(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768417
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】緩衝材
(51)【国際特許分類】
D06M 13/422 20060101AFI20201005BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
D06M13/422
D06M15/263
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-167463(P2016-167463)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-35454(P2018-35454A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神代 寿史
(72)【発明者】
【氏名】今藤 好彦
【審査官】
伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−059744(JP,A)
【文献】
特開2005−290611(JP,A)
【文献】
特公昭56−018698(JP,B1)
【文献】
特開2003−166175(JP,A)
【文献】
特開2005−213308(JP,A)
【文献】
特開2008−223175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715
D04H 1/00−18/04
B65D 57/00−59/08,
65/00−65/46,
81/00−81/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が1℃以下のバインダによって、ヒドラジド化合物を接着しているとともに繊維同士を接着した不織布からなる緩衝材であり、前記バインダは不織布全体の30mass%以上を占め、かつ不織布の剛軟度が24cm以下であることを特徴とする、緩衝材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緩衝材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、テレビなどの映像機器、オーディオ機器、パソコン、空調機器、冷蔵庫、洗濯機などの電化製品、自動車などに存在する隙間に、防じん性、密着性、緩衝性、吸音性などを付与するために、緩衝材を介在させている。
【0003】
上述した緩衝材として、本願出願人は、「難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルが、繊維シートに対して、繊維シート質量の60〜80質量%添加されていることを特徴とする、緩衝材として使用する難燃性繊維シート。」(特許文献1)を提案している。この難燃性繊維シートは繊維シートに難燃剤カプセルを固定するために、バインダを使用しているが、バインダからVOCが発生する場合があるため、ホルマリンキャッチャー剤を添加したところ、電子部品や金属部品を腐食させることがあった。その原因について追求し、ホルマリンキャッチャー剤に含まれる硫黄成分であることを突き止めた。
【0004】
そのため、ホルマリンキャッチャー剤を含め、硫黄成分を含まないバインダを使用して緩衝材を作製した。この緩衝材は電子部品や金属部品を腐食させることはなかったが、この緩衝材を使用した場合に、揮発成分が自動車等のガラス面に付着して霞んでしまう、所謂「ガラス霞み」の問題が発生した。
【0005】
他方で、繊維構造物として、「繊維表面にチタンとケイ素を含む複合酸化物とヒドラジド系化合物を含むアルデヒド消臭剤が、樹脂によって付着している繊維構造物。」(特許文献2)が提案されているが、この繊維構造物はチタンとケイ素を含む複合酸化物の光触媒作用で酸化分解して無害化できるため、耐久性のある消臭性能を有する、というものである。この繊維構造物は複合酸化物の光触媒作用を期待するものであるため、緩衝材という、光の到達しない隙間に使用することが困難であった。また、緩衝材は隙間に使用するが故に、隙間に配置しても、層間剥離することなく、隙間の形状に追従できる柔軟性が必要であるが、前記繊維構造物は層間剥離しやすいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−17538号公報
【特許文献2】特開2003−336170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、緩衝材としての基本物性である層間剥離することなく、隙間の形状に追従できる柔軟性を有し、しかも電子部品や金属部品の腐食、及びガラス霞みの問題が発生しない緩衝材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は「ヒドラジド化合物をバインダで接着した不織布からなる緩衝材であり、前記バインダは不織布全体の30mass%以上を占め、かつ不織布の剛軟度が24cm以下であることを特徴とする、緩衝材。」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の緩衝材はヒドラジド化合物を含むことによって、電子部品や金属部品の腐食、及びガラス霞みの問題を発生することなく、VOCの発生を防止することができる。また、バインダが不織布全体の30mass%以上を占めており、充分な量のバインダによって繊維同士が接着しているため、層間剥離の生じない緩衝材である。しかも、バインダ量が多いと、柔軟性が低くなり、緩衝材として不適切であるが、本発明の緩衝材は剛軟度が24cm以下と、柔軟性に優れているため、隙間の形状に追従することができ、緩衝材としての作用を充分に発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】使用時の剥離の有無の試験方法を示す模式的斜視図
【
図2】金属腐食の有無の確認方法を示す模式的斜視図
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の緩衝材は電子部品や金属部品の腐食、及びガラス霞みの問題を発生することなく、VOCの発生を防止することができるように、ヒドラジド化合物を含んでいる。つまり、このヒドラジド化合物は金属部品等の腐食を発生させる硫黄成分を含まず、また、ガラス霞みを発生させると考えられる尿素を含まず、更に、ヒドラジド化合物のヒドラジド基がVOCと容易に結合できると考えられるため、金属部品等の腐食やガラス霞みを発生させることなく、VOCの発生を防止することができる。
【0012】
このヒドラジド化合物は、分子中に1個のヒドラジド基を有するモノヒドラジド化合物、分子中に2個のヒドラジド基を有するジヒドラジド化合物、分子中に3個以上のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物であることができる。
【0013】
より具体的には、モノヒドラジド化合物は次の一般式(1)で表すことができる。
R−CO−NHNH
2 (1)
式中、Rは水素原子、アルキル基又は置換基を有することのあるアリール基を示す。
【0014】
上記一般式(1)において、Rで示されるアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基等の炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を挙げることができ、アリール基として、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。また、アリール基の置換基としては、例えば、水酸基、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、iso−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基等を挙げることができる。
【0015】
より具体的にはモノヒドラジド化合物として、例えば、ラウリル酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、p−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド等を挙げることができる。
【0016】
また、ジヒドラジド化合物は次の一般式(2)で表すことができる。
H
2NHN−X−NHNH
2 (2)
式中Xは基−CO−又は基−CO−A−CO−を示す。Aはアルキレン基又はアリーレン基を示す。
【0017】
上記一般式(2)において、Aで示されるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基等の炭素数1〜12の直鎖状アルキレン基を挙げることができる。また、アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基等を挙げることができる。なお、アルキレン基又はアリーレン基の置換基としては、水酸基等を挙げることができる。
【0018】
より具体的にはジヒドラジド化合物として、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン−2酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド等の2塩基酸ジヒドラジド等を挙げることができる。なお、特公平2−4607号公報に記載の各種2塩基酸ジヒドラジド化合物、2,4−ジヒドラジノ−6−メチルアミノ−sym−トリアジンであっても良い。
【0019】
更に、ポリヒドラジド化合物は、ポリアクリル酸ヒドラジド等であることができる。
【0020】
本発明の緩衝材における上記ヒドラジド化合物の量は、金属部品等の腐食やガラス霞みを発生させることなく、VOCの発生を防止することができる量であれば良く、特に限定するものではないが、不織布全体の0.5mass%以上を占めているのが好ましく、1mass%以上を占めているのがより好ましく、1.5mass%以上を占めているのが更に好ましく、2mass%以上を占めているのが更に好ましい。一方で、ヒドラジド化合物の量が多くなると、バインダの比率が低くなり、不織布が層間剥離しやすくなるため、不織布全体の20mass%以下を占めているのが好ましく、10mass%以下を占めているのがより好ましく、5mass%以下を占めているのが更に好ましい。
【0021】
本発明の緩衝材を構成する不織布はヒドラジド化合物がバインダで接着したものであるが、ヒドラジド化合物以外の機能性薬剤を含んでいることができる。例えば、顔料、難燃剤、抗菌剤、撥水剤、柔軟剤、増粘剤、界面活性剤などを含んでいることができる。
【0022】
本発明の緩衝材を構成する不織布はこのようなヒドラジド化合物をバインダで接着したものであるが、バインダは不織布全体の30mass%以上を占め、充分な量のバインダで繊維同士が接着しているため、層間剥離の生じない緩衝材である。バインダの占有割合が高い方が層間剥離を生じないため、バインダは不織布全体の35mass%以上を占めているのが好ましく、40mass%以上を占めているのがより好ましい。一方で、バインダの占有割合が高過ぎると、緩衝材の剛性が高くなり、隙間に追従できないなど、緩衝材として適用できない場合があるため、不織布全体の75mass%以下を占めているのが好ましく、65%以下を占めているのがより好ましい。
【0023】
本発明の緩衝材を構成する不織布は層間剥離を生じにくいものであるが、具体的に、層間剥離強度は10N/5cm幅以上であるのが好ましく、11N/5cm幅以上であるのがより好ましく、12N/5cm幅以上であるのが更に好ましい。この「層間剥離強度」は次の手順により得られる値である。
【0024】
(1)不織布から5cm幅×15cm長の試験片を6枚採取する。
(2)試験片を標準状態(温度:20℃、相対湿度:65%)にて1時間放置する。
(3)試験片の長手方向端部を層間で剥離させ、取っ手部を形成する。
(4)引張り強さ試験機(オリエンテック製)のチャック間(距離:50mm)に、試験片の取っ手部を固定し、引張速度300m/min.にて200mm引張った際の荷重を測定する。
(5)前記荷重の測定を6枚の試験片について行ない、その算術平均値を層間剥離強度とする。
【0025】
なお、バインダはヒドラジド化合物を接着できれば良く、特に限定するものではないが、例えば、アクリル酸エステル系樹脂、(メタ)アクリル共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、イソブテン・無水マレイン酸共重合樹脂、スチレン・ブタジエンゴム共重合体(SBR)、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、シリコーン樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂等を挙げることができる。なお、これらバインダは1種類又は2種類以上を含んでいることができる。
【0026】
また、バインダは本発明の緩衝材を構成する不織布が柔軟性に優れているように、ガラス転移温度が1℃以下の比較的柔軟なバインダ(以下、「低Tgバインダ」ということがある)を含んでいるのが好ましい。なお、バインダは2種類以上のバインダを含んでいても良いが、2種類以上のバインダを含んでいる場合であっても、柔軟性に優れているように、2種類以上のバインダの混合バインダのガラス転移温度が1℃以下であるのが好ましい。また、バインダのガラス転移温度の下限は特に限定するものではないが、柔らか過ぎて緩衝材の取り扱い性が悪くならないように、−40℃以上であるのが好ましい。2種類以上のバインダの混合バインダである場合も同様に、ガラス転移温度は−40℃以上であるのが好ましい。
【0027】
本発明の「ガラス転移温度」は、非晶質固体状態にガラス転移を起こす温度であり、JIS K7121−1987に則って描いたDSC曲線から読み取った中間点ガラス転移温度(Tmg)をいう。また、混合バインダのガラス転移温度は混合したそれぞれのバインダのガラス転移温度に基づいて算出する。詳細は、ブルテン・オブ・ザ・アメリカン・フィジカル・ソサエティー,シリーズ2(Bulletin of the American Physical Society, Series 2)1巻・3号・123頁(1956年)に記載されている。
【0028】
本発明の緩衝材は上述の通り、ヒドラジド化合物をバインダで接着した不織布からなり、バインダの占有割合が高いにもかかわらず、剛軟度が24cm以下と柔軟性に優れているため、隙間に沿って変形でき、緩衝材としての作用を充分に発揮できる。この剛軟度の値が小さければ小さい程、柔軟性に優れているため、剛軟度は22cm以下であるのが好ましく、20cm以下であるのがより好ましい。なお、剛軟度の下限は特に限定するものではないが、取り扱い性に優れているように、5cm以上であるのが好ましい。本発明の「剛軟度」は、試験片のサイズを20mm×300mmとしたこと以外は、JIS L1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)8.21.1 A法(45°カンチレバー法)に則って測定した剛軟度を意味する。
【0029】
なお、本発明の不織布を構成する繊維は特に限定するものではないが、有機系ポリマー及び/又は無機系ポリマーからなる繊維であることができる。
【0030】
より具体的には、有機系ポリマーとして、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなど)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂などを例示することができる。
【0031】
また、無機系ポリマーとして、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合した無機系ポリマーを例示することができる。
【0032】
なお、不織布構成繊維は上述のような有機系ポリマー又は無機系ポリマー1種類から構成することができるし、2種類以上から構成することもできる。2種類のポリマーから構成される場合、繊維断面において、芯鞘状、貼合せ状、オレンジ状、海島状、多層積層状に配置していることができる。
【0033】
本発明の不織布を構成する繊維の繊度は特に限定するものではないが、0.5〜10dtexであることができ、より柔軟であるように、1〜5dtexであるのがより好ましい。また、繊維長も特に限定するものではないが、10〜100mmであることができ、より層間剥離しにくいように、20〜80mmであるのがより好ましい。
【0034】
また、本発明の緩衝材を構成する不織布の単位面積(1m
2)における繊維質量は特に限定するものではないが、緩衝材としての防じん性、密着性、緩衝性、又は吸音性などに優れているように、15〜200g/m
2であるのが好ましく、20〜100g/m
2であるのがより好ましい。
【0035】
本発明の緩衝材の厚さは特に限定するものではないが、緩衝材としての防じん性、密着性、緩衝性、又は吸音性などに優れているように、0.1mm〜2.0mmであるのが好ましく、0.15mm〜1.5mmであるのがより好ましい。なお、「厚さ」は厚さ測定器(ダイヤルシックネスゲージ0.01mmタイプH型式(株)尾崎製作所製)により計測した、5点の厚さの算術平均値をいう。
【0036】
本発明の緩衝材を構成する不織布は緩衝材使用時又は加工時に破断することがないように、引張り強さは130N/5cm幅以上であるのが好ましく、160N/5cm幅以上であるのがより好ましく、180N/5cm幅以上であるのが更に好ましい。なお、「引張り強さ」は、不織布から幅が50mm、長さが300mmの試料片を採取し、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン)を用い、試料片が破断するまでの最大荷重を測定する。この最大荷重の測定を3枚の試料片について行い、これら最大荷重を算術平均し、引張り強さとする。なお、測定はつかみ間隔200mm、引張速度500mm/分の条件で行う。
【0037】
また、本発明の緩衝材は空隙に沿って変形しやすいように、伸び率は5%以上であるのが好ましく、10%以上であるのがより好ましく、15%以上であるのが更に好ましい。この「伸び率」(Sr、単位:%)は、前述の引張り強さの測定を行った時の、最大荷重時の試料片の伸び(Smax、単位:mm)[=(最大荷重時の長さ、単位:mm)−(つかみ間隔=200mm)]のつかみ間隔(200mm)に対する百分率をいう。つまり、次の式から得られる値である。この測定を3回行い、前記百分率の算術平均値を伸び率とする。
Sr=(Smax/200)×100
【0038】
本発明の緩衝材は上述のような不織布からなるが、隙間に密着できるように、両面テープ、粘着剤などの接合材を、不織布の片面又は両面に備えていても良い。
【0039】
このような本発明の緩衝材は、例えば、繊維ウエブを乾式法(例えば、カード法、エアレイ法など)、湿式法、直接法(例えば、スパンボンド法など)により形成した後、ヒドラジド化合物をバインダに混合した混合バインダを、バインダ量が不織布全体の30mass%を占めるように繊維ウエブに付与し、バインダでヒドラジド化合物を繊維に固定して製造することができる。
【0040】
なお、バインダは、例えば、溶液状態、サスペンジョン状態、エマルジョン状態であることができる。また、混合バインダの繊維ウエブへの付与は、例えば、繊維ウエブの混合バインダ浴への浸漬、混合バインダの繊維ウエブへの塗布、又は混合バインダの繊維ウエブへの散布により実施することができる。更に、バインダによるヒドラジド化合物の繊維への固定は、混合バインダを付与した繊維ウエブを、熱風乾燥機、オーブン、赤外線ランプ等により乾燥して実施できる。
【0041】
また、剛軟度が24cm以下の緩衝材はバインダ又は混合バインダとして、ガラス転移温度が1℃以下のものを使用することによって製造しやすい。また、バインダ又は混合バインダを繊維ウエブに塗布する際に、バインダ又は混合バインダを泡立てた状態で塗布すると、バインダ又は混合バインダが分散した状態でヒドラジド化合物を接着できるため、剛軟度が24cm以下の緩衝材を製造しやすい。
【0042】
更に、繊維ウエブは層間剥離が生じにくいように、ニードルパンチ又は水流絡合により、繊維同士が絡合しているのが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
(絡合繊維ウエブの製造)
繊度1.7dtex、繊維長51mmのレーヨン繊維(レンチング社製)40mass%と、繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリエステル繊維(小山化学製)60mass%とを混合し、カード機により開繊して一方向性繊維ウエブを形成した後、クロスレイヤーにより繊維ウエブを交差させて、交差繊維ウエブを形成した。その後、針密度13.4本/cm
2でニードルパンチ処理を施して、目付70g/m
2の絡合繊維ウエブを製造した。
【0045】
(実施例1〜2、比較例1〜3)
ガラス転移温度が30℃のアクリル酸エステルからなるバインダエマルジョン(以下、「高Tgバインダエマルジョン」ということがある)、ガラス転移温度が−15℃のアクリル酸エステルからなる低Tgバインダエマルジョン、及びヒドラジド化合物(アジピン酸ジヒドラジド)[大塚化学(株)製、ケムキャッチ(登録商標)H−6000HS]とを用意し、表1に示す固形分比率で混合バインダをそれぞれ調製した。
【0046】
次いで、各混合バインダを泡立てた後、前記絡合繊維ウエブに混合バインダ固形分量が70g/m
2となるように塗布し、熱風乾燥機を用い、温度150℃で乾燥し、厚さ調整をして、表1に示す物性を有する不織布、つまり緩衝材を製造した。
【0047】
【表1】
【0048】
(比較例4)
ヒドラジド化合物に替えて、カーボアマイド系化合物[ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、エヤクリン(登録商標)PW]を混合したこと以外は実施例2と同様にして、混合バインダの調製、混合バインダの塗布、乾燥、及び厚さ調整を実施して、表2に示す物性を有する不織布、つまり緩衝材を製造した。
【0049】
(比較例5)
ヒドラジド化合物に替えて、無機酸塩[ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、エヤクリン(登録商標)OS−1520MA]を混合したこと以外は実施例2と同様にして、混合バインダの調製、混合バインダの塗布、乾燥、及び厚さ調整を実施して、表2に示す物性を有する不織布、つまり緩衝材を製造した。
【0050】
【表2】
【0051】
(実施例3〜5、比較例6〜7)
ガラス転移温度が30℃のアクリル酸エステルからなる高Tgバインダエマルジョン、ガラス転移温度が−15℃のアクリル酸エステルからなる低Tgバインダエマルジョン、及びヒドラジド化合物(アジピン酸ジヒドラジド)[大塚化学(株)製、ケムキャッチ(登録商標)H−6000HS]を、24:71:5の固形分比率で混合バインダを調製した。
【0052】
次いで、混合バインダを泡立てた後、前記絡合繊維ウエブに混合バインダ固形分量が表3に示す量となるように塗布し、熱風乾燥機を用い、温度150℃で乾燥し、厚さ調整をして、表3に示す物性を有する不織布、つまり緩衝材を製造した。
【0053】
【表3】
【0054】
(緩衝材の性能評価)
実施例1〜5及び比較例1〜7の緩衝材の層間剥離強度及び剛軟度を、前述の方法により評価した。また、使用時の剥離の有無、耐磨耗性、ガラス霞み性、金属腐食の有無、及びVOCの発生の有無について、次の方法により評価した。これらの結果は表4に示す通りであった。
【0055】
(1)使用時の剥離の有無;
実施例1〜5及び比較例1〜7の各緩衝材の片面に両面テープ(日東電工製、品番:No.512)を重ね、5kgfの圧力で加圧して貼り合わせた後、裁断して、長方形試験片(10mm幅×150mm長)を調製した。
【0056】
一方で、
図1に示すような三角柱状の冶具1(幅:20cm、奥行き:11.5cm、高さ:14.5cm)と、前記治具1の2つの側面1a、1bと密着できる被覆体2(質量:6kg)を用意した。
【0057】
次いで、治具1の2つの側面1a、1bによって形成される辺1cに対して直角、かつ長方形試験片Pの長手方向における一端部から3mmの範囲が前記辺1cから突出するように、前記長方形試験片Pをそれぞれ治具1の一方の側面1bに粘着させた。
【0058】
その後、長方形試験片Pを前記被覆体2で被覆し、5分間加圧して、長方形試験片Pの突出部を治具1の他方の側面1aに粘着させた後、被覆体2を取り除き、前記突出部の粘着状態を、粘着直後及び1時間後毎に、24時間後まで観察した。24時間後に剥離していない場合を「剥離なし」と評価した。
【0059】
(2)耐磨耗性;
実施例1〜5及び比較例1〜7の各緩衝材を裁断して、長方形試験片(30mm幅×200mm長)を調製した。一方で、学振型摩耗試験機を用意した。
【0060】
次いで、摩耗布として金巾を使用し、長方形試験片の表面を、荷重500gで往復500回摩擦させた後、長方形試験片の表面状態を観察し、次の基準で評価した。
【0061】
○:試験片表面の毛羽立ちなし
△:試験片表面の毛羽立ち多少あり
×:試験片表面の毛羽立ちが激しい
【0062】
(3)ガラス霞み性;
実施例1〜5及び比較例1〜7の各緩衝材を直径8cmの円形に裁断して、円形試験片をそれぞれ調製した。
【0063】
その後、内径83.6mm、高さ190mmの底付き円筒管に各円形試験片を入れ、厚さ3mmの透明ガラス板で蓋をした後、80℃のウォーターバスで3時間加熱した。その後、透明ガラス板の反射率を測定し、ガラス板の反射率が85%以上である場合、ガラス霞みの問題が発生しない(○)と判断し、85%未満である場合、ガラス霞みの問題が発生する(×)と判断した。
【0064】
(4)金属腐食の有無;
次の手順により、金属腐食の有無を判断した。
(i)実施例1〜5及び比較例1〜7の各緩衝材を裁断して、長方形状試験片12(たて:3cm、よこ1.3cm)を調製した。
(ii)長方形状の亜鉛メッキ鋼板(11a、11b、たて:5cm、よこ:8cm、質量:40g)を2枚用意し、一方の亜鉛メッキ鋼板11aの片面に、前記長方形状試験片12を離間させて配置した[
図2(a)参照]。次いで、他方の亜鉛メッキ鋼板11bを長方形状試験片12の上に載置し、長方形状試験片12を亜鉛メッキ鋼板11a、11bで挟み込んだ。
(iii)亜鉛メッキ鋼板11a、11bで挟んだ状態のまま、温度45℃、相対湿度90%の条件下に、24時間放置した。
(iv)放置後、他方の亜鉛メッキ鋼板11bと各長方形状試験片12を取り除き、一方の亜鉛メッキ鋼板11aの各長方形状試験片12を載置していた部分13における状態を観察し、次の基準で評価した[
図2(b)参照]。
○:変化なし
×:白く変色
【0065】
(5)VOCの発生の有無;
実施例1〜5及び比較例1〜7の各緩衝材を裁断して、長方形試験片(80mm×100mm)をそれぞれ調製した。
【0066】
この試験片を容量10リットルのテドラーバッグに入れ、窒素ガスを4L充填した後、温度65℃で2時間加熱し、テドラーバッグ中のガスをカートリッジに吸着させ、カートリッジに吸着させた成分を、高速液体クロマトグラフィーを用いて分析した。その結果、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドのいずれの揮発量も0.3μg以下である場合を「○」、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドのいずれの揮発量も0.3μgを超える場合を「×」、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドのいずれかの揮発量が0.3μgを超える場合を「△」と評価した。
【0067】
【表4】
【0068】
比較例1〜3と実施例1〜2との対比から、剛軟度が24cm以下であることによって、層間剥離が発生せず、緩衝材としての機能を発揮できることが分かった。
【0069】
また、実施例2と比較例4、比較例5との対比から、ヒドラジド化合物を含むことによって、電子部品や金属部品の腐食、及びガラス霞みの問題を発生することなく、VOCの発生を防止することができることが分かった。
【0070】
更に、実施例3〜5と比較例6〜7との対比から、バインダが不織布全体の30mass%以上を占めていることによって、層間剥離が発生せず、緩衝材としての機能を発揮できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の緩衝材は、テレビなどの映像機器、オーディオ機器、パソコン、空調機器、冷蔵庫、洗濯機などの電化製品、自動車などの隙間に設置することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 冶具
1a、1b 側面
1c 辺
2 被覆体
P 長方形試験片
11a、11b 亜鉛メッキ鋼板
12 長方形状試験片
13 亜鉛メッキ鋼板の長方形状試験片を載置していた部分