を受信する。
【0020】
図3は、ムーブメント3における2つの耐磁板21,22と、モータ11,12,15,16との平面視での位置関係を示す、図1相当の平面図である。2つの耐磁板21,22は、特にロータ11c,12c,15c,16cを、電波修正時計1の厚さ方向に挟むように、裏蓋側からと地板5の裏側からとでロータ11c,12c,15c,16cを覆う。各耐磁板21,22は、ロータ11c,12c,15c,16cを覆うことで、外部磁場がロータ11c,12c,15c,16cに与える影響を抑制している。
【0021】
図4は、図3に示した上側の耐磁板21の単体を示す平面図、図5は、図3に示した下側の耐磁板22の単体を示す平面図である。
耐磁板21は、図4に示すように、秒針モータ11のコイル11aに干渉するのを防止するための逃げ孔21aや、各モータ11,12,15,16を支持等する孔21bが多数形成されている。耐磁板22も、図5に示すように、各モータ11,12,15,16を支持等する孔22bが多数形成されている。
【0022】
図6は、図3に示した秒針モータ11の詳細を示す図である。図6に示すように、コイルに通電していない状態では、秒針モータ11のロータ11cは、所定の位置で安定して停止している。この停止しているロータ11cは、ステータ11bの2つのスリット11s,11sを結ぶ向きLに直交する向きMに磁束が沿う磁界Jに対して、磁気的に最も弱い。
このような磁気的に弱い向きは、他のモータ12,15,16にもそれぞれある。
なお、本実施形態におけるステータ11bのスリット11sは、空隙により形成されたものであるが、空隙を非磁性体で埋めることによりステータ11bを一体化してもよい。
【0023】
ここで、耐磁板21は、図4に示すように、コイル11aの逃げ孔21aの存在により、秒針モータ11に対して磁気的に最も弱い磁界Jの向きMに関して、幅の狭い狭窄部21c(別の狭窄部の一例)を有している。この狭窄部21cは、図3に示すように秒針モータ11のコイル11aの周囲に形成された狭窄部に相当する。
【0024】
耐磁板は、一般的には外形形状が大きいほど耐磁性能が向上する。したがって、耐磁板21も、図4に示すように、例えば下部左側の部分が二点鎖線で示すように、切欠き21dの無い外形形状が採用されるのが一般的と考えられる。
しかし、本実施形態における耐磁板21においては、耐磁板21の図示下部左側の部分に、実線で示すような切欠き21dが形成されている。
【0025】
この切欠き21dにより、耐磁板21に形成されている孔21bとの間の部分は、秒針モータ11に対して磁気的に最も弱い磁界Jの向きMに関して、他の部分よりも幅の狭い狭窄部21eとなる。しかも、この狭窄部21eは、秒針モータ11のロータ11cよりも磁界Jの向きMに関して上流側の位置となる。また、この狭窄部21eは、狭窄部21cに対しても磁界Jの向きMに関して上流側となる。
【0026】
図5に示した耐磁板22にも、耐磁板21の切欠き21dと平面視で重なる部分(図3参照)に切欠き22dが形成されている。そして、この耐磁板22も、切欠き22dと孔22bとの間の部分は、秒針モータ11に対して磁気的に最も弱い磁界Jの向きMに関して、他の部分よりも幅の狭い狭窄部22eとなる。しかも、この狭窄部22eは、秒針モータ11のロータ11cよりも磁界Jの向きMに関して上流側の位置となる。
【0027】
<ムーブメントの作用>
以上のように構成された実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3によれば、4つのステップモータのうち、最も保磁力が弱い秒針モータ11に対して、図6に示すように、磁気的に最も弱い方向の磁界Jが作用すると、この秒針モータ11を電波修正時計1の厚さ方向の上下から覆う耐磁板21,22には、図4,5に示すように磁界Jが作用する。
【0028】
このとき、耐磁板21の、秒針モータ11よりも磁界Jの向きの上流側に形成された狭窄部21eでは、磁束の通る経路の面積(断面積)が小さいため部分的な磁気飽和が誘発される。これにより、磁界Jの磁束は、磁気飽和が起こった狭窄部21eを通らない経路に分散された分布となる。
この結果、磁気飽和が起こった狭窄部21eの下流側である秒針モータ11に対応した耐磁板21の部分では、磁束密度が、狭窄部21eが無いものに比べて小さくなる。
【0029】
したがって、本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3によれば、耐磁板21の外形のサイズ(大きさ、厚さ)を大きくすることなく、秒針モータ11に対応した耐磁板21の部分での、秒針モータ11に対する耐磁板21の耐磁性能が、狭窄部21eの無い耐磁板よりも向上させることができる。
また、本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、秒針モータ11の他方の面側にも別の耐磁板22が配置されていて、この耐磁板22も耐磁板21の狭窄部21eと同様の狭窄部22eが形成されている。したがって、秒針モータ11に対する耐磁板22の耐磁性能が、さらに向上する。
【0030】
本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3によれば、狭窄部21e,22eが、秒針モータ11が磁気的に最も弱い方向の磁界Jに対応して、耐磁板21,22に形成されているため、秒針モータ11が磁気的に最も弱い方向に対する耐磁性能が向上して、耐磁性能全体の底上げが図られる。
しかし、本発明における狭窄部はこの実施形態のものに限定されない。すなわち、実施形態における狭窄部21e,22eが、秒針モータ11に対して磁気的に最も弱い方向の磁界Jに対応するものではなく、電波修正時計1の耐磁板21,22に、秒針モータ11よりも上流側のいずれかの部分に形成されているものであってもよい。この場合、その狭窄部21e,22eに対応した向きの磁界に関して、秒針モータ11に対する耐磁板21,22の耐磁性能を向上させることができる。
【0031】
また、本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、耐磁板21に、秒針モータ11のコイル11aとの干渉を避けるための逃げ孔21aが形成されているため、秒針モータ11のコイル11aの周囲に、逃げ孔21aと外形形状との間の部分の幅が、磁界Jの方向に対して他の部分の幅よりも狭い狭窄部21cが形成される。
そして、このような狭窄部21cは、作用する磁界Jにより磁気飽和が起こり易い。コイル11aの周囲で磁気飽和が起こると、このコイル11aの周囲で耐磁板21が有効に作用しなくなり、秒針モータ11のロータ11cに悪影響を与えるおそれがある。
【0032】
しかし、本実施形態における耐磁板21には、磁界Jの向きMに関して、秒針モータ11よりも上流側であるとともに、コイル11aの周囲の狭窄部21cよりも上流側に、狭窄部21eが形成されている。これにより、耐磁板21に磁界Jが作用したとき、狭窄部21eで磁気飽和が起こることで、下流側の狭窄部21cでは磁束密度が下がる。
したがって、本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3によれば、下流側の狭窄部21cでは、狭窄部21eが無いものに比べて、磁気飽和が起こりにくくなる。これにより、コイル11aの周囲で耐磁板21が有効に機能し、秒針モータ11のロータ11cの周囲に狭窄部21cが存在することによる悪影響が生じるのを防止することができる。
【0033】
なお、本発明に係る電子時計及びムーブメントは、この形態に限定されない。すなわち、本発明に係る電子時計及びムーブメントは、モータのコイルの周囲に別の狭窄部が形成されていないものであってもよく、この場合でも、モータよりも磁界の向きに関して上流側に狭窄部が形成されていることにより、狭窄部での磁気飽和を誘発させることができる。
これにより、耐磁板に作用している磁界の磁束は、狭窄部で磁気飽和が誘発されたとき、その狭窄部を避けて他の経路に分散され、分散された磁束がモータの位置に対応した耐磁板の部分を通過する。この結果、耐磁板のサイズを大きくすることなく、モータの位置での耐磁板の耐磁性能を向上させることができる。
【0034】
<構成の変形例>
本実施形態における狭窄部21eは、外周縁から内側に切れ込まれた切欠き21dによって、幅の狭い部分として形成されたものであるが、本発明における狭窄部は、この実施形態の態様に限定されるものではない。すなわち、例えば、外形形状の輪郭は変化させずに、内側の部分に孔を形成する等して除去することで、その除去した部分から外形形状の輪郭までの幅を狭くした狭窄部であってもよい。
【0035】
ただし、切欠き21dによって狭窄部21eを形成したものでは、切欠き21dが無い場合の外形形状(図4において二点鎖線で示した形状)よりも輪郭が内側に絞られた形状(図4において実線で示した形状)となる。外部の磁界Jにより耐磁板21の近傍の磁束は、耐磁板21の外形形状が仮に二点鎖線の形状であれば耐磁板21の内部に引き寄せられ、実線の形状であれば耐磁板21の内部に引き寄せられないことがある。
【0036】
つまり、切欠き21dによって狭窄部21eを形成した耐磁板21は、内側の部分を除去して形成した狭窄部を有する耐磁板に比べて、耐磁板21の内部に引き寄せられる磁束の絶対量を少なくする。したがって、切欠き21dによって狭窄部21eを形成した耐磁板21は、内側の部分を除去して形成した狭窄部を有する耐磁板に比べて、狭窄部21c,21eにおける磁気飽和を起こし難い。
【0037】
また、本発明における狭窄部は、秒針モータ11に対して磁気的に最も弱い磁界Jの向きMに沿った磁束が通過する断面の面積が小さく絞られた形状の部分であればよい。したがって、本発明における狭窄部は、幅方向の寸法を小さくする(幅を狭くする)ことで断面積を小さくした部分の他、耐磁板の厚さ方向の寸法を小さくする(厚さを薄くする)ことで断面積を小さくした部分であってもよい。また、本発明における狭窄部は、幅を狭くするとともに厚さを薄くして、断面積を小さく形成した部分であってもよい。
【0038】
図7は、図4に示した耐磁板21に対して、切欠き21dが無い二点鎖線で示した外形形状で、かつ、耐磁板21における切欠き21dに対応する部分の厚さが、他の部分よりも薄く形成された耐磁板121を示す図であり、(A)は図4相当の平面図、(B)は(A)におけるA−A線に沿った断面を示す断面図である。
図7に示すように、この耐磁板121は、秒針モータ11に対して磁気的に最も弱い磁界Jの向きMに関して、他の部分の厚さt1よりも薄い厚さt2の狭窄部121eとなる。
【0039】
このように、厚さを薄くすることで、磁界Jの向きに沿った磁束の通過する耐磁板121の断面積を他の部分の断面積よりも小さくした狭窄部121eは、狭窄部21eと同様に、他の部分よりも磁気飽和を誘発させ易くなる。
狭窄部121eで磁気飽和が誘発されることにより、磁束は狭窄部121eを避けて他の経路に分散され、分散された磁束が秒針モータ11の位置の耐磁板を通過する。この結果、耐磁板121のサイズを大きくすることなく、秒針モータ11の位置での耐磁板121の耐磁性能が相対的に向上する。
【0040】
なお、耐磁板の幅を狭くするとともに厚さを薄くすることで、磁束が通過する耐磁板の部分の断面積を一層小さくすることができる。
また、部分的に厚さを薄くして狭窄部を形成することで、厚さが薄くなった部分に関しては、厚さ方向の空間を増やすことができる。
一方、幅を狭くして狭窄部を形成することで、耐磁板の面の広がる方向に関して、空間を増やすことができる。
【0041】
本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、秒針モータ11を挟んで上下にそれぞれ耐磁板21,22が形成されたものであるが、本発明に係る電子時計及びムーブメントは、この実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明に係る電子時計及びムーブメントは、モータを挟む上下のうちいずれかに一方にのみ耐磁板が設けられ、その耐磁板が、モータのコイルの周囲に狭窄部が形成され、その狭窄部よりも磁界の上流側に別の狭窄部が形成されたものであればよい。
【0042】
本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、耐磁板21に、秒針モータ11のコイル11aとの干渉を防止する逃げ孔21aが形成されていて、この逃げ孔21aと外形形状との間に、他の部分よりも幅の狭い別の狭窄部21cが形成されている。
【0043】
本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、耐磁板21,22の、秒針モータ11について磁気的に最も弱い磁界Jの向きMに沿った磁束が通過する部分に狭窄部21e,22eを形成したものであるが、本発明に係る電子時計及びムーブメントは、この形態に限定されない。
【0044】
本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、秒針モータ11、デュアル分時針モータ12、分時針モータ15及び機能針モータ16という4つのステップモータを備えているが、前述したように、この順序で、耐磁性能が要求される優先度が高い。
そして、本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、この4つのステップモータのうち耐磁性能が要求される優先度が最も高い秒針モータ11に関してのみ、耐磁板21,22に、磁気的に最も弱い方向の磁界Jの向きMの上流側に狭窄部21eが形成されている。
【0045】
しかし、本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、秒針モータ11の他に、耐磁性能が要求される優先度(駆動頻度)が2番目である分時針モータ15に関しても、耐磁板21,22に、磁気的に最も弱い方向の磁界の向きの上流側に、別の狭窄部が形成されていてもよい。
【0046】
また、本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、秒針モータ11及び分時針モータ15の他に、耐磁性能が要求される優先度(駆動頻度)が3番目であるデュアル分時針モータ12に関しても、耐磁板21,22に、磁気的に最も弱い方向の磁界の向きの上流側に、別の狭窄部が形成されていてもよい。
【0047】
さらに、本実施形態の電波修正時計1及びムーブメント3は、秒針モータ11、分時針モータ15及びデュアル分時針モータ12の他に、耐磁性能が要求される優先度(駆動頻度)が4番目である機能針モータ16に関しても、耐磁板21,22に、磁気的に最も弱い方向の磁界の向きの上流側に、別の狭窄部が形成されていてもよい。
このように形成された電波修正時計1及びムーブメント3によれば、耐磁性能が要求される優先度が高いステップモータから順に対応して、耐磁板21,22に、狭窄部が形成されていることにより、耐磁性能が要求される優先度が高いステップモータの順に、耐磁性能を向上させることができる。
【0048】
なお、4つのステップモータ(秒針モータ11、デュアル分時針モータ12、分時針モータ15及び機能針モータ16)は、磁気的に最も弱い方向が必ずしも同じではないため、ステップモータごとに対応する狭窄部は、向き等が同じになるとは限らない。
【符号の説明】
【0049】
1 電波修正時計
2 ケース
3 ムーブメント
7 回路基板
11 秒針モータ
11a コイル
11c ロータ
21,22 耐磁板
21a 逃げ孔
21b 孔
21c,21e 狭窄部
21d 切欠き
J 磁界
L,M 向き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7