特許第6768341号(P6768341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6768341-流体圧力計算方法 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768341
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】流体圧力計算方法
(51)【国際特許分類】
   E21B 43/16 20060101AFI20201005BHJP
【FI】
   E21B43/16
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-92595(P2016-92595)
(22)【出願日】2016年5月2日
(65)【公開番号】特開2017-201088(P2017-201088A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2019年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 肇
(72)【発明者】
【氏名】平塚 裕介
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−258551(JP,A)
【文献】 特表2012−516954(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0100293(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 43/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が圧入又は産出される坑井内の複数の計算点における前記流体の圧力を、積分差分法を用いて計算する流体圧力計算方法であって、
前記坑井が存在する三次元格子モデルとは別に、一つの前記計算点に一つの格子が対応する一次元格子モデルを設定する一次元格子設定ステップと、
前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子の格子点圧力と、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子と当該1格子に対応する前記一次元格子モデルの1格子との距離と、前記計算点における流体の相の流量と、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子と当該1格子に対応する前記一次元格子モデルの1格子との接続面積と、前記流体の絶対浸透率と、前記流体の相の相対浸透率と、に基づいて、有限体積法によって前記計算点における前記流体の圧力を計算する圧力計算ステップと、
を含むことを特徴とする流体圧力計算方法。
【請求項2】
前記圧力計算ステップにおいて、
前記三次元格子モデルの層α、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子の格子点圧力P、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子と当該1格子に対応する前記一次元格子モデルの1格子との接続面積A、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子と当該1格子に対応する前記一次元格子モデルの1格子との距離L、流体の絶対浸透率k、流体の相βの相対浸透率krβ、及び、前記計算点における流体の相βの流量Qβに基づいて、式(1)
【数1】
によって、前記計算点における前記流体の圧力Pbhを計算する
ことを特徴とする請求項1に記載の流体圧力計算方法。
【請求項3】
前記圧力計算ステップにおいて、
前記層αに対する井戸指数WIα及び格子内の流動性λαに基づいて、
L=1[m]
k=1[m
A=WIα
と設定することによって、式(2)
【数2】
によって、前記計算点における前記流体の圧力Pbhを計算する
ことを特徴とする請求項2に記載の流体圧力計算方法。
【請求項4】
前記流体の圧力Pbhは、前記坑井に圧入される前記流体の圧力であり、
前記井戸指数WIαは、
坑井と直交する方向の有効浸透率k、坑井方向の格子厚さh、格子内の総流動性λ、坑井の半径r、三次元格子モデルにおける1格子の有効半径r、スキンファクターSに基づいて、式(3)
【数3】
によって計算されている
ことを特徴とする請求項3に記載の流体圧力計算方法。
【請求項5】
前記流体の圧力Pbhは、前記坑井に圧入される前記流体の圧力であり、
前記流動性λαは、
前記相対浸透率krβ及び流体の相βの粘性係数μβに基づいて、式(4)
【数4】
によって計算されている
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の流体圧力計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地層中に掘削された坑井に圧入される、又は、坑井から生産される流体の圧力を計算する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地層中に掘削された坑井に二酸化炭素を圧入して貯留したり、地層中に掘削された坑井から石油や天然ガスを生産したりすることが行われている。
坑井に圧入され、又は、坑井から生産されたりする流体の数値解析には、坑井モデルが用いられる。
坑井モデルは、坑井が掘削された地層に三次元格子モデルを設定し、数値解析対象となる格子の圧力と、坑井内の局所的な圧力とを関係づけるモデルである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の流体圧力を計算するシミュレータには、前記した坑井モデルが予め組み込まれている。すなわち、坑井モデルを用いて坑井内における流体の圧力を計算するには、坑井モデルが予め組み込まれたプログラムを用いる必要があった。
【0004】
本発明は、前記した事情に鑑みて創案されたものであり、坑井モデルが組み込まれていない汎用の流体シミュレータにおいて、流体の圧力を好適に計算することが可能な流体圧力計算方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、流体が圧入又は産出される坑井内の複数の計算点における前記流体の圧力を、積分差分法を用いて計算する流体圧力計算方法であって、前記坑井が存在する三次元格子モデルとは別に、一つの前記計算点に一つの格子が対応する一次元格子モデルを設定する一次元格子設定ステップと、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子の格子点圧力と、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子と当該1格子に対応する前記一次元格子モデルの1格子との距離と、前記計算点における流体の相の流量と、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子と当該1格子に対応する前記一次元格子モデルの1格子との接続面積と、前記流体の絶対浸透率と、前記流体の相の相対浸透率と、に基づいて、有限体積法によって前記計算点における前記流体の圧力を計算する圧力計算ステップと、を含むことを特徴とする。
【0006】
かかる構成によると、坑井モデルが組み込まれていない汎用の流体シミュレータに対して一次元格子モデルを設定することで模擬的な坑井モデルを適用し、流体の圧力を好適に計算することができる。
【0007】
前記流体圧力計算方法は、前記圧力計算ステップにおいて、前記三次元格子モデルの層α、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子の格子点圧力P、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子と当該1格子に対応する前記一次元格子モデルの1格子との接続面積A、前記計算点が存在する前記三次元格子モデルの1格子と当該1格子に対応する前記一次元格子モデルの1格子との距離L、流体の絶対浸透率k、流体の相jの相対浸透率krβ、及び、前記計算点における流体の相βの流量Qβに基づいて、式(1)
【数1】
によって、前記計算点における前記流体の圧力Pbhを計算する構成であってもよい。
【0008】
前記流体圧力計算方法は、前記圧力計算ステップにおいて、前記層αに対する井戸指数WIα及び格子内の流動性λαに基づいて、
L=1[m]
k=1[m
A=WIα
と設定することによって、式(2)
【数2】
によって、前記計算点における前記流体の圧力Pbhを計算する構成であってもよい。
【0009】
前記流体の圧力Pbhは、前記坑井に圧入される前記流体の圧力であり、前記井戸指数WIαは、坑井と直交する方向の有効浸透率k、坑井方向の格子厚さh、格子内の総流動性λ、坑井の半径r、三次元格子モデルにおける1格子の有効半径r、スキンファクターSに基づいて、式(3)
【数3】
によって計算されている構成であってもよい。
【0010】
前記流体の圧力Pbhは、前記坑井に圧入される前記流体の圧力であり、前記流動性λαは、前記相対浸透率krβ及び流体の相βの粘性係数μβに基づいて、式(4)
【数4】
によって計算されている構成であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、坑井モデルが組み込まれていない汎用の流体シミュレータに対して模擬的な坑井モデルを適用し、流体の圧力を好適に計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る流体圧力計算装置を示すブロック図である。
図2】三次元格子モデル及び一次元格子モデルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、坑井内に圧入される流体の圧力を計算する場合を例にとり、適宜図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る流体圧力計算装置1は、操作部10と、表示部20と、これらを制御する制御部30と、を備える。
第一の実施形態において、流体圧力計算装置1は、流体(例えば、二酸化炭素)が圧入される坑井内の複数の計算点における流体の圧力を、積分差分法(有限体積法ともいう)を用いて計算する。
【0015】
<操作部>
操作部10は、キーボード、マウス等によって構成されている。操作部10は、ユーザによる当該操作部10の操作内容に基づく入力信号を制御部30へ出力する。
【0016】
<表示部>
表示部20は、ディスプレイ等によって構成されている。表示部20は、制御部30から出力された表示用信号を取得し、取得された表示用信号に基づいて画面表示を行う。
【0017】
<制御部>
制御部30は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力回路等によって構成されている。
制御部30は、流体が圧入される坑井内の複数の計算点における流体の圧力を、積分差分法を用いて計算する
制御部30は、機能部として、記憶部31と、数値解析部32と、一次元格子モデル設定設定部33と、圧力計算部34と、を備える。
【0018】
<記憶部>
記憶部31には、数値解析部32及び圧力計算部34によって用いられる数値として、以下に示す定数が記憶されている。かかる定数は、ユーザによる操作部10の操作内容に基づいて、記憶部31に記憶される。
(1)WIα(Well injectivity Index)[−]:三次元格子モデル2(図2参照)の層αに対する流体の相jの井戸指数
(2)k[m]:坑井3と直交する方向における、流体の浸透率(絶対浸透率)
(3)krβ[−]:坑井3と直交する方向における、流体の相βの相対浸透率
(4)h[m]:坑井3が延びる方向における三次元格子モデル2の格子2aの厚さ
(5)r[m]:坑井3の半径
(6)r[m]:三次元格子モデル2における1格子2aの有効半径(立方体又は直方体である1格子2aを円柱であるとみなした場合の半径であって、r=CC(A/wfrac)0.5によって計算される)
(7)S[−]:スキンファクター(坑井3の壁面に生じる泥の膜の影響)
(8)λα[Pa−1・s−1]:格子2a内の流動性
(9)μβ[Pa・s]:流体の相βの粘性係数
層α(α=1,2,3,…)は、三次元格子モデル2の格子に対して、鉛直方向に順に付与された通し番号である。同一水平面内の(同じ深さに位置する)格子は、同じ層αに属する。
i(i=1,2,3,…)は、三次元格子モデル2の全ての格子に対して、個別に付与された通し番号である。
本実施形態において、相βは、w(水、海水)、g(ガス、二酸化炭素)、o(油)等といった物質としての違いと、同一物質における固相、液相、気相といった状態の違いと、の両方を含む。すなわち、複数の流体が界面を形成して区分されつつ共存する場合に、これらは別の相として区別される。
また、各浸透率k,krβは、深さ方向によって異なる値となる。
【0019】
<数値解析部>
数値解析部32は、坑井モデルが組み込まれていない汎用の流体シミュレータである。
数値解析部32は、坑井3が掘削された地層に三次元格子モデル2を模擬した三次元格子モデル2について積分差分法(有限体積法ともいう)を用いた数値解析を行うことによって、三次元格子モデル2内の複数の格子2aの圧力P、圧入流量Qβ等を計算する(図2参照)。
【0020】
≪三次元格子モデル≫
図2に示すように、三次元格子モデル2は、立方体又は直方体形状を呈する複数の格子2aを三次元方向に配列したモデルである。図2は、三次元格子モデル2を平面的に表現したものであり、実際には、紙面と直交する方向にも格子2aが配列されている。
かかる三次元格子モデル2には、流体が圧入される坑井3が設定されている。
坑井3は、海底の地層に掘削されており、流体としての二酸化炭素は、坑井3内の水(海水)に圧入される。
坑井3には、深さ方向に配列された複数の計算点3aが設定されている。すなわち、複数の計算点3aは、それぞれ異なる深さに設定されている。
【0021】
図1に戻り、本実施形態において、数値解析部32は、三次元格子モデル2において、積分差分法(有限体積法ともいう)を用いた公知の数値解析手法によって、各格子2aの中央部の圧力P、坑井3の計算点3aにおける流体の相βの圧入流量Qβを計算し、計算結果を記憶部31に記憶させる。
【0022】
<一次元格子モデル設定部>
一次元格子モデル設定部33は、坑井3が存在する三次元格子モデル2とは別に、一つの計算点3aに一つの格子4aが対応する一次元格子モデル4を設定する(一次元格子設定ステップ)。
一次元格子モデル設定部33は、自動的、又は、ユーザによる操作部10の操作に基づいて、一次元格子モデル4を設定する(図2参照)。
設定された一次元格子モデル4は、流体の圧力Pbhを計算するための模擬的な坑井モデルとして機能する。
【0023】
≪一次元格子モデル≫
図2に示すように、一次元格子モデル4は、立方体又は直方体形状を呈する複数の格子4aを一次元方向(深さ方向)に配列したモデルである。
一次元格子モデル4は、複数の格子4aが鉛直方向に配列されるように設定されている。
一つの格子4aは、坑井3の一つの計算点3aに対応している。また、一つの格子4aと、対応する計算点3aが含まれる一つの格子2aとは、同じ深さに設定されている。すなわち、互いに対応する一つの格子4aと一つの格子2aとを結ぶ線分(接続線)は、水平方向に延びている。ここで、一次元格子モデル4の複数の格子4aは、平面視で同じ形状を呈するとともに、深さ方向の寸法は、適宜異なる値に設定されている。
【0024】
ここで、一次元格子モデル設定部33は、一次元格子モデル4の格子4aの空間座標を設定する必要はなく、以下に示すA,L、及び格子2a,4aの接続線の重力方向からの角度を設定すればよい。
A:計算点3aが存在する三次元格子モデル2の1格子2aと当該1格子2aに対応する一次元格子モデル4の1格子4aとの接続面積(ここでは、A
L:計算点3aが存在する三次元格子モデル2の1格子2aと当該1格子2aに対応する一次元格子モデル4の1格子4aとの距離
本実施形態において、互いに接続された格子2a,4aの接続線の重力方向からの角度は、90度である。
【0025】
<圧力計算部>
圧力計算部34は、計算点3aが存在する三次元格子モデル2の1格子2aの格子点圧力Pと、計算点3aが存在する三次元格子モデル2の1格子2aと当該1格子2aに対応する一次元格子モデル4の1格子4aとの距離Lと、計算点2aにおける流体の相βの流量Qβと、に基づいて、積分差分法(有限体積法ともいう)を用いて、計算点における流体の圧力を計算する(圧力計算ステップ)。
圧力計算部34は、記憶部31に記憶された数値を用いて、下記式(1)によって計算点3aにおける流体の圧力Pbhを計算する。
【数5】
すなわち、圧力計算部34は、一次元格子モデル4の格子4aの中心における流体の圧力を求めることによって、坑井3内の計算点3aにおける流体の圧力Pbhを計算することができる。
【0026】
本実施形態において、圧力計算部34は、
L=1[m]
k=1[m
【数6】
ただし、β=g(坑井3内の液体に圧入される気体、例えば二酸化炭素),w(気体が圧入される液体、例えば、水、海水)
A=WIα
【数7】
と設定することによって、下記式(2)によって、計算点3aにおける流体の圧力Pbhを計算する。
【数8】
ここで、λαは、格子2a内の流動性であって、流体の動きやすさを表し、格子2a内における流体の飽和度に基づいて計算され、予め記憶されている。λαは、層αごとに異なる値となる。
【0027】
また、Aは、三次元格子モデル2内の格子2aにおける一次元格子モデル4内の格子4aと対向する面の面積A(記憶部31内に記憶)であってもよく、一次元格子モデル4内の格子4aにおける三次元格子モデル2内の格子2aと対向する面の面積A(一次元格子設定部33によって設定)であってもよい。
【0028】
本発明の実施形態に係る流体圧力計算装置1及び流体圧力計算装置1による流体圧力計算方法は、坑井3が存在する三次元格子モデル2とは別に一次元格子モデル4を設定し、これらの格子モデル2,4による積分差分法を用いて坑井3内の計算点3aにおける流体の圧力Pbhを計算するので、坑井モデルが組み込まれていない汎用の流体シミュレータに対して模擬的な坑井モデルを適用し、流体の圧力Pbhを好適に計算することができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、圧力の計算対象となる流体は、圧入される二酸化炭素、生産される石油、天然ガス等に限定されない。また、本発明は、坑井3から産出される流体の圧力を、前記した式(1)(2)を用いて計算する流体圧力計算装置1及び流体圧力計算方法としても具現化可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 流体圧力計算装置
2 三次元格子モデル
2a 格子
3 坑井
3a 計算点
4 一次元格子モデル
4a 格子
33 一次元格子モデル設定部
34 圧力計算部
図1
図2