特許第6768435号(P6768435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768435
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】被覆アルミニウム材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20201005BHJP
   C23C 8/64 20060101ALI20201005BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20201005BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20201005BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20201005BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20201005BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20201005BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20201005BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20201005BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20201005BHJP
   H01G 11/28 20130101ALI20201005BHJP
【FI】
   C23C28/00 Z
   C23C8/64
   B32B15/08 G
   B32B15/20
   B05D7/14 101Z
   B05D7/24 301F
   B05D7/00 H
   H01M4/66 A
   H01G11/70
   H01G11/68
   H01G11/28
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-191307(P2016-191307)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2017-66527(P2017-66527A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2019年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-193641(P2015-193641)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将康
(72)【発明者】
【氏名】井上 英俊
(72)【発明者】
【氏名】中山 邦彦
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−181949(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/046234(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/34,28/00
B05D 7/00, 7/14, 7/24
B32B 15/08,15/20
C23C 8/64
H01G 11/28,11/68,11/70
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材と、
前記アルミニウム材の表面上に形成された有機物層と、
前記アルミニウム材と前記有機物層との間に形成された介在層と、
を備える被覆アルミニウム材であって、
(1)前記介在層は、前記アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域に存在し、且つアルミニウムの炭化物を含有し、
(2)前記有機物層は、炭素前駆体を含有し、導電性粒子を実質的に含有せず、実質的に樹脂成分及び前記炭素前駆体のみからなり、且つ当該有機物層の表面に凹凸部を有し、当該凹凸部は、円蓋状凸部が密集配列し、隣接する前記円蓋状凸部どうしの境界は凹部により連結しており、前記円蓋状凸部は断面を観察した際の凸部の形状として、多角錘、円錐、半球体若しくは楕円体、又はそれらを組み合わせた形状であり、当該凹凸部は実質的に平面を有さない、
ことを特徴とする被覆アルミニウム材。
【請求項2】
前記凹部は、連続的な勾配からなる、請求項1に記載の被覆アルミニウム材。
【請求項3】
前記凹凸部は、表面粗さRzが1.2μm以上5μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆アルミニウム材。
【請求項4】
前記有機物層の高さ方向の任意の断面図において、凸部の頂点から前記有機物層の底面までの高さ(T)と、当該凸部を挟んで隣接する二つの凹部におけるそれぞれの最深部から前記有機物層の底面までの高さを示す線分どうしの距離(D)との比(T/D)が0.2以上1.1以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の被覆アルミニウム材。
【請求項5】
電極構造体又はその構成部材である、請求項1〜4のいずれかに記載の被覆アルミニウム材。
【請求項6】
前記電極構造体は、キャパシタの集電体及び/又は電極である、請求項5に記載の被覆アルミニウム材。
【請求項7】
前記電極構造体は、電池の集電体及び/又は電極である、請求項5に記載の被覆アルミニウム材。
【請求項8】
幅10mm、長さ100mmの短冊状の前記被覆アルミニウム材を80±1℃の1mol/Lの塩酸溶液に浸漬し、前記被覆アルミニウム材から前記有機物層が完全に剥離するまでの時間を測定した耐酸性評価試験において400秒を超える値となる、請求項1〜7のいずれかに記載の被覆アルミニウム材。
【請求項9】
被覆アルミニウム材の製造方法であって、
(1)樹脂エマルションの分散質である樹脂粒子の一部を硬化させることにより、樹脂粒子分散液Aを調製する工程1、
(2)アルミニウム材の片面又は両面に前記樹脂粒子分散液Aを塗布することにより、表面に凹凸部を有する樹脂層を形成する工程2、
(3)前記樹脂層を形成した前記アルミニウム材を、炭化水素含有物質を含む雰囲気下で加熱することにより、前記樹脂層を、炭素前駆体を含有し表面に凹凸部を有する有機物層に変化させ、且つ前記アルミニウム材と前記樹脂層との間で前記アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域にアルミニウムの炭化物を含有する介在層を形成する工程3、
を順に有することを特徴とする被覆アルミニウム材の製造方法。
【請求項10】
前記凹凸部は、円蓋状凸部が密集配列し、隣接する前記円蓋状凸部どうしの境界は連続的な勾配からなる凹部により連結しており、前記円蓋状凸部は断面を観察した際の凸部の形状として、多角錘、円錐、半球体若しくは楕円体、又はそれらを組み合わせた形状であり、当該凹凸部は実質的に平面を有さない、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂粒子は、平均粒径が5μm以下である、請求項又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂層及び前記有機物層は、導電性粒子を実質的に含有しない、請求項11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記有機物層の前記凹凸部は、表面粗さRzが1.2μm以上5μm以下である、請求項12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記有機物層の高さ方向の任意の断面図において、凸部の頂点から前記有機物層の底面までの高さ(T)と、当該凸部を挟んで隣接する二つの凹部におけるそれぞれの最深部から前記有機物層の底面までの高さを示す線分どうしの距離(D)との比(T/D)が0.2以上1.1以下である、請求項13のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆アルミニウム材及びその製造方法に関する。
【0002】
本発明の被覆アルミニウムは、特に電池又はキャパシタの電極又は集電体に用いられる電極構造体又はその構成部材として有用である。
【背景技術】
【0003】
従来から、電池又はキャパシタの電極又は集電体に用いられる被覆アルミニウム材として各種のものが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特に請求項1)には、「アルミニウム材と、
前記アルミニウム材の表面上に形成された炭素含有層と、
前記アルミニウム材と前記炭素含有層との間で前記アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む介在層とを備え、
前記炭素含有層が複数の炭素含有粒子を含み、
前記炭素含有粒子の表面には有機物層が形成されている、炭素被覆アルミニウム材。」
が開示されている。
【0005】
特許文献1では、被覆部分である炭素含有層とアルミニウム材との密着性、並びに、炭素含有層に含まれる炭素含有粒子どうしの密着性を改善するために、予め表面に樹脂層が形成された炭素含有粒子を含む炭素含有層をアルミニウム材の表面に形成し、これを炭化水素含有物質を含む空間で加熱することにより、当該加熱工程後においても当該樹脂層を有機物層として残存させることが開示されている([0009]〜[0011]段落等)。具体的には、炭素含有粒子の表面に有機物層が残存することにより、炭素被覆層とアルミニウム材との密着性を介在層の効果に加えて更に高めることができ、また、有機物層が残存することにより、炭素含有粒子どうしの密着性が改善されることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2(特に請求項1)には、「アルミニウム材と、
前記アルミニウム材の表面上に形成された有機物層と、
前記アルミニウム材と前記有機物層との間で前記アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む介在層とを備え、
前記有機物層は炭素前駆体を含む、導電物被覆アルミニウム材。」が開示されている。
【0007】
特許文献2では、高湿条件下で使用した場合でも、水分により表面の導電性を担保する導電物がアルミニウム材から剥離しないようにするために、炭素含有粒子を含まない樹脂層をアルミニウム材の表面に形成し、これを炭化水素含有物質を含む空間で加熱することにより、樹脂層を、導電性を示す炭素前駆体を含む有機物層とすることが開示されている([0008]、[0028]段落等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2010−086961号パンフレット
【特許文献2】特開2010−215964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の技術には、次のような問題がある。
【0010】
引用文献1に記載の炭素被覆アルミニウム材は、炭素含有層に炭素含有粒子を含むことによりアルミニウム材の表面積を増大させる作用はあるが、高温、高湿度の雰囲気に長期間晒された場合には、雰囲気中に含まれる水分が炭素含有層の隙間(炭素含有粒子どうしの隙間)に侵入し、炭素含有粒子とアルミニウム材との界面で水和反応を起こすおそれがある。また、炭素被覆アルミニウム材を電池又はキャパシタに使用した場合には、電池又はキャパシタに含まれる腐食成分(酸など)が水和反応の進行を加速させる場合が多い。
【0011】
また、引用文献1に記載の炭素被覆アルミニウム材は、生産効率の向上を目的として、アルミニウム材の表面に樹脂層が形成された炭素含有粒子を付着した状態の中間体を複数枚重ねて熱処理に供したり帯状の中間体をコイル状に巻いて熱処理に供したりした場合には、被覆アルミニウム材の中央部において介在層が十分に形成されず、アルミニウム材と炭素含有層との密着性を十分に確保できない場合がある。
【0012】
特許文献2に記載の導電物被覆アルミニウム材は、有機物層が炭素含有粒子を含まず、緻密な構造を有することにより耐水和性に優れるものの、有機物層の表面の平滑性が高いため、有機物層の表面に活物質を含有するスラリーを塗工する場合に濡れ性が悪く、更に有機物層と活物質層との接触面積も小さいため密着性が十分に得られない場合がある。
【0013】
このように、アルミニウム材の表面に炭素含有層や有機物層(以下「有機物層」の表現で統一する)が形成された被覆アルミニウム材を電池又はキャパシタの電極又は集電体として用いる場合に、アルミニウム材と有機物層との密着性が弱いと電池又はキャパシタの信頼性試験において有機物層が剥離してショートする可能性がある。また、有機物層の耐水和性が低ければ電池又はキャパシタの製造工程で用いられる腐食成分により被覆アルミニウム材が腐食する可能性がある。更に、有機物層の表面に活物質層又は固体電解質を設ける場合にこれらの密着性が低かったり、液体電解質を用いる場合に有機物層の表面が濡れ難かったりすると、電池又はキャパシタの特性に悪影響を与えるおそれがある。
【0014】
よって、アルミニウム材の表面に介在層を介して有機物層が形成されている被覆アルミニウム材であって、耐水和性、有機物層と液体電解質との濡れ性、有機物層の表面に更に活物質層又は固体電解質を積層する場合のこれらの密着性に優れており、しかも複数枚を重ねるか又はコイル状に巻いて熱処理に供することにより被覆アルミニウム材を効率的に製造した場合であってもアルミニウム材と有機物層との密着性に優れている被覆アルミニウム材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法を経ることにより得られる被覆アルミニウム材によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、下記の被覆アルミニウム及びその製造方法に関する。
1.アルミニウム材と、
前記アルミニウム材の表面上に形成された有機物層と、
前記アルミニウム材と前記有機物層との間に形成された介在層と、
を備える被覆アルミニウム材であって、
(1)前記介在層は、前記アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域に存在し、且つアルミニウムの炭化物を含有し、
(2)前記有機物層は、炭素前駆体を含有し、導電性粒子を実質的に含有せず、実質的に樹脂成分及び前記炭素前駆体のみからなり、且つ当該有機物層の表面に凹凸部を有し、当該凹凸部は、円蓋状凸部が密集配列し、隣接する前記円蓋状凸部どうしの境界は凹部により連結しており、前記円蓋状凸部は断面を観察した際の凸部の形状として、多角錘、円錐、半球体若しくは楕円体、又はそれらを組み合わせた形状であり、当該凹凸部は実質的に平面を有さない、
ことを特徴とする被覆アルミニウム材。
2.前記凹部は、連続的な勾配からなる、上記項1に記載の被覆アルミニウム材。
3.前記凹凸部は、表面粗さRzが1.2μm以上5μm以下である、上記項1又は2に記載の被覆アルミニウム材。
4.前記有機物層の高さ方向の任意の断面図において、凸部の頂点から前記有機物層の底面までの高さ(T)と、当該凸部を挟んで隣接する二つの凹部におけるそれぞれの最深部から前記有機物層の底面までの高さを示す線分どうしの距離(D)との比(T/D)が0.2以上1.1以下である、上記項1〜3のいずれかに記載の被覆アルミニウム材。
5.電極構造体又はその構成部材である、上記項1〜4のいずれかに記載の被覆アルミニウム材。
6.前記電極構造体は、キャパシタの集電体及び/又は電極である、上記項5に記載の被覆アルミニウム材。
7.前記電極構造体は、電池の集電体及び/又は電極である、上記項5に記載の被覆アルミニウム材。
8.幅10mm、長さ100mmの短冊状の前記被覆アルミニウム材を80±1℃の1mol/Lの塩酸溶液に浸漬し、前記被覆アルミニウム材から前記有機物層が完全に剥離するまでの時間を測定した耐酸性評価試験において400秒を超える値となる、上記項1〜7のいずれかに記載の被覆アルミニウム材。
.被覆アルミニウム材の製造方法であって、
(1)樹脂エマルションの分散質である樹脂粒子の一部を硬化させることにより、樹脂粒子分散液Aを調製する工程1、
(2)アルミニウム材の片面又は両面に前記樹脂粒子分散液Aを塗布することにより、表面に凹凸部を有する樹脂層を形成する工程2、
(3)前記樹脂層を形成した前記アルミニウム材を、炭化水素含有物質を含む雰囲気下で加熱することにより、前記樹脂層を、炭素前駆体を含有し表面に凹凸部を有する有機物層に変化させ、且つ前記アルミニウム材と前記樹脂層との間で前記アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域にアルミニウムの炭化物を含有する介在層を形成する工程3、
を順に有することを特徴とする被覆アルミニウム材の製造方法。
10.前記凹凸部は、円蓋状凸部が密集配列し、隣接する前記円蓋状凸部どうしの境界は連続的な勾配からなる凹部により連結しており、前記円蓋状凸部は断面を観察した際の凸部の形状として、多角錘、円錐、半球体若しくは楕円体、又はそれらを組み合わせた形状であり、当該凹凸部は実質的に平面を有さない、上記項に記載の製造方法。
11.前記樹脂粒子は、平均粒径が5μm以下である、上記項又は10に記載の製造方法。
12.前記樹脂層及び前記有機物層は、導電性粒子を実質的に含有しない、上記項11のいずれかに記載の製造方法。
13.前記有機物層の前記凹凸部は、表面粗さRzが1.2μm以上5μm以下である、上記項12のいずれかに記載の製造方法。
14.前記有機物層の高さ方向の任意の断面図において、凸部の頂点から前記有機物層の底面までの高さ(T)と、当該凸部を挟んで隣接する二つの凹部におけるそれぞれの最深部から前記有機物層の底面までの高さを示す線分どうしの距離(D)との比(T/D)が0.2以上1.1以下である、上記項13のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の被覆アルミニウム材は、有機物層が導電性粒子を実質的に含有しないことにより耐水和性に優れている。また、有機物層の表面に凹凸部を有し、当該凹凸部は、円蓋状凸部が密集配列し、隣接する前記円蓋状凸部どうしの境界は凹部により連結しており、当該凹凸部は実質的に平面を有さないことにより表面積が増大し、液体電解質との濡れ性に優れている。しかも有機物層の表面に更に活物質層又は固体電解質を積層する場合のこれらの密着性に優れている。更に、複数枚を重ねるか又はコイル状に巻いて熱処理(後述の工程3の熱処理)に供することにより被覆アルミニウム材を効率的に製造した場合であってもアルミニウム材と有機物層との密着性に優れている。本発明の被覆アルミニウム材の製造方法は、かかる本発明の被覆アルミニウム材の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の被覆アルミニウム材の好ましい一態様を示す断面模式図である。
図2】有機物層の高さ方向の断面図において、凸部の頂点から有機物層の底面までの高さ(T)と、当該凸部を挟んで隣接する二つの凹部におけるそれぞれの最深部から有機物層の底面までの高さを示す線分どうしの距離(D)を示す模式図である。
図3】実施例1で作製した被覆アルミニウム材の有機物層表面を日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した観察像である。なお、観察上分かり易くするために有機物層の表面にプラチナ蒸着を施して導電性を確保している。
図4】実施例1で作製した被覆アルミニウム材の高さ方向の断面を株式会社日立ハイテクノロジーズ製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)によって観察した観察像である。なお、観察上分かり易くするために、断面を切り出す前に有機物層の表面にプラチナ蒸着を施し、更に観察時の導電性を確保するためにカーボンペーストを塗布し、次にアルミニウム箔に固定後、イオンミリングで切断した断面の観察像である。
図5】比較例5で作製した被覆アルミニウム材の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の被覆アルミニウム材及びその製造方法について詳細に説明する。
【0020】
1.被覆アルミニウム材の製造方法
本発明の被覆アルミニウム材の製造方法は、
(1)樹脂エマルションの分散質である樹脂粒子の一部を硬化させることにより、樹脂粒子分散液Aを調製する工程1、
(2)アルミニウム材の片面又は両面に前記樹脂粒子分散液Aを塗布することにより、表面に凹凸部を有する樹脂層を形成する工程2、
(3)前記樹脂層を形成した前記アルミニウム材を、炭化水素含有物質を含む雰囲気下で加熱することにより、前記樹脂層を、炭素前駆体を含有し表面に凹凸部を有する有機物層に変化させ、且つ前記アルミニウム材と前記樹脂層との間で前記アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域にアルミニウムの炭化物を含有する介在層を形成する工程3、
を順に有することを特徴とする。
【0021】
以下、工程ごとに説明する。
【0022】
(工程1)
工程1は、樹脂エマルションの分散質である樹脂粒子の一部を硬化させることにより、樹脂粒子分散液Aを調製する。
【0023】
原料となる樹脂エマルションは限定されず、分散質の樹脂としては水溶性樹脂及び溶剤系樹脂から幅広く使用することができる。例えば、ポリオレフィン系、エポキシ系、芳香族などの環状構造を有する樹脂(例えば、キシレン系、フェノール系)、ウレタン系、アクリル系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、ポリイミド系等の樹脂が挙げられる。
【0024】
これらの樹脂は単独又は2種以上を混合して使用でき、また、1種類以上の水溶性又は溶剤系樹脂と混合してもよい。混合に用いる水溶性又は溶剤系樹脂は特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系、ポリビニルブチラール系、エポキシ系、芳香族などの環状構造を有する樹脂(例えば、フェノール系)、アクリル系等の樹脂が挙げられる。
【0025】
上記樹脂としては、後記する工程3の熱処理を考慮すると、炭化水素雰囲気下、450℃以上660℃未満の温度範囲で1時間以上100時間以下の範囲内での加熱により揮発しない樹脂であることが好ましい。これは、熱処理時に樹脂が揮発すると、最終的に得られる有機物層に欠陥又はクラックが発生し、それらの空隙に介在層が形成され易くなったり有機物層の耐水和性を低下させたりするおそれがあるからである。かかる観点からは樹脂として熱硬化性樹脂が好ましく、特にフェノール系樹脂が好ましい。
【0026】
樹脂エマルションの分散媒としては、水及び/又は有機溶剤が挙げられる。
【0027】
分散質である樹脂粒子の平均粒径は限定されないが、5μm以下であることが好ましく、1μm以上3μm以下であることがより好ましい。なお、樹脂粒子の平均粒径は、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製MT3300EXII)を用い、粒度分布を体積基準で測定して平均粒径を算出した値である。
【0028】
樹脂粒子の平均粒径が5μmを超える場合には、工程3の熱処理で得られる有機物層に空隙が生じることで有機物層の緻密性が低下して耐水和性が低下するおそれがある。また、樹脂粒子の平均粒径が1μm未満の場合には、有機物層の表面に有する凹凸部の表面粗さRzの値が小さくなり、被覆アルミニウム材の濡れ性が低下したり活物質を含む層(活物質層)を積層した際の密着性が低下する可能性がある。
【0029】
樹脂エマルションの分散質である樹脂粒子の一部を硬化させる方法は、使用する樹脂の種類に応じて選択すればよいが、例えば、加熱、紫外線(UV)照射等が挙げられる。これらの手段の中でも加熱処理が簡便である。加熱処理の温度は30℃〜80℃が好ましく、30℃未満では硬化が不十分になるおそれがあり、80℃を超えると樹脂粒子の一部ではなく全体が硬化するおそれがある。
【0030】
硬化時間は、樹脂エマルションの種類及び硬化手段に応じて適宜設定すればよいが、15日以内が好ましい。15日を超える場合には一部が硬化した樹脂粒子の割合が顕著に増加し、硬化していない樹脂の割合が減少するために耐水和性が低下するおそれがある。なお、上記「樹脂粒子の一部」は、個々の樹脂粒子における一部であり、好ましくは樹脂粒子の表面の一部分が該当する。つまり、樹脂粒子の一部が硬化した場合に、樹脂粒子の表面の一部分が硬化し、内部及び表面の残りの部分は硬化せず分散性を保った状態が好ましいものとして例示できる。
【0031】
上記の通り、樹脂エマルションの樹脂粒子の一部を硬化させることにより、樹脂粒子分散液Aが得られる。原料である樹脂エマルションも樹脂粒子分散液であるが、本発明では樹脂粒子分散液Aは原料である樹脂エマルションとは区別される用語である。
【0032】
(工程2)
工程2は、アルミニウム材の片面又は両面に前記樹脂粒子分散液Aを塗布することにより、表面に凹凸部を有する樹脂層を形成する。
【0033】
アルミニウム材(基材)としては特に限定されず、従来から被覆アルミニウム材の分野で公知のものが使用できる。例えば、純アルミニウム又はアルミニウム合金の箔又は板を用いることができる。
【0034】
純アルミニウムとしては、JIS H1303:1976に準拠して測定された純度が98質量%以上のものが好ましい。
【0035】
アルミニウム合金としては、鉛(Pb)、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)及びホウ素(B)からなる群から選択される少なくとも1種の合金元素を含有するものが挙げられる。なお、アルミニウム材には上記に挙げた元素以外の不可避的不純物元素が含まれていてもよい。
【0036】
アルミニウム材は、公知の方法によって製造されるものが使用できる。例えば、上記の所定の組成を有するアルミニウム(合金の場合を含む)の溶湯を調製し、これを鋳造して得られた鋳塊を適切に均質化処理する。その後、この鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を施すことにより、アルミニウム箔又はアルミニウム板を得ることができる。なお、上記冷間圧延工程の途中で150〜400℃程度の範囲内で中間焼鈍処理を施してもよい。
【0037】
アルミニウム材の厚みは特に限定されない。例えば、アルミニウム箔を用いる場合は、一般的には5μm以上200μm以下の範囲が好ましい。また、アルミニウム板を用いる場合は、200μm超過3mm以下の範囲が好ましい。
【0038】
アルミニウム材の表面に樹脂粒子分散液Aを塗布する際は、樹脂粒子分散液Aに水又は有機溶剤を添加してスラリー状又は液体状になるように希釈して調整することができる。
【0039】
塗布方法としては、文言上の塗布に限定されず、スプレー、ディッピング等が幅広く利用できる。具体的には、スピンコーティング法、バーコーティング法、フローコーティング法、スプレー法などが適宜採用される。樹脂粒子分散液Aを塗布後は、必要に応じて20℃以上300℃以下の温度で乾燥処理をしてもよい。
【0040】
樹脂粒子分散液Aの塗布によりアルミニウム材の表面に樹脂層が形成される。樹脂層はアルミニウム材の片面又は両面に形成すればよく、その厚みは片面の厚さで1mm以下の範囲内が好ましく、0.1μm以上100μm以下がより好ましい。0.1μm未満の場合には、工程3で複数枚を重ねるか又はコイル状に巻いて熱処理に供した際にブロッキングが生じるおそれがあり、1mmを超える場合には樹脂層に欠陥又はクラックが発生するおそれがある。なお、樹脂層の厚みは、樹脂層(両面形成の場合は片面)の高さ方向の断面が全て撮影範囲に収まる10000倍程度の電界放射型走査電子顕微鏡断面写真(任意に撮影した3枚)において、樹脂層とアルミニウム材の界面、及び、樹脂層の最表面に目視判断により平行に直線を引いて、その直線同士の距離を樹脂層の厚み(最大厚みとなる)として算出し、3枚分の算出値を平均することで計測できる。
【0041】
本発明では、アルミニウム材の表面に形成された樹脂層は、その表面に凹凸部を有する。樹脂粒子分散液Aをアルミニウム材に塗布すると、樹脂粒子の硬化していない表面部分が隣接した樹脂粒子どうしで一体化及び造膜することでアルミニウム材に濡れ広がり、アルミニウム材と樹脂層との界面には緻密な樹脂層が形成される。しかしながら、樹脂粒子の表面のうち一部硬化した部分は一体化による造膜が妨げられて円蓋状(硬化部分)の形状を保持したまま樹脂層の上に残る。これにより、緻密な樹脂層の表面に円蓋状凸部が密集配列した凹凸部が形成される。
【0042】
(工程3)
工程3は、前記樹脂層を形成した前記アルミニウム材を、炭化水素含有物質を含む雰囲気下で加熱することにより、前記樹脂層を、炭素前駆体を含有し表面に凹凸部を有する有機物層に変化させ、且つ前記アルミニウム材と前記樹脂層との間で前記アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域にアルミニウムの炭化物を含有する介在層を形成する。
【0043】
加熱雰囲気に含まれる炭化水素含有物質の種類は特に限定されない。例えば、メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、イソブタン、ペンタン等のパラフィン系炭化水素;エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等のオレフィン系炭化水素;アセチレン等のアセチレン系炭化水素;及びこれらの炭化水素の誘導体が挙げられる。
【0044】
炭化水素含有物質は、液体、気体又は固体のいずれの状態のものでもよい。また、樹脂層を形成したアルミニウム材が存在する空間(熱処理の空間)に存在させればよく、この空間にどのような方法で導入してもよい。例えば、炭化水素含有物質がガス状である場合(メタン、エタン、プロパン等)には、熱処理の空間内に炭化水素含有物質を単独又は不活性ガスと共に充填すればよい。また、炭化水素含有物質が液体又は固体である場合には、熱処理の空間内で熱処理時に気化するように炭化水素含有物質を単独または不活性ガスとともに充填すればよい。なお、炭化水素含有物質の中でも、メタン、エタン、プロパン等のパラフィン系炭化水素は元々ガス状であるため好ましい。より好ましいのは、メタン、エタン及びプロパンの少なくとも1種であり、最も好ましくはメタンである。
【0045】
熱処理の空間に導入される炭化水素含有物質の量は限定的ではないが、アルミニウム材100重量部に対して炭素換算値で0.1〜50重量部程度の範囲の重量比が好ましく、0.5〜30重量部程度の範囲の重量比がより好ましい。
【0046】
熱処理時の圧力は特に限定されず、常圧下、減圧下又は加圧下のいずれでもよい。また、圧力の調整は、ある一定の温度に保持している間、ある一定の温度までの昇温中、又はある一定の温度から降温中のいずれの時点で行なってもよい。
【0047】
加熱温度はアルミニウム材の組成等に応じて適宜設定すればよいが、通常450℃以上660℃以下の範囲内が好ましく、530℃以上620℃以下の範囲内がより好ましい。加熱温度を450℃以上とすることにより、アルミニウム及び炭素を含む介在層に結晶化したアルミニウムの炭化物を生じさせることができる。但し、本発明では450℃未満の温度での熱処理も可能であるが、少なくとも300℃を超えることが好ましい。他方、加熱温度が660℃を超えるとアルミニウム材が溶融するおそれがある。
【0048】
加熱温度が400℃以上になる場合は、加熱雰囲気中の酸素濃度を1.0体積%以下とすることが好ましい。加熱温度が400℃以上で加熱雰囲気中の酸素濃度が1.0体積%を超えると、アルミニウム材の表面の熱酸化被膜が肥大し、アルミニウム材の表面抵抗値が増大するおそれがある。
【0049】
加熱時間は、加熱温度等にもよるが、通常1時間以上100時間以下の範囲内である。
【0050】
本発明では、上記熱処理により、樹脂層が、炭素前駆体を含有し表面に凹凸部を有する有機物層に変化し、且つアルミニウム材と樹脂層(有機物層)との間でアルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域にアルミニウムの炭化物を含有する介在層が形成される。
【0051】
上記炭素前駆体は、樹脂を炭素化する過程で生成される物質で、少なくとも炭素及び水素の元素を含み、且つグラファイトに類する成分又はアモルファスカーボンに類する成分を含むことが好ましい。言い換えると、有機物層中に含まれる炭素前駆体は、少なくとも炭素及び水素の元素を含み、且つラマン分光法によって検出されたラマンスペクトルにおいてラマンシフトが1350cm−1付近又は1580cm−1付近にピークを有することが好ましい。このような炭素前駆体を有機物層中に含むことにより、有機物層に導電性を発現することができる。
【0052】
上記介在層は、結晶化したアルミニウムの炭化物を含むことが好ましく、炭化アルミニウムを含むことがより好ましい。また、介在層は有機物層側に、繊維状、フィラメント状、ウイスカー状、板状、壁状、塊状のような形態で表面部分が伸びていてもよい。
【0053】
工程3の熱処理によって、樹脂層の表面に有した凹凸部は凹凸形状の微細部分に変化はあるものの凹凸部の形態はほぼそのまま維持される。つまり、この凹凸部の形態が維持されたまま樹脂層が有機物層に変化することにより、本工程において製造効率を高める観点で複数枚を重ねるか又はコイル状に巻いて熱処理に供した場合であってもブロッキングを防止できる。また、アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域に介在層が形成されることによりアルミニウム材と有機物層との優れた密着性が得られる。
【0054】
有機物層表面の凹凸部の大きさ(表面粗さ、T/D比など)の詳細は後述するが、当該凹凸部は、円蓋状凸部が密集配列し、隣接する前記円蓋状凸部どうしの境界は凹部により連結しており、当該凹凸部は実質的に平面を有さない形態であることが好ましい。また、前記凹部は連続的な勾配からなることがより好ましい。
【0055】
本発明の製造方法では、樹脂層及び有機物層はともに導電性粒子(例えば、アルミニウム粒子、炭素粒子、炭化物粒子等)を実質的に含有しない(積極的に添加しない)ため、耐水和性に優れた緻密な有機物層を形成することができ、且つ本工程で製造効率を高める観点で複数枚を重ねるか又はコイル状に巻いて熱処理に供した場合であっても中央部まで密着性が維持される。ただし、不可避的に含まれる微量の導電性の粒子についてはその限りではないが、好ましくは1重量%以下であることが好ましい。
【0056】
2.被覆アルミニウム材
本発明の被覆アルミニウム材は、
アルミニウム材と、
前記アルミニウム材の表面上に形成された有機物層と、
前記アルミニウム材と前記有機物層との間に形成された介在層と、
を備える被覆アルミニウム材であって、
(1)前記介在層は、前記アルミニウム材の表面の少なくとも一部の領域に存在し、且つアルミニウムの炭化物を含有し、
(2)前記有機物層は、炭素前駆体を含有し、導電性粒子を実質的に含有せず、且つ当該有機物層の表面に凹凸部を有し、当該凹凸部は、円蓋状凸部が密集配列し、隣接する前記円蓋状凸部どうしの境界は凹部により連結しており、当該凹凸部は実質的に平面を有さない、ことを特徴とする。
【0057】
なお、本発明の被覆アルミニウム材は、前述の本発明の被覆アルミニウム材の製造方法によって好適に得ることができ、アルミニウム材、有機物層、介在層等に関する一般的な説明は、製造方法の項目で説明したものと同じである。
【0058】
上記特徴を有する本発明の被覆アルミニウム材は、有機物層が導電性粒子を実質的に含有しないことにより耐水和性に優れている。また、有機物層の表面に凹凸部を有し、当該凹凸部は、円蓋状凸部が密集配列し、隣接する前記円蓋状凸部どうしの境界は凹部により連結しており、当該凹凸部は実質的に平面を有さないことにより、表面積が増大し、これにより液体電解質との濡れ性に優れている。しかも有機物層の表面に更に活物質層又は固体電解質を積層する場合のこれらの密着性に優れている。更に、複数枚を重ねるか又はコイル状に巻いて熱処理(前述の工程3の熱処理)に供することにより被覆アルミニウム材を効率的に製造した場合であってもアルミニウム材と有機物層との密着性に優れており、特に被覆アルミニウム材の中央部分においても密着性に優れている。
【0059】
なお、図1では前記凹部は最深部でV字状に折り返す態様を例示しているが、前記凹部は連続的な勾配(即ち最深部で円弧状に折り返す態様)からなることが好ましい。前記凹部が連続的な勾配からなることにより、有機物層の表面に活物質層を積層する場合に、活物質と有機物層表面の凹凸部との直接接触する面積を大きくすることができる。
【0060】
本発明の被覆アルミニウム材は、アルミニウム材と有機物層との間に介在層が形成されており、この介在層はアルミニウム材と有機物層との密着性を高める作用を有する。
【0061】
更に、炭化水素含有物質を含む雰囲気下での加熱のため、もともと存在するアルミニウム材と有機物層との間にアルミニウム及び酸素を含む層(自然酸化皮膜)の成長が抑制されるとともに、熱膨張の影響でアルミニウム及び酸素を含む層に欠損(クラック)が生じるため、アルミニウムと有機物層が一部分においても直接接触する構造となっていると考えられる。その結果、被覆アルミニウム材を電極構造体に用いた場合には、アルミニウム材と有機物層との間の抵抗値を低減させることができ、高い静電容量を有する電極構造体を製造することが可能である。また、導電性粒子を実質的に含まない有機物層であるため非常に緻密な構造を有し、この点でも密着性が更に高まる。
【0062】
有機物層が緻密な構造を有することにより、高温、高湿の雰囲気に長期間曝された場合でも雰囲気中に含まれる水分の侵入を防ぎ、水和反応を抑制することができる。
【0063】
また、有機物層が緻密な構造を有することにより、電池又はキャパシタの製造工程で用いられる酸などの腐食成分によるアルミニウム材の腐食を防止することもできる。かかる耐酸性については、好適な実施態様では幅10mm、長さ100mmの短冊状の被覆アルミニウム材を80±1℃の1M(Mは、体積モル濃度[mol/L]を意味する)の塩酸溶液に浸漬し、被覆アルミニウム材から有機物層が完全に剥離するまでの時間を測定した耐酸性評価試験において400秒を超える値となり、耐酸性に優れている。
【0064】
有機物層の厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよいが、0.1μm以上1mm以下が好ましく、0.1μm以上100μm以下がより好ましい。0.1μm未満であると有機物層に欠陥(ピンホール)が生じアルミニウム材の一部が露出するおそれがあり、1mmを超えると有機物層の厚み方向での電気抵抗が上昇するおそれがある。なお、有機物層の厚みは、有機物層(両面形成の場合は片面)の高さ方向の断面が全て撮影範囲に収まる10000倍程度の電界放射型走査電子顕微鏡断面写真(任意に撮影した3枚)において、有機物層とアルミニウム材の界面、及び、有機物層の最表面に目視判断により平行に直線を引いて、その直線同士の距離を有機物層の厚み(最大厚みとなる)として算出し、3枚分の算出値を平均することで計測できる。
【0065】
上記の通り、本発明における有機物層は導電性粒子を実質的に含有しないが、代わりに炭素前駆体を含有することで有機物層の導電性を確保することができる。
【0066】
有機物層の表面に有する凹凸部の大きさは、例えば、円蓋状凸部の平面視での平均直径により特定することができる。平均直径は、日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍で表面観察(表面をプラチナ蒸着した後に観察)した写真から任意に30μm×30μmの範囲内の円蓋状凸部外縁に相当すると考えられる円(測定時に発生した2次電子により白い円に観察される部分)を、目視により全て選び出して、その円の最大径を直径とし、直径の合計を算出し、個数で除した平均値により求められる。
【0067】
平均直径は、本発明の効果が達成される範囲内で限定的ではないが、1μm以上5μm以下であることが好ましい。平均直径が1μm未満の場合には、後述するRzが小さくなることにより濡れ性、活物質層との密着性が低下する可能性がある。また、平均直径が5μmを超える場合には、円蓋状凸部間の凹部の領域が大きくなるため、緻密な有機物層に欠陥が生じる可能性が高くなり、耐水和性が低下するおそれがある。
【0068】
なお、円蓋状凸部は略円蓋状であってもよく、略円蓋状の平均直径は、日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍で表面観察(表面をプラチナ蒸着した後に観察)した写真から任意に30μm×30μmの範囲内の円蓋状凸部外縁に相当すると考えられる略円を、目視により全て選び出して、その略円の最大径を直径とし、直径の合計を算出し、個数で除した平均値により求められる。
【0069】
有機物層の表面に有する凹凸部の集合状態は、円蓋状凸部の平面視での個数密度により特定することもできる。個数密度は、本発明の効果が達成される範囲内で限定的ではないが、400万個/cm以上1億個/cm以下が好ましく、500万個/cm以上5000万個/cm以下がより好ましく、800万個/cm以上3000万個/cm以下が更に好ましい。個数密度は、日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍で表面観察した写真から任意に30μm×30μmの範囲内の粒子を、目視により全て選び出して合計の個数を求め、それを範囲面積で除した値により求められる。
【0070】
個数密度が400万個/cm未満の場合には、平均直径の大きい凸部が連結することで凹部の領域が大きくなる。この領域に緻密な有機物層が形成される必要があるため欠陥が生じる可能性が高くなり、耐水和性が低下するおそれがある。また、個数密度が1億個/cmを超える場合には、平均直径が小さい凸部が連結することで後述するRzの値が小さくなり、濡れ性や活物質層との密着性が低下する可能性がある。
【0071】
有機物層の表面に有する凹凸部は、表面粗さRz(μm)により特定することもできる。表面粗さRzは、本発明の効果が達成される範囲内で限定的ではないが、1.2μm以上5μm以下が好ましく、1.2μm以上3μm以下がより好ましい。表面粗さRzは、JIS B0601:1982の十点平均粗さRzに従い、株式会社東京精密製表面粗さ測定機(型番:SURFCOM 1400D)により測定した値である。また、測定速度は0.3mm/秒とする。
【0072】
凹凸部の表面粗さが上記範囲であることで、活物質層を形成するために活物質を含有するスラリーなどを塗布した場合には水でも濡れるほど濡れやすく、活物質層や固体電解質と有機物層の表面の凹凸部との接触面積が大きくなり十分な密着性を確保できる。また、液体電解質との濡れ性にも優れている。
【0073】
凹凸部の表面粗さRzが5μmを超える場合には緻密性が低下することで耐水和性が低下するおそれがある。しかしながら、本発明の被覆アルミニウム材は、有機物層表面の凹凸部の表面粗さRzが5μmを超えることを除外するものではない。有機物層表面の凹凸部の表面粗さRzが1.2μm未満の場合には、液体電解質に浸した際又は活物質を含むスラリーなどを塗布した際の有機物層との接触面積が小さくなり、十分な濡れ性や密着性を確保できない可能性がある。
【0074】
有機物層の表面に有する凹凸部は、有機物層の高さ方向の任意の断面図において、凸部の頂点から前記有機物層の底面までの高さ(T)と、当該凸部を挟んで隣接する二つの凹部におけるそれぞれの最深部から前記有機物層の底面までの高さを示す線分どうしの距離(D)との比(T/D)により特定することもできる(図2参照)。T/Dは、本発明の効果が達成される範囲内で限定的ではないが、0.2以上1.1以下が好ましく、0.3以上0.8以下がより好ましい。
【0075】
なお、凸部の頂点から有機物層の底面までの高さ(T)、並びに、当該凸部を挟んで隣接する二つの凹部におけるそれぞれの最深部から有機物層の底面までの高さを示す線分どうしの距離(D)は、共に被覆アルミニウム材の高さ方向の断面を株式会社日立ハイテクノロジーズ製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)によって10000倍で観察した写真から、任意にアルミニウム材と平行な方向15μmの範囲内の全ての凸部に対して、それぞれ目視で測定した結果から求めることができる。また、本発明のT/Dは、測定した各凸部のT/Dから平均値を算出した値とする。
【0076】
有機物層の表面に有する凹凸部は、断面を観察した際の凸部の形状として、多角錘、円錐、半球体及び楕円体のいずれか、又はそれらを組み合わせた形状であるであることが好ましく、半球体及び/又は楕円体がより好ましい。多角錘や円錐の場合、凸部の頂点部分に応力が集中するとそこを基点に粒子に割れが生じ、有機物層の破片が剥離したり耐水和性が低下するおそれがある。
【0077】
このような形状であることにより、有機物層上に活物質層を形成する場合に有機物層の表面に有する凹凸部と活物質とが直接接触する面積が大きくなり、キャパシタの容量特性、内部抵抗特性、充放電特性、寿命を高めることができる。
【0078】
本発明で形成される有機物層の凹凸部は、有機物層の表面に形成されるものであり、プレス加工、エンボス加工、エッチング加工、レーザー加工等の物理的な加工によらないものである。物理的な加工を行った場合には、有機物層表面のみでなく、被覆アルミニウム材全体に凹凸部形成の影響が出て、被覆アルミニウム材に活物質を含む層を均一に塗布することが難しくなる。但し、アルミニウム材に元から凹凸形状を有する部分があった場合に、接触する有機物層がアルミニウム材との界面において、アルミニウム材に接触するように凹凸部を有することを除外するものではない。
【0079】
本発明の被覆アルミニウム材は、電極構造体又はその構成部材に好適に使用できる。
【0080】
電極構造体としては、電池又はキャパシタの電極又は集電体が挙げられる。本発明ではこれらの電極構造体又はその構成部材の用途に用いる際に、有機物層が導電性粒子を実質的に含有しないことで被覆アルミニウム材の切断工程で切り粉が発生しにくく、切り粉によるショートなどの不良が発生しにくい。
【0081】
キャパシタ用途に用いる場合には、電解質や活物質を含む層との接触面積が増加し、濡れ性や密着性の向上につながるため、キャパシタの容量特性、内部抵抗特性、充放電特性、寿命を高めることができる。キャパシタには、電気二重層キャパシタ、アルミニウム電解コンデンサ等が例示される。
【0082】
電池用途に用いる場合には、電解質や活物質を含む層との接触面積が増加し、濡れ性や密着性の向上につながるため、電池の容量特性、内部抵抗特性、充放電特性、寿命を高めることができる。電池には、リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、色素増感太陽電池、燃料電池、固体高分子燃料電池等の二次電池が例示される。
【0083】
本発明の被覆アルミニウム材について、図面を参照しながら例示的に説明する。
【0084】
図1は、被覆アルミニウム材の好ましい一態様を示す断面模式図である。
【0085】
アルミニウム材1の表面に有機物層2が形成されており、有機物層2の表面には凹凸部4が形成されている。
【0086】
アルミニウム材1と有機物層2との間には介在層3が形成されている。また、介在層3から有機物層側に繊維状、フィラメント状、ウイスカー状、板状、壁状、塊状等の形態で延びる表面部分5が形成されていてもよい。
【実施例】
【0087】
以下に実施例、比較例及び試験例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0088】
実施例1
樹脂エマルションとして、平均粒径3μmの水分散性フェノール樹脂(固形分40重量%)を40℃の大気環境下で5日間静置し、フェノール樹脂粒子の一部を硬化させた。
【0089】
この水分散性フェノール樹脂を水1質量部に対してイソプロピルアルコール1質量部添加した溶剤で適宜希釈し、水分散性フェノール樹脂インキを調製した。
【0090】
これを20cm四方の厚さ30μm、純度99.3重量%のアルミニウム箔に1.0g/mずつ両面塗布後、200℃で30秒乾燥させ、樹脂層を形成させた。なお、乾燥後の樹脂層の厚みは図4と同様の方法で電子顕微鏡による断面観察を行い、片面側で約3μmであることを確認した。
【0091】
その後、両面に樹脂層が形成されたアルミニウム箔を、600℃のメタンガス雰囲気(酸素濃度50体積ppm未満、大気圧)で16時間加熱し、介在層、及び有機物層を形成させた被覆アルミニウム材を得た。
【0092】
実施例2
アルミニウム箔を300mm幅、500m長のサイズとし、外径82mmの鋼管に巻いた外径179mmのコイル状で加熱工程を行った以外は実施例1と同じ条件にて作製し、被覆アルミニウム材を得た。
【0093】
実施例3
水分散性フェノール樹脂中のフェノール樹脂粒子の硬化条件を40℃の大気環境下で15日間静置とし、2.0g/mずつ両面塗布して、樹脂層の厚みが片面側で約6μmであった以外は実施例1と同じ条件にて作製し、被覆アルミニウム材を得た。
【0094】
実施例4
樹脂エマルションとして、実施例1よりも平均粒径の大きい平均粒径4μmの水分散性フェノール樹脂(固形分35重量%)を用いた以外は実施例1と同じ条件にて作製し、被覆アルミニウム材を得た。
【0095】
実施例5
樹脂エマルションの樹脂粒子をエポキシ系樹脂粒子にし、水分散性エポキシ系樹脂(固形分30重量%)として、樹脂層の厚みが片面側で約2μmであった以外は実施例1と同じ条件にて作製し、被覆アルミニウム材を得た。
【0096】
実施例6
樹脂エマルションの樹脂粒子をアクリル系樹脂粒子にし、水分散性アクリル系樹脂(固形分40重量%)として、樹脂層の厚みが片面側で約2μmであった以外は実施例1と同じ条件にて作製し、被覆アルミニウム材を得た。
【0097】
比較例1
水分散性フェノール樹脂中のフェノール樹脂粒子を硬化させない以外は実施例1と同じ条件にて作製し、被覆アルミニウム材を得た。
【0098】
比較例2
平均粒径が300nmのカーボンブラック粒子2質量部をエポキシ系樹脂1質量部と混合し、前記樹脂に対して20質量%のトルエンを添加した上でニーダーにて十分混練することにより、カーボンブラック粒子の表面に樹脂層を形成した。
【0099】
表面に樹脂層を形成したカーボンブラック粒子を含む混練物をイソプロピルアルコール溶液中に均一に分散させることにより、炭素含有粒子付着工程で用いられるインキとして、固形分が20質量%のカーボンブラック粒子を含むインキを調整した。
【0100】
このインキを20cm四方の厚さ30μm、純度99.3重量%のアルミニウム箔に1.0g/mずつ両面塗布後、200℃で30秒乾燥させ、樹脂層を形成させた。なお、乾燥後の樹脂層の厚みは図4と同様の方法で電子顕微鏡による断面観察を行い、片面側で約1μmであることを確認した。
【0101】
その後、両面に樹脂層が形成されたアルミニウム箔を、600℃のメタンガス雰囲気(酸素濃度50体積ppm未満、大気圧)で16時間加熱し、介在層、及び有機物層を形成させた被覆アルミニウム材を得た。
【0102】
比較例3
アルミニウム箔を300mm幅、500m長のサイズとし、外径82mmの鋼管に巻いた外径175mmのコイル状で加熱工程を行った以外は比較例2と同じ条件にて作製し、被覆アルミニウム材を得た。
【0103】
比較例4
溶剤系フェノール樹脂をアセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコールからなる溶剤で適宜希釈し、溶剤系フェノール樹脂インキを調製した。
【0104】
このインキを20cm四方の厚さ30μm、純度99.3重量%のアルミニウム箔に1.0g/mずつ両面塗布後、200℃で30秒乾燥させ、樹脂層を形成させた。なお、乾燥後の樹脂層の厚みは図4と同様の方法で電子顕微鏡による断面観察を行い、片面側で1μmであることを確認した。
【0105】
その後、両面に樹脂層が形成されたアルミニウム箔を、600℃のメタンガス雰囲気(酸素濃度50体積ppm未満、大気圧)で16時間加熱し、介在層、及び有機物層を形成させた被覆アルミニウム材を得た。
【0106】
比較例5
水分散性フェノール樹脂インキの代わりに、エポキシ系樹脂ビーズと水1質量部に対してイソプロピルアルコール1質量部を添加した溶剤で混合して、均一に分散させることにより、樹脂ビーズ分散液(固形分40重量%)を調製した。これを用い、2.0g/mずつ両面塗布して、樹脂ビーズが付着した樹脂層の厚みが片面側で約2μmであった以外は、実施例1と同じ条件にて作製し、被覆アルミニウム材を得た。なお、高さ方向の断面を観察した模式図を図5に示す。
【0107】
試験例1
実施例1〜6及び比較例1〜5で得られた被覆アルミニウム材について、表面粗さRz、耐水和性(耐酸性)、濡れ性(NMP接触角)、及び活物質を含む層との密着性を調べた。また、実施例2及び比較例3で得られた被覆アルミニウム材について、アルミニウム材と有機物層との密着性を評価した。これらの結果を表1に示す。更に、被覆アルミニウム材について、有機物層の高さ方向の断面図において、凸部の頂点から前記有機物層の底面までの高さ(T)と、当該凸部を挟んで隣接する二つの凹部におけるそれぞれの最深部から前記有機物層の底面までの高さを示す線分どうしの距離(D)との比(T/D)を算出した結果も表1に示す。
【0108】
表面粗さ
被覆アルミニウム材をガラス板に貼り付け、表面粗さ測定機(株式会社東京精密製、SURFCOM1400D)で箔表面の粗さをJIS B 0601:1982に基づき、測定幅2.5mmにおける十点平均粗さRzで測定した。
【0109】
耐水和性(耐酸性)
水和反応の進行を加速させた試験として、幅10mm、長さ100mmの短冊状の被覆アルミニウム材を、80±1℃の1M(Mは、体積モル濃度[mol/L]を意味する)の塩酸溶液中に浸漬し、アルミニウム材から有機物層が完全に剥離するまでの時間を測定した。
【0110】
濡れ性
JIS R 3257に基づき、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を注射器で被覆アルミニウム材の表面に一滴滴下し、液滴を水平方向から観察した画像から接触角(°)を測定した。
【0111】
活物質を含む層との密着性の評価
被覆アルミニウム材に電気二重層キャパシタに使用される活物質である活性炭のスラリーを塗布し、テーピング法によって被覆アルミニウム材と活物質を含む層との密着性を評価した。なお、実施例2及び比較例3はアルミニウム材との密着性が良好な幅方向の端部で評価を行った。
【0112】
<電極の作製>
被覆アルミニウム材の片面に活性炭のスラリーとして、ヒタゾル(日立化成株式会社製、GA‐1015)をバーコートで塗布し、100℃で2分間乾燥して活物質を含む層となる活性炭層を形成し、電気二重層キャパシタの電極としての評価用サンプルを作製した。なお、乾燥後の活性炭層の厚みは11μmであった。
【0113】
次に、活性炭層と被覆アルミニウム材の密着性をテーピング法により測定した。各評価試料を幅20mm、長さ40mmの短冊状に切り出し、有機物層の表面に、幅15mm、長さ70mmの接着面を有する粘着テープ(住友スリーエム株式会社製、商品名「スコッチテープ」)を接着面積600mm(15mm×40mm)として押し当てた後、被覆アルミニウム材を引き剥がして、密着性を次の式に従って評価した。
【0114】
密着性(%)= (W−W)/(W−W)×100
:粘着テープから引き剥がし後の被覆アルミニウム材の重量(mg)
:粘着テープを押し当てる前の活性炭層形成後の被覆アルミニウム材の重量(mg)
:活性炭層形成前の被覆アルミニウム材の重量(mg)
この式において、活性炭層の剥離が全く認められない場合は当該値が100となる。
【0115】
有機物層との密着性の評価
実施例2及び比較例3で得られた被覆アルミニウム材をテーピング法によってアルミニウム材と有機物層との密着性を評価した。コイル状の被覆アルミニウム材の巻芯部分より、幅方向の端部(幅方向50mm×流れ方向20mm)、中央部(幅方向50mm×流れ方向20mm)をおのおの短冊状に切り出し、有機物層の表面に、幅15mm、長さ70mmの接着面を有する粘着テープ(住友スリーエム株式会社製、商品名「スコッチテープ」)を接着面積750mm(50mm×15mm)として押し当てた後、粘着テープを引き剥がして、密着性を次の式に従って評価した。
【0116】
密着性(%)= (W−W)/(W−W)×100
:引き剥がし後の被覆アルミニウム材の重量(mg)
:引き剥がし前の被覆アルミニウム材の重量(mg)
:被覆アルミニウム材の基材であるアルミニウム材の重量(mg)
この式において、有機物層の剥離が全く認められない場合は当該値が100となる
なお、基材であるアルミニウム材の重量は、引き剥がし前後の被覆アルミニウム材の重量を測定した後、被覆アルミニウム材を大気中450℃で5分加熱し有機物層のみを熱分解させ残渣をウエスで拭き取り除去することで求めた。
【0117】
【表1】
【0118】
表1の結果から、表面粗さRzについては、実施例1〜6及び比較例2〜3、5では、水分散性フェノール樹脂を硬化させていない比較例1及びエマルションではない溶剤系フェノール樹脂を使用した比較例4に比べて、有機物層表面の表面粗さRzが大きいことが分かる。
【0119】
耐水和性(耐酸性)については、比較例5では、図5に示すように樹脂ビーズ由来の有機物の粒子では、粒子間に緻密な有機物層が形成されていないことにより、実施例1〜6及び比較例1〜4と比べて、耐水和性が劣ることが分かる。また、実施例1〜6及び比較例1、4では、カーボンブラック粒子を含む比較例2、3と比べて有機物層の剥離に時間を要することから、有機物層が緻密であり耐水和性に優れているといえる。更に、実施例3では実施例1、2と比較して耐水和性が低下しているが、これは工程1において、樹脂粒子の硬化時間が長くなり、一部硬化した樹脂粒子が増加するとともに硬化していない樹脂粒子の割合が減少したことで、有機物層の緻密性が低下したことによるものである。
【0120】
濡れ性を評価したNMP接触角については、比較例1、4に比べて実施例1〜6及び比較例2〜3、5では表面凹凸があるため、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)の接触角がより小さい値を示しており、濡れ性が良く液体電解質と濡れやすいことが分かる。
【0121】
被覆アルミニウム材と活物質を含む層との密着性は、比較例1、4では活物質層が殆ど界面剥離しているのに対して、実施例1〜6及び比較例2〜3、5では、活物質層の界面剥離が抑えられていることから、実施例1〜6及び比較例2〜3、5は、表面に凹凸部があるため、活物質層との密着面積が大きくなり、活物質層や固体電解質との密着性が向上したことが分かる。
【0122】
アルミニウム材と有機物層との密着性は、比較例3が幅方向の中央部において密着性が悪化しているのに対し、実施例2は幅方向の中央部においてもほとんど剥離が見られないことから、実施例2は、コイル状に巻いて熱処理に供したとしても幅方向において均一な密着性を確保できると考えられる。
【符号の説明】
【0123】
1 アルミニウム材
2 有機物層
3 介在層
4 有機物層の表面の凹凸部
5 介在層の表面部分
6 樹脂ビーズ由来の有機物の粒子
T 有機物層の表面の凹凸部の凸部の頂点から有機物層の底面までの高さ
D 有機物層の表面の凹凸部の凸部を挟んで隣接する二つの凹部におけるそれぞれの最深部から有機物層の底面までの高さを示す線分どうしの距離
図1
図2
図3
図4
図5