(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記共晶部の表面または断面に対して直行する2本の直線を引いた場合に、前記2本の直線のうち一方の直線上における前記界面の数と、前記2本の直線のうち他方の直線上における前記界面の数との平均値が、2.0個/μm以上である請求項1に記載の鋳造材。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の鋳造材について説明する。
本発明の鋳造材は、NiおよびBを主体とする固相と、NiおよびSiを主体とする固相との共晶部を含有するNi−B−Si3元系の鋳造材であって、前記共晶部の表面または断面に対して直線を引いた場合に、前記直線上における、前記NiおよびBを主体とする固相と、NiおよびSiを主体とする固相とから形成される界面の数の平均値が、2.0個/μm以上であることを特徴とする。なお、界面の数の平均値としては、共晶部の表面または断面に対して直線を1本のみ引いた場合には、該直線上における単位長さ1μmあたりの界面の数を示し、共晶部の表面または断面に対して複数の直線を引いた場合には、各直線について求めた単位長さ1μmあたりの界面の数を、平均した値を示すものである。
【0017】
本発明の鋳造材は、Ni、SiおよびBを含有する合金を含み、特に、NiおよびBを主体とする固相と、NiおよびSiを主体とする固相との共晶部を含有するものである。なお、NiおよびBを主体とする固相は、Ni
3Bを主体とし、該固相の一部または該固相の全体に、Ni固溶体(Niと、BおよびSiのうち少なくとも1つの元素との固溶体)を含んでもよいものを示す。また、NiおよびSiを主体とする固相は、Ni
3Siを主体とし、該固相の一部または該固相の全体に、Ni固溶体(Niと、BおよびSiのうち少なくとも1つの元素との固溶体)を含んでもよいものを示す。NiおよびBを主体とする固相、およびNiおよびSiを主体とする固相の組成については、鋳造材に対してX線回折測定を行うことによって、測定することができる。本発明の鋳造材は、このような共晶部を含有することにより、鋳造材の硬度および抗折力を著しく向上させることができ、しかも、Fe基合金を主成分とする鋳造材等と比較して、得られる鋳造材の耐食性が向上する。
【0018】
なお、本発明の鋳造材は、後述するように、たとえば、鋳造材を構成することとなる原料粉末等を溶解させて原料溶解物を得た後、原料溶解物を所定の条件で冷却することにより得ることができる。さらに、得られた鋳造材に対して、必要に応じて熱処理を施してもよい。
【0019】
本発明の鋳造材は、このような共晶部の表面または断面に対して直線を引いた場合に、該直線上における、NiおよびBを主体とする固相(以下、「NiB相」と称することがある。)と、NiおよびSiを主体とする固相(以下、「NiSi相」と称することがある。)とから形成される界面の数の平均値が、2.0個/μm以上、好ましくは2.5個/μm以上、より好ましくは3.0個/μm以上である。上述した界面の数の平均値を上記範囲とすることにより、共晶部を構成する結晶の結晶粒子径の微細化という作用により、得られる鋳造材の抗折力を著しく向上させることができる。なお、上述した界面の数の平均値の上限は、特に限定されないが、好ましくは6.0個/μm以下、より好ましくは5.0個/μm以下である。
【0020】
なお、本発明における、共晶部における上記界面の数の平均値を測定する具体的な方法について、
図1,2を参照して説明する。
図1は、後述する実施例の鋳造材の断面について、フィールドエミッションオージェマイクロプローブ(Auger)を用いてArエッチング後に撮影した二次電子像を示す写真である。
図1には、鋳造材の断面を、2か所(視野1および視野2)において、3,000倍および10,000倍のそれぞれの倍率で撮影した結果を示す。また、
図2は、
図1に示す視野1の高倍率(10,000倍)の写真の一部を拡大した図である。
【0021】
本発明においては、
図2に示すように、二次電子像上に直線を引き、その直線上における、NiおよびBを主体とする固相(NiB相)と、NiおよびSiを主体とする固相(NiSi相)との界面の数の平均値を測定する。たとえば、
図2においては、比較的白い部分(凸部に見える部分)がNiB相、比較的黒い部分(凹部に見える部分)がNiSi相である。なお、二次電子像におけるNiB相およびNiSi相の特定は、鋳造材をオージェ電子分光法(AES)により測定することにより、鋳造材中の元素を同定し、その結果に基づいて行うことができる。
図2においては、たとえば、直線y1上の界面の数が32個であり、直線x1上の界面の数が23個である。また、その他の直線上の界面の数についても、それぞれ
図2に示した。
図2の二次電子像は、スケールが縦10μm、横10μmである。そのため、直線y1上には長さ10μm中に32個の界面(単位長さ1μmあたりの界面の数は3.2個/μm)が、直線x1上には長さ10μm中に23個の界面(単位長さ1μmあたりの界面の数は2.3個/μm)が、それぞれ存在することとなる。そして、直線y1および直線x1には、合計で長さ20μm中に55個の界面が存在することとなるため、この2本の直線に基づく、単位長さ1μmあたりの界面の数の平均値は、2.75個/μmとなる。
【0022】
本発明においては、共晶部における界面の数の平均値は、鋳造材の表面または断面に対して、少なくとも1本の直線上の界面の数の平均値を算出することで求めることができるが、鋳造材の表面または断面に対して、複数の直線(たとえば5本の直線)を引き、各直線上の単位長さ1μmあたりの界面の数の平均値を算出することで求めることが好ましい。この際には、
図2の直線y1および直線x1のように、直行する2本の直線を引き、このような直行する2本の直線のうち一方の直線上における界面の数と、2本の直線のうち他方の直線上における界面の数とに基づいて、単位長さ1μmあたりの界面の数の平均値を求めるようにすることが特に好ましい。これにより、共晶部においてNiB相およびNiSi相がそれぞれ偏在しているような場合においても、より正確に界面の数の平均値を求めることができる。なお、このように直行する直線に基づいて界面の数の平均値を求める際においても、
図2に示すように、一方向の直線(たとえば直線y1方向の直線)、および他方向の直線(たとえば直線x1方向の直線)を、それぞれ複数本数引いて(たとえば5本ずつ引いて)、これらの複数の直線上の界面の数に基づいて、単位長さ1μmあたりの界面の数の平均値を算出することが好ましい。
【0023】
なお、従来、原料粉末を金型に投入して、加熱炉で加熱することにより鋳造材を得る方法が知られているが、このような方法では、得られる鋳造材について、鋳造材の抗折力が不十分になってしまうという問題があった。
【0024】
これに対し、本発明者等は、このような従来の鋳造材は、加熱炉で加熱した後、金型内で鋳造材がゆっくりと冷却されることとなるため、これにより、鋳造材中の結晶の粒径が大きくなりすぎたり、内部においてデンドライド組織が成長してしまったりしてしまい、これらに起因して、鋳造材の抗折力が低下してしまうとの知見を得て、このような知見に基づいて、鋳造材中の共晶部における結晶の状態を上述したように制御することにより、鋳造材の抗折力を著しく向上させることができることを見出したものである。
【0025】
本発明においては、共晶部における界面の数の平均値を、上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、たとえば、後述するように、鋳造材を構成することとなる原料粉末等を溶解させて原料溶解物を得た後、原料溶解物を所定の条件で冷却する方法が挙げられる。
【0026】
なお、本発明の鋳造材には、硼化物を主体とする硬質相粒子が含まれていてもよい。鋳造材に硬質相粒子を含有させる場合には、硬質相粒子は、上述した共晶部を含むNi基合金のマトリックス中に分散された状態で存在することとなる。
【0027】
硬質相粒子を構成する硼化物としては、特に限定されないが、MB型、MB
2型、M
2B型、M
2B
5型、M
2M’B
2型の硼化物(MおよびM’は、それぞれNi,Co,Cr,Mo,Mn,Cu,W,FeおよびSiのうち少なくとも1種の金属を表し、M’はMとは異なる金属原子を表す。)が挙げられ、その具体例としては、CrB、MoB、Cr
2B、Mo
2B、Mo
2B
5、Mo
2FeB
2、Mo
2CrB
2、Mo
2NiB
2、Mo
2(Ni,Cr)B
2で表される複硼化物などが挙げられる。
【0028】
<鋳造材の組成>
本発明の鋳造材の組成は、特に限定されないが、C:0.01〜0.06重量%、B:1〜6重量%、Si:3〜10重量%、Fe:0.05〜1.5重量%、Ni:残部であることが好ましい。
【0029】
B(ホウ素)は、上述した共晶部中のNiB相を構成することができる元素であり、Bの含有割合を上記範囲とすることにより、鋳造材の耐摩耗性、硬度および抗折力を向上させることができる。鋳造材中のBの含有量は、好ましくは1〜6重量%、より好ましくは2〜5重量%である。
【0030】
C(炭素)は、鋳造材中において炭化物を形成することにより、鋳造材の硬度および抗折力を向上させることができる。炭化物を形成せず、不可避的不純物として含有する場合には、例えば0.06%以下が好ましい。
【0031】
Ni(ニッケル)は、上述した共晶部を形成するための元素であり、鋳造材中のNiの含有量を上記範囲とすることにより、鋳造材の耐食性を向上させることができる。
【0032】
Si(ケイ素)は、上述した共晶部中のNiSi相を構成することができる元素であり、鋳造材を形成するための原料の溶融温度を低下させる作用を有する。Siの含有割合を適度なものとすることにより、上記溶融温度を低下させることができることに加え、鋳造材中におけるケイ化物の含有量が多くなることによる鋳造材の抗折力の低下を抑制することができる。
【0033】
Fe(鉄)は、鋳造材中において硬質相粒子を形成することにより、鋳造材の硬度および抗折力を向上させることができる。硬質相粒子を形成せず、不可避的不純物として含有する場合には、例えば1.5%以下が好ましい。
【0034】
<鋳造材の製造方法>
次に、本発明の鋳造材の製造方法について、説明する。
まず、本発明の鋳造材を形成するための原料粉末を準備する。原料粉末としては、鋳造材を形成する各元素の含有割合が所望の組成比となるように、準備すればよい。なお、原料粉末としては、粉末状のものであってもよいし、粉末が集合した塊状のもの(バルク)が含まれたものであってもよい。
【0035】
次いで、準備した原料粉末について、必要に応じて、所定の粒径に微粉化するために、原料粉末に、バインダーおよび有機溶剤などを添加し、これらをボールミルのような粉砕装置を用いて混合粉砕を行う。
【0036】
バインダーは、成形時の成形性向上と粉末の酸化防止の目的で添加される。バインダーとしては特に限定されず、公知のものを用いることができるが、たとえば、パラフィンなどが挙げられる。また、バインダーの添加量は、特に限定されないが、原料粉末100重量部に対し、好ましくは3〜6重量部である。また、有機溶剤としては、特に限定されないが、アセトンなどの低沸点溶剤を用いることができる。粉砕混合時間としては、特に限定されないが、通常、15〜30時間である。
【0037】
次いで、上述した原料粉末について、溶融させて原料溶解物とした後、必要に応じて、ガスや酸化物といった不純物の除去を行う。この際における、溶融温度は、用いる原料に応じて決定すればよいが、好ましくは1100〜1300℃、より好ましくは1200〜1250℃である。
【0038】
続いて、このようにして得られた原料溶解物を、所望の形状に応じた金型などの鋳型に注入して冷却し、鋳造することで、鋳造材を得ることができる。
本発明では、原料溶解物を冷却する際には、冷却開始温度から400℃までの温度範囲において、100℃/min.以上の冷却速度で継続して原料溶解物を冷却する過程を含むようにする。本発明において、100℃/min.以上の冷却速度で継続して原料溶解物を冷却する過程を含むようにするとは、一定程度継続して、100℃/min.以上の冷却速度となるような態様とすればよいことを意味し、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上継続して、100℃/min.以上の冷却速度にて冷却を行う過程が含まれていればよく、たとえば、瞬間的に100℃/min.以上の冷却速度となるような態様(たとえば、1秒以下だけ、100℃/min.以上の冷却速度となるような態様)は含まれないものである。なお、原料溶解物を冷却する際には、冷却開始温度から400℃までの温度範囲において、100℃/min.以上の冷却速度で継続して原料溶解物を冷却する過程を含むようにすればよいが、この際の冷却速度は、好ましくは200℃/min.以上、より好ましくは400℃/min.以上である。原料溶解物の冷却を上記条件で行うことによって、共晶部におけるNiB相とNiSi相との界面の数の平均値を、上述した範囲に制御することができる。
【0039】
なお、本発明において、原料溶解物を上記条件で冷却する方法としては、特に限定されないが、原料溶解物を、好ましくは室温〜1100℃、より好ましくは300〜1100℃の金型中に注入して、冷却させる方法が挙げられる。室温としては、たとえば1〜30℃が挙げられる。
【0040】
鋳造の方法としては、特に限定されないが、複雑な形状の鋳造材を成形することができるという観点や、厚肉のものを成形できるという観点より、金型鋳造法、ロストワックス、連続鋳造法、遠心鋳造法、などを用いることが好ましい。
【0041】
さらに、本発明においては、上記条件で冷却して得られた鋳造材に対して、熱処理を行ってもよい。熱処理を行うことにより、得られる鋳造材全体における抗折力のばらつきを低減させることができ、鋳造材の品質をより安定させることができる。なお、この理由としては必ずしも明らかではないが、熱処理を行うことにより、鋳造材の共晶部中において原子の拡散が進行し、これにより、共晶部中の原子の配列の乱れが解消される(たとえば、NiB相中にSiが含まれる場合には、熱処理によりNiB相中のSiが拡散することで、NiB相中においてSiの含有割合が減少する)作用等によって、共晶部を構成するNi
3BやNi
3Si等の結晶がより安定化するためであると考えられる。
【0042】
鋳造材に対する熱処理の温度は、好ましくは700〜950℃、より好ましくは750〜900℃、さらに好ましくは800〜850℃である。熱処理の温度を上記範囲とすることにより、共晶部中の原子の配列の乱れが解消され、得られる鋳造材全体における抗折力のばらつきを低減させることができ、鋳造材の品質をより安定させることができる。熱処理の温度が高すぎると、具体的には1,000℃超とすると、鋳造材が溶融し、鋳造材の形状が崩れてしまう。
【0043】
鋳造材に対する熱処理の処理時間は、特に限定されないが、好ましくは0.17〜3時間、より好ましくは0.33〜2時間、さらに好ましくは0.5〜1.5時間である。熱処理の処理時間を上記範囲とすることにより、共晶部中の原子の配列の乱れが解消され、得られる鋳造材全体における抗折力のばらつきを低減させることができ、鋳造材の品質をより安定させることができる。
【0044】
以上のようにして、本発明の鋳造材は製造される。
【0045】
本発明の鋳造材は、NiおよびBを主体とする固相と、NiおよびSiを主体とする固相との共晶部を含有するNi−B−Si3元系の鋳造材であって、共晶部の表面または断面に対して直線を引いた場合に、直線上における、NiおよびBを主体とする固相と、NiおよびSiを主体とする固相とから形成される界面の数の平均値が、2.0個/μm以上に制御されたものである。そのため、本発明の鋳造材は、耐食性および耐摩耗性に優れ、かつ、高硬度および高抗折力を実現したものとなる。
【0046】
本発明の鋳造材は、耐食性および耐摩耗性に優れ、かつ、高硬度および高抗折力を実現したものであるため、例えば、ロール、シリンダー、軸受、産業用ポンプ部品などの、高負荷が加わる環境下においても優れた耐久性を実現可能な耐摩耗材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の定義および評価方法は、以下のとおりである。
【0048】
<共晶部におけるNiB相とNiSi相との界面の数の平均値>
フィールドエミッションオージェマイクロプローブ(Auger)を用いて、鋳造材の切断面について、2か所、Arエッチング後に二次電子像の撮影を行い、得られた2つの二次電子像について、それぞれ、上述した方法に従い、一方向の直線を5本と、それと直交する方向の直線を5本引き、これらの10本の直線上におけるNiB相とNiSi相との界面の数を測定した。次いで、10本の直線上における界面の数の合計値から、長さ1μmあたりの平均値(単位は、個/μm)を算出した。
【0049】
<硬度>
鋳造材について、硬度(ロックウェルCスケール)の測定を行なった。
【0050】
<抗折力>
鋳造材を、4mm×8mm×24mmのサイズとなるように切削加工することで、試験片を得て、得られた試験片について、JIS B4104に準拠して、抗折力(3点曲げ試験)の測定を行なった(単位はMPa)。
【0051】
<実施例1>
まず、原料粉末として、Ni基自溶性合金(融点985℃、組成は、C:0.02重量%、B:2.27重量%、Si:7.03重量%、Fe:0.11重量%、Ni:残部)の粉末を準備した。次いで、原料粉末を、るつぼに入れて、真空炉を用いて1160℃、30分間の条件で、真空中で焼き固めてインゴットを得た。その後、インゴットを、大気炉を用いて、大気中で1200℃まで昇温して溶解させることで原料溶解物を得て、得られた1200℃の原料溶解物を室温の金型に流し込み、その後室温まで空冷することで大気鋳造を行うことで、鋳造材を得た。このとき、原料溶解物の温度を、大気炉から取り出してから2分後に測定したところ、温度は400℃であった。すなわち、原料溶解物は、大気炉から取り出された後の2分間で、1200℃から400℃まで冷却されたこととなり、この際の原料溶解物の冷却速度は400℃/min.であり、この結果より、原料溶解物は、1200℃から400℃までの範囲において、400℃/min.程度の冷却速度にて継続して冷却されたといえる。
【0052】
次いで、得られた鋳造材について、上記方法にしたがい、共晶部におけるNiB相とNiSi相との界面の数の平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0053】
また、界面の数の平均値を求めるために撮影した2つの二次電子像(鋳造材の断面において2か所で撮影しており、一方を視野1、他方を視野2とした)を、
図1,2に示す。なお、
図1においては、倍率3,000倍および10,000倍の二次電子像を示しているが、界面の数の測定は、10,000倍の二次電子像を用いて行った(後述する
図3〜5についても同様。)。ここで、視野1においては、NiB相が粒状になって現れており、一方、視野2においては、NiSi相が網状に繋がった状態で現れていた。
【0054】
さらに、実施例1の鋳造材について、X線回折装置(RINT2500/PC、株式会社リガク製)を用いて、X線源:CuKα−40kV、200mA、発散スリット:2°、散乱スリット:1°、受光スリット:0.3mm、測定範囲:20°≦2θ≦80°の条件で、X線回折測定を行なった。測定結果を
図6(A)に示す。なお、
図6(A)においては、Ni
3Siに由来するピークを丸で、Ni
3Bに由来するピークを四角で、それぞれ示した(後述する
図6(B)、
図7(A)および
図7(B)についても同様)。
【0055】
<実施例2>
実施例1と同様に鋳造材を作製し、作製した鋳造材に対して、800℃、1時間の条件にて、熱処理を施した。次いで、熱処理後の鋳造材について、同様に評価した。結果を表1に示す。また、界面の数の平均値を求めるために撮影した2つの二次電子像(視野1および視野2)を、
図3に示す。なお、
図3では、視野1においては、NiB相が粒状になって現れており、一方、視野2においては、NiSi相が網状に繋がった状態で現れていた。さらに、実施例2の鋳造材について、実施例1と同様にX線回折測定を行なった。測定結果を
図6(B)に示す。
【0056】
<比較例1>
実施例1で使用した原料粉末を、るつぼに入れて、真空炉を用いて1200℃、30分間の条件で、真空中で溶解し、Ar雰囲気の炉内で炉冷することで鋳造材を得た。次いで、得られた鋳造材について、同様に評価した。結果を表1に示す。また、界面の数の平均値を求めるために撮影した2つの二次電子像(視野1および視野2)を、
図4に示す。なお、
図4では、視野1においては、NiB相が粒状になって現れており、一方、視野2においては、NiSi相が網状に繋がった状態で現れていた。さらに、比較例1の鋳造材について、実施例1と同様にX線回折測定を行なった。測定結果を
図7(A)に示す。
【0057】
<比較例2>
比較例1と同様に鋳造材を作製し、作製した鋳造材に対して、800℃、1時間の条件にて、熱処理を施した。次いで、熱処理後の鋳造材について、同様に評価した。結果を表1に示す。また、界面の数の平均値を求めるために撮影した2つの二次電子像(視野1および視野2)を、
図5に示す。なお、
図5では、視野1においては、NiB相が粒状になって現れており、一方、視野2においては、NiSi相が網状に繋がった状態で現れていた。さらに、比較例2の鋳造材について、実施例1と同様にX線回折測定を行なった。測定結果を
図7(B)に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
次いで、実施例1,2および比較例1の鋳造材については、上述した方法にしたがい、硬度および抗折力を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
また、実施例1の鋳造材については、以下の方法により、耐食性の評価を行った。具体的には、鋳造材を切断して10.0×7.5×3.5mmの寸法の試験片を作製し、試験片の重量を測定した後、
図8に示すように、試験片を試験液(10重量%硫酸水溶液、10重量%塩酸水溶液または10重量%リン酸水溶液)とともに遠沈管に入れて、遠沈管ごと温度40℃に維持した水中に浸して、10時間保持した後、試験片を取り出して再度重量を測定し、重量減少率(単位は重量%)を求めた。重量減少率が少ないほど、耐食性に優れると判断できる。なお、耐食性の評価は、実施例1の鋳造材に加えて、合金工具鋼鋼材SKD11(HRC60)(参考例1)、およびステンレス鋼材SUS304(参考例2)についても行った。結果を表3に示す。
【0062】
さらに、実施例1の鋳造材については、以下の方法により、耐摩耗性の評価を行った。具体的には、鋳造材を切断および切削加工することで、25×50×5mmのプレート状の試験片と、直径31mm、厚さ3mmのリング状の試験片とを、それぞれ得た。そして、得られたプレート状の試験片およびリング状の試験片を用いて、大越式摩耗試験機によって試験を行い、試験片の体積減少率(単位はmm
2)を測定することで、すべり摩耗試験を行った。なお、すべり摩耗試験は、最終荷重:19.5kgf、すべり距離200m、すべり速度:0.20m/s、0.45m/sおよび0.9m/sの条件で行なった。摩耗量(体積減少率)が少ないほど、耐摩耗性に優れると判断できる。なお、耐摩耗性の評価は、実施例1の鋳造材に加えて、合金工具鋼鋼材SKD11(HRC60)(参考例1)についても行った。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表1,2に示すように、共晶部におけるNiB相とNiSi相との界面の数の全体の平均値が2.0個/μ以上である実施例1,2の鋳造材は、硬度および抗折力がいずれも高く、特に、抗折力が顕著に高いものであった。
さらに、表3に示すように、実施例1の鋳造材は、参考例1,2の鋼材と比較して、耐食性および耐摩耗性にも優れるという結果であった。
なお、
図6(A)および
図6(B)に示すように、鋳造材に対して熱処理を行った実施例2(
図6(B))は、熱処理を行ったことにより、鋳造材の共晶部中において原子の拡散が進行したと考えられ、これにより、共晶部中の原子の配列の乱れが解消され、鋳造材に対して熱処理を行わなかった実施例1(
図6(A))と比較して、共晶部を構成するNi
3BやNi
3Si等の結晶がより安定化して、鋳造材全体における抗折力のばらつきがより低減されたものとなっていると考えられる。
【0065】
一方、表1,2に示すように、共晶部におけるNiB相とNiSi相との界面の数の全体の平均値が2.0個/μm未満である比較例1の鋳造材は、抗折力が低いものであった。同様に、比較例2の鋳造材についても、界面の数の全体の平均値が2.0個/μm未満であるため、抗折力が低いと考えられる。