(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
受信コイルと前記受信コイルに対応した第1の発振コイルおよび第2の発振コイルとを含んでなるセンサ部が、検査対象である鉄道レールの幅方向に列をなすように複数配列され、前記第1の発振コイルおよび前記第2の発振コイルに同一周波数の磁束を発生させると、相互に干渉が生じる場合があるセンサ部群と、
前記センサ部群の前記第1の発振コイルおよび前記第2の発振コイルの各々に、同一周波数の磁束を発生させる発振信号を供給する発振部と、
前記センサ部群が前記鉄道レールの敷設方向に移動する際、前記受信コイルの各々から出力される出力信号に対して、前記出力信号の第1の位相に対応する第1の検査信号と、前記出力信号の第2の位相に対応する第2の検査信号と、を検出する複数の検波部を有する検波部群と、
を有することを特徴とするレール検査システム。
前記第1の検査信号、前記第2の検査信号または前記第1の検査信号と前記第2の検査信号に演算処理を施した結果を表示対象信号とし、複数の前記センサ部に対応する前記表示対象信号の強度分布を2次元画像として出力する出力処理部
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のレール検査システム。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の外観構成〉
図1は、本発明の第1実施形態によるレール検査システム1の模式図である。
図1においてレール検査システム1は、検出装置2と、処理装置3と、両者を接続するケーブル60とを有している。レール検査システム1は、例えば自走式の検測車両200に装着されるものであり、検出装置2は、検査対象物である鉄道レール100に対向する位置に設置され、処理装置3は、検測車両200の室内に設置される。
【0009】
図2は、検出装置2の斜視図である。
図2において検出装置2は、中空の直方体状に形成された筐体20と、筐体20の上面に固定された矩形板状のフランジ25とを有する。フランジ25の四隅には貫通孔25aが形成されている。また、検測車両200において検出装置2を配置する箇所には、貫通孔25aに対向する位置にネジ穴(図示せず)を備える。貫通孔25aにボルトを挿入し、ネジ穴に当該ボルトを締め付けることで、検出装置2が検測車両200の所定位置に固定される。検出装置2をこの所定位置に固定すると、鉄道レール100の中心と、検出装置2の中心とが一致する。そのため、フランジ25は鉄道レール100に対する検出装置2を所定位置に設置するための冶具となっている。筐体20の底面には、センサ部群21と増幅・フィルタ部群22とが固定されている。
【0010】
図3は、検出装置2の一部切欠平面図である。
図3において、センサ部群21は、鉄道レール100の幅方向に列をなすように複数配列されたN個(Nは複数)のセンサ部21−1〜21−Nを有している。また、増幅・フィルタ部群22は、同数の増幅・フィルタ部22−1〜22−Nを有している。センサ部21−1〜21−Nは、それぞれ、発振コイル5A−1〜5A−N(第1の発振コイル)と、発振コイル5B−1〜5B−N(第2の発振コイル)と、受信コイル6−1〜6−Nと、を有している。これらのコイルは、被服銅線を巻回して構成されている。
【0011】
発振コイル5A−k(但し、1≦k≦N)と、受信コイル6−kと、発振コイル5B−kとは、鉄道レール100(
図1参照)の敷設方向に沿って配置され、受信コイル6−kは、発振コイル5A−kと発振コイル5B−kとの間に等間隔になるように配置されている。発振コイル5A−k,5B−kには、処理装置3(
図1参照)から、ケーブル60を介して、所定の発振周波数f(所定周波数)の交流電流が供給される。これにより、発振コイル5A−k,5B−kから各々交流磁界が発生し、受信コイル6には鎖交する磁束によって誘起電圧が発生する。
【0012】
増幅・フィルタ部22−kは、受信コイル6−kで生じた誘起電圧に対して増幅およびフィルタ処理を行い、ケーブル60(
図1参照)を介して、その結果を処理装置3に送信する。処理装置3は、受信した信号に対して解析処理を行い、鉄道レール100の欠陥を検出する。
検出装置2に上述した交流磁界を発生させるため、筐体20は非磁性体とすることが好ましく、屋外使用を考慮してガラスエポキシ等の耐衝撃性および耐環境性に優れた材質を用いることが好ましい。筐体20内の内部空間は、振動や衝撃による各センサ部の位置が変わることを防ぐために、樹脂モールド構造にすることが好ましい。また、N個のセンサ部21−1〜21−Nの中心線CLは、検出装置2の中心に対応させることが好ましい。
【0013】
〈欠陥検出の原理〉
図4(a),(b)は、本実施形態における欠陥検出の原理説明図である。
発振コイル5A−k,5B−kは、被覆銅線の巻き始め同士もしくは巻き終り同士が直列(または並列)に接続されており、処理装置3から電流が供給されると、位相が反転した交流磁界を発生させる。より具体的には、発振コイル5A−k,5B−kを直列(または並列)に接続し、この直列回路(または並列回路)に交流電圧を印加するとよい。発振コイル5A−k,5B−kによって生じる磁束ΦA,ΦBは、空気を介して、鉄道レール100の踏面に伝播され、鉄道レール100の内部に磁束の流れを生じさせる。
【0014】
図4(a)は、鉄道レール100において、受信コイル6−kの近傍に特に亀裂等の欠陥が無い場合の例を示す。
磁束ΦA,ΦBのうち受信コイル6−kに鎖交する成分は、磁束の向きが逆向きであるため、相互に打ち消しあう。従って、受信コイル6−kの鎖交磁束はほぼ零になり、受信コイル6の誘起電圧もほぼ零になる。ここで、検測車両200(
図1参照)が走行すると、検査装置2は移動しながら鉄道レール100に磁束の流れを発生させる。そして、欠陥が無い箇所では当該磁束の流れが一定であるため、受信コイル6の誘起電圧はほぼ一定値(0)になる。
【0015】
図4(b)は、鉄道レール100において、受信コイル6−kの近傍に亀裂である欠陥部102が生じている場合の例を示す。図示の例においては、磁束の流れが乱れて、鉄道レール100の踏面から磁束の漏洩が生じる。そのため、受信コイル6−kが欠陥部102の近傍を通過する際に、受信コイル6−kの誘起電圧は比較的大きな値になる。
【0016】
本実施形態における欠陥検出は、検査対象物である鉄道レール100に発生させた磁束の流れが欠陥部102において変わることに基づき、発生した漏洩磁界を検出するものである。この漏洩磁界の解析モデルとして、双極子モデルに基づいて空間に発生する漏洩磁界を表現することができる。このモデルは、一様に磁化された欠陥部102の両端部に反磁性の磁荷を一様に分布させ、漏洩磁界はそれらから生じた空間磁界で近似できると仮定するものである。
【0017】
まず、
図4(b)において鉄道レール100の敷設方向をx方向とし、欠陥部102の深さ方向をy方向とし、紙面に垂直な方向をz方向(図示せず)とし、欠陥部102はz方向に無限長の長さを持っていると仮定する。すると、(x、y、0)点におけるx方向およびy方向の空間磁界Hx,Hyは、下式(1),(2)で表すことができる。
【数1】
【0018】
【数2】
式(1),(2)においては、欠陥部102の幅を2aとし、欠陥部102の深さをdとし、mを磁荷量としている。
磁荷量mは、一様磁化を受ける強磁性体中に存在する回転楕円体の内部磁場に対する古典電磁気学的解を用いて、下式(3)で近似される。
【0019】
【数3】
式(3)において、H
0は励磁のための磁場強度、nは傷のアスペクト比(d/a)、μは比透磁率を表す。本実施形態では、受信コイル6−kは、検査対象物である鉄道レール100の敷設方向に鉛直な方向からの漏洩磁界を検知しており、測定結果は空間磁界Hyに相当する。式(2)に基づいてx以外のパラメータを設定すると、空間磁界Hyは、欠陥部102の深さdの関数として示すことができ、Hyは欠陥部102の中心位置を零点として、x軸方向に極大もしくは極小が現れる変化を示す。
【0020】
〈第1実施形態の回路構成〉
図5は、本実施形態によるレール検査システム1の全体構成を示すブロック図である。
上述したように、レール検査システム1は、検出装置2と、処理装置3とを有する。そして、検出装置2は、センサ部群21センサ部21−1〜21−Nと、増幅・フィルタ部22−1〜22−Nとを有し、各センサ部21−k(但し、1≦k≦N)は、発振コイル5A−k,5B−kと、受信コイル6−kとを有する。
また、処理装置3は、増幅部31−1〜31−Nと、デジタルアナログ変換部32と、発振部33と、検波部34−1〜34−Nと、アナログデジタル変換部35と、メモリ部36と、評価装置4とを備えている。なお、検波部34−1〜34−Nを総称して検波部群34と呼ぶ。
【0021】
発振部33は、所定の発振周波数f(例えば20kHz)の正弦波状のデジタル発振信号を出力する。なお、発振周波数fとして20kHz以外の周波数を選択してもよい。但し、発振周波数fは、10Hz〜100GHzの範囲の周波数から選択することが好ましい。これは、周波数fが10Hzよりも低いと受信コイル6の感度が悪くなり、100GHzを超えると発振コイル5A,5Bのインピーダンスが高くなることによって、磁場が弱くなるからである。また、周波数fは、1kHz〜1GHzの範囲から選択することがより好ましく、10kHz〜100kHzの範囲から選択することがさらに好ましい。
【0022】
ところで、実際に運用されている鉄道線路においては、鉄道レール100を構成要素に含む「軌道回路」と呼ばれる回路を構成することがある。これは、線路の特定区間内に鉄道車両が存在するか否かを検出して信号機等を制御し、衝突事故を防ぐためのものである。この軌道回路に用いられる周波数と、発振周波数fとが近接していると、センサ部21−1〜21−Nが誤動作する場合がある。しかし、軌道回路に用いられる周波数を、発振周波数fの±7%程度以上離すと、センサ部21−1〜21−Nに対する影響がほぼ無視できることが実験により判明している。従って、発振周波数fは、軌道回路に用いられる周波数に対して、±0.07f以上離れた周波数から選択することが好ましい。
【0023】
図5においてデジタルアナログ変換部32は、発振部33が出力したデジタル発振信号をアナログの交流電圧に変換する。増幅部31は、この交流電圧を増幅し、各センサ部21−k(但し、1≦k≦N)における発振コイル5A−k,5B−kに印加する。これにより、発振コイル5A−k,5B−kからは、位相が反転した交流磁界が発生する。
【0024】
また、検出装置2内の増幅・フィルタ部22−kは、対応する受信コイル6−kからの信号を増幅およびフィルタ処理し、処理装置3の検波部34−kに送信する。なお、「フィルタ処理」とは、主として発振周波数f以上の周波数成分を除去する低域通過フィルタ処理である。また、検波部34−kは、発振部33からの参照信号を用いて、増幅・フィルタ部22−kから供給された信号に基づいて、信号X,Y,R,θ(これら信号の詳細は後述する)を生成し、アナログデジタル変換部35に供給する。アナログデジタル変換部35は、検波部34−1〜34−Nから受信した各アナログ信号をデジタル信号に変換する。アナログデジタル変換部35から出力されたデジタル信号は、データとしてメモリ部36に記憶され、評価装置4に供給される。
【0025】
次に、評価装置4について説明する。
評価装置4は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等、一般的なコンピュータとしてのハードウエアを備えており、HDDには、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、各種データ等が格納されている。OSおよびアプリケーションプログラムは、RAMに展開され、CPUによって実行される。
図5において、評価装置4の内部は、アプリケーションプログラム等によって実現される機能を、ブロックとして示している。
【0026】
評価装置4は、制御部42と、データ処理部43と、出力処理部44と操作入力部45と、表示部46と、記憶部47と、を備える。
評価装置4は、検出装置2、検波部34−1〜34−N、アナログデジタル変換部35またはメモリ部36から受信した検査データに基づいて鉄道レール100の欠陥を特定する検査処理プログラムを実行する。なお、本実施形態において、「検査データ」とは、検出装置2の受信コイル6から評価装置4に至るまでの全ての段階でのデータが該当するものとする。
【0027】
制御部42は、メモリ部36からの検査データの読出しや、演算処理等の制御を行う。データ処理部43は、検査データに基づいて、検査処理を行う(詳細は後記)。表示部46は、検査結果等を表示するLCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ等である。出力処理部44は、表示部46に検査結果等を表示させる。その際、出力処理部44は、グラフやテーブルの形式を適宜用いて視覚的に理解しやすい表示形式で表示させるための処理を行う。操作入力部45は、キーボード、マウス等の情報入力手段である。記憶部47は、データ処理部43が処理した検査結果等のデータを保存する。また、メモリ部36に記憶されたデータは、記憶部47にも転送される。なお、データ処理部43、出力処理部44は、記憶部47に格納されたプログラムやデータを制御部42にロードして、演算処理を実行することによって実現される。
【0028】
図6は、検波部34−k(但し、1≦k≦N)のブロック図である。
増幅・フィルタ部22−kからの受信信号SSは、位相比較器74,76に供給される。また、発振部33(
図5参照)から供給された参照信号SR1は、遅延回路72によって、発振周波数fの90°の位相に相当する時間だけ遅延される。遅延された参照信号SR1を参照信号SR2と呼ぶ。参照信号SR1は位相比較器76に供給され、参照信号SR2は位相比較器74に供給される。位相比較器76は、受信信号SSにおいて参照信号SR1に同期する成分を抽出する。抽出された信号は、LPF(ローパスフィルタ)80によってフィルタ処理され、LPF80は、その結果を余弦信号X(第1の検査信号,表示対象信号)として出力する。
【0029】
また、位相比較器74は、受信信号SSにおいて、参照信号SR2に同期する成分を抽出する。抽出された信号は、LPF78によってフィルタ処理され、LPF78は、その結果を正弦信号Y(第2の検査信号,表示対象信号)として出力する。演算器84は、√(X
2+Y
2)を計算し、その結果を振幅信号R(表示対象信号)として出力する。また、演算器82は、(Y/X)のアークタンジェントすなわちatan(Y/X)を計算し、その結果を位相差信号θ(表示対象信号)として出力する。
【0030】
そして、検波部34−kは、上述した各信号X,Y,R,θを、アナログデジタル変換部35(
図5参照)を介してメモリ部36に供給する。なお、図示の例では、検波部34−kは各信号X,Y,R,θの全てを出力したが、振幅信号Rおよび位相差信号θは検波部34−kが計算するのではなく、余弦信号Xおよび正弦信号Yに基づいて、データ処理部43(
図5参照)が計算するようにしてもよい。
【0031】
ここで、検波部34−kが余弦信号Xに加えて正弦信号Yを検出している理由について説明しておく。まず、余弦信号Xを重視するのであれば、余弦信号Xの振幅が最大になるように、参照信号の位相を設定することが考えられる。すると、この設定した位相は、余弦信号Xを検出するための最適な位相であると言える。しかし、受信信号SSは、センサ部21−1〜21−N毎に独立しており、センサ部21−1〜21−N毎に配置箇所や製造誤差の影響が異なる。また、経年変化や温度変化によっても最適な位相は変動する。従って、検波部34−1〜34−Nの各々に対して参照信号の最適な位相を設定することは、煩雑である。
【0032】
正弦信号Yは、レールを励磁する励磁磁場に対して90°位相がシフトした信号成分である。本実施形態のように、余弦信号Xとともに正弦信号Yを検出すると、演算器84(または評価装置4)において振幅信号Rを計算することができる。振幅信号Rの値は、位相差信号θが変動した場合であっても、原理上は一定になるため、参照信号の位相を最適化する処理を省略することができる。
【0033】
〈第1実施形態の動作〉
図7は、評価装置4のデータ処理部43によって実行される検査処理プログラムのフローチャートである。
図7において処理がステップS2に進むと、データ処理部43は、検査データを記憶部47から取得する。次に、処理がステップS4に進むと、データ処理部43は、検測車両200(
図1参照)の位置履歴情報と、検査データとの対応付けを行う。検測車両200は位置測定機能を有しており、軌道上の位置が、時刻とともに逐次記録される。また、検査データは、データ測定時刻と対応付けて記憶部47に記憶されている。従って、ステップS4では、これらのデータによって、検査データと、軌道上における位置とが対応付けられる。
【0034】
次に、ステップS2で取得した全ての検査データについて、ステップS6,S8,S10のループが繰り返される。まず、ステップS6において、データ処理部43は、処理対象の検査データが基準範囲すなわち正常であると推定できる範囲を外れているか否かを判定する。ここで「Yes」と判定されると、処理はステップS8に進み、データ処理部43は、当該検査データは異常であると判定する。
【0035】
一方、ステップS6において「No」と判定されると、処理はステップS10に進み、データ処理部43は、当該検査データは正常であると判定する。そして、ステップS6〜S10の処理が検査データ全体に対して終了すると、処理はステップS12に進み、データ処理部43は、各検査データの正常/異常の判定結果を記憶部47に記憶させるとともに、表示部46に表示させる。以上により、本ルーチンの処理が終了する。
【0036】
次に、
図8(a)〜(c)を参照し、上述したステップS12における判定結果の表示態様について説明する。
図8(a)は、鉄道レール100に形成された欠陥部102の具体例を示す平面図である。図示の例において、欠陥部102は、鉄道レール100を横切る方向に形成された溝状の欠陥であるとする。
図8(b)は、欠陥部102の近傍における余弦信号X、振幅信号R、位相差信号θの波形図の例である。なお、正弦信号Yについては図示を省略するが、正弦信号Yは余弦信号Xと同様の形状の波形になる(但し、一般的には両者の振幅は異なる)。
【0037】
図8(a)において、センサ部21−k(
図3参照)は、左から右に向かって一定速度で移動したこととする。すると、
図8(b)の横軸は、時刻であるとともに、鉄道レール100上の位置を示すものになる。また、
図8(b)の縦軸は、余弦信号Xおよび振幅信号Rについては「電圧」であり、位相差信号θについては、「角度」になる。時刻t1以前およびt3以降は、センサ部21−kは欠陥部102から充分に離れていることとする。この場合、余弦信号Xは、所定のオフセット値BLにほぼ一致している。
【0038】
そして、時刻t1〜t2の区間では、余弦信号Xに負のピークが現れ、時刻t2〜t3の区間では、余弦信号Xに正のピークが現れる。また、振幅信号Rは、時刻t1〜t2の区間および時刻t2〜t3の区間に、各々正のピークを有する。また、位相差信号θは、略台形状の波形になる。
図8(b)には、余弦信号X、振幅信号Rおよび位相差信号θを各1系統のみ示すが、実際には、センサ部21−1〜21−Nの各々において、各信号X,Y,R,θが求まる。
図8(b)に示したように、余弦信号Xは、鉄道レール100の敷設方向に沿って連続的な値が得られるが、センサ部21−1〜21−Nの配列方向(鉄道レール100の幅方向)に沿って、離散的なN個の値が得られる。従って、余弦信号Xの測定値は、2次元のデータとして表現することができる。
【0039】
図8(c)は、データ処理部43が、2次元の余弦信号Xを表示部46に等高線表示させた2次元画像130の表示例を示す。
図8(c)において横軸は、
図8(b)と同様に、時刻であるとともに、鉄道レール100上の位置に対応する。また、
図8(c)の縦軸は、センサ部21−1〜21−N(
図3参照)の配列方向、すなわち、鉄道レール100を横切る方向の位置である。また、縦軸における「0」、「+10」、「−10」等の数字は、鉄道レール100の中心位置からの距離をmm単位で表したものである。なお、鉄道レール100の踏面の幅は、一般的に65mmである。
【0040】
図8(c)において領域110は、余弦信号Xがオフセット値BLに近い領域であり、例えば「緑色」によって塗りつぶされる。また、領域114は、余弦信号Xが負のピークに近い領域であり、例えば「青色」によって塗りつぶされる。また、領域124は、余弦信号Xが正のピークに近い領域であり、例えば「赤色」によって塗りつぶされる。領域111〜113は、オフセット値BLから負のピークに向かう複数段階の各範囲に対応し、緑色から青色に向かって段階的に変化する色相に設定されている。
【0041】
また、領域121〜123は、オフセット値BLから正のピークに向かう複数段階の各範囲に対応し、緑色から黄色を介して赤色に向かって段階的に変化する色相に設定されている。これにより、ユーザは、鉄道レール100のどの位置に、どの程度の深さの欠陥部102が生じているのか、視覚的に明瞭に把握することができる。
【0042】
なお、
図8(c)には、余弦信号Xを等高線表示させた例を示したが、余弦信号Xに代えて、または余弦信号Xに加えて、正弦信号Y、振幅信号Rまたは位相差信号θの何れかを等高線表示させてもよい。また、
図8(c)の例においては、赤、青、緑等の色相を信号強度に対応付けたが、他の表示態様(例えば、明度、彩度)を信号強度に対応付けてもよい。
【0043】
ここで、実際に使用されている鉄道レールに生じる欠陥について説明しておく。鉄道車両の車輪が鉄道レールの踏面に接触しつつ転がると、鉄道レールには疲労が蓄積してゆき、やがて踏面に平行な方向すなわち水平方向に亀裂が生じるようになる。このような亀裂は「水平裂」と呼ばれている。水平裂が生じた鉄道レールに、さらに疲労が蓄積すると、水平裂が下方向に向かって成長してゆくことがある。このように、下方向に成長した亀裂は「横裂」と呼ばれている。横裂は進展性が高いため、これを見逃してしまうと、高い確率で鉄道レールが破断する。本実施形態によれば、欠陥の深さdに対応した検出信号を出力できるため、特に横裂の存在およびその深さを正確に検出できる点で有利である。
【0044】
〈第1実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態は、センサ部群(21)が鉄道レール(100)の敷設方向に移動する際、受信コイルの各々から出力される出力信号に対して、出力信号の第1の位相(0°)に対応する第1の検査信号(X)と、出力信号の第2の位相(90°)に対応する第2の検査信号(Y)と、を検出する複数の検波部(34−1〜34−N)を有する検波部群(34)を設けたので、鉄道レールの欠陥を正確に検出できる。
【0045】
また、本実施形態は、第1の検査信号(X)、第2の検査信号(Y)または第1の検査信号(X)と第2の検査信号(Y)に演算処理を施した結果(R,θ)を表示対象信号とし、複数のセンサ部(21−1〜21−N)に対応する表示対象信号(X,Y,R,θ)の強度分布を2次元画像(130)として出力する出力処理部(44)をさらに有する。ここで、2次元画像(130)は、表示対象信号(X,Y,R,θ)の強度に対応して表示態様(色相、明度、彩度等)を設定した等高線画像であり、鉄道レール(100)の敷設方向の位置および幅方向の位置を軸とする画像である。そして、表示対象信号(X,Y,R,θ)は、鉄道レール(100)に形成された欠陥部(102)の深さに応じた強度を有する信号であり、2次元画像(130)は、欠陥部(102)の深さを表示態様(色相、明度、彩度等)によって示す画像である。これらの特徴により、ユーザは、鉄道レールの欠陥をより的確に認識できるようになる。
【0046】
[第2実施形態]
〈第2実施形態の構成〉
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、
図1〜
図8の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
本実施形態の構成を説明する前に、上述した第1実施形態について再び検討する。
図4(a)において説明したように、鉄道レール100に亀裂等の欠陥が無い場合、磁束ΦA,ΦBのうち受信コイル6−kに鎖交する成分は相互に打ち消しあい、鎖交磁束は理想的には零になる。
【0047】
但し、発振コイル5A−k,5B−kの形状(内径、外径、コイル長等)に差があると、両者の発生する磁束ΦA,ΦBは受信コイル6−kにおいて打ち消されなくなり、発振信号と同一周波数の雑音信号が受信コイル6−kからは継続的に出力されるようになる。勿論、発振コイル5A−k,5B−kの加工精度を充分に高くすることにより、この雑音信号は実用上問題の無いレベルにまで低減することができる。但し、発振コイル5A−k,5B−kの加工精度を高くすることはコストアップにつながるため、加工精度の低い、安価なコイルを適用できればより好ましい。そこで、本実施形態は、雑音信号を電気的にキャンセルすることによって、発振コイル5A−k,5B−kに求められる加工精度を下げられるようにするものである。
【0048】
図9は、本発明の第2実施形態によるレール検査システム1aの全体構成を示すブロック図である。本実施形態のレール検査システム1aの外観構成は、第1実施形態のもの(
図1〜
図3参照)と同様である。また、検出装置2の構成も第1実施形態のもの(
図5参照)と同様である。但し、第1実施形態の処理装置3(
図5参照)に代えて、本実施形態においては、処理装置3aが適用される。なお、
図9においては評価装置4の内部は省略するが、評価装置4の構成も
図5のものと同様である。
【0049】
処理装置3aにおいては、各増幅・フィルタ部22−1〜22−Nに対応して修正信号発生部50−1〜50−Nと、減算部52−1〜52−Nとが設けられている。なお、修正信号発生部50−1〜50−Nを総称して修正信号発生部群50と呼び、減算部52−1〜52−Nを総称して減算部群52と呼ぶ。上述したように、各センサ部21−k(但し、1≦k≦N)が出力する誘起電圧には、発振周波数fの雑音信号が重畳し、この雑音信号は、増幅・フィルタ部22−kにおいて増幅される。修正信号発生部50−kは、この雑音信号をキャンセルするために、雑音信号にほぼ等しい振幅および位相を有する修正信号を発生しようとするものである。
【0050】
そして、減算部52−kは、増幅・フィルタ部22−kの出力信号から修正信号を減算することにより、雑音信号をキャンセルする。これにより、検波部34−1〜34−Nには、雑音信号をキャンセルした信号が供給されるようになる。上述した以外の処理装置3aの構成は、第1実施形態の処理装置3(
図5参照)と同様である。
【0051】
〈第2実施形態の動作〉
(メインルーチン)
次に、本実施形態の動作を説明する。
図10は、
図9に示した評価装置4(より詳細には、
図5に示すデータ処理部43)にて実行されるメインルーチンのフローチャートである。
図10において処理がステップS20に進むと、評価装置4は所定の初期設定を行う。次に、処理がステップS22に進むと、評価装置4は、メモリ部36との間で通信を開始させる。次に、処理がステップS24に進むと、評価装置4は、記憶部47から、装置設定データを読み取る。この装置設定データには、上述した修正信号の振幅および位相等のデータが含まれる。
【0052】
次に、処理がステップS26に進むと、評価装置4は、操作入力部45(
図5参照)を介して、ユーザから計測スタート指示が入力されたか否かが判定される。そして、該計測スタート指示が入力されるまで、ステップS26にて処理が待機する。計測スタート指示が入力されると、処理はステップS28に進み、ユーザが操作入力部45にて修正パラメータ計測操作を行ったか否かが判定される。なお、修正パラメータとは、修正信号発生部50−1〜50−Nが出力する各修正信号の振幅および位相を指定するパラメータである。
【0053】
ここで「No」と判定されると、処理はステップS32に進み、操作入力部45にてユーザがデータ収集操作を行なったか否かが判定される。ここで「No」と判定されると、処理はステップS36に進み、ユーザが計測停止操作を行なったか否かが判定される。ここで「No」と判定されると、処理はステップS40に進み、ユーザが通信停止操作を行なったか否かが判定される。ここで「No」と判定されると、処理はステップS28に戻る。以後、ステップS28,S32,S36,S40の何れかにおいて「Yes」と判定されるまで、これらのステップが繰り返される。
【0054】
ステップS28において「Yes」と判定されると、処理はステップS30に進む。ここでは、後述する修正パラメータ計測サブルーチン(
図11〜
図13)が実行され、各修正信号の振幅および位相が決定された後、処理はステップS28に戻る。また、ステップS32において「Yes」と判定されると、処理はステップS34に進む。ここでは、評価装置4は、データ収集処理を実行する。すなわち、検出装置2を介して、検査データを収集し、処理はステップS32に戻る。
【0055】
また、ステップS36において「Yes」と判定されると、処理はステップS38に進む。ここでは、評価装置4は、修正パラメータまたは検査データの計測をストップさせ、処理はステップS26に戻る。また、ステップS40において「Yes」と判定されると、処理はステップS42に進む。ここでは、評価装置4は、メモリ部36との間の通信を終了させ、本ルーチンの処理も終了する。
【0056】
(修正パラメータ計測サブルーチン)
図11〜
図13は、上述したステップS30にて実行される修正パラメータ計測サブルーチンのフローチャートである。
この処理を実行させる場合には、
図1に示す鉄道レール100として、欠陥が無い(新品に近い)ものを準備し、検出装置2に対向させておく。
図11〜
図13に示す修正パラメータ計測サブルーチンは、修正信号発生部50−1〜50−Nの各々に対して順次実行される。但し、
図11〜
図13においては、一つの修正信号発生部50−k(但し、1≦k≦N)に対する修正パラメータを計測する処理内容を示す。すなわち、
図11〜
図13に示す処理は、N回繰り返されることにより、修正信号発生部50−1〜50−Nの全てに対して、修正パラメータが計測される。
【0057】
図11において処理がステップS102に進むと、評価装置4は、所定サンプル数(複数)の測定データを取得する。ここで、「測定データ」とは、主として振幅信号Rを測定したデータである。より具体的には、評価装置4は、まず発振部33に対してデジタル発振信号を出力させる。次に、評価装置4は、計測対象である修正信号発生部50−kに対して、修正パラメータの初期値を設定する。ここで、修正パラメータとは、修正信号の振幅を指定する振幅指令値CAN_VOLT2と、修正信号の位相を指定する位相指令値CAN_PH1と、を含んでいる。すなわち、ステップS102においては、評価装置4は、所定の初期値である振幅指令値CAN_VOLT2および位相指令値CAN_PH1を、修正信号発生部50−kに供給する。これにより、修正信号発生部50−kは、設定された振幅および位相を有する修正信号を減算部52−kに供給する。
【0058】
発振部33がデジタル発振信号を出力すると、デジタルアナログ変換部32、増幅部31−kを介して、発振コイル5A−k,5B−kが磁束を発生し、受信コイル6−kには誘起電圧が発生する。増幅・フィルタ部22−kは、該誘起電圧を増幅・フィルタ処理し、減算部52−kに供給する。減算部52−kは、増幅・フィルタ部22−kの出力信号から修正信号を減算し、その結果を検波部34−kに供給する。そして、検波部34−kは、減算部52−kの出力信号に基づいて、振幅信号Rを計算する。これにより、振幅信号Rの1サンプルの測定データが得られる。
【0059】
但し、振幅信号Rの正確性を担保するため、ステップS102においては、同様の条件で複数サンプルの(より好ましくは、5サンプル以上の)振幅信号Rを測定する。なお、検波部34−kが振幅信号Rを計算することに代えて、検波部34−kが計測した余弦信号Xおよび正弦信号Yに基づいて、評価装置4が振幅信号Rを計算してもよい。
【0060】
図11において次に処理がステップS104に進むと、評価装置4は、取得した所定サンプル数の振幅信号Rの測定データの平均値を計算する。計算した平均値を平均振幅値R_p0とする。次に、処理がステップS106に進むと、平均振幅値R_p0が所定の平均振幅基準値R_pth未満であるか否かを判定する。なお、平均振幅基準値R_pthは、充分に低い値、例えば0.005Vである。ここで「Yes」と判定されると、本ルーチンの処理は終了する。これは、修正パラメータの初期値すなわち振幅指令値CAN_VOLT2および位相指令値CAN_PH1の初期値が共に充分に信頼できる値であり、欠陥の無い鉄道レール100に対して振幅信号Rが充分に低い値になっていることを意味する。従って、かかる場合は、初期値をそのまま修正パラメータとして適用することとし、本ルーチンの処理をする。
【0061】
一方、平均振幅値R_p0が平均振幅基準値R_pth以上であれば、ステップS106において「No」と判定され、処理はステップS108に進む。ここでは、振幅比較値CAN_VOLT1と称する所定の変数の値が振幅指令値CAN_VOLT2に代入される。なお、振幅比較値CAN_VOLT1は、この時点では、0よりも若干大きな所定値に設定されている。
【0062】
次に、処理がステップS110に進むと、上述したステップS102と同様に、振幅信号Rの測定データが取得される。その際、修正信号の位相は、ステップS102の場合と同様に所定の初期値であるが、修正信号の振幅は、先のステップS108で設定された振幅指令値CAN_VOLT2(=振幅比較値CAN_VOLT1)に設定される。次に、処理がステップS112に進むと、評価装置4は、取得した所定サンプル数の振幅信号Rの測定データに基づいて、これらの平均振幅値R_p1を計算する。次に、処理がステップS114に進むと、ステージ番号STに1が代入される。
【0063】
ここで、ステージ番号STの意義について説明する。本実施形態においては、修正信号発生部50−kが発生する修正信号の振幅および位相を徐々に変化させながら振幅信号Rを測定し、振幅信号Rの平均値がなるべく小さくなる振幅および位相を求め、その結果を修正パラメータに設定する。ここで、振幅を徐々に変動させる際の変動単位を「振幅増減値ΔV」と呼ぶ。また、位相を徐々に変動させる際の変動単位を「位相増減値ΔP」と呼ぶ。但し、振幅増減値ΔVおよび位相増減値ΔPは一定ではなく、最初は大きな値とし、段階的に小さな値に変更してゆくことによって、なるべく速やかに、正確な修正パラメータを求めようとしている。ステージ番号STは、振幅増減値ΔVおよび位相増減値ΔPを小さくしてゆく段階を1〜3の自然数で表すものである。
【0064】
次に、
図12において、処理がステップS120に進むと、評価装置4は、振幅増減値ΔVに対して、電圧変動単位初期値ΔVD[ST]を代入する。電圧変動単位初期値ΔVD[ST]は、ステージ番号STに応じて、例えば、電圧変動単位初期値ΔVD[1]=0.1V、電圧変動単位初期値ΔVD[2]=0.01V、電圧変動単位初期値ΔVD[3]=0.001Vに設定されている。ステップS120が最初に実行される際、ステージ番号STは1であるから、上記例では、振幅増減値ΔVは0.1Vに設定される。
【0065】
次に、処理がステップS122に進むと、評価装置4は、振幅比較値CAN_VOLT1と振幅増減値ΔVとの加算結果を振幅指令値CAN_VOLT2に代入する。次に、処理がステップS124に進むと、上述したステップS102,S110と同様に、振幅信号Rの測定データが取得される。この場合も、修正信号の位相は所定の初期値であるが、修正信号の振幅は、ステップS122で得られた振幅指令値CAN_VOLT2である。次に、処理がステップS126に進むと、評価装置4は、取得した所定サンプル数の振幅信号Rの測定データに基づいて、これらの平均振幅値R_p2を計算する。
【0066】
次に、処理がステップS128に進むと、評価装置4は、平均振幅値R_p1が平均振幅値R_p2よりも小さいか否を判定する。上述の例では、平均振幅値R_p1は、CAN_VOLT1を振幅指令値CAN_VOLT2に代入した場合の平均振幅値であった。また、平均振幅値R_p2は、「CAN_VOLT1+ΔV」を振幅指令値CAN_VOLT2に代入した場合の平均振幅値であった。仮に、前者が後者よりも小さいとすると、振幅増減値ΔVの符号(正負)は、平均振幅値を増加させる方向にあり、望ましくない符号であると考えらえる。そこで、かかる場合は、ステップS128において「Yes」と判定され、処理はステップS132に進む。ステップS132において、評価装置4は、振幅増減値ΔVの符号(正負)を反転させる。
【0067】
一方、ステップS128において「No」と判定されると、処理はステップS130に進み、評価装置4は、平均振幅値R_p2を平均振幅値R_p1に代入する。これは、過去に求めた平均振幅値のうち、最も好ましい(小さな)値を平均振幅値R_p1として保持するためである。ステップS130またはS132の処理が終了すると、処理はステップS134に進み、評価装置4は、振幅比較値CAN_VOLT1と振幅増減値ΔVとの加算結果を振幅指令値CAN_VOLT2に代入する。
【0068】
次に、処理がステップS136に進むと、上述したステップS102,S110等と同様に、振幅信号Rの測定データが取得される。次に、処理がステップS138に進むと、評価装置4は、取得した所定サンプル数の振幅信号Rの測定データに基づいて、これらの平均振幅値R_p2を計算する。次に、処理がステップS140に進むと、評価装置4は、平均振幅値R_p1が平均振幅値R_p2よりも小さいか否を判定する。
【0069】
ここで「No」と判定されると、処理はステップS142に進み、評価装置4は、振幅比較値CAN_VOLT1に振幅指令値CAN_VOLT2を代入するとともに、平均振幅値R_p1に平均振幅値R_p2を代入する。これにより、過去に求めた平均振幅値R_p2のうち、最も好ましい(小さな)値が平均振幅値R_p1として保持され、該平均振幅値R_p1を実現した振幅指令値CAN_VOLT2が振幅比較値CAN_VOLT1として保持される。そして、処理はステップS134に戻る。以後、平均振幅値R_p2が平均振幅値R_p1以下である限り、ステップS134〜S142のループが繰り返される。
【0070】
ここで、ステップS138で求めた平均振幅値R_p2が平均振幅値R_p1よりも大きければ、ステップS140において「Yes」と判定され、処理はステップS144に進む。ここでは、振幅指令値CAN_VOLT2に振幅比較値CAN_VOLT1が代入される。このステップS144が終了した時点では、現在の振幅増減値ΔV(例えば0.1V)単位で修正信号の振幅を変動させていった際、最も好ましい(振幅信号Rを小さくする)振幅が、振幅比較値CAN_VOLT1に代入されていることになる。
【0071】
次に、
図13において、処理がステップS220に進むと、評価装置4は、位相増減値ΔPに対して、位相変動単位初期値ΔPD[ST]を代入する。位相変動単位初期値ΔPD[ST]は、ステージ番号STに応じて、例えば、位相変動単位初期値ΔPD[1]=10°、位相変動単位初期値ΔPD[2]=1°、位相変動単位初期値ΔPD[3]=0.1°に設定されている。ステップS220が最初に実行される際、ステージ番号STは1であるから、上記例では、位相増減値ΔPは10°に設定される。
【0072】
次に、処理がステップS222に進むと、評価装置4は、位相比較値CAN_PH0と位相増減値ΔPとの加算結果を位相指令値CAN_PH1に代入する。なお、この時点で位相比較値CAN_PH0は、上述した修正パラメータの初期値のうち、位相の初期値である。次に、処理がステップS224に進むと、上述したステップS102(
図11参照)と同様に、振幅信号Rの測定データが取得される。次に、処理がステップS226に進むと、評価装置4は、取得した所定サンプル数の振幅信号Rの測定データに基づいて、これらの平均振幅値R_p2を計算する。
【0073】
次に、処理がステップS228に進むと、評価装置4は、平均振幅値R_p1が平均振幅値R_p2よりも小さいか否を判定する。ここで、平均振幅値R_p1には、ステップS128またはS142(
図12参照)が最後に実行された際、過去に計算された平均振幅値R_p2のうち最も好ましい(小さな)値が代入されている。ステップS228において「Yes」と判定されると、処理はステップS232に進み、評価装置4は、位相増減値ΔPの符号(正負)を反転させる。
【0074】
一方、ステップS228において「No」と判定されると、処理はステップS230に進み、評価装置4は、平均振幅値R_p2を平均振幅値R_p1に代入する。ステップS230またはS232の処理が終了すると、処理はステップS234に進み、評価装置4は、位相比較値CAN_PH0と位相増減値ΔPとの加算結果を位相指令値CAN_PH1に代入する。
【0075】
次に、処理がステップS236に進むと、上述したステップS224と同様に、振幅信号Rの測定データが取得される。次に、処理がステップS238に進むと、評価装置4は、取得した所定サンプル数の振幅信号Rの測定データに基づいて、これらの平均振幅値R_p2を計算する。次に、処理がステップS240に進むと、評価装置4は、平均振幅値R_p1が平均振幅値R_p2よりも小さいか否を判定する。
【0076】
ここで「No」と判定されると、処理はステップS242に進み、評価装置4は、位相比較値CAN_PH0に位相指令値CAN_PH1を代入するとともに、平均振幅値R_p1に平均振幅値R_p2を代入する。これにより、過去に求めた平均振幅値R_p2のうち、最も好ましい(小さな)値が平均振幅値R_p1として保持され、該平均振幅値R_p1を実現した位相指令値CAN_PH1が位相比較値CAN_PH0として保持される。そして、処理はステップS234に戻る。以後、平均振幅値R_p2が平均振幅値R_p1以下である限り、ステップS234〜S242のループが繰り返される。
【0077】
ここで、ステップS238で求めた平均振幅値R_p2が平均振幅値R_p1よりも大きければ、ステップS240において「Yes」と判定され、処理はステップS244に進む。ここでは、位相指令値CAN_PH1に位相比較値CAN_PH0が代入される。このステップS244が終了した時点では、現在の位相増減値ΔP(例えば10°)単位で修正信号の振幅を変動させていった際、最も好ましい(振幅信号Rを小さくする)位相が位相指令値CAN_PH1に代入されていることになる。
【0078】
次に、処理がステップS246に進むと、ステージ番号STは3であるか否かが判定される。ここで「No」と判定されると、処理はステップS248に進み、ステージ番号STが1だけインクリメントされる。例えば、従前のステージ番号STが1であれば、ここでステージ番号STには2が代入される。そして、処理は
図12のステップS120に戻る。
【0079】
ステージ番号STが2になると、ステップS120において振幅増減値ΔVには電圧変動単位初期値ΔVD[2]、例えば0.01Vが代入され、上述したステップS122〜S144の処理が実行される。次に、処理が
図13のステップS220に進むと、位相増減値ΔPには、位相変動単位初期値ΔPD[2]、例えば1°が代入され、上述したステップS222〜S244の処理が実行される。次に、ステップS246を介して処理がステップS248に進むと、ステージ番号STが再びインクリメントされ、例えば3になる。
【0080】
ステージ番号STが3になると、ステップS120において振幅増減値ΔVには電圧変動単位初期値ΔVD[3]、例えば0.001Vが代入され、上述したステップS122〜S144の処理が実行される。次に、処理が
図13のステップS220に進むと、位相増減値ΔPには、位相変動単位初期値ΔPD[3]、例えば0.1°が代入され、上述したステップS222〜S244の処理が実行される。
【0081】
以上の処理により、欠陥の無い鉄道レール100に対して、振幅信号Rを充分に小さくできる振幅指令値CAN_VOLT2および位相指令値CAN_PH1が求められた。次に、処理がステップS246に進むと、ステージ番号STは3であるから、「Yes」と判定される。これにより、修正パラメータ計測サブルーチン(
図11〜
図13)の処理は終了し、処理はメインルーチン(
図10)のステップS28に戻る。
【0082】
その後、ステップS34のデータ収集処理によって検査データを取得する際には、修正信号発生部50−1〜50−Nは、振幅指令値CAN_VOLT2および位相指令値CAN_PH1に基づいて、各々の修正信号を出力する。
【0083】
〈第2実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態は、発振信号と同一の周波数を有し、発振信号とは振幅および位相が異なる修正信号を複数の受信コイル(6−1〜6−N)にそれぞれ対応して出力する複数の修正信号発生部(50−1〜50−N)と、複数のセンサ部(21−1〜21−N)の出力信号から対応する修正信号を各々減算し、各々の減算結果を対応する検波部(34−1〜34−N)に供給する減算部(52−1〜52−N)と、をさらに有する。
これにより、発振コイル5A−k,5B−k(
図4参照)の加工精度が低い場合であっても、雑音信号を電気的にキャンセルすることができ、鉄道レール100の欠陥を精密に検出することができる。
【0084】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、以下の説明において、
図1〜
図13の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
図14は、本発明の第3実施形態によるレール検査システム1bの全体構成を示すブロック図である。本実施形態のレール検査システム1bの外観構成は、第1実施形態のもの(
図1〜
図3参照)と同様である。また、検出装置2の構成も第1実施形態のもの(
図5参照)と同様である。但し、第1実施形態の処理装置3(
図5参照)に代えて、本実施形態においては、処理装置3bが適用される。なお、
図14においては評価装置4の内部は省略するが、評価装置4の構成も
図5のものと同様である。
【0085】
本実施形態の処理装置3bは、第2実施形態の処理装置3a(
図9参照)と同様に、各増幅・フィルタ部22−1〜22−Nに対応して修正信号発生部50−1〜50−Nと、減算部52−1〜52−Nとが設けられている。但し、本実施形態においては、
図14に示すように、増幅・フィルタ部22−1〜22−Nに対応して、個別の発振部33−1〜33−Nを有している。これら発振部33−1〜33−Nは、相互に異なる発振周波数f1〜fN(所定周波数)のデジタル発振信号および参照信号を出力する。
【0086】
発振部33−k(但し、1≦k≦N)は、発振周波数fkのデジタル発振信号をデジタルアナログ変換部32および修正信号発生部50−kに供給するとともに、発振周波数fkの参照信号を検波部34−kに供給する。デジタルアナログ変換部32は、Nチャンネルのデジタル発振信号を各々アナログ信号に変換し、センサ部21−1〜21−Nに供給する。これにより、センサ部21−kの受信コイル6−kは、周波数fkの誘起電圧を発生し、この誘起電圧は増幅・フィルタ部22−kによって増幅およびフィルタ処理される。
【0087】
そして、修正信号発生部50−kは、発振周波数fkの修正信号を減算部52−kに供給し、減算部52−kは、増幅・フィルタ部22−kの出力信号から修正信号を減算することにより、雑音信号をキャンセルする。これにより、検波部34−1〜34−Nには、雑音信号をキャンセルした信号が供給されるようになる。上述した以外の処理装置3bの構成は、第1実施形態の処理装置3(
図5参照)と同様である。
【0088】
図3に示したように、検出装置2には複数のセンサ部21−1〜21−Nが配列されてセンサ部群21を構成しているが、第1,第2実施形態のようにこれらの発振コイル5A−1〜5A−N,5B−1〜5B−Nに同一周波数の磁束を発生させると、相互に干渉が生じる場合がある。これに対して、
図14の本実施形態によれば、各センサ部21−1〜21−Nに対して異なる発振周波数f1〜fNが適用されるため、センサ部21−1〜21−Nの相互の干渉を低減することができる。なお、鉄道レール100が軌道回路の一部を構成する場合には、全ての発振周波数fk(但し、1≦k≦N)を、軌道回路に用いられる周波数に対して±0.07fk以上離れた周波数の中から選択することが好ましい。
【0089】
以上のように本実施形態によれば、発振部(33−1〜33−N)は、複数のセンサ部(21−1〜21−N)に対して、周波数(f1〜fN)が各々異なる発振信号を出力する。これにより、センサ部(21−1〜21−N)相互間の干渉を低減することができる。
【0090】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について説明する。なお、以下の説明において、
図1〜
図14の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
上述した第1〜第3実施形態において、検測車両200(
図1参照)の走行速度を上げると、レール検査をより迅速に実行することができる。しかし、検測車両200の走行速度を上げると、検測車両200の振動も大きくなり、この振動が各信号X,Y,R,θに影響を及ぼすようになる。
【0091】
ここで、
図15を参照し、検測車両200の高速化に伴う影響を説明する。なお、
図15は、余弦信号Xの波形図の例である。
図15は、
図8(b)に示した余弦信号Xの波形の時間軸を縮小したものに相当し、
図15に示す時刻t1〜t3は、
図8(b)に示した時刻t1〜t3に対応する。
【0092】
図15において実線は、検測車両200の速度が比較的遅い場合の余弦信号Xの波形の例である。この場合、欠陥部102(
図8(a)参照)から離れた区間(時刻t1以前およびt3以降)において、余弦信号Xのレベルは、ほぼオフセット値BLに一致している。一方、二点鎖線は、検測車両200の速度が比較的速い場合の余弦信号Xの波形の例である。検測車両200の速度が速くなると、検測車両200が振動し、欠陥部から離れた区間においても余弦信号Xが変動する。このため、欠陥部102が現れる時刻t1〜t3における余弦信号Xの変動が、振動による変動と区別し難くなる場合がある。
【0093】
以上、余弦信号Xの例について述べたが、検測車両200の振動によって、他の信号Y,R,θも同様に変動する。本実施形態は、検測車両200の振動による影響を補償し、検測車両200をより高速度で運用可能にするものである。
ここで、欠陥部102から離れた区間(時刻t1以前およびt3以降)において、信号Y,R,θの波形は、余弦信号Xの波形と同様になる。一方、
図8(b)にて説明したように、欠陥部102(時刻t1〜t3)における振幅信号R、位相差信号θの波形は余弦信号Xのものとは明らかに相違する。なお、正弦信号Yの波形形状(図示せず)は余弦信号Xと同様になる。
【0094】
そこで、例えば、振幅信号Rと余弦信号Xとの差分である差分信号R−Xを求めると、この差分信号R−Xは、欠陥部102から離れた時刻t1以前およびt3以降においてほぼ0になる。一方、欠陥部102に対応する時刻t1〜t3においては、
図8(b)に示したように、余弦信号Xの波形と振幅信号Rの波形とは明らかに異なるため、両者の差分信号R−Xは有意な振幅が生じる信号になると考えられる。従って、差分信号R−Xによって欠陥部102の有無を判別すると、検測車両200の振動による影響を軽減できる。
【0095】
次に、本実施形態の構成を説明する。本実施形態の全体構成は第3実施形態のもの(
図14参照)と同様であるが、
図16に示す箇所の構成が異なっている。なお、
図16は、本実施形態におけるレール検査システム1の要部の回路図である。
図16において、検波部34−k(但し、1≦k≦N)は、第1〜第3実施形態のもの(
図6参照)と同様である。本実施形態においては、各検波部34−kの後段に、ゲイン調整部90,92と、差動増幅器94とが追加される。
【0096】
ゲイン調整部90,92は、欠陥の無い区間における余弦信号Xおよび振幅信号Rのレベルがほぼ等しくなるように、これらのゲインを設定しておくとよい。そして、差動増幅器94は、ゲイン調整された振幅信号Rおよび余弦信号Xの差分である差分信号R−Xを出力する。そして、アナログデジタル変換部35は、各信号X,Y,R,θに加えて、差分信号R−Xをデジタル信号に変換し、メモリ部36を介して評価装置4に供給する。そして、評価装置4は、差分信号R−Xに基づいて、鉄道レール100の欠陥部102を検出する。上述した以外の本実施形態の構成および動作は、第3実施形態のものと同様である。
【0097】
以上のように、本実施形態によれば、差分信号R−Xに基づいて鉄道レール100の欠陥部102を検出するため、検測車両200が高速走行した場合においても、検測車両200の振動による影響を軽減することができる。
【0098】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、若しくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0099】
(1)上記各実施形態における評価装置4のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、
図7,
図10〜
図13に示したフローチャートに係るプログラム等を記憶媒体に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0100】
(2)
図7,
図10〜
図13等に示した処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(field-programmable gate array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0101】
(3)上記各実施形態において、検出装置2および処理装置3は検測車両200(
図1参照)に装着されるものであったが、これらを手押し式の台車(図示せず)等に装着し、ユーザが持ち運べるようにしてもよい。
【0102】
(4)また、上記各実施形態において、検波部34−k(但し、1≦k≦N)は、余弦信号X、正弦信号Y、振幅信号Rおよび位相差信号θを出力したが、これらの信号を時間微分した値を、各信号X,Y,R,θとともに(または各信号X,Y,R,θに代えて)出力してもよい。また、2次元画像130(
図8(c)参照)に、これら時間微分した値を表示してもよい。
【0103】
(5)上記第4実施形態では、振幅信号Rおよび余弦信号Xの差分を求めたが、「信号X,Yのうち何れか一方」と、「信号R,θのうち何れか一方」との差分を求めても、振動による影響を軽減しつつ、同様に欠陥部102を検出できる。例えば、
図17に示すように、ゲイン調整部92に対して位相差信号θを供給し、余弦信号Xと位相差信号θとの差分である差分信号θ−Xを差動増幅器94から出力させてもよい。