(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶成長工程の全ての結晶成長過程において、前記鋭角をオフセット角より2°小さい角度以上8.6°以下とする、請求項1に記載のSiCインゴットの製造方法。
前記結晶成長工程の前記後半成長工程において、オフセット下流側の結晶成長とオフセット上流側の結晶成長とが、結晶成長面の中心を通り前記切断面に直交する面に対して対称である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のSiCインゴットの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SiCウェハのキラー欠陥の一つとして、基底面転位(BPD)がある。基底面転位は、{0001}面に沿って発生する欠陥である。オフセット角を有するSiCウェハにおいては、多数のBPDが列状に配列して存在することがある。
【0009】
基底面転位の発生要因は様々であるが、列状に存在する基底面転位の集合は、SiCインゴットの成長過程で生じた歪を緩和する際に基底面において生じるすべりが発生の原因の一つであると考えられている。この列状に存在する基底面転位群を、以下「スリップバンド」と表現する。スリップバンドが発生したSiCウェハは、デバイス不良を引き起こす要因を内在するため、次工程に用いることができない。
【0010】
しかしながら、応力の発生を抑制してSiC単結晶を成長させる特許文献1及び2に記載の方法を用いても、基底面転位の発生は十分に抑制することができなかった。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、スリップバンドの発生を抑制し、ひいては基底面転位の発生を低減できるSiCインゴットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、結晶成長過程を所定の条件に従って行うことで、スリップバンドの発生を抑制し、ひいては基底面転位の発生を低減できるSiCインゴットの製造方法を得ることができることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0013】
(1)第1の態様にかかるSiCインゴットの製造方法は、{0001}面に対しオフセット角を有する主面上に結晶を成長させる結晶成長工程を有し、少なくとも前記結晶成長工程の前記結晶が前記主面から7mm以上成長した後の後半成長工程において、オフセット方向に沿って切断した切断面に対し垂直で、かつ、結晶成長面の中心と結晶成長面のオフセット下流端部のいずれも通る傾斜面と、前記{0001}面とのなす鋭角を、オフセット角より2°小さい角度以上8.6°以下とする。オフセット角は0°よりも大きい。
【0014】
(2)上記態様にかかるSiCインゴットの製造方法における前記結晶成長工程の全ての結晶成長過程において、前記鋭角をオフセット角より2°小さい角度以上8.6°以下としてもよい。
【0015】
(3)上記態様にかかるSiCインゴットの製造方法において、前記オフセット角が4°以下であってもよい。
【0016】
(4)上記態様にかかるSiCインゴットの製造方法において、前記結晶成長工程の前記後半成長工程において、前記鋭角の角度変化を3°以内にしてもよい。
【0017】
(5)上記態様にかかるSiCインゴットの製造方法における前記結晶成長工程の前記後半成長工程において、オフセット下流側の結晶成長とオフセット上流側の結晶成長とが、結晶成長面の中心を通り前記切断面に直交する面に対して対称であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様に係るSiCインゴットの製造方法によれば、スリップバンドの発生を抑制し、低BPDのウェハを作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
「スリップバンド」
まずスリップバンドについて説明する。
図1と
図2は、KOHでエッチングした後のSiCウェハのSi面である。
図1はオフセット下流側のSiCウェハの一部を平面視した図である。
図1のSiCウェハは<11−20>方向にオフセットさせている。
図1において、左側はオフセット上流側であり、右側はオフセット下流側である。
図1に示すように、スリップバンドLは、SiCウェハを平面視した際に、巨視的にオフセット方向と交差する方向に沿って延在するライン状に見える基底面転位の集合である。SiCウェハのオフセット上流側にはスリップバンドは見られない。スリップバンドLは、SiCウェハのオフセット下流側に発生しやすい。
【0022】
本明細書において、「オフセット上流」とは、{0001}面の法線ベクトルを基礎となる単結晶(種結晶)の主面上に投影したベクトルの先端が向いている向きをいい、「オフセット下流」はオフセット上流と反対向きをいう。また「オフセット方向」は、{0001}面の法線ベクトルを基礎となる単結晶(種結晶)の主面上に投影したベクトルに平行な方向をいう。
図1において、オフセット下流は<11−20>方向であり、オフセット上流はその反対側である。
【0023】
図2は、
図1におけるスリップバンドL近傍を拡大した図である。
図2に示すように、スリップバンドLは、微小な欠陥Dが複数集まることで、ライン状に見えている。欠陥Dは、{0001}面に沿って存在する基底面転位(BPD)である。KOHエッチングで基底面転位はピット状になるので、スリップバンドはエッチピットの密集部が線状に延伸した形として見える。このようにスリップバンドは基底面転位が線状に密集する形をとるため形状で判定でき、孤立した基底面転位とは識別できる。
【0024】
図1及び
図2に示すように、スリップバンドLはSiCウェハの広い範囲において発生する。そのためスリップバンドLは、SiCウェハにとってのキラー欠陥である。
【0025】
「SiCインゴットの製造方法」
本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法について説明する。本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法を用いると、上述のスリップバンドLの発生を抑制し、低BPDのSiCウェハを作製することができる。
【0026】
本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法は、{0001}面に対しオフセット角を有する主面上に結晶を成長させる結晶成長工程を有する。
【0027】
SiCインゴットの製造方法の一つとして、昇華法が知られている。昇華法は、原料を加熱することによって生じた原料ガスを単結晶(種結晶)上で再結晶化し、大きな単結晶を得る方法である。
【0028】
図3は、昇華法に用いられる製造装置の一例の模式図である。製造装置100は、坩堝10とコイル20とを有する。坩堝10とコイル20との間には、コイル20の誘導加熱により発熱する発熱体(図視略)を有してもよい。
【0029】
坩堝10は、原料Gと対向する位置に設けられた結晶設置部11を有する。坩堝10は、内部に結晶設置部11から原料Gに向けて拡径するテーパーガイド12を有してもよい。
図3では、理解を容易にするために、原料G、種結晶1及び種結晶から成長したSiCインゴット2を同時に図示している。
【0030】
コイル20に交流電流を印加すると、坩堝10が加熱され、原料Gから原料ガスが生じる。発生した原料ガスは、テーパーガイド12に沿って結晶設置部11に設置された種結晶1に供給される。種結晶1に原料ガスが供給されることで、種結晶1の主面にSiCインゴット2が結晶成長する。
【0031】
そのため、本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法では、種結晶1の主面を{0001}面に対しオフセット角を有する面とし、この主面を原料G側に向けて結晶設置部11に設置する。ここで、「オフセット角」とは、主面の法線ベクトルと、{0001}面の法線ベクトルとのなす角をいう。
【0032】
オフセット角を有する主面上において、SiC単結晶はステップフロー成長する。ステップフロー成長では、a面方向に結晶が成長しながら、全体としてc面方向に成長する。そのためステップフロー成長を用いることで、オフセット上流側で発生した欠陥や転位を、オフセット下流側に流出できる。すなわち、結晶成長過程で発生した欠陥及び結晶転位を外部に流出し、高品質なSiCインゴットがえられる。
【0033】
オフセット角は0°よりも大きい。オフセット角が0°よりも大きいのでオフセット下流側が定義できる。さらに主面の{0001}面に対するオフセット角は、2°以上8°以下であることが好ましく、2°以上4°以下であることがより好ましい。
【0034】
主面の{0001}面に対するオフセット角が小さい方が、スリップバンドLは発生しにくい傾向にある。オフセット角が大きすぎると、温度勾配によりc面が滑る方向({0001}面に平行な方向)に応力がかかり、基底面転位が発生しやすくなるためと考えられる。
【0035】
またデバイス等を作製する際に用いるSiCウェハのオフセット角(通常、4°以下)との差が大きくなると、SiCインゴットからSiCウェハを斜めに切り出す必要がある。すなわち、得られるSiCウェハの取れ数が少なくなる。
【0036】
上述のように、坩堝10内に種結晶1を設置し、SiCインゴット2を結晶成長させる。次いで、結晶成長過程の条件について説明する。
【0037】
図4は、SiCインゴットのオフセット下流側の結晶成長過程の様子を示した図である。
図4に示された面は、オフセット方向に沿って切断した切断面で、結晶成長面の中心を含む断面である。
図4に示すようにSiCインゴット2は、c面成長領域2Aと側面成長領域2Bとを有する。
【0038】
c面成長領域2Aは、{0001}面と垂直な<0001>方向に結晶成長した領域である。これに対し、側面成長領域2Bは、成長過程のSiCインゴットの側面側から原料ガスが供給され、<0001>方向と異なる方向に結晶成長した領域である。c面成長領域2Aと側面成長領域2Bとは結晶成長方向が異なるため、c面成長領域2Aと側面成長領域2Bの間には境界Bが存在する。
【0039】
側面成長領域2Bは、SiCインゴットの側面に原料ガスが回り込むことで結晶成長する。すなわち、結晶成長の過程を制御することは難しい。これに対し、c面成長領域2Aは、坩堝10内に生じる等温線に沿って成長する為、制御可能である。すなわち、本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法では、c面成長領域2Aの成長状態を制御する。
【0040】
本実施形態にかかるSiCインゴットの成長方法では、所定の傾斜面Sと、{0001}面とのなす鋭角θが、オフセット角より2°小さい角度以上8.6°以下となるように、結晶成長を行う。所定の傾斜面Sは、オフセット方向に沿って切断した切断面に対し垂直で、かつ、結晶成長面2aの中心Cとオフセット下流端部E
lowを結ぶ面である。またオフセット角より2°小さい角度とは、オフセット角の数値の絶対値から2°引いた数値を意味する。
【0041】
ここで「結晶成長面2a」は、結晶成長過程で露出するc面成長領域2Aの外表面を意味する。また「結晶成長面の中心C」は、結晶成長過程においてSiCインゴットを平面視した際の中央を意味する。この点は、種結晶1の主面1aを平面視した際の中央を通り、主面1aに垂直な線と結晶成長面2aの交点に対応する。
【0042】
また「オフセット下流端部E
low」は、結晶成長面2aの最もオフセット下流側に位置する端部であり、オフセット方向に沿った切断面と結晶成長面2aとが交わる点である。すなわち、側面成長領域2Bが存在する場合は、オフセット方向に沿った切断面と、c面成長領域2Aと側面成長領域2Bの間の境界Bが交わる点である。
【0043】
所定の傾斜面Sと、{0001}面とのなす鋭角θが、オフセット角より2°小さい角度以上8.6°以下となるように結晶成長を行うと、スリップバンドLの発生が抑制される。
【0044】
スリップバンドLの発生を抑制するためには鋭角の上限を8.6°以下にすることが特に重要である。下限値は結晶成長面2aの形状が大きくに凹になることは好ましくないため、当該値として定められる。ただし、成長面の一部が弱い凹状になることは許容されるので、下限値はオフセット角から2度引いた角度が好ましい。さらに、成長面形状は全体的に微凸状であることがより好ましいので、下限値はオフセット角マイナス1度以上であることがより好ましく、オフセット角以上であることがさらに好ましい。
【0045】
スリップバンドLの発生が抑制される原因は明確にはなっていない。しかしながら、SiCインゴット2の結晶成長面2aの形状が、スリップバンドLの発生の抑制に寄与しているのではないかと考えられる。
【0046】
所定の傾斜面Sと、{0001}面とのなす鋭角θが、大きくなるとSiCインゴットの形状が凸状になる。SiCインゴット2は、2000℃を超える高温中で成長する。そのため、坩堝内から取り出すために冷却する時や、成長過程においてSiCインゴット2に温度変化が生じる場合がある。SiCインゴットの厚みが場所によって異なると、熱容量の違いによって生じる温度差に伴い、SiCインゴット2内に応力が生じる。
【0047】
SiCインゴット2内に生じた応力を緩和する際に、結晶が{0001}面に沿ってすべることがある。基底面転位は、{0001}面におけるすべりが原因の一つであり、基底面転位の集合体がスリップバンドLである。つまり、SiCインゴット2内に応力が生じないように結晶成長を行うことで、スリップバンドLの発生が抑制されていると考えられる。
【0048】
一方で、応力の緩和(結晶成長面2aの形状)のみを考慮すると、スリップバンドLは、結晶成長面の中心Cを基準にオフセット上流側と下流側で対称に発生してもよいように思われる。しかしながら、スリップバンドLはオフセット下流側に発生しやすいという特徴を有する。
【0049】
スリップバンドLの発生個所に異方性があるということは、結晶成長面2aの凸形状の度合いのみからは説明がつかない。この点は十分に解明されていないが、応力が加わる方向と{0001}面との関係性が、影響を及ぼしているのではないかと考えられる。
【0050】
成長中の温度差は、結晶成長面2aの法線方向に最も大きく生じ、応力発生の要因となる。この種の応力が加わる方向と{0001}面が平行に近いと、結晶が{0001}面に沿ってずれてスリップバンドLが発生しやすくなるのではないかと考えられる。オフセット上流側とオフセット下流側を比較すると、オフセット下流側の方が、応力が加わる方向と{0001}面が平行に近くなりやすい。
【0051】
このような観点から、結晶成長面2aによって規定される所定の傾斜面Sと{0001}面とのなす鋭角θが、スリップバンドLの発生の有無に寄与していると考えられる。後述する実施例で詳細を説明するが、所定の傾斜面Sと、{0001}面とのなす鋭角θが、オフセット角より2°小さい角度以上8.6°以下にすると、スリップバンドLの発生は大幅に抑制されることが確認されている。
【0052】
所定の傾斜面Sと{0001}面とのなす鋭角θが所定の関係は、結晶が主面1aから7mm以上成長した後の後半成長工程において少なくとも満たしていればよい。ここで、結晶成長量は、結晶成長面の中心Cにおける厚みとして求める。
【0053】
SiCインゴット内に生じる応力は、SiCインゴットの厚みが厚くなる程、大きくなる。そのため、SiCインゴットの厚みが十分薄い領域では、所定の関係を満たさなくてもスリップバンドLは発生しにくい。
【0054】
一方で、成長初期においても所定の関係を満たしておいた方が、SiCインゴット内に応力は生じにくく、スリップバンドLの発生は抑制される。すなわち、結晶成長工程の全ての結晶成長過程において、所定の傾斜面Sと{0001}面とのなす鋭角θは、オフセット角より2°小さい角度以上8.6°以下とすることが好ましい。
【0055】
また結晶成長過程において、結晶成長面2aの形状は一定にしておくことが好ましい。結晶成長面2aの形状が一定であれば、結晶成長過程で歪が生じにくい。すなわち、SiCインゴット2内に応力が発生しにくい。
【0056】
結晶成長面2aの形状を一定にするためには、結晶成長工程の結晶成長過程において、所定の傾斜面Sと{0001}面とのなす鋭角θの角度変化量を3°以内とすることが好ましい。当該関係を満たせば、成長過程においてSiCインゴット2は相似形で大きくなっていると言える。
【0057】
またここまで、オフセット下流における結晶成長面2aと{0001}面の関係について規定した。これは上述のように、スリップバンドLはオフセット下流側に発生しやすいためである。
【0058】
一方で、応力緩和の観点からは、結晶成長過程におけるSiCインゴット2の形状は、オフセット下流側とオフセット上流側と対称であることが好ましい。すなわち、オフセット下流側の結晶成長とオフセット上流側の結晶成長とは、結晶成長面の中心を通りオフセット方向と直交する面に対して対称にすることが好ましい。
【0059】
上述の条件で作製された後、SiCインゴットの成長を停止する。製造装置100は2000℃を超える高温中で成長したSiCインゴット2を坩堝10内から取り出すため冷却される。冷却は、自然冷却、外力を加えた強制冷却のいずれも含む。
【0060】
ここまで、SiCインゴットを製造する過程における好ましい条件について説明した。次いで、この条件を満たすための方法について説明する。
【0061】
結晶成長は、結晶成長時の温度の影響を大きく受ける。そのため、結晶成長面2aにより規定される所定の傾斜面Sと{0001}面とのなす鋭角θが所定の関係を満たすように等温面を設定する。
【0062】
結晶成長時の温度分布を結晶成長面に対して制御する方法として、特開2008−290885号公報に開示されている方法を用いることができる。具体的には、種結晶が配置された箇所の側面に対向するヒーターと、原料が配置された箇所の側面に対向するヒーターの上下の2つのヒーターを有し、その上下のヒーター間に断熱部材からなる仕切壁部を設けた構成の昇華法結晶成長装置を用いることができる。仕切壁部がルツボの上方に下側のヒーターからの熱が伝わることを防止し、種結晶の表面に対する等温面を制御できる。
【0063】
昇華法で結晶成長する際、窒素(N)ドープ量を周期的に変化させながら成長させると、窒素(N)濃度の違いにより成長面が縞模様となる。それを縦断面方向にスライスし、色変化している界面から、それぞれの時刻の成長面の形状を求めることができる。成長面が成長中に変化している場合は、次のような方法で調整して、成長面の形状を維持できる。
【0064】
結晶成長時の等温面を維持することは、さらに他の技術を組み合わせることにより実現することができる。具体的には、上述の方法で事前に求めた成長面形状の変化を補正する様に成長中にルツボを移動し、その等温面と成長面高さを一致させる技術を組み合わせる。
【0065】
まず、高温領域と低温領域の間に断熱材からなる仕切壁部を設け、成長開始時に種結晶の{0001}面と、等温面により規定される傾斜面とが所定の関係を満たす温度分布にする。そして、各時間における成長面高さを事前に確認した同条件の成長の結果から類推する。
【0066】
また、成長中の結晶近傍の温度勾配が大きいと結晶内の応力が大きくなる。結晶近傍の温度勾配としては、成長方向(成長軸方向)の温度勾配と、径方向の温度勾配とがある。径方向の温度勾配は、上述の様に、仕切壁部と上下ヒーターとを有する装置を使用して等温面を種結晶の表面に対して平行にすることにより小さくできる。成長軸方向の温度勾配は、種結晶と原料の温度差を小さくすることにより小さくできる。
【0067】
温度勾配が小さすぎると成長が不安定になってしまうため、温度勾配は50Kcm
−1程度か好ましい。成長軸方向の温度勾配と径方向の温度勾配の双方を安定成長できる範囲で小さな値で制御することにより、応力の発生を抑制できる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0069】
(検討例1)
まず結晶成長の核となる種結晶を準備した。種結晶は、ポリタイプが4H、オフセット角が4°、直径4インチのものを用いた。
【0070】
次いで、
図3に示すような坩堝内に単結晶を設置し、結晶成長を行った。結晶成長は、一定時間ごとにドープさせる窒素量を変化させて行った。結晶成長時の等温面は、各時間で制御した。結晶成長時の等温面の形状は、実施例毎に変化させた。すなわち、結晶成長面の形状が実施例毎で変化するように作製した。
【0071】
作製したSiCインゴットは、結晶成長面の中心を通り、<11−20>方向に沿う切断面で切断した。切断した断面を撮影し、結晶成長面の形状を確認した。断面では、ドープさせた窒素濃度の違いに起因した縞模様が確認された。この縞模様の界面が、結晶成長過程における結晶成長面に対応する。
【0072】
そこで、一定時間ごとにドープさせる窒素量を変えた結晶成長面の凸面度と、所定の面Sと{0001}面のなす鋭角θの推移を測定した。凸面度は、成長させたSiC単結晶の底面の長径をDとし、その底面と頂点とを結ぶ垂線の長さをHとした際に、(H/D)で求めた。その最大値及び最小値の結果を表1に示す。
【0073】
なお、凸面度及び鋭角θの測定は、結晶成長量が7mmを超えた領域で測定した。結晶成長初期においては、種結晶の端部が昇華しているため、評価の対象としなかった。
【0074】
また作製したSiCインゴットを、種結晶の主面と平行に切断し、スリップバンドの発生の有無を確認した。切断面は、研磨した後、KOHエッチングを行い、BPDのピット列の集合が確認されるかどうかで判断した。スリップバンドの有無を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例1〜6に示すように、鋭角θを8.6°以下とすることで、スリップバンドの発生を抑制することができた。
【0077】
(検討例2)
次いで、最初に準備する単結晶を変えて、検討例1と同様の検討を行った。
検討例2では、ポリタイプが4H、オフセット角が4°、直径6インチの単結晶と、ポリタイプが4H、オフセット角が8°、6インチの単結晶と、を準備した。
【0078】
【表2】
【0079】
上記のように、単結晶の直径が変わっても同様の結果が得られた。またオフセット角が8°のものでも、鋭角θが8.6°を超えるとスリップバンドが発生した。