特許第6768404号(P6768404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6768404パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768404
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/439 20060101AFI20201005BHJP
   A61P 1/08 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20201005BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   A61K31/439
   A61P1/08
   A61K9/08
   A61K47/18
   A61K47/12
   A61K47/10
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-158679(P2016-158679)
(22)【出願日】2016年8月12日
(65)【公開番号】特開2018-24621(P2018-24621A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208145
【氏名又は名称】武田テバファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】三浦 義之
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 豊司
(72)【発明者】
【氏名】江口 勇馬
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/099381(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1615864(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101385712(CN,A)
【文献】 国際公開第2004/067005(WO,A1)
【文献】 特開2018−020033(JP,A)
【文献】 特表2006−517944(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139411(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0238596(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩、並びに
グリシン、メチオニン、又はこれらの塩、及び、酒石酸、クエン酸、又はこれらの塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤
を含む、非経口投与用医薬組成物(但し、マンニトール、及び、エデト酸若しくはその塩のいずれも含まない)
【請求項2】
グリコールをさらに含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記グリコールが、プロピレングリコール又は1,3−プロパンジオールである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記パロノセトロンの薬学的に許容される塩が、パロノセトロン塩酸塩である、請求項1からのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度が、0.01〜5mg/mLである、請求項1からのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
4.0〜9.0のpHを有する、請求項1からのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
静脈投与用である、請求項1からのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む非経口投与用医薬組成物(但し、マンニトール、及び、エデト酸若しくはその塩のいずれも含まない)の安定化方法であって、グリシン、メチオニン、又はこれらの塩、及び、酒石酸、クエン酸、又はこれらの塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤を添加することを特徴とする、安定化方法。
【請求項9】
前記医薬組成物が、グリコールをさらに含む、請求項に記載の安定化方法。
【請求項10】
前記グリコールが、プロピレングリコール又は1,3−プロパンジオールである、請求項に記載の安定化方法。
【請求項11】
前記パロノセトロンの薬学的に許容される塩が、パロノセトロン塩酸塩である、請求項から10のいずれか一項に記載の安定化方法。
【請求項12】
前記医薬組成物中における、前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度が、0.01〜5mg/mLである、請求項から11のいずれか一項に記載の安定化方法。
【請求項13】
前記医薬組成物が、4.0〜9.0のpHを有する、請求項から12のいずれか一項に記載の安定化方法。
【請求項14】
前記医薬組成物が静脈投与用である、請求項から13のいずれか一項に記載の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経時的に安定なパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物及びその安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌に対する化学療法として、シスプラチン等の抗悪性腫瘍薬が投与されると、神経伝達物質である5−HT(セロトニン、5−ヒドロキシトリプタミン)が分泌されることにより、悪心及び嘔吐が引き起こされる。この悪心及び嘔吐を予防又は治療するために、パロノセトロン、グラニセトロン、アザセトロン、オンダンセトロン、ラモセトロン、トロピセトロン及びインジセトロン等の様々な種類の5−HT受容体アンタゴニストを用いることが知られている。
【0003】
その中でも、パロノセトロンは、選択的かつ強力な拮抗作用を示す5−HT受容体アンタゴニストであり、ヒトにおいて約40時間という長い半減期を示すことが知られている。パロノセトロンは常温で白色又は灰白色の固体の物質であり、IUPAC名は(3aS)−2−[(3S)−1−アザビシクロ[2.2.2]オクタ−3−イル]−2,3,3a,4,5,6−ヘキサヒドロ−1H−ベンズ[de]イソキノリン−1−オンである。パロノセトロンは以下の構造式を有する。
【0004】
【化1】
【0005】
また、パロノセトロンは塩酸塩の形態で製剤化されている。
【0006】
ところで、特許文献1には、キレート剤(抗酸化剤)としてEDTA(エデト酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸)を所定の条件で使用することにより、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を安定化することが報告されている。
【0007】
また、特許文献2には、所定量のパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む製剤の担体としてマンニトールを含むものを使用することにより、少なくとも24か月の貯蔵安定性を有する製剤を提供することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5461763号公報
【特許文献2】特許第5551658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、エデト酸又はその塩は腎臓に負担をかけるため、腎機能障害のある患者に使用することができないという問題があった。そこで、エデト酸又はその塩以外の手段によるパロノセトロン又はその薬学的に許容可能な塩の安定化方法が求められていた。
【0010】
また、エデト酸又はその塩を含む従来の製剤は、特に光に曝露した場合にパロノセトロンの類縁物質が増加してしまい、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を十分に安定化することができない場合があった。
【0011】
さらに、担体としてマンニトール等の糖類を含む従来の製剤においても、パロノセトロン又はその薬学的に許容可能な塩を十分に安定化させることができない場合があった。
【0012】
本発明は、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、エデト酸又はその塩に依存することなく、経時的に安定なパロノセトロン又はその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物を提供すること、及び、エデト酸又はその塩に依存することなくパロノセトロン又はその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物を安定化する方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、エデト酸又はその塩及びマンニトール等の糖類を使用する場合に比べて、パロノセトロン又はその薬学的に許容可能な塩を十分安定化可能な医薬組成物及びその安定化方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、予期しないことに、特定の種類の抗酸化剤、特定量以上のクエン酸若しくはその塩又はその水和物、或いはグリコールを使用することで、パロノセトロン又はその薬学的に許容可能な塩を製剤中で十分に安定化させることができることを見出し本発明に到達した。
【0015】
本発明の目的は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩、並びにアミノ酸又はその塩、及び1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤を含む、医薬組成物によって達成される。前記医薬組成物は、グリコールをさらに含んでもよい。
【0016】
前記カルボン酸は、ヒドロキシカルボン酸であることが好ましく、酒石酸であることがより好ましい。
【0017】
前記アミノ酸は、グリシン又はメチオニンであることが好ましい。
【0018】
本発明の目的はまた、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩、及び前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して15モル以上のクエン酸若しくはその塩又はその水和物を含む、医薬組成物によっても達成される。前記医薬組成物は、グリコールをさらに含んでもよい。
【0019】
本発明の目的はまた、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩、及びグリコールを含む、医薬組成物によっても達成される。
【0020】
前記グリコールは、プロピレングリコール又は1,3−プロパンジオールであることが好ましい。
【0021】
前記パロノセトロンの薬学的に許容される塩は、パロノセトロン塩酸塩であることが好ましい。
【0022】
前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度は、0.01〜5mg/mLであることが好ましい。
【0023】
本発明の医薬組成物は、4.0〜9.0のpHを有することが好ましい。
【0024】
本発明の医薬組成物は、好ましくは静脈投与用である。
【0025】
また、本発明は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物の安定化方法であって、アミノ酸又はその塩、及び1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤を添加することを特徴とする、安定化方法にも関する。前記医薬組成物は、グリコールをさらに含んでもよい。
【0026】
前記カルボン酸は、ヒドロキシカルボン酸であることが好ましく、酒石酸であることがより好ましい。
【0027】
前記アミノ酸は、グリシン又はメチオニンであることが好ましい。
【0028】
更に、本発明は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物の安定化方法であって、前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して15モル以上のクエン酸若しくはその塩又はその水和物を添加することを特徴とする、安定化方法にも関する。前記医薬組成物は、グリコールをさらに含んでもよい。
【0029】
更に、本発明は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物の安定化方法であって、グリコールを添加することを特徴とする、安定化方法にも関する。
【0030】
前記グリコールは、プロピレングリコール又は1,3−プロパンジオールであることが好ましい。
【0031】
前記パロノセトロンの薬学的に許容される塩は、パロノセトロン塩酸塩であることが好ましい。
【0032】
前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度は、0.01〜5mg/mLであることが好ましい。
【0033】
前記医薬組成物は、4.0〜9.0のpHを有することが好ましい。
【0034】
前記医薬組成物は、好ましくは静脈投与用である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、
(1)アミノ酸又はその塩、及び1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤、
(2)パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して15モル以上のクエン酸若しくはその塩又はその水和物、或いは
(3)グリコール
を用いることによって、経時的に安定なパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を提供することができる。
【0036】
本発明では、エデト酸又はその塩に依存することなく、経時的に安定なパロノセトロン又はその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物を提供することができる。また、腎臓に大きな負担をかけることがないため、より多くの患者に使用することができる。
【0037】
また、本発明は、エデト酸又はその塩及びマンニトール等を使用する場合に比べて、パロノセトロン又はその薬学的に許容可能な塩を十分安定化可能である。特に、本発明は、光照射後もパロノセトロンの類縁物質が大きく増加することなく、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む製剤を十分安定化することができる。
【0038】
本発明の医薬組成物及び安定化方法では、パロノセトロン又はその薬学的に許容可能な塩を安定に含む製剤を提供することができ、当該製剤は長期に亘って安定に保存乃至使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の医薬組成物は、活性成分として、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む。パロノセトロンはそれ自体公知の化合物であり、例えば特開平3−176486号公報などに記載されている。
【0040】
パロノセトロンは溶液中で経時により酸化、分解又は変性して不純物を含む場合があり、例えば2−[(S)−1−アザビシクロ[2.2.2]オクタ−3−イル]−2,4,5,6−テトラヒドロ−1H−ベンズ[de]イソキノリン−1−オン塩酸塩(S−DH)、(3aR)−2−[(S)−1−アザビシクロ[2.2.2]オクタ−3−イル]2,3,3a,4,5,6−ヘキサヒドロ−1−オキソ−1H−ベンズ[de]イソキノリン塩酸塩(R,S−パロ)、及びS体のパロノセトロンのN−オキシド(S−N−オキシド)などを生じる。すなわち、溶液中に溶解した状態でこれらの化合物の濃度が増加することは、パロノセトロンが酸化、分解又は変性していることを意味する。
【0041】
なお、S−DH、R,S−パロ及びS−N−オキシドの具体的な構造式は、以下のとおりである。
【0042】
【化2】
【0043】
本発明において、薬学的に許容される塩とは、所望の薬理活性を示す塩であれば特に限定されないが、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、及びリン酸塩などの無機酸塩、並びに酢酸塩、プロピオン酸塩、ヘキサン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、グリコール酸塩、ピルビン酸塩、乳酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、o−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸塩、桂皮酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、1,2−エタンジスルホン酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−クロロベンゼンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、4−メチルビシクロ[2.2.2]オクト−2−エン−1−カルボン酸塩、グルコヘプタン酸塩、4,4’−メチレンビス(3−ヒドロキシ−2−エン−1−カルボン酸塩)、3−フェニルプロピオン酸塩、トリメチル酢酸塩、第三級ブチル酢酸塩、ラウリル硫酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、及びムコン酸塩などの有機酸塩が挙げられる。本発明のパロノセトロンの薬学的に許容される塩としては、無機酸塩が好ましく、塩酸塩が特に好ましい。また、水和物であってもよい。
【0044】
本発明の医薬組成物に含まれるパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度は特に限定されないが、上限としては、パロノセトロンに換算して医薬組成物中の5mg/mLであることが好ましく、1mg/mLであることがより好ましく、0.5mg/mLであることが特に好ましい。そして、下限としては、パロノセトロンに換算して医薬組成物中の0.001mg/mLであることが好ましく、0.005mg/mLであることがより好ましく、0.01mg/mLであることが特に好ましい。
【0045】
一実施形態において、本発明の医薬組成物は、安定化剤として、アミノ酸又はその塩、及び1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤を含む。
【0046】
本発明において使用される抗酸化剤としてのアミノ酸又はその塩は特に限定されないが、グリシン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン、システイン、セリン、グルタミン、グルタミン酸、チロシン及びプロリン又はこれらの塩などが挙げられる。好ましくは、グリシン及びメチオニン又はこれらの塩が使用される。また、医薬品に使用することができれば、構造異性体については特に限定されない。例えばメチオニン又はその塩についてはD体、L体又はDL体を使用することができ、好ましくはL体を使用することができる。
【0047】
本発明において使用される抗酸化剤としての1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩は特に限定されないが、ヒドロキシカルボン酸、すなわち、1個又は2個のカルボキシル基及び1個以上のヒドロキシ基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩であることが好ましい。このようなカルボン酸又はその塩としては、酒石酸、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、メバロン酸、パントイン酸及びリシノール酸又はこれらの塩などが挙げられる。2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩が好ましく、酒石酸又はその塩が特に好ましい。また、医薬品に使用することができれば、構造異性体については特に限定されない。例えば酒石酸又はその塩についてはD体、L体又はその混合物を使用することができ、好ましくはL体を使用することができる。
【0048】
本発明の医薬組成物に含まれるアミノ酸又はその塩、及び1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤の量は特に限定されないが、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して、1モル以上であることが好ましく、1.5モル以上であることがより好ましく、2モル以上であることが特に好ましい。また、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して、10モル以下であることが好ましく、8モル以下であることがより好ましく、5モル以下であることが特に好ましい。
【0049】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物は、安定化剤として、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して15モル以上、好ましくは16モル以上、より好ましくは17モル以上のクエン酸若しくはその塩又はその水和物を含む。
【0050】
さらに別の実施形態において、本発明の医薬組成物は、安定化剤として、等張化剤をさらに含んでもよい。等張化剤としてはグリコールが好ましく、プロピレングリコール又は1,3−プロパンジオールがより好ましく、プロピレングリコールが最も好ましい。等張化剤の量は特に限定されないが、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して、100モル以上であることが好ましく、200モル以上であることがより好ましく、300モル以上であることがさらに好ましく、400モル以上であることが特に好ましい。また、等張化剤の量は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して、1000モル以下であることが好ましく、800モル以下であることがより好ましく、600モル以下であることがさらに好ましく、500モル以下であることが特に好ましい。
【0051】
なお、本発明の医薬組成物は、安定化剤として、アミノ酸又はその塩、及び1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して15モル以上のクエン酸若しくはその塩又はその水和物、並びにグリコールからなる群から選択される1種以上を同時に含むこともできる。好ましくは、本発明の医薬組成物は、アミノ酸又はその塩、及び1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤、並びにグリコールを含む。別の態様において、本発明の医薬組成物は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して15モル以上のクエン酸若しくはその塩又はその水和物、及びグリコールを含む。
【0052】
本発明の医薬組成物は、好ましくは水を含む。本発明の医薬組成物に含まれる水は特に限定されず、例えば注射用水を用いることができる。本発明の医薬組成物は、好ましくは各成分が水に完全に溶解された水溶液の形態である。
【0053】
本発明の医薬組成物は、好ましくは水性であり、より好ましくは上記成分が完全に溶解された水溶液の形態である。本発明の医薬組成物のpHは特に限定されないが、上限としては、9.0であることが好ましく、8.0であることがより好ましく、7.5であることが特に好ましく、7.3であることが最も好ましい。そして、下限としては、4.0であることが好ましく、6.0であることがより好ましく、6.5であることが特に好ましく、6.7であることが最も好ましい。
【0054】
本発明の医薬組成物は、パロノセトロンの作用を阻害しない限り、希釈剤、抗菌剤、緩衝剤、及びpH調整剤などの添加剤をさらに含むことができる。
【0055】
本発明の医薬組成物は、非経口投与用、特に静脈内投与用であることが好ましい。
【0056】
本発明の医薬組成物の調製方法は特に限定されず、例えば水に、アミノ酸又はその塩、及び1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩からなる群から選択される1種以上の抗酸化剤を加えて溶解させて水溶液とし、この水溶液にパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を加えて完全に溶解させることで調製することができる。別の実施形態において、本発明の医薬組成物は、水にクエン酸若しくはその塩又はその水和物を加えて溶解させて水溶液とし、この水溶液にパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を加えて完全に溶解させることで調製することができる。さらに別の実施形態において、本発明の医薬組成物は、水にグリコールを加えて溶解させて水溶液とし、この水溶液にパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を加えて完全に溶解させることで調製することができる。このように調製したパロノセトロン製剤は異物等を除去するために濾過することができる。また、滅菌が必要な場合は、滅菌操作を常法で行うことができる。具体的には高圧蒸気滅菌、濾過滅菌等が挙げられる。
【0057】
本発明の医薬組成物は、その用途に合わせて適宜容器を選定することができ、容器の種類については特に限定されない。また、注射に適用する製剤の場合は、密封状態を担保することができれば、その容器の種類は特に限定されない。具体的にはアンプル、バイアル、バッグ、シリンジ等に充填することができる。また、これらの容器の材質についても特に限定されないが、具体的には、ガラス、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0058】
一実施形態において、本発明の医薬組成物はバイアル製剤として使用され、バイアル本体の材質は特に限定されないが、好ましくはガラス又はシクロオレフィンポリマーを使用することができる。バイアルは塩化ブチルゴムなどのゴム栓で密封し、アルミニウムなどからなるキャップで蓋をすることが好ましい。ゴム栓は、パロノセトロンに対して不活性な物質でコーティングされていてもよい。
【0059】
さらに、バイアル中の医薬組成物とゴム栓の間の空間を、パロノセトロンに対して不活性なガスで置換することが好ましい。パロノセトロンに対して不活性なガスとしては、例えば窒素が挙げられる。
【0060】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物は輸液バッグ製剤として使用され、輸液バッグの材質も特に限定されず、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、シクロオレフィンポリマー、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのバッグを使用することができる。また、複数の材料を積層した構造を有するシートから製造されたバッグを使用することもできる。
【0061】
輸液バッグはイソプレンなどのゴム栓で密封することが好ましい。ゴム栓は、パロノセトロンに対して不活性な物質でコーティングされていてもよい。
【0062】
さらに、輸液バッグ中の医薬組成物とゴム栓の間の空間を、パロノセトロンに対して不活性なガスで置換することが好ましい。パロノセトロンに対して不活性なガスとしては、例えば窒素が挙げられる。
【0063】
また、バイアル、輸液バッグについては更に別の資材で包装をすることができる。その包装の材質については特に限定されない。また、当該包装には乾燥剤、脱酸素剤等を同封することもできる。
【0064】
また、本発明は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物の安定化方法であって、アミノ酸又はその塩、及び1個又は2個のカルボキシル基を有し、硫黄原子を有しないカルボン酸又はその塩からなる群から選択される、1種以上の抗酸化剤を添加することを特徴とする、安定化方法にも関する。
【0065】
別の実施形態において、本発明は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物の安定化方法であって、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩1モルに対して15モル以上のクエン酸若しくはその塩又はその水和物を添加することを特徴とする、安定化方法に関する。
【0066】
さらに別の実施形態において、本発明は、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物の安定化方法であって、グリコールを添加することを特徴とする、安定化方法に関する。
【0067】
本発明の医薬組成物は、シスプラチン等の抗悪性腫瘍剤に伴う急性及び遅発性の悪心、嘔吐を抑制、減少、予防又は治療するために使用することができる。また、本発明の医薬組成物は、室温において溶液の状態で保存しても、パロノセトロンの析出、酸化、分解及び変性が起きることなく、高い安定性を示す。特に、本発明の医薬組成物は、光を照射してもパロノセトロンの析出、酸化、分解及び変性が起きにくいため、従来の製剤と比較して光安定性を大きく向上させることができる。
【0068】
一実施形態において、本発明は、0.01〜5mg/mLのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含み、6.0〜8.0、好ましくは6.5〜7.5、より好ましくは6.7〜7.3のpHを有する、嘔吐を抑制、減少、予防又は治療するための医薬組成物に関する。
【0069】
本発明の医薬組成物は公知の方法によって、ヒト等の哺乳動物に投与することができる。本発明の医薬組成物は非経口投与によって投与されることが好ましい。本発明の医薬組成物は注射用であることがより好ましく、直接静脈内に投与するための注射用又は点滴により静脈内に投与するための注射用であることがさらにより好ましい。本発明の医薬組成物は、水溶液の形態の注射液であることがさらに好ましく、静脈内投与用注射液であることが特に好ましい。本発明の医薬組成物は、場合により他の投与成分と一緒に静脈内に投与することができる。
【0070】
本発明の医薬組成物が輸液バッグ中に封入される場合、本発明の医薬組成物は、点滴によって静脈内に投与されてもよい。この場合において、本発明の医薬組成物は、さらに塩化ナトリウムを含んでもよい。
【0071】
また、本発明の医薬組成物は、強い悪心、嘔吐を生じるシスプラチン等の抗悪性腫瘍剤を投与する前に1回、30秒以上の時間をかけて投与することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0073】
以下の実施例においては、抗酸化剤として、クエン酸水和物(和光純薬工業(株)製)、グリシン(和光純薬工業(株)製)、L−メチオニン(和光純薬工業(株)製)及び酒石酸(和光純薬工業(株)製)を使用した。また、比較例として、同様に抗酸化剤であるエデト酸ナトリウム水和物(和光純薬工業(株)製)及びチオグリコール酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)を使用した。
【0074】
1.pH5.0における抗酸化剤の比較
(1)組成物の調製
(実施例1)
塩化ナトリウム4500mg、クエン酸ナトリウム水和物185mg、クエン酸水和物78mg、及びグリシン5mgを注射用水に加え、室温で撹拌して全ての成分を完全に溶解させて水溶液とした。この水溶液に8.4mgのパロノセトロン塩酸塩(パロノセトロンとして7.5mg)を加え、室温で撹拌して完全に溶解させた。完全に溶解されたことを確認した後、必要に応じてpH5になるように水酸化ナトリウムでpHを調整した後、注射用水で500mLに調製し、組成物1を製造した。組成物1のpHは5.0であった。
【0075】
(実施例2)
グリシン5mgの代わりにL−メチオニン9mgを使用した以外は、実施例1と同様の方法で組成物2を製造した。また、組成物2のpHは5.0であった。
【0076】
(実施例3)
グリシン5mgの代わりに酒石酸10mgを使用した以外は、実施例1と同様の方法で組成物3を製造した。また、組成物3のpHは5.0であった。
【0077】
(実施例4)
グリシン5mgを使用せず、クエン酸水和物の量を92mgに変更した以外は、実施例1と同様の方法で組成物4を製造した。また、組成物4のpHは5.0であった。
【0078】
(比較例1)
グリシン5mgの代わりにエデト酸ナトリウム水和物25mgを使用した以外は、実施例1と同様の方法で比較組成物1を製造した。また、比較組成物1のpHは5.0であった。
【0079】
(比較例2)
グリシン5mgの代わりにチオグリコール酸ナトリウム8mgを使用した以外は、実施例1と同様の方法で比較組成物2を製造した。また、比較組成物2のpHは5.0であった。
【0080】
(2)安定性試験
上記1.(1)で調製した各組成物をCOP/PP製のバッグに50mL分注した注射用製剤を、70℃で8日間保存して、各組成物中のS−DH、R,S−パロ及びS−N−オキシドの含有量を測定した。測定は液体クロマトグラフィーを使用して行った。結果を以下の表1に示す。なお、表中の数値(%)は、組成物中に含まれるパロノセトロンの質量を100%とした場合の割合(%)である。
【0081】
【表1】
【0082】
表1から明らかなように、抗酸化剤としてチオグリコール酸ナトリウムを含む比較組成物2と比べると、本発明の組成物1から4では、パロノセトロンの酸化又は分解生成物である、S−DH、R,S−パロ及びS−N−オキシドのそれぞれの含有量、並びに総類縁物質の含有量が開始時及び70℃で8日間保存した後において少なかった。また、本発明の組成物1から4は、類縁物質の発生量の点で、エデト酸ナトリウム水和物を含む比較組成物1と同等の効果を発揮した。
【0083】
一方、抗酸化剤としてチオグリコール酸ナトリウムを使用した比較組成物2では、従来品である比較組成物1に対して、S−DH及び総類縁物質の含有量が多く、安定性に劣った。
【0084】
2.pH7.0における抗酸化剤の比較
(1)組成物の調製
(実施例5)
pHを7.0に調整した以外は、実施例1と同様の方法で組成物5を製造した。
【0085】
(実施例6)
pHを7.0に調整した以外は、実施例3と同様の方法で組成物6を製造した。
【0086】
(実施例7)
pHを7.0に調整した以外は、実施例4と同様の方法で組成物7を製造した。
【0087】
(2)安定性試験
上記2.(1)で調製した各組成物をCOP/PP製のバッグに50mL分注した注射用製剤を、70℃で8日間保存して、各組成物中のS−DH、R,S−パロ及びS−N−オキシドの含有量を測定した。測定は液体クロマトグラフィーを使用して行った。結果を以下の表2に示す。なお、表中の数値(%)は、組成物中に含まれるパロノセトロンの質量を100%とした場合の割合(%)である。
【表2】
【0088】
表2から明らかなように、pHを7.0とした組成物5から7では、70℃で8日間保存した後の総類縁物質の量が、pHを5.0とした組成物1、3及び4の場合よりも少なく、経時的により安定であった。
【0089】
3.等張化剤の比較
(1)組成物の調製
(実施例8)
プロピレングリコール867mg((株)ADEKA製)、クエン酸ナトリウム水和物185mg、クエン酸水和物78mg、グリシン5mgを注射用水に加え、室温で撹拌して全ての成分を完全に溶解させて水溶液とした。この水溶液に8.4mgのパロノセトロン塩酸塩(パロノセトロンとして7.5mg)を加え、室温で撹拌して完全に溶解させた。完全に溶解されたことを確認した後、水酸化ナトリウム及び塩酸でpHを7.0に調整し、その後注射用水を加えて50mLに調製し、組成物8を製造した。
【0090】
(実施例9)
グリシン5mgの代わりに酒石酸10mgを使用した以外は、実施例8と同様の方法で組成物9を製造した。
【0091】
(実施例10)
グリシン5mgを使用せず、クエン酸水和物の量を92mgに変更した以外は、実施例8と同様の方法で組成物10を製造した。
【0092】
(比較例3)
プロピレングリコール867mgの代わりにD−ソルビトール2702mgを使用した以外は、実施例8と同様の方法で比較組成物3を製造した。
【0093】
(比較例4)
プロピレングリコール867mgの代わりにD−ソルビトール2702mgを使用した以外は、実施例9と同様の方法で比較組成物4を製造した。
【0094】
(比較例5)
プロピレングリコール867mgの代わりにD−ソルビトール2702mgを使用した以外は、実施例10と同様の方法で比較組成物5を製造した。
【0095】
(2)安定性試験
上記3.(1)で調製した各組成物を、各々5mL毎にガラスバイアル中に分注し、そのバイアル製剤を70℃で8日間保存して、各組成物中のS−DH、R,S−パロ及びS−N−オキシドの含有量を測定した。測定は液体クロマトグラフィーを使用して行った。結果を以下の表3に示す。なお、表中の数値(%)は、組成物中に含まれるパロノセトロンの質量を100%とした場合の割合(%)である。
【0096】
【表3】
【0097】
表3から明らかなように、等張化剤としてプロピレングリコールを含む本発明の組成物8から10は、D−ソルビトールを含む比較組成物3から5に対して、パロノセトロンの酸化又は分解生成物であるS−N−オキシドの含有量が開始時及び70℃で8日間保存した後において少なかった。
【0098】
一方、等張化剤としてD−ソルビトールを使用した比較組成物3から5は、本発明の組成物5から7に対して、S−N−オキシドの含有量が開始時及び70℃で8日間保存した後において多く、安定性に劣った。
【0099】
(3)光安定性試験 また、組成物8から10について光安定性試験を実施した。
【0100】
上記3.(1)で調製した各組成物を、各々5mL毎にガラスバイアル中に分注し、そのバイアル製剤を蛍光灯で120万Lux・hrの光を照射させた。そして、各組成物中のS−DH、R,S−パロ及びS−N−オキシドの含有量を測定した。測定は液体クロマトグラフィーを使用して行った。結果を以下の表4に示す。なお、表中の数値(%)は、パロノセトロンを100%とした場合の割合(%)である。
【0101】
【表4】
【0102】
表4から明らかなように、等張化剤としてプロピレングリコールを含む本発明の組成物8から10は、光を照射させても類縁物質の増加を抑えられることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の水性医薬組成物は、抗悪性腫瘍剤に伴う急性及び遅発性の悪心、嘔吐の抑制、減少、予防又は治療に使用可能なパロノセトロンを含む医薬組成物の安定性を向上させることができるため、有用である。