(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768287
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】一軸のセルフセンタリングピボット部を有する可変タービンジオメトリベーン
(51)【国際特許分類】
F02B 37/24 20060101AFI20201005BHJP
【FI】
F02B37/24
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-222723(P2015-222723)
(22)【出願日】2015年11月13日
(65)【公開番号】特開2016-98821(P2016-98821A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2018年8月23日
(31)【優先権主張番号】62/082,693
(32)【優先日】2014年11月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500124378
【氏名又は名称】ボーグワーナー インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】シャノン・スコット
(72)【発明者】
【氏名】エリ・モーガン
【審査官】
篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−140739(JP,A)
【文献】
特開2010−019252(JP,A)
【文献】
特開2013−104414(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0014033(US,A1)
【文献】
実公昭47−022243(JP,Y1)
【文献】
国際公開第2014/128895(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0107520(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0321990(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0354444(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変構造のターボ過給機用ベーンパックアセンブリ(25)であって、
上部ベーンリング(28)、
上面と下面とを有し、前記上面に形成されているセルフセンタリングピボット凹部(48)を有する下部ベーンリング(30)、
第一端部、第二端部を有するポスト(50)を含み、該ポストは、それと一体的に形成されているベーン(52)を有し、該ベーンは、前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間に動作可能に位置する、複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーン(26)、
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)を貫通して延びている複数の締結手段(68)、及び
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間の間隔を維持するための複数のスペーサ(70)を含み、
前記ポスト(50)の前記第一端部は、前記上部ベーンリング(28)の上面(40)を貫通して延び、または、前記ポスト(50)の前記第一端部は、ベーン調節レバー(74)の貫通孔(33)を貫通して延び、かつベーン調節レバー(74)に接続されており、
前記ポスト(50)の前記第二端部には、凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)が設けられており、
かつ前記第二端部は、前記下部ベーンリングにあり、相補的な形状の凹状に形成されている、前記セルフセンタリングピボット凹部(48)に取り付けられている、
可変構造のターボ過給機用ベーンパックアセンブリ。
【請求項2】
可変構造のターボ過給機用ベーンパックアセンブリ(25)であって、
上部ベーンリング(28)、
上面と下面とを有し、前記上面に形成されているセルフセンタリングピボット凹部(48)を有する下部ベーンリング(30)、
ポスト(50)を含み、該ポストはそれと一体的に形成されているベーン(52)を有し、該ベーンは、前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間に動作可能に位置する、複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーン(26)、
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)を貫通して延びている複数の締結手段(68)、及び
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間の間隔を維持するための複数のスペーサ(70)を含み、
前記ポスト(50)の少なくとも一端部には、前記下部ベーンリングにある相補的な形状の凹状のセルフセンタリングピボット凹部(48)に取り付けられるようになっている凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)が設けられ、
前記凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)は球状、又は、部分的球状に構成されている、
ベーンパックアセンブリ(25)。
【請求項3】
可変構造のターボ過給機用ベーンパックアセンブリ(25)であって、
上部ベーンリング(28)、
上面と下面とを有し、前記上面に形成されているセルフセンタリングピボット凹部(48)を有する下部ベーンリング(30)、
ポスト(50)を含み、該ポストはそれと一体的に形成されているベーン(52)を有し、該ベーンは、前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間に動作可能に位置する複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーン(26)、
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)を貫通して延びている複数の締結手段(68)、及び
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間の間隔を維持するための複数のスペーサ(70)を含み、
前記ポスト(50)の少なくとも一端部には、前記下部ベーンリングにある相補的な形状の凹状のセルフセンタリングピボット凹部(48)に取り付けられるようになっている凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)が設けられ、
前記凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)は円錐状に構成されているベーンパックアセンブリ(25)。
【請求項4】
可変構造のターボ過給機用ベーンパックアセンブリ(25)であって、
上部ベーンリング(28)、
上面と下面とを有し、前記上面に形成されているセルフセンタリングピボット凹部(48)を有する下部ベーンリング(30)、
ポスト(50)を含み、該ポストはそれと一体的に形成されているベーン(52)を有し、該ベーンは、前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間に動作可能に位置する複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーン(26)、
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)を貫通して延びている複数の締結手段(68)、及び
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間の間隔を維持するための複数のスペーサ(70)を含み、
前記ポスト(50)の少なくとも一端部には、前記下部ベーンリングにある相補的な形状の凹状のセルフセンタリングピボット凹部(48)に取り付けられるようになっている凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)が設けられ、
前記凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)は截頭球状に構成されている、
ベーンパックアセンブリ(25)。
【請求項5】
可変構造のターボ過給機用ベーンパックアセンブリ(25)であって、
上部ベーンリング(28)、
上面と下面とを有し、前記上面に形成されているセルフセンタリングピボット凹部(48)を有する下部ベーンリング(30)、
ポスト(50)を含み、該ポストはそれと一体的に形成されているベーン(52)を有し、該ベーンは、前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間に動作可能に位置する複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーン(26)、
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)を貫通して延びている複数の締結手段(68)、及び
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間の間隔を維持するための複数のスペーサ(70)を含み、
前記ポスト(50)の少なくとも一端部には、前記下部ベーンリングにある相補的な形状の凹状のセルフセンタリングピボット凹部(48)に取り付けられるようになっている凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)が設けられ、
前記凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)は截頭円錐状に構成されている、
ベーンパックアセンブリ(25)。
【請求項6】
前記凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)は球状、又は、部分球状に構成されている、
請求項1に記載のベーンパックアセンブリ(25)。
【請求項7】
前記凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)は、円錐状、截頭球状、又は、截頭円錐状に構成されている、
請求項1に記載のベーンパックアセンブリ(25)。
【請求項8】
上部ベーンリング(28)、
表面に形成されているセルフセンタリングピボット凹部(48)を有するタービンハウジング(20)、
第一端部、第二端部を有するポスト(50)を含み、該ポストは、それと一体的に形成されているベーン(52)を有し、該ベーンは、前記上部ベーンリング(28)と前記タービンハウジング(20)との間に動作可能に位置する複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーン(26)、
前記上部ベーンリング(28)と前記タービンハウジング(20)を貫通して延びている複数の締結手段(68)、及び
前記上部ベーンリング(28)と前記タービンハウジング(20)との間の間隔を維持するための複数のスペーサ(70)を含み、
前記ポスト(50)の前記第一端部は、前記上部ベーンリング(28)の貫通孔(33)を貫通して延び、かつベーン調節レバー(74)に接続されており、
前記ポスト(50)の前記第二端部には、凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)が設けられおり、かつ前記第二端部は、前記ポスト(5)の凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)に対して相補的な形状の凹状に形成された、前記タービンハウジング(20)のセルフセンタリングピボット凹部(48)に取り付けられている、可変構造のターボ過給機用ベーンパックアセンブリ。
【請求項9】
可変構造のターボ過給機用ベーンパックアセンブリ(25)であって、
上部ベーンリング(28)、
上面と下面とを有し、前記上面に形成されているセルフセンタリングピボット凹部(48)を有する下部ベーンリング(30)、
ポスト(50)を含み、該ポストは、第一端部、第二端部、及びこれらと一体的に形成されているベーン(52)を有し、該ベーンは、前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間に動作可能に位置する複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーン(26)、
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)を貫通して延びている複数の締結手段(68)、及び
前記上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間の間隔を維持するための複数のスペーサ(70)を含み、
前記ポスト(50)の前記第一端部は、前記上部ベーンリング(28)の貫通孔(33)を貫通して延び、かつベーン調節レバー(74)に接続されており、
前記ポスト(50)の前記第二端部には、凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)が設けられおり、
かつ前記第二端部は、前記下部ベーンリングにあり、相補的な形状の凹状に形成された、前記セルフセンタリングピボット凹部(48)に取り付けられ、
前記凸状のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)は前記セルフセンタリングピボット凹部(48)内で回転し得る、
可変構造のターボ過給機用ベーンパックアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関用ターボ過給システムに関し、より詳しくは、熱変形を許容しながら可変タービン構造(VTG)ベーンパックアセンブリに制動能力と耐久性を提供する一軸のセルフセンタリングピボット部を有するVTGベーンパックアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ過給機は、内燃機関に用いられる一種の強制誘導システムである。ターボ過給機は、圧縮空気をエンジン吸気部に伝達してより多くの燃料が燃焼されるようにし、それによってエンジンの重量を大きく増加させることなくエンジンの馬力を増大させる。よって、ターボ過給機は、より大きな自然吸気エンジンとして、同一量の馬力を発生させるより小さなエンジンを使用可能にする。車両において、より小さなエンジンを用いると、車両の質量が減少し、性能が増加され、かつ燃費が向上する好ましい効果が得られる。さらに、ターボ過給機を用いると、エンジンに伝達される燃料がより完全に燃焼できるようになり、このような完全燃焼はよりクリーンな環境を実現するという非常に好ましい目的に寄与する。
【0003】
ターボ過給機は、一般にエンジンの排気マニホールドに連結されるタービンハウジング、エンジンの吸気マニホールドに連結される圧縮機ハウジング、及びタービンハウジングと圧縮機ハウジングとの間に配置され、これらの両ハウジングを共に連結するセンターベアリングハウジングを含む。タービンハウジングは、スクロール又はボリュートからなる略環状のチャンバを形成し、タービンホイールを囲み、エンジンの排気マニホールドから連結されている排気供給流動チャネルから排気ガスを受ける。タービンアセンブリは、一般に前記チャンバからタービンホイール内に連結されているスロートを含む。タービンハウジング内のタービンホイールは排気マニホールドから供給される排気ガスの流入流動によって回転可能に駆動される。センターベアリングハウジング内に回転可能に支持される軸は、タービンホイールを圧縮機ハウジング内の圧縮機インペラに連結し、それによりタービンホイールの回転によって圧縮機インペラが回転される。タービンホイールと圧縮機ホイールとを連結する前記軸は回転軸線であるラインを規定する。排気ガスは、スクロール又はボリュートからなる環状タービンチャンバから前記スロートを貫通してタービンホイールに流れ、該タービンホイールが排気ガスによって駆動されて非常に高い速度で回転するようになる。タービン流れ及び圧力制御手段を用いて排気ガスの背圧及びターボ過給機の速度を調節する。タービンホイールが非常に高い速度で回転することによって、タービンは排気ガスから動力を抽出して圧縮機を駆動させるようになる。圧縮機は圧縮機ハウジングの入口を通じて周辺空気を内部に引き込み、その周辺空気は圧縮機ホイールによって圧縮され、その後に圧縮機ハウジングからエンジン空気吸気部に排出される。圧縮機インペラの回転によって、エンジン吸気マニホールドを通じてエンジンのシリンダーに伝達される空気質量流量、空気流動密度及び空気圧力が増加し、それによってエンジンの出力が増大し、高いエンジン性能が提供され、燃料の消費が低減され、かつ二酸化炭素(CO
2)の排出が低減されて環境汚染物質が減少する。
【0004】
ターボ過給機は、設計によって作動条件の制限された範囲で最適に作動する。大型タービンはより高い空気質量流量で最適に作動できる。しかし、低い空気質量流量では大型タービンは効率的でなく、またブーストに対する要求を満たすために速く回転することができず、それによってターボラグという現象が起きるようになる。一方、小型タービンはより低い空気質量流量で良好なブーストを提供することができる。しかし、小型タービンはより高い空気質量流量を受ける場合にチョークすることがある。このような理由で、小型タービンは簡単な形態のブースト圧力制御機構としてバイパスを備えてもよい。バイパスを備えるタービンの場合、タービンのサイズは、低いエンジン速度でのトルク特性要件が満たされ、かつ良好な車両走行性が得られるように選択される。このような設計によって、所要のブースト圧力の生成に必要とされるよりも多くの排気ガスが、最大トルクに到逹する直前にタービンに供給される。一旦特定のブースト圧力が得られると、余剰の排気ガス流れの一部がバイパスを通じてタービンの周囲に供給される。通常、該バイパスを開閉するウエストゲートは、ブースト圧力に応じてスプリング付きダイアフラムによって作動する。ただし、タービンを迂回するとは、排気エネルギーの一部が消費されて回収されないことを意味する。
【0005】
可変タービン構造は、タービン流れ断面がエンジン作動点によって変化され得るようにする。よって、全体排気ガスエネルギーを用いることができ、かつタービン流れ断面をそれぞれの作動点に対して最適に設定することができる。結果として、ターボ過給機の効率及びエンジンの効率がバイパス制御で得られるものよりも高くなる(Mayer 「Turbochargers,Effective Use of Exhaust Gas Energy」,Verlag Moderne Inudstrie,2
nd Revised Edition 2001を参照)。ボリュートハウジングとタービンホイールとの間にある可変ガイドベーンは圧力形成挙動に影響を与え、それによってタービン出力に影響を与える。低いエンジン速度ではガイドベーンが閉鎖され流れ断面が減少される。タービンの入口と出口との間のより高い圧力降下の結果としてブースト圧力が上昇し、それによってエンジントルクも上昇する。高いエンジン速度ではガイドベーンが徐々に開放される。求められるブースト圧力は、低いタービン圧力比及び減少したエンジン燃料の消費から得られる。車両が低い速度から加速する間ガイドベーンは閉鎖されて排気ガスの最大エネルギーを得る。速度が増加するにつれてベーンが開放され、対応する作動点に適合するようになる。
【0006】
今日、最新の高出力ディーゼルエンジンの排気ガス温度は830℃にまで達している。高温の排気ガス流れ内における正確で信頼性の高いガイドベーン運動のためには、材料に対する要求が高くなり、またタービン内の公差が正確に規定されなければならない。車両の全体寿命にわたって信頼性の高い作動を保障するためには、ターボ過給機フレームのサイズに関係なくガイドベーンでは最小の間隙が求められる。
【0007】
一般に、VTGの調節可能なガイドベーンは、タービンハウジングの内部で一対のベーンリング(上部及び下部)及び/又はノズル壁の間に回転可能に取り付けられる。調節可能なガイドベーンが回転して、タービンホイールに向かう排気ガス流れの速度又は方向を変えて排気ガスの背圧とターボ過給機の速度を制御するようになる。より低い排気ガス空気質量流量では、前記調節可能なガイドベーンは相対的に閉鎖された位置に動き、排気ガス流れのためのより小さな通路を形成することができる。それによって、VTGは排気ガスの可用性がより低い場合でもより高い回転速度を得ることができる小型タービンを模倣している。一方、エンジンがより高い速度である場合は、排気ガス空気質量流量が高い。そのため、調節可能なガイドベーンが開放され、排気ガスの流れ、及び必要に応じて適切な量のブーストのためのより大きな通路を形成することができる。調節可能なガイドベーンが開閉可能であるので、ターボ過給機はエンジンの要求を満たすためにより広範囲の条件下で作動できる。バイパス制御と比べ、VTGは全ての排気ガスエネルギーを用いるため排気ガスターボ過給機の効率が向上し、よってエンジンの効率も向上する。
【0008】
タービンハウジングアセンブリが一対のベーンリングを囲むように、VTGターボ過給機は、一般にスタッド、ボルト、又はナット付きスタッドのような少なくとも3個の締結具を用いて前記一対のベーンリング(すなわち、上部ベーンリング及び下部ベーンリング)をタービンハウジングに固定させる。締結具が両ベーンリングを貫通して上部ベーンリングを下部ベーンリングに締結し、かつ下部ベーンリングをタービンハウジングに締結する。ベーンを迂回してベーンとベーンリングとの間隙を流れる排気ガスはVTGの効率を減少させる。そのため、ベーンが排気ガスの流れを最適に制御するために、ベーンとベーンリングとの間隙を非常に小さくしなければならない。ベーンがそのような小さな間隙を有して回転するように、VTGベーンアセンブリは高い幾何学的平行度でタービンハウジングに取り付けられなければならない。このような平行は、タービンが非常に広い温度範囲にある場合も維持されなければならない。他の構成部品は異なる熱膨脹係数を有する異なる金属で作製される。タービンハウジングは、熱膨脹差により温度範囲にわたってある程度の変形をするようになる。タービンハウジングの変形によって固定機構/締結具が幾何学的平行性を失うようになり、それによってベーンと可動構成部品はこれ以上自由に回転することができなくなり、それによって固着するか又はロックアップされる。固定機構/締結具の平行性が失われると、該固定機構/締結具に高い応力が生じ、このような応力によって固定機構/締結具の機能損失又は破損が生じ得る。ベーンリングの変形によって、異常な摩耗パターン又は望まない間隙が生じ得ることでターボ過給機の空気力学的効率がさらに低下する。
【0009】
したがって、ベーンリングアセンブリがタービンハウジング内に位置して機能できるようにするVTGアセンブリが必要となる。また、ベーンアセンブリ構成部品の互いに対する位置を維持し、最高効率を最適化しながらタービンハウジング及び/又はベーンリングアセンブリの熱的拡大と変形に対処する必要がある。さらに、コストの点で効果的かつ信頼することができ、製造、組立、及び/又は分解の容易性を促進するようなシステム及び方法も必要である。
【発明の概要】
【0010】
これらの目的は、複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーンを有するベーンパックアセンブリを含む可変タービン構造(VTG)ターボ過給機により達成される。ベーンパックアセンブリは、略環状の第1の又は上部ベーンリング、及び略環状の第2の又は下部ベーンリングを含んでもよい。上部ベーンリングが下部ベーンリングから離隔して環状スペースが形成されるように、上部ベーンリングと下部ベーンリングとの間には複数のスペーサが配置される。該環状スペース内には、複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーンが回転可能に取り付けられる。これらガイドベーンは、上部ベーンリングと下部ベーンリングとの間に回転可能に取り付けられる。ガイドベーンは、セルフセンタリングピボット部を有するポストを含んでもよい。好ましくは、ポストの一端部又は両端部が球状であり、ディスクにある「U」字状の凹部に収容される。ポストはボールインソケット方式で前記凹部に嵌め込まれる。円筒状のボア内にある従来の円筒状ポストに比べて(ボールインソケット嵌込ポストの場合、ディスクの間の整列不良、連続したポスト間の整列不良、又はあるディスクの他のディスクに対する回転が生じると、前記従来の円筒状ポストは束縛されるであろう)、ポストのいずれの整列不良も容易に許容され、束縛を引き起こさないであろう。タービンハウジングが広範囲の温度に晒される結果として変位又は変形されるとしても、前記ベーンパックアセンブリはポストの前記セルフセンタリングピボット部により機能できる。作動機構を用いてガイドベーンを開閉してガイドベーンの回転運動を制御することによって排気ガスの速度及び背圧が制御される。
【0011】
複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーンにより、ベーンリングアセンブリがタービンハウジングの内部に配置され、ターボ過給機の効率を維持しながら、ハウジング及び/又はベーンリングアセンブリの熱膨脹の影響又は熱的拡大の差の影響を無効化することができる。さらに、複数のガイドベーンのセルフセンタリングピボット部は、空気力学的な力を与える傾向にある曲げモーメントを制限して、ベーンパックアセンブリに耐久性及び制動能力を加える。複数のガイドベーンはコスト面で効果的かつ信頼することができ、かつ容易に組み立てられるように設計されている。下部ベーンリング又はハウジングの変形が生じても、ベーンはセルフセンタリングピボット面により一軸ジョイント内で回転し続けることができる。また、下部ベーンリング又はタービンハウジングに対してはより多様な材料が考慮できる。システムの寿命にわたって、セルフセンタリング表面はベーンポストを設計した方式で回転するように案内し続ける。
【0012】
本発明のさらに詳細な内容、利点及び特徴は図面に基づく例示的な実施形態に対する以下の説明から分かるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、可変タービン構造(VTG)ターボ過給機の一態様の断面図である。
【
図2】
図2は、ベーンパックアセンブリの一態様の断面図である。
【
図3】
図3は、
図2にある一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーンの一態様の正面図である。
【
図4】
図4は、ベーンパックアセンブリの他の態様の断面図である。
【
図5】
図5は、
図4にある一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーンの一態様の正面図である。
【
図6】
図6は、VTGターボ過給機のベーンパックアセンブリの一態様の断面図であって、締結具とスペーサが示されている。
【
図7】
図7は、
図6にあるVTGターボ過給機のベーンパックアセンブリの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、圧縮機ステージ(12)とタービンステージ(14)とを含むターボ過給機(10)の一態様を詳しく示している。圧縮機ステージ(12)は、圧縮機ハウジング(16)と圧縮機ホイール(18)とを含む。タービンステージ(14)は、タービンハウジング(20)とタービンホイール(22)とを含む。圧縮機ハウジング(16)は、ベアリングハウジング(23)によってタービンハウジング(20)から離れている。軸(24)が圧縮機ホイール(18)をタービンホイール(22)に連結しながらベアリングハウジング(23)を通じて延びている。ベーンパックアセンブリ(25)(
図2により詳しく示されている)は、略環状の第1の又は上部ベーンリング(28)と、略環状の第2の又は下部ベーンリング(30)との間に位置する複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーン(26)を含む。複数のガイドベーン(26)のそれぞれは作動機構(27)によって回転される。作動機構(27)は、空圧式アクチュエータ、ギア式アクチュエータ、電気アクチュエータ、又は当業界で公知の類似した機構を含んでもよい。
【0015】
前記ベーンパックアセンブリ(25)は
図2に詳しく示されている。ある態様において、ベーンパックアセンブリ(25)の基本的な構成部品は、複数のガイドベーン(26)(
図3)、上部ベーンリング(28)、下部ベーンリング(30)、上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間に配置されるスペーサ(70)、及び複数のベーン調節レバー(74)を含む。ポスト(50)を示す仮想線が見えるように図面の右側部分ではクロスハッチングが省略されている。
【0016】
上部ベーンリング(28)は略等間隔にある複数の孔(38)を含み、これらの孔は、該上部ベーンリングを貫通して上部ベーンリング(28)の上面(40)から底面(42)まで延びている。下部ベーンリング(30)は上面(44)と底面(46)とを含む。下部ベーンリング(30)の上面(44)は略等間隔にある複数のセルフセンタリングピボット凹部(48)を含む。該ピボット凹部(48)は下部ベーンリング(30)の上面(44)から該下部ベーンリング(30)内に部分的に延びている。ピボット凹部(48)は下部ベーンリング(30)の底面(46)まで完全に貫通して延びてはいない。
【0017】
一態様において、
図3に示されている複数のガイドベーン(26)のそれぞれはポスト(50)を含み、該ポストはそれと一体的に形成されたベーン(52)を有している。ポスト(50)は第1端部(54)及びセルフセンタリングピボット部(56a)を有する第2端部を含む。ポスト(50)の第1端部(54)は上部ベーンリング(28)の上面(40)を完全に貫通し、わずかにこれを越えて延びてもよい。複数のベーン調節レバー(74)は複数の貫通孔(33)を含み、ガイドベーン(26)のポスト(50)の第1端部(54)が前記貫通孔を貫通して延びている。複数のベーン調節レバー(74)を貫通して延びているポスト(50)は、複数のベーン調節レバー(74)をスライド可能に平たく上部ベーンリング(28)に回転可能に取り付ける。ポスト(50)の第2端部の前記セルフセンタリングピボット部(56a)は、対応するセルフセンタリングピボット凹部(48)内に収容され、ガイドベーン(26)を下部ベーンリング(30)に対して位置付けてセンタリングさせる。排気ガスは、上部ベーンリングの下面と下部ベーンリングの上面との間にある環状の間隙を高圧、高速で貫流するようになる。排気ガスが孔(38)を通じて抜けることを防止するため、ガイドベーン(26)は環状スペース内にフランジ(58)をさらに含み、該フランジは上部ベーンリングの下面で前記孔(38)を覆っている。ガイドベーンには第2フランジ(60)が設けられてもよく、該第2フランジは下部ベーンリングの上面で前記セルフセンタリングピボット凹部(48)を覆っている。さらに、前記フランジ(58,60)はベーン(52)と上部ベーンリングの下面及び下部ベーンリングの上面との間の正確な間隔を保障する。
【0018】
前記セルフセンタリングピボット部(56a)は球状であってもよい。
図2及び3のセルフセンタリングピボット部(56a)は球状であるが、他の形状も効果的であると知られている。
【0019】
ある態様では、
図4及び5に示されているように、セルフセンタリングピボット部(56b)は円錐状であってもよい。本発明の他の全ての態様は、上記で
図1〜3に関して詳しく説明したものと同様である。セルフセンタリングピボット部(56a,56b)に対し球状又は円錐状が詳しく説明されたが、セルフセンタリングピボット部(56a,56b)は截頭円錐状、截頭球状、部分円錐状、部分球状、又はこれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0020】
他の態様において、下部ベーンリング(30)は省略されてもよい(図示せず)。これに関して、等間隔にある複数のセルフセンタリングピボット凹部(48)がタービンハウジング(20)に形成される。セルフセンタリングピボット部(56a,56b)は、タービンハウジング(20)に等間隔に形成されている複数のセルフセンタリングピボット凹部(48)に収容される。複数のガイドベーン(26)は、スペーサ(70)のようなベーンパックアセンブリ(25)の他の構成部品と共に、タービンハウジング(20)に対してベーンパックアセンブリ(25)を維持するのに寄与する。よって、ベーンパックアセンブリ(25)は、熱的拡大の影響又は熱的拡大差の影響によるタービンハウジング(20)の動き又は変形を補償するために回転可能である。さもなくば、このような種類の動きは従来の二軸の及び/又は一般に知られている他のターボ過給機の構成では可能でないであろう。
【0021】
最も好ましくは、前記ポストの一端部又は両端部が球状であり、ディスクにある「U」字状の凹部に収容される。ポストはボールインソケット方式で凹部内に嵌め込まれる。円筒状のボア内にある従来の円筒状ポストに比べて(ボールインソケット嵌込ポストの場合、ディスクの間の整列不良又は連続したポスト間の整列不良、又はあるディスクの他のディスクに対する回転が生じると、前記従来の円筒状ポストは束縛されるであろう)、ポストのいずれの整列不良も容易に許容され、束縛を引き起こさないであろう。
【0022】
ターボ過給機(10)は、150,000〜300,000RPMの高周波回転範囲で作動し、1050℃より高い温度を受けることができる。これらの条件は、精密公差の構成部品には無駄な熱プロファイル及び熱膨脹差を発生させるようになり、精密公差の構成部品では、構成部品の固着や過度な摩耗を防止するために変形が最小化されなければならない。よって、複数の一軸のセルフセンタリング調節可能なガイドベーン(26)の特定のサイズ、形状、数、及び材料はこれらの特性に基づいて選択できるが、組立容易性、タービンホイールのサイズと励起、求められる剛性及び熱変形制御、熱膨脹係数、耐腐食性、コスト、強度及び耐久性を含む多くの他の要素に基づいて選択されてもよい。ベーンパックアセンブリ(25)及びその構成部品は、高温及びエンジン燃焼の腐食性副生成物への厳しい露出に耐えるため、ニッケル、ステンレス鋼、又は他の類似材料といった材料が効果的であると知られている。
【0023】
図6は、ベーンパックアセンブリ(25)の特定の構成の一態様を詳しく示している。上部ベーンリング(28)及び下部ベーンリング(30)は締結手段(68)によって一緒に保持される。複数のスペーサ(70)(そのうち3個が
図7に示されている)は、ここに示されているように締結手段(68)の周囲で上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間に配置されているか、又は上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との間の他の位置に配置される。スペーサ(70)は略環状の上部ベーンリング(28)と略環状の下部ベーンリング(30)との間の距離を定めて、両ベーンリングの間隔を維持する。よって、スペーサ(70)は、フランジ(58,60)と、上部ベーンリング(28)の底面(42)及び下部ベーンリング(30)の上面(44)との間の間隙(図示せず)を形成する。締結手段(68)に付着するナット(72)は上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)を複数のスペーサ(70)に締結する締結力を加える役割をする。締結手段(68)は、上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)とを貫通して延びてベーンパックアセンブリ(25)を形成し、該アセンブリはタービンハウジング(20)内で容易に組立可能である。一般には、ベーンパックアセンブリの方向を定め、その回転を阻むためにインデクシング手段が設けられる。
【0024】
使用の際に、排気ガスはエンジンからターボ過給機(10)内を流れてタービンホイール(22)を駆動させ、そして、該タービンホイールは圧縮機ホイール(18)を駆動させる。圧縮機ホイール(18)は空気をターボ過給機(10)内に引き込み、該空気を圧縮してエンジンの吸気側(図示せず)に伝達する。この過程において、複数のガイドベーン(26)が用いられて排気ガスの流れを制御するようになり、排気ガスがタービンホイール(22)に衝突してタービンステージ(14)の動力を制御するようになる。それによって複数のガイドベーン(26)はまた圧縮機ステージ(12)により発生する圧力比を制御する。
【0025】
VTGターボ過給機(10)の作動に対する他の態様が
図7に詳しく示されている。ユニゾンリング(71)が複数のガイドベーン(26)を制御する。ユニゾンリング(71)はベーン調節レバー(74)の上面に位置しているアーチ面(32)上にかかっている。ユニゾンリング(71)の回転運動は作動機構に連結されている制御アーム(27)によって制御され、該制御アーム(27)はレバーアーム(74)とスライドブロック(75)によってユニゾンリング(71)に動作可能に連結されている。
【0026】
作動機構のレバーアーム(27)は制御アーム(74)の運動を生じて、該運動はスライドブロック(75)を通じてユニゾンリング(71)に伝達される。ユニゾンリング(71)が回転するにつれ、該ユニゾンリングに回転可能に取り付けられている複数のより小さいスライドブロック(76)がユニゾンリングと共に動くようになる。ベーン調節レバー(74)のフォークのレッグの間に接触する複数のより小さいスライドブロック(76)の運動によって複数のベーン調節レバー(74)が回転するようになる。該運動によって複数のガイドベーン(26)の回転運動が生じ、該回転運動によってベーン(52)の角位置が変更されて排気ガスの流れが変化し、それによって制御される。
【0027】
ターボ過給機(10)が作動し、タービンステージ(14)内における過度の温度変動に晒されることによって、タービンハウジング(20)が変形し、ベーンパックアセンブリ(25)の整列不良を引き起こすことがある。わずかな動きでも生じれば、セルフセンタリングピボット部(56a,56b)は、下部ベーンリング(30)又はタービンハウジング(20)に等間隔に形成されている前記セルフセンタリングピボット凹部(48)内で回転し得る。そのため、タービンハウジング(20)が熱膨脹に応じて動いて変形されるとき、回転運動を通じてタービンハウジング(20)内におけるベーンパックアセンブリ(25)の位置付けを正確に制御することができる。
【0028】
したがって、ベーン(52)及び他の可動構成部品の固着やロックアップを引き起こす上部ベーンリング(28)と下部ベーンリング(30)との変形が防止される。さらに、ベーン(52)の変形によって生じ得る異常な摩耗パターンが除去され、それによって望まない間隙の発生が減り、かつターボ過給機(10)の空気力学的効率が高まる。
【0029】
ここで説明したベーンパックアセンブリ(25)の態様は多くの利点を提供できることが理解されるであろう。例えば、上記の構成によって最終的な組立が容易になる。また、ベーンパックアセンブリ(25)は比較的安価な部品を使用でき、かつ特殊な材料で作製された部品の使用を避けることができる。ベーンパックアセンブリ(25)は前記アセンブリの部品の溶接に対する必要性がないように構成されている。
【0030】
一軸のセルフセンタリングピボット部(56a,56b)を含む例示的なベーンパックアセンブリ(25)について説明した。ここで用いられる用語は限定するためのものであるというよりは説明するためのものである。前述の教示に照らして多様な変形例が可能であることは明らかである。よって、添付の請求の範囲内で、本発明の概念及び装置は詳細な説明で明示的に詳述したものとは異なる実施が可能であることを理解すべきである。