(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フィルム試料を帯電させる帯電機構と、帯電されたフィルム試料を保持する試料台とを有し、前記試料台の表面の中心線平均表面粗さRaが50nm以下かつ抵抗率が100Ω・cm以下であり、X線反射率法による繰り返し測定を5回行った場合に5回とも全反射X線強度プロファイルを得ることが出来ることを特徴とするフィルム試料固定装置。
前記試料台が電圧印加機構を備えており、該電圧印加機構が前記帯電機構より印加される電圧とは逆極性の電圧を印加することができる機構からなる、請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム試料固定装置。
前記帯電機構または前記試料台、またはそれらの両方が、前記帯電機構と前記試料台との距離を変更可能な可動機構を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム試料固定装置。
請求項7に記載のX線分析装置が、X線を試料に向けて照射するためのX線照射機構と、反射X線を検出するためのX線検出機構と、試料台上に帯電機構による帯電を利用して試料を保持するためのX線分析用試料固定装置を有し、試料に向けてX線の入射角度を0.01〜8°の範囲で入射する、X線分析方法。
請求項9に記載のフィルム製造装置を用い、X線分析装置が単膜または積層膜の膜形成工程の後または、フィルム試料の巻き取り工程前に備え付けられている、フィルム製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した水平な試料台に載置するだけでは、分析する対象物が有機物やフィルムなどの比較的柔らかい材質の場合、試料の反りが影響し、分析の繰り返し再現性が得られないという問題があった。また、試料背面に設けた粘着剤や粘着テープで試料台に固定する方法においても、粘着剤や粘着テープの表面粗さ、うねりなどが試料表面まで影響を与えるため、分析の繰り返し再現性が得られないという問題があった。さらに、試料に張力を掛けた状態で試料端部を固定する方法では、張力によって試料に発生するシワが完全には除去できず、分析ビームがシワに当たって測定不良になることや、分析中に張力から解放されて試料が動いてしまうなどの問題があった。
【0006】
また、X線を微小に集光あるいは絞る測定方法では、一般的な光学特性、電気特性などで測定される一辺長さ1mm以上の広領域を一括して分析することができないため、測定位置を変えて複数回分析した結果を連結する必要があり、測定精度の低下や測定時間の長期化の問題があった。
【0007】
本発明の課題は、かかる従来技術に鑑み、分析する対象物がフィルムやその上に設けられた有機物などの比較的柔らかい材質であっても、非常に簡便に高精度かつ優れた繰り返し再現性を実現可能であり、さらに、分析領域が一辺長さ1mm以上の広領域であっても、フィルムの反り、うねり、シワ等を最小限に抑え、一括して高精度に分析可能な、フィルム試料固定装置と、それを有するX線分析装置及びX線分析方法、さらにはそれを用いたフィルム製造装置及びフィルム製造方法とそのフィルム製造方法により製造されたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のフィルム試料固定装置、それを有するX線分析装置及び方法並びにそれを用いたフィルム製造装置及び方法を提供する。
(1)フィルム試料を帯電させる帯電機構と、帯電されたフィルム試料を保持する試料台とを有することを特徴とするフィルム試料固定装置。
(2)上記帯電機構と上記試料台の表面とが対向している、(1)に記載のフィルム試料固定装置。
(3)上記試料台の表面の中心線平均表面粗さRaが50nm以下かつ抵抗率が500Ω・cm以下である、(1)または(2)に記載のフィルム試料固定装置。
(4)上記帯電機構が圧電効果方式による帯電機構またはコロナ放電方式による帯電機構のいずれかである、(1)〜(3)のいずれかに記載のフィルム試料固定装置。
(5)上記帯電機構がガンタイプによる帯電機構またはバータイプによる帯電機構のいずれかである、(1)〜(4)のいずれかに記載のフィルム試料固定装置。
(6)上記試料台が電圧印加機構を備えており、該電圧印加機構が上記帯電機構より印加される電圧とは逆極性の電圧を印加することができる機構からなる、(1)〜(5)のいずれかに記載のフィルム試料固定装置。
(7)上記帯電機構または上記試料台、またはそれらの両方が、上記帯電機構と上記試料台との距離を変更可能な可動機構を有する、(1)〜(6)のいずれかに記載のフィルム試料固定装置。
【0009】
また、本発明は上記フィルム試料固定装置を有するX線分析装置、および当該X線分析装置を用いたX線分析方法を提供する。
(8)X線照射機構、X線分析機構および(1)〜(7)のいずれかに記載のフィルム試料固定装置を有するX線分析装置。
(9)(8)に記載のX線分析装置を用いる、X線分析方法。
【0010】
さらに、本発明は上記X線分析装置を有するフィルム製造装置、当該フィルム製造装置を用いたフィルムの製造方法、その方法により製造されたフィルムを提供する。
(10)(8)に記載のX線分析装置を有するフィルム製造装置。
(11)(10)に記載のフィルム製造装置を用いる、フィルム製造方法。
(12)(11)に記載のフィルム製造方法により製造されたフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明に係るフィルム試料固定装置を用いることで、フィルム試料表面を帯電させ、フィルム試料を試料台に水平かつ平坦に固定することが可能となるため、フィルム試料と試料台との間に粘着剤や粘着テープを介在させる必要はなく、分析対象となる試料表面のうねり等の発生が回避される。また、前述のように試料台へのフィルム試料の保持が、フィルム試料を帯電させることによって非常に簡便に達成されるため、フィルム試料に外部から張力をかける等の必要はなくなり、大きな張力に起因するシワ等の発生が防止されたり、張力をかけることによる膜割れ等の懸念も防止される。その結果、フィルム試料の分析対象部が、分析用ビーム等を用いた分析にとって望ましい状態に保たれることになり、分析対象物がフィルムやその上に設けられた有機物薄膜などの比較的柔らかい材質であっても、また、分析するフィルム試料が導電性であっても絶縁性であっても、フィルムの種類によらず非常に簡便に高精度でかつ繰り返し再現性を満たした優れた条件下にて望ましい特性分析が実現可能となる。
【0012】
そして、上記本発明に係るフィルム試料固定装置を備えた本発明に係るX線分析装置及び方法では、簡便に高精度でかつ優れた繰り返し再現性をもってX線分析を行うことが可能になり、上記本発明に係るフィルム試料固定装置を用いた本発明に係るフィルム製造装置及び方法では、製造中の、あるいは製造されたフィルムの特性分析を、簡便に高精度でかつ優れた繰り返し再現性をもって行うことが可能になる。このフィルム製造方法によりフィルムを製造することにより、特性のばらつきが低減されたフィルムを安定して優れた生産性をもって製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
[フィルム試料固定装置]
本発明のフィルム試料固定装置はフィルム試料を保持するための固定装置であって、前記固定装置は試料台と帯電機構とを有するフィルム試料固定装置である。試料台表面に載置されたフィルム試料に向かって帯電機構を配置し、帯電機構より電圧を印加することで試料台上にフィルム試料を水平かつ平坦に固定することが可能となる。
【0016】
本発明のフィルム試料固定装置が使用される分析法は特に限定されず、一般的な分光分析やX線分析に用いることができる。フィルム試料を試料台に水平かつ平坦に固定することが可能であるので、特に分析試料表面の平坦性が求められる、分光エリプソメトリ法、X線反射率法、X線小角散乱法、X線回折法などに好適に使用することができる。
【0017】
図1〜3はフィルム試料固定装置の例を示している。
図1に示すフィルム試料固定装置1aは、試料台2と、可動機構4を備えた帯電機構3と、試料台2とコロナ放電方式による帯電機構3それぞれに電圧を印加するための電圧印加電源5を備えている。フィルム試料固定装置1aは、フィルム試料を固定するための装置であり、コロナ放電方式による帯電機構3と試料台2の表面が対向している。試料台2の表面にフィルム試料を載置し、コロナ放電方式による帯電機構3よりフィルム試料表面に向かって電圧を印加することで、フィルム試料をうねりなく水平かつ平坦に試料台上に固定することが可能となる。
図3に示すようにフィルム試料9は分析面が上側を向くように載置され、コロナ放電方式による帯電機構3より正電荷または負電荷がフィルム試料に向けて印加されることで、フィルム試料9は試料台2に固定される。その際、試料台2にコロナ放電方式による帯電機構3から印加される電圧とは逆極性の電圧を印加してもよい。試料台2にコロナ放電方式による帯電機構3から印加される電圧とは逆極性の電圧を印加することで、試料台2へのフィルム試料9の保持力が一層高まり、うねりやカールの比較的大きなフィルム試料でも試料台への固定を簡便に行うことが可能となるうえ、分析中に試料台2からフィルム試料9がはがれてしまうことを回避できる。
【0018】
分析するフィルム試料9が導電性である場合は、フィルム試料9と試料台2の間に平坦かつ平滑な絶縁性シートを載置したり、フィルム試料9の試料台側の面に絶縁性薄膜を形成したりすること等によって、フィルム試料を試料台上に水平かつ平坦に固定することが可能となる。絶縁性シートは、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン等の公知一般の平坦なフィルム基材等を用いることができる。絶縁性薄膜を形成する方法としては、スパッタリング法、CVD法、蒸着法等のドライコーティング、また有機化合物薄膜を形成するウェットコーティングが主に用いられる。試料台2側の絶縁性シートまたは絶縁性薄膜をプラス(あるいはマイナス)に帯電させることにより、導電性であるフィルム試料9の試料台側表面にマイナス(あるいはプラス)の電荷が自然に誘起され、試料台2に水平かつ平坦に固定することが可能となる。この際さらに帯電機構3からフィルム試料9の分析表面に向かって、マイナス(あるいはプラス)の電圧を印加することによって、フィルム試料9の密着度や平坦度を調整することが可能である。
【0019】
本発明に用いられる試料台2の表面は、中心線平均表面粗さRaが50nm以下かつ抵抗率が500Ω・cm以下であることが好ましい。Raが50nmより大きいと、フィルム試料が試料台2に上手く固定されなかったり、フィルム試料が試料台2に上手く保持されてもフィルム試料の平坦性が損なわれたりすることなどによって、精密かつ正確な分析(例えば、X線分析)を行うことができない場合がある。また、試料台2の抵抗率が500Ω・cmよりも大きいと、フィルム試料が試料台2に上手く固定されないことにより、精密かつ正確な分析を行うことができない場合がある。フィルム試料を試料台2により確実に固定することができる観点から、Raが30nm以下かつ抵抗率が300Ω・cm以下であることがより好ましい。試料台2を構成する部材は、前記条件を満たしていればどのような部材でも構わないが、導電性、試料台表面の平坦性、平滑性の観点よりSiウェハを用いることが好ましい。
【0020】
また、試料台2が電圧印加機構を有し、該電圧印加機構が前記帯電機構3より印加される電圧とは逆極性の電圧を印加することができるようにしてもよい。試料台2に帯電機構3より印加される電圧とは逆極性の電圧を印加することにより、湾曲しているフィルム試料や様々な厚みのフィルム試料等の固定の困難なフィルム試料でも簡便に試料台に固定することが可能となる。
【0021】
本発明に用いられる帯電機構は、圧電効果方式による帯電機構またはコロナ放電方式による帯電機構のいずれかであることが好ましい。圧電効果方式とは、圧電効果を発生する水晶(圧電体)に圧力を加えることにより、圧力に比例した分極が現れる現象を利用した方式であり、圧電体に加えられた力を電圧に変換することで帯電機構として活用される。コロナ放電方式による帯電機構とは、帯電機構周りに不均一な電界を生じさせることにより周辺に存在する空気が電気的に分解されることによりイオンが発生し、該イオンを照射する方式の帯電機構である。
図2に、圧電効果方式による帯電機構を用いたフィルム試料固定装置1bを例示する。
図2において、6は圧電効果方式による帯電機構、7は圧電効果方式による帯電機構の電圧印加部、8はその電源を示している。なお、フィルム試料を固定するための帯電機構としては、圧電効果方式による帯電機構やコロナ放電方式による帯電機構に限らず、フィルム試料を試料台表面に固定することができれば、いかなる方式の帯電機構であっても構わない。
【0022】
本発明に用いられる帯電機構は、ガンタイプによる帯電機構またはバータイプによる帯電機構のいずれかであることが好ましい。ガンタイプとは、
図5に示すような形状のものを広く表し、小片サイズのフィルム試料を試料台に固定するなど、比較的狭い範囲を帯電させる際に好適に用いられる。使用するガンタイプの帯電機構の照射範囲を超えるサイズのフィルム試料を試料台に保持する場合は、等間隔にガンタイプの帯電機構を並べる方式が主に用いられる。また、ガンタイプの帯電機構は、圧電効果方式による帯電方式とコロナ放電方式による帯電機構のどちらの方式のものでも構わない。また、
図5では、引き金23が、電圧印加部22を有する帯電機構と一体となっているが、引き金は帯電機構と一体でもよいし、遠隔操作式であっても構わない。なお、
図5における24は、照射されたイオンまたは電子を示している。
【0023】
また、バータイプとは、
図6に示すような形状のものを広く表し、ロール・ツー・ロールによる搬送途中のフィルム試料を試料台に固定するなど、幅広い範囲を一度に帯電させたい場合に好適に用いられる。使用するバータイプの帯電機構の照射範囲を超えるフィルム試料を試料台に固定する場合には、等間隔にバータイプの帯電機構を並べる方式や水平方向の可動機構を有するバータイプの帯電機構を用いる方式が主に用いられる。バータイプの帯電機構は、コロナ放電方式の帯電機構が好ましく用いられるが、フィルム試料を試料台に固定することができればその他の方式の帯電機構であっても構わない。なお、
図6における25は電圧印加部、26は電源ケーブル、27は照射されたイオンまたは電子をそれぞれ示している。
【0024】
上記のように、帯電機構はガンタイプやバータイプであることが好ましいが、フィルム試料を試料台に水平かつ平坦に固定することができれば、いかなる形状の帯電機構であっても構わない。
【0025】
本発明に用いられる帯電機構は、可動機構を有することが好ましい。可動機構は垂直方向の可動機構、水平方向の可動機構などの様々な形態が考えられるが、フィルム試料を試料台に水平かつ平坦に固定できれば、いかなる形態の可動機構であっても構わない。帯電機構が垂直方向の可動機構を有していることにより、試料台および試料台に載置されたフィルム試料と対向した帯電機構の距離を調整することが可能となり、湾曲の大きなフィルム試料や比較的厚みのあるフィルム試料等の固定が比較的困難なフィルム試料であっても試料台への固定が簡便に行うことが可能となる。また、帯電機構が水平方向の可動機構を有していることにより、サイズの大きなフィルム試料であっても、試料台へ固定することが容易となる。
【0026】
また、本発明に用いられる試料台についても、可動機構を有していることが好ましい。可動機構は垂直方向の可動機構、水平方向の可動機構などの様々な形態が考えられるが、フィルム試料を保持できれば、いかなる形態の可動機構であっても構わない。試料台が可動機構を有していることにより、フィルム試料の分析面の裏面側より試料台を接近させることが可能となるため、ロール・ツー・ロールによる搬送途中のフィルム試料等の、フィルム試料を試料台に載置することが困難な場合であっても、試料台への固定を簡便に行うことが可能となる。
【0027】
以上の可動機構に関して、A.帯電機構のみが可動機構を有している場合、B.試料台のみが可動機構を有している場合、C.帯電機構および試料台の両方が可動機構を有している場合が考えられるが、A〜Cのいずれであっても構わない。
【0028】
[フィルム試料]
本発明において使用されるフィルム試料としては、有機高分子化合物からなるフィルム基材単体でもよく、フィルム基材上に無機化合物層や有機化合物層の単膜、また、それらの積層膜などが形成されていても構わない。また、それらのフィルム試料は絶縁性であっても、導電性であっても構わない。
【0029】
上記無機化合物層としては、特に限定されず、例えば、周期表3A〜4Bに属する1種以上の元素からなる金属層または、それらの酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物や、それらの混合物等からなる薄膜層が挙げられる。無機化合物層の膜厚は特に限定されないが、分析精度を確保する観点から0.1nm〜5,000nmの範囲が好ましく、分析精度や試料の固定の容易さの観点より0.5nm〜1,000nmの範囲がより好ましい。
【0030】
また、上記有機化合物層としては、例えば、熱硬化型または活性線硬化型のポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂等からなる薄膜層が挙げられる。有機化合物層の膜厚は特に限定されないが、分析精度を確保する観点から0.1nm〜5,000nmの範囲が好ましく、分析精度や試料の固定の容易さの観点より0.5〜1,000nmの範囲がより好ましい。
【0031】
フィルム試料となるフィルム基材としては、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、シクロオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーからなるフィルムなどを使用することができる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィンからなるフィルムであることが好ましい。フィルム基材を構成するポリマーは、ホモポリマー、コポリマーのいずれでもよいし、また、単独のポリマーであってもよいし複数のポリマーをブレンドして用いてもよい。
【0032】
また、フィルム基材は、単層フィルム、あるいは、2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムや、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を使用してもよい。無機化合物層を形成する側の基材表面には、密着性を良くするために、コロナ処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、粗面化処理、および、有機物または無機物あるいはそれらの混合物で構成されるアンカーコート層の形成処理、といった前処理が施されていても構わない。
【0033】
また、フィルム基材には、フィルムの巻き取り時の滑り性の向上および、無機化合物層を形成した後にフィルムを巻き取る際に無機化合物層との摩擦を軽減することを目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が施されていても構わない。
【0034】
本発明で使用するフィルム試料の厚みは特に限定されないが、試料台への固定を簡便に行うことのできる厚みとして200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。引張りや衝撃に対する強度、ハンドリングの容易性の観点から、2μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
【0035】
また、本発明に使用するフィルム試料の平均表面粗さRa(中心線平均表面粗さ)は、分析ビーム光の散乱による光量低下を防ぐ範囲として、0.05nm〜25nmの範囲が好ましく、0.1〜5nmの範囲がより好ましい。
【0036】
[X線分析装置]
図4は本発明の一実施態様に係るX線分析装置10を示している。X線分析装置10は、X線を試料に向けて照射するためのX線照射機構101と、反射X線を検出するためのX線検出機構103と、試料台15上に帯電機構19による帯電を利用してフィルム試料20を保持するためのX線分析用フィルム試料固定装置102を有することが好ましい。また、X線照射機構101とX線検出機構103とは、ブラッグの式を満足させるように、回転中心を中心に同期して対象に回転運動するゴニオメータ構造となっていることが好ましい。
【0037】
X線照射機構101は、X線を発生させるためのX線源11と、X線源11からの入射X線を単色化・平行化するための放物面多層膜ミラー12と、縦方向の発散を制限するためのソーラースリット13と、出射幅制限スリット14とを備えている。X線源11には、回転対陰極型のX線管球や封入管型のX線管球を用いることができる。また、X線源として、シンクロトロン放射光を用いることもできる。放物面多層膜ミラー12は、反射面形状が放物線になっており、X線源11から出射されるライン状の発散X線ビーム(発散ビーム21a)を平行ビーム21bに変換するものである。X線源11は放物面の焦点位置に配置されている。放物面多層膜ミラーを用いることで、X線強度の大きな平行ビームを作ることができる。放物面多層膜ミラーには、平行化と単色化を兼ねたミラーを用いてもよい。大きなX線強度を得られる観点から、入射X線を平行化するミラーを用いることが好ましいが、集中法光学系X線を試料に照射するためのミラーを用いることも可能である。縦方向の発散を制限するためのソーラースリット13は、入射X線ビームと回折X線ビームとを含む平面に垂直な方向のX線の発散を制限するものである。出射幅制限スリット14は、試料に入射する平行ビームのビーム幅やビーム位置を、所望のものに設定するためのスリットである。
【0038】
X線検出機構103は、横方向の発散を制限するためのソーラースリット16と、受光幅制限スリット17と、X線検出器18とを備えている。横方向の発散を制限するためのソーラースリット16は、試料から回折してくる回折X線の、回折平面内でのX線の発散を制限するためのものである。受光幅制限スリット17は、X線検出器18に入射する回折X線のビーム幅を規定するスリットであり、散乱光をカットする役割がある。X線検出器18は、できるだけ高計数が可能かつ低バックグラウンドが実現できるものが選ばれ、シンチレーションカウンタやプロポーションカウンタなどのX線光子を1個ずつ計測する光子計数型の検出器が用いられる。
【0039】
X線分析用フィルム試料固定装置102は、前述の[フィルム試料固定装置]の項で述べたとおりである。
【0040】
[X線分析方法]
本発明は、上述したX線照射機構、X線検出機構およびフィルム試料固定装置を有するX線分析装置を用いたフィルム試料のX線分析方法も提供する。本発明に係るX線分析装置が使用される分析法は特に限定されず、X線回折法、X線反射率法、分光エリプソメトリ、小角X線散乱法などに使用される。これらの中でも、特に分析試料の平面性が要求されるX線反射率法(例えば、「X線反射率入門」(桜井健次編集)p.51〜78に記載の方法)に好ましく用いられる。なお、X線反射率法においては、波長の異なるX線(いわゆる白色X線)を用いて試料を固定したまま即映するエネルギー分散法や単色X線の角度を大きく分散させて試料表面に入射させ、試料を固定したまま測定する方法がある。これらいずれの方法においても、X線の全反射臨界角程度(入射角0.1°〜0.5°程度)でX線を入射することが好ましい。
【0041】
具体的な測定の一方法としては、まずX線源からX線を発生させ、多層膜ミラーにて平行ビームにした後、入射スリットを通してX線角度を制限し、測定試料に入射させる。試料へのX線の入射角度を測定する試料表面とほぼ平行な浅い角度で入射させることによって、試料の各層、基材界面で反射、干渉したX線の反射ビームが発生する。発生した反射ビームを受光スリットに通して必要なX線角度に制限した後、ディテクタに入射させることでX線強度を測定する。本方法を用いて、X線の入射角度を連続的に変化させて測定を行うことによって、各入射角度における全反射X線強度プロファイルを得ることができる。
【0042】
ここで、X線の入射角度は、基材表面の凹凸、基材上に形成された薄膜の膜厚、密度、表面粗さ等の構造を精密に測定するため、0.01〜8°の範囲が好ましく、0.01〜5°がより好ましい。また、測定面積は、基材表面および基材上の薄膜の構造を精密に測定する観点、解析の精度の観点、あるいは他の特性との関係を明らかにする目的のために平均構造を知る観点から、1mm
2〜50mm
2の範囲が好ましい。
【0043】
薄膜の層数、各層の膜厚、各層の密度、表面粗さの解析方法としては、得られたX線の入射角度に対する全反射X線強度プロファイルの実測データをParrattの理論式に非線形最小二乗法でフィッティングさせることで求められる。
【0044】
[フィルム製造装置および該フィルム製造装置を用いたフィルム製造方法]
前記X線分析装置を含むフィルム製造装置としては、公知のフィルム製造装置にX線分析装置を備えたものであれば特に限定されず、フィルム基材上に無機化合物層や有機化合物層の単膜またはそれらの積層膜を形成するフィルム製造装置に特に好適に適用することができる。積層膜を形成するフィルム製造装置において、該X線分析装置は、膜形成工程の後または、フィルム試料の巻き取り工程前に備え付けられることが好ましく、前記膜の膜密度、膜厚、表面粗さ等を評価することが可能となる。X線分析の評価時には、評価部のフィルム基材が停止していることが好ましいので、前記フィルム製造装置は評価部のフィルム基材が停止している際に他の搬送部分の搬送を調整できる機構(例えば、搬送中のフィルム基材をある部位で所定長蓄積し、その部位以降の部位ではあたかも搬送を停止している状態を一時的に実現可能なアキュムレータ機構等)を備えることが好ましい。
【0045】
このようなX線分析装置を含むフィルム製造装置を用いたフィルム製造方法によれば、例えば、フィルム製造工程において形成される薄膜の特性をリアルタイムで検出することができるため、製品の異常を即座に検出することができたり、製品のばらつきを即座に検出することができるため、生産性を向上させることができる。
【0046】
[該フィルム製造方法よって得られるフィルム]
該フィルム製造方法によって得られるフィルムは、例えば、特性のばらつきが低減されたフィルムであるため、特性のばらつきが特に重要とされる用途(例えば、非常に高いガスバリア性が求められるガスバリア性フィルムや電子部品等)に特に好ましく用いられる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づき、より具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
[評価方法]
まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。
(1)試料台表面の表面粗さRaの測定方法
(株)小坂研究所製の触針式3次元粗さ計ET4000Aを用いて、以下の条件で試料台の表面粗さを測定した。測定はそれぞれ3回行い、3回の平均値を中心線平均表面粗さRaとして採用した。
測定力:100N、Xピッチ;1.00μm、Yピッチ:5.00μm、Z測定倍率:200,000倍、X送り速さ;0.1mm/sec、低域カット:0.25mm、高域カット:R+W、レべリング:未処理。
【0049】
(2)試料台表面の抵抗率の測定方法
低抵抗率計Loresta−EP MCP−T360(三菱化学(株)製)を用いて、4探針法(JIS0602−1995に準拠)にて試料台の中央部分の抵抗率を測定した。測定はそれぞれ3回行い、3回の平均値を抵抗率として採用した。
【0050】
(3)X線反射率法による密度、表面粗さ、膜厚分析方法
X線反射率法(「X線反射率入門」(桜井健次編集)p.51〜78)により、測定試料の密度、表面粗さ、膜厚を測定した。すなわち、フィルム試料に、斜方向からX線を照射し、入射X線強度に対する全反射X線強度の入射角度依存性を測定することにより、得られた反射波の全反射X線強度プロファイルを得た。すなわち、まず封入管式X線発生装置からX線(CuKα線)を発生させ、多層膜ミラー(CBOユニット)にて平行ビームにした後、入射スリット(ソーラースリット)を通してX線角度を制限し、フィルム試料に入射させる。X線の入射角度を測定するフィルム試料表面とほぼ平行な浅い角度で入射させることによって、反射、干渉したX線の反射ビームが発生する。発生した反射ビームを受光スリット(PSA+ソーラースリット)に通して必要なX線角度に制限した後、ディテクタ(シンチレーションカウンタ;SC−70)に入射させることでX線強度を測定する。本方法を用いて、X線の入射角度を0〜4.0°の範囲で連続的に変化させて測定を行うことによって、各入射角度における全反射X線強度プロファイルを得た。
【0051】
密度、表面粗さ、膜厚の解析方法としては、得られたX線の入射角度に対するX線強度プロファイルの実測データをParrattの理論式に非線形最小二乗法でフィッティングすることで求めた。
測定条件は下記の通りとした。
・装置:Rigaku社製“Smart Lab”
・測定範囲(試料表面とのなす角):0〜4.0°、0.01°ステップ
・入射スリットサイズ:0.05mm×10.0mm
・受光スリットサイズ:0.15mm×20.0mm
・解析ソフト:Rigaku社製“Grobal Fit”。
【0052】
(実施例1)
図2に示したフィルム試料固定装置1bを使用し、測定試料である縦40mm、横30mm、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48)上にスパッタリング法により形成されたTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。Ra:0.2nm、抵抗率:3Ω・cmである試料台2(株式会社シリコンテクノロジー社製シリコンウェハ、Si(100)、CZ−N型、厚さ525μm)の上にフィルム試料を載置し、圧電効果式帯電機構6(Milty社製“Zerostat”)を作動することにより、フィルム試料を試料台2に固定させた。次に、上記したX線反射率法によって、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。なお、X線反射率法で1回測定する毎に、試料台上のフィルム試料を取り付け直す方法で、繰り返し5回(n:1〜5)測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
図1に示したフィルム試料固定装置1aを使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。フィルム試料固定装置1aには、帯電機構3はコロナ放電式帯電機構(株式会社グリーンテクノ社製コロナ帯電バーB−500)を用い、フィルム試料を試料台2に固定させた。なお、X線反射率法で1回測定する毎に、フィルム試料を貼り直す方法で、繰り返し5回測定した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例3)
試料台2にRa:0.2nm、抵抗率:100Ω・cmである試料台(株式会社シリコンテクノロジー社製シリコンウェハ、Si(100)、CZ−N型、厚さ525μm)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例4)
試料台2にRa:10nm、抵抗率:3Ω・cmである試料台(株式会社シリコンテクノロジー社製シリコンウェハ、Si(100)、CZ−N型、厚さ525μm)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例5)
フィルム基材に厚み50μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン株式会社製“ゼオノアフィルム”(登録商標)ZF−14)を用いた以外は、実施例1と同様にして、シクロオレフィンポリマーフィルム上のTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。なお、X線反射率法で1回測定する毎に、フィルム試料を貼り直す方法で、繰り返し5回測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例6)
フィルム基材に厚み30μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上のTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。なお、X線反射率法で1回測定する毎に、フィルム試料を貼り直す方法で、繰り返し5回測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例7)
フィルム基材に厚み28μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン株式会社製“ゼオノアフィルム”(登録商標)ZM−14)を用いた以外は、実施例1と同様にして、シクロオレフィンポリマーフィルム上のTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。なお、X線反射率法で1回測定する毎に、フィルム試料を貼り直す方法で、繰り返し5回測定した。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
図7に示すように、フィルム試料固定装置を使用せず、試料台40上にフィルム試料28を載置した以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。なお、
図7において、28aは分析面、28bは実際に分析に供される分析面を示している。また、X線反射率法で1回測定する毎に、ポリエチレンテレフタレートフィルムを置き直す方法で、繰り返し5回密度、膜厚、表面粗さの測定を試みた。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例2)
図8に示すように、両面粘着テープ29でフィルム試料28を試料台40上に固定した以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。なお、X線反射率法で1回測定する毎に、フィルム試料を貼り直す方法で、繰り返し5回測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例3)
図9に示すように、フィルム試料28の両端を粘着テープ30で試料台40上に固定した以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。なお、X線反射率法で1回測定する毎に、フィルム試料を貼り直す方法で、繰り返し5回測定した。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例4)
図10に示すように、フィルム試料28の両端を磁石31で試料台40上に固定した以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたTiO
2膜の密度、膜厚、表面粗さを測定した。なお、X線反射率法で1回測定する毎に、フィルム試料を置き直す方法で、繰り返し5回測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1〜7、比較例1〜4で実施したX線反射率法の測定結果を比較した結果、表1に示すように、実施例1〜7では膜厚、膜密度、表面粗さともに標準偏差の値は小さく、繰り返し再現性が非常に良く、精密かつ正確に測定できることが分かる。一方、比較例1〜4では、測定を行うことができなかった場合が多く見られる。測定を行うことができない場合とは、X線反射率測定を行う前段階として試料位置調整を行う際に、試料表面の位置決めを正確に行うことができない場合である。すなわち、試料位置調整の流れとして、まず試料台のz軸走査とω軸走査を複数回繰り返し、試料前後位置(z軸)の最適化を行う。その後、ω軸走査を行うことで反射X線を測定し、得られたピークの中心にω軸を配置する。この手順をz軸、χ軸に関しても同様に行い、ω軸→z軸→χ軸の順に繰り返し複数回調整を行い、軸の位置を決定する。反射X線の軸の位置調整の際に、ピークが検出できなかったり、繰り返し調整を行った際に軸の位置が毎回変わることで正確な試料表面位置が得られなかったりする場合などが試料表面の位置決めを正確に行うことができない場合である。試料位置調整を正確に行うことができないとX線反射率測定の際に、解析を行うことのできる全反射X線強度プロファイルが得られなかったり、正しい全反射X線強度プロファイルが得られなかったりする場合がある。
【0065】
比較例1では、フィルム試料を載置したのみでは、フィルム試料本来のうねりが影響し、試料表面の平坦性を確保することができなかったことが原因である。比較例2では、分析面の裏面を両面テープで固定した結果、両面テープ自体のうねりがフィルム試料に影響を与え、分析表面の平坦性を確保できなかったことが原因である。比較例3では、フィルム試料両端をテープで固定する際にかかる力の具合により、フィルム試料に若干の浮きやうねりが生じてしまうことが原因である。比較例4では、比較例3と同様に、フィルム試料両端をテープで固定する際にかかる力の具合により、フィルム試料に若干の浮きやうねりが生じてしまうことが原因である。
【0066】
上記のX線反射率法の測定結果の比較から明らかなように、膜厚、膜密度、表面粗さの解析結果についても実施例1〜7は比較例1〜4に比べ、大幅に測定の繰り返し再現性が高く、精密かつ正確に測定可能なことが分かる。